お題目
- 2008/05/14(水)*No.142
01.やっぱり男の番号ばかり
02.そこらのオンナにはわからない魅力
03.気づけば妙な縁だらけ
04.今日はよく声をかけられる
05.キングとクイーン
(希望:マコト中心)
アンケートよりいただきました。ありがとうございます!!(*´∀`*)
01.やっぱり男の番号ばかり
- 2008/05/14(水)*No.144
本当に何気なくいつものように携帯電話を操作していたとき、俺はふと気付いてしまった。
「………やっぱり」
何度も何度も確かめる。確かめれば確かめるほど哀しい気持ちになってくるのはどうしてなんだろうか。
電話帳をもう数周回してそこに登録させている人々を見ながら、俺は深く長い溜息をついた。
「そりゃあ、確かに……断然多いに決まってるけどな」
起きたばかりだというのに脱力して畳に寝転がる。木造で梁がむき出したになった天井が俺の上に広がっていた。右手に握りしめた携帯電話がなんとも儚く思える。
横に回転してうつ伏せでひじを起こし、再度携帯電話を開く。電話帳を回しても回してもやはり変わることはない文字の羅列。
思わず突っ伏して額を畳で擦りむいた。
思いのほか痛かったのは俺の心のダメージだ。額をさするとヒリヒリする。ココロも伴って少し涙目になるのも仕方ないと思ってくれ。
諦めが悪いのは俺の性分だ、そこはほっといてくれ。
ピピッ…ピッ…ピピピッ・・・・
無機質な電子音が無上に響いていく。見れば見るほど惨めな気持ちになっていくのはどうしてだろう。
「いや、別に悪いやつらじゃないし!」
自分に言い聞かせるように顔をあげて豪語するも、どこかむなしい。
わかっている。俺の周りはそういう連中ばかりなんだということは。百承知だ。それが悪いとは思わない。いや、メモリーがほぼフルコンボなら逆にすごいことじゃないか。
自画自賛……いや、諦めよう。
着メロが鳴りだした携帯電話を荒々しく握る。
「あー…もぅ、わかってんだよ」
『はぁ?なにがだよ』
相手はサル。そんなことはお構いなし。こんな時にかけてきたのだからたまには愚痴に付き合え。
「俺の携帯には、野郎の番号ばっかりだってことだ!」
出てすぐに逆切れのような反応に電話口のサルは唖然としたようだが、そこはそれ職業柄どんな時でも冷静なのが売りだ。
俺の落ち込んだ気持ちなど鼻で笑う。どんな笑いを浮かべているか目に浮かぶようで余計に腹が立った。
『何言ってんだ。……今更だろ』
あっさりとトドメをさしやがる。
俺の周りにはこんなやつばっかりだ。
呟き:マコトです(笑)サルはとばっちり(笑)
02.そこらのオンナにはわからない魅力
- 2008/05/16(金)*No.146
今日は朝から良い天気だ。カラッと晴れた空には雲ひとつない。まだ暑い夏ほどの日差しはなく、清々しい気持ちにさせてくれる。
店の準備を大方し終えたマコトは、一息吐きながらそんな風に空を見上げた。
「今日も一日いい天気だ。何かいいことでもあればいいな」
そんなひそかな期待を抱きながらちょうど店番の準備ができた母親と交代して、いつものように池袋ウエストゲートパークに向かう。足取りはいつもより軽い。
交通量の多い交差点が近づくと途端ににぎやかさが加わる。小さい頃からこのあたりを庭のようにしてきたマコトには普通のことだが、雑多な様子はどこか殺伐とした空気も孕んでいた。
清も濁もごちゃごちゃのこの街が好きだ。マコトは素直にそう思う。
いつものように新緑芽吹いた木の下のベンチに座って、ぼんやりと行きかう人々を眺める。そういう無駄なような時間だが、実は意外と楽しかった。行きかう人々はまるで水が上流から下流へ流れるように動いていく。中には逆流していくようなヤツもいるが、それはそれで見ている分には楽しい。騒がしいクラクションの音に煙たい排気ガス。いくら有害だと言われても生まれてからこの方ここにいれば慣れるというものだ。
それにしても…と、マコトは周囲を見ながら苦笑する。
