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「イカたこぉぉ!」 のび太の叫びが穴の中に響いた。のび太は着地し、穴の中に入っていく。奇妙な螺旋の跡がついている穴の中に。 タケコプターを外し、どんどん穴の中に入っていく。走ると駄目ということをのび太は過去に戻って知っていたので決して走らなかったが、一歩一歩にはやはり力がこもっていた。その力は、どす黒い力。何よりも、何よりもどす黒かった。 いた―― のび太は心の中で大きなガッツポーズをとった。いた。いた。いた! あいつが。憎むべき、あの野郎が。イカたこが、いた。そしてその前には石版がある。だが、のび太は石版など気にしなかった。目的のイカたこだけを睨んでいた。 「殺す! イカたこ、振り向け! 早く振り向くんだ!」 のび太は叫び、改造ショックガンをイカたこへ向ける。手は全く震えていない。銃口はただ、冷酷にイカたこに向いていた。決してぶれない。まるで、何かに固定されているように。ぶれない。 まるで、四十七士が吉良に会った時のよう。まるで、秀吉が明智の軍に出会った時のよう。まるで、源氏の軍が平氏の軍に出会ったよう。のび太の気持ちは、そんな気持ちだった。仇を討つ。それができたら死んでもいい! 振り向け、早く、振り向け! その体を早く見せろ! 無防備な心臓を、首を、人中を! 体の急所を見せてくれ! のび太は急所の名前など知らない。だが、何処を当てればいいのかは分かっていた。 「振り向け!」 「『ここに書いてある物を決して当社、当星に向けないということを約束してほしい』」 イカたこは振り向いた。そして、喋り出した。のび太はボーッとその話を聞く。 「『まず、用意する物は鉄だ。この鉄は重要であるが、どの星にも存在する物。この鉄を一トン用意してほしい。ピッタリだ。一トンのみ。そしてそれを圧縮する。その体積を一気に減らす。質量は減らさない。圧縮するのだ。体積を一立方センチメートルまで圧縮してほしい』」 「何を言っているんだ、イカたこ!」 「『鉄を圧縮し終わったら次は水素だ。水素を発生させ、それを鉄に含ませる。そしてそれをさらに圧縮する。水素を含ませた鉄を一ミリ立方メートルまで圧縮だ。これを百個作る』」 「何を言っているんだと言っているんだ! 答えろォ!」 のび太の体はがくがく震えていた。さっきまでは震えていなかったのに。イカたこが言い始めた時から震えはじめたのだ。 「この後は言えないな。聞きたまえ、のび太君」 「何なんだ、イカたこ!」 「今、私が読み上げたのはこの石版に書かれた内容の最初の部分だ。実に素晴らしいよ」 イカたこはそう言いながら、地面に置いてあったレリーフとヒエログリフの解読書、そして紙をポケットの中にしまう。そして、のび太の方へ歩み寄る。手を、ポケットに入れたままで。 ドラえもんとジャイアンは入れなかった。その穴の入口で、ただ呆然と立ち尽くしていた。まるで高校のグラウンドで行われているサッカーを見ている中学生の様に。ただ、ボーッと見ていた。イカたこが口を開く。 「いいか、この石版を作ったのは宇宙人なのだよ。恐らく、何処かの星へ行く途中で墜落したのだろう。そして、回転しながら山に激突し、この穴を作った。穴の入口、私の手首にあるのはその宇宙船のパーツだろう。全て、私は理解したよ」 イカたこは得意気笑い、さらにのび太に歩み寄っていく。やはり、手はポケットに入れたままだ。 「それがどうした?」 のび太は改造ショックガンをイカたこへと向けなおす。手の震えを精神力で止め、イカたこの心臓へと狙いを定める。心臓を、撃つ。心臓にショックを与え、止める。そして殺す。のび太の手に力が入る。 「宇宙人がどうだとか、そんなことは関係ない。あんたを殺す! それだけだ!」 のび太は、引き金を引いた―― のび太は、泣いていた。ただ、とめどなく涙を流していた。 時空間から紀元前のアドバン村に出た瞬間、のび太は家の前に立っているじおすと名無しの姿が見えていた。じおすというのはすぐに分かったが、名無しという名前すらも分からない筈だった。ただ、何故か分かった。彼の名前は名無しだと。 そして、始まる大虐殺。空から飛んできたミサイル研究所、のび太はその光景を見ているだけ。じおすが死にゆく姿を見ているだけだった。 のび太は泣いた。ただ、泣いた。 そうやって泣いていると何故か場所が変わる。すずらんと名無し、そして数人の男達が見えた。そして、その男たちも殺されてゆく。 のび太は案山子のようにただ立っているだけ。ただの案山子。案山子。案山子。何も、できない…… のび太は泣いた。ただ、とめどなく涙を流した。 「無駄だよ、私の道具にかかれば攻撃は効かない」 イカたこはのび太のショックガンから出たエネルギーを、あの道具で別空間へと飛ばしていた。そして、冷酷な目でのび太を見つめる。感情のこもらない、冷酷な目でのび太を見つめる。 歩みは止まらない。イカたこは、どんどんのび太に近づいていく。あの秘密道具を構えて。どんどん、どんどん、どんどん、歩いて行く。 「うるさい! 死ね! 死ねぇぇ!」 のび太は叫ぶ。怒りにまかせて、叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。脳裏に過ぎるのはあの村の大虐殺。許すことなどできない、あの虐殺。虐殺! 虐殺! 許せない! のび太は引き金を引いた。ただ、引いた。だが、それもイカたこに防御され、銃声が空しく穴に響くだけだった。 [No.437] 2009/01/27(Tue) 07:49:37 |
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