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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/12(Fri) 19:24:35 [No.426]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/13(Sat) 07:49:30 [No.427]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/25(Thu) 11:27:10 [No.429]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/30(Tue) 19:20:34 [No.432]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/21(Wed) 18:31:40 [No.435]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/27(Tue) 07:49:37 [No.437]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/31(Sat) 14:30:24 [No.442]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:19:31 [No.448]
石版 「カーテンコールの後に幕... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:20:19 [No.449]
感想 - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:29:13 [No.450]


石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十六 (No.427 への返信) - 文矢

「のび太をじおすさんと同じよう……に? 嘘だ……ろ?」
 ドラえもんは言う。信じたくない。そんなもの、絶対に。のび太がもう帰ってこないなんて。何処か別空間で生きているのかもしれない、だがこちら側からすれば死んでいるも同然。そんな状況に、のび太がなった―― ドラえもんの頭の中がグルグル回る。
「嘘じゃないさ。のび太は帰ってこない」
 イカたこは言う。この言葉は嘘だった。剛田清の策によって、イカたこの道具のダイヤルを狂わされ、のび太は結局帰ってくる。だが、イカたこは彼らに絶望を与える為、嘘をついた。
 この嘘は効果的だった。ジャイアンとドラえもんは絶望し、声も上げられなくなる。まるで、「待て」と言われた犬のようにおとなしかった。
 悪趣味だな、私は―― イカたこはそんな事を言いながら「注文の多い料理店」を開く。この本には、いくつかの短編が収められていたが、イカたこが開いたのは題名にもある「注文の多い料理店」だった。そして、そこに書いてあった文章を読み上げる。
「『いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください』」
 イカたこの読み方は、上手かった。小学校の授業で音読をしましょう、という時に読んだら先生が「凄すぎるわ、イカたこさん。何処かの劇団に入ったらどう?」と言うぐらいのレベルだった。緊張していなければ、物語の世界に引き込まれてしまいそうなぐらい。
 それは、「注文の多い料理店」の一節だった。二人の紳士は今まで店側の言うままに行動していった。だが、この文章を読んでやっと「こいつはおかしいぞ」と気づく。そして、気がついたら『二つの青い眼玉』がこちらを見ているのだ。
 そして、イカたこはただこの文章を読み上げたわけではなかった。これは、合言葉だった。いや、合図というべきだろう。運動会の徒競争で先生が「よーい、ドン」と言うかのような、合図。もうスタートしていいですよ、という合図。
 一瞬。反応する間もなく、一瞬。ドアが閉まった。ドラえもんとジャイアンは入って来た時、ドアを開けっ放しだった。そう、誰かが閉めたのだ。
 コツンとドラえもんの頭に何かが当たる。それは『熱戦銃』だった。ここでようやく、ドラえもんとジャイアンはドアからイカたこの仲間が現れたのだと気づく。汗が頬を伝っていく。
「はいはーい、動かないで下さーい」
 その声は明るかった。部屋の空気と全く違う、能天気な明るい声。明るすぎる声。
 声の主は、すずらんだった。すずらんは最初からイカたこに命令され、こういう役割をすることをしていたのだ。そして、さっきイカたこが読み上げた文が合図で行動したのだ。
