#164 イノセント・ピープル
『イノセント・ピープル』 劇団昴サードステージ

シアターグリーン

作/畑澤聖悟(渡辺源四郎商店)

演出/黒岩 亮(劇団青年座)

出演/遠藤純一、平林弘太朗、山中誠也、石田博英、福山廉士、要田偵子、矢島祐果、市川奈央子、新野美知、田村真紀、江川泰子 他


アメリカ、ニューメキシコ州ロスアラモス。原子爆弾の開発に従事した5人の若者たち。ヒロシマ、ナガサキに落とされた2発の原子爆弾を作り上げた5人が、1945年のあの日から現代にいたるまで彼らは何を信じ、どう生きたのか、第二次世界大戦が終わり、その後の65年間を彼らはどう生きてきたのか、その後の彼らの人生の物語である。


ロスアラモスは、1943年に原子爆弾の開発のために、アメリカ中から約2000人の人間が集められて作られた町である。そのロスアラモス20周年の式典に出席した男たちが、今もロスアラモスの研究所で研究に従事する科学者のブライアンの家に、それぞれパートナーを連れて訪ね、再会を喜びあうところから芝居は始まる…。数学教師となったジョン、海兵隊将校となったグレッグ、GMの社員となったキース、医者のカール。

戦争が終わり、町を離れそれぞれの人生を歩み出した彼ら。原子爆弾を作るために集めらた人間同士の間には、友情が生まれ、恋愛が生まれ、家庭が出来る。


この作品は、原子爆弾を作り落としたアメリカ人のその後の人生を描く中で、アメリカやアメリカ人が戦争をどう考え、原子爆弾についてどう考えているかが伝わってくる。今までの原子爆弾を扱った舞台では、被害を受けた日本や日本人が描かれ、そこから戦争の悲惨さを描いている作品が多い。そういう点では着眼点が鋭く、独創的な作品である。


歴史を紐解けば、ナチスドイツよりも先に原子爆弾を作らなければならない事情があり、その後は戦争を終結させるためという理屈は、アメリカ人にはある意味正当性を持つのだろう。

アメリカ人にとって、原子爆弾を作った人々は国の英雄であり、日本とは、ヒロシマ・ナガサキは知らなくてもリメンバー・パールハーパーなのである。また、原子爆弾についての認識も、日本人はきのこ雲の下の世界だが、アメリカ人は上の世界なのである。

イノセント・ピープルとは、罪のない人々、無垢な人々という意味だそうだが、私は今まで、この言葉を戦争で被害を被った市民、庶民と思っていたのだが、この作品を観て、原子爆弾の開発に関わった彼らもある意味イノセント・ピープルなのだと感じた。

ウランの核分裂の発見以来、連続して核分裂を引き起こすことが出来れば、原子核内の莫大なエネルギーを解放することが出来、それを軍事転用したのが原子爆弾である。若い科学者たちが、自分たちの研究開発が、ヒロシマやナガサキの悲惨な悲劇を起こすことを想像できていた者は誰もいない。若い科学者たちの情熱は無垢であり、彼らもまたイノセント・ピープルなのである。結果を想像できないという意味では、直接的な関わりがどのような結果になるのか直接的にわからない、ある意味で戦争の持つ怖さがひしひしと伝わってくる舞台でした。

畑澤聖悟さんの着眼点の鋭い素晴らしい台本、黒岩さんの緻密な演出、昴のバランスのとれた俳優たちのアンサンブル、久しぶりに三拍子揃った素晴らしい舞台でした。
2010/09/30(Thu)20:46:14

#163 他人の目」
『他人の目』 The Public Eye -結婚3年目の夫婦のお話し-

劇団民藝 2010稽古場公演

劇団民藝 稽古場2階

作:ピーター・シェーファー  訳:河野しずか
演出:内田潤一郎
出演:伊藤 聡・河野しずか・平松敬綱


ピーター・シェーファーの代表作といわれる作品の一つだ。

ピーター・シェーファーの作品は、日本でもかなり上演されている。劇団四季の『エクウス』、加藤健一事務所の『ブラック・コメディ』、松竹がサンシャイン劇場で上演した『アマデウス』など。世界的にも評価の高い英国の劇作家だ。

