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No.426に関するツリー


WINGBEAT COFFEE ROASTERS

   石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/12(Fri) 19:24:35 [No.426]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/13(Sat) 07:49:30 [No.427]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/25(Thu) 11:27:10 [No.429]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2008/12/30(Tue) 19:20:34 [No.432]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/21(Wed) 18:31:40 [No.435]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/27(Tue) 07:49:37 [No.437]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/01/31(Sat) 14:30:24 [No.442]
石版 第六幕「彼は満足したのだ... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:19:31 [No.448]
石版 「カーテンコールの後に幕... - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:20:19 [No.449]
感想 - 文矢 - 2009/02/09(Mon) 18:29:13 [No.450]



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石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十四 (親記事) - 文矢

「ここか?」
 ジャイアンが息切れした声で言う。
 目の前には、ドアがあった。ドラえもんも息をきらせながらそのドアを見る。軽く触れると、「イカたこ」という文字がドアに表示される。イカたこの部屋、なのであろうか。
 ドラえもんの心の中に疑問が浮かぶ。本当に、ここはイカたこの部屋なのだろうかという疑問。確かに、ドアにはイカたこと書かれている。だが、これは罠なのではないだろうか。この中に入ったらすぐさま首ちょんぱとかいう展開にならないだろうか。そんな風な考えばかり浮かんでくる。
「開けるしか、ないよな」
 ドラえもんが迷っている時、ジャイアンはそう呟いた。そして、ドラえもんがジャイアンの方を向いた瞬間。すでに、ドアは開いていた。ジャイアンが、開けたのだ。
「ようこそ、注文の多い料理店へ」
 部屋の中からそんな声が聞こえ、ドラえもんとジャイアンは部屋の中へ踏み込んだ――

「くく……気持ちいいなぁぁ」
 ミサイル研究所の声が部屋に響く。
 静香とどらEMONは相変わらず抑えつけられたままで、喋ることすらまともにできない。ミサイル研究所の能力。超能力。それはどんなに頑張っても覆せないものだった。どらEMONは舌打ちする。
 どうやったらこの悪魔に勝てるというのだ―― どらEMONは考える。静香は絶望する。どらEMONは考える。どうやったら、どうやったら。さっきから彼はずっと考えていた。だが、答えはでない。答えは、でない。
 ミサイル研究所は嘲笑する。圧倒的すぎる力の差。ワンサイドゲーム。昔から、ミサイル研究所はワンサイドゲームが好きだった。トランプとかをやっていて、すぐにあがれる時でもそうだ。普通の人なら友達とですぐにあがっちゃうとあれだなとか考えてすぐにはあがらない。だが、ミサイル研究所は違う。すぐさまあがり、友達を笑う。それが彼は大好きだった。
 カツカツというミサイル研究所の足音が部屋に響く。笑い声と一緒に。
 部屋には血の臭いが漂っている。さっきミサイル研究所が爆発させたメタルの死体。その臭いだった。吐き気をもよおすような臭い。いや、こんな状況じゃなかったらどらEMONや静香は吐いているだろう。
「怖いか? え?」
 ミサイル研究所はしゃがんで静香の頭を小突いた。静香は何も答えられなかったが、ミサイル研究所を睨みつけた。それが、彼女にできる精一杯の抵抗だった。だが、ミサイル研究所はその視線を喜びと感じる。
 ミサイル研究所は立ち上がり、そして二人を見下す。彼は最上級の喜びを感じていた。
「なんで、お前は人をそんなに痛みつけるんだ? どうしてそれが気持ちいいんだ?」
 どらEMONは声をだす。
「お前さ、温泉に入っている時に「何で温泉に入っているのが気持ちいいんですか?」なんて聞くか? いやな、そう聞かれても答えられるかもしれない。何故ならこれにはこういう成分が入っているからですって。でもさ、答えるのは面倒だろ? 今の俺はそういう気分だ」
 もう、駄目かもしれない。どらEMONは心の底からそう思った。もう、自分たちには死ぬしか選択肢がないのかもしれない。他は、何も無いのかもしれない。超能力なんかに勝てるわけがない。エスパーが実在して、しかも敵対しているっていう時点で勝ち目など無かったのだ。諦めの心がどらEMONの中を巣食う。
 それでも、それでも―― どらEMONは諦めの気持ちを消し去る。俺は、諦めてはならない。諦めたら、報われない。死んでいったタイムパトロールの仲間たちが、報われない。諦めない。諦めては、いけないんだ。どらEMONは持ち直す。
「何が出来るというのだ?」
 どらEMONは呟く。いや、声は出ていなかったかもしれない。どらEMONは、自分へ問いかける。自分には、何ができるというのだ? 何を、何を、何ができるとでもいうのだ?
「さあ、そろそろ止めを刺そうかな?」
 ミサイル研究所の声が部屋を包んだ――

「何が注文の多い料理店だ!」
 ジャイアンはそう叫ぶと、改造ショックガンを構える。イカたこは、椅子に座りながらドラえもん達の方向を向いている。手には、「注文の多い料理店」が握られていた。
 ドラえもんも、ジャイアンに続いて改造ショックガンを構える。イカたこは、不敵に笑っているままだった。
 このまま、引き金を引いてやる―― ジャイアンはそう思いながら手の力を強める。
「そうそう、ジャイアン、ドラえもん。君達はのび太とアルタがどうなったか興味は無いか?」
 イカたこが立ち上がる。ドラえもんとジャイアンは喋れなかった。そして、二人とも銃口を下へ向ける。イカたこは笑う。そして口を開く。
「じおすと同じように、飛ばした」
「え?」
 部屋は、沈黙に包まれる。イカたこはニヤリと「どす黒く」笑う。


[No.426] 2008/12/12(Fri) 19:24:35
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十五 (No.426への返信 / 1階層) - 文矢

