#136 初夜と蓮根
浅草・田原町のステージ円で演劇集団円公演『初夜と蓮根』(作/土田英生、演出/内藤裕子、出演/金田明夫他)を観ました。

この舞台に登場する家は、サラリーマンの父、専業主婦の母、病院で事務をしている長女、ひきこもり気味で働く気のない長男の4人家族だ。

長女の結婚が決まり、それを機にリフォームしたばかり家。娘の結婚を1ヶ月後に控えた日曜日、久しぶりに4人が揃って昼食を取ろうとしている。食事中に言った長女の一言が、この家族に、夫婦に波風を立てる。

実は、長女も長男も養子なのだ。二人の子どもは実の姉弟で、養護施設から二人一緒に、この夫婦に貰われてきたのだ。

夫婦はそのことを、結婚前に長女に伝えようとするが、二人の子どもたちはかなり前から知っていたのだ。娘は両親にとても感謝しているし、今さら実の両親に会いたいという気もないと言う。しかし、娘は家にもよく来る父の会社の後輩の人から聞いた一言が気になっていたのだ。

娘は思いきって両親に聞いてみたのだ。慌てて取り繕い、しまいには怒りだす父、黙ってしまう母、呆然とする弟…。

リフォームされたばかりの家のリビングダイニングで繰り広げられる家族の人間模様。家族それぞれが抱える悩みや問題が、家族ぐるみでの付き合いの父親の会社の後輩の登場や、近所でのワイセツ事件を通して、浮かび上がってくる。一見幸せそうに見える家族だが、実は、その家族の中に隠された事実があり、事実が明かになったときに、一度家族の絆は壊されるが、事実に目をそらさずに向き合ったときに、本当の家族の絆が作られる、という芝居でした。

一見幸せそうに見える家族、だがどんな家族にも何らかの悩みや問題を抱えている。他人から見れば、馬鹿馬鹿しい悩みや問題でも、本人にとっては深刻な問題だ。しかし、目の前を通りすぎていく日常の中で、心の奥に悩みや問題を抱えていても、意外と普通に幸せに生きていけるのかもしれない。悩みや問題に面と向きわなくても、日常生活は送れるのだ。もしかしたら、一見幸せそうに見える日常の積み重ねが、悩みや問題を深刻化させ、解決を遅らせるのかもしれない。

目を背けてさえいれば、たとえ自分の気持ちを誤魔化したとしても、端から見れば幸せそうな生活が送れるのだ。

一見幸せそうな生活を、悩みや問題を抱えながら生きるのか、それとも、悩みや問題に正面から立ち向かって生きるのか、「to be or not to be」 それがこの舞台のテーマなのだ。

問題を解決するためには、悩みや問題に正面から立ち向かうことは、一見幸せそうに見える今の日常生活を壊すことになるかもしれない。それでも、今の日常を壊したとしても、再び作り上げていく人生は、そして家族は、本当の幸せにたどり着くのではないだろうか、そんなことを感じさせてくれた舞台でした。

テレビでおなしみの金田明夫を含む魅力的なキャスティング、とてもいいアンサンブルの舞台でした。その中で特にいいと思ったのは、長男役の佐藤銀平さんで、この舞台の中でキーポイントとなる、難しい長男役を見事に演じていました。もう一人は、母親役の磯西真喜さんで、その演技は説明を必要としない説得力があり、この家族のドラマのキーパーソンでした。

個人的に知り合いの吉田久美さんは、佐藤銀平さん演じる長男の友人役で、コスプレのモデルをしていましたが、とっても可愛い女の子を演じていました。ますます注目です。
2009/05/21(Thu)17:09:31

#135 きらめく星座
初演は1985年。昭和庶民三部作の第一弾の作品だ。作者の井上ひさしさん自身が演出した。そのときに演出助手を務めたのが、今回の舞台を演出した栗山民也さんだ。この作品の演出は、初演の井上ひさしさん、再演からは地人会の木村光一さんに、そして今回の栗山民也さんにバトンタッチされた。

