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No.157へ返信

all ボロマールさんへ (随分遅れてごめんなさいっ!) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:53:30 [No.155]
士具馬さんへ - ボロマール - 2007/05/17(Thu) 04:30:26 [No.162]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第五(完) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 23:00:44 [No.160]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第四 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:59:21 [No.159]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第三 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:56:22 [No.158]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第二 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:55:31 [No.157]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第一 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:54:39 [No.156]


異邦人 (そしてその目撃情報) 第二 (No.155 への返信) - 士具馬 鶏鶴





  目と鼻の先に漁港がある、その石畳の大きな通りに面して一軒の個人商店があった。
  店先に大きな窓ガラスがはめ込まれ、中の様子が外から良く見えるようになっている。店の中にはその大きな窓枠と向かい合うように長い木製のカウンターが備え付けられ、背後の壁を様々な商品が隙間無く並べられた棚が覆っていた。


  そんな店内には、一人だけ客が居た。年の若い男で、肩より少し下の辺りまで伸びた白い髪を後ろでくくり、前髪が目を覆っている。白衣を羽織り、その下には深い緑色のタートルネックを着ていた。


  カウンターを隔てた年の若い店の主人が、膨らんだこげ茶色の紙袋をカウンターの上において、
  「・・・では須藤さん、どうぞ。こちらがご注文の品です」
  店主に須藤と呼ばれたその客は、自分の方へと置かれた袋の中身を確認し、
  「・・・はい、確かに。注文通りです」
  そう言って、袋を受け取った。須藤は顔を店主の方へと戻し、
  「支払いはいつも通り、振り込まれてますよね?」
  「えぇ、もちろんです。いつも御贔屓にしていただきましてありがとうございます」
  確認するように店主へと質問して、店主に御礼の言葉と御辞儀で返される。
  「いえいえ、こちらこそお世話になっております。これからもどうぞよろしくお願いしますね」
   須藤が律儀に店主の御辞儀へ答えると、両手でカウンターの上に乗せられていた紙袋を抱える。
  「それじゃ、私はこれで失礼します。お仕事がんばってください」
  そう言いながら、カウンターに背を向けて店のドアへと歩いていく。荷物を片手に持ち替えて、分厚い木のドアに付けられた鈍い色の金属製ノブへと手を掛ける。

  「お買い上げ、ありがとうございましたー」
  須藤がドアノブを捻りドアを押し開くと、後ろからそう言う店主の声がしていた。





  店を後にして石畳の大きな通りに出ると須藤は独り言のように、
  「えーっと、他に買い物は無い筈だからこれで戻り・・・かな」
  そう言うと体の向きを反対に変えて、のんびりとしたスピードで歩き出した。町を行き交う人々の姿やディスプレイに展示された家具や雑貨を眺めながら、須藤はその身を陽光の元に晒している。  白衣や髪の白が力強い太陽の光に照らされて、色の明るさを増す。道の脇に等間隔で植えられた街路樹の葉が透けて、深緑から薄い黄緑色へと変わる。時折吹き抜ける潮の匂いをする風が、小さくその葉を揺らしていた。
  透き通るみずいろの空には陰影の付いた白い雲が浮かび、じっくりと眺めれば流れていく様がわかった。




  「・・・また仕事へ戻るには勿体無い位の、良い天気だ・・・・」
  須藤は歩みを止めることもなく、息を小さく吐きながらそうつぶやく。
  男の目は白い前髪に覆われてその表情を窺い知ることは難