女性の姿を見つけるとついつい目で追ってしまうのが男の性というものだが、最近の女性というやつはまた派手な割にあちこちと歩いて回っては、男の目に止ろうとするんだな、と。確かに会社勤めのOLは、現場移動なども忙しなく仕事以外に話かけるな、と言いたげな険のある雰囲気をヒール音とともに響かせているのだが、どうもこの時間がアフター5に当たる女性たち、もしくは、中学、高校生のように見えるどう見ても学業を履き違えたお子さまたちが眩しい化粧と共に街を練り歩いている。
「……仮装大会でもあるのかよ」
思わず呟いて溜息をついた。
男であるから女性に興味がないわけではない。だが、どうもこの手の女というのは馴染めない。無論、向こうもそこら辺はわかっているのだろう。マコトに気付いても近づきはしないが。
それはそれでどこか悲しい思いにもなってくる。
「まぁ…俺はそんながっついてないし…」
「誰が、がっついてるって?」
負け惜しみとわかっていた呟きに返事が戻ってきて驚いて声の方向を見た。グレーのフード付きパーカーに黒のジーパンという軽装でそこにはタカシが立っている。池袋のキング様は神出鬼没だ。
唖然としてマコトが目をしばたたかせているのを面白そうに見下ろして、口端に笑みを浮かべたままマコトの隣に身を滑らせる。
「……キングは休業か?」
「まぁ、そんなところだ」
「御供同伴じゃないのか?」
「休業中だから、必要ない」
にべもなく言い放たれてマコトは驚くよりも呆れてしまった。いつも気が気ではなく「キング」の周囲に佇んでいる部下が可哀想にも思えてくる。
だが、どうもいつもの飄々とした「キング」としてのイメージがついてまわるが、もともと同級生ということもあり、安藤タカシはこんなに風に自然と笑えるヤツだった。笑わないのは、キングの時くらいだが、マコトの前ではどうもタカシの度合が強いらしい。
「それで、誰が、がっついてんだ?」
「誰でもないよ。っていうか、そんなこと聞いてるな!」
独り言にツッコミ入れられたら独り言にならないだろう、とわけのわからないツッコミを返してみるあたり、マコトの動揺具合も見て取れるというところだが。
明らかに上げ足を取って楽しんでいるタカシは、喉の奥で笑った。
不貞腐れて視線をそらせば、いつも間にか女性の視線を浴びている。その視線の先にあるのはもちろん自分ではないとわかってしまうあたり、悲しいという言葉以外に見つからない。
ああ・・・神様は不公平だ、と愚痴たら、どうもそれまでも聞かれていたらしく、タカシは周囲に目を向けた。
「フードまでかぶってるっていうのに、さすがはキングだぜ」
厭味を呟く自分自身にもイヤな気持ちを感じながらマコトはベンチにひっくり返った。
周囲を軽く見まわして、タカシは表情一つ変えることなくマコトの首に腕を回す。ギョッとする間もなく抱きしめられてマコトは驚いてとび起きようとする。だが、タカシはあっさりと押さえ込み、鼻先でニヤっと笑う。
「マコト。お前の魅力がそこらへんの女どもにわかってたまるか」
耳元で冷たくも甘い囁きにマコトは目を丸くした。
周囲では黄色い悲鳴がそこここで起こっていたという。
呟き:タカシが挑戦的です(笑) かなりの確信犯です。
03.気づけば妙な縁だらけ
- 2008/05/26(月)*No.153
慌ただしく過ぎていく毎日。朝から繰り返される出来事。気づけば日は西に傾き、夜中になっても終わらない仕事。
そんな毎日がただただ過ぎていく。
別に悪いわけではない。むしろ、これが望んだことだ。
キングこと安藤タカシはそんなことを思いながらいつもの日常の中にいた。
彼の仕事は池袋のガキたちを黒へと突き進めぬよう、なおかつ黒を白に侵食させないようグレーゾーンを陣取ること。どちらの付き合いもうまく運んで交わらないように、ぶつけない様に奇妙なバランスを保たせている。
(世渡りがうまい…というわけじゃない)