 銃声―― 飛び散る血。場所は、どらEMON達がいる部屋。
 倒れたのは、ミサイル研究所だった。どらEMONや、静香じゃない。ミサイル研究所。さっきから圧倒的な有利にあった男。ミサイル研究所は心臓の部分を撃たれ、倒れた。そして彼は吐血したのだ。
 こんな事は、ありえない筈だった。超能力を使い、圧力を操って完全な有利に立っていた男が倒れるなんて。そう、鼠が猫に食べられそうな時に鼠が猫の首の骨を噛み砕いて殺すという状況ぐらいありえない。
 だが、実際に起きている。
「スネ夫君……!」
 どらEMONは目を丸くする。既にどらEMONも静香も解放されていた。ミサイル研究所が倒れた時点で超能力は解除されたのだ。
 撃ったのは、スネ夫だった。最初にミサイル研究所にロケットで撃たれたスネ夫が、銃口をミサイル研究所へ向け、腹を抑えていた。息は荒く、今にも倒れそうだった。
「静香君、これを」
 どらEMONは四次元ポケットから『お医者さんカバン』を取り出し、静香へ手渡す。静香はフラフラとしてたが意識ははっきりしていて、スネ夫の方へと歩いて行った。強い子だな、とどらEMONは静かに笑う。
 水裂をどらEMONは取り出す。しっかりと柄を握り、倒れているミサイル研究所の方を向く。
 そして、斬る。ミサイル研究所の悲鳴が聞こえた。静香も驚き、『お医者さんカバン』を落とす。だが、どらEMONは何も慌てなかった。斬られたのは背中で、斜めにスパッと斬られていた。
「どらEMOOOOON! 貴様ぁぁぁぁ」
 ミサイル研究所はなんとか立ち上がる。といっても、中腰のような姿勢だったが。ミサイル研究所はロケットをどらEMONに向ける。目には憎しみと怒りの色が浮かんでいる。
 だが、どらEMONは意に介さなかった。一歩踏み込み、水裂でミサイル研究所を、斬る。肩から腰にかけてミサイル研究所は真っ二つになる。
 静香が悲鳴を上げた。どらEMONは静香の方を向くとごめん、と謝った。そして振り返り、ミサイル研究所へと冷たい目を向ける。冷酷な、目。

 ミサイル研究所は慌てる。どす黒い何かが、自分の脳内を侵食しているのを感じたからだった。
 嘘だろ―― 俺が死ぬわけが無い。この俺が、この俺様が。悪が。絶対的な悪のこの俺様が、死ぬわけが無い。死。死。俺は、死なない筈だ。
 段々と、ミサイル研究所の脳内を黒が包んでいく。ドロリとした何かが包んでいくごとに意識もボーッとしてくる。
 痛いという感情もあった。今までで体験したことの無いような痛み。深爪をするよりも、爪を剥がされることよりも、指を斬り落とされることよりも酷い、酷い、酷い、ひどい、ヒドイ、痛み。
 ドロリとした何かはゆっくりと、だが確実に。ミサイル研究所はこの時、初めて、初めて『恐怖を感じた』
 死ぬことに対しての恐怖。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。
 今まで、全てにおいて俺は圧倒的な有利を保ってきた筈だ。ミサイル研究所は思う。俺様は、全ての人間よりも上のところに位置しているんだ。その俺様が、死ぬわけがない。まさか、まさか、まさか、まさか。
 ドロリとした何かが、ミサイル研究所の四分の三を包んだ時、ミサイル研究所は声を出した。
「嫌……だ……死に……たく……な……い」
「お前が殺してきた人もそう思ってたんだ」
 どらEMONの冷たい返事を聞いた後、ミサイル研究所の意識は途切れた―― 死。


[No.427] 2008/12/13(Sat) 07:49:30
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十六 (No.427への返信 / 2階層) - 文矢

