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食品加工工場(東西天狐)第一稿 (No.2294 への返信) - アポロ

#以前にいただいたものを代理投稿させていただきます。おつかれさまです!(アポロ)


*加工食品区画

「やくしょくどーげん、ね!」
「今は医食同源、だね。まあうちが薬食と云うと普通に誤解招きそうだからねえ」

 食品加工工場群において最大の規模を誇るこの区画には、必然的に多くの人の手が必要とされた。
特に機械に頼り切ることを良しとしない政府の方針から、昔ながらのマニュファクチュア方式が採られたのである。
入荷、仕分け、計画、加工、出荷、そのうちの多くの手作業を担当するのは女性国民達だ。
一定の年齢以上の希望者ならばほぼ必ず採用され、職場の先達から料理の基礎を学びながら働くのである。
後に玄霧に料理下手な嫁はなし、と言われる礎はこんなところにあったりする。

 彼女達の朝は早い。
家族の中で最も早く起き出すと、母は家族の食事を、娘は自分と母の食事を作り出勤、登校する。
午前中は主に食品の仕分けと下ごしらえ、昼休憩を挟み午後からは加工に入る。
午前の作業は熟練するまでに特に時間と経験を要する。
良品と悪品を見定め、それぞれの食材に適した仕込を施すこの作業、一般に一人前に達するのに3年はかかると言われている。
 昼食の時間、その日の弁当を食べながら母が娘に色々と指導を行う光景があちこちで見られる。
また、食堂で食事を採るのは朝寝坊をしたか、加工工場最強の調理技術を持つ「食堂のおばあちゃん」の技術を少しでも盗もうとする猛者達である。
 午後の作業は短い。
午前中に用意した物を完成させる過程であり、ここでは勘と舌での勝負となる。
極限まで設定調整された栄養と味のバランスに仕上げるべく、一つのミスも許されない。
小さじ1杯の塩が全てをダメにしてしまうことを知っている娘達の目は、決闘に挑む戦士のそれと比べても遜色はあるまい。
失敗させた場合は自分達の夕食になるのだから必死である。
こうして完成した物は最後に機械に分類され、梱包され、出荷されていく。

 そして太陽が西に傾き出す頃、彼女達は退社する。
男共が無茶も出来るように、今日も彼女達は変わらずに家の仕事もこなすのだ。


*保存食区画

「サラミ!チーズ!ソーセ−ジ!」
「全部ツマミじゃないの」

 共和国を襲った大規模な食糧危機の反省から、玄霧藩国でも長期的に保存の利く食料の生産は急務となっていた。
しかしながら近年の保存方法、つまり大量の人工保存料や添加物を用いる方法は健康維持の観点から却下される。
そこで古くから伝わる塩蔵、燻製、乾燥、発酵といった天然の手法や真空凍結や冷凍保存に改めて目が向けられることとなった。
 これらを行うにはともかく男手が必要である。
故に隣の加工食品区画とほぼ変わらぬ規模でありながら、こちらは妙にむさくるしい空間となった。
肉、魚、野菜、果物、海産物etc…際限なく輸入、輸送されてくるそれらを男達が加工していく。
ここの保存食を最も多く消費するのもまた彼らであるため、自然とその仕事ぶりは白熱する。
そう、期限の迫った保存食は酒のツマミとして格安で販売され、彼らの晩酌の伴となるのだ。
 区画の外れの倉庫地帯に増設された保存庫に、今日もまた男達が大量の保存食を格納していく。
これらが非常食として用いられることの無いように、祈りを捧げながら。



*栄養補助食品区画

「ねえねえ、これって食べ物なの?」
「要するにお菓子みたいなもんよ」

 医療技術一辺倒から脱却を目指しつつ、その技術を他分野に応用する。
ここはその理念をある意味で最もよくあらわしていると言えるだろう。
ここに勤める者の多くが医療方面の知識にも明るいのだ。
 とはいえその見た目は食品と言うよりは薬と言った方が正しい。
反面、人体に必要とされながら不足しがちなビタミン・ミネラルなどを補うために特化しており、効用は高い。
医療品ではなく、普段からの生活の中で病にならない体を作るために−それは本来の意味での『おやつ』とも言えたのかもしれない。
 なお、ここは人の手を新商品の開発に多く回しているため、製造の段階においては機械が負う部分が多い。


*酒造区画

「ヒャッハアアアーーーーッ!!酒だ酒だーっ!」
「どこの世紀末の悪党よアンタ」

 酒造に関しては古くから技術を伝える酒造業者達に一任された。
藩国からは場所と必要な機材を貸し出し、特に力を入れる貴腐ワインなどに援助や買取を行う。
良くも悪くも酒はこの国を表すものであるがゆえに、極力干渉を行わないようにしたのだ。
 今日もブドウ踏みに合わせて陽気な歌が聞こえてくる。
麦刈り稲刈りに合わせてゆったりとした拍子が鳴る。
なお、彼らの一番の楽しみとして、その年一番の酒については酒呑豊穣の祭において国民たちで味わうことがある。
それは、どんな苦しい時も決して諦めなかった彼らを支えた習慣の名残であった。


-玄霧の酒を知らずに死ぬとはなんともったいないことか
      一度はおいで、共和国の酒蔵玄霧藩国-


[No.2299] 2009/04/12(Sun) 16:11:20

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