会計士のチャールズ(伊藤聡)は、あるクラブで店で働いていたベリンダ(河野しずか)と知り合い、年は離れていたが3年前に結婚した。最近、チャールズはベリンダの行動の変化を感じ、ある探偵事務所に彼女の素行調査を依頼した。

ある土曜日、チャールズが事務所で仕事をしていると、ジュリアン(平松敬綱)という若い男性が訪ねてきた。彼女の素行調査の報告を持ってきたのだ。彼が持ってきた報告とは…。

年の離れた夫婦というのがキーポイントなのかもしれない。
年の離れた夫婦、夫は会計士で、妻はウェートレス。社会的な生活を送る上で、家庭=学校、夫=先生、妻=生徒、という構図が、新婚当初から出来上がっているように感じられた。新婚当初は、夫は妻に対して愛おしい可愛いと思い、妻は夫に対して尊敬や憧れを抱いているが、結婚生活も3年の月日が過ぎた現在、夫の妻へ対する愛情は変わらないが、妻は様々なことを理解し成長し、夫婦のこと、愛のことを考えるようになり、日常での行動に変化が出てきたのだ。

そんな妻の変化に対して、典型的な英国紳士のチャールズは、昔ながらの考えにとらわれ探偵事務所に、妻の行動を調査依頼するのだが、妻はというと、実のところは、夫と先生と生徒ではなく、夫婦として、妻と夫として話し合いたかったのだ。

この作品は、「堅苦しい英国の男と結婚した米国女性のコメディ」と評される作品だが、今回の稽古場公演は、コメディというよりは、良質のストレートプレイという作品になっていた。

男とは?、夫とは?、女とは?、妻とは?、そして夫婦とは?、そんなことを、ジュリアンという道化を通して、深く考えさせられる芝居でした。

堅苦しい英国紳士チャールズを演じる伊藤聡さんの演技が、 コメディではなく、夫婦を考えさせるストレートプレイに合っていました。
2010/09/30(Thu)20:40:40

#162 守り火
『守り火』 FINE BERRY 公演

中野 ザ・ポケット

作・演出:中島 新

出演:辻 親八・松本紀保・李 峰仙・成瀬ちあき・川田 希・中村千春・佐久間淳也・正村嘉浩・
  岡村多加江・尾形雅宏・橋口まどか


「守り火」という松明の火で人形を燃やし悪霊を追い払うという伝統の祭りがある町で、廃品回収業を営む家族がいる。年の離れた夫婦と4人の姉妹、そして10年前にホームレスだった3人の従業員。「守り火」が行われるころ、母親が倒れ入院したという連絡を聞き、家を出ていた長女が帰ってくる。家業は、借金が膨らみ潰れかけている。さらに母親の入院費や手術費も払わなくてはならない状況にある。父親は不法投棄に手を染め始めるが…。他に生活をしていく方法が見つからす、家族は、今を生きるために必死に不法投棄を繰り返すが、崩壊の足音は次第に近づいていた…。

厳しい社会の中で、暗闇をもがきながらも、一生懸命に今を生きる家族の物語は、必死に生きる素敵な家族を見せてくれるとともに、「家族とは?」「幸せとは?」ということをストレートに考えさせ、感じさせてくれる舞台でした。

今、注目の劇作家・中島 新とファインベリーが贈る、家族の物語。
2010/09/30(Thu)20:31:02

#161 詠み芝居「おたふく」
詠み芝居「おたふく」  演劇倶楽部『座』公演

東京芸術劇場小ホール2

原作:山本周五郎

構成・演出:壌 晴彦

出演:
 土居裕子(客演)
 内山森彦(客演)
  佐藤瑠花(客演)
  壌 晴彦
  高山春夫
  蒔村三枝子
  森 一馬
  中山 昇
  相沢まどか
  他 演劇倶楽部『座』

【詠み芝居】とは?
いわゆる「朗読劇」でなく、小説の「地の文」を語り手が詠み、「登場人物」を俳優が演じる、ト書き付きのお芝居。「詠み芝居」は演劇倶楽部『座』の登録商標。


