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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/12(Fri) 19:24:35 [No.426]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/13(Sat) 07:49:30 [No.427]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/25(Thu) 11:27:10 [No.429]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/30(Tue) 19:20:34 [No.432]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/21(Wed) 18:31:40 [No.435]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/27(Tue) 07:49:37 [No.437]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/31(Sat) 14:30:24 [No.442]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:19:31 [No.448]
石版 「カーテンコールの後に幕... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:20:19 [No.449]
感想 - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:29:13 [No.450]


石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の二十一 (No.442 への返信) - 文矢

 今の揺れは?―― イカたこの部屋。すずらんは、目を覚ました。地震の揺れは当然基地の方にもあり、それによってすずらんは目が覚めたのだ。すずらんは状況を確認する。手には拘束道具がはめられている。前を見ると、どらEMONが立っていた。その後ろには震えながら静香とスネ夫が立っていた。
「起きたか……」
「あっあなたは! 何でここにいるんです?」
「この基地の幹部やロボット部隊は俺達が制圧した、ということさ。もう対抗するなよ」
 どらEMONの口調は優しかった。ミサイル研究所を殺した時の反動、というべきなのだろうか。とにかく、どらEMONの口調は穏やかだった。
 テーブルの上には「注文の多い料理店」が置かれている。すずらんが拘束されているのとどらEMON達がいること、そして机の上にマイクが出ている以外は何も変わっていなかった。机の上のマイクは、イカたこが放送用に使っていたものだ。
 マイクを掴み、どらEMONは口を開く。
『基地にいる者、全員に告ぐ。軟体防衛軍は我々、タイムパトロールが占領した。幹部達は全て殺されているか、拘束されている。抵抗や逃亡はやめて、基地の中でおとなしくしていてほしい。我々は既に君達全員の個人情報を得ている。もう一度繰り返す――』
 言い終わると、どらEMONはため息をつき、椅子に座る。イカたこが座っていた椅子だ。机の上にある「注文の多い料理店」に手を伸ばす気にはなれなかった。気がかりがあるからだ。
 永戸! 最後の命令だ! ドラえもん君達を守れ! 絶対にだ!―― どらEMONの頭の中で仲間たちの声が響く。
「ドラえもん君、のび太君、剛田君…… 今、君達は何処にいるんだ?」

「逃げるぞ!」
 穴。ジャイアンはそう叫び、穴の入口へと向かう。ドラえもんとのび太も穴の外へと向けて走り出す。穴は、崩れようとしていた。ポロポロと落ちる石、泥。間違いなく、崩れるところだ。
 穴の入口のレーザーはポロポロと落ちてくる石ころなどに反応してそれらを砕いていく。のび太は速度を調節して、罠の部分を乗り越えた。
 これは、壮絶な光景だった。アニメや漫画とかで出てくるような崩れ方。地響きが耳をつんざき、巨大な土の塊が螺旋模様の地面を埋めていく。この世の終わりなんじゃないかと思ってしまうぐらい。
 改造ショックガンがのび太の手元から落ちる。落ちると同時に上から降って来た巨大な石に破壊される。一瞬で。やばい。のび太の頭の中でその三文字がぐるぐる回り始める。
「あ」
 イカたこは大丈夫なのか?―― のび太の頭にそんなことが過ぎる。さっき、自分がイカたこを倒した。イカたこも、やばいんじゃないか? 押しつぶされて、死んでしまうんじゃないか? のび太は考える。
 いや、別にいいじゃないか。イカたこが死んでも。そんな言葉も出てくる。お前はイカたこが死ぬことを望んでいた筈だ。いいじゃないか、イカたこが死ぬのはいいことじゃないか。何を気にする?
 いつの間にか、立ち止まっていた。前からはジャイアンが叫ぶ声が聞こえる。のび太の頬の一ミリ横を石が落ちていった。
 どうするんだ? のび太は考える。イカたこは仇だぞ。つい数分前まで殺そうとしていたじゃないか。それなのに何を今さら! 馬鹿じゃねえの? そんな考え。そして、助けるべきなんじゃないか、という考え。
 じおすさんを殺した。名無しさんを殺した。村の人々を殺した。タイムパトロールの人たちを殺した。部下を使って、僕たちを殺そうとした。たくさんの人を殺すつもりだった。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。イカたこは、そんな奴なんだぞ!
 何を迷う? 進むんだ。穴の外に出よう。それで決着だ。
 何を迷う? 戻るんだ。穴の中に入れ。それでこそ人間だ。
 あいつが何をしたと思っている? 今、中に入ればあいつを救えるかもしれない。あいつはたくさんの人を殺したんだぞ? 今、中に入れ。お前は今までそういう奴だったろ?
 回る。回る。のび太は思う。頭の中でいろんな単語、文が! ぐるぐる回る。回る。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 のび太は叫んだ。思いっきり。大声で!
「よし、行こう」
 穴の中へとのび太は駆けだした――