独り愚痴てタカシはシートに深く腰掛けた。運転手はボディーガードも兼ねている男たち。1人の身の危険など自分一人でどうとでもなるが、体裁というものがある、と一条がいうので仕方なくつけている。もちろん、知らない者たちではないから、気がねはしていない。
秘書的な役割を担っている一条にしても、池袋のG−BOYSのキングには心酔に近いものを抱いていた。そうでもなければこの仕事に関わってはいられないが、この街のガキ達の王様、キングとはそういう存在でなければならない。
車のシートに深く座り込んだまま、カーテン越しを何気なく見るとそこはいつもの池袋ウエストゲートパーク。池袋の西口公園だ。
高校の時にはよくたむろしては他愛もない話題で朝まで笑い転げていたような記憶がうっすらと残っている。もはや仕事がハードすぎていつのことかを思い出す余裕もないのだが、そのキングの視界に見慣れた色彩が映る。
「……マコト…」
ぽつりと…キングも意識していないだろう無意識に口から出たのは、真島マコトの名前だった。
一条もつられるように目を向ける。公園のベンチでなにやら見たような顔ぶれとそうでない顔ぶりに囲まれて笑っているマコトの顔がある。近くにはサルの姿も見られて一条は思わずぎょっとした。どうもマコトの周りに人がいるというのがキングにとってあまり気持ちのいいものではないらしい。キング自身にはそんなつもりもないのだろうが、空気が変わるから一条にも丸わかりだ。
だが、今日のキングからは空気が冷え込むような気配は感じられない。一条は怪訝な顔を浮かべる。
「……妙だな」
「何が、ですか?」
ポツリと呟いたキングに一条は冷静に聞き返す。キングは鼻で笑ったようだった。
「マコトの周りには…本当に奇妙な縁だらけだと思ってな」
ハハッ…と何がおかしいのかキングは声を出して笑っていた。その光景に一条ばかりか運転していたボディーガードたちまでがギョッとした面持ちを浮かべる。クールな王様が人前で笑うことなどめったにない。それがいったいどうしてしまったんだろう。一末の不安すら覚える。
「一条、お前は…どう思う?」
「どう…真島さんのことですか?」
他に誰がいる?といいたげにキングは目を向ける。一条は戸惑いながらも言葉を探した。
キングに与える影響の一番不確定な要因はまさに真島マコトだといってもいい。良くも悪くもキングに与える影響が一番大きい。自分も確かに影響を受けることはあるが、キングが絶対的なカリスマ性を持っているのだとしたら、真島マコトから受ける影響はいったいなんなのだろう。カリスマというにはあまりにも統一性がない。どちらかというとキングよりも掴みどころがない性分で、突拍子もないことを思いつく上に有言実行的な意志も強い。我武者羅で無鉄砲で、かといって無計画ではない。
天才と馬鹿は紙一重、というか…はたしてどちらにおさまる人なのか、と考え込みたくもない。
「…他者を惹きつける、才覚のようなものを…お持ちだと思います、が…」
「そうだな」
明確な答えを導き出すことは難しい。傍からはキレ者と呼ばれる一条ですらマコトを明確な表現できる言葉は見つからない。
それが、キングには面白いのだ。キング自身がマコトに対して明確な言葉を見つけられずにいる。高校の時から今まで、ずっとだ。だからこそ面白い。だからこそ惹かれる。マコトの何がここまで自分をひきつけるのか…日常の殺伐とした時間の中で唯一キングが興味をもてる事例。いや、キングではなく、安藤タカシとして、といった方がいいのかもしれない。
「だからこそ、面白い。…ヤツの周りは賑やかで良い」
独り言のような呟きに一条は首を傾げながらも同意した。
車は公園をすぎて仕事場に向かう。窓からも見なくなった公園でマコトが何をしていたのかなど後でいくらでも耳に入る話だ。それを一つ楽しみにキングの仮面を張り付けて仕事をこなす。クールなカリスマキング。それが自分の仕事だ。
一条もそれには同意しようとしたのだが、続いた呟きに思わず苦笑してしまった。
「邪魔なヤツが増えるのは……癪だな」
呟き:キングの仕事風景の1こま(笑) マコトが癒し系かな。