中学生の頃、ヌーヴェル・ヴァーグ自体も知らずに映画館で「勝手にしやがれ」を初めて見た時の衝撃は今も忘れられません。当時も製作から20年近くたっていましたが、その頃公開されていたどの映画よりも新鮮でエネルギーが詰まっており、最後まで我を忘れて見入りました。しかも、パンフレットで、空港でおもしろいことを言うサングラスのあのおっさんが小学生の頃からその作品が一番好きだったメルヴィルであることを知り、その感動は増すばかりでした。彼の顔を見たのも、声を聞いたのもその時が初めてだったのですから。
1990年の9月だったと思いますが、ニューヨーク映画祭でのNouvelle Vagueのプレス上映会に行きました。上映後、ゴダール本人が登壇し、3列目位から見ていた私は、数メートル先にあのゴダールがいるということに、不思議な感慨を覚えました。ゴダールは記者からの質問を余り上手とはいえない英語で受けましたが、ちょっととぼけたような声色で、答える内容もとぼけた調子で、会場は笑いに包まれていたように記憶しています。「なぜアラン・ドロンに出演してもらったのですか」という問いには、「彼がいい俳優だからです。それに、彼も長い俳優生活の中で、1、2本ですが、良い作品にも出演しているからです」と皮肉っぽくなく答えたあたりは、「さすがはゴダール!」と感動しました。その1、2本がどれとどれなのかは定かではありませんが。
上映会の後、もしやと思ってアメリカ人の友人と会場であるリンカーンセンターの前で待っていたら、ゴダールが一人で手ぶらで出てきて、すたすた歩き始めました。お付きの人も誰もいません。そこで友人と後を追いかけました。やがて、赤信号で中央分離帯で立ち止まったゴダールに私たちは追いつきました。小さな中央分離帯ですから、他に人はいず、私たち3人だけです。友人がフランス語で映画が良かった事を伝えました。緊張の余り、ゴダールが何と答えたかは覚えていません。そしてフランス語が出来ない私は「日本から来ました」と英語で言いました。するとゴダールは私の右手を握りながら、「ああ、そうですか」と大変自然な発音で、日本語で答えてくれました。すぐに信号は白(WALK)に変わり、一瞬の出会いはそこで終わりましたが、その出会いに感動しながらも、それと同時に、天才的な映画技法を生み出した、ある意味で映画史上最も異色かつ有名な人物にも拘らず、威圧感がないどころか、なんと風采の上がらないしょぼくれたおっさんなんだろうかとおもしろく思いました。 |
No.1402 - 2011/07/19(Tue) 11:11:11
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