 使いすぎたな―― 穴の中、イカたこは思う。手元にある秘密道具。空間を飛ばすやつ。それの残りエネルギーは少ししか残っていない。人を一人ぐらい飛ばすだけ。それぐらいのエネルギーしか残っていなかった。使いすぎと、さっき落としたせいだった。
 イカたこはポケットの中を探ってみるが、空間移動系の道具はこれしか持っていなかった。イカたこは座っていて、背もたれに使っているのは石版だった。石版は変わらず奇妙に輝いている。
 少し休憩してから外に出るか。そう思っていた時だった。前から足音が聞こえる。音の方を向いてみると、のび太が走っているのが見えた。イカたこは一瞬呆れる。
「何で来た?」
「たっ助けに来たんだよ!」
 のび太がそう叫んだ瞬間、大きな音がして土や石が一気に落ちてきた。のび太の後方だ。穴は完全に塞がっていた。まるで、試験管にゴム栓を詰めたように。
 イカたこはため息をつく。こいつは、本当に何しに来たんだ、と。石版がある方にも、パラパラと石や泥が落ちてくる。ああ、こっちも崩れてくるなとイカたこは感じる。
「お前は改造ショックガンを持っているのか?」
「あっ……落とした」
「落とした? 残念ながらこの秘密道具は一人分のエネルギーしか無い。そこの石とかも全てはワープさせれない。意味が分かるか? 絶対にどちらかは助からない、ということだ」
 沈黙。しばらくの、沈黙。イカたこは呆れていた。本当に、お前は何しに来たんだ、と。
 改造ショックガンさえあれば、これで崩れたところを壊したりして助けるんだ、とかいう言いようがある。しかし、何も無いだと? 本当に何をしにきたんだ。呆れた。冷静に。呆れた。ため息をつく。
 見捨てるしかないな。イカたこは考える。ここで自分が死んでどうなる? 石版の中身が分かるのは俺しかいないんだ。今、ここから出さえすれば石版の中身から兵器を作れる。そして、自分の考え通りの世界にできる。理想の世界にできる。
 のび太は慌てていた。動揺。自分はどうすればいいのだ? 動揺。一歩、後ろへと下がる。後ろに向けた手に冷たい石の感触が走る。それは、死の感触に思えた。
「そもそも、何でここに来た? 憎かったんじゃないのか?」
 イカたこは言う。これは、心底疑問に思っていたことだった。皮肉とかそういうわけじゃなく。心の底から。何で助けに来た? それともそれは嘘で、とどめを刺そうと来たのか?
 パラパラと、石が落ちてくる。その様子はまるでこの世の終わりのようでもあり、始まりのようでもある。
 穴の中の石版がのび太達二人を照らしているかの様に明るかった。石版は不思議な光を放っている。いくら石が落ちてきても、傷つくことは無いだろう。永遠に。
 のび太は詰まる。そして、若干の沈黙の後、口を開いた……
「もし、そこに困っている人がいるんならさ。死んでしまう人がいるのならさ! 助けるしかないじゃないか!」
「っ……!」
 カチリという音が穴の中に響く。のび太の腹に、秘密道具が当てられていた。足元から光り出し、消えていく。空間転移だった。
「さよならだ。じゃあな」
「イカた――」
 言い終わる前に、のび太は消え去っていた。場所は、穴の外。心配気な顔で待っている二人の仲間の元。
 そして、消える直前ののび太の目にイカたこはあの日の猫のように見えた…… だが、その顔は何処か満足気にも見えていた……

 ああ、いい気持ちだ―― イカたこは思う。もう光を放ちはしない秘密道具は、手元からコロコロと転げ落ちた。
 パラパラと、土が降ってくる。その様子はまるで雪のようでもあり、雨のようでもある。
 やけに、爽やかな気持ちだった。頭の中で響くのはのび太の言葉。もしそこに困っている人がいるのなら、死んでしまう人がいるのなら、助けるしかない。何回も、何回も響いてくる。
 寄りかかっている石版は、やはり奇妙な光を放ち、イカたこを照らす。
 間違っていたのは俺なのか? それとも彼らなのか? そんなものはどうでもいいさ。自分の人生に後悔は無い。十分、価値があったじゃないか。最後はあの少年を助けられたんだ。
 ああ、いい気持ちだ―― イカたこはもう一度そう心の中で呟くと、目を閉じた……


「では、授業を始める。が、その前に転校生を紹介しよう。前村君、来てくれ」
 学校の先生の声が、のび太の耳に聞こえてきた。あの出来事から、既に一か月が経っていた。あの二人の転校生は無かったことになっていた。戻ったのだ、日常に。何の関係も無い別の転校生が、教室に入ってくる。
 のび太は外を見ていた。頬づきをし、ボーッと外を見ていた。空は何処までも青く、どす黒い髑髏なんかは見えやしない。平和な、何処までも平和な光景だった。
 鉛筆がころころと転がり落ち、床に落ちる。隣の席の女子がそれを拾い上げ、のび太の机に置く。
 思い返すのは、あの数日のこと。何度も命の危機に直面し、何度も泣いた、あの数日間。ボーッと空を見ながら思い返す。長かった、あの数日間。自分が生きていることが奇跡だと何度も言った。
「じゃ、あそこの席に座ってくれ」
 のび太の横を、転校生が通り過ぎる。何かの声が聞こえてくるかな、とのび太は密かに期待していたが何も無かった。


 全ては日常に戻り、始まりの時に彼らが感じていた『何かが』起こりそうな気配も既に無い。全ては、首謀者の死という形で終わりを告げたのだ。
 事件の解決には様々な死があった。数々の人が死んでいき、その死のおかげで解決したともいえる。その死んだ者たちは、満足したのだろうか? 
 そして、イカたこ。彼は、何に満足したのだろうか? 何故、安らかに死んだんだろうか?
 全ては、想像するしかない……

石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 一時閉幕


[No.448] 2009/02/09(Mon) 18:19:31

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