アドニスの花

今後の漫画・絵などのネタバレだったりもします
中学二年生がOKな人だけ見てください

(No Subject) / 空夢
冷たい指先をどうすることもできないまま、教室のドアに触れた。開けながら、なんで教室のドアを開ける擬音は《ガラガラ》なんだろう、と思って気を紛らわせた。的確すぎて些細な反論も浮かばない。ただ、閉まる時の《ピシャン》は嘘だ。下手くそなミュージシャンにだってそんな風には聞こえないだろうから、この表現を生んだ人は凄い。席に着いてマフラーを外していたら、斜め前の席から睨むような視線。おはよ、と言うとハヨ、と返された。珍しいことに今日は朝練がないようだ。お前白似合わないんじゃナァイ、と新調したマフラーを茶化してくる癖に、私の白くなった手をチラリと見ながら、今日寒くナァイ?なんて続けてくる。荒北は優しい。

朝、今日は冷えると知って、買ったばかりのマフラーを巻いたのは正解だった。登校時冷たかった手は日中少しだけましになったけれど、帰宅する頃にはまた同じ位冷たくなっていた。ご飯を食べて、湯船に浸かる頃になると、今日が終わったな、と思う。特別感受性が豊かな方ではないけれど、なぜかお風呂場で一日を終える気持ちになる。ただそれだけの日を、何度も繰り返している。

朝のHRまで友達の席付近で昨日のドラマの感想を言い合っていると、いつの間にか荒北が教室にいて、もうそろそろHRが始まることを確認する。私も席に戻ると、斜め前からハヨ、と声が掛かる。おはよ、と返して少しだけ一限の宿題の話をする。荒北は頭が悪いくせにきちんと宿題をしてくる。福チャンがうるさいしさァ、なんてしかめっ面で言う。満更でもなさそうなその様子に、私は内心むかついている。私の隣の山田が話に入ってきて、お前来年受験だぜ、なんて笑う。私も笑う。チャイムが鳴って少しすると、ガラガラと音をたてて担任がやって来て、ドアが音もなく閉まる。密室のような朝の教室で担任は淡々と出席を取る。

放課後残って勉強していたのは私だけだった。いつもなら他にも数人いるから集中していられるのに、一人ということで気が抜けたのか居眠りをしてしまった。司書の人に下校時刻よ、と起こされて、マフラーを二回首に巻き付けて図書室を出た。靴を履き替えて校門を目指すと、前に数人の人影。そのうち一人が目について、私は一瞬躊躇った後大きな声で名前を呼んだ。

「荒北!」

荒北は振り向いてくれない。彼の周りの数人がチラリとこちらを見てくるから、聞こえていないはずないのに。やはり荒北は優しい。私が小走りで近づくと、荒北の周囲にいた、恐らく自転車競技部の男子たちは何やら荒北をからかうようにしてから散っていった。彼らには何か、私にとって都合のいい、そして荒北にとって都合の悪い誤解があるような気がする。彼らの誤った気遣いを私はちゃっかり利用してやる。そのためにも必死で近づく。だからといって荒北は歩を止めない。

「ねぇ、荒北!」
「ナァニ」

荒北の背中に追い付いた時には既に校門を出ていた。相変わらず振り向いてはくれない。後ろから見える耳は赤い。もうだいぶ寒いのに荒北はまだマフラーも着けない。

「部活?」
「そうだけどォ?」
「お疲れ」

思ってもいない労いの言葉を簡単に掛けられるようになったのは最近のことだ。荒北にあって私にない要素に、私はもう随分嫉妬している。福富に自転車を勧められて、その熱を分けて灯されてから、荒北が教室のドアを閉める音はずっと《ピシャン》だ。そうやって荒北が教室のドアを閉めた瞬間から、私の息苦しい密室の一日は始まるのだ。

「お前は勉強?」
「そう」
「こんな時間まで?」
「ちょっと寝ちゃってた」
「バァカじゃナァイ」

容赦ない嘲笑に少しだけイラッとして鞄で背中を殴る。今こうして並んで歩けているのは荒北が歩調を緩めているからだ。そのことに私は余計イライラして、ドジ臭い、と尚も馬鹿にしてくる荒北をバシバシ鞄で殴る。ただ勉強をするだけで進めてしまうようなつまらない進路しか目指すところのない私と、この薄っぺらい男の中に灯された熱すぎるほどの未来への熱量の差に、私はむかついている。荒北は私に熱を分けてはくれない。冷たい私の手を握ってくれることはない。そういう優しさが私はとても好きで、けれど時々、わざとズタズタに引き裂きたくなる。

「コンビニ寄っていい?」

別に一緒に帰ると約束したわけでもないから、先に帰ってもいい立場の荒北に意地悪な問いをすると、何買うのォ、と言ってくれる。シャー芯、と返す私はこの時間を与えてくれた彼の部活仲間に甘えている。私がシャー芯と期間限定のお菓子を買って外に出ると、荒北はコンビニのガラスに寄り掛かりながら中華まんを食べていた。お菓子を買うか悩んでいたから、多分結構待たせたのだと思い、ごめん、と謝ると、何が?と返された。

「それ肉まん?」
「そう」
「いいな、温かそう」
「もう結構冷たいけどォ?欲しい?」

欲しい、と笑いながら言うと、荒北はあっさりと食べていない方をちぎった。私はびっくりして、まじまじと荒北の赤い顔を見つめる。いつものように睨んでこない。目が合わない。きまりの悪そうな顔で荒北は口を開く。

「いらないのォ」

そうやって冷えかけの肉まんを差し出す荒北は残酷なほど優しい。優しすぎて私にはその欠片を食べることができない。


欠片もいらない/20131111
No.156 - 2013/11/17(Sun) 22:47:08
Re: / 空夢

「バッシュの擦れる音より筋トレの時に機材が立てる音の方が好きだ、ってレオにいったら、変わってる、って笑われたんだ。あれは、そう、ちょうどレオたちが今の君くらいの時だ」
「そうか」

伝えるでもなく呟くと、柔らかい声。赤司くんは手を休めず機材を動かす。ギィギィ鈍く音が鳴る。発育途中の男子高校生が筋肉を鍛えるのを間近で見て、私はその時のことを思い出す。私がその機材を使って両腕を開閉しても、きっと数回で疲れてしまうし、強くしなやかな筋肉がつくことはないし、ただ適度に痛んで終わるだけだ。私はそのことがさみしい。事実をさみしがるのがとても虚しいことだという事実も、さみしい。

「レオが、ネットを潜る時の音が一番、とかいうから、コタが、」
「ドリブル音が一番」
「そう。そしたら永吉が、飯食ってる時だろ、とかいって」

私は他愛ない昔話をペラペラと吐き出す。まだ赤司くんのいない頃の、赤司くんの知らない私たちの話を淡々と。洛山は名門だ。部活の時間が長いので、必然、マネージャーである私と彼ら二年生たちとの時間はそこそこあって、話は尽きない。けれど休憩の時のちょっとしたネタがメインで。私と彼らの過ごした時間の内殆どの時間を、私が彼らに費やしたのに対し、彼らは真剣にバスケと向き合っていた。今の赤司くんと同じように、手を抜かない。すごいな、と思う。私は三年目にしてようやく、最短時間で簡単にタオルを畳む術を身につけた。いかに手を抜きつつもきちんと見せるか、怠慢と妥協の行く末だった。たとえ私がバスケと向き合っても、きっとそうやって、どこかで力を抜くだろう。

「あの頃のレオは今よりちょっと声が高かったなぁ。すごく背が高いのに、なんか、中途半端で、かわいかった」
「そうか」

ギィギィ言う機材の音がメトロノームみたいで、トレーニングルームは心地いい。私は手にしたタオルをいじりながら壁の側に立っている。赤司くんの両腕が開く度、真っ直ぐ前を向く赤司くんの喉元が見える。私はその流線形に暫し魅とれる。手にしたタオルを軽く握ると、赤司くんの方から珍しく話しかけてくる。

「もう帰りたいなら帰っていい、鍵なら自分で閉める」
「いや、待つよ」

ラインが僅かに動いて、また、柔らかい声。赤司くんの台詞は軋む機械のメトロノームに合わせて歌う主旋律のようだ。私の高いだけのつまらない声とは違う。こうして声を掛け合うと、ますます置いていかれた子どもの気持ちになるようで、私はひとりさみしい。私たち以外いないトレーニングルームは、たったふたりで行う劇の舞台のような異様な佇まいだ。小さく灯る室内の電気は窓の外より明るい。

「やはりいい加減帰ろうか」
「うん」

私が窓の外を眺めたのを気にしたのか、赤司くんは腕の開閉を止めた。気を遣わせてしまって少し後ろめたい。機材を離れこちらに近づいた赤司くんにタオルを渡すと、赤司くんはタオルで首もとを拭いてから、着替えてくる、と言う。背を向けドアから出ていく。私は遅ればせながら頷き、そのままトレーニングルームの壁に背を着けて座る。少しひんやりした壁を感じながら、近くに貼られた体の部位を表す図を見て、各部所の英単語をぼんやり思い出す。そうして、様々なことを夢想する。

暫くすると再びドアを開けて赤司くんがやって来て、帰ろうか、と言う。今度こそタイミングよく頷き、私は立ち上がりながらまたしても下らないことを言う。

「喉仏って英語で言うとかわいいよねぇ」
「そうか?」
「うん、すごくかわいい。響きが」
「りんごを詰まらせるような男をかわいいなんて、考えたこともないよ」
「変わってる?」
「いや、そうでもない」

赤司くんの言葉がくすぐったくて、私は少し照れ臭くて笑う。ドアを出て鍵を掛けて、隣を歩きながら、バスケ選手としては小さいはずの赤司くんとの予想以上の身長の隔たりを実感して、私は少しだけ背筋を伸ばす。

「なんとなくね、さっき、二人だけだったからかなぁ。あの部屋はエデンみたいだなって考えてた」
「面白いね」
「私、君の肋骨と土で出来てるのかも、なんて思ってた」
「そう」
「で、自分の酔いっぷりに気持ち悪くなってた」

赤司くんが遠慮なく笑う。私は内心複雑だ。暇すぎて随分電波なことを考えていた。しかし赤司くんはこんな私でも決して無下にしない。校門を出て少しすると右手に温もりを感じて、口元が緩む。赤司くんはまたしても珍しく話しかけてきて、私はその声音に夜のはじまりを感じる。

「喉仏のりんごが禁断の果実じゃなく、ウィリアム・テルの射るものなのだとしたら、男はみんな死んでいるさ」
「……そうだね。ねぇ、赤司くん」
「なんだ」
「誰それ」
「……君は世界史選択だろう」

ぽつりと投げられた言葉で、そういえば、と、どこか、たしかスイスらへんの逸話を思い出す。そして先程の台詞が赤司くんなりの、私の最大のコンプレックスへの慰めだと気づく。どこまでもタイミングを計れない私の脳みそは赤司くんのそれとは比べるまでもなく劣悪で、年の功はたかだか二歳では生まれないのだと思う。

「赤司くんの喉仏は私が守ってあげるよ」
「そうか」
「私、赤司くんの声好きだから」
「……そうか」

それから赤司くんは他愛ない昔話を語ってくれる。りんごにまつわる数々のお話を。赤司くんはバスケやその他の面ではどこまでもリアリストで隙無くかっこいいくせに、こういう時、どこかかわいい、と思う。そして私のそうした認識こそ赤司くんの計算の上にあって、私の取り扱い説明書に載っていることであるのだろう、とも。赤司くんが、彼の喉に詰まった原罪から、ニュートンのりんごを吐き出す。

ここでお別れ、というポイントで、赤司くんがこちらを見ながら、小さな声で最後の逸話を話す。私は、男の子から男へと、善良なエデンの住人から追放された人間へと変わっていくであろう赤司くんの、まだ声変わりしきっていない柔らかい声を、薄闇の中で聞く。

「テルは、射損じたら、命じた奴を射るつもりで、二本の矢を持っていたそうだ」
「ずるい」
「だから、お前も僕をCENSOREDいいんだ」
「ばかだな、赤司くん。私は君を守る側だよ」

赤司くんは節だった手でふにふにした肉のついた私の腕を引き寄せて、静かに唇を合わせる。私は今度こそ、というタイミングでゆっくりと口を開く。すがりつくように掴んだ彼の腕はかつてのレオのようにまだ発育途中で、でも、赤司くんが掴む私の腕とはまるで違う。別種のものみたいで、私はさみしい。

さみしいのはそれらの事実を受け入れているからで、私は女の腕で彼らのバスケを手伝う他ない。彼らの基盤を作る機材のようになれたら、と思っていた一年生の頃の私は、結局甲高い摩擦音のような一時的なものでしかないのだ、と悟った。歳を重ねる度さみしくなる。けれど赤司くんが私に吐き出す酸素を、受け入れることはできる。


アダムズアップル/20131111
No.157 - 2013/11/17(Sun) 22:48:53
Re: / 空夢
「ドウシタ」

脳に響く声。目の前の影に向かって苦笑して、悪いな、と呟くと、相手はくすりと笑ってただ立っていた。いつもごめんな、と再度謝ると、黒い影は、別にいいさ、と高く笑った。

剣を握る右腕は火傷が酷く、じわりと滲む血が沁みる。痛いなぁ、とぼんやりと考えてしまうところを見ると、旅立ったあの日から何も変わっていない気がする。ステータスだけ無駄に上がった。

当然なんだろうな。だって俺が倒されたらこのゲームは強制終了なのだから。一人ぬくぬくとレベル上げしていただいたとも。

切ったスライムの感触がすっげぇ胃に悪いことすら、画面の向こうの奴は知らねぇんだろうな。あれは前々回のセーブの時だったっけ?既にあやふやだ。

自嘲すると、一歩先にいる黒が、大変だなとでもいうようにぱたんと本を閉じた。お互い様だろう。俺は剣を構えたまま、しばらく右腕の痛みに耐える。

はやく動かせ、それか回復してくれ。画面の向こうに祈る。

すると少しは通じたようで、右腕は自然に振り下ろされた。もちろん、俺の筋肉はしなり、風の音がする。

(意思なんてあったもんじゃねぇな)

俺はぎゅっと目を瞑って、斬った相手を見ないよう努めた。肩に反動がきて、剣を通して、斬ったものの肉感が身体を巡る。逆流しそうな胃の中のものを必死で抑える。そのまま一気に線を引いた。

するとすぐ後に、身体が火に包まれた。目蓋の裏の色が変わる。こいつの火はいつも明るいから、目を瞑っても光を感じてしまう。熱い痛みに、俺は叫んだ。

「反撃なんてなくなりゃいいのにな」

わざと右腕を外してくれる優しさに少しだけ感謝しつつも、本音が洩れる。相手はまた楽しそうに笑うと、なぶり殺される私の身にもなれ、と告げた。はいはい、こっちも何度も斬りつけたくないんだぜ。

また、業火で焼かれる。その時の相手の表情を知っているから、文句なんていえない。ごめんな、こんなことさせて。口内で呟いた。左胸が痛い。

今度は迷いなく振り切って、さすがに目を閉じているのは止めた。あんまり閉じたままでいると、意識が飛びそうになるから。いつまでも眉間の皺は取れない。やはり、右腕が痛い。

(回復しろよ)

思わず愚痴が溢れる。
遠くで銀髪が揺れるのがわかった。ありがとう、と微笑むと、クロウは、礼なら奴にいえ、と涼しげに返してきた。誰がいうか。画面の向こうに毒づく。

「コノターンデヒトマズ、“オワリ”ダロウ」

闇の精はそう笑うと、本を落とす。全ての苦痛を取り除いたような、穏やかな顔だった。

いつだったか、なんでそんなに幸せそうに倒されるんだ?と聞いたことがあった。
お前のターンで終わると、確実に一度だけ、お前よりも相手を傷つけずにすむからだ、と答えてきた。
あぁ、そうか、と思ったのは、一体いつだったのか。

最期、一閃。
またな、と声をかけると、優しそうに笑ってから、繋がった刃を一撫でして、そのまま消えた。

ぱっと切り替わる画面。表示されたウィンドウで、無機質に、お前が語りかけている。
画面の向こうの奴に気づかれないように、その窓の陰に隠れて、俺は泣いた。おめでとう、何度目かのクリアだ。

俺はもう、お前を殺した回数を覚えていない。そのうち何度、俺はお前より多く、相手を傷つけたのだろう。

画面の向こうで奴がセーブする。上書きされたデータに聞けば、答えてくれるだろうか。
右腕が痛い。

(次はどうか、はやめに回復してくれよ)

セーブを終えた神様に願う。

そして、はやく、この窓を閉じて、俺をCENSOREDくれ。
右上の、そのバツを押すだけだ。
たったそれだけで、目蓋を閉じたままでいられるから。

そこだ、押せ、

彼らをCENSOREDための道具はここに
No.158 - 2013/11/17(Sun) 23:05:17
Re: / 空夢



切り取れ、


どこで間違えたんだろ、そう呟いた君の声がひどく滑稽で安っぽいのが可笑しくて、苦渋の表情を作る。なんて今更な台詞、お粗末な脚本だろう!喉が音を立ててしまいやしないか、ここで笑ったらこのお話を笑い話として肯定することになる気がしてひやひやした。スリルのある観賞。喜劇なら拍手喝采。薄く透けた翅が静かに重なった、その美しさに乾杯したいくらいだ。君越しに見える青空が綺麗だ。差し込む光を拒絶するように閉ざされた目蓋の小ささが愛らしいね。言葉にはしない。顔にも出さない。口元だけ歪めている。我ながら見事な役者魂、なんてね。屋上に座り込む君の脚から体温が逃げていく、コンクリートに嫉妬、肌触りを脳内で堪能してる。滑らかな白い肌が反射する昼下がりの日光、もしかして君が発光してるんじゃないか。する、と脚を折って抱え込んだ両腕の細さがこわい。触れたら壊れそうな君の存在がこわい。君の原材料は電子の海に住む男への恋慕と菓子パン、ガラス製の脆さを兼ね揃えている。甘そうでいいね、コンビニに売ってたら即買いだ。なんて思っていたら君が、画面越しの恋愛なんて、と苦し気に呟くから、昨夜も会ったの、と聞くと、当然、と返された。体育座りの君はとてもキュートだ。バーチャルな世界が好きな君が好き。でも君の好きな金髪の剣士をコンビニで滅多斬りしてる白昼夢にも夢中。銀髪の聖騎士はお好き?何でもお金がお好きらしいその聖騎士、君は何とも思ってないらしいね。自己投影してたからちょっとへこんでしまったよ。金髪に染めてしまおうかと真剣に悩んだくらい。でも三次元なんて!と怒り、二次元かぁ、と嘆く君の台詞で馬鹿らしくなってやめた。根本的な在り方から否定されてしまった。何度目かの恋愛相談、パンをくわえながら喋る声が少し掠れていて身がもたない。昼から興奮しちゃって犬みたい、はしたなくてごめんね。君に対しては万年発情期なんだ。君の好きなあのゲーム、実は毎日やってるよ。言ってみたいけど言わない。何故なら君の想い人をひたすらCENSOREDいるだけだから。あー、と無意味に呻いて空を仰ぎ見る君の喉が眩しい。屋上に世界の果てを見つける昼休み。一昨年飛び降りた子がいて、実は立ち入り禁止だけど、先輩から譲り受けた内緒のスペアキーのおかげで今は二人きり。途切れることなんてないような青空と、フェンスの網目があのゲームを連想させる。コマ移動する男のどこが好きなの、でもそんなものが好きな君が好き。あれ、このフレーズ本日何回目だろう。菓子パンを食べてただ笑う君と、馬鹿話してる。君への劣情なんて微塵も表に出さずに数学の教師の話を反復してる口は本当に達者だ。食べ終えたパンの袋をぐしゃぐしゃ握って結ぶ君が、見て、と指差した方に、白い切り取り線。飛行機雲、名指しで笑う君のツボがわからない。端の方から消えていくラインは不安定ながら青に傷を作っている。すぅっと伸びた白が世界を切り取っていた。二人きりの世界に区切りをつけた白線、白線、白線!この次元でもたった一本で隔てられてしまった。あー、君がまた無意味な音を放つ。屋上は静かだ。遠くにある飛行機雲を見ながら、心の中で君と心中してる。悲劇だ。現実では逃避活動に余念がない君が、今日も帰宅してネットに入り浸る姿を想像して、君の原材料が電子だったら幸せだったのにね、と思った。君は彼と結ばれるし、二次元の君を思い続けられるし。どこで間違えたんだろ。あー、と意味ありげに空に吠えたら本当に負け犬みたいで、