「すずらん、よくやった。ありがとう」
「どうもいたしましてー」
 まだ、ドラえもんの頭には銃を突き付けられていた。何かすれば、すぐに撃たれるような姿勢。ジャイアンは何もやられていなかったが、暴れたらドラえもんが危ないんじゃないかと思って何もできなかった。
 イカたこはニヤリと笑いながら、「注文の多い料理店」を閉じる。机の上に置き、歩き出す。ドラえもん達の目の前で。
「すまないな。今から君達は死んでしまう」
「うっせえ!」
 ジャイアンはイカたこを睨みつける。だが、イカたこは全くもって意に介さない。その表情にはこんな事しかできないのかという見下しさえも含まれている気がした。ドラえもんは撃たれるんじゃないかと不安に思ったが、とりあえずは撃たれなかった。
 イカたこは指を鳴らした。すると、机の近くにあった椅子が勝手に動き出し、イカたこのところへ来る。イカたこはそれに座る。足を組んでいるその姿は帝王の風格さえ漂っている。
「それでは、すずらん。撃ってくれ。二人とも、安心してくれ。痛みも感じないうちに死ねる」
「ふざけるなよ!」
 ジャイアンは叫ぶ。だが、さっきと同じようにイカたこの表情は変わらない。転校生として来たあの時と同じ。冷たい目で、冷たい表情をしていた。すずらんは笑顔で返事をし、引き金を今に今に引こうとしている。
「すずらん、という名前だっけ? 撃たない方がいいよ」
 そう言ったのは、ドラえもんだった。ドラえもんは汗をかきながら、口を開く。すずらんの行動が一瞬止まる。まだ銃口はドラえもんへと向けられているままだった。
「何でですか?」
 あの明るい声でドラえもんへと質問が返ってくる。ジャイアンとイカたこは突然のことに何も言えなかった。ドラえもんはこれはチャンスだと感じた。口八丁手八丁で、ごまかしてやる。ドラえもんは、そんな覚悟を決めた。
 ドラえもんは空気を目一杯吸い込み、言う。
「既に細工してあるよ。君のその銃には。『透明マント』でバレないようにね」
「え? そんな!」
 その時、すずらんは銃口をドラえもんに向けるのをやめた。そして、『熱線銃』を手にとり、確認し始めた。騙されたのだ。ドラえもんの、簡単すぎる嘘で。
 おいおい―― ドラえもんはそう言いながら神様へ感謝した。こんな簡単に騙されてくれるなんて! 銃口がドラえもんから外されて数秒。ドラえもんはそんなことを思いながら、改造ショックガンを構えた。銃口の先はもちろん、すずらん……
「すずらん! それは嘘だ、引き金を引け!」
 イカたこの叫びもむなしく、ドラえもんは躊躇なく引き金を引いた。
 すずらんは対応することができない。ほとんどガードも何もできないまま、エネルギーを正面から喰らう。当たった場所は腹。みぞおちは外れていたが、体中にショックが走る。そして、すずらんは倒れる。
 ジャイアンはすずらんが倒れたのを見ると、すぐにショックガンをイカたこに向けて構えた。ジャイアンの頬を冷や汗が伝っていく。だが、イカたこはその姿を見ていなかった。ポケットを探っているだけだった。
「お願いがある。すずらんには攻撃を加えないでくれ。今は気絶しているだけだが、下手したら死ぬだろう」
 イカたこはドラえもんとジャイアンに向けてそう言った。ドラえもんとジャイアンは突然な申し出に驚いて何もできない。
 そして、イカたこはポケットの中から道具を取り出した。じおすやのび太、アルタ、剛田清をも葬ってきた秘密道具。空間を、問答無用で移動させる悪魔の道具。イカたこは今、その道具を握り締めていた。
「今、とても反省している。何で君達なんかに構ってしまったのかとね。君達が基地の中を暴れまわることなんて無視して石版のところへ行けば良かったんだ。全く、自分の無能さに吐き気がするよ。いつも冷静なつもりだったのにな」
 イカたこはそう言うと、左手で秘密道具のダイヤルを回し始める。カチャカチャと無機質な音が部屋にやけに響く。そして、秘密道具を自分の方へと向けた。
「何をする気だ!」
 ジャイアンはそう言うと、ショックガンの照準を定めようとした。だが、イカたこはその声を全く聞かず、秘密道具を自分の体へ当てた。イカたこの体が光に包まれる。
「私は石版のところへ行くよ。もう一度言うが、すずらんをこれ以上傷つけるなよ。アリーヴェデルチ」
 イカたこは笑いながらそう言うと、部屋の中から消え去った。残されたのはイカたこの机、椅子。倒れているすずらん、ドラえもん、ジャイアン。そして、「注文の多い料理店」だけであった――


[No.429] 2008/12/25(Thu) 11:27:10

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