「のび太をじおすさんと同じよう……に? 嘘だ……ろ?」
 ドラえもんは言う。信じたくない。そんなもの、絶対に。のび太がもう帰ってこないなんて。何処か別空間で生きているのかもしれない、だがこちら側からすれば死んでいるも同然。そんな状況に、のび太がなった―― ドラえもんの頭の中がグルグル回る。
「嘘じゃないさ。のび太は帰ってこない」
 イカたこは言う。この言葉は嘘だった。剛田清の策によって、イカたこの道具のダイヤルを狂わされ、のび太は結局帰ってくる。だが、イカたこは彼らに絶望を与える為、嘘をついた。
 この嘘は効果的だった。ジャイアンとドラえもんは絶望し、声も上げられなくなる。まるで、「待て」と言われた犬のようにおとなしかった。
 悪趣味だな、私は―― イカたこはそんな事を言いながら「注文の多い料理店」を開く。この本には、いくつかの短編が収められていたが、イカたこが開いたのは題名にもある「注文の多い料理店」だった。そして、そこに書いてあった文章を読み上げる。
「『いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください』」
 イカたこの読み方は、上手かった。小学校の授業で音読をしましょう、という時に読んだら先生が「凄すぎるわ、イカたこさん。何処かの劇団に入ったらどう?」と言うぐらいのレベルだった。緊張していなければ、物語の世界に引き込まれてしまいそうなぐらい。
 それは、「注文の多い料理店」の一節だった。二人の紳士は今まで店側の言うままに行動していった。だが、この文章を読んでやっと「こいつはおかしいぞ」と気づく。そして、気がついたら『二つの青い眼玉』がこちらを見ているのだ。
 そして、イカたこはただこの文章を読み上げたわけではなかった。これは、合言葉だった。いや、合図というべきだろう。運動会の徒競争で先生が「よーい、ドン」と言うかのような、合図。もうスタートしていいですよ、という合図。
 一瞬。反応する間もなく、一瞬。ドアが閉まった。ドラえもんとジャイアンは入って来た時、ドアを開けっ放しだった。そう、誰かが閉めたのだ。
 コツンとドラえもんの頭に何かが当たる。それは『熱戦銃』だった。ここでようやく、ドラえもんとジャイアンはドアからイカたこの仲間が現れたのだと気づく。汗が頬を伝っていく。
「はいはーい、動かないで下さーい」
 その声は明るかった。部屋の空気と全く違う、能天気な明るい声。明るすぎる声。
 声の主は、すずらんだった。すずらんは最初からイカたこに命令され、こういう役割をすることをしていたのだ。そして、さっきイカたこが読み上げた文が合図で行動したのだ。
「すずらん、よくやった。ありがとう」
「どうもいたしましてー」
 まだ、ドラえもんの頭には銃を突き付けられていた。何かすれば、すぐに撃たれるような姿勢。ジャイアンは何もやられていなかったが、暴れたらドラえもんが危ないんじゃないかと思って何もできなかった。
 イカたこはニヤリと笑いながら、「注文の多い料理店」を閉じる。机の上に置き、歩き出す。ドラえもん達の目の前で。
「すまないな。今から君達は死んでしまう」
「うっせえ!」
 ジャイアンはイカたこを睨みつける。だが、イカたこは全くもって意に介さない。その表情にはこんな事しかできないのかという見下しさえも含まれている気がした。ドラえもんは撃たれるんじゃないかと不安に思ったが、とりあえずは撃たれなかった。
 イカたこは指を鳴らした。すると、机の近くにあった椅子が勝手に動き出し、イカたこのところへ来る。イカたこはそれに座る。足を組んでいるその姿は帝王の風格さえ漂っている。
「それでは、すずらん。撃ってくれ。二人とも、安心してくれ。痛みも感じないうちに死ねる」
「ふざけるなよ!」
 ジャイアンは叫ぶ。だが、さっきと同じようにイカたこの表情は変わらない。転校生として来たあの時と同じ。冷たい目で、冷たい表情をしていた。すずらんは笑顔で返事をし、引き金を今に今に引こうとしている。
「すずらん、という名前だっけ? 撃たない方がいいよ」
 そう言ったのは、ドラえもんだった。ドラえもんは汗をかきながら、口を開く。すずらんの行動が一瞬止まる。まだ銃口はドラえもんへと向けられているままだった。
「何でですか?」
 あの明るい声でドラえもんへと質問が返ってくる。ジャイアンとイカたこは突然のことに何も言えなかった。ドラえもんはこれはチャンスだと感じた。口八丁手八丁で、ごまかしてやる。ドラえもんは、そんな覚悟を決めた。
 ドラえもんは空気を目一杯吸い込み、言う。
「既に細工してあるよ。君のその銃には。『透明マント』でバレないようにね」
「え? そんな!」
 その時、すずらんは銃口をドラえもんに向けるのをやめた。そして、『熱線銃』を手にとり、確認し始めた。騙されたのだ。ドラえもんの、簡単すぎる嘘で。
 おいおい―― ドラえもんはそう言いながら神様へ感謝した。こんな簡単に騙されてくれるなんて! 銃口がドラえもんから外されて数秒。ドラえもんはそんなことを思いながら、改造ショックガンを構えた。銃口の先はもちろん、すずらん……
「すずらん! それは嘘だ、引き金を引け!」
 イカたこの叫びもむなしく、ドラえもんは躊躇なく引き金を引いた。
 すずらんは対応することができない。ほとんどガードも何もできないまま、エネルギーを正面から喰らう。当たった場所は腹。みぞおちは外れていたが、体中にショックが走る。そして、すずらんは倒れる。
 ジャイアンはすずらんが倒れたのを見ると、すぐにショックガンをイカたこに向けて構えた。ジャイアンの頬を冷や汗が伝っていく。だが、イカたこはその姿を見ていなかった。ポケットを探っているだけだった。
「お願いがある。すずらんには攻撃を加えないでくれ。今は気絶しているだけだが、下手したら死ぬだろう」
 イカたこはドラえもんとジャイアンに向けてそう言った。ドラえもんとジャイアンは突然な申し出に驚いて何もできない。
 そして、イカたこはポケットの中から道具を取り出した。じおすやのび太、アルタ、剛田清をも葬ってきた秘密道具。空間を、問答無用で移動させる悪魔の道具。イカたこは今、その道具を握り締めていた。
「今、とても反省している。何で君達なんかに構ってしまったのかとね。君達が基地の中を暴れまわることなんて無視して石版のところへ行けば良かったんだ。全く、自分の無能さに吐き気がするよ。いつも冷静なつもりだったのにな」
 イカたこはそう言うと、左手で秘密道具のダイヤルを回し始める。カチャカチャと無機質な音が部屋にやけに響く。そして、秘密道具を自分の方へと向けた。
「何をする気だ!」
 ジャイアンはそう言うと、ショックガンの照準を定めようとした。だが、イカたこはその声を全く聞かず、秘密道具を自分の体へ当てた。イカたこの体が光に包まれる。
「私は石版のところへ行くよ。もう一度言うが、すずらんをこれ以上傷つけるなよ。アリーヴェデルチ」
 イカたこは笑いながらそう言うと、部屋の中から消え去った。残されたのはイカたこの机、椅子。倒れているすずらん、ドラえもん、ジャイアン。そして、「注文の多い料理店」だけであった――


[No.429] 2008/12/25(Thu) 11:27:10
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十七 (No.429への返信 / 3階層) - 文矢

 巨大なドリルで彫ったかと思うぐらいの奇妙な跡がある洞窟の中。アドバン村が壊滅したあの日から、誰も立ち寄らなかった穴。そこに、イカたこはいた。何故か? 彼の目的を果たす為に。彼の理想を実現させる為に。
「ああ、これが……」
 イカたこは、跪いていた。それの目の前に現れた瞬間、敬意を表さなければいけない、という考えがイカたこの頭に現れたのだ。そして、自然に体が動き今の姿勢となる。その敬意の対象、それは石版だった。
 謎の文字が綴られた、巨大な石版。洞窟のようになっている筈なのに、イカたこはその石版が輝いているようにも見えた。いや、輝いているのだ、この石版は、輝いているに違いないと思っていた。
 石版。それは、巨大な長方形のプレートだった。そのプレートが穴の奥に埋め込まれているのだ。石版はなんともいえない不思議な色をしており、傷一つついていない。何千年も、そこに存在していたのにだ。紀元前、名無し達が生きていたその前からそこにあったのに、傷はついてない。不気味なぐらいだった。
 イカたこは、自分のポケットを探る。手は震えていた。それが感動の為なのか、それとももっと別の理由なのかどうかは分からない。だが、ポケットの中を探っていた。探り始めてから十秒ぐらいかかってやっとイカたこはポケットから物を取り出した。二枚のレリーフだ。片方のレリーフには石版の場所、もう片方は『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』と彫られている。
 イカたこは、場所が書かれているレリーフを地面に置いた。『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』と書かれていた方のレリーフをじっくりと見る。片方のレリーフには石版の場所。もう片方のレリーフには何故英語が書かれているのか? イカたこは考え始める。
 ここに来るまでにイカたこが出した結論は、こっちのレリーフには文字の解読方法が書かれていなければならないということだった。レリーフの文字は石版の文字とは明らかに違う。という事は、この石版を作った名無しとかいう学者はレリーフの文字を日常的に使っていたということになる。その文字を使う村に住んでいたのだ。それが、昼間に地面から出現したあの村だろう。ミサイル研究所とすずらんに滅ぼさせたあの村だろう。その村の住人だった名無しは事実を誰かに知らせたかった。その石版に書かれている事を。そう考えると、もう片方のレリーフには文字の解読方法が書かれているのが妥当な筈だ。
 イカたこは考える。じゃあ、何で今自分の持っているレリーフに英語が書かれているのか。この英語を書いたのはじおすだ。それについては間違いない。このじおすの文字を除去して考えてみる。初め、このレリーフは何も書かれていなかったということになる。では、このレリーフにはまだ何かが彫られる前だったのだろうか。
「いや、違う」
 イカたこは呟いた。違う。それは無い。イカたこは奇妙な確信を持っていた。
 指紋―― イカたこの頭にその文字が走る。ミサイル研究所が持ってきた時に発見したその指紋だ。nと彫られたところの右下についてある指紋。それは、じおすの指紋だとイカたこは思っている。何で、その指紋がついたのだろうか。イカたこは考える。こんなくっきりと指紋がつくなんてほとんど無い筈だ。これについている指紋の部分はへこんでいる感じだ。何で、何でだ。
 その時、イカたこの頭に閃きが走る。ああ、そうか。このレリーフは暖められて軽く溶けたんだ。その時に、指紋がついた。そして、イカたこは結論を出す。文字が書かれているレリーフの上にはカバーみたいな板があったのだ。場所が書かれている方のレリーフのカバーは何処かで取れた。そして、そのカバーとレリーフは溶接されている。熱によってだ。全てが繋がった、とイカたこは思った。
 その溶接をしたのはじおすだ。じおすが、レリーフを隠そうとしたのだ! イカたこは興奮した。心臓の鼓動が早まるのを感じる。つまり、つまり。イカたこは自分の考えの結論を出す。
 イカたこは空間へ飛ばす秘密道具を取り出す。様々な邪魔な人間を葬ってきたその道具を。ダイヤルを回し、調整する。上にあるカバーだけを別空間へと飛ばす為にだ。そして、秘密道具を押し当てるとレリーフのカバーが飛ぶ。あの忌々しい『Do not pass this to that man. (これをあの男に渡すな)』の文字はもう見えない。その下に隠されていた、古代文字の書かれたレリーフが顔を出した。
「素晴らしい……」


