ようやく単行本バージョンを読み終えたので(読み始めたら一日、あっという間でした)、感想を書きます。まとまりなくてごめんなさい。
目次の「What?」「Why?」「How?」「Who?」が、技あり一本! 冒頭ではっきりこれを打ち出したことによって、ミステリ的価値が、がーっとアップした感があります。連載バージョンにはこういう副題はなかったし、二部構成でもなかったんですよね(内容は同じだけど)。で、正直、『Another』がこんなにミステリマニアたちに歓迎され、このミス・ランクインも期待されるような状態になるとは、mihoroさん予想しておりませんでした(汗)。いやはや、読みが甘いぞ自分。
連載時は、初回だけリアルタイムで読んだんですね。あとは雑誌だけ買っておいて、連載終了後に一気読み。 最初にいきなり主人公が入院してしまって、でも物語はとても前向きで爽やかというか、「おおっ、これはちょっと新しい綾辻さんかも」とすごく期待が高まった初回でした。やはり病院のシーンが多かった『最後の記憶』のときは、もっと鬱々してたし(まあ、病気の種類も患者の年齢もまったく違いますが)、それとはずいぶん毛色が違いそうだなと。で、通して読んでもその思いは同じでした。わー、綾辻さんの学園もの、すっごくいいじゃん。この調子で学園ミステリも、ぜひぜひ書いてほしいなあ、とか。恩田さんや辻村さんの学園ものに通じる部分もあるな、と思ったら、最初の頃は『六番目の小夜子』を意識して書いていた、とインタビューにあったので、あ、やっぱりと。 ホラー、ミステリ、青春もの、いろんな側面を持つ小説だと思います。私が他人に紹介するとしたら、「中学生が、理不尽な“現象”に一所懸命立ち向かう話」。つまり、青春小説としての部分に一番惹かれたってことかな。もちろん、怖い部分にも綾辻マジックにも「やられたーっ(^^)」って思ったけどね。
今回は中学生が主人公で、またこの子が素直ないい子で。お父さんやおばあちゃんにちゃんと感謝するところ、いいなあって(いや、ひねくれ者もそれはそれで好きですけど(笑))。 ところで、自分はあまりキャラ読みしないたちなんですが、今回、主人公もいいけど、隻眼の少女・見崎鳴が実にカッコよくって。彼女の凛としたたたずまい、誰にも頼らず自分ひとりで考え、自分ひとりで責任を背負って行動しようとするところ、大好きでした。赤沢さんとの対決(?)も強く心に残りました。あ、でも二度目に読んだとき、「あれれ、眼帯、ショートボブ、白蝋めいた肌‥これってエヴァの綾波か?」と思わないでもありませんでしたが(笑)<連載時は漆黒の髪ではなく「色の薄い髪」だったので、余計にね。
「超自然的自然現象」という設定が、一見ゆるいようでいて実はかなり緻密。「記録の改竄」「記憶の調整」なんてことが起こっちゃう世界。不特定多数の関係者の記憶がいいように操られてしまうんだけど、決してご都合主義にはならず、きちんと法則性は守られているんですよね。ミステリとして納得できるぎりぎりのところで、上手に物語を成り立たせているなあと感心しました。 鳴の「死の色が見えてしまう目」についても、分かっていたなら最初からそれを使えばよかったのにと一瞬思ったけど、もし彼女が春の時点でそれを云ったとしても誰も信じなかっただろうし、「死者を死に還せば秩序が回復する」ことを彼女が知ったのは八月になってからだったので、うん、このあたりも絶妙のバランスですね。
Part1の終盤で、「鳴は、実際には存在しない幽霊なのでは」と思って読んでいたのがはっきりと否定される。まず第一の驚きでした。クラスメイトたちのいろんな物言いや行動、人形工房での出来事すべてに「なるほどそういうわけだったのか」と納得がいく。「What?」「Why?」が解明されて、まず「おお〜っ」と盛り上がり。 それではこの後「死者は誰?=Who?」という犯人探しになるかと思いきや、紛れ込んだ死者本人が嘘をついている訳ではないから、手がかりゼロ。とはいえ実は前半部分から、「九官鳥」「一年半ぶり」「別の美術教師」「夜見北での心構えその四」と、伏線がかなりあからさまに仕込まれていたんですね。死者が生徒ではなく先生だったこと、しかも怜子さん=三神先生だったことには、素直にびっくりさせられました。二度目に読んだときは、「わあこんな最初のほうから怜子さん登場してるよ、もう「あれ」が始まってるよ」と鳥肌ものでした。どうして主人公のお母さんの旧姓が出てこないんだろうとずっと不思議に思っていたのですが、なるほどそういうわけだったんですね。 ただ、家での怜子さんと学校での三神先生、しゃべり方や態度が同一人物とは思えない部分も多く(学校ではいやに自信なさげ)、ちょっとズルいなあとも(笑)。それと、四月の最初の時点で職員室の机が一つ足りなかった‥のかな?それは書いてなかったですよね、たしか。
生徒だけでなく先生からも徹底的に無視される、という仕打ちはかなりひどいですが、実際自分が三年三組の一員だったら、協力せざるを得ないだろうなあ。人が(もしかしたら自分が)死ぬのはやはり怖いですから。そういう意味では今回のお話、殺人ではないにせよ、じゃんじゃん死ぬので怖かったです。桜木さんや久保寺先生の死に方も、えらく凄惨で派手でしたしね。 もっとも、〈いないもの〉とされた恒一は、鳴と二人の孤独=自由を楽しんでいたようで、そこはちょっと面白かったです。鳴の「他の人を〈いないもの〉として扱うより、自分がなったほうが気が楽」という気持ちも、分かるなあ。 災厄を止める唯一の方法を知った生徒同士が、疑心暗鬼になり、それがエスカレートして殺し合ってしまう、これはかなりぞっとさせられる状況でした。幸い、ドロドロになる前に火事のクライマックスに突入してしまいましたが。 ラストは、殺人鬼と化した沼田・妻ではなく、無抵抗の怜子さんを殺さなければ災厄を止められないという、これまた主人公たちにとってえらく過酷な試練。ただ、いくら「災厄を止めた」達成感があったにせよ、身近な人を手にかけたにしては、Outroductionの恒一たちは落ち着いていて。もう少し葛藤があってもいいんじゃないか、いやこれはすでに忘却が始まっているからなんじゃないか、などと考えたりも。
(まだ続きます‥)
[No.189] 2009/11/23(Mon) 22:18:47 |