君が、好きだ。



(切り取れ、世界。)
No.159 - 2013/11/17(Sun) 23:05:52
Re: / 空夢

「気持ち悪」

 顔をしかめて首を傾けるとうなじにまとわりついてくる湿気に嫌気が差す。不快な湿度にちくしょうと悪態をつきながらもひとり懸命にペダルを漕ぐ自分に、高尾は苦笑した。この後会える奴を思えばきついとかしんどいなんて弱音は吐けない。けれど、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪い。
 どんより曇る空に響く音は脇を通る自動車のエンジン音と自身の自転車の付属品から鳴るがたついた音だけだ。先程からずっと高尾を追い越して往き来しているのだしもう少し目立っても良さそうなのに、車たちはリアカーから放たれる音より物静かだ。根拠はないけれど身体に悪そうな気がする車の音はわりと嫌いじゃないのだが、あと少し経てば蝉に掻き消されるだろう。
 自転車に繋いでいるリアカーが僅かな段差にがたがたと揺れて、まぁこの音の方がすきなんだけどな、と高尾は思う。今はまだ軽い後方をもうひとつの眼で見て、そこにまだいないものを思う。高尾の鋭い両目が自然と細まる。重い方がすきだな、と思えてしまう自分にまたしても苦笑した。これでは初めから乗せる前提である。チョキでいこう、しかし今日も負けてしまうだろうな。人事を尽くしていないからだと嘲笑されるところを瞬時に思い描いてしまえる。小路に植えられた常緑樹から小馬鹿にしたような声が聞こえる頃になるまで、蝉は地中で人事を尽くすのだろうか。いや、虫事か。

 上がった息を調えながら校門に近づくと、背の高い彼は普段より姿勢を崩しつつ立っていた。ぽつんと佇む彼は先程からずっと隣を走ってきた街路樹に似ているように思えて、たまらなくなり噴き出した。肩を震わせながら近づく。

「よぅ」
「……あついのだよ」

 しかめた顔で手を翳す彼に遅れてごめんね、と笑いかけると鼻を鳴らされた。時間の指定があったわけではないけれど、彼を待たせた事実から出た言葉だった。私服姿の彼も、直接的な言葉で怒りはしなかった。
 今日は学校も部活も休み、普段なら日頃の疲労回復に勤しむか、カードを広げ息抜きするか、外へ遊びに出るのだが、そんな日になぜ学校になんて来ているのかというと、理由は当然この大きな男にあるわけで。

 理想としてはお家にお迎えに上がりたかった。家の方向も同じだ。ポケットの中の紙に触れ、真ちゃん明日空いてる?と訊ねたのは昨日の帰り道。期待に膨らませた胸を抑えつつ見た相手の顔は、ひどく苦々しいものだった。緑間が何かいうよりも先に返事を雄弁に語るその表情に、ついてねぇなオレ、と内心自分でこなしてきた明日のための人事を嘆いた。間を置いてから言葉を放つ緑間には予想通りどうしても外せない用があったらしく、残念さを押しCENSORED、そっか、と笑いかけた。大した用じゃねーしむしろ誘ってごめんな、と茶化すように笑うと黙って顔を逸らされた。普段なら、そんな軽い心持ちで誘うのだから当然の返事なのだよ、とか突っかかってきてもいいところなのに。ずりぃよな、と思いながら他愛ない会話をして別れた。
 そんな経緯があって迎えた休日はやはり味気なく、男子高校生の繰り返される毎日はこんなもんなのかと思いつつ部屋で寝転がっていた。こんな日もあっていいだろう、自分は毎日あいつとの日常を楽しみすぎているのだから、こうした日こそむしろ楽しむことができるじゃないか、普段通りの休日にしよう。並べ立てた今日を楽しむ理由はどれも言い訳染みていて口の中がむず痒い。
 ちくしょう。今日という日だからこそ会いたいのだ。悔しさをぶつけるように枕に顔を埋めて枕元に放ってあるぐしゃぐしゃの紙切れをもう一度握る。そうしてしばらくうーとかあーとか、意味を成さない、けれど自身の感情を如実に表す音を枕に込めていると、不意に携帯のバイブ音。着信音がうるさい、とテーピングされた指で勝手にマナーモードにされてからというものの、そのままにしてある自分の携帯。くだらねぇ奴からだったらぶちCENSOREDぞ、と物騒なことを思いながら覗くと、一通のメール。開き、瞬間、ベッドから飛び起きた。
 そうして財布と携帯、握りしめた紙切れ二枚をポケットに、じめじめした天気にも負けず全力でペダルを漕いだ。無題のメールにはただ一言、「学校まで来い」と書かれていた。駅まで行ってもいいのに、きっとあいつのことだ、待つだけの時間など許せないのだろう。最寄り駅と自宅との間にある、見慣れた校門に、先のメールの送信者――緑間真太郎がいた。

 いまだ肩を震わせている高尾を一瞥して、緑間は眼鏡のブリッジを押し上げた。このなんともいえない天気で気分も悪いのだろう、無言で手を向けてくる緑間とさっさとジャンケンをすませる。グー。リアカーに乗り込んだ緑間が口を開く。

「何の用なのだよ」
「……ていうかさ、先にいい?真ちゃんの方の用事は?」
「断ってきたのだよ」
「……はい?」

 予期していない返事に思わず訊き返す。なんだって、だって、外せない大切な用があったんだろうに。

「優先順位を考慮した結果、こうなったのだよ」

 間、そして理解した言葉の意味に、思わず顔を覆う。だめだ、これは反則だ。冗談みたいなことはシュートだけにしてほしい、本当に。ごちゃごちゃと思いながらも、その中で潔く貫かれている思考の糸の一本を声に出す。

「……だいすき」
「……恥ずかしい奴め」

 リアカーの中でまた眼鏡を上げる緑間に視線を戻す。少しだけ照れたように見えるのは自分の欲目だろうか。で、何の用があったのだよ、と多少ぶっきらぼうに投げられた質問に、高尾はポケットから取り出した紙を一枚差し出して答えた。

「今日、天気悪いみたいじゃん?だから、さ」
「プラネタリウムのチケットか」
「そ。ゆったり星でも眺めようぜ、と思ってね」

 願い事は叶うかわかんねぇけどな、と付け加え、サドルにきちんと座り直す。ペダルを漕ぐ足は先ほどより重いはずなのに、じめじめに対する嫌悪感は清々しいほど消えていた。願うだけで叶うならおは朝はいらないのだよ、と何やらわけのわからないことを言い出す相手の反応は予想通り織姫と彦星への盛大なディスリスペクトで、楽しくて声をあげて笑った。そうだよな、と同調する。けれど内心、自分の願い事は叶った、と高尾はふたつの星にお礼をいった。なぜこんなにぐしゃぐしゃなのだよ、と小声で非難してくる声が、だいすきだ、と思った。
 夕方に差し掛かりそうな時刻、雨の降りそうな曇り空の下で、蝉はまだ鳴かない。けれどがたつく重いペダルが心地よく音をたてる。街路樹の緑が灰色がかっていた今日の景色でやけにきれいだ。プラネタリウムを出る頃には夜だろうか。そのまま少しだけゆっくりと自転車を漕いで帰ろう。そうして今日という日の、最後を、お前と過ごせますように。0時に祝うのは他に譲ってやってもいい。けれど、7月7日の最後のおめでとうは、これからも共にいられる自分からこいつへの言葉なのだ。
No.160 - 2013/11/17(Sun) 23:06:32
Re: / 空夢
 開け放した扉から飛び出したボールを追って、外へ出た。暑い日差しに辟易しながらも、凪いだ風は蒸した体育館より断然肌に心地よい。うろうろと周辺を見渡して視認できないのを悟って、流れる汗を拭った。夏に近づくにつれて、体育館脇に植えられた木は青々と茂りはじめていて、ああもうこんな季節まで迎えてしまった、としみじみと感じた。

 帝光中の頃、練習の後にかつてのチームメイトたちと頻繁に食べていたアイスの味を思い出した。爽やかなソーダの冷たい色。おいしいなぁと思いながらしゃくしゃく食べていたが、いつも一本でお腹いっぱいになっていた。その色を僕の頭に翳しながら、テツの髪にそっくりじゃねぇか、と笑った声が、ぼんやり頭に響いた。

 白く広がる雲を見て、お腹が空いたなぁ、今日は帰りにバニラシェイクでも買おう、テイクアウトにして帰りながら飲もう、と立て続けに今日の予定を増やした。日差しが焦げるように照りつけてくる。はやくボールを探そう。

 ふと目線を木陰に向ければ、ころりと転がった球体を見つけて小走りに駆け寄る。あっさりと姿を晒してくれて助かったが、飛び出していったこともあって、誉めてはあげない。どうでもいいことを考えて意識を逸らそうとしても、ボールの色って彼の肌の色に少し似てる、なんて思ってしまうのだ。頭にはまだ白濁とした記憶が渦巻いていて、しかし時々聞こえる黒いユニフォームの誰かが僕に向かって無様だな、と高笑いする声もあって、たしかに、なんて無様なのだろうか。

 白昼夢なんて見てる場合ではなかろう、というように、ぶわっと風が吹いた。今にも手に掴まんとしていたボールがぐらりと揺れた。指先をかすったざらざらの表面に、心地よさより気持ち悪さが勝って、その場で踞った。声はとうに止んでいた。奇妙に熱を失っている膝小僧に押し付けた額の奥に、きーんとした感覚があって、アイスでも食べたようだと思った。咄嗟にかき氷という感想が出ない程に、僕にとっては彼らとの記憶は根強いらしい。

 今日の帰りはアイスにしてみようかなぁ、と思ったが、お腹が空いている感覚は湧いてこなかった。たとえば今日あのアイスを帰りがけに買ったとして、当時のようにおいしく感じることはできるだろうか、と考えて、やっぱりバニラシェイクが一番だ、と思った。

 彼らと食べた淡い青を、またおいしく食べることはできない気がした。寄生虫のように栄養を貪っていた、綻びだらけの幸せだったのに、それでも僕はあの色を、美しいと自負していたのだ。翳された色をちらと見て、かけられた言葉にそうですか、と小首を傾げながらも、彼が無邪気に食べている少し後ろで、内心喜びを叫んでいたのだ。青春の文字は通りすぎて、辺りはもう夏だというのに、頭の中で、テツ、と彼が笑う。

 黒子ー、とだるそうに僕を呼ぶキャプテンの声が聞こえる。手前に転がるボールを手に立ち上がった。あぁ暑い。
No.161 - 2013/11/17(Sun) 23:07:10
Re: / 空夢
前:欠片もいらない



もう聖夜は終わったってのにガヤガヤうるさい駅前通りを、去年買ったブーツで横切る。目立たない栗色、そんなに高くないヒールが歩きやすくて、新しいブーツを買う気が起きないまま師走を終えようとしている。手袋をつけているから、指先末端まで暖かい。景色に意識を向ける。こちらに歩いてくる見知らぬ女の子二人組の足元は柔らかい桃色と黄色の合成皮、パステルカラーのふんわりしたスカートが凝ったデザインのコートから見える。片方は歩く度カツカツ鳴るヒールにかわいい赤バラのヒールコンドームをつけていておしゃれだ。不細工な顔をお化粧でうまく誤魔化している。72点。通りすがりがてら採点している自分自身は、最高にかわいくないいつものダッフルコートに、ノーメイクを隠すためのマスクをつけている。もし自分自身でなく他人がしていたら赤点をつけているような格好だ。きゃらきゃら笑い合う二人とのすれ違い様に小さく咳をしてごく自然に顔を伏せ、気持ち狭くなった歩幅で進む。行き交う人達は皆、どこか清々しい華やいだ印象で歩んでいる。二個先の門を曲がると、小洒落た外装の小さなケーキ屋があり、入店。ドアの上部からカラカラと鈴の音が聴こえ、なぜか急かされた気持ちになった。

ガトーショコラ、ベイクドチーズケーキ、ティラミス、ここらへんはまだわかるけれど、小難しいかっこつけた名前が多くて、ハイハイ、と宥めたくなる。目移りしそうなほどたくさんのケーキが並ぶ店内の一角に、クリスマスケーキの売れ残りであろう格安のホールケーキが置いてあるのを見つけ、よし、と思う。ポケットに入れてきた薄手の財布を手にして、店員に話しかけようとしたら、既に誰かと話していた。先を越された。まぁケーキはまだあるしいいや、と後ろに並んで、その人の後ろ姿に既視感。この背丈、サラサラの髪、強そうな足は、もしかしなくても。

「荒北?」
「アァ?……ゲェ、なんでいんのォ?」
「あんたこそ、なんでいるの?」

こちらを向いた、暖かそうなマフラーを巻いた首の主にびっくりする。確信して呼び掛けたくせに、まさか本当に荒北だなんて、という反応をしてしまうくらい、荒北とケーキ屋が結びつかない。荒北は、クラスメイト、だった人だ。二年の頃、私の斜め前の席でおはようの挨拶や軽い会話を交わす相手だった。私は当時荒北に対して理不尽な嫉妬を抱いていた。強烈な憧憬は、クラスが離れた今でこそ微かに薄れているものの、こうして話すと、なんとも甘酸っぱい気持ちになる。その荒北が、なぜこんなケーキ屋なんかに。

「ケーキ買いに来たんだけどォ?」
「似合わない」
「っせ!」

お前相変わらず辛辣だねェ、なんて睨んでくる目付きは、去年よりずっと柔らかい。店員から声がかかって、直ぐにレジの方へ向き直ってしまったマフラーの隙間から、荒北のうなじが見えてどきりとする。後ろから覗くと、白い箱が置かれたレジ。荒北は箱の中身を確認してから、綺麗な指で財布からお金を出していた。ありがとうございました、という店員の声の後、先程お金を出したその長い指で箱を掴み、そのまま横にずれた。レジの前に一歩進み出ると、横に並ぶ私達。私は一瞬隣を見てから、あの安いホールケーキを頼んだ。店員によって綺麗な白い箱に閉じ込められるケーキを見ていると、無性にむかついてしまって、こちらでよろしいですか、と箱を見せる方ではなく、フランボワーズなんとか、という赤紫の綺麗なケーキをガラス越しに見ながら、はい、と返事をした。

ポケットに財布を戻すと、隣で突っ立っていた奴が動き出した。私も店を出ようと箱を手にしてドアを見れば、荒北は既に外の景色の一部になっていて、少し急ぎ足で向かう。彼は出てすぐのところで立ち止まっていた。私が通ると一緒に歩き出したので、待っていてくれたのだと気付く。ケーキ箱を落としたくなる衝動を押さえて、思いきって話し掛けた。

「なんのケーキ?」
「安物のホールケーキ」
「……うそでしょ?」
「本当だけどォ?」
「……同じなんだけど」
「ハッ。今日ケーキ買う奴なんて皆同じ考えなんじゃナァイ?」

皆同じ、なんて言葉が荒北の口から出る。鳥肌が立つほど寒い。私は手袋越しだからか、箱を手にしている実感がまるで起きない。自然と並んで歩いていることが、心の中で不自然すぎて居心地も悪い。

「もう年明けちゃうね」
「そうだネェ。本当にあっという間だった」

売れ残ったケーキを手にして学生寮まで戻るだろう荒北の横顔がすごく切なそうで、私はますます気まずい。マフラーを巻いている荒北なんて一生見たくなかった。こんな会話をすることなんてないまま高校生活最後の冬休みを過ごしていたかった。今日だって、財布だけ持ってひとりケーキを買いに行き、ひとりで楽しむつもりだったのに。

「……荒北は進路どうするの?」

私のマスク越しのかすれ声でもこの男はきちんと聞き取れたようで、一瞬躊躇うように視線をさ迷わせてから、荒北は言った。

「洋南大」
「うそでしょ!荒北が!洋南!」
「っせ!バァカ!茶化すんじゃねェヨ!」
「いや別にそういうわけじゃないけど、勉強してんの?」
「マァネ」

まさかだ。あんなに頭が悪くて口も悪かったのに、なんて思う私は、一体いつのことを基準にしているのだろう。あの狭い教室でもないのに、なんで私はずっと息苦しいのだろう。荒北は切ない面影を残したままなのに足をきちんと踏み出して歩んでいて、むかついてしょうがない。私はついに箱に詰められたケーキを手放す。

「お前何やってんのォ?ホンットバァカじゃナァイ?」

長い身体を折って道路に落ちた白い箱を拾った荒北が、そのまま何の断りもなく、角が潰れた私の箱を開ける。中身を見てしかめた顔が最高に不細工で、私は口の中で荒北の名前を呼んだ。