今回の『詠み芝居「おたふく」』は、山本周五郎のおたふく三部作「妹の縁談・湯治・おたふく」を原文のまま舞台化したもの。

休憩15分をはさんで二幕2時間30分の舞台で、一幕は「妹の縁談」と「湯治」、二幕が「おたふく」

舞台は、平台を組み合わせて作られた簡素な装置、横笛の生演奏、時間や空間の感じられる照明。

江戸下町に暮らす姉妹、おしずとおたかを中心に描く切なくて温かな人情物語。

一幕では、おしずの家族の暮らしぶりをベースにおたかの縁談の話が進み(妹の縁談)、舅がお金を出すというので、おたかとおしずと姑と仲人の絹女の女4人で、嫁入り前に熱海に湯治に行くことになるが、気がかりは兄の栄二の問題(前科者で家族に金の無心来る)。おしずだけ湯治へ行く途中で家に戻ると栄二が…。兄と家族の縁を切り泣く泣く追い出してしまう(湯治)。

二幕は、おしずと彫金師の貞二郎との縁談、そして結婚生活。おしずの荷物の中から、貞二郎が以前頼まれて作った品物があり、おしずに疑惑を抱くが、おたかが来て本当のことがわかる(おたふく)。

小説そのままを読むわけではなく、小説の持つ物語性を大事にしながら、小説の原文を詠み芝居に構成することで、小説の作品の世界が分かりやすくいきいきと鮮やかに描かれています。

山本周五郎の江戸下町の人情溢れる世界が、池袋の小さい劇場の舞台に、見事に花開いていました。

とてもいい舞台でした。いくつか特徴的なことは、まず小説の地の文を詠む語り手(壌晴彦)がとてもいい。声もよく抑揚を押さえた語りが心地よく耳に入ってくる。節目節目で生演奏される横笛が情感を刺激する。一幕と二幕の最初にある舞踊も、これから始まる物語を期待させる。

登場人物では、おしずを演じる土居裕子が非常にいい。着物も似合い所作にもソツがない。何といっても情感がこもった演技は、本当に素晴らしかった。一幕の終幕の兄を追い出したあとに追いかけるところは涙か溢れた。
2010/09/30(Thu)20:27:20

#160 モリスの藍工房 いちご泥棒のうた(イッツフォーリーズ)
社団法人日本劇団協議会主催・次世代を担う演劇人育成公演

作:ニック・フィッシャー
翻訳:中西由美
潤色・演出:河田園子

19世紀、貧富の差が激しいイギリスのある街。とある縫製工場では、孤児たちがろうそくの灯りを頼りに、上流階級の婦人方のドレスを縫っている。孤児の中の1人、ホープはそのドレスを羽織って遊んでいるところを、雇い主に見つかり解雇されてしまう。

街で途方に暮れるホープ。目の悪い親友ステラが工場に残っていることも心配でならない。そこへ悪党ジャックがホープの手先が器用なことに目をつけ、紳士モリスの財布を盗ませようとするが、ホープはモリスに捕まってしまう。

モリスは「人間は環境によって変わることができる」ことを証明するために、泥棒しようとしたホープを美しい妻ジェインが待つ我が家に連れて帰る。

手の行き届いた庭と豪邸の優雅な生活の中で、ホープはモリスの工房でデザインの手伝いを始める。ホープの才能を見抜いたモリスは彼女に更にいろいろなことを教えながら、日々を暮らすようになる。そんなある日、ジェインの琥珀のネックレスとともに、ホープが消えてしまった。

ネックレスの行方は? そしてホープは…?

いい芝居、舞台でした。社会性のあるファンタジー作品とでもいう感じの舞台でした。今回の舞台は、劇団昴とイッツフォーリーズのジョイントの舞台であり、演劇人育成公演なので、劇団に入ってまだ数年という若手が中心の舞台ですが、のびのびとした素直でひたむきな演技は好感が持てました。また要の役どころには中堅の俳優を配し、アンサンブルのとれたキャスティンクでした。また音楽も分かりやすく心に残りました。

劇団昴の男優とイッツフォーリーズの女優がうまくマッチした舞台で、ぜひ再演をしてほしい作品です。

個人的には、演出の河田さんの舞台での色づかいが好きで、今回も、モリスの作品とともに印象に残りました。
2010/02/02(Tue)13:37:52

#159 ハッピーマン1862上海大冒険
主催:(社)日本劇団協議会 次世代を担う演劇人育成公演

作:マキノノゾミ
脚色:鈴木哲也
演出:磯村 純


激動の時代、幕末の1862年の上海。2人のHAPPY MANが上海の地に降り立ちました。その名は…、若き長州藩士高杉晋作と土佐脱藩直後の坂本竜馬。

太平天国の乱の中、英国に虐げられ、阿片まみれの上海で繰り広げられる。中国人美少女と出会い、悪徳の英国商人に追われ、あの西遊記の4人衆に襲われ、パンダとの親交を深め…、何でもありの大騒動。


