読み終わった直後の感想は、「悔しい!」 この一言に尽きますな(笑)。
吹雪の山荘、仮面の主人に仮面の招待客、首無し指無し死体‥と、ミステリ好きが喜ぶ要素が、これでもかとちりばめられ。 事件の起こった時点でいったん本を閉じ、推理をめぐらせました。 ‥すべてがミスリードだったとも知らずに(涙)。
仮面の下で人物の入れ替わりが行われているに違いない。 事件後に極端に口数の少ない人がいたら怪しいぞ!‥おや、そういう人物は見当たらないなあ。 お、やたらと頭の左側を気にする仕草、これは日向京助なのでは!‥えー、違うのかあ。 読み進むうちに、自分が考えた仮説はことごとく間違っていたと判明。 真相は‥うわーそうか!犯人が仮面を脱げなくなった理由も、云われてみれば実にごもっとも。 指を粉々にしたのは、指紋の同定をさせないためでなく、わあ、そういう理由か、なるほどー。 あーなんで気がつかなかったんだ自分!だんだんだん!(地団駄踏む音)
第七回の安楽椅子探偵の解答編を見たときの気分に似てますね。 自分では「見破ったり!」といい気になっていたら、全く明後日の方向を向いて推理を進ませていたという。しょぼーん。
奇面館当主が二代目ではなく三代目だったことには全く気がつかず。 登場人物表がないことは、読んでる最中分かっていたのに(どの仮面が誰なのかなかなか覚えられず、自分で人物表作ったもん)、「本質は表層にこそある」という言葉にも多少引っかかりを覚えたのに、同姓同名が集っていたとは、やはり最後まで気がつかず。 フクロウの色の違いも、するっと読み飛ばし。 (こう羅列すると、馬鹿自慢しているようでお恥ずかしい‥)
ちょっとミステリを読みかじって分かった気になっている人を、思いっきり足元からすくって倒す、快作だったと思います。 見事に騙されました。完敗。 m(_ _)m
一番驚いたのは「仮面そのものが鍵だった!」でした。(次点は、全員名前が「影山逸史」!の場面。) 犯人につきまとう悪夢の正体が、幼い頃、無理矢理被らされた未来の仮面の中で見た光景で(本当にそうだったかは定かではないにしろ)、何十年の時を経てそれが現実となって自分の身に降り掛かってくる‥という、少し幻想がかった根幹の部分が、すごく好き。 途中、鹿谷の正体がバレそうになるところはハラハラ。本人であることの証明に、折り紙の悪魔が一役買うところは嬉しかったです。
あとは、思ったことをいくつか。 ・もう少し短いとよかったかなあ(でも、どこを刈り込めばよいかと訊かれると、具体的には思いつかず)。綾辻さん、読者に親切すぎるのか、それとも読者の読解力を信用していないから、ついつい丁寧に書きすぎて長くなっちゃうのか。もっとも、本格ミステリの長篇は隙なくしっかり構築しないといけないから、仕方ないかな。 せめて短篇(深泥丘とか)では、もっといろいろ冒険してほしいと思います。(これは、先日皆川博子さんの短篇集を読んで感じたこと。綾辻さんも、たまには読者に不親切なトンガったの書いてもいいんじゃないかなあと。) ・巷で人気の(笑)瞳子さん、たしかによかったです。すっごく強いところも伏線として活きていたし。それだけに、解決編の終盤かエピローグにもう1シーン、出番があると嬉しかったな。彼女が事件をどう思ったかも、聞いてみたかったなーと。 ・綾辻さんご自身が昼夜逆転型なので、小説の登場人物もそういう人たちが多いよね。 招待客が宿泊中、つまり翌日も仕事がたくさんあるにも関わらず、鬼丸と長宗我部が夜中の四時まで囲碁の対局って‥翌日の仕事に差し障るから早く休もうとは思わないのかな? P357「午前四時半をまわって五時が近かったら、さすがに本館で使用人の誰かと遭遇する心配もないだろう。」とあるんだけど、四月の午前五時と云えば、うっすら外が明るくなる頃。むしろ「しまった夜が明けてきた、誰か起き出してきたら‥」と焦る気持ちにならないのか? 余談ですが、今年改訂版が出る予定の『時計館の殺人』も、いくら名刺に書いてあったとはいえ、伊波紗世子さん、一度しか会ったことのない鹿谷に、夜中の三時半に電話をかけるのはどうなのよー、と思ったものです(笑)。プロットの要請、と云ってしまえばそれまでですが。 ・すっぽり被る仮面を「全頭」ということを初めて知り、奇面館っぽいのもあるかしらと画像検索をしてみたら、SMプレイのグッズがずらりと出てきて、びっくり(笑)。 ・「殺人事件はひとつだけ」と、「ダ・ヴィンチ」のインタビューの中で綾辻さんがおっしゃってたんだけど、できればそれは伏せておいてほしかったな。読んでて事件が起こった後、妙に安心してしまったので。(もっとも、「次にまた誰かが殺されるのか? とドキドキしていたが、結局なにも起こらなかった、なーんだ。」と、ガッカリする人もいるかもしれないので、受け取り方は人それぞれでしょうが。) ・自分の旧姓が作中連呼されてて、そういう意味でも思い出深い作品になりました(笑)。そんなにポピュラーな名字ではないんだけどね。(由来は『匣の中の失楽』かな?) ・再読すると、「おお、このときの“影山逸史”は、この人ではなくこの人のことだったのか」とか、いろいろ気づくことが多くて面白いです。 ・館シリーズ、十作目は「○○館」かなと予想しているものはありますが、果たして当たりますかどうか。十作で終わるのはもったいないので、気の向くままでいいから、ぽつぽつと続けてもらえたら嬉しいなあ。
[No.217] 2012/01/28(Sat) 13:13:56 |