*Book review

■ 芦沢央
「許されようとは思いません(新潮社)」 評価:☆★★★★
Date:2017.06.28
なんというか。ちょっとどんでん返し系というか。トリックとかの話ではなく。
読んでいて、え?そうだったんだ・・・と愕然とするオチがある系というか。

「許されようとは思いません」村八分があるような田舎の村。そこではさらに上の村十分というものもあり、最低限の火事と葬儀だけは村人も関わるという村八分との違いはそこすらはずされるというもの。曽祖父を殺したということでその憂き目に遭った祖母。遺骨は墓を掘り出され骨壷ごとそこらに投げ捨てられたりした。年月がたち、それらも風化したろうとあらためて墓に祖母の遺骨をおさめに来た孫の主人公。でも・・・。思った。祖母はなぜ曽祖父を殺したのか。末期がんでもうじきどうせ死ぬはずだったのに敢えて。もしかして・・・と思い至る。それこそがオチ。
祖母はわざと殺した。村十分になるために。墓に入らないために・・・。

「目撃者はいなかった」結構わたしはこういいうの好きである。ほんの小さな出来心で仕事のミスを隠蔽して、うまくいった・・・はずだった。そのときすぐ近くで交通事故さえなければ。そして正直に目撃証言さえしていれば。じわじわ追い詰められてゆくさまがスリリング。

「ありがとう、ばあば」孫を売れっ子の子役タレントにするため厳しくマネージメントしてきた。そのためなら何でもする。でもまさかその孫にこんなことで殺されるなんて・・・。大事なことを教えそこなった報いか。ちょっと怖い話。

「姉のように」これこそ、読者だましのどんでん返し。あ!と思わず声を出してしまった。姉が逮捕されて、周りの目が変わったと感じてだんだんやんでゆく妹。そして愛娘を殺してしまうにいたるのだが・・・。姉が犯した犯罪は・・・。←これこそがどんでん返しのキーポイントなのだが。

「絵の中の男」夫殺しで逮捕された女性画家の家政婦の証言で明らかになる真相、というところか。まぁこの中ではあまりインパクトなし。個人的に。

でも面白くてあっというまに読めてしまった。

no.797
 

■ 垣谷美雨
「あなたのぜい肉、落とします。(双葉社)」 評価:★★★★★
Date:2017.06.21
これ、大好き!!!

太ってやせたいのにできずにいる人ばかりが出てくる。笑。
そこに共通のキーワード、『あなたのぜい肉、落とします』という本。その著者の大庭小萬里。

そう、49歳キャリアウーマンの妻であり母である女性も、
18歳の没落華族の18歳の末娘も、
32歳で事故で記憶喪失しているエリートサラリーマンの男も、
10歳で母子家庭でいじめられてもけなげで頑張る少年も。

みんな太っていて、それゆえつらい思いを味わっていて、やせたいと思っている。けどリバウンドしてみたり、挫折してみたり、とにかく誘惑に勝てなかったり、太いまま悶々としている。そして半信半疑で手に取る本。チャートシートでひっかかり、相談料の安さも相まってカウンセリング依頼・・・というパターン。

ところが現れる小萬里(こまり)は太った50台のおばちゃん・・・。
騙された!と思うのだが・・・ところがこれがなかなか・・こちらまで引き込まれることを言うんだな〜、そして間違いなくよくなるのだ、依頼者たちが。

当たり前の課題、でもこれがすごく根本から意味があり、変えられてゆく。そのさまが心地よく、自分にも置き換えて意味を見出す感じだ。

49歳には「ブスとして生きることを意識しろ」。でもスポーツジムに通い、主婦業をさぼることを課題にされ、逆に仕事もうまくいき、家庭もよくなる結末だ。
18歳はパティシエの道を歩み始めて、逆にやせてゆけて、ぽっちゃりがタイプだというイケメンの彼氏もできそうだ。
32歳はストーカー疑惑でショックを受けるが、逆に本当に自分が愛していた女性と結ばれ、父親の呪縛からも逃れられる。
10歳は忙しい母のためにお菓子を食べて食事としてきたりしていたが、自分でご飯を作ることを教わり、しかも母がかたくなに拒んでいた実家の援助も受けられて、いじめからも小萬里の機知で救われてゆく。

