欲しいものは何でも簡単に手に入るだなんてそんなことは思っていなかった。お金があればなんでも手に入れられるんでしょう?とか三流ドラマの金持ちは言うけど、そんなのはパロディですなわち本物の金持ちはお金があればなんでも手に入れられるなんて思っていない。足りない本当に欲しい何かを手に入れたくて、でも手に入らないからお金を使って使って使って、凡人の一般人がいつでも求めているお金を湯水の用に使って孤独を押しとどめているだけ。気づかせないように、気づかないようにしているだけ。人々が求めて止まないものを溢れるほどに持っているのに、空っぽなはずはないと思い込ませているだけ。その道理に子供の僕はもうとっくに気づいていて、王宮みたいに広い家の中にいても満たされなんて微塵もしなかった。僕は僕の家は確かにお金持ちだったけど、果たしてそれは本当に裕福だったんだろうか。パパとママは満たされていたんだろうか。息子の僕がからっぽで空虚で少し狂っていたことに気づいていたんだろうか。 雨が降っている。橋の下にいる。目の前には小さな川。川原には石はなくて雑草だらけだった。雨と雨に濡れた雑草がそこに横たわる僕と彼をびしょびしょに濡らす。どんよりと厚い雲が空を覆い、昼間なのに灰色に彩られる。空が泣いていると思った。思いたかった。満たされなかった僕と愛されなかった彼をかわいそうに思って。せめて、空だけは。大切なものを永遠に失ってしまった僕と永遠に愛されることを知らなかった彼のことを。 (で、も) すきだったのになあ、と思った。僕は彼のことを好きだったのに。ずうっと好きでいたいと思っていたのに。友愛のような恋慕のようなあるいは独占のような気持ちの中で。それは僕が自分の存在の意味を得るためのおもいだったのかも知れないけど、確かにそう思っていたのに。もうそれを伝えることもままならない。あなたを愛していた人がこの世界に一人はいたことを。だって彼はしんでしまったのだから。名前を呼んだってもう答えてなんかくれない。もうこの身体は抜け殻なのだ。それなのにどうして離す気にならないんだろうと思う。ぼくは一体彼の何を好きだったんだろう。この抜け殻になった外見だったんだろうか。身体が欲しかったんだろうか。ああ分からない。ほらお金があったってなにも分からないじゃないか! (ひとりは、いや) どうすれば永遠に失ったものを返してもらえるのだろう。復讐をしても何もなかった。ただ彼を殺した人たちの呼吸が止まっただけで。彼の呼吸が戻るなら、僕はなんだって差し出すのに。両親なんて要らない。妹もいらない。じいやもメイドも要らない。名声なんていらない。お金なんて要らない。空は泣いている。悲しんでくれている。同情してくれている。それなら空の向こうにいる神様もぼくたちに同情してくれないだろうか。可哀相だといって、彼を生き返らせてくれないだろうか。彼の潰れた目を割れた額を曲がった鼻を折れた腕を蹴られた腹を破裂した内臓を元に戻してはくれないだろうか。同情してください同情してください神様。可哀相な彼に、可哀相な僕に。 (ひとりに、しないで) からっぽな彼の壊れた身体を離せないのは、僕が一人になりたくないからだろうか。僕の、僕が可愛いゆえの行動なんだろうか。嗚呼なんでもいい。僕の心なんてどうでもいいから。早く死体が腐らないうちに彼を生き返らせてください。
+++ 地獄の沙汰も金次第。 |
No.55 - 2009/07/03(Fri) 02:43:23
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