[No.432] 2008/12/30(Tue) 19:20:34
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十八 (No.432への返信 / 4階層) - 文矢

 呆然。何もすることもなく、ドラえもんとジャイアンはただボーッとイカたこの部屋にいた。ドアの近くには相変わらず気絶したすずらんがいて、机の上の「注文の多い料理店」もそのままだった。何も変わっていない。イカたこがいない以外は。
 そんな時、廊下の方から轟音が聞こえた。何かが、倒れる音。ドラえもんとジャイアンは身構える。この音はのび太がナグドラを倒した時の音なのだが、二人はまだ分からない。そして、足音も聞こえる。
「な、何だ?」
 ジャイアンが言う。だが、その返答も聞こえないまま、乱暴にドアが開く。
「ドラえもん、ジャイアン!」
 のび太の声。安心した、心の底から安心したという声。のび太は右手に改造ショックガンを握りしめていたが、それを床に置き、三人で抱き合う。安心したという気持ちはドラえもんとジャイアンの方が強かった。のび太が死んだと聞かされたからだ。
 抱き合うのをやめると、のび太は部屋を見渡した。そして、視界にすずらんと「注文の多い料理店」が入る。
 ドラえもんとジャイアンは、どうして生きていたのかを聞こうと思っていた。イカたこが戻ってこないと言ったのは嘘だった。じゃあ今まで何をしていたのかそれを聞こうと考えていたのだ。
 だが、ドラえもんとジャイアンはそんな事を聞けなかった。のび太が、改造ショックガンを構えたのだ。
 銃口の先は、気絶しているすずらんだった。しかも、頭。脳がある場所。当たれば、確実に死ぬだろうという場所。そこを狙っていた。のび太は、冷酷に。
「何をするんだ!」
「見れば分かるでしょ。殺すんだよ、こいつを」
 ジャイアンの言葉にも、のび太は答える。冷酷に。
 ジャイアンは震える。ここにいるのび太はのび太じゃないんじゃないか? そんな気持ちまで湧き上がってくる。のび太は、こんな冷酷なやつじゃない。もっとのん気で、優しい奴だった筈。ジャイアンは混乱する。
 ドラえもんも震えた。ジャイアンと同じ理由で。のび太の雰囲気が、違う。
 のび太はそんな二人もお構いなしで、引き金に手をかける。のび太はすずらんを睨みつける。殺す、殺す、殺す、殺す! 殺してやる! のび太の中のどす黒い気持ちが暴れていた。
「やめろ!」
 ジャイアンは、のび太を殴り飛ばした。のび太の眼鏡はカランカランと音を出し床に転がり改造ショックガンから発射されたレーザーが床を焦がす。ドラえもんは、ただ驚いてその行動を見つめるだけであった。
 その場に倒れたのび太は眼鏡を拾い、すぐに掛ける。そしてジャイアンを睨みつける。
「なぜ邪魔するんだ! こいつはイカたこの仲間、しかも幹部だぞ!」
「殺す必要あるのかよ! のび太、お前おかしいぞ!」
 もう一度殴ろうとするジャイアンをドラえもんが止める。二人は睨みあう。つい数十秒前まで抱き合っていた二人が。
「いいか、僕は見てきたんだ」
「何を」 
 ドラえもんがのび太の言葉に答える。のび太の目はまだ怒りの色を浮かべている。
「じおすさんの最期を! ずっと、ずっと昔にタイムワープをして僕は見た! 名無しさんっていう人の最期も! 村が燃やされる様子も! 全て!」
 のび太の目には、涙が浮かんでいた。そう、のび太は見てきたのだ。時空間へと飛ばされ、紀元前までワープして。全ての様子を、見てきたのだ。次々と命を落としていく人の姿を。全て、全て。
 憎い―― イカたこが、憎い。じおすを殺した、名無しを殺した、村の人々を殺した、イカたこ達が憎い。憎い。憎い。憎い。のび太の心は、愛と真実の血液で動いていた心は、今、憎しみという黒いもので埋め尽くされていた。許すことはできない、憎い! そんな気持ちが。
 ジャイアンとドラえもんはのび太の言っていることがよく分からなかったが、それでも凄みは感じた。のび太が何か、とんでもないものを見てきたのだろうということは推測できた。二人は、何も言えなかった。
 しばらくの沈黙の後、のび太が口を開く。
「イカたこは、何処にいる?」
「石版の所に……行くと言ってたよ」
「ああ、言ってたぞ。なあ、ドラえもん。でも場所が分からねえ」
 ドラえもんが答え、ジャイアンが付け足した。のび太はそれを聞くと、ドラえもんに向けて手を出した。そして口を開く。
「石版の場所は分かる。タケコプターを出して」
 ドラえもんは言われるがままにタケコプターを出し、のび太はすぐに頭に付ける。ジャイアンとドラえもんもそれに釣られて頭の上に付け、のび太と共に部屋から出て廊下を走る。
 走りながらドラえもんは何かモヤモヤしたものを抱えているのを感じていたが、口には出さなかった。口に出したら、何か大きな物に押しつぶされる。そんな変な感じがしたからだ。
 壁に穴が空いているところから三人は外に出て、タケコプターのスイッチを入れて空へと飛び始めた。 
 のび太の目はまだ憎しみの色に染まったままだった……