見事みんな大団円、しかも健康になってゆく・・・ちょっとうまくいきすぎだけど、子萬里が魅力的に見えてきちゃうから不思議だ。
そう、彼女は太ったおばさんに見えるけど、健康には気をつけており、ジムに通っているため、体は筋肉でひきしまっているのだ。

私もジムに通って、夜は野菜たっぷりにして、炭水化物の取りすぎに注意して、お菓子はやめようかなぁなんて思ってしまった。

うん、続編あったら読んじゃうなこれ。

no.796
 

■ 渡辺優
「ラメルノメリキサ(集英社)」 評価:☆★★★★
Date:2017.06.21
前回渡辺さんの作品が結構気になったのでその前作も読みたくて手に取った。
なかなかに評判だったので。

読んだ感想は、これはミステリーとしてはあまりトリッキーではないし、あまり犯人も意外すぎるほどでもないし、だったのだが。
つまり、この主人公のリナの魅力かな。
昔から彼女は復讐の申し子(姉命名)であり、ハンムラビ法典にのっとり、されたことは必ず復讐することでけりをつけてきた少女だ。
そんな彼女が通り魔?に斬りつけられて縫う怪我を負わされたのだから、犯人が見つけられず次の被害者を出してゆく警察などより先に犯人を見つけてぶっ殺してやると本気で思うのは自然な流れ・・・。

彼女は切りつけられた瞬間、犯人が言った言葉を警察にはわざと言わないでいた。
それが唯一犯人を自力で突き止める手段だと・・・。

「ラメルノメリキサのためなんです、すみません」

犯人はそういって切りつけてきたのだ。
ラメルノメリキサってなんだ?

完璧で美しい母に鬱屈したコンプレックスを抱くリナ。美しく、リナの復讐の信念を知りながら見守る姉。
かつて恋人だった新崎、浮気で裏切ったからそれ以上の報復をして別れた元彼。
幼馴染の立川凜。

色々くせのある人が出てくる出てくる。
それにしてもリナの特殊さ。

最後、一番黒いのってもしかしておねえちゃん?なんて思う感じで終わるのもちょっと好き。

渡辺優さんの作品、面白い。要マーク。

no.795
 

■ 渡辺優
「自由なサメと人間たちの夢(集英社)」 評価:★★★★★
Date:2017.06.05
どこかいかれた人間たちの短編集、という印象だった。
自殺願望者が精神医療病院に入院して退院してゆく様子。
近未来で工場での事故で腕を切断された男性がロボットアームをつけてもとの生の腕より優れた機能を手に入れる話。
夢日記をつけてゆくうち、夢をコントロールできるのだが、それによって現実との境目がゆがんでゆく危うさの話・・・。
ある画家の元に夢で見た絵を描いてほしいと依頼する美女の話。
虫とあだ名されたいじめられっこの少女がクラスメイトを刺した・・・その真相が衝撃的な話。
ドラッグにおぼれるキャバクラ嬢だが、サメを飼うことによって人生をやりなおせる話・・・。
そのサメの目線からの話。

はっきり言おう。私はサメの話は泣けた。
感動してしまったのだ。

いかれたやつらが、まだほんとは秘めているピュアな何かを失わないで這い上がろうとするさまは心打たれる。

この人の作品・・・好きかも!

no.794
 

■ 川口俊和
「この嘘がばれないうちに(サンマーク出版)」 評価:★★★★★
Date:2017.05.15
コーヒーが冷めないうちに、の続編。
ひっそりと地下にある喫茶店、フニクリフニクラ。
そこで過去に戻れるという。ただし、いくつか細かいルールがあり、守らねばならないうえに、過去に戻っても過去を変えられないのだが・・・。