いやぁ〜何とも荒唐無稽でハチャメチャな舞台で、とっても楽しい舞台でした。客席が3面あり、十字形の舞台を縦横無尽に駆け回り、歌あり、踊りあり、殺陣ありの音楽入りの大活劇でした。

主人公の高杉晋作役の高松潤さん、坂本竜馬役の宇宙(たかおき)さんの2人は、非常に弾けた演技で良かった。

こんな楽しく荒唐無稽な舞台を作り出した、磯村純さんの演出に感嘆しました
2010/02/02(Tue)13:35:29

#158 冬のライオン(幹の会)
 西ヨーロッパに強大な国を築いたイングランド国王ヘンリー二世(平幹二朗)。地方領主にすぎなかったヘンリーは、フランス王妃だったエレノア(麻実れい)を妻に迎えることで、広大な領地を手に入れ、その地位と権力を手に入れていた。1183年のクリスマス・イヴ。ヘンリー二世は、後継者問題に決着をつけようと一族を召集した。王の寵愛を失い、幽閉の身となっている王妃エレノアと王位を狙う3人の息子たち。母は長子リチャード(三浦浩一)を、父は末子ジョン(小林十一)を偏愛し、次男ジェフリーは父母どちらの愛情も得られていない……。
 一族の愛憎をめぐる駆け引きに、奪われた領土を取り戻そうと機会を窺うフランス国王フィリップ二世(城全能成)と、その異母姉でヘンリー二世の愛情を一身に受ける皇女アレー(高橋礼恵)の思惑が錯綜する。
 
 誰を愛し、誰を信じ、誰が裏切るのか?

 宮廷のクリスマス。孤独を噛みしめたヘンリー二世は、息子たちを地下牢に閉じ込め、その手に剣を握るのだが……。

 後継者問題といえば、シェークスピアの『リア王』にも少し似ていますが、『冬のライオン』は悲劇ではなく歴史劇です。歴史劇とは、演出の高瀬久男さんの言葉を借りれば「歴史を題材とした現代に生きるお芝居」。

 国王と王妃、愛人、その息子たち、そして愛人の弟の他国の国王。領土と権力をめぐる家族の愛憎の芝居なのだが、あまりどろどろした感じは受けないが、どこか喜劇的な舞台だ。

 この舞台で展開される権力争い、後継者争いは、シェークスピアのような決闘や戦争ではなく、ひたすら相手を出し抜こうとする心理戦なのだ。自分の本心はなるべく隠しながら、相手の本心を探りだそうとするのだ。息のつまる心理的な駆け引きは、俳優が役を演じる中で、また役の本心を隠す演技をするという二重構造の演技が俳優たちに要求されるのだ。この二重構造の演技と格闘する7人の俳優たちは、それぞれの演技に強弱はあるものの、私たちを12世紀の時代へ引き込み、固唾をのみながら、後継者争いを見守る市民の一人として舞台に参加させたのだ。

 特にヘンリー二世を演じる平幹二朗さんと王妃エレノアを演じる麻実れいさんの二人の丁々発止の掛け合いは、緊張感ある舞台をひとときコメディのような感じを漂わせている。この二人の演技には、華やかで品と風格があり、だからこそ、二人の丁々発止は非常に面白く、芝居全体が暗く重いドラマにもかかわらず、どこか喜劇的な雰囲気を醸し出している。

 また城壁のような回り舞台の装置も、簡素だがこの作品にとても合っている。

個 人的には、アレーを演じる高橋礼恵さんがとても美しく、素敵でかわいいアレーがとても魅力的で、王が手離したくない気持ちは、とても説得力がありました。

 この舞台は、これから演劇鑑賞会の中部・北陸ブロック、九州ブロック、東北ブロックと、6月まで地方公演をしますが、この舞台を例会で迎える演劇鑑賞会とその会員を、とても羨ましく思いました。

小野ちゃん
2010/02/02(Tue)13:33:04

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