「お前これ潰れちまってるヨ、食べれなくはないと思……何、どしたのォ」

いいかけてこっちを見た荒北が、道にしゃがんで踞る私を気遣う。そのことがむかついて仕方ない。私は優しくない態度を、理不尽を、非情さを、優しさと認識して愛している。荒北のマフラーが私の頭と同じ位置に来たことを気配で感じ取って、膝に額をつけたままもう一度口内で、荒北、と言うと、何だヨ、と聴こえる。そうして首の位置を把握するやいなや、垂れた相手のマフラーを両手で引っ付かんだ。そのまま左右に引っ張って顔を上げると、荒北がびっくりした顔でこっちを見ていた。

「不細工」
「、ッハ、バァカ、」

私を嘲笑いながら首を絞められている。されるがままだ。飽きたので苦しそうな荒北のマフラーから手を離すと、仕返しとばかりにマスクを剥ぎ取られた。

「ブッサイクゥ」
「うっざ」
「嘘だっつの。ホラ、帰んないのォ?」

何が嘘なんだ。顔真っ赤にしてないで、今の流れの何が嘘なのかはっきり教えてよ。すたすた先に歩き出した荒北を追うように、私は立ち上がった。歪んだケーキ箱はまだ荒北が持ってくれている。そもそも、私が安売りのホールケーキを買ったのは、食べるためではない。時期を過ぎて引き下げられた価値を、とことんぐちゃぐちゃにして、捨てるつもりで買ったのだ。ひとり、ずっと続けてきた受験勉強の息抜きとして楽しむためのおもちゃみたいなものだ。

「自分で持ったらァ?」

横に並ぶと差し出されたのは、綺麗な形の白い箱。私はさっと反対側に回って、歪んだ箱を手にした。私が欲しいのは、そんな綺麗な形の欠片じゃない。ねぇ荒北、期限切れの春になる前に、私のことが好きだ、って告白してよ。私が箱の取っ手をぎゅっと握ると、荒北が、相変わらずかわいくないネェ、なんてぶつくさ言う。指先は温かい。家に着いたら、私は箱に仕舞われている潰れたケーキを一口だけ食べて、残りは皆捨てるつもりだ。

欠片じゃ足りない/20131228
No.165 - 2013/12/28(Sat) 21:50:21
Re: / 空夢

本日もいっそ潔いほどに寒く、毎年、今日くらいちょっとはあったかくなろうぜ地球さんよ、と思うわけで、まぁそんなどうでもいいことを思いながら登校。いつも通りの朝練を送る。緑間は綺麗にシュートを繰り出していて、先輩たちは各々個人強化に励む。秀徳バスケ部の朝練参加は強制ではないし、基本個々の自由みたいなところがあるからか、皆まちまちの表情で、まちまちの思惑の中、体育館はボールやシューズの音がして、キンと冷えている外とは違う微妙な熱を帯びている。

俺はというと、ちょっとだけハンドリングを確認しただけ。そんなにやる気がないなら今日はさっさと教室に戻るべきなのだよ、なーんて苦々しげにいい放つエース様の言い分は最もなので、俺はさっさと引き上げることにする。お先失礼しまーす、とすごすご体育館の出口を目指すと、通りがかりにいた木村先輩に、珍しいな高尾が早くあがんの、といわれて、スミマセンちょっと調子悪いんでやめとくっス、と返す。反対側から宮地先輩が鼻で笑いつつお大事に、なんていってきて、やっぱこの先輩コエー。でも、多分今日も誰より早くここに来て、人一倍頑張ってんだと思うと、先輩方にはマジで頭が上がらない。

体育館を出て部室でさっさと着替えて、物足りない朝に自然と溜め息が出る。やっぱどんなにやる気出なくてもちゃんと練習すりゃよかった、やっぱそうすりゃよかった、やっぱ寒い、とダラダラ思いながら教室へ向かう渡り廊下。前方には寒そうに足を出す女子数人の群れ。中の二人組に、そのひとの背中を確認、密かに喜ぶ俺は超絶弛んだ顔をしてるはず。声をかけようと距離を縮めて、ぽんっと肩を叩く。ビクッと大袈裟なくらいはね上がった薄い肩。自然とちょっと弾んだ声になる。男なんて皆単純さ。

「ミョウジさんオハヨー」
「びびった、おはよー!」
「あたしまでびびったわ、アレ、高尾アレじゃないの?」
「朝練?今日はやめといたの、つーか中田さん顔スゲーな、クマ」
「やっぱ?昨日ナマエと夜まで電話しててさ」
「ミョウジさんそんなないじゃん」
「私寝落ちしたの」
「ひでぇ」

ゲラゲラ笑いながら二人と話して共に教室へ入ると、自然と流れ解散。ちょっと残念だけど、ミョウジさんとはそんなに近い席でもない。いつも授業中に見える背中に片思い中なのです。

席につくと近場でそこそこ仲のいい男子数人が雑誌を広げていた。話してもいいが気分じゃなくて、朝からお元気そうで何より、と思う。あまりボールに触れていない朝、しかもよりによって今日、ミョウジさんの肩に触れた自分の手のひらに静かに感動。くあーっと痺れるようにじわじわくる嬉しさ。バスケ以外で、専ら俺を充たしてくれる感情をもて余していると、もうひとつの目で後方にやたらでかい奴を見つける。振り替えると、緑間。いつも通りすました顔で席につく奴に、お疲れー、というと、何をニヤニヤしているのだよ、とまたしても苦々しげに放たれる。おお、聞いてくれますか!恥ずかしいからいわねーけど!

「そういえば今日はお前の誕生日なのだろう」

脳内も顔面もニヤニヤの俺は緑間のその言葉にますますニヤニヤ。なになに真ちゃん知ってくれてたのー、なんて茶化すと、昨日散々祝えとうるさかったのはどいつなのだよ、といわれた。俺です。続けて、祝ってやらなくもない、なんて言われて、俺はほんのり嬉しい。いや、実はかなり嬉しい。最近緑間は素直になってきていて、多分初めての負け試合からだけど、少しずつ、信頼を得ているようで。俺はなんとくなく、俺を、俺たち秀徳バスケ部を、この偏屈な奴に認められていくように感じて、やっぱすげー嬉しいわけで。ありがとな、と笑うと、緑間は、調子に乗るな、と照れた。朝練はアレだったけど、今日の部活はきっと頑張れる。近くで雑誌を広げていた男子たちからも一言ずつおめでとうを貰った。

なにやら視線を感じて前を向き直ると、ミョウジさんが中田さんとこっちを見て話していて、バッチリ視線が合う。俺もミョウジさんもビックリして、慌ててまた緑間の方を向いた。でもやっぱ気になるので意識を向けていると、ガタガタと音をたててこちらに近づいてくる小柄なひと。俺のもうひとつの目が捉えてしまう。内心バクバクいう心臓がうるさい。

「高尾くん」

ミョウジさんのかわいい声。ちょっとはじめが裏返ってて余計にかわいい。うるさい心臓をそのままに、なーに、なんて振り向けば、ミョウジさんがちょっとムスッとしたような、でもなんか怒ってるのとは違う、曖昧な顔つきで立っていた。隣に中田さんがいて、こっちは普通の顔。いや、ちょっとニヤついてる。俺がミョウジさんの返しを待っててもなかなか次の会話が続かない。すると中田さんが一番に口を開いた。

「さっき微妙に聞こえてさ、何、高尾誕生日なの?」
「そうだよ、え、なになになんかくれんの?」
「ナマエからお祝いのコメントを、ハイ、3、2、1」
「えっ、ちょ、お、おめでとう!」

突然の振りにあたふたと、それでもちゃんと俺の顔を見て、ミョウジさんはいう。俺はというと、もう脳内テンパりまくりで、どうすりゃこの気持ちを収まりよく置いとけんだ、みたいになってて、とくかく、すげー嬉しい。真っ赤な顔で、全然知らなかったよー、さっき教えてくれればよかったのに、なんていってくるミョウジさんが究極かわいくて俺のニヤニヤは史上最大級にやばい。朝練前の気分はどこへやら、今の俺は、最高に調子がいい。寒さがなんだ、この心のあったかさなめんな。

「ほんと、誕生日おめでとう、高尾くん」

いつもは背中ばっかだけど、今日、俺は君のその肩に触れて、その顔で、祝いのコメントを貰った。新しいミョウジさんを書き加えて、例年とは一味違う俺がスタートするんだ。俺は繕うことなく浮かぶ満面の笑みをミョウジさんに送る。

「ありがとな!」

君を更新/20131121/title:自慰
No.166 - 2013/12/28(Sat) 21:51:02
Re: / 空夢

平日の夜、十一時から三十分までの間にコールがあると、それは決まって黄瀬からの電話で、私は嬉しいのと煩わしいのでもやもやする。一日の終わり付近、ちょっと気の抜けた頃、けれど寝るにはもったいない気がする曖昧な時間帯に、設定をまったくいじっていない着信音が主張する。とる時もあれば無視するときもある。大体の時は無視する。電話越しの黄瀬の声はいつも以上に白々しく演技がかっていて、話しているとイラつく時があるから。我ながらもっともらしい理由だ。なので、震えながら音を放つそれを、今日も無視する。

次の日半分寝たままの脳みそを学校まで運ぶ。廊下で予鈴が鳴る。特別急ぐことなく、普段通りに教室に入り、席について鞄を置いたところで本鈴。高い音階のはずなのに、毎日何度も聞くせいか、私の脳みそには鈍く響く。窓側の席付近で、ぬるい自然光と冷たい蛍光灯の色が混ざる。ちらほら点在する眠そうなクラスメイト。どろどろの意識のまま迎える朝のHRは、私を含む無気力な大抵の生徒にとって、完全に形骸化している。

二個隣のクラスの友人を、お昼を共にするために迎えに教室を出ると、廊下には女子たちに囲まれた黄瀬がいた。先ほど鳴ったチャイムよりずっと高い声で話している彼女たちは、かわいらしいしぐさで競うように黄瀬に媚びている。訂正、かわいらしいというよりあざとい。彼女たちと黄瀬で形成された集団は、廊下というセーターにできたダマみたいに、一直線のそこで一部だけ膨れて留まっている。行き交うその他の生徒たちと同じく、お弁当をぶら提げながら、その横をすり抜けていく。ちらとも視線を寄越さない黄瀬は、今だって、別に作った笑顔でいるわけではない、らしい。彼は自由気儘に振る舞っていて、結果、女の子と話すのは別段苦ではないらしく、つまり、そのあざとい笑顔は自然体なのだという。以前話していた。私には、その話も含めて、すべてが白々しく思える。

その日の夜も、十一時を十分過ぎた頃に携帯が鳴る。右手に携帯を、部屋の床に積まれた数冊の漫画から、一回だけ軽く目を通した少女漫画を左手に、ベッドにダイブ。仰向けで電話に出ると、胡散臭い黄瀬の声がする。

「今日は出てくれる気がしてたんスよ」
「挨拶」
「こんばんは、ナマエ」
「こんばんは、黄瀬」

私はベッドに置いた携帯に右耳を当てて横向きに寝ながら、左手だけでパラパラと漫画を眺める。結構懐かしい部類に入るような漫画。長く続いているせいか、この主人公と恋の相手は、何度も同じようなすれ違いを繰り返している。

「今日昼黄瀬のこと見かけたよ」
「え、いつ?」
「昼だってば」
「……アレは違うッスよ、ちゃんと断ったし、俺はナマエ一筋ッスよ」
「廊下だよ。昼休み始まってすぐ」
「あ、なんだ。いやでも断ったから」
「別にいいのに」
「ナマエさ、俺と付き合ってるのもう嫌だ?」
「そうじゃないけど。ていうか、私いつの間に黄瀬と付き合ってたの、初知りなんだけど」
「え」

無言の間。パラ、と捲ったページでは、吹き出しが一切なくて、なにやらほわほわした灰色の中、主人公の心境が書かれている。私の右耳はまだ音を拾わない。しばらくお待ちください、みたいな脳内テロップを貼ったら、ちょっとだけ弱々しい、機械越しの黄瀬の声。

「……冗談?」
「イエス、イッツアジョーク」
「しんどい……心臓に悪い」
「ドキドキした?」
「悪い意味でね。なんでそんな冗談……」
「でもなんか、付き合ってる感ないよね。つくづく」
「それは!ナマエが!毎晩のラブコールに!出てくれないからッス!」
「え?何だって?」
「ラブコール!」

私はちょっと面白くて笑う。黄瀬は、くそー、なんて嘘臭く悔しがった声を出していて、漫画の中では主人公と相手がじゃれあっていて、それらもちょっと楽しくて、笑う。

「正直ラブコールはめんどいわ」
「なんでそういうこというんスか!俺ばっかじゃん愛情表現してんの!」
「え?何だって?」
「愛情表現!ナマエはドライすぎて俺さみしいッスよ」
「そう?私も結構さみしいよ。黄瀬全然構ってくれないし」
「そんなことないッスよ!こうして話してるのだって俺が電話してるからじゃん!」

軽い冗談のつもりで受け答えしたら、今日の黄瀬はガチっぽく、こういう、全力で私にぶつかってますよ、という姿勢がイラつく。しかし指摘はもっともなので黙る。そもそも黄瀬が束縛は嫌だといったのを気にしている私がバカなのだし、こうして話すのは、嬉しいのも確かなのだ。もやもやしている内の、キラキラしたものだけを選んで、見せつける。私も彼を取り巻く女の子たちと同じで、黄瀬に媚びている。そのはずなのに、今日の私は、手元の紙面で素直に愛を伝えあっているやつらに影響でもされたのか、もやもやの底にあるドロドロをひとさじ掬って、彼へと差し出す。

「でも学校では黄瀬、一切話さないよね。顔見ない日とかもあるし」
「……」
「クラスも隣だし仕方ないけど。ファンの子たちの嫉妬もこわいけど」
「……」
「でもなんか、付き合う、ってどんなのだ?みたいになる」
「……しゃべっていいの?学校で?」
「……いや、どっちでもいいけど」

ひとさじだけだ。電話越しじゃなくて、黄瀬の、あの白々しい日常のひとつに触れたい、なんて。こんなドロドロの本音を向けたら、きっと黄瀬は汚くなる。せっかくかっこいいのに、私のドロドロをなすり付けては、駄目だ。……嘘だ。そんな殊勝なことは考えたこともない。身勝手な自分を認めたくないから、黄瀬を利用して清らかな彼女像であろうとする。ポエムみたいな文章を心中唱えるなんて、そんなこと、私らしくない。左手の漫画の中で幸せいっぱいになっている二人をパラパラ捲ると、十数ページ後には、またしても辛そうな顔をした主人公が。相手の男もだけど、本当に、バカみたいだ。

「何で黙るの。イッツアジョークだよ」
「……そっか。今日さ、笠松先輩がさ、」
「うん」

黄瀬の声が右耳にくすぐったい。演技だろうと本気だろうと、向けてくれるものが嬉しい。表層的な日常の中、とりわけ中身を悟らせない彼。それでもいい。彼のきれいな外観が好きだ。チャラそうで意外と一途なところや、こうして私に十一時から寝るまでの時間をくれるところも好きだ。全部をくれるわけじゃないところが、今となっては、好きだ。私も全部を黄瀬に向けることはできないから。

お昼を友人と食べるため、自然と廊下へ向かう足。開け放たれたままのドアのすぐ先に、黄瀬が見えた。今日はダマになっていない。廊下の窓から差し込む光が髪に当たってキラキラしている。私を見て、ふわりと笑う目元も、痺れるほどかっこいい。

「ナマエ、ごはん一緒に食べよう」
「……挨拶」
「こんにちは、ナマエ」
「バカじゃないの」
「行動力あるバカなんで。愛情表現ッスよ」

バカみたいなお決まりの展開を喜ぶ私。それを、なんて茶番だ、と冷めて見つめる私がいる。そんな私が、彼からの電話をとらないという選択をする。実は彼の携帯が私の着メロを変えていることも知っている。私からかけたのは付き合ってすぐの頃の一度だけで、それから少しして黄瀬のタイプを聞かされ、かけるのをやめた。少女漫画の主人公なら、こんな私を臆病者と思うだろう。享受する日常で、黄瀬は特別になりそうでならない。たとえどんなに黄瀬から与えられるものが私を弾ませても、だからこそ、携帯の着メロは変えない。絶対に。

ドントコールミー/コールミーアゲイン/20131125/title:自慰
No.167 - 2013/12/28(Sat) 21:51:42
Re: / 空夢
 彼の眠る姿が愛らしい、と女生徒たちはいうけれど、私はそれらの発言も、彼が睡眠状態になるということも、内心理解できず疑っている。真波山岳は眠らないのではないか、と。

 クラスは午後特有の柔らかさに包まれている。背を向け数式を解説する教師の声が、まどろみかけた皆の耳へと流れていき、のたくりそうになる文字で、理解もせずに黒板の記号を写している。こういう時、私は鞄にしまってある音楽プレイヤーをそっと机に忍ばせて、そこから続くイヤフォンを耳にしながら授業を聞いても大差ないのでは、と思う。私が友人に勧められるがままに、なんとなく、で聞いているアーティストと同じで、これらの数式の本来の価値は、理解を寄せる相手にしかわからないものなのではないか、と思うのだ。実行に移したことはない。

 委員長が授業後に真波山岳の机を叩く。同じ形状の机にノートをしまいながらちらりと見ると、彼はまなじりを下げながら委員長に微笑んでいた。私はあくびをひとつ、そのまま机に突っ伏した。

 友人に、「レースの応援にいかない?」と誘われた。自習時間、一応やっとけ、といういい加減さを含めて配られたプリントを片付けた頃。皆各々したいことをしている。いつものように突っ伏しているつもりだったが、話しかけられてしまった。「いこうよ」という彼女に、何のレースだ、と少しだけ思ったが、考えるまでもなく自転車だろう。彼女はトウドウ先輩(漢字を未だに知らない、知らずとも会話が成立するから不思議だ)のファンで、よくトウドウ先輩のかっこよさについてを熱く語るから、おそらく、自転車だ。私はその日特別予定もないし、彼女との交遊は特別苦でもないので、「まぁいいよ」と特別なことなど何もなく了承する。

 本を返却するために、渡り廊下を通っていると、突然頭に感触。撫でるようなそれに振り向くと、真波山岳がいた。口元だけ弧を描いている。私はその顔つきに、薄く笑う何かを連想する。それの名詞が浮かばない内に、彼の弓なりの線が開く。

「今度のレース、見にくるって本当?」

私は頷きながら、「どうして知っているの」と問う。

「聞いた」

誰から、といわず、彼はいう。それでピンときた。やはり真波山岳は眠らないのだ、と。彼の傍にいるからか、私は眠くなる。この感覚とうまく折り合いがつかなくて、だから私はあまり真波山岳とふたりで話したくない。今の真波山岳の周りに広がるありふれた校舎の風景は、私の周りのそれと何も違わない。コンクリートの冷たさも、空の色も、微かに凪ぐような風も。等しく流れる時間も、きっと、違わない。