[No.435] 2009/01/21(Wed) 18:31:40
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の十九 (No.435への返信 / 5階層) - 文矢

「イカたこぉぉ!」
 のび太の叫びが穴の中に響いた。のび太は着地し、穴の中に入っていく。奇妙な螺旋の跡がついている穴の中に。
 タケコプターを外し、どんどん穴の中に入っていく。走ると駄目ということをのび太は過去に戻って知っていたので決して走らなかったが、一歩一歩にはやはり力がこもっていた。その力は、どす黒い力。何よりも、何よりもどす黒かった。
 いた―― のび太は心の中で大きなガッツポーズをとった。いた。いた。いた! あいつが。憎むべき、あの野郎が。イカたこが、いた。そしてその前には石版がある。だが、のび太は石版など気にしなかった。目的のイカたこだけを睨んでいた。
「殺す! イカたこ、振り向け! 早く振り向くんだ!」
 のび太は叫び、改造ショックガンをイカたこへ向ける。手は全く震えていない。銃口はただ、冷酷にイカたこに向いていた。決してぶれない。まるで、何かに固定されているように。ぶれない。
 まるで、四十七士が吉良に会った時のよう。まるで、秀吉が明智の軍に出会った時のよう。まるで、源氏の軍が平氏の軍に出会ったよう。のび太の気持ちは、そんな気持ちだった。仇を討つ。それができたら死んでもいい!
 振り向け、早く、振り向け! その体を早く見せろ! 無防備な心臓を、首を、人中を! 体の急所を見せてくれ! のび太は急所の名前など知らない。だが、何処を当てればいいのかは分かっていた。
「振り向け!」
「『ここに書いてある物を決して当社、当星に向けないということを約束してほしい』」 
 イカたこは振り向いた。そして、喋り出した。のび太はボーッとその話を聞く。
「『まず、用意する物は鉄だ。この鉄は重要であるが、どの星にも存在する物。この鉄を一トン用意してほしい。ピッタリだ。一トンのみ。そしてそれを圧縮する。その体積を一気に減らす。質量は減らさない。圧縮するのだ。体積を一立方センチメートルまで圧縮してほしい』」
「何を言っているんだ、イカたこ!」
「『鉄を圧縮し終わったら次は水素だ。水素を発生させ、それを鉄に含ませる。そしてそれをさらに圧縮する。水素を含ませた鉄を一ミリ立方メートルまで圧縮だ。これを百個作る』」
「何を言っているんだと言っているんだ! 答えろォ!」
 のび太の体はがくがく震えていた。さっきまでは震えていなかったのに。イカたこが言い始めた時から震えはじめたのだ。
「この後は言えないな。聞きたまえ、のび太君」
「何なんだ、イカたこ!」
「今、私が読み上げたのはこの石版に書かれた内容の最初の部分だ。実に素晴らしいよ」
 イカたこはそう言いながら、地面に置いてあったレリーフとヒエログリフの解読書、そして紙をポケットの中にしまう。そして、のび太の方へ歩み寄る。手を、ポケットに入れたままで。
 ドラえもんとジャイアンは入れなかった。その穴の入口で、ただ呆然と立ち尽くしていた。まるで高校のグラウンドで行われているサッカーを見ている中学生の様に。ただ、ボーッと見ていた。イカたこが口を開く。
「いいか、この石版を作ったのは宇宙人なのだよ。恐らく、何処かの星へ行く途中で墜落したのだろう。そして、回転しながら山に激突し、この穴を作った。穴の入口、私の手首にあるのはその宇宙船のパーツだろう。全て、私は理解したよ」
 イカたこは得意気笑い、さらにのび太に歩み寄っていく。やはり、手はポケットに入れたままだ。
「それがどうした?」
 のび太は改造ショックガンをイカたこへと向けなおす。手の震えを精神力で止め、イカたこの心臓へと狙いを定める。心臓を、撃つ。心臓にショックを与え、止める。そして殺す。のび太の手に力が入る。
「宇宙人がどうだとか、そんなことは関係ない。あんたを殺す! それだけだ!」
 のび太は、引き金を引いた――
 
 のび太は、泣いていた。ただ、とめどなく涙を流していた。
 時空間から紀元前のアドバン村に出た瞬間、のび太は家の前に立っているじおすと名無しの姿が見えていた。じおすというのはすぐに分かったが、名無しという名前すらも分からない筈だった。ただ、何故か分かった。彼の名前は名無しだと。
 そして、始まる大虐殺。空から飛んできたミサイル研究所、のび太はその光景を見ているだけ。じおすが死にゆく姿を見ているだけだった。
 のび太は泣いた。ただ、泣いた。
 そうやって泣いていると何故か場所が変わる。すずらんと名無し、そして数人の男達が見えた。そして、その男たちも殺されてゆく。
 のび太は案山子のようにただ立っているだけ。ただの案山子。案山子。案山子。何も、できない……
 のび太は泣いた。ただ、とめどなく涙を流した。

「無駄だよ、私の道具にかかれば攻撃は効かない」
 イカたこはのび太のショックガンから出たエネルギーを、あの道具で別空間へと飛ばしていた。そして、冷酷な目でのび太を見つめる。感情のこもらない、冷酷な目でのび太を見つめる。
 歩みは止まらない。イカたこは、どんどんのび太に近づいていく。あの秘密道具を構えて。どんどん、どんどん、どんどん、歩いて行く。
「うるさい! 死ね! 死ねぇぇ!」
 のび太は叫ぶ。怒りにまかせて、叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。脳裏に過ぎるのはあの村の大虐殺。許すことなどできない、あの虐殺。虐殺! 虐殺! 許せない!
 のび太は引き金を引いた。ただ、引いた。だが、それもイカたこに防御され、銃声が空しく穴に響くだけだった。


[No.437] 2009/01/27(Tue) 07:49:37
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の二十 (No.437への返信 / 6階層) - 文矢

