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No.156へ返信

all ボロマールさんへ (随分遅れてごめんなさいっ!) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:53:30 [No.155]
士具馬さんへ - ボロマール - 2007/05/17(Thu) 04:30:26 [No.162]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第五(完) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 23:00:44 [No.160]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第四 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:59:21 [No.159]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第三 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:56:22 [No.158]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第二 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:55:31 [No.157]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第一 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:54:39 [No.156]


異邦人 (そしてその目撃情報) 第一 (No.155 への返信) - 士具馬 鶏鶴



  その日、詩歌藩国は快晴の空に見下ろされていた。
  点在する雲は霞んでおり、透けて薄いみずいろの空が見える程度のものだった。時折海鳥の高い声が、その変化の少ない空に響いていた。





  詩歌藩国北部、王都イリューシアにほど近い湾岸沿いの漁港には足音が絶えなかった。様々な職業や年齢、それらに適した服装をした人々が各々の歩調で進んでいく。
  停泊する漁船から魚介類と氷の詰まった頑丈そうな木箱を運ぶ屈強な男達が居る一方で、色彩豊かな服に身を包んだ女性が港を出てすぐの所にある様々な店が立ち並ぶ大きな通りを歩いているなどといった風景がそこにはあった。



  だが、そんな詩歌藩国の日常も、今日だけは少し違った。
  明らかな異色が、その日常という名の完成された絵画の中に浮かび上がっていた。





  その漁港には、小さな旅客ターミナルがある。
  ターミナルといっても船舶の到着予定時間を表示する電光掲示板も無ければ、金属探知機もない。ただ、鉄パイプを溶接して作られたゲートとプレハブ製の小さな入国審査所、そして辛うじて読める本州行きへの船賃の書かれた金属板が審査所に掛けられているだけだった。
  湾岸部の少し外れた場所にひっそりと佇むその建物へと自ら足を向ける人の姿は無い。停泊する船舶の姿も無く、ただそのプレハブ製の入国審査所が太陽に照らされて、通りのコンクリートで固められた地面に黒い影を落としていた。





  「・・・はい、入国審査はこれで終了です。ボロマールさん、詩歌藩国にようこそ。楽しんでいってくださいね。」
  「そうさせてもらいます、どうもね!」
  入国審査官の声の後に、景気良く返事をする声があった。
  そして、ゲートが開いた。




  奥からは、酷く肌の露出度の高い格好をした男が姿を現した。
  無駄無く鍛え上げられた細身で筋肉質な体つきをしており、肌の色は薄い褐色。黒い髪を肩の辺りまで伸ばしていたが、どこか無造作に放り出されているかのようにも見える。咥えている煙草からは薄く煙が出ており、先端には紅色の火が燈っていた。黒縁の眼鏡からは特徴的な細い糸目が見えており、今はそれが優しさを帯びていた。


  そして、そんな男が身に纏っていたのは褌だけだった。木綿で作られたそれは一点の汚れも無い朱色に染め抜かれており、スラリと伸びる両足は綺麗にムダ毛処理がされていた。



  「くーっ、さっすが北国!少し肌寒さがあるなー!」
  ゲートから出てきたその男は、辺りに視線を配りながらそう言った。北国に居る人間がするべきでない格好をしていながらも、男の声からはその肌寒さをどうにかしようという気概は一切感じられない。

  遠くから聞こえる人々の声を聞き、男はターミナルから少し離れた賑わいのある漁港付近へと視点を定める。
  「なるほど、あっちがメインストリートか。さっそく詩歌藩国の賑わいに触れてみよう」
  そう言うと、褌姿のその男は逸る気持ちを抑えているかの様にゆっくりとコンクリートで固められた道の上を歩いて行った。


[No.156] 2007/05/15(Tue) 22:54:39

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