浅草のレコード店オデオン堂。4人の家族と2人の間借人が仲良く暮らす小さなレコード店を舞台に、太平洋戦争直前の昭和15年からの約1年間が描かれている。

ジャズがかった音楽好きの人たちが暮らすオデオン堂に、大事件が起きる。陸軍に入隊した長男の昭一が脱走したのだ。すぐに追手として、憲兵伍長の権藤がオデオン堂に乗り込んでくる。また、多くの傷痍軍人と文通をしていた長女のみさをは、「ハガキの束から選んだ」源次郎と結婚する。源次郎はかなりの愛国主義者で、明るく音楽を愛するオデオン堂の家族に、何かにつけて自分の主義を押し付けてくる…。

音楽を愛し明るく暮らすオデオン堂の家族たちに押し寄せてくる時代の波、軍靴の足音が日増しに高まる日々の生活。時代に根ざす問題を、庶民の日常からするどく見つめる井上ひさしさんの傑作だと思う。

四季の星々がちりばめられた舞台から、素晴らしいせりふが響いてくる。『男が幸せになれない時代に、どうして女が幸せになれるの』『人間の存在そのものが奇跡の連続の結果なのです』

終幕、とうとうオデオン堂は閉店し、家族はバラバラになるので、最後の晩餐がおこなわれる。居間の日めくりカレンダーは12月7日だ。翌日の早朝にハワイ真珠湾攻撃が行われ、太平洋戦争が開戦することを思うと、涙が出てきた。

とてもいい芝居なので、一人でも多くの人に観てほしい作品だ。
2009/05/21(Thu)17:08:21

#134 統一エクスプレス
朝鮮半島を南北に分断する軍事境界線の近くにある粗末な居酒屋。店主は、南北統一を夢見て北から越えてきた娘をアシスタントにして、越北、越南する人たちから金を受け取って商売にしている。統一を夢見て統一のために越北、越南する人たちの手助けを生業としているが、実際に、南北統一の第一歩として、南北が自由に行き来できるようになると、彼らは廃業に追い込まれてしまいます。現代版「肝っ玉お母〜」のような芝居ですが、その後の展開は非常に風刺的です。

居酒屋の近くに、南北を自由に行き来できる所ができ、国中から人々が集まります。そして、今までにこの居酒屋を使って越北した人たちも集まってきます。今までのほうが良かったと。「統一反対」で盛り上がるところに、北の故郷に帰り死にたいと、50年も待ち望んだ一人の老人が、非合法でもいいからと居酒屋にやってきます。南北を自由に行き来できる所は、実際には身元から役職、そして健康状態まで、かなり面倒な手続きをしないと、越南、越北できないことがわかりまず。越北させようとしますが、老人は、北への入口を目の前にして無念の死を遂げてしまいます。それぞれの思惑で活気づく居酒屋の店主と集まってきた人間たちと老人の死、そして老人に寄り添う娘。舞台はそこで終わります。

いろいろなことを示唆している作品でした。かなり笑える舞台でその中に人間の持つ欲望、国のあり方、夢などがちりばめられた舞台でした。初日だったせいか、客席はあまり笑いませんでしたが、公演が進んで、全体的にこなれてくると、もっと笑いがあると思います。