「私は今、考えている。この石版が何処の星から来たのかね。おそらくは、その星の武器商人が何かのトラブルでここに墜落したものだろう。つまりだ、こんな武器が一般的にある星がこの宇宙にはあるわけだ。まあ、どうでもいいことだがね」
 イカたこは歩み寄る。ゆっくりと、でも確実に。そしてイカたこの速度と同速度でのび太に迫ってくる絶望! その絶望はどんな海溝よりも深く、そして冷たい。のび太に迫っていくは絶望。絶望。
 落ち着け、落ち着くんだ。のび太は自分に言い聞かせる。何か、何かある筈だ。落ち着こう、落ち着こう。のび太の頬を汗がつたる。
 油断はしない。冷静にだ。イカたこは自分に言い聞かせる。何か、何かあるかもしれない。落ち着こう。油断はしない。余裕はあるんだ。確実に、確実に彼らを仕留める。
 穴の中の空気は、最高に重かった。石版は例えようもない色で輝き、五人を見守っていた。
「世界を支配するのに必要なのは武力。私はこれを正しいと思っている。だが、君らは正しいとは思っていない。それについても前から考えている」
 イカたこはあざ笑いながらそうのび太達へ問いかける。
「ひっ人を殺すんだろ? 許せるかよ!」
 ジャイアンが叫ぶ。イカたこはそれに答える。
「まあ、確かに私の計画だと人は殺すな。威力というのは見せ付けてこそ恐怖になる」
「そんな事、許せるわけないじゃないか!」
 のび太が答える。そして、銃口をイカたこへ向ける。だが、手は震えている。それに、のび太自身も分かっている。イカたこにはいくら撃っても無駄だと。意味無いと。
「まあ、これ以上議論をするのは無駄かな。D・カーネギーも著書で人を納得させるには議論を避けろと言っている。議論で人の意見は変えられないとな」
 イカたこはそう言うと、また歩き始める。のび太とイカたこの間は既にほんの三メートルぐらいまで縮まっていた。のび太は後退する。
 どんどん近づいてくる。宿敵。のび太は何もできない。頭で考えても何も出てこない。のび太は慌てる。
 ドラえもん。ドラえもんは、考えていた。このままだと、のび太が! のび太が殺されてしまう。その次は僕たち。どうにかしなくてはいけない。ドラえもんは考える。考える。
 ドラえもんは穴の中を見る。のび太とイカたこ。イカたこは冷静な冷たい目でこちらを見ている。そしてその後ろの巨大な石版。不気味に輝き、穴の中で存在感を出している。ドラえもんは考える。
「あっ……!」
 その時、ドラえもんの頭に閃きが走る―― 圧倒的な閃き! のび太に伝えれば、のび太ならば。のび太ならイカたこを仕留められる。ドラえもんの頭が高速回転をする。伝えるんだ、のび太へ!
 ドラえもんは叫ぶ。
「のび太! 石版を撃て!」
 ドラえもんはのび太へと叫んだ。これなら、これなら! 何千年も無傷だった石版。恐らくは、硬いというよりも力を跳ね返すとかそういう機能がついているのだろう。それなら光だって跳ね返すだろう。ドラえもんのそんな推測からだった。石版でショックが跳ね返れば、イカたこに跳ね返ったショックが当たるかもしれない。
 事実、これは当たっていた。懐中電灯でこの石版を照らしたら、鏡のように跳ね返る。つまり、のび太がショックガンを撃ったならそのショックは跳ね返るのだ。
 やばい―― イカたこはドラえもんの言葉を理解する。危ないところだった、と心の中で安堵していた。今、今すぐ振り返れば! まだ秘密道具で別空間へ飛ばせる! 振り返るんだ。イカたこは秘密道具を構え、後ろを向いた。
 
 のび太は、石版に向けて撃たなかった。

 ドラえもんの言葉の意味が分かっていなかったのだ。一瞬でそこまで判断することはのび太にはできなかった。だから、のび太は銃を構えたままその一瞬、ボーッとしていただけだった。
 そして、見えたのは後ろを向いたイカたこの無防備な背中……!
「イカたこぉぉぉぉ!」
 のび太は叫び、引き金を引く。銃口はブレていなかった。引き金が折れるんじゃないかというぐらいのび太は力を込めて引き金を引き、銃口からは光が飛んでいく。
 イカたこは、何もできない。のび太が狙ったのは背中だった。背中、背骨の一センチ右に命中した。そして、イカたこの体中に走るショック。悲鳴とも何ともつかぬ声が口から出る。
 のび太の息が荒くなる。やったのか? 疲れた。その二つの言葉だけがのび太の頭の中でグルグル回っていた。のび太はイカたこを睨みつける。
 イカたこはうつ伏せに倒れた。呼吸はできていなかった。苦しい。イカタコの頭の中にあったのはその言葉だけだった。秘密道具は撃たれた時に石版の方へ転がっていた。右手で地面を掴み、立ち上がろうとする。
 その時、地響き。ゴゴゴという音が穴の中に響き、穴の中を揺らす。
 上からはパラパラと土や石が落ちてくる。揺れる。揺れる。そう、それは地震だった。この穴の場所はイタリア。そんな場所で! 地震が起こったのだ。普通ならありえないことだ。富士山に津波がくるぐらいありえない出来事。だが、確かに地震が来ていたのだ。
 信じられない。のび太はそう思う。立つことすら困難になってきた。のび太は思う。地震ってこんなに揺れるものなのか? 上からはどんどん石が落ちてくる。土もパラパラではなく、塊で落ちてくるようになってきていた。
「崩れるぞ!」
 ジャイアンの叫び声が穴の中に響いた―― 


[No.442] 2009/01/31(Sat) 14:30:24
石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 其の二十一 (No.442への返信 / 7階層) - 文矢