それでもいつも時間を移動して会いたい人がいる人が訪れる。後を絶たない。
過去が変えられなくとも。それでも会いたい。と。

そもそも。過去に戻って会いたいということは、現在にその人はもういない=生きていないということだ。
それゆえ、どうしても読み手も涙を押さえることができなくなる展開のものが多い。

今回の4話は
22年前に死んだ親友に会いにゆく男
母親の葬式に出られなかった息子が母に会う
結婚できなかった恋人に会いに行く男
妻にプレゼントを渡せなかった男

この中で、恋人に会いにゆく男だけが、なんと未来に行くのだ。

どの話も涙なしでは見れない。そこには優しい嘘もあったりもする。相手が死んだことを隠してもばれちゃったりするくだりは、鼻水とぐちゃぐちゃになるくらい読みながら泣いた。

過去を変えてその人の命を助けることはできないのだけど、でも何かが確実に変わる。その人の中で。よい方向に。

今回は、その喫茶店で時間を飛び越える魔法のあるコーヒーを入れられる数と、マスター(数の兄貴)流、その娘ミキたちの秘密や、白いワンピースの女の幽霊の正体や数との関係なども平行して語られて、そして結末を迎える。

みんな幸せになって。なれるから。
そう感じる暖かいラスト。

そして今回は前作より、強いテーマ性もあげられている。
故人の生きていたまでの人生に意味を持たせるのは残された者。残された者が幸せに生きてこそ、逝った者たちの死にも意味が生じるのだ。

残された者は、とかく自分を責めやすい。
すなわち、あのときこうしていればこの人の命は失われずすんだかもしれないのに、とかこの人が死んだのに生き残った自分だけが幸せになったらいけない許されない、とか。

でも本当は違うのだ。その人が亡くなったことであなたが不幸になったら、その人の死はあなたを不幸にするためだけのものとなってしまう。けれどそれを乗り越えて幸せになればその人の死には別の輝かしい意味をもつのだと。

白いワンピースの女は、要という数の母だった。でもまだ数を身ごもっていたころの数に元刑事で過去の妻に会いに行った清が会ったことで、数の凍っていた時が動き出す・・・幸せになることを誓った数。

そしてやはり私も・・・行きたい。フニクリフニクラ。まだ幸いなことに?過去に戻って会いたい人はいないのだけど・・・。

no.793
 

■ 秋吉理香子
「絶対正義(幻冬舎)」 評価:★★★★★
Date:2017.05.13
秋吉さんはやはり女のイヤ汁系の物語を書かせるとぴか一だ。
暗黒女子もしかり。
でもある意味今回はそのとき以上かも。
この嫌悪感と不快感、どこか現実離れしてる設定なのに、やけにシュールにリアルなのは、その部分が生々しいからか。

中学時代から仲良しグループだった和樹、里穂、由美子、麗華。途中から入った範子。でも範子は頭もよくて面倒見がよくて、正義感が強くて毅然としてて、理想的な人材だった。
和樹は痴漢から救われたし、里穂は給食費泥棒の冤罪を免れ、どころか範子は真犯人すら挙げてしまったのだ。麗華は願わぬ妊娠をしてしまい、堕胎するのに付き合ってくれ慰めてくれた唯一の打ち明けられた相手が範子だった。由美子はそれらをすべて崇拝に近く尊敬していた。

やがてそれぞれの進路で離れて自然に疎遠に・・・。
和樹はジャーナリストとして成功しており、里穂はアメリカ人の夫と共にインターナショナルスクールを立ち上げ成功をおさめていた。麗華は女優として脂が乗った状態だった。

久々の同窓会で再会して、再び5人の交際がスタートする・・・

始めは懐かしさで喜んでいたが、範子の正義主義っぷりはさらにすごくなっていて、ついに和樹たちの生活そのものにも侵食してくる・・・追い詰められてついに4人は範子を殺してしまうのだ。
それから会わぬと決めて範子失踪という形のまま、5年。

範子につぶされそうだった人生は、範子が消えたことにより順風満帆となっていた4人。。。ところが今度は範子から招待状が?!死んだはずじゃなかったのか?!
結局、それは範子ではなく、死んだ範子に瓜二つに成長した娘の律子だったのが・・・。