俳優では、店主を演じる荒川さん、娘を演じる鬼頭さん、国の統一庁の役人を演じる櫻井さん、北の要員を演じる中村さんが良かったと思います。

鬼頭さんの歌声はとてもかわいい歌声でした。
2009/05/21(Thu)17:06:19

#133 親の顔が見たい
劇団昴公演『親の顔が見たい』を新宿シアターサンモールで観劇しました。

この作品は昨年2月に新宿シアタートップスで初演されたが、その時も観ていました。

初演と同じ、渡辺源四郎商店というユニークな劇団名の座付作者の畑澤聖悟さんの作品を、青年座の演出家の黒岩亮さんが演出した。

やはりいい芝居でした。初演以上に完成度の高い深く普遍的なテーマを持つ舞台へと進化していました。初演ではかなりいい芝居でしたが、何とも言えない後味の悪さがありました。中学校でのいじめ、女生徒の自殺、残された手紙、いじめた子たちの気持ちの揺れ、エゴイスティックな親たちの言動と隠蔽、責任回避の学校の姿勢、事実の確認と衝撃、真実の追及…、しかしこれからも生きていくためには…、初演以上に特徴的に後味の悪さがありました。しかし、この後味の悪さがなければ、この作品は完成されないと思いました。

今回は、舞台が前回よりも広く大きくなり、そのことで視覚的にもわかりやすくなり、また演出的にも俳優の演技でも、舞台がより深く充実した感じがしました。ドラマでは、親たちの自分勝手な論理展開、隠蔽体質が溺愛する子どもに向けたものだけではなく、無意識の自己保身にもつながっていることに今回は気づかされました。エゴイスティックな親たちというよりも彼らを通して、自分勝手な論理を振り回し、他人の痛みに気づかないふりをする日本人像が迫ってきました。

初演以上の舞台成果は、〈劇団〉の持つ継続性と連帯感が作り出す素晴らしさ、だと思いました。
2009/05/21(Thu)17:02:36

#132 朗読劇「春子」&「かくて新年は」
劇団文学座有志による自主企画「八十八の会」の公演、朗読劇『春子』と『かくて新年は』を、劇団文学座に新しく出来た「新モリヤビル」で観ました。

この公演の初日(4月4日)が、杉村春子さんの13回忌の祥月命日だったことは知っていました。

朗読劇『春子』は、杉村春子さんの広島での生いたちから思春期までを描いた作品で、吉野政弘さん・山本道子さん・清水馨さんの3人が朗読で演じました。3人とも絶品に良かったです。

台詞が明瞭なのは、文学座の俳優に共通するものですが、言葉がとても聞きとり易く、台詞から情景を思い描くことができ、とても分かりやすい朗読劇で、とてもいい舞台でした。

『かくて新年は』は、以前、新国立劇場でも上演されていますが、私は初めて観る芝居でした。

最初の2〜30分は、全体的にしっとりとした感じのある舞台で、俳優さんたちもキレのある演技をしていましたが、それでも「今、どうしてこの作品なの?」と感じていました。しかし、芝居全体が会社のこと、家族のことに展開していくと、それぞれの登場人物の表情、役の性格などか見えてきて、人間というものの奥深さを感じることが出来ました。とてもいい舞台でした。

俳優では、ベテランの林さん、藤堂さんは別にして、若松泰弘さん、山崎美貴さん、山谷典子さんが良かったです。その中でも若松さんは非常に良かったと思いました。

2本立てで、2本とも良かったので、とっても幸せでした。
2009/05/21(Thu)17:01:36

#131 川を越えて、森を抜けて
加藤健一事務所公演『川を越えて森を抜けて』を観ました。

ます、登場するおじいちゃんおばあちゃんたちが、「人間って何て愛おしいんだろう」と感じました。舞台は、アメリカのニュージャージー州の小さな町に暮らすイタリア系の家族の心温まる物語です。家族の絆や思いやりの心をあたたかく描いた素敵な芝居でした。

ニュージャージー州の小さな町に住むフランクとアイーダの夫婦。近くには娘の夫の両親ヌンツィオとエンマの家があり、孫のニックもバスでやって来るが、やはり近くに住んでいる。毎週日曜日にはみんなで一緒にディナーを囲む仲のいいイタリア系の家族だ。

ある日、日曜日を待たずにニックが大事な話があると言ってやって来る。仕事の都合で東海岸のシアトルに引っ越すことになってしまったのだ。(ちなみにニュージャージー州は西海岸で、ニューヨークが近い)

