ここは、忍達が身を休める忍寮だ。 寮では暗転時間が過ぎ、少女達は修業での疲れを癒すため、安らかな睡眠をとっていた。 その一方、ある一つの部屋から少女とは思えない大きな鼾が聞こえていた。その主は、葛城であった。 よほど修業で疲れたのか、ハンモックに揺られながら気持ち良さそうに眠っていた。 「んん…ト、トイレ…」 尿意で目が覚めた葛城。 睡魔に襲われながらも、体をふらつかせながら部屋を出てトイレへと向かった。 そして、トイレでの用事を済まし葛城は部屋へと戻ろうとした。 「ハァ〜スッキリした。 それにしても、修業の時に張り切りすぎたかな。 なんだか足が痛むんだよな」 そう言って、葛城は近く壁に手を掛けた。 すると。 『カチッ』 壁の一部が、突然スイッチの様に凹みだした。 「ん…って、なんなんだコレ!壁に…スイッチ?」 あまりにも突然な事だったので、葛城は若干戸惑っていた。 さらに。 『ゴゴゴゴゴ』 なんと壁の面が自動扉の様に横開きになり、中から謎の扉が出現した。 「な…と、扉だと…。」 見たこともない扉の出現に、葛城は驚きを隠せませんでした。 さっきまで睡魔に襲われていたのが嘘かのように、眠気は完全に吹っ飛んでいた。 葛城は、恐る恐る警戒しながらもその扉に手を伸ばしてみることに。 扉を開けてみると、真っ暗で何も見えません。 「寮にこんな隠し部屋が…。一体中はどうなってるんだ」 葛城は非常用にと胸の谷間にしまっていた小型懐中電灯を取り出し、光を照らしてみると。 「こ、この部屋…し、資料室?」 なんと中には、大量の本や辞書、巻物が収納されている棚がいくつもありました。 まるで、小さな図書室のようだ。 「何だか、見たこともない巻物や本ばかりだな。これは、斑鳩のヤツが見たらさぞかし喜ぶだろうなぁ」 斑鳩の事をボソッとつぶやきながら、部屋の中を見て回る葛城。 見て回っていると、足に何かが当たりました。 気づいて灯りを照らしてみると、葛城は、ある一つ本を踏んでいました。 「うわっ、しまった。どこも汚れていないよな。もし汚れてたら弁償し…あれ?この本は…‘ヒーロー図鑑’」 葛城が踏んでいたのは、ヒーローの図鑑であった。 特撮からアニメ、アメコミ、魔法少女など、様々なヒーローの事が綴られている。 「へぇ〜こんなモノまで置いてあるなんてなぁ。しかし、一体誰がこんな所に隠し部屋を⋯他の4人は知ってるのか?」 確かに、もし隠し部屋が見つかったとなるとそれなり報告があってもおかしくないが、他の4人(斑鳩・飛鳥・柳生・雲雀)は勿論、教師の霧夜からもこの部屋の事を教えてもらった覚えがない。 葛城は、『もしかするとこの事を知っているのは、自分だけなのでは』と考えた。 「そうだ!この部屋をアタイだけのプライベートルームにするか。ここにテレビを持ち込んでプロレス鑑賞したり、テレビゲームやったり、それから…」 葛城は、新しい自分専用の部屋が出来たので凄く盛り上がっていた。 「ふあぁ〜(あくび)、トイレ、トイレ」 すると、廊下から一人の少女の声が聞こえた。 声の主は飛鳥だ。どうやら葛城同様、尿意で目が覚めてトイレへと向かっている様子だ。 「げ、あの声は飛鳥。この部屋の事がバレたらまずい」 葛城は、隠し部屋の扉を急いで閉め、飛鳥に見つからないよう近くの物陰に隠れた。 「せっかく気持ちよく寝てたのに。水を飲みすぎたかな」 「ふぅ…間一髪だったぜ」 なんとか、飛鳥に隠し部屋の事を知られず、その場を凌ぐことが出来た。 葛城は、こっそり部屋へと戻った。 「危ない、危ない。あと何秒も遅かったら、隠し部屋の事がバレる、所だった。あと、こんなお宝にも出会えたし」 葛城が胸元から取り出したのは、先程の隠し部屋に置いてあったヒーロー図鑑であった。 「こんなお宝、あそこに置いておくなんて勿体ないなぁ。では、早速」 葛城はヒーロー図鑑を開いき、読み始めた。 「おお、懐かしいな。こんなヒーローいたなぁ。おぉ、こんな裏設定まで」 ヒーロー図鑑には、葛城も知らない裏情報がたくさん詰まっていました。