そこからがほんとのどんでん返し。恐怖の急転直下だった。
とんでもない落とし穴、恐ろしい。

正義から遠い人が今度は正義を引き継ぐのか。

最後不敵に律子がほくそ笑むのが怖かった。

「和樹は母のことを正義のサイボーグと、由美子は正義のモンスターと、里穂は正義のヌーディストと、麗華は正義の夜叉と呼んでいた。ならば私は正義の肉食獣か・・・。」

これは恐ろしかった。大団円の正反対の壱にある終わり方。でもやはり一読おすすめ、ただしあっというまに読み終わったしまうけど。面白いから。

no.792
 

■ 伊坂幸太郎
「サブマリン(講談社)」 評価:★★★★★
Date:2017.05.10
チルドレンでお馴染みの、家裁の陣内が活躍するシリーズ。
久々だったけど、うん、そう、これが陣内だとすぐ思い出す(笑)

ある少年が無免許で運転して歩道に乗り上げ、歩行者を轢き殺してしまった事件。
陣内の相変わらず、テキトーなんだか実は計算なんだかわからない破天荒な言動の中(おそらく、芯はどこかでずっと通っているものの、本人何も考えてない果てだと思うが)徐々に明るみに出る過去の交通事故の事件。

陣内のライトさに忘れそうだが、これは実はテーマは重い。
交通事故による死亡事故。その加害者と被害者、両方の立場を知る陣内たち。
そして、そのどちらにも人生があり、事件によって狂わされるその後が重くあり、・・・共に悪人でなかったりもする。

でも死んだ人がいる以上、無かったことにはできぬのだ。

ほんと、ちょっとしたことで逆恨みされて起こる事件もある(永瀬さんが地下鉄の事件での中年男に襲われたように)その逆に何十年も昔の誰かの言葉が、確実な導きの光となって誰かを救うことだってあるのだ(陣内の言葉を、少年たちが忘れてなかったように)

大人だって、陣内のように忘れないでいたら、こうして奇跡だって起こるのかもしれない。無駄になってもいい、約束したからね。いや、無駄になるなんてことすら考えず、ただ約束だから遂行したんだ、陣内ってそういう人だ。おっさんだけど。

陣内の表面だけを、伊坂流の面白さで読むのもありだろうし、楽しいが、(税金の無駄遣いだから実在したら困るけど、こんな人いたら面白いなぁ、みたいな)
でも実は。自分や自分の身内が、もしも万が一、少年家裁にお世話になることがあるなら。陣内みたいな人が担当になってほしい。しっちゃかめっちゃかではあるし、ぐちゃぐちゃになる可能性もあるけど、それでも陣内がいいな。

夢中に引き込まれてあっというまに読めてしまった。伊坂さんはやっぱいいわぁ!!

no.791
 

■ 恩田陸
「蜜蜂と遠雷(幻冬舎)」 評価:★★★★★
Date:2017.05.07
クラシックのピアノのコンテスト。それをドキュメンタリーのように、各コンテスター視点で描いてゆく物語。
それだけならまだ実力あるコンテスターの個性ぶつかる闘いの様子・・・に過ぎないのかもしれないが、この物語の肝はそれではなく。

今回のコンクールには亡き偉大なピアニストのユウジ・フォン・ホフマンの遺志があった。彼は死に際に爆弾を仕込んだのだ。異例の推薦状。それにより、何も過去歴のない新人の16歳の日本人の少年、風間塵。彼が彗星のごとく現れたのだ。
しかしその演奏は・・・。
賛否両論なのだろう。しかしまごうことなく天才だった。しかも天才ゆえにおのれの才能を自覚はしてない。

果てしなく広く自由。音楽が自然なのだ。英才教育など受けていないのに、充分満足な練習や学習をしていないのに、その音は人々の心を瞬時につかむ。

塵にひきずられて、触発されて、隠し秘められてきた才能が爆発する栄伝亜夜。
かつての天才少女は母の死のダメージで表舞台から姿を潜めていたのだ。しかし塵が引き出した。亜夜の音楽への躍動。気持ち。