「俺も出るんだ」

「そうなんだ」というと、すらりとした彼の手がまたしても私の頭を撫でた。数回会話した程度の、ただのクラスメイトの頭を。

「見ててね」

私は、真波山岳の手のひらが温かいことと、有無をいわせぬ要求に僅かに動揺しながら、「うん」と答える。手にした本が少し重い。眠気のような、トロリとした何かが身体を駆け巡っている。彼はにこりと微笑む。数学の後に委員長に見せていた笑顔だ。今度は私に向けてから、彼はスタスタと戻っていった。こちらの進行方向に用があったわけでなく、私に、「見ててね」をいうためにこの場にきたようだった。図書室に足を運びながら、彼は翁の面に似ているのだ、と、ぼんやりとしていたイメージの名詞が、ようやく浮かんだ。もう一度噛み締めて比べてみる。全く似ていないことに、少し安堵する。

 真波山岳とトウドウ先輩が出るヒルクライムレースは、そこそこの人で賑わいをみせている。スタート前のガヤガヤした空気の中、私と友人は多様な人に囲まれながらも、傍には箱学の生徒が多く、その内女生徒のほとんどはトウドウ先輩を応援するようだ。けれど紛れるように真波山岳のファンもいる。私の左隣の女生徒(おそらく先輩)が、「真波くん寝ちゃってる、かわいい」と呟いていて、その視線の先を追うと、先頭付近に真波山岳らしき人物がいた。

 目をつむり俯くような姿勢で細い自転車にまたがるその人が、私にはまったくもって眠ってなど見えない。彼の周りの景色は私とほとんど大差ない。スタート位置とギャラリーという違いはあるけれど、囲む環境は、おそらくそんなに違わない。涼やかな箱根の空気、ざわめき、そして人。けれど、真波山岳そのものは、やはり人とは違うものに思えてならない。彼は、私と同じく、眠らないのだ。

 目をつむるという行為こそ、感覚や意識を研ぎ澄ませた究極的なかたちで、目を開けているときよりもずっと、起きている、のだ。今のようにすぅすぅ息づく授業中の真波山岳は、あのクラス内の誰より透明な意識を保っているように思える。だから、私がこのレースを見にくることになったあの自習時間に、真波山岳は机に突っ伏しながら、私と友人の会話を聞いていたのではないか、と思うのだ。

 なぜなら、私も、そのような状態の時の方が目を開けている時より格段に、起きている、から。不眠症で夜を眠れず過ごすのには、もう慣れていた。慢性的な眠気はきちんとした睡眠を必要としなくなった。いつも感覚は研ぎ澄まされていて、起きていた。だから、真波山岳をはじめて見たとき、こいつは眠ってなどいない、私と同類だ、と直感したのだ。理解を寄せられるものへの価値の付与。だけど、目を開けた彼と対面すると、妙な感覚になる。蓄積された眠気を溢れさせてくる。感覚を鈍らせる。私はたしかに起きているはずなのに。

 私は目をつむる彼を見ているのに早々に飽き、同じようにゆっくりと目をつむる。やはり、こちらの方が感覚が冴えている。隣の女生徒の胸のときめきすら手に取るようにわかる。

 次の日、本を返しにいこうと教室を出て数歩、頭に温かい手のひら。私が振り向くよりも先に、真波山岳が視界に入る。

「見てなかったでしょ」

素直に頷く。彼はふわりと笑んで、綺麗な色をした両目で私を見る。私はちょっとだけ気まずくて、「眠かったの」と言い訳した。

「たしかに、いつも眠そうだよね」

真波山岳が笑う。私は彼の傍だと、たしかに、あまり感覚が働かない。彼の鼓動よりも、私のどきどきした音がうるさくて。なぜなのか、その名称は知っている。「真波にいわれたくないよ」と苦し紛れにいうと、彼はきょとんとした顔で私を見てくる。私はむきになって、「でも私も真波も眠ってないよね」なんて、意味の伝わらないことをいってしまう。「目をつむってる時の方が起きてるって感じない?」と、私は問いかける。真波山岳は茶化すことなく僅かに考えてから、にっこり笑う。

「わかるかもなぁ、すごく集中できていいよね。でも俺は、その後に目を開けた時の、生きてるって感じの方が好きだな」

私は驚く。真波山岳はきっと、私と同じだと思っていたから。勝手な思い込みだ、恥ずかしくて、顔に熱がたまる。そして、私は気づく。真波山岳が私と同じなのではない。私が真波山岳と同じなのだ。だって私の心臓は、両目を開けている彼を見ると、とても、生きてる。

「自転車は俺にとって、生きてる、を感じられるものなんだ。だから俺さ、君に見ててほしかったんだ」

 真波山岳がそういって微笑みかけると、私は眠くなる。正確には、眠くなるような感覚になる。どんな夜も眠れず過ごす私を、その両目で赤子のように眠らせてしまう。「その台詞は、目をつむるばかりな私の中の、生きてる、を、自分に向けてほしかった、ってことなの?」きけない。「私はね、真波が私を見てる時、それを、自転車の時と同じくらい、生きてるって感じてくれればいいのにって思うよ。真波も、私を見て、どきどきすればいいのにって」いえない。どきどきとうるさい心臓。彼が私に生きてる感覚を教えてくれる。恋というのだ、これを、おそらく。撫でてくる手のひらが温かいこと、その笑みが仮面じゃないことがただ嬉しい。私の中での真理。真波山岳は生きているからこそ眠らないのだ。

子守唄を、インソムニア/20131204
No.168 - 2013/12/28(Sat) 21:52:24
Re: / 空夢

「自転車選手てレース前にCENSOREDするん?」
なんて、天気を訊くみたく普通に訊ねてくるもんやから、
「ハァ?」
といわざるを得ない。部室前のスペースでデローザを整備中のボクの横に現れたそいつは、何食わぬ顔で続ける。
「そないピッチピチの服で走っとって、勃ってもうたらどないしよってなるやん?」
アホちゃうか、こいつ。地面にしゃがむボクに向かって少し屈む身体。腰に手を当てて、顔を覗き込んでくる目がアホ全開。ボクと同じ地表についとる棒切れみたいな両足が、ぴらぴらの布きれの端からきれいな重心で突き出とる。何の躊躇いもなくその布をぺろんとめくる。黒。
「……ついとらんもんなァ」
いいながらスカートの裾から手を離してやると、またさっきとおんなじ光景。デローザ、しゃがむボク、突き出た両足。アホ女は何も起きてないかのようにケロリとしている。
「ついてないんよ」
恥じらいって何やったっけ。
「不思議やね、なんでキミみたいなんについてへんのやろね」
「それなァ。御堂筋のをもろてもええんよ?」
皮肉をいっても伝わらんから意味ない上に、ボクの神経逆撫でするようなことをペラペラ放つ。
「くれてやらんよ」
と返すと、
「ケチ」
と真顔で文句いうからほんまにキモい。こういう無駄な軽口をいい合うのは何度目か、興味もないから数えとらん。デローザをちらりと見やる女。自分は自転車乗らんのに、このバイクがいいバイクであるのを知っとるから、触れてこない。アホやのにそういうところは賢明。石垣クンの躾がいいんやろね。アホくさ。
「あと、クンつけや」
「何?」
「御堂筋、やのうて、御堂筋クン、や」
アホくさすぎるので、こいつのスカした真顔を崩してやろうとする。ザク共の前では従順な犬よろしくコロコロ変わるその顔が化けの皮剥がれていく様を見たいのに、
「何それ。後輩にクンつけるわけないやろ」
なんてふてぶてしいこいつは、アホ面のまま。怒ってくれた方がまだマシ、何度話そうが変わらん態度がむかつく。じとーっと睨んでも効果はない。
「光太郎たちはチャリ部やから、クンづけするかもわからんけど、私帰宅部なんで」
「帰宅部なら帰宅せなアカンやろ、バイバイ」
「今日の活動内容は光太郎と一緒に帰路につく、やねん」
「さよか。ザクならまだメニュー中や、残念やね」
隣に女がしゃがみ込む。ちょっと跳ねた自分の肩を気にしないように、タイヤのチェック。
「御堂筋は?終わったん?」
「終わったに決まっとるやろ」
「えらいなァ」
えらないわアホ。当たり前や、ボクがザク共より多いメニューをこなしてんのも、バイク整備も、全部勝利のためなんやから。呼吸とおんなじ、生きるために、前に進み続けるために自然と行うもの。勝利のみで固めた道を行くのが御堂筋翔クンの生きる意味なんやから。お前みたいなアホ女との無駄話なんて、一秒もいらんのや。
「……キモいわ」
「や〜もう、ほんま素直やね」
「キミの心は折れるってことないんか」
「私の骨はガラス製やないからなァ」
付き合いきれん。縮こまっとるアホの背中を手すりがわりに立ち上がる。デローザに触れたら、女が話しかけてきた。
「御堂筋、振り向いてみ」
「クンつけや」
「御堂筋クン、振り向いてみてください」
振り向いてみる。女は一歩下がったところで先ほどと変わらん体勢、しゃがんだまま。楽しそうな顔つき、と思ったら、怪訝な顔に。
「何やの」
「……くわえるポジションぴったり、て思たのに、御堂筋ほんま足長いな」
アホすぎて腹立つ。しゃがんだ頭を思いっきりひっぱたく。さすがに痛かったのか、女はギャアと鳴き声みたいな悲鳴をあげた。
「冗談やんもう……ほんまかわいらしなァ」
「キミほんまキモいな、キモ、キモいで」
「……」
黙った。気にしたのかとちらりと顔を見やれば、真顔。ようやく凹んだのかと思えば、
「……よう考えたら、スポーツ選手は試合前オナ禁するやんな」
なんてほざくから、こいつは駄目だ、手遅れや。ボクは疲れた。バイクを抱えて部室に向かえば、女はすくりと立ち上がり着いてきた。部室に入り、女が後に続こうとしたところで、ドアを閉める。ドンドン叩かれるドア。
「入れてや」
「頼み方」
「入れてください」
ドアから手を離してやると、隙間から顔だけ覗かせて真顔で呟いてくる。
「阿呆筋」
バチンとドアを閉じもう一度女を閉め出してやると、様づけで謝ってきたので大人な対応をしてやる。部室内のベンチに一人分の間を空けて共に座って、無意味極まりない女の言葉をあしらう。別に反応しなくても、と思うけど、自然と軽口に付き合う。女は天気のことから石垣クンとのことまで気ままに話す。
「いい天気やね、最近ごはんが美味しいね、髪伸ばそ思うんやけど手入れがなァ、光太郎の告白の言葉はドストレートに《すきや付き合うてくれ》だったんよ」
などなど。ほぼ聞き流していた。
「人間には人生を失敗する権利があるんやって」
だから、突然そんなことをいい出したのにも、曖昧な相槌で済ませた。何の話やと考えて、頭に染みたところで、
「……何やのそれ」
とツッコミを入れてしまい、すぐ後悔した。ああまたべらべら話し始めるぞ、と覚悟したのに、女は真顔のまま、
「こないだ見た映画でいうとったんよ」
と、それだけいって、黙った。とっさに言葉がボクの口から飛び出た。
「いい言葉やね」
都合のいい言葉やね。甘ちゃんにはいい慰めになる、逃げの言葉やね。それこそCENSOREDやね。ボクはぼーっと部室の壁を見つめる。ずっと、ひたすら見つめる。穴でも空くか、というくらい。部室のドアが開いて、ザク共がぞろぞろと入ってきて、ようやく意識を戻す。石垣クンがぽかんと口を開けてこっちを見るもんやから、何や、と思って周りを見渡す。ボクの横では空いていた一人分に横たわって女が寝ていた。とりあえずひっぱたく。眉間にシワを寄せてうーと唸った。鳴き声や。徐々に開く目がボクを見て、それから、泳いで、
「……あ、光太郎、帰ろ」
へにゃりと締まりのないアホ面で笑う。石垣クンに向かって。上体を起こしながら
「外におるね」
といって大きく伸びをする。立ち上がり様に折れたぴらぴらのスカートの裾を直して、中途半端な長さの髪を撫でながら、ドアの前で振り返る。石垣クンではなく、ボクを見て、
「御堂筋の骨がポキッて折れたら、慰めてあげるよ」
と、微笑んでから、出ていった。勃起寸前のボクは置いてきぼりか。アホらし。寝よ。

どろどろにドロー/20131214/title:しろくま
No.169 - 2013/12/28(Sat) 21:53:16
Re: / 空夢

職員室を出ると、ドアの横に花宮が立っていてぎょっとした。思わず足を止めてしまったのを気にしないで歩を再開しその場から離れる。それでも花宮は何も言わずに、壁に寄り掛かってプリントを眺めていた。相手に動く気がないようなのを理解し早足を止め、手ぶらで廊下を歩いていった。後ろに花宮がいるのをわかっているから、私は俯き気味で進む。遠ざかって廊下の角を曲がると誰もいない感覚になれて落ち着いた。職員室の中にいた時と同じく、花宮という存在をすっきり意識から退けていられた。目に当てず手にしていた氷の入った袋を、ここは一階だしいいや、と思って廊下の窓から捨てた。何にも触れていないのが心許なくて、カーディガンの裾を握った。

教室に戻るとクラスメイト達は静まり返ってこちらを見てきた。数名の男子生徒が呼び掛けるように「おい」とか「お前さ」を向けてきて、それを近場の人に諫められている光景を極力見ないようにしながら、自席に置いてある筆箱と数札の教科書類を手にした。動かした手首と共に視界に入ったカーディガンの裾が、くしゃくしゃによれているのがわかった。カーディガンの上から、椅子に置いておいたブレザーを着る。痛くなった目の奥を意識しないように気をつけて、俯いたまま机の横に引っ提げた鞄に荷物を詰めた。下を向いているとうっかりしてしまいそうだから顔を上げて進みたいのに、周囲から向けられる視線が緩むことはなかった。手にした鞄を落とさない、涙は見せない、けれど余裕綽々の態度でいてはいけない、という難しい注意点を守って、私は気まずい教室を後にした。出ていく直前に誰かが「信じられない」と囁いたのが耳に残って、舞い戻った廊下を進みながら、私も、と心の中で同意した。その時には既に顔を上げて進んでいた。

このまま下校するのはぎこちなくて嫌だった。足が向いたのは三階の非常階段。鍵開けは手慣れたもので、取っ手に取り付けられたプラスチックカバーを外すのに数秒を要しただけだった。四ヶ所のネジのうち、右上と左下はなくなっていて、右下の一個を爪で回せば枷は簡単に解放された。外した小さなネジをスカートのポケットに入れて階段側から鍵を掛ければ完璧。個室トイレよりも余程ひとりきりになれる、お気に入りの立ち入り禁止スポット。まぁ、ここにいた記憶は、ふたりきりの時の方が圧倒的に多いのだけれど。

「疲れた」

溜め息と一緒に吐き出された感情が、汚れたコンクリートの階段にぶつかる。我ながら弱々しい声だと思った。かわいそうなこの場所はとても静かで、学校脇に植えられた木のさわさわした音が聞こえるだけだった。階段のてっぺんで立つと、近隣の景色と灰色と水色の中間みたいな空が見えた。たん、たん、と数段下りたところ、土と木の葉の腐ったもので汚れた段差に鞄を敷いて、その上に座る。校舎の塗られた壁と階段の地の色むき出しの壁に囲われて、圧迫間。お尻に当たった鞄の中のペンケースの位置を整えた。股にうまく挟まって、なんだかいけないことをしている気持ちになって、中学生みたいな発想にふっと笑ってしまって、そしたら、堪えきれなくて涙が出た。

「泣いてんじゃねぇか」

不意に花宮の声がして、でもこんな劇的な展開になることを心のどこかで分かっていた私は、よれよれの袖口で目を拭った。開ける時の音に気づかなかったのは多分花宮が音を立てないよう気を付けていたからだろう。あの取っ手は捻ると結構派手に音が鳴るのだ。私はドアが閉まる音を背中で聞いていた。ここに入れることを知る人は、私と花宮以外いない。

「泣かないとは言ってなかったでしょ」
「ハッ、どうだか。まぁ、なかなか清々しい出来事だったぜ」
「うん、それは私も思った」

止まない涙をそのままに笑うと、背後の花宮はゆっくりと近くにやって来て二段上くらいの段差に座った。珍しいことだった。ここで会う時、花宮は立っていることが多かった。長話になった時もしゃがむ程度で、お尻をコンクリートに付けるなんてことは絶対にしない奴なのに。掃除もされない風雨に曝された汚い場所。ふたりが隣に並ぶことすら出来ない幅しかない階段。花宮の方がドアに近いこの配置は、ここで会う回数を重ねるうちに自然と決められていったのだった。私は前を向き直った。階段の下の方の踊り場には、この間来た時に置いていった、捨てていったとも言う、丸めた満点の小テストが落ちていた。

「お前が担任に言われたこと、当ててやろうか」
「そんなの、花宮には簡単すぎる問題じゃん。もっと楽しい話してよ」
「俺はこの話、楽しいよ」
「クソ花宮」
「《お前がこんなくだらないことをするとはやっぱり思えない。あいつの言い分も聞くが、お前は今日はもう帰っていいから、よく考えてこい》だろ」
「似てない!」

私はゲラゲラ笑った。笑えば笑うほど涙が出た。きっと花宮は、特徴的な眉を寄せつまらなそうな顔でいるだろう。先程職員室で言われた正解に完璧に一致した台詞だった。やはり聞いていたらしい。その陳腐な台詞の内容より、あの花宮が担任の声真似をしたということの方が、余程私を惨めにさせた。それは花宮が私を馬鹿にするために馬鹿な振る舞いをするという、究極のからかい方だった。花宮と私はお互いを小馬鹿にし合う関係で、だから私はあえてそれを笑った。それが一番いい距離感だった。

「あっさりした終わり方だったな」
「なんかもう、疲れちゃってさ」
「それもそうか」

遠くでチャイムが鳴った。こんな場所にも響くので、学生は管理されていて楽だなぁ、と思ってしまう。本日最後の授業はたしか古典。今のチャイムは先程の終業の鐘。つまり今は休み時間。ここに花宮と私がいるということは、花宮は古典を自主休講するようだ。なら、少なくともかのクラスでは次の古典、三人分の席が空いているはずだ。スカートが皺にならないように、整えて座り直した。

「あの手紙に書いたこと、教えてあげようか」

私は目を袖口で覆いながら語りかける。後ろで花宮がハッと鼻で笑った。

「聞いてやってもいい」
「優しいなぁ!《分かるからいらねぇ》って言うかと思った」
「ふはっ、似てねぇよ」
「うそ、結構自信あったのにな。花宮話し方ねちっこいよね」
「突き落とされてぇのか、テメェは」