葛城の興奮は、していた。 「そうだ、あのヒーローは載ってるかな。アタイが子供の頃、1番ハマっていたヒーロー…『美少女戦士 ラーメンガールズ』」 葛城は、自分が子供の頃に1番ハマっていたヒーローの情報を探し始めた。 「ラーメンガールズ、ラーメンガールズ。ラーメン大好きな美少女が変身するラーメンガールズ。悪の組織『カムクラ次郎』に立ち向かうラーメンガールズ。どこだ〜、どこだ〜」 葛城は、次々とページをめくり、ラーメンガールズの情報を探した。 しかし、ページをめくればめくるほど表情は暗くなり、とうとう全てのページをめくりきっていた。 その時の葛城は、先程の興奮が嘘のように冷めきっていた。 「ラーメンガールズが…載ってない。何でだよ…あんなに人気だったのに…何でだよ。ヒーロー図鑑なんだろう…コレ」 子供の頃の憧れであったヒーロー、ラーメンガールズは図鑑に載っていなかった。 「何でだよ、嘘だ!これは何かの間違えだ」 葛城が再びページをめくろうとしたその時、本のタイトルを見ると。 「な!お、‘王道 ヒーロー図鑑’…」 なんと葛城は、タイトルに書かれてた‘王道’という文字を見逃していたのです。 この2文字を見た途端、葛城の感情は、怒りへと変わった。 「王道ってなんだよ。ラーメンガールズは、王道じゃないっていうのかよ…何でだよ…一体どうなっているんだよ」 葛城は、悔しがっていた。 「何が王道ヒーロー図鑑だよ…ヒーローは、王道じゃなきゃいけないのかよ!」 葛城は怒り、ヒーロー図鑑をゴミ箱に投げ捨てた。 「なんなんだよ。あんなのヒーロー図鑑でもなんでもねーよ!」 葛城は、再びハンモックに横になり考えた。 「王道って、なんだよ…ヒーローは王道じゃなきゃいけないのか。いや、そんなこと無いさ。ラーメンガールズだって、世界平和を守るヒーローなんだ」 ラーメンガールズは、葛城の子供の頃の憧れなのであった。 大きくなったら、自分もラーメンガールズになりたいと親に何度も話した事を、葛城は今も覚えています。 「ハァ〜(ため息)、ラーメンガールズは邪道って事か。何で世の中は王道だとか邪道だとか決めるんだ。邪道のヒーローでも、頑張っているんだけどな…まぁ、頑張ってのはわかってるけど、なんか納得出来ないんだよな」 葛城は横になり、そして悩んだ。 もし、王道ヒーローと邪道ヒーローというジャンルがあるとすれば、皆はどちらを信用するのか、どちらに未来を託すのか…っと。 「アタイがヒーローだったら、どうなっていたかな…」 小言をつぶやく葛城。 すると、彼女は閃いた。 「ん!?アタイが…ヒーロー…ヒーロー…ヒーローに…なる。…そうだ、それだ!!」 何を思いついたのか、葛城はハンモックから起き上がり机に向かいました。 そして、紙とペンを用意して、あるモノを描き出した。何かのコスチュームのようだ。 「王道ヒーローがなんだよ。 もし、ヒーローに王道や邪道があるなら、アタイがその邪道ヒーローになってやろうじゃないか」 なんと葛城は、自分がヒーローになると言いだした。しかも、王道とは逆の邪道ヒーローにと。 「たとえ周りが反対しても、アタイは止まらない。邪道ヒーローだって、世界の為に闘っているんだ。それを知ってもらう。邪道ヒーローだって未来を守れる」 葛城は熱く語りながら筆を進め、気がつけば夜明けの時刻に達していた。 そして、ついに…。 「ハァ、ハァ、ハァ…で、出来た」 葛城の目元には隈が出来ており、息遣いも荒く、今にも眠りそうな状態でした。 「邪道ヒーローの頂点に立ってみせる。アタイが…いやっ『セクハラーメンマン』が…」 葛城は、コスチュームを描き終えると、そのままぐっすりと眠り始めました。 この時彼女(葛城)は、これから先に様々な試練が襲い掛かってくる事をまだ知らなかった。 これはヒーロー達の、作品の枠を越えた闘いの始まりでもあった。
[No.11939] 2018/11/18(Sun) 15:27:53 |