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all 『深泥丘奇談』感想 - mihoro - 2008/03/27(Thu) 18:12:57 [No.35]
皆さんも、感想をどうぞ - mihoro - 2008/03/27(Thu) 18:17:37 [No.36]
それはこわい - 礼子 - 2008/03/30(Sun) 01:06:56 [No.37]


『深泥丘奇談』感想 - mihoro

──ような気がする、物語。

怪談とかホラーとか、そんな通り一遍の言葉ではとてもくくりきれない、独特の味がある作品群。不思議なもの、オチのあるもの、怖いもの、可笑しいもの、さまざまな色が混在していて楽しかった。
読む人によって、お気に入りの作品がきっと違うんだろうなとも思いました。
特筆すべきは「可笑しさ」かな。綾辻さんの従来の作品にはあまり見られなかった、とぼけた可笑しさ。ほのぼの系ではなく、どちらかというとブラックな。でもそれがいい味を出していたと思います。
凝った作りの装丁は云わずもがな、間に挟みこまれた挿画もとても素敵でした。

今回の連作集は「音」や「声」が効果的に使われていて、そこがまず私のツボでした。もともと綾辻さんの小説は、とても鮮やかな絵が浮かんでそれが深く心に残ることが多いんだけど、今回はそれに加えて音も、いい仕事してました。
自分が長らく住んでいる町の伝承を自分だけが知らない、何故自分だけが。忘れてしまったのか、それとも‥。それはとても不安なことなんだけど、物語全体はむしろ奇妙な安定感に満ちていて、怖いというよりは、不思議な体験をさせてもらったという感じ。
主人公とその奥さんとの会話は、萌えポイント(笑)。実際の綾辻先生と小野先生もこんな感じで会話されているのかなあと、ほほえましく思いながら読んでました。

「顔」
最初に読んだのは雑誌掲載時、つまり2004年だったんだけど、三年半もの間、この「ちちち」がずーっと頭にこびりついておりまして(笑)。それくらい印象的な一篇でした。
壁の模様が、でちょっとゾッとさせられたのが、ラストへとつながっていく。自分の内部に得体の知れないものを匿っている(かもしれない)恐怖。
「ちちち」という声がとてもいいですね。元ネタのホラー漫画があるようですが。

「丘の向こう」
題名が好き。
やって来たのは、硬いタタリ神みたいなものだったのでしょうか。それが現れたときの主人公の驚きようは、ちょっと大袈裟な気も(感情は驚愕を飛び越え‥のあたり)。むしろその後の凄惨なスプラッタシーンがすごかった。
テッチャンたちのカメラにどんな映像が収められたのかが、気になります。

「長びく雨」
これ、不思議なことは何も起きていないのが、すっごく面白い(と私は解釈)。
雨が長引くと川が氾濫する、なのでそれを防ぐためにてるてる坊主を吊る下げる。ご利益ができるだけ大きくなるよう、てるてる坊主も実物大(?)のものを。
とても理路整然としていて、この作品群の中では異色かな。でもそこが好き。
「材料やサイズは‥」のところで最初は気付かなくって、読み終わってから「ああ、そうか!」と。「てるてる坊主」という語を出さないところが上手いなあ。

「悪霊憑き」
死体を発見するあたりの文章がとても好き。
ミステリとしては割とあっさり目だと、初読のとき(「ミステリーズ!」掲載時)は思ったんだけど、落ちのない物語の中心にこの一篇があると、存在感が増しますね。
前もって出てきたエピソードやセリフが、ぽん、ぽんとつながっていくところが、いい感じ。

「サムザムシ」
ここんとこずっと、歯が痛くて不快な思いをしているもので(でも歯医者には行きたくない)、切実に「これ欲しい!」と思ってしまいました(笑)。いやほんと。
しかも一生物なんですよね、すばらしい。15分口に含むくらい、我慢しますよ私は(笑)。
虫であろうことは題名から予想がつきました。虫が苦手な人には恐怖な話だろうけど、私はとても楽しく読みました。
歯医者で無防備に口を開けてる姿って滑稽だよね。そういう感じも良く出ていて、面白かったなあ。

「開けるな」
最後の医師のセリフにヤラれました。
どうしてその鍵が遺跡発掘セットの中に‥とか、不思議なことはいっぱいあるんだけど、とにかく「開けるな開けるな」と思って読んできたのが、ラストで一転。
鍵は開けるための道具でもあり、閉めるための道具でもあるという。綾辻さんらしい「くるっと反転」の物語。拍手拍手。

「六山の夜」
送り火を観に集まってくる人々のわくわく感が読んでる私にも伝わってきて、なのに最後に思わぬ方向へ。「丘の向こう」は狂喜乱舞だったのに、今度は激しい恐怖のあまり逃げ惑う人々。どうして?予期した文字と違ったのか??
落ちがない物語、という前提は分かるんだけど、「丘の向こう」と「六山の夜」の結末の違いの理由が、とっかかりだけでもいいから欲しいと思いました。もちろん、この物語世界の中でしか通用しない事柄で構わないので。
山の名前も火で描かれる文字(や記号)は、雰囲気があって素敵。でも、京都から遠く離れた地に住む私は元ネタが分からないというか、「大文字焼き」の「大」しか知らないもんで、綾辻さんが一所懸命考えたであろう他の文字や山の名前の凄さがイマイチ分からなくて、うう、申し訳ない。

「深泥丘魔術団」
雑誌掲載時から相当加筆されています。よかったよかった(笑)。
箱の覗き窓から見た光景が、すごくくっきりイメージできて、上手いなあと思いました。
「ご心配は要りません。ここは病院ですので」このセリフはウケたなあ。
P.257、「大いに意表を衝かれた」という表現が同じページの中に二回も出てきて、ちょっと気になった。綾辻さんの文章でつっかかることって、滅多にないのですが。

「声」
今までに出てきたさまざまな声、総動員。本のラストということで、こうなったのかな。
「タマミフル」は、楳図漫画に詳しくない私でも分かりました。『赤んぼう少女』ですね。


「短篇は書くのも読むのもあまり得意ではない」とおっしゃっている綾辻さんですが、半年に一本くらいだったら大丈夫でしょうか。
私は個人的に、短篇というものにとても愛着があるので、この連載がこれからも続いてくれると嬉しいです。

ところで、紆余曲折の末に決まった題名の『深泥丘奇談』は、とてもいいと思います(以前のアンケートの選択肢にはありませんでしたけど)。
「如呂塚」は、語感は最高だけど、あくまで丘の向こうの場所だもんね。
深泥池という場所が実在することは、「幽」の対談記事で初めて知りました。一度訪れてみたいなあ。


[No.35] 2008/03/27(Thu) 18:12:57

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