 今の揺れは?―― イカたこの部屋。すずらんは、目を覚ました。地震の揺れは当然基地の方にもあり、それによってすずらんは目が覚めたのだ。すずらんは状況を確認する。手には拘束道具がはめられている。前を見ると、どらEMONが立っていた。その後ろには震えながら静香とスネ夫が立っていた。
「起きたか……」
「あっあなたは! 何でここにいるんです?」
「この基地の幹部やロボット部隊は俺達が制圧した、ということさ。もう対抗するなよ」
 どらEMONの口調は優しかった。ミサイル研究所を殺した時の反動、というべきなのだろうか。とにかく、どらEMONの口調は穏やかだった。
 テーブルの上には「注文の多い料理店」が置かれている。すずらんが拘束されているのとどらEMON達がいること、そして机の上にマイクが出ている以外は何も変わっていなかった。机の上のマイクは、イカたこが放送用に使っていたものだ。
 マイクを掴み、どらEMONは口を開く。
『基地にいる者、全員に告ぐ。軟体防衛軍は我々、タイムパトロールが占領した。幹部達は全て殺されているか、拘束されている。抵抗や逃亡はやめて、基地の中でおとなしくしていてほしい。我々は既に君達全員の個人情報を得ている。もう一度繰り返す――』
 言い終わると、どらEMONはため息をつき、椅子に座る。イカたこが座っていた椅子だ。机の上にある「注文の多い料理店」に手を伸ばす気にはなれなかった。気がかりがあるからだ。
 永戸! 最後の命令だ! ドラえもん君達を守れ! 絶対にだ!―― どらEMONの頭の中で仲間たちの声が響く。
「ドラえもん君、のび太君、剛田君…… 今、君達は何処にいるんだ?」

「逃げるぞ!」
 穴。ジャイアンはそう叫び、穴の入口へと向かう。ドラえもんとのび太も穴の外へと向けて走り出す。穴は、崩れようとしていた。ポロポロと落ちる石、泥。間違いなく、崩れるところだ。
 穴の入口のレーザーはポロポロと落ちてくる石ころなどに反応してそれらを砕いていく。のび太は速度を調節して、罠の部分を乗り越えた。
 これは、壮絶な光景だった。アニメや漫画とかで出てくるような崩れ方。地響きが耳をつんざき、巨大な土の塊が螺旋模様の地面を埋めていく。この世の終わりなんじゃないかと思ってしまうぐらい。
 改造ショックガンがのび太の手元から落ちる。落ちると同時に上から降って来た巨大な石に破壊される。一瞬で。やばい。のび太の頭の中でその三文字がぐるぐる回り始める。
「あ」
 イカたこは大丈夫なのか?―― のび太の頭にそんなことが過ぎる。さっき、自分がイカたこを倒した。イカたこも、やばいんじゃないか? 押しつぶされて、死んでしまうんじゃないか? のび太は考える。
 いや、別にいいじゃないか。イカたこが死んでも。そんな言葉も出てくる。お前はイカたこが死ぬことを望んでいた筈だ。いいじゃないか、イカたこが死ぬのはいいことじゃないか。何を気にする?
 いつの間にか、立ち止まっていた。前からはジャイアンが叫ぶ声が聞こえる。のび太の頬の一ミリ横を石が落ちていった。
 どうするんだ? のび太は考える。イカたこは仇だぞ。つい数分前まで殺そうとしていたじゃないか。それなのに何を今さら! 馬鹿じゃねえの? そんな考え。そして、助けるべきなんじゃないか、という考え。
 じおすさんを殺した。名無しさんを殺した。村の人々を殺した。タイムパトロールの人たちを殺した。部下を使って、僕たちを殺そうとした。たくさんの人を殺すつもりだった。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。イカたこは、そんな奴なんだぞ!
 何を迷う? 進むんだ。穴の外に出よう。それで決着だ。
 何を迷う? 戻るんだ。穴の中に入れ。それでこそ人間だ。
 あいつが何をしたと思っている? 今、中に入ればあいつを救えるかもしれない。あいつはたくさんの人を殺したんだぞ? 今、中に入れ。お前は今までそういう奴だったろ?
 回る。回る。のび太は思う。頭の中でいろんな単語、文が! ぐるぐる回る。回る。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 のび太は叫んだ。思いっきり。大声で!
「よし、行こう」
 穴の中へとのび太は駆けだした――

 使いすぎたな―― 穴の中、イカたこは思う。手元にある秘密道具。空間を飛ばすやつ。それの残りエネルギーは少ししか残っていない。人を一人ぐらい飛ばすだけ。それぐらいのエネルギーしか残っていなかった。使いすぎと、さっき落としたせいだった。
 イカたこはポケットの中を探ってみるが、空間移動系の道具はこれしか持っていなかった。イカたこは座っていて、背もたれに使っているのは石版だった。石版は変わらず奇妙に輝いている。
 少し休憩してから外に出るか。そう思っていた時だった。前から足音が聞こえる。音の方を向いてみると、のび太が走っているのが見えた。イカたこは一瞬呆れる。
「何で来た?」
「たっ助けに来たんだよ!」
 のび太がそう叫んだ瞬間、大きな音がして土や石が一気に落ちてきた。のび太の後方だ。穴は完全に塞がっていた。まるで、試験管にゴム栓を詰めたように。
 イカたこはため息をつく。こいつは、本当に何しに来たんだ、と。石版がある方にも、パラパラと石や泥が落ちてくる。ああ、こっちも崩れてくるなとイカたこは感じる。
「お前は改造ショックガンを持っているのか?」
「あっ……落とした」
「落とした? 残念ながらこの秘密道具は一人分のエネルギーしか無い。そこの石とかも全てはワープさせれない。意味が分かるか? 絶対にどちらかは助からない、ということだ」
 沈黙。しばらくの、沈黙。イカたこは呆れていた。本当に、お前は何しに来たんだ、と。
 改造ショックガンさえあれば、これで崩れたところを壊したりして助けるんだ、とかいう言いようがある。しかし、何も無いだと? 本当に何をしにきたんだ。呆れた。冷静に。呆れた。ため息をつく。
 見捨てるしかないな。イカたこは考える。ここで自分が死んでどうなる? 石版の中身が分かるのは俺しかいないんだ。今、ここから出さえすれば石版の中身から兵器を作れる。そして、自分の考え通りの世界にできる。理想の世界にできる。
 のび太は慌てていた。動揺。自分はどうすればいいのだ? 動揺。一歩、後ろへと下がる。後ろに向けた手に冷たい石の感触が走る。それは、死の感触に思えた。
「そもそも、何でここに来た? 憎かったんじゃないのか?」
 イカたこは言う。これは、心底疑問に思っていたことだった。皮肉とかそういうわけじゃなく。心の底から。何で助けに来た? それともそれは嘘で、とどめを刺そうと来たのか?
 パラパラと、石が落ちてくる。その様子はまるでこの世の終わりのようでもあり、始まりのようでもある。
 穴の中の石版がのび太達二人を照らしているかの様に明るかった。石版は不思議な光を放っている。いくら石が落ちてきても、傷つくことは無いだろう。永遠に。
 のび太は詰まる。そして、若干の沈黙の後、口を開いた……
「もし、そこに困っている人がいるんならさ。死んでしまう人がいるのならさ! 助けるしかないじゃないか!」
「っ……!」
 カチリという音が穴の中に響く。のび太の腹に、秘密道具が当てられていた。足元から光り出し、消えていく。空間転移だった。
「さよならだ。じゃあな」
「イカた――」
 言い終わる前に、のび太は消え去っていた。場所は、穴の外。心配気な顔で待っている二人の仲間の元。
 そして、消える直前ののび太の目にイカたこはあの日の猫のように見えた…… だが、その顔は何処か満足気にも見えていた……