突然の報告に驚く祖父母たち。ニックの引っ越しを認めたくない祖父母たちは、ニックのシアトル行きを中止させるために、お見合い計画を思いつく。

数日後の日曜日、いつものようにディナーにやって来たニックは、エンマの知り合いの若い女性のケイトリンを紹介される。

お見合いに気がつくニックが、ケイトリンにいろいろと説明をしたり、話を進めようとする祖父母たちに必死になって反抗するが、ディナーの後で、発作で倒れてしまう。

それから数日間、ニックはフランクの家で静養のためにゆっくりと過ごす。そこでニックは、今までに見たことのないような祖父母たちの姿を見る…。

舞台は、ニックの母方の祖父母のフランクとアイーダの家の居間。フランクを加藤健一さん、アイーダを竹下景子さんが演じた。父方の祖父母のヌンツィオとエンマは、有福正志さんと一柳みるさんが演じた。この4人の祖父母が、何とも愛おしく素敵な存在だ。頑固で世話好きな人たちだが、家族を想い、何より夫婦それぞれがお互いを大事にし、長い年月を共に暮らしてきた信頼感が舞台から伝わってくる。その中でも、何かにつけて食べ物を勧める、料理上手のアイーダを演じた竹下景子さんがとってもかわいいおばあちゃんだった。

加藤健一さんと一柳みるさんのおじいちゃんおばあちゃん役は、『すべて世は亊もなし』以来だが、とっても雰囲気があって存在感がある。ヌンツィオを演じた有福さんは、頑固な中に優しさのある演技だった。

ニックを演じた山本芳樹さんは、一昨年の『モスクワからの退却』、昨年の『思い出のすきま』と、毎年、加藤健一事務所公演に出ていて、『モスクワ〜』では両親の狭間でゆれる息子で好演し、『思い出〜』では、繊細でさわやかな演劇青年が記憶に残っている。今回は、家族から離れ旅立とうとする心優しい青年の苦悩と希望を繊細に演じている。山本さんが出た3作品とも、加藤健一事務所公演の中でも素晴らしい作品になっている。

見合い相手のケイトリンを演じた小山萌子さんは、芯のしっかりした明るい現代的な女性を、さわやかに演じている。

家族を大事にし、家族のために生きるイタリア系アメリカ人の賑やかな団欒の中から、月日の流れや時代を越えた、家族の絆や夫婦の信頼、思いやりが伝わってきた舞台だった。
2009/05/21(Thu)17:00:23

#130 吸血鬼
グリングの青木豪さんの新作だ。

基本的には分かりやすい作品だが、どこまでが夢(妄想?)で、どこからが現実なのかがわからない。しかし、もしかしたらそこがこの作品の面白さなのかもしれない。

大学時代に少し付き合い、卒業間近に別れた男と女。卒業から20年、男は脚本家兼映画監督だが、あまり売れてはいない。女は大手の広告代理店に勤めたが、先輩が独立するときに一緒に移る。二人は卒業後、4回しか会っていない。それもほとんど偶然。その1回が偶然の出会いから一緒に飲み、最後にコンビニでビールを買い男のアパートで飲むことになり、アパートの前まで来るが、二人は別れてしまう。そのことがそれぞれの男と女の中に想いが残り、それを振り返る形でのストーリー展開だ。そこに「殺人」を発見するプラスα…という形で、チンドン屋夫婦とその弟子が絡んでいる。しかし何が現実で、何が夢(妄想?)かはわからない。考えれば考えるほどつじつまはあわないと思うのだが、しかしそれがかなり面白いのだ。

作品から伝わってくる「人間の孤独」と誰かと繋がっていたいという欲求。夢なのか現実なのかわからない作品構成と展開。かなり深い意味を持ちながらも演劇的にも面白い素晴らしい作品でした。

男を演じた杉山文雄さん、女を演じた高橋理恵子さん、チンドン屋の親方を演じたみのすけさんが特に良かったと思う。
2009/05/21(Thu)16:59:17

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