亜夜に恋する若きプリンス、ハーフのマサル。彼も塵とは違う意味での天才なのだ。

そしてサラリーマンをしながらのピアニストを志す、これまたかつて天才といわれたことのある心優しき28歳の(この世界ではかなり年長のコンテスター)高島明石。

1次からどんどん絞られてゆき、2次、3次と抜けて、本選に残れるのはたったの4人。

読んでいて、とても長編なのにあっというまに読めてしまうのは、それぞれのコンテスターたちに感情移入してその緊張や高揚を共有してしまうからかもしれない。

そして彼らの誰が一等でも納得する気持ちになるからこそ、結果がわからなくてどきどきするのだ。
そう、誰でも遜色なく、誰でもすばらしすぎてそれぞれダントツに感じるのだから。

結果はぜひ。きっと納得できるものであるはず。

音楽に疎くても、明るくても。好きでも嫌いだったとしても。それでも引き込まれて夢中にページを繰ることを請合う。
文字を読んでいるのに旋律が耳に届く。不思議。

直木賞を受賞したが、なるほどこれなら・・・と心から思える作品だった。

「音楽。それはたぶん、人間をほかの生物とは異なる、霊的な存在に進化させるために人間と一緒に生まれ落ちてきて、一緒に進化してきたのだ」

マサルが急に天啓を受けたこの思いは、私にもすとんと落ちてきたよ。

no.790
 

■ 呉勝浩
「白い衝動(講談社)」 評価:☆★★★★
Date:2017.04.26
最近世間にこういうニュースあるよなぁという意味でリアルで怖い小説だ。
スクールカウンセラーをしている千早のもとに高校一年生のおとなしそうな男子、秋成が訪れる。
表情があまりなく、冷静な感じでとても賢い様子がわかる。彼はとりとめもない話のあと、そのとき学園をにぎわせているヤギ殺しは自分だと告白、そして自分には人を殺してみたいという殺人衝動があることを語り始める。

思春期特有のそういう願望に過ぎないのか、それとも将来重篤な犯罪を犯す前兆なのか、見極めがデリケートで難しい。
カウンセリングを続けることとなる。

昔、入壱という男が猟奇的な犯罪を犯したことがある。恨みもなにもない家庭に押し入り、娘をきりつけ足の指を一本ずつつぶし、目をつぶし、鼓膜を破った。
娘は死ななかったが、いえない傷を体にも心にも負った。しかし死んでいなかったので罪としては軽く、服役を終えて千早の住む近所に住んでいるという。彼は金属バッドを持って徘徊しているといううわさもあり、恐れられている。

千早は入壱と秋成がなぜか重なる。
そして救いたいと思う。
夫はマスコミ業界で、意見が合わない。彼はそういう人の更正は無理として排除したいという考えなのだ。
そのため夫婦関係もぎくしゃく・・・。

そんな矢先、学校の学園祭で血まみれのヤギの死体を抱えた入壱が・・・。

深い問題だ。
秋成の殺人衝動は本物だと千早は見抜く。それは・・・かつて自分にもその衝動があったから。
何かがトリガーになり発動すると自分のことをそう思って生きてきた。
だから秋成を救いたかった。

かつての入壱の加害者の親戚、そこにも長らくの地獄があった。

そう・・・ヤギ殺しは入壱ではなかった、それは仕組まれたわな。千早はそれを見抜く。それがだれによるものかも。

カウンセラーに世間話をしにきてたいまどきの女子中学生の加奈。
これは盲点だった、読者にとって。
はじめからずっと登場していて、ある意味伏線だらけなのに見抜けなかったのだから。

そう、加奈は本名が・・・。

ここがどんでん返しなのだが、ほんとラストまで出てこないので、秋成こを危険と思っていたのだが・・・。

このまま秋成は無事育つだろうか。
入壱は世の中で受け入れてもらえるのだろうか。
千早は自分を許せるだろうか。夫とうまくいくだろうか。

いろんな問題をはらんだまま、とりあえず収束して物語は終わる。

重いけど、切実。
誰にだって、にくい人がいたりもして、そいつには死んでもらいたかったりもして、いっそ殺しちゃいたいと理性の向こう側で思っていたりはするものなのだろうから。