 ああ、いい気持ちだ―― イカたこは思う。もう光を放ちはしない秘密道具は、手元からコロコロと転げ落ちた。
 パラパラと、土が降ってくる。その様子はまるで雪のようでもあり、雨のようでもある。
 やけに、爽やかな気持ちだった。頭の中で響くのはのび太の言葉。もしそこに困っている人がいるのなら、死んでしまう人がいるのなら、助けるしかない。何回も、何回も響いてくる。
 寄りかかっている石版は、やはり奇妙な光を放ち、イカたこを照らす。
 間違っていたのは俺なのか? それとも彼らなのか? そんなものはどうでもいいさ。自分の人生に後悔は無い。十分、価値があったじゃないか。最後はあの少年を助けられたんだ。
 ああ、いい気持ちだ―― イカたこはもう一度そう心の中で呟くと、目を閉じた……


「では、授業を始める。が、その前に転校生を紹介しよう。前村君、来てくれ」
 学校の先生の声が、のび太の耳に聞こえてきた。あの出来事から、既に一か月が経っていた。あの二人の転校生は無かったことになっていた。戻ったのだ、日常に。何の関係も無い別の転校生が、教室に入ってくる。
 のび太は外を見ていた。頬づきをし、ボーッと外を見ていた。空は何処までも青く、どす黒い髑髏なんかは見えやしない。平和な、何処までも平和な光景だった。
 鉛筆がころころと転がり落ち、床に落ちる。隣の席の女子がそれを拾い上げ、のび太の机に置く。
 思い返すのは、あの数日のこと。何度も命の危機に直面し、何度も泣いた、あの数日間。ボーッと空を見ながら思い返す。長かった、あの数日間。自分が生きていることが奇跡だと何度も言った。
「じゃ、あそこの席に座ってくれ」
 のび太の横を、転校生が通り過ぎる。何かの声が聞こえてくるかな、とのび太は密かに期待していたが何も無かった。


 全ては日常に戻り、始まりの時に彼らが感じていた『何かが』起こりそうな気配も既に無い。全ては、首謀者の死という形で終わりを告げたのだ。
 事件の解決には様々な死があった。数々の人が死んでいき、その死のおかげで解決したともいえる。その死んだ者たちは、満足したのだろうか? 
 そして、イカたこ。彼は、何に満足したのだろうか? 何故、安らかに死んだんだろうか?
 全ては、想像するしかない……

石版 第六幕「彼は満足したのだろうか」 一時閉幕


[No.448] 2009/02/09(Mon) 18:19:31
石版 「カーテンコールの後に幕は下りる」 (No.448への返信 / 8階層) - 文矢

 さあさあ、皆さん。これにて、未来と現在を巻き込んだアクションショーは、これにて終わりを告げました。
 イカたこ達は結果的に敗北し、我らがドラえもん達の勝利という形で終わったのです! 無事に、全て無事に、無事に終わることができたのです。
 おっと、皆さん。立ちあがるのはまだ早いです。さあさあ、そこにお座り下さい。
 今まで役を精一杯演じてくれた役者さん達に大きな拍手をお送りください! カーテンコールの時間です!
 さあ、今幕が開きます。もう一度言いましょう! 今まで役を演じてくれた役者さん達に大きな拍手を!


   ゼクロス・アークウィンド
   ミサイル研究所
   すずらん
   メタル
   イカたこ

   ナグドラ
   剛田清
   軟体防衛軍

   大島
   松村
   小出
   田中

   ロボット

   先生
   その他、劇団員

   ハウルス
   ジャール
   マーおばさん

   どらEMON
   じおす
   アルタ
   名無し

   ドラえもん
   野比のび太
    剛田武
   骨川スネ夫
   源静香


 さあ、これで終わりと相成ります。もう一度、役者さん達に大きな拍手をお願いします!
 ありがとうございます。ありがとうございます! 皆様、どうでしたか? 我が劇団最大最高のショウ、お楽しみいただけましたでしょうか? 少しでも! 塩のほんの一粒ほどでも面白かったと思ってくれたのなら! 我々劇団は大喜びです。
 それでは、幕が下ります。長い長い、ショウでした。もう一度言います。付き合って下さり、本当にありがとうございました!
 
 おっと。言い遅れましたね。開幕、閉幕時、幕間の講釈を務めさせていただいたのは私、文矢でございました。
 それでは、次回の講演でまた会いましょう――


 石版 閉幕


[No.449] 2009/02/09(Mon) 18:20:19
感想 (No.449への返信 / 9階層) - 文矢

長かったです。
本当に、長かったです。

石版の序章を投稿したのが2007年の10月ですから、一年以上経ったということになりますね。はい。
今、パーッと数えてみたら66話となりました(幕間とか含めて)
いや、とんでもないです。はい。

前作「生きる」が題名通り、人の生きざまを描いたものなら、石版は人の死に様をテーマにしたつもりです。
それぞれのキャラさんが死んでいくシーンには、力を入れました。
満足いく死、死の恐怖など、若い身としては精いっぱい頑張ったと思います。
登場してくれる方を募集したのもここらへんにあって、オリキャラが死んでも衝撃が無いな、ということで皆さんの名前をお借りしました。
ついでに、石版の原型は生きるの第二章を書いている時に思いつきました。

あと、石版で凝ったのは伏線です。
もう、幾つも幾つも考えて、色々とやってみました。
もしも暇でしたらもう一度読み返していただきたいぐらいです。

かなり手前味噌な内容ですが、とりあえず石版は文矢の最高傑作です。
第一幕からすべて、自分的には百点満点です。
ついでに自分が一番文章が良かったな、と思っているのは第五幕です。
まあ、間違いなく文矢の最高傑作です。

それでは、ここまで付き合って下さった皆さん、本当にありがとうございました!
又、キャラクターとして登場して下さった皆さん、本当にすいませんでした!


[No.450] 2009/02/09(Mon) 18:29:13

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