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呆然。何もすることもなく、ドラえもんとジャイアンはただボーッとイカたこの部屋にいた。ドアの近くには相変わらず気絶したすずらんがいて、机の上の「注文の多い料理店」もそのままだった。何も変わっていない。イカたこがいない以外は。 そんな時、廊下の方から轟音が聞こえた。何かが、倒れる音。ドラえもんとジャイアンは身構える。この音はのび太がナグドラを倒した時の音なのだが、二人はまだ分からない。そして、足音も聞こえる。 「な、何だ?」 ジャイアンが言う。だが、その返答も聞こえないまま、乱暴にドアが開く。 「ドラえもん、ジャイアン!」 のび太の声。安心した、心の底から安心したという声。のび太は右手に改造ショックガンを握りしめていたが、それを床に置き、三人で抱き合う。安心したという気持ちはドラえもんとジャイアンの方が強かった。のび太が死んだと聞かされたからだ。 抱き合うのをやめると、のび太は部屋を見渡した。そして、視界にすずらんと「注文の多い料理店」が入る。 ドラえもんとジャイアンは、どうして生きていたのかを聞こうと思っていた。イカたこが戻ってこないと言ったのは嘘だった。じゃあ今まで何をしていたのかそれを聞こうと考えていたのだ。 だが、ドラえもんとジャイアンはそんな事を聞けなかった。のび太が、改造ショックガンを構えたのだ。 銃口の先は、気絶しているすずらんだった。しかも、頭。脳がある場所。当たれば、確実に死ぬだろうという場所。そこを狙っていた。のび太は、冷酷に。 「何をするんだ!」 「見れば分かるでしょ。殺すんだよ、こいつを」 ジャイアンの言葉にも、のび太は答える。冷酷に。 ジャイアンは震える。ここにいるのび太はのび太じゃないんじゃないか? そんな気持ちまで湧き上がってくる。のび太は、こんな冷酷なやつじゃない。もっとのん気で、優しい奴だった筈。ジャイアンは混乱する。 ドラえもんも震えた。ジャイアンと同じ理由で。のび太の雰囲気が、違う。 のび太はそんな二人もお構いなしで、引き金に手をかける。のび太はすずらんを睨みつける。殺す、殺す、殺す、殺す! 殺してやる! のび太の中のどす黒い気持ちが暴れていた。 「やめろ!」 ジャイアンは、のび太を殴り飛ばした。のび太の眼鏡はカランカランと音を出し床に転がり改造ショックガンから発射されたレーザーが床を焦がす。ドラえもんは、ただ驚いてその行動を見つめるだけであった。 その場に倒れたのび太は眼鏡を拾い、すぐに掛ける。そしてジャイアンを睨みつける。 「なぜ邪魔するんだ! こいつはイカたこの仲間、しかも幹部だぞ!」 「殺す必要あるのかよ! のび太、お前おかしいぞ!」 もう一度殴ろうとするジャイアンをドラえもんが止める。二人は睨みあう。つい数十秒前まで抱き合っていた二人が。 「いいか、僕は見てきたんだ」 「何を」 ドラえもんがのび太の言葉に答える。のび太の目はまだ怒りの色を浮かべている。 「じおすさんの最期を! ずっと、ずっと昔にタイムワープをして僕は見た! 名無しさんっていう人の最期も! 村が燃やされる様子も! 全て!」 のび太の目には、涙が浮かんでいた。そう、のび太は見てきたのだ。時空間へと飛ばされ、紀元前までワープして。全ての様子を、見てきたのだ。次々と命を落としていく人の姿を。全て、全て。 憎い―― イカたこが、憎い。じおすを殺した、名無しを殺した、村の人々を殺した、イカたこ達が憎い。憎い。憎い。憎い。のび太の心は、愛と真実の血液で動いていた心は、今、憎しみという黒いもので埋め尽くされていた。許すことはできない、憎い! そんな気持ちが。 ジャイアンとドラえもんはのび太の言っていることがよく分からなかったが、それでも凄みは感じた。のび太が何か、とんでもないものを見てきたのだろうということは推測できた。二人は、何も言えなかった。 しばらくの沈黙の後、のび太が口を開く。 「イカたこは、何処にいる?」 「石版の所に……行くと言ってたよ」 「ああ、言ってたぞ。なあ、ドラえもん。でも場所が分からねえ」 ドラえもんが答え、ジャイアンが付け足した。のび太はそれを聞くと、ドラえもんに向けて手を出した。そして口を開く。 「石版の場所は分かる。タケコプターを出して」 ドラえもんは言われるがままにタケコプターを出し、のび太はすぐに頭に付ける。ジャイアンとドラえもんもそれに釣られて頭の上に付け、のび太と共に部屋から出て廊下を走る。 走りながらドラえもんは何かモヤモヤしたものを抱えているのを感じていたが、口には出さなかった。口に出したら、何か大きな物に押しつぶされる。そんな変な感じがしたからだ。 壁に穴が空いているところから三人は外に出て、タケコプターのスイッチを入れて空へと飛び始めた。 のび太の目はまだ憎しみの色に染まったままだった…… [No.435] 2009/01/21(Wed) 18:31:40 |
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