背中に上履きの固い底が触れた。おみ足の長いこと。「汚い」と言うと、花宮は「テメェのが汚ぇ」と笑った。蹴りたい背中でもないくせに、花宮は二三度げしげしと私のブレザーを詰った。そうして飽きたらしく、脊椎に触れる感触が消えた。

「《貴方のことをいじめていたのは、出席番号 番です》って書いたの」
「チッ、外した。名前かと思ってた」
「短絡的だなぁ」
「回りくどいことやってたくせに。よく言うぜ」
「本当にそうだね」

私はまたゲラゲラ笑った。片目を押さえたまま振り返って様子を見ると、花宮もおかしそうに肩を震わせていた。私の顔を見て、白けたように表情をなくした。

「なんだ、泣き止んだのかよ。つまんねぇな」
「花宮にうけるために泣いたわけじゃないし。まだ痛いんだけど」
「自業自得だろ。見せてみろよ」
「ん」

覆っていた手を退けてやると花宮は吹き出した。失礼な奴だな、と思った。右目の奥がじんじんと痛んで、でも押さえたところで痛くなくなるわけでもないし、そのまま壁に背を付けて横向きに花宮と向き合った。

「逆襲されちゃった。まさか授業中に来るとは思わなかったわ、びっくりした」
「どうせ分かっててやったんだろ。あいつ、限界っぽかったもんな」
「薄々ヒントを与えてたのに、いつまでも気付かないんだもん」
「テメェも限界だったのかよ。短気だな」

私はとある少女を弄んでいた。その子はクラスの中で少し浮いていて、単純に分かりやすいサブカル好きの暗い子で、それが好条件だったので、勝手に、スタートの合図もなしに、いじめの対象にした。彼女をいじめましょ、なんて、友人たちに声を掛けたわけではない。ただ、ひとりで、陰湿で古典的な手は思い付く限り行った。そうした行動の理由は未だに分からない。難問だ。私だけが犯人だった頃、周りは誰ひとりとして彼女がいじめられているとは気付かなかっただろう。彼女は健気にもひとりでいじめに耐えていたのだ。

「そういえば、私さっきの授業のプリントやってない」
「やらなくていいんじゃねぇの」
「ちゃっかり自分だけ提出してたくせに。あの後の教室がうるさくて、提出するふりして抜け出しただけでしょ」
「半分はテメェがあのクソ教師にしおらしそうな演技してんのを見る目的だったよ」
「私が怒られてる様子は傍目に見ていかがでした?」
「さっき言ったろ。なかなか清々しかったよ」

彼女が徐々に登校しなくなってきて、私自身も飽きてきた頃に、花宮と出会った。ドラマチックだった。部活のない放課後、右ネジをスカートのポケットに閉まって、鞄を敷いたところで、派手な音を立ててドアが開いて、本当にびっくりしたのだった。「ネジ開けんのうめぇな」と、入って来て一番に、花宮は言った。ただの頭のいいクラスメイトだと思っていた花宮真くんは、立ち入り禁止の非常階段に普通に入ってくるとんでもない性悪だと分かって、「右上と左下取っぱらったの、花宮だったんだ」と、私は言った。それから次第に楽しみを共有するようになった。

花宮は彼女に優しくした。もちろん人目のないところで、他人には彼女と花宮が話をする仲だとは一切悟らせないように。彼女は僅かな可能性をちらつかされ、まんまと心を開いた。それでも彼女はいじめられているという現実にはひたすらひとりで耐えた。花宮はただ時々優しげに微笑んでやるあくまで部外者な男子生徒だった。その頃から私がいじめていると仄めかすサインをそこはかとなく残した。しかしそれらは、元々出来が悪いくせに花宮という存在にのぼせきった彼女の頭にはまるで伝わらず、私と花宮は度々彼女のそうした様子を報告しては、ここで腹を抱えて笑い合った。

それから花宮と彼女は少しだけ付き合い、すぐに別れた。「よくあの子で勃ったね」と茶化すと、「やってねぇよ、バァカ」と返してきた。その時の花宮の楽しそうな目を忘れられない。私にそっくりだった。彼女は完全に憔悴していた。見るからに不幸極まりないその様子に、周囲も薄々感づいてきている様なので、その日の小テストを階段で見詰めながら、そろそろ手を引こうと思った。満点のテストをぐしゃりと潰して、そしたら、これだ、と思った。ひらめくとはこういうことかとも思った。その日花宮は部活で私はひとりだったので、階段の下に丸めたテストを投げて、《明日終わらせる》というメールを花宮に送ってから、すぐに帰宅した。夜、花宮から返ってきたのは《泣くなよ》だった。

そして今日、私は普段いじめる際に使っていた便箋に自分の出席番号を含めたかの文を書いて、綺麗に折ってから彼女に渡した。授業中に見てね、と言って。今まで話したこともない私からの突然の接触に、彼女はおどおどと対応してきて、それが堪らなく庇護欲をそそった。けれど私は彼女の壊れる様が見たかった。案の定彼女は授業中に突然立ち上がり、私の席まで来て、何度も何度も私の右目を殴った。授業をしていた担任が彼女を押さえ付ける時、彼女は私にひたすら怨恨の言葉を吐き掛けた。

「終わらせちゃったなぁ」
「おい、泣くなよ、きめぇから」
「疲れたよ、花宮」

本当に楽しかった。この非常階段で日々彼女の弱った姿を思い出すのは、とても興奮した。私を殴る彼女の表情は私を幸福で満たした。終わらせてしまった。そうして私が泣いている間、花宮はずっとこっちを見ていた。

非常階段/20140115
No.172 - 2014/01/15(Wed) 21:16:09
Re: / 空夢
「じゃあ、古橋は?」

 机を椅子で取り囲み、お昼を食べつつ談笑していたら、友人が爆弾を落とした。それは毒薬のように私を苦しめる男の名だった。私は咀嚼していた卵焼きを飲み込むまで平静な顔を保つよう努めた。
 話題は、クラスメイトで寝てもいい奴、であった。今日は下ネタかよ、と思いながらも、友人たちと話す馬鹿らしい内容は、難しい授業で疲れた頭を少しほぐしてくれるので、お昼休みは素晴らしい。一人はクラスに既に彼氏がいるのにも関わらず、あえてその名前を挙げずに、きゃいきゃい口を出していた。私も息を抜きながら話題に乗っていたのだ。そう、友人がその爆弾を放つまでは。

「古橋って、あれだよね、能面の」
「そうそう。バスケ部の」
「んー、表情ないからつまんなそう」
「あ、何、想像できんの?私無理だわ」
「想像力ないなぁ」
「あんたは?」

 友人たちのやり取りをききながらもぐもぐと食べていた卵焼きはとっくに嚥下していた。話を振られるタイミングを見計らい、わざともうひとつ弁当箱から卵焼きを取った。味わう。ちなみに甘くないやつだ。甘い卵焼きは、なんだか、料理の一品として受け入れられない。もぐもぐ、ごくん、をするまで、私は「んー」と唸りながら、当たり障りのない普段の回答を探った。教室を見回し、当人がいないのも確かめた。二人もお弁当やパンをもぐもぐしていた。

「……ないかな、絶対ねちっこい」
「うそ、めっちゃ淡白っぽそうじゃん」
「ふたりとも、想像できる時点でおかしい」
「想像力なさすぎ」
「あはは」

 私は声だけで笑う。そのまま二・三人の名前を挙げたり、下品な冗談に対して圧しCENSOREDように時々笑ったり。教室はガヤガヤと賑やかだし、私たちは小声だ。だからあまり目立たないものの、この会話を周囲にきかれているのかと思うと、私は少しげんなりする。でも、このグループで交わされる低俗な会話は、価値観のこじれた私を癒してくれる。
 わりと近場で大声を上げている男子たちは、私たちの会話をきいている素振りはない。素振りは、だ。しかし、また馬鹿な会話してる、という目付きで、教室の端の方で食事している女子グループがちらちら見てくるのが、ひどく煩わしい。彼女たちは、真面目で、賢く、おとなしいことを己の矜持としている。

 昔の私は、といっても数ヵ月前だが、彼女たちと似ていたな、と午後いちの授業中ぼんやり思った。霧崎第一は進学校なので、授業の範囲は普通の学校より少し進んでいる。ノートに走らす化学反応式を、私は将来使うのだろうか。少なくとも一年後、進学するようなら、使うことになるだろう。
 高校二年生というのは、とてもふわふわした立ち位置だとつくづく思う。一年生のように青春を謳歌するでもなく、三年生のように将来をきちんと見据えるでもない。漫然と漂うように遊び、漠然とした未来に不安を抱く。なんてめんどうな二年生。
 ばれない程度にため息をつく。と同時に、何やら視線を感じた。緩く先を辿ると、古橋がこちらを見ていた。



 数ヵ月前、私はほぼ毎日、古橋とお昼を食べていた。空き教室でこっそりと。私は、真面目で、賢く、おとなしい態度で、古橋と様々な話をした。主に、お互いの好きな本の話を。ある日、私が持っていた本の題名から単語だけ抜き出して、「来年の夏には二人で海を見に行きたいね」というと、彼は変わらない顔つきのまま、「そうだな」と返してくれたのを、未だに覚えている。



「俺はねちっこいか」

 放課後、人通りの少ない廊下を曲がったら、突然腕を引かれたのでびっくりした。何だよ、と思い見やると、私の腕を掴んでいるのは古橋だった。ピクリともしない表情筋。彼は口元だけ動かして、昼に私がこぼした形容詞をたずねた。

「きいてたの」
「いや」

 教室にいなかったのは確認した。つまり、人づてにきいたのだろう。私は舌打ちしたいのを堪えた。申し訳なさそうに意図的に眉を下げた。

「ごめんね」
「その顔はもうしなくていい、と、何度いえばわかるのだろうな」

 その古橋の言葉で、もういいや、と思った。すべてが面倒になった。私は盛大に舌打ちし、私を掴む古橋の手を思いきり振り払った。顔をしかめて、高い位置にある真っ黒な目を睨んだ。私の顔が映る目は、まるで動じていない。むしろ、僅かに嬉しそうな色が滲んで見えた。まるで、私にこうした粗雑な面があることを知れて嬉しい、とでもいうかのように。

「そういうとこ、すごくねちっこいと思う」
「そうか」
「何度もいったよね、ごめんなさい、って」
「何度もいったな、諦めるつもりはない、と」

 お前はそんな熱い男じゃないだろ、と思った。苦々しい渦巻きが胸を埋め尽くす。廊下の角を曲がったところ、つまり階段付近にいるのに、誰も通らないのは、今が部活時間だからだ。私はサボりだが、古橋は体育館にいるべきなのではないか。上の階から微かに笑い声が聞こえた。誰かいるようだった。それがわかるくらい、静かだった。

「……部活行かないの」
「今日は休みなんだ」
「うそつかないで。はやく行ったら?」

 私は嘲笑う。古橋の濁った目に映る私を。また私の手を掴もうとした古橋の男らしい手を押し退けた。そのまま横を通り抜けようとすると、古橋は私を掬い上げるように抱き締めた。

「好きだ」
「……古橋、ひとつきいていい?」
「何だ」
「私たちが行くはずだった海はさ、どこにあるの?」



 あの約束のしばらく後、私は噂で、古橋がスタメンになったときいた。内緒で見に行った試合はとても感動的な展開だった。人はこんなにも人に幻滅できるのか、と思った。古橋が顔色を変えずに相手校の選手を傷つけるのを見て、あの穏やかな昼時に手にしていた本の内容を思い出していた。
 《他人の苦しみに無感動》で《多少の悪ならば社会から罰せられない以上はそれほどの後ろめたさ、恥しさもなく今日まで通してきた》という、とある医学生の独白の場面を。その登場人物が、良心の麻痺を自己肯定しつつも、そうした己を恐ろしく不思議がっていたのを、やけに冴えた頭で思い出していたのだ。
 別れを口にすると、古橋はまたお昼休みを共に過ごすような関係に戻ろうと何度も接触してきた。しかも、私が一人の時を狙って。その度しおらしそうに「ごめんなさい」と断り続けた私はなかなかの役者だ。

 よく考えなくてもわかったはずだった。私にたくさんの顔があるように、古橋にも多面性があり、その内のひとつが、眉ひとつ動かさず人を傷つけることができる面なのだと。



 古橋は答えなかった。私は、不器用で、ねちっこくて、意外と熱い一面を見せる能面男に抱き締められながら、毒薬のように苦しい体温を感じていた。古橋の胸から放たれる血の通う音は、海鳴りのように聞こえた。

それで海はどこへ行ったの/20140205

企画/二年生へ提出
No.173 - 2014/02/06(Thu) 20:29:18
Re: / 空夢

綺麗に磨かれた爪の表面がマニキュアに塗られていく。大理石に敷かれる真っ赤な絨毯のようで、爪先の存在理由が急騰したような気がした。

「おおー、いい色だねぇ」
「だろう?やはりオレの見立ては良いな」
「さすが!よっ!日本一!」
「無理に褒めなくていいぞ、自身の素晴らしさは理解しているからな」
「ですよねー」

尽八は器用に私の爪を彩る。放課後の教室はまだ早い時間の割には薄暗く、何故なら雪が降っているからで、そのため部活も中止になった。生徒は急ぐようにして皆下校したけれど、おそらく他の教室でも何組か残っていることは容易に想像できた。それは一重に本日の日付が原因である。黒板には既に明日の日付が記されていて、こんな日なんてさっさと終わればいい、という私の気持ちを増長させた。

「ん、終わったぞ。どうだ?」

手元を見れば、私の十枚の爪は綺麗に赤くなっていた。黒板に背を向けて椅子に座る尽八は晴れやかな顔をして小さなマニキュアの蓋をくるくる回していた。

「綺麗」
「ふふん、なかなか似合うぞ。あとは自信を持つのだな」
「ありがと、尽八。もう帰っていいよ」
「ム、もっと誠心誠意を示してほしいものだな!」

マニキュアを私のポーチに仕舞っていた尽八が、その中から除光液をちらつかせたので、私は机に両手をついて頭を下げた。その様に満足したらしく、机脇に下げていた紙袋を右手に、とても幸せそうに尽八は笑った。紙袋からは可愛らしい包装紙と甘い匂いがこぼれている。立ち上がり、座る私の頭を左手で軽く叩いた。

「告白がうまくいくことを、オレも祈ってやろう」

去り際のその言葉が私を後押しした。一息ついて、両手の赤が乾いてから、私は相手を呼び出した場所へと向かった。





ひとつ上の先輩は卒業して、私は高校二年生を終えようとしていた。期末試験もつい先ほど終わり、もう私を縛るものなんてない。黒板の日付がまだ今日のままで、日直が忘れて書き直されなかったのだろうと想像できた。私はぼんやりと、白く刻まれた14の数字を眺めていた。しばらくすると教室の前方のドアが開いた。

「おや、まだ残っていたのか?」
「……うん」

レーパン姿の尽八はつかつかと私に近づく。忘れ物などしないだろうから、私が残っているのを知っていて来たのだろう。わざわざ部活を抜け出てまで。寿一が許すはずない、と思ったけれど、わからない。私みたいな馬鹿にも優しい彼らなら、王者らしく私にも力を与えてくれるのかもしれない。私が教室に残っていると嗅ぎつけたのは恐らく隼人だろう。尽八は机の上に置かれた私の手元を見て、そのまま前の席にこちらを向いて座った。黒板に背を向けたその姿は、一ヶ月前より幾分か輪郭を強くしていた。

「……その色は似合わんな、悪趣味だぞ。また見立ててやろう」

さっさとポーチを出すよう指示され、ぼんやりしたまま右手でカバンを漁った。取り出したネイルポーチをそのまま渡すと、尽八は口を開けた。

「この色がいいだろう。春らしいのではないか?」
「……そうかな。地味だと思う」
「何!?共に選んだではないか!」

尽八が推したから買っただけだよ、とは、さすがに言わなかった。若草のようなコンポーズグリーンと、桜のようなフレッシュピンク。朗らかな色たちが、白味がかった薄いただの生爪に塗られていく。色づく指先が霞んで見えた。

「オレは、できるだけ好意を寄せた相手に尽くしたいと思うのだが、やはり色々な輩がいるものだな」

私は笑ってしまった。知ってる、尽八は尽くしたがりだって。この世に色んな人がいるのも。私なら、尽八に尽くすことはない。大切に思っていても、好いていても、私は尽八に尽くすなんて、したくてもできない。

「その手首は見るに耐えんな。お前には似合わんのだよ」
「そうかな、なかなかおしゃれじゃナァイ?」

私は茶化すように笑った。もう爪を塗り終えた左手を振った。机上にはポーチとマニキュアとカッターがあった。別に大事になるものではない。私が私に尽くす形を赤黒く刻んでいるだけ。まるで今日の日付が書かれた黒板の色を反転させたような、私の手首。

「ム、似てるな。特徴を捉えている」
「でしょ?あはは、靖友にきかれたらぶっとばされそう」
「絶ッ対ありえんな!なぜなら荒北もああ見えて、好いた相手には尽くす奴だからな!」
「私ってば愛されてるなー」
「王者箱学のオレたちに愛されていることをもっと誇るべきだぞ!」

特にこの山神・東堂尽八にここまで尽くさせているのだからな、なんて不敵に笑う尽八は、純粋にすごいと思う。私は自身にこうした魅力があればよかったのにな、と時々思う。右手の爪先に交互に重ねられていく二色は、匂い立つほど春めいていた。

「お返しは貰えたか?」

尽八が優しげな声で訊ねてきた。目は机に置かれた右手に向けて伏せられていて、手はネイルを続けている。器用だ。

「貰えるわけないじゃん」
「ム、つくづくわからん奴だな。もう帰ったのか?」
「うん。なんか、正妻の方とどっか行くらしいよ」
「奴もよく二股などして気を回せるな」
「そりゃ、私に気なんて回してくれたことないもん」
「それもそうだな!」

尽八のいいところは、こうして私の皮肉を聞いては肯定してくれる所だ。私に害なす要素に対して、私を糾弾することはない。ただ、私の自傷癖には度々忠言をかける。他の皆は怒ったり憐れんだりする。でも私は尽八からの忠言が一番好きだ。流したいという意思を示すと、決して深追いしない潔い忠言が。

「よく応援してくれたよね、あの時」
「……いつだ?告白?」
「うん」
「まぁ、あの時は単純に、お前が誰かに尽くすという様に対してな、あー、多分、驚いたのだな。だからかもしれんな」
「なにそれ」
「結局、お前は奴を通して己に尽くしているだけだ、と、今日思い直したがな」
「なにそれー」