あっというまに読めてしまった。

no.789
 

■ 恒川光太郎
「無貌の神(KADOKAWA)」 評価:★★★★★
Date:2017.04.17
短編集で、どれもいわゆる神様というより、いにしえから在る自然というか・・・人智を超えた、人間よりはるか昔よりきっと在った理であったり存在であったり・・・そういうモノのことが書かれる。

白い街をさまよう私は、出会ったアカネという女性のおかげで徐々に失った記憶を取り戻してゆく・・・が、どうも自分は犯罪者でこれが新しい囚役のようなのだ・・・が、どうもなじめない。抵抗する。洗脳?最後、ちょっと不穏でわかりづらいラストだが、記憶を食いに追ってくる影男は私にとっては実在するのである。

ある集落で、記憶はないが、なにかもとの世界は炎につつまれ逃げてここに来たのだけは覚えている。アンナという大人の女性に育てられるが、彼女は集落のはずれに架かる赤い橋を渡って帰れという。ぼくは行かなかった。ここには顔の無い光る神様がいて、この神様がどんな病もけがも治してくれる。争いもないし、居心地がいい。でも・・・この光る顔なしの神様は人を食らう。治すけど食らうのだ。そしてアンナは神様を倒し、自分が神様になる。神様の肉を口にしてしまったぼくにはもう赤い橋は見えず、逃げられないことを知る。でも新たに来たガモウという少年とともに逃げるのだが・・・。

江戸時代、島流しという刑があり、冤罪の者も数多くいた。そこに家族からの差し入れを船で届ける仕事もあった。ある依頼で青い天狗の面を託されるが、なんとも妖力をはなつ面で・・・。案の定、恐ろしい事件が多発する。

田舎で純朴な少女だったフジ。時影という謎の男に見出され、殺し屋の仕事をするのだ。その依頼はおかしなものだった。言われたところに行き、事情は知らされず、ただそこに来たものを殺すのだ。77人殺したら開放するといわれ、ただただ殺す。足がつくこともなかった。
あるとき、ある女を殺せと言われ、それは77人と関係ないという。その女に幼い子供がいると気づき、殺せなかった。そしてフジはこの仕事をやめたのだ。
やがてある男の妾となったとき・・・今まで殺してきた者が死んでゆくことに気づく。政治家だったり軍人だったり。過去に殺したはずなのに、今謎の暗殺をされてゆくと知る。
時影は何者だったのか。そしてあの女というのが、今の男の本妻と知り・・・時影からの褒美の殺人依頼であったことも知る。時影はもう新たにまた違う殺人者を育てているようで、その刺客が自分のもとにくる・・・。

ぼくは記憶も形もない。風のようなもの。ところがぼくの姿を認知する少年、裕也と出会い、ある事件に巻き込まれてゆく。ぼくは姿を持たなくてやがて消滅するものなのだが、ひとつだけ、人間の中に飛び込めばその人間の人生をのっとれる、その人物にその後なりすまして生きることができるのだ。
ぼくは裕也を殺そうとした桑田に寸前に飛び込み、裕也を救う。さて、あとは逃避行の人生だ。しかし後悔はない・・・。

ある国の足が悪い皇女、カートリー。
言葉を話せる獣、カイムル。
カートリーには千里眼があり。この国はやがて反乱で滅びると知っている。しかしいくら政治をあらためるよう進言しても親兄弟は聞いてくれない。
カイムルと逃げ出した。ある集落で身分を捨てて暮らした。
聡明はカートリーとカイムルはいつでも一緒だったが、人間のカートリーが先に逝き・・・やがてカイムルも眠るときがきたとき、二人で再会して風となるのだ。

私はこうした伝奇小説的なのが大好き。
恒川さんはそうした世界をつむぎだすのがとても上手いから好き。

no.788
 

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