図星、私は大袈裟に笑った。チョコレートと共に与えた告白は、浮気相手としてでいいなら、と返したクソ野郎に向けて贈った。クソ野郎だと知った上で呼び出したのは、今日のような見返りのない状況に陥ったのは己の行為(この場合、好意、でも当たりだ)によるものだと思えるからだ。私は私に傷を与える。そうして私自身に尽くす。

「終わったぞ。どうだ?」

たとえ尽八が死んでも、私は後を追わない。尽八の遺したものを、ひとつ残らず自分のものにして、のうのうと生きていくだろう。春咲く爪先を眼前に掲げて、私は何一つ尽八にお返しできないのだと悟った。

「綺麗」

尽くす/20140314
No.176 - 2014/06/18(Wed) 22:04:30
Re: / 空夢
イヤホンを外すのが億劫だ。流していた音楽はとっくに鳴り止み、周囲の物音や話し声を鈍らせているだけのものと化しているにもかかわらず、つけたままのそれを持て余している。さして気にもならなかったからそのままずるずると過ごしていたのに、外す、という思考を湧き起こした原因が煩わしい。
左に立つ男が肩を叩く。流石にふたりきりというわけでもなく、ちらほらと生徒が点在するも、図書室はやはり静かだ。こいつはなんて異質なのだろうか。私は開いていた本のページ数を覚えてから、魚のように口を開閉しベラベラと話出している男を見やる。面倒だし聞こえなくはないから別段そのままでもいいのだが、司書の先生に怒られては流石にかわいそうなので胸元のコードを引いた。耳栓が落ちる。

「その外し方は女子としてどうなのだ?まぁ、いい。話は聞いたな?」
「イヤホンしてたんだけど」
「何、音は流してなかっただろう?」

そりゃ、そうだけど。私は腑に落ちない。肩に置かれたままの手がいやに熱くて、身を守るように少しだけ肩甲骨を動かす。卓上の本は参考書云々の類ではなく、なんとなくで読んでいた適当なもので、先ほどページを覚えたもののはやくも内容が薄れていた。東堂はにやりと口角を上げ、さぁ、と促す。私はやはり、腑に落ちない。

「詳しくないんだよ、私。ギャラリーが欲しいなら他あたりなよ。行かないから」
「ならんよ、名前に来て欲しいのだ」

耳障りだ。東堂の、まるで本心ではないその誘い文句が、私は気色悪くてたまらない。図書室の静寂で倍増された声が耳について、私は自分の心の胡散臭さに辟易としている。





ある大会で東堂が負けた、と聞いた時、妙に感心した。自転車競技に興味はあったが、それはたまたま自分の通う学校がその競技の強豪だったからであり、わざわざ進んで覗く気はなかった。結構仲のいいクラスメイトの男子が注目されている選手だと知っていたが、彼の人格形成にさして影響を与えているとは思っていなかった。スポーツをしない私にとって、競技で己が作られる、という感覚は馴染みがなかった。負けたという事実を知る数日前、私は東堂と少し話した。

「名前はオレの登りを見ずに、よくオレと話してくれるな」

東堂がそういった時、私はその言葉の意味が推し量れず、はぁ、とか、うん、とか、煮え切らない音を返した気がする。化学実験室では、皆が試験管の中の反応を雑談しながらかりかりと書いていた。ここではある意味隣の席ではあった。班は別だった。

「見に来たいとは思わんのか?」
「まぁ、あんまり。行ってもわかんないし」

私は塩化ナトリウムと硝酸銀のふたつの水溶液を合わせ、濁る様を教科書通りの表現で書く。白色沈殿、の、でん、を書いたら、東堂は満足気に、それもそうだな、と頷いた。声音だけでもわかるほど、それが印象的だった。

負けた、と人づてに聞いたのはその数日後の体育の授業中だった。どうやらあの会話の時、既に彼は大会で奇しくも二位を刻んでいたらしい。彼がその大会後、同い年の女子に向けて暴言らしきものを吐いた、という噂を耳にしたのも、皆がバレーボールをしている時だった。
彼への認識を改めたのはその時からだ。危うい自信を固めて作られたような男だと思っていた。自信家であるとは思っていたし、それは諸刃の剣なのだろう、とも思っていた。挫折をしたことがないのではなく、それを認識せず歩んできている人間特有の、生っぽいにおいがすると思っていた。体育の授業というのは、隅でまとまった埃のようなやる気のない人種にとっては、駄弁るための時間だった。

東堂くん、こないだの大会で負けたんだって。同い年の奴に負けたんだって。しかも、応援にきてたファンの子に怒ったらしいよ。そうなんだ、知らない、それ。なんかね、≪私、自転車に詳しくないけど、東堂くんの登りはかっこよかったよ≫、って励ましたらしいんだよね、その子。へぇ。そしたら、東堂くん、すごい静かな声で、でもめちゃくちゃ怖い声でさ、≪詳しくないなら、オレに美を語らないでくれないか≫、っていったらしいよ。

私はそれを聞いて震えた。やる気のある一部の人間がボールを体育館の天井へと高く上げ、地へと打つ。バンッと音を立てた球体が跳ねた。





卓上に落ちて這うコードをくるくるとまとめて、私は鞄に収める。置かれた手がまた一度肩を叩く。これみよがしに溜息をつき、私は立ち上がる。かたん、とイスを鳴らして整えてから本を棚へと戻すと、東堂は隣を歩く。目は爛々と輝いているが煌びやかさは感じられない。彼の目には無駄がない。研磨されずとも鈍く光るようで、あの時の教科書の表現がふさわしい気がする。

自分自身を美しいものとなし得ないうちは、人は美に近づく権利を持たない、といったのは、誰だったか。よく喋る口をペダルのように回しながら廊下を行く隣の男は、あれからずいぶんと、柔らかく、美しくなった。磨かれたわけではない。曇り、沈み、積もったものが、角のあった色を和らげる。話続けている東堂に一度相槌を打ってやると調子に乗ってまた肩を叩いた。

「巻ちゃんも来るぞ!つまり、この山神と巻ちゃんとの熾烈な戦いを見れる絶好の機会だ!」
「へぇ、そうですか」
「そうなんだ!楽しみだろう?」
「全然」

だって、私は詳しくない。自転車にも、美にも、恋にも、薄い興味しか向けない。知ろうとしない。続かないのだ、いつの間にか鳴り止んでいた音楽のように。それでもイヤホンを外さないように、惰性でそのままにしている恋を、覚えられない本の内容のような冗長な駄作にしか仕上げられない。東堂とは違う。東堂は認めたのだ。自身に、負けを、熱を、更なる美をもたらした存在を。
乱雑に、引きちぎるように、耳から続くそれを取り除こうと足掻く、私は醜い。


白色沈殿の醜/20140504
No.177 - 2014/06/18(Wed) 22:06:17
Re: / 空夢
いらない?と尋ねる声に目線をやれば、爽やかに笑う伊月がいた。差し出すように向けられた手が何かをつまんでいたので、ちょうだい、と手を出す。もらえるものが何かわかっていないままに。気持ち良く酔っていた意識は少し醒めていた。さっきまでそこ、今伊月のいる隣、にいた子が、トイレに立って、それから席を移動して別のテーブルで男に寄り掛かって笑っているのが見えた。くそだ。手の平に殻のついた豆。もらったピスタチオひとつぶをうまく割れない。伊月が笑う。仄かに照らされる程度の照明でがやがやと話し合う男女の集団に、私は溶け込むようにして座っている。

「酔ってるからだから、これは」
「何のいいわけだよ、それ」

ばればれだった。くつくつと笑っている伊月が愛しかった。まつげが目頭を掠めた。熱い。私は震える指先で、彼にばれないようにこっそりと、かばんにそのひとつぶをしまった。

新入生歓迎会と称したどうしようもないはしゃぎたがりの集いから帰宅する。二次会以降には顔を出さなかった。終電一本前の電車は少し混んでいてヒールがおぼつかない。改札に入る前に、あの、隣に座っていた新入生の女の子がお持ち帰りされるのをばっちり見た。私はかばんを肩から外し手でぷらぷらと揺らしながら、身体全てが電車に揺られるのがしんみりと馴染んで目を瞑った。大海原のブランコを漕ぎながら、水に包まれて大の字になって寝ているような時が、過ぎていく。

鍵を差し込み回し、ガチャリという解錠音を確認するや否や、ものすごい勢いでドアを開けた。身を隠すように部屋に入ってすぐにドアロックを下ろして鍵をかけた。とてもいい気分だ。靴を脱ぐとまどろみの中の恍惚がぐるぐると血中を泳ぎ回る。解錠音なんてひとつも聞こえない。私の身体に鍵のかかった場所など今やどこにも見当たらない、ような錯覚を味わわせてくれるアルコールは偉大なり。倒れるように敷きっぱなしの布団に潜り込めばとても心地いいだろうに、そこまで酔えていない私は洗面台で化粧を落とす。溶け出すアイメイクは普段より少し濃かった。まぶたを撫で回すと、そこに触れた伊月のまつげを思い出して、次いで、その時の自分の行動を思い出した。あ、と声を上げた私の顔が鏡に写っている。まぬけめ。

かばんには、たしかにあの時のピスタチオが収められていた。たったひとつぶの豆を割ることも出来ずに、いいわけがましく触れた唇をなぞったけれど、そこに塗っていたルージュはもう落ちていた。かばんの闇にぼんやりと浮かぶ一点を摘み、ぱきり、と指先に力を込めれば、あっけなくむき出しになった。なんともいえない。

部屋着に着替える気が完全に失せた私は、ひとつぶの豆を握りながら横になった。進学した先に伊月がいて、もちろんそれは示し合わせたものなのに、どっちつかずのまま時だけが過ぎた。とてもつまらないダジャレをかましては残念がられていた高校の頃の伊月は健在で、ますますきれいになっていくのを私は見てきた。関係を言葉で明確にしたことはなく、おそらく向こうも、その気はない。ピスタチオを口に含む。一瞬の塩気だけを残して味はなくなり、私はそれを舌で転がすだけ転がし、吐き出して捨てた。

いかない?という伊月からのメッセージに気づいたのは昼過ぎだった。既読をつけてしまったであろう画面には画像が添付してあって、いつだったか、ちょっといってみたいなぁ、と呟いた展覧会のDMが写っていた。怖くなって、いかない、と急いで返信する。洗濯をしている間に既読がついていて、わかった、と浮かぶ吹き出しが私を余計に煽った。しわだらけになっていた昨日の服が吊るされてベランダで揺れていた。

「今度日向とかと会うんだけど、名前もくる?」
「ううん、リコいるならいくー」

なんてことなく誘いがあってほっとした。リコから既にその件はきいていたし、おいでよ、と言われていたのだけれど、気まずくて保留にしていた。カントクくるよ、と伊月が言うのが面白くて、いいかげんカントク呼びやめなよ、と茶化す。伊月のきれいな黒髪がすごく好きで、私は大袈裟なほど笑った。懐かしい後輩の名前で時間を潰した。伊月の目は時々何かを訴えるように揺らいでいたけれど、見なかったふりをして。

馴染みのある顔触れの中でまるで酔えていない私は、それでも、飲み放題のジントニックをひたすらに口に含んでいた。かつてバスケをしていたメンバーは固まっていて、私はリコと仲が良く時々取材を手伝ったりしていたけれど、賑やかな塊に混ざろうとはどうしても思えなかった。伊月が笑っていた。あと少しだけしたら何かいいわけして帰ろうと考えていたから、隣から声をかけられた時は驚いた。

「名字さん、お疲れですか」

思わず手にしていたグラスを大きく揺らして中身をこぼしてしまった。いつの間にか隣にはかつての後輩がいて、私は彼が少しだけ苦手だった。大きな目。皿に残っていたポテトのかすをつまんで口に運ぶ彼は、零れた液体を一緒に拭いてくれた。口先だけで、すみません、と言う彼に、黒子くん相変わらずだね、と笑った。おしぼりが重く濡れてしまい、それを整えて机に置いたら、彼は小さく微笑んで、お互い様です、とだけ伝えてきた。私がグラスを揺らした時、大きな笑い声のする方に視線を彷徨わせたのを、彼はきっと知っている。

「抜けますか」
「……うん、そろそろ、レポート残ってるし、」
「ああ、いいですよそれ以上は」
「……まいるね、本当に」
「ふふ、僕もそろそろ出ようと思っていたので」

彼はとても深く笑うから、私はその視線を追わないように残っていたジントニックをただ飲んだ。満ちない私と同じ、安物のライムの香りが隣からわずかに漂っていた。似ている、というには彼はあまりに賢かった。馬鹿な私は、はやく立ち上がらないといけない、と意味なく焦っていた。

あの後ふたりで消えるようにいなくなったことを、伊月が問うことはなかった。気づいていたと私は確信している。なのにその話題に触れないから、このままでいいのだ、と言い聞かせるように、今日もくだらない話をした。部屋に帰る前に寄ったコンビニでピスタチオを買ったけれど、いつか食べよう、と食品庫にしまった。飲むと時々揺らぐ彼の目と口は、きちんと誤魔化してから塞ぐから、大丈夫、大丈夫、大丈夫。伊月は今日もきれいだ。私の太ももにするりと触れる手のひらは何も語らない。今はひとつぶだって割れないままでいい、彼の前ではお酒もこぼさない、いいわけの下手な馬鹿でいる甘え。さらさらの黒い髪もまつげも、とてもきれいだ。子供のよう。

ピスタチオグリーンは大人の色/20140623
No.178 - 2014/06/23(Mon) 22:08:47
Re: / 空夢
(200ミリリットルの牛乳パックを見て思い出すのは、小学校のゴミ箱の並び方だった。給食の時間になると大体の子が一番にすることはストローを突き刺すことで、針と大差ないような細長いストローを手に、食事を始める。ぼそぼそとしたパンが私はあまり好きでなくて、牛乳やらスープやらでひたひたにしてから食べていたあの賑やかな時間に、ひとりでもくもくと食事をする子がいた。片付けの時になると、燃えるゴミと燃えないゴミに並べられた箱の前で、パックとストローを綺麗に分別して捨てていた、彼の小さな姿を思い出す。)



御堂筋にとって食事はカロリー摂取に過ぎない。ざわめく昼休みの教室で、紫の包みをつまんで机上に出す。食べることは走ること、自転車に乗るために必要不可欠な行為ではあるため、今日も整った歯で米を噛み締める。緑を少し色づかせてきた木々のみえる窓の外は和らいでいた。異質な存在感を放ちながら食事をする御堂筋にも、二学期となれば、食堂に行かない生徒達はだいぶ慣れていた。同じ教室で名字は友人とおしゃべりに励んでいた。金曜日に日直なんてついていない、ひとつ余計な仕事がある、面倒だ、と嘆く名字をからかい、けたけたと笑い声をあげる友人は、放課後に行く予定のカフェのメニューを諳んじている。名字はそれを聞きながら母親の作った冷凍食品の散りばめられた弁当を口にする。隅に置かれたゴミ箱に男子生徒がパンの袋を捨て教室を後にすることで、少しずつ、空気が流れ、変わっていく。

午後の授業は家庭科であった。名字は欠伸を噛み殺し、食生活におけるデザインの重要性を説明する教師の服を見ていた。安物のシャツと似た色のチョークがカツカツと音を立てて短くなる。前の席の生徒がこくり、と船を漕いだのを見て、名字はたまらず欠伸を漏らした。

「号令やで」

その声にハッとして、れい、と言うとだらだらと皆が頭を下げた。日直は毎時間黒板の清掃をさせられる。家庭科の先生は黒板をきれいにしてから授業を終えてくれるので、日直である名字にとって大助かりだった。うとうとしていた頭はもう元通りで、振り向いた先の御堂筋に礼をいう。御堂筋は無言でこくりと頷くと、数学の教科書を机の中から取り出すのだった。



(バスを待つ。迎えがやってくる方の空はコンクリート色の雲が段を作っていて、誰かが降りてきそうな規則正しい並びをしていた。帰路に着く時に耳から流れるロックがとても格好良くて、私はその歌詞を都合のいいように解釈してきいている。はて、彼が聴いている曲はなんなのだろうか。先ほどから隣にいるのにお互いイヤフォンをしていて会話を交わす気など毛程もない。なんとなく買ったコーヒー牛乳は手にするレジ袋の中で200ミリリットルのパックごとすっかりぬるくなっている。冷たい色の雲を切り裂き大きなシルエットが音を立ててやってきた。バス代はICカードではなくポケットの小銭で払おうと思った。)



日直として最後の仕事、ゴミ捨て、を残し、日誌の提出を終えた名字が教室に戻ると、もう誰もいないだろうと踏んでいたそこには御堂筋がいた。彼が自転車競技部に在籍していることは一学期から有名な噂であったので、名字は僅かに瞠目した。少し強い風が、咳のような音を立てて窓ガラスを揺らしている。体調不良により午後から早退したもう一人の日直のせいでカフェに寄る予定は早々に諦めざるを得なくなり、先程友人にも断りを入れていた名字にはただただ暇なだけの放課後である。しかし部活は正常に行われている。御堂筋は着席したままこちらを見て、人差し指を教室の隅へと向けた。

「ゴミ捨て、代わるで、帰ってええよ」

はたしてこのまま甘えていいものだろうか、そもそも、彼がこのような行為をするとは微塵も思えない、と逡巡している名字をよそに、御堂筋はぼうっと着席している。しなやかな筋肉を潜ませている腕が力なく胴体の両側に垂れている。名字はその腕を教科書で見た阿修羅像の腕に似ていると思った。突然獣の雄叫びのような風が鳴り、弾かれたように、名字は教室の隅へと向かう。ひとつだけ置かれたゴミ箱の中には、教科書とノートが鎮座していた。



(ざらざらの泡立てネットがもう使い物にならないほどボロボロになっていて、それでも新しく買い換える気になれない。ズボラな私がそこそこ一人暮らしを楽しめているのは、金曜日になるとやってくる彼がいるからかもしれない、と逆上せている頭をバスタオルで力強く掻き回した。下着だけ着けて部屋へ戻ると、コップに入ったスポーツドリンクを飲む彼がベッドに腰掛けていた。テレビ画面を指差している。見てみれば私の好きだったバンドが音楽番組に出演していた。一番ハマっていた頃に比べると、やはり少し、いや、かなり、老けたな、と思わざるを得ないメンバーの顔。私も同じ月日を過ごしたのだと、彼の横に座って気付く。)



週末を明けた教室は清々しい雰囲気に包まれている。人のいない二日間で全てをリセットしたような箱庭。名字は直してきたはずの寝癖が元通りになりかけているのを指摘され、ヘアスプレーを持参する友人に泣きついていた。御堂筋が朝練から戻った時にはほぼ全員が自席に着いていて、これから一週間の学業をせめて一番初めの動作くらい揃えてやるか、というような、集団行動の根本が見られた。

お礼に、とあげた飴の袋を友人がゴミ箱へ捨てたのを見て、名字はなんとなく中を確認する。既に幾枚かプリントが捨てられている。今日の日直はゴミ捨てがない。御堂筋は長い手を少しだけ上げるようにして黒板のてっぺんらへんを濃い緑色に戻していた。黒板消しがこすれる時の独特のにおいが御堂筋の鼻先を揺らぐ。まだ一限を終えたばかりだというのに、一面真っ白になった黒板消しを、そのまま戻す。廊下からけたけたと笑う声。自席に戻りだらりと垂らした腕に僅かに白色が飛んでいて御堂筋は眉を顰めた。

「御堂筋、呼ばれとるよ」

ぼんやりと窓の外を眺めていた御堂筋はその声にゆったりと振り向く。女生徒越しの教室のドアに同じ部活に在籍する上級生を確かめた。鞄の中から特別なノートを取り出し、御堂筋は席を立つ。同時に名字には目を合わせず、ぼそりと、先週末告げるべきだった言葉を振り絞った。柄にもないことをしたからか、大きく机を揺らす。中からはみ出した教科書には、かわいらしい花柄のマスキングテープが貼ってあった。

「おおきに」



(コーヒー牛乳を飲んでいたら服を放られた。苦々しげな表情の彼の腕は器用にフライパンを揺らしていて、いいにおいにうっとりした。朝の日差しが差し込むカーテンの向こうはさぞ透明な空気に包まれていることだろう。散らかっていた部屋はある程度綺麗になっていて、彼は自転車選手兼私専用の清掃屋さんだ、と思った。にやける頬にコーヒー牛乳が甘い。朝食の用意ができたことを冷たく告げる声に、うん、と返事をして、私は向かう途中、空のゴミ箱にストローを刺したままのパックを投げ入れた。)

金曜日のはきだめ/20141017
No.181 - 2014/10/16(Thu) 23:58:01
(No Subject) / 空夢
私はね、お前の何かになりたかったんだ。何かって、中身だよ、内臓や繊維や体液だよ、お前の。お前の生きる上で欠かせない何かになりたかったんだ。たとえば、そうだね、胃なんて素敵だ。お前の生命維持に必要不可欠な食べものを、お前の体内に配るために、私がどろどろに溶かしてやるのさ。何もそんなに笑うことはないだろうに、ふふ。なんだい、え、いやだよ、心臓にだけはなりたくないな。可笑しくないか、あんなどくどく五月蝿いものだけは御免だな。あぁ、たしかに、お前にとって大切な器官だろうね。その点ではすばらしいが、しかしね、お前の心臓になってしまったら、それはとても不幸だよ。ふふ、そんな顔をするなよ。お前の心臓として生きるのは、それはさ、お前の死を司るわけだよ。心中?いやだよ、死は、そりゃあいやなものなんだよ。いやもなにもないなんて、ただ必ず訪れるものだ、なんていう人間たちもいるそうだね。それは強がりだよ。弱いままでいいのに、なぜ死をいやがるのは醜いことなんだろうね?悲しむのは美徳にするくせにさ。あぁ、脱線した、ふふ。そもそも、一緒に生きたいわけじゃあないんだ。お前を生かすものになりたいのさ。
ん?あぁ、そうだなぁ、血はいいね、お前の身体中を行き交えて、すごくいいね。人の身体の内ってね、狭くて、深くて。ふふ、そうそう、いい喩えだね。うん、まるで闇みたいだよ。お前の血になって、お前の闇を廻って、心臓に注ぎ込むわけだ。すばらしいね。あはっ、そうか、わからないかぁ、あはは。

心臓は血を送る器官でしかない





大丈夫、まだ眠くないよ、あと五分は保つよ。永遠みたいな五分だ。ああ、見えているよ、とてもきれいだ。え?何、冗談でも世辞でもないよ、きれいだ。うん、見えているよ、何でそんなに疑う?ああ、そんな噂もあったな。大丈夫、お前は人にも認識できる形を持っているよ、見えているよ。俺が確かに人だとしたら、見えるってことさ。本人だもの、信じろよ、もう別の存在だけど。大変だよな。見えづらい存在で不便だったろ。苦労をかけたな、ありがとう。は?醜い?とんでもない、俺はいまだかつてお前ほど美しいものを見たことなんてないよ。もの、うん、お前はものだよ。個だ。集積なんて、そんなわけないよ、そんな不純物なんかじゃないさ。お前はお前として俺を支えていたとも。形なんて、触れてみるまで確かめられないさ。触れたところで何も感じなくても、舐めて味がしたら?あるよ、あると感じていたら、本当にあったんだもんなあ。最期に逢えて嬉しいよ。ん?ああ、感じなかったらそれはそこにないことになるのだろうなあ。でもお前はあるよ、見えているよ。お前は、きれいだ。何だよ、そんな泣きそうになるなよ、溢れてるじゃないか。嬉しい?そう、
よかった、しあわせなお前はよりきれいだ。もっと見ていたいけれど、そろそろかな。次はお前の香りを感じられる世界で逢いたいなぁ。お前が、俺の中身ではない世界で。

瞳はおまえを感じる用途の一つでしかない
No.147 - 2013/01/30(Wed) 22:43:51
あんな指切りをほんとうに信じたって言うのかい / 空夢
 コロシアムの空気は生温い。
嘗て政治のために獰猛な魔物や生気を失った剣奴たちの命が出入りしていた名残のせいか冷たい印象のある土地だが、
西から時々来る風が円形の壁に溜まることで比較的寒い緯度に関係なく肌を舐める大気は柔らかく、しかし決して心地よいものではない。
と、ブロントは内心思っていた。
が、口に出してしまうのは勿体ないという、小さな子どもが好きな食べ物は後でと皿の隅に寄せておくような感覚に遮られていてあえて言葉にしてはいなかった。
共にこの地を踏んだ仲間達は息を詰めている。血の臭いが強いからだろうか。
たかだか血の臭いくらいで不思議なことをするなぁと場にそぐわず呑気な感想を抱いた。
今までだって自らその液体を外気に触れさせてきたくせに、善良な我が軍の皆々様は大好きなケーキを口に含んだら苦かったとでもいうように顔をしかめている。
ブロントは塀に空いた沢山の穴の一つから闘技場の中心部を覗く。
案の定敵軍こと闘技相手の立つ土の上にはたぷたぷとした赤が広がっていた。
乾ききっていないそれをぱしゃぱしゃと踏み締めて定位置に戻るゴブリンの顔には古びた傷が刻まれていて、
ピンクの肉に埋もれる大きな目は開ききった瞳孔をぎらつかせていた。
ごめんなと心の中だけで謝る。行きますか、左後ろから緊張した声をかけてきた鉄の鎧に身を包んだ男にそうだなといって作戦を確認しあう。
敵の数しか知らないためろくな戦術ではないが、作戦なんてものは元々あるようでないものだとブロントは思っている。
結局少したつと自身の殺戮の才能に溺れてしまうのだから。
ざり、と音をたてて一塊になって入場した。風は生温い。

 籠る生臭さが気にならない程感覚を鈍くした鼻を、誰にも聞こえない程度に鳴らした。
強敵とはいえないスライムに手こずった先の戦闘時の自分に少し腹が立っていた。
そしてそれ以上に、相手側にいた、斬りつけた先から敵の回復をこなしてきた銀髪がブロントを苛つかせていた。
胸元につけられたボタンのようなブローチは、自分の軍にいる僧侶とは異教の騎士階級を表すものだと記憶している。
戦闘中その杖の力があまりに小賢しく幾度か本気で斬りかかりたくなった。
そうしなかったのは天使より慈悲深い自分の軍の回復担当がその方は人です仲間ですと無傷でのスカウトを懇願してきたからだ。
異教の友とでもいうのだろうか、一重にテミのお陰である。
にも関わらず、相手の主将の首を貫いたジルバの槍を見やって一息だけつき、
合間見えていたブロントに向かって冷たい視線を送り口を開いてきた男は実に飄々とした態度であった。
余程図太い精神の持ち主らしい。出てきたのは三音で、爪がどうした、と思った。
もう一度人形のように白い唇を動かして、クロウという、金さえ貰えるなら一緒に戦ってやってもいいがどうだ、とご丁寧にも地に刃を突き刺してきた。
それがこのブローチを持つ教えでの契約の作法であり、この剣を次に握る時は貴君と共にあるか貴君を葬る時である、という意味があることをブロントは知っていた。
金による契約。聖騎士といえどこいつの忠誠はテミの信仰とは別方向にあるように感じて、
ブロントは、人それぞれだなぁ、さて斬り殺そう、と柄に手をかけようとした。
しかし次の瞬間脳裏を過ったのは、美味しそう、だった。
好きな食べ物かと問われれば間違いなく首を横に振るだろう。
しかしきっと一口目は食べたことのない味や食感にショックを受けて、美味しいかと問われればその場で縦に振りすぎて首が落ちてしまうような反応をするだろう、と。
地面に転がるピンクの怪物に謝ったのは正解だった。なんて楽しいことを思いついてしまったんだろう。
ブロントは喉を下っていく唾液がやたら甘いと思いながら、ひとまず仲間たちと今後の金の遣り繰りを額を寄せあって考えようと思った。
既に右手は自身の財布を掴んでいた。

 クロウには共に行動したところで根本的な共通意識がまるでなかった。
合理的で利己主義の塊のような男は、それでも契約者であるブロントの命には可能な限り従った。
可能な限り、というのは、例えば今日の薪拾いや食糧調達であり、要対人な仕事、例えば資金集めや情報収集は不可能だった。
加入してから初めて着いた街の酒場で歓迎会と称して飲んだ。
仲間とは親しくしてくれよな、と肩を叩いて酒を酌み交わしたその時見せた笑顔はどうやらアルコールの力だったようで普段はあまり表情が変わらない。
しかしやはり慣れとは凄いもので一月程たつと隊内でも気軽に言葉を交わしていた。
当人がブルースと薪拾いに出た時に、お前らと仲良くやっていけてるようでよかったと心中と真逆の台詞をいうと、
仲間たちはあれでなかなかいい奴だと笑っていた。
しかしその夜番をしていたブロントの元へやって来たリンが、あいつ魔物臭くて厭だといってきた。
ブロントはその言葉に身体中が湧いていたが、外面は極めて大人ぶった態度で諭した。
隊長がそういうならと不服と尊敬とを内混ぜた様子で寝床へ戻っていったリンの後ろ姿を確認して、残されたブロントは先の言葉に身を震わせた。
魔物臭くて厭とはなかなかいい表現だ。
人間臭い身内に比べてクロウやリンなど後から連れになってきた者たちは新しい風味を漂わせていてひどくブロントを興奮させた。
急かすように目の前の焚き火がはぜた。ブロントにはそれが腹の虫の声に聞こえた。

 黒い城の聳え立つ空に剣の弾かれた甲高い音が響いた。
といっても数々の戦闘音に紛れていて気づいたのはきっと傍にいた自分だけであろうとブロントは思った。
首を回せばやはり皆々様は自身の才能を発揮していて毛程も周囲を気にしていない。
唯一攻撃に特化していないかの天使はブルースをつきっきりで介抱していた。
戦場を見回す余裕はないようで自分の軍の者が武器を失って危険な状況に陥っているとは微塵も思っていないようで。人それぞれである。
つまり、銀髪の男が剣を無くし杖を握って少しだけ恐怖と焦燥に駆られているのを知っているのは、やはりブロントだけなのである。
あと少しもすれば胴と違う色の羽を持つ怪鳥が彼の身を引き裂いてしまうだろう。
こちらに向けられた視線は生温い地で寄越された青とは少し違うように感じられた。
あの円形闘技場のような心地よくはない生温さを帯びていた。
救いに来てくれるとどこかで確信しているかのような男の眼差しに、ブロントは自分の相手をしていたコボルトの肩を叩き斬り地へ転がしてからにこりと微笑んだ。
その右手に握られているのは剣の柄である。クロウはどうしたものかわからずしかしまだ生への執着を覗かせていた。
三歩もすれば助けに行けるのだがブロントは動きはしなかった。
先程リンも同じような顔をしていたなぁと思いながらにこにこした表情をしているだけである。
生死の境目に立つ銀髪の男の胸元を見て、自分の胸の丁度同じ位置をとん、と左手で指した。
クロウが口を開いた。が、それを遮るようにブロントは楽しげに声をかけた。
近所の人に挨拶するような優しい声音で、バイバイ価値のない奴隷さん、と。
ブロントは彼を仲間と思ったことはなかった。
いつだったか懐から取り出した財布の金で契約した聖騎士は、まるで同胞になってやってもいいというかのような大層な口をきいてきたが、
ブロントにとってそれはただの買い物でしかなく、ずっと真っ白な皿の隅に残しておいた、初めて食べる料理にすぎなかったのだ。
No.148 - 2013/03/24(Sun) 13:10:10
Re: / 空夢
いつもなにかを描いていて美しいと思えたらそれがいいと思う
そしてかつ、技術はけして「小手先」のものではなく、とても重要なものだと思うし、技術なしに絵画は成立せず、個性ではなく野性なのだと思う
「暗い色の上からマチエールのある明るい色をかさねるのは小手先の技術であって、人を引き付ける、魅せるものにはなりえない」とツイッターで呟いている方がいて、面と向かって私はそうは思いません、なんていえないからここで
私は日本画を志す者として、技術を卑下する発言は信条にそぐわなくて、そうかなぁ、と否定してしまいたくなるのです
すごい、と、すき、は違うものかもしれませんが、すごいものがすごいと思える、そこにプラスする何かは個人が詰めるもので、
すごい、のないすき、は長続きしないし、ずっと描いていることにはつながらないと思うのです
だから、学生の分際で抽象画を描く人の志すところがわからないし、いいな、とおもう抽象画はもちろんありますが、描きたいと思うことは今のところないのです
ガチガチの技巧派を志すわけではないけれど、技巧なくして作品が成り立たない日本画の世界では、小手先の技術というのは充分魅力的で引きつけられるものなのだと声高に叫びたかった…のです…はぁ
No.149 - 2013/04/29(Mon) 01:06:41
Re: / 空夢
今日は朝から飲んで描くだけのよい休日でした、こんな日は滅多にないのでとても気楽でしあわせで、なんで毎日あんなに思い詰めて描いていたのだろう、とすら思えてしまいました
馬鹿らしい性癖への悩みも尽きることがなく悶々としている毎日なのに、絵を描いている時のような、意識がすべてそこへ集中していく、そぎ落とされていく感覚みたいなものが、本当にとても幸せで、自分の毎日というのはとても充実しているのではないか、堕落していると思っていた行いの全ては毎日向き合って描いているP20パネルに終息しているのではないか、そうすると私の充実している毎日のすべてである絵がつまらないものなのは、私がつまらないものだからで、それはなんて贅沢なんだろう、という、無理やりな考えに持って行ってくれるアルコールに感謝です
美しくありたいとは思わないし思えないほど醜いけれど、美しくあらせたいと他者・他世界に影響しておきたいと思えることもなくなり、私は多分今、全てのつながりが切りたいと思っているのかもしれません
現実でも、ネットでも、居場所がいらないと思えてしかたがなく、私は、毎日のパネルに詰め込まれる私の全てに、つまらなさ・不変性・普遍性を感じ、就寝したいと思う
たぶん、病院に一度ちゃんと行った方がいいのだろうけれど、そんな時間や特殊な日を設けたいと思わなくて、毎日絵を描くだけ、目標に向かうだけに、エネルギーを向けているのです
しにたいとすら思わない、ただ、描きたい、です
No.150 - 2013/05/19(Sun) 17:08:00
Re: / 空夢
描くのが楽しすぎてつらいです
とてもとても下手だから、いつまでも描いていたいです
うまくなっても、まだ下手で、ずっと描くことで、しあわせを積み重ねていきたいし、もっと上を、ってなりますね
どこかうまくなればどこか下手になる、総合的に全然下手、でも、少しでも自分の中の高みに登って行ければしあわせで、本当に、ただ描きたい
好きです
不特定多数に見せることもなくても高みへはゆけます
高みは他者に認識された自分で作られる
自分のなりたいもの、認められたいもの、たくさんあって、ネットにそぐわないことだけれど
二次創作は趣味、趣味だから楽しく、ネットで遊ぶことがとても合っているけれど、創作は、全部だから、ネットに全部を載せられないな、と
No.151 - 2013/06/03(Mon) 22:12:47
Re: / 空夢
神様がいるなら、きっと私の手が出せない、けれど私を生かしてくれるところにいるといいな、と思います
いつだって私の届かない場所にいてほしい
おなかを裂いて引きずり出さなければ周りの世界に触れることもないような世間知らずの神様がいるならば、それは馬鹿らしくて愛おしいな、と思います
今がいちばん生きていて、CENSORED
そんな生活がつらくて、つらいことはしあわせで、私は今、描くのが、つらくてしあわせで生きたまま死ぬためのものになりそうで
頭いたくなってきました
いつだって向き合うたびにぼやけてしまうものです
遠くから見た山の方が美しいだなんてそんなことはわかりきっているのにね
踏み込んだ世界は、ゴミもあれば木々一本一本はとても貧相で、中にはのびのび育つものもあって、でもそういうものの下には死体が埋まっていて、とてもめんどうで、愛しいです
頭痛い
No.152 - 2013/06/21(Fri) 21:47:15
Re: / 空夢
レズなのかどうか相談をされるバイってどうなの
きもちわるくないの
No.153 - 2013/07/19(Fri) 21:36:49
Re: / 空夢
毎日を生きるために全てを捧げる意志なんて持っていないし、それでも日々の中で全てを費やしてでも極めたいと思えるような節々の出来事はあって、でもそこに費やすことはできない、全てをひとつひとつに分けられない甘え
幸せそうな人を心から祝福するとともにああこれ以上の幸せを望んでいくのかという気持ちになってしまって引く
No.154 - 2013/09/05(Thu) 11:26:14
Re: / 空夢
いいこでいよういたいと思っていたから(本当に親しい人とはいろいろな感情をぶつけてきたけど)初対面の人に突きつけられた嫌悪にうまく対処できないところや、年上の方に甘えられることに違和感を覚えるところ、自分の卑屈になる部分や気持ち悪い性癖、数々の溜めこんだ気持ちのやり場に、気づかされる九月
No.155 - 2013/09/22(Sun) 23:49:06
こっそり移転 / 空夢
ttp://nanos.jp/antrs/

文字サイトになってます、sam名義でこそこそと携帯で書いてます。
こちらと変わらずろくなものはありませんが、近々リンクを張り直す予定です。
No.139 - 2012/01/30(Mon) 19:17:26
移転先 / 空夢
元気です!
No.140 - 2012/04/16(Mon) 03:09:21
ここのねた / 空夢
このメモ帳気に入ってるんですが全部移動させるのめんどくさくて惰性でこんなことになってて
うーん
携帯サイトの方は気軽に更新したいのに文字打ちというか変換がなかったりでつらいですねー
No.141 - 2012/05/06(Sun) 23:51:23
うーん / 空夢
惰性つづきでござる!
メタボに悩むジルバさんかきたい〜〜〜
No.142 - 2012/06/17(Sun) 01:45:14
あつい / 空夢
たとえば、私がしぬほど美しいものだとしたら
それはとてもおそろしいことだろうと思うのですが
魔王様が美しいものであることに関しては
とてもとてもすばらしいことに感じます
他者に、それでいて自身に影響を与える部分に美を求める
そしてそれを取り除くことに喜びを見出すわけです
No.143 - 2012/08/05(Sun) 16:39:49
つらい / 空夢
ひとの鎖骨は天と地を横切り十字架になるの、という言葉を誰か使ってください
No.144 - 2012/09/26(Wed) 20:14:55
Re: こっそり移転 / 空夢
かみさまの声を聞く魔王様のまんが
No.145 - 2012/10/26(Fri) 23:09:41
Re: こっそり移転 / 空夢
私が追い求めているのは誠実や美しさではなく
ましてや退廃や寂寥感でもなく
ただ依存、それだけなのだと思います
絆は依存、自身にも依存していて、他者に対する依存が精神に根付く
茂るものはどんな形をしていても皆くそみたいな矮小さを伴うわけです
No.146 - 2013/01/12(Sat) 20:27:02
次の絵本のネタ / 空夢
張り巡らされた電線を
軽やかにお散歩
子どもたちの特権です

大人は重くて落っこちちゃうから
アスファルトの地面に這いつくばって
お仕事、お仕事

黒い翼がかっこいいからすさんが
大親友なんですぼくらの

夕方のチャイムまでには
ただいまっていうよ

それまでは子どもたちの特権です
それまでは
空は子どもたちの遊び場です




薄暗くなった三日月に
やさしく添い寝
大人たちの特権です

子どもは軽くて浮かんでしまうので
ファンタジックな夢の中で遊んで
おやすみ、おやすみ

真っ白な肌が美しい怪物が
恋人なのです私の

朝焼けのコーヒーと共に
おはようというよ

それまでは大人たちの特権です
それまでは
空は大人たちの遊び場です
No.131 - 2011/07/04(Mon) 01:59:52
Re: 次の絵本のネタ / 空夢
ときどき吹く風の生ぬるさとしばしばひく風邪の気だるさと

排ガスだらけで霞がかった街に鋭く美しく響くカラスの声(肥えすぎたホモ・サピエンスたちは列を成してシマウマの道を行進する)

洗濯物と称して叩かれるちいさなこどもの真っ赤なおしり
No.132 - 2011/07/04(Mon) 02:01:44
まんが / 空夢
おきつねさまのはなし

あぶないよる

ありのように

けだるさとたいおんのはざま
No.133 - 2011/08/06(Sat) 22:06:40
まんが / 空夢
ガーゴイルと魔王のふくろうのおはなし
ガンダイルかっこいいおじいちゃんな迫害もの
みずとおととにおいのおはなし
しょうどうとかっとうのブルトバルトのおはなし
銀狼と病気のおはなし
リンとクロウの相容れない関係

ジムリーダー全員レッドさんと
したい描き直し
ダイゴさんのいしとはがねとせかいのはて
デンジとヒカリとこどものじょうねつ
まくらもとのあかいほのお
とかいのむれとM2さまとコピー機
アルセウスとミュウうむのはどちら
No.134 - 2011/08/25(Thu) 00:11:11
めも / 空夢
ワイ.ルドフ.ラワー
No.135 - 2011/11/11(Fri) 22:37:08
もじめも / 空夢
移動予定です、というか…うーん
なくすかもしれません(´〜`;悩み中です
私の文才のなさはちょっと常軌を逸している
No.137 - 2011/12/22(Thu) 23:37:36
もしもサイト五万打したら描くよ! / 空夢
1.) Emetophilia:エメトフィリア(嘔吐嗜好)
2.) Necrophilia:ネクロフィリア(死体フェチ)
3.) Agalmatophilia:アガルマトフィリア(人形フェチ)
4.) Exhibitionism:エキシビジョニズム(露出狂)
5.) Formicophilia:フォミコフィリア(昆虫性愛)
6.) Lactaphilia:ラクタフィリア(母乳嗜好)
7.) Menophilia:メノフィリア(生理血嗜好)
8.) Vorarephilia:ボレアフィリア(食うか食われるかの殺戮フェチ)
9.) Symphorphilia:シンフォフィリア(大規模自然災害フェチ)
10.) Autonepiophilia:オートネピフィリア(赤ちゃんなりきり嗜好)

完全に俺得
No.138 - 2012/01/09(Mon) 23:18:21
(No Subject) / 空夢
やさしい声につられるままに
辿り着いた坂道を
ひたすら昇りつめたけれど
一体頂上に何があるというの

くるしい思いばかりしていて
もう無理だと坂道の
四分目くらいで倒れたの
言葉を探して声をあげたの

もう嫌だと泣き叫んだ猿は
月を見上げて何思う?
届くと思って挙げた前足は
「先生わかりません」としかいえないの

みえない道を足踏みするの
居眠りした教室で
あてられなかった問題は
答えだけきいて忘れたの

うっすら青い窓の外側
軌道にのれない衛星が
受信した信号を抱えて
言葉もわからず返事をするの

もういいやと手を広げた猿は
水面見下げて何思う?
八分目くらいにある耳も
「先生しにたいの」としかきけないの

頂上にも星空にも答えなんてなかった
問題だってきっと
辞書で引ける言葉なんかじゃ
作れないの 紡げないの

もういいかと問いかける声は
私を見つめて何思う?
白紙に名前を書いて
「先生おしえてよ」とだけささやくの

口を閉じて目を開けても
やさしい声がきこえない
No.125 - 2011/01/30(Sun) 13:10:47
ポケモン本出すとしたら / 空夢
はじめての本はサカキさんとレッドさんのおはなし、ってずっと前から心に決めています。
すすめない赤と、境界のサカキ。神様にささげられる木は信号機の前に佇むボーダー柄の横断歩道に植えられる。
しあわせな、せつない本にしたいな、と夢のように考えています…おい…いつ出せるの…なかんじなんですがああああずっとおおお考えているんですううう
それから赤金とかアンノーンと古代のポケ人間関係とかユウキくん実は泳げないのにって話とかダイパ絡みのレッドさんの話とかミュウとレッドさんの関係についてぐだぐだしてるのとか考えるだけ考えているのです…
ポケモン嫌いなレッドさんのお話は本じゃなくて更新用にまとめてるんですがうわあんまとまらないし本家の設定と合わない!ボツ!ってなりかけてますうわぁテスト前だろ私…
なによりも画力が追いつかないんですけどね!卑屈にうつになってくるくらいにね!
15周年おめでとおおおおお同じくらいの実力差だったライバルとの関係がとても楽しかった初代、本当に本当にすきです!!!!!!
No.126 - 2011/02/27(Sun) 21:34:45
いま / 空夢
おしろをつくろう
だれにもこわされない
やさしい檻を
No.127 - 2011/03/18(Fri) 19:24:34
(No Subject) / 空夢
やさしいうそはかみさまがつくもので
ざんこくなほんとはようせいがはこぶのよ
しってた?

そんなうそつきなわたしに
かみさまはばつをあたえなかった
ようせいのままのわたしは
はねをすこしだけなくしただけで
またざんこくなほんとをさがすの

ゆうやみのおとずれを
かみさまのあらわれとあなたはいうけれど
わたしにとってそれは
たいようがしずみ
やみにほしがひかるということで
ほんとのやみは
きっとほしたちにまもられていると
おもっているのだけれど
しらなかったでしょ?

だからきっとあなたのかみさまは
ほしのようなあなたたちにいろどられながら
えいえんのうそをつらぬかなければならない
やさしいうそはざんこくなほんとだと
あなたは
しっていた
No.128 - 2011/04/02(Sat) 00:13:26
Re: / 空夢
雨の降る都会は海のにおいがする

熱帯魚のような色の傘が咲き乱れる中で

人は
溺れるように

深海を目指して進むのだ

潤いをなくした尾びれに纏うのは
脂肪という名の粘ついた膜

いつか焼かれて
貴方に食べられてしまうその身を守るように
虚しく漂いながら

深海にはまだたどりつけない

白黒つけられた海を泳げば
優しい波が押し寄せてその身をさらうだろう

この星が呼吸をやめないかぎり
ざわつく潮騒は鳴り響き

貴方とこの身は波間で揺られながら
穏やかな寝息をたてはじめる

揺れる揺れる
都会の海に

迷子たちはくるくる傘を広げながら

雨上がりの地上を想うのだ
No.129 - 2011/06/04(Sat) 12:30:58
移転前ブログに書いてたネタ設定コピペ / 空夢
エーフィとラプラス(レッド手持ち)についてぐだっと考えてたことをいったんぐだっと吐き出してみると

イーブイ進化系列からあえてのエスパータイプを選んだことが個人的にすごいもわっとする。
ずかん説明を見る限り相手の行動を予測(または予知)するわけで、さらにRSEでは認めたトレーナーには忠実なポケモンとして描かれるわけですよね。
イーブイがなつき度進化したポケモンとしてなのだと思うけどRSEのずかんは個人的にすごく気になってて、
イーブイをマンションで手にしてから人間(レッド)がポケモン(イーブイ)を守る側から守られる(シロガネやま云々)側になったっていうまんがやら
シロガネやまでゴールドの行動を予知してた〜っていうまんがやらを少し描いてみたかった時期が私にもありました・・
結局やっぱり私のポケモンすきな理由の「ポケモンと人間の共存!(キリッ」が邪魔してそう割り切れるもんでもねーなと思ってボツにしたんですが、
エスパータイプかぁふんふんなんて思ってぐだぐだして た  ら!
HGSSでのレッドさんの手持ちにラプラスが入ったと聞いてぶわっとなりまして。
ずかんもゲット方法もすきですラプラスかわいい。初代アニメでラプラスが出たところうろ覚えですがやっぱ見直したいです。
ポケモンとテレパシーでおしゃべり!って幼いなりの憧れを抱いた記憶が。
人の言葉を理解する・人間によって絶滅寸前(それなのに人間やポケモンを乗せ海を渡るのがすき)っていうだけでかなり描きたいな〜と思っているまんががあるのですが画力不足によってあっけなくボツ・・でもいつか描きたいです。
手持ちになったとなると余計膨らむ妄想は、シルフカンパニーでもらったラプラス(持ち主レッド)のもとにつながりのどうくつにいるラプラスの声は届いていたのか(RSEずかん)ってところですかね。あとやっぱ人語理解らへんにポケモンとレッドの心の通わせ方に変化があったのかな〜なんてのも。
基本レッドさんは言葉でのポケモンとのつながりはそこまで求めていないイメージ(無口ネタとか)があるのでHGSSでの手持ちチェンジに心が躍ったのでした。
個人的に二匹の共通点はエスパータイプとか人語理解とかによって他の持ちポケと違ってレッドさんと何かしらの形でつながりが持てるってところだなぁと思ってます。
もっとぐだくだしてたいけどまとまらないのでここで。
No.123 - 2011/01/17(Mon) 22:19:18
Re: 移転前ブログに書いてたネタ設定コピペ / 空夢
ルファにとってブロントは眩しすぎるくらいの存在で、いっそCENSOREDしまいたいくらいあれというあれです・・
真っ暗なジャングルで戦っていたルファにすれば、戦いをやめるきっかけにもなったブロントの、存在も金髪も何もかも壊したいほどいとおしいといいなという。過剰な愛情、狂気みたいなのをジャングル組に求める私の悪い癖です・・ちょっと宗教というか信仰というか、そうした考え方が根本にあるといいなみたいな。
普通にへんたいで喉もと食い尽くすくらいキスしたい、触れて穢してしまいたい、翼をはぎとって地に落としたい、そんなかんじのルファの欲望を理解していながら、自分はいらないから喉もと噛み千切ってCENSOREDくれ、二度と落ちない染みを残してくれ、蝋で出来た翼を笑ってくれ、そんなことを思いながら彼に微笑みかけ利用するブロントみたいな そんなルブロがすきです。
ル→→→ブロがおいしいです。細かいとル→→→│壁│ブロとかル→→→←ブロとか・・とにかくルファが重いのがすきです。
屈折してるルファの愛情表現がすき
No.124 - 2011/01/17(Mon) 22:22:31
個人的に / 空夢
マゼンダは魔女じゃなくて魔法使いだから萌えるんだよねってコトネ
小説続き書きたいな〜〜〜ああ〜〜もう
No.130 - 2011/06/06(Mon) 01:15:00
まんがとかイラストネタ 次回更新したいもの / 空夢
・マサラは胎内のイメージ。四角い小さな空間からつながる一本の道とか下にある海(水)とかがなんとなくへその尾や破水っぽい。自分でも無理やりすぎるとは思う。

・赤と緑っていわれて個人的にかっこいいと思うものは信号機。とまれとすすめ。モノクロドットと歩道の白黒。

・ブロントは地面に足がついていない浮ついた足取りで闇の精は地面に沈んでしまっていたりとけ込んでしまっていたりするイメージ。

・闇の精はモンスターやステージの地形に囲まれている。許容か拒絶か。ギャラックが囲いから出てこないこと。

・鏡の泉のブロント(うらブロント)は本物のブロントと自分の存在の関係に悩んでいる。別個の存在でありたいけどそうでないんだろうなと漠然と思っている。自分も闇の精を救いたいと思っているから。

・鳥の巣のガーゴイルたちは知恵を持つことから闇の精からの信頼か迫害かを感じる。なんとなく飛べない鳥ってところから迫害のイメージのほうが強い。
No.115 - 2010/08/08(Sun) 01:26:32
らくがき率の高いCP / 空夢
ルファ→→→ブロント
ブロマゼ ブルテミ
ルファ→→→←ミドリ
クロ→リン

いいかげんクロリンはなにかしら描きたいのですがやっぱり思うように表現できないくらいすきすぎる
ギャラ魔まんがですけどまとまらないしオチがない 主従おいしいです
No.117 - 2010/09/21(Tue) 00:31:02
ギャラ魔 / 空夢
主従っていう大きなかたまりの中で恋人・親子・他人・友達っていう関係をつむいでる関係が理想。
ギャラックは魔様のことを親のような存在で大切な主でありながら惹かれて仕方ないと思ってて、その葛藤っていうか恋っていうかに気づかないふりをし続けていてほしい。
辛いことばかりしなければいけない城からの逃げ場としてコロシアムでたった一人魔様が気を緩めて涙を流すのを待つような忠実な僕であってほしい。
魔様はギャラックのことを一人の部下として扱いながらも自分をただ信じ守ろうとする姿に特別な気持ちを抱きつつあって、それをうまく信じきれずにいてほしい。
ただ漠然と頼っていて、ギャラックの存在を失ってはじめて自分の逃げられる場所はコロシアムにしかなかったということを知るような、魔様の中でも大切な部分であってほしい。
ブロントに対する感情よりもギャラックにはあたたかい家族としてのぬくもりを感じていてほしい。

なんかこのふたりのことを考えるとぬるーいお湯に浸かっているような妙な感覚になるのでいいです´▽`*
No.118 - 2010/10/24(Sun) 00:40:27
ギャラ魔まんが のはすがクロウでしゃばりすぎ / 空夢
遠回復の杖→自分は回復できない・遠くの仲間を回復とかから、クロウの自分や仲間への感情みたいのを少し含んでみたらページがまた増えたっていう・・わからない・・もうよくわからないクロウ・・
家族・熱・いきもの・種族・涙なんかもちょっと含みつつやっぱりギャラ魔の絆でしめられるといいんだけどなんか感情的なクロウとか変態なギャラックとかツンデレな魔様とか微妙に配置してるせいか「なにがいいたい!」ってかんじ
うおあああがんばる

あとカイコとかムカデとかすごく描きたいんだけど虫は駄目な人が多い分野だから自重です
繭に包まれた魔様描きたいうおあああ

氷・炎・雷でできた塔に座るレッドさん描きたい三鳥描きたい
尊敬している某文字書きさんのフリーザーとレッドのお話がいまだにこびりついててすごくどきどきする
かっこいいポケモンとレッドさんのつながりはやっぱり燃えるし萌えるうおあああ

テスト前です
No.119 - 2010/11/29(Mon) 00:06:52
ギャラ魔まんがとか近況とか描きたいものとかいろいろ / 空夢
鏡の泉まんがの「いきもの」の定義とかを話してるギャラ魔のシーンや、遠回復うんぬんやらクロウの家族うんぬんをいれられなかったので、また別のときに持ち越しにしてしまおうかと
いちおう12月のはじめに描き終わってはいるのですが、29ページ?ほぼ30じゃねーかみたいなページ数で、あと更新分のイラストとかもあってなかなかスキャンできないっていう

テンミリまんがを更新するときはそれに関係してそうなイラストも更新したいっていうのでやってきてたんですが、今回はなんかメインがそんなにかっこよくないからか難しいですうぬぬ

ポケモンはまだなんにもしてないですがリクエストの方を終わらせたいと思ってます
なんかいろんな人がPixivでぴくホグに参加されててうわぁいいなぁと思って眺めているかんじですPixiv怖い

テンミリ極道パロは相変わらずらくがきがたのしいです
ティマゼスキーいませんかね ティマゼかわいいよ・・

十二国記がアツいです
No.120 - 2010/12/30(Thu) 16:50:25
めもも / 空夢
ティンク善悪ゴーン
ひろわれオグアリンの自己嫌悪
No.121 - 2011/01/06(Thu) 19:05:22
めもも / 空夢
ルミド楽園追放
まさまディオクレティアヌス
こうていしんせいなくんしゅしんかくか
宮殿のち教会
じぐんカタコンベ礼拝
しゅうきょうせんそう
No.122 - 2011/01/16(Sun) 20:24:31
以下のフォームに記事No.と投稿時のパスワードを入力すれば
投稿後に記事の編集や削除が行えます。
80/200件 [ ページ : << 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 >> ]

- HOME - お知らせ(3/8) - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - メール - 環境設定 -

Rocket Board Type-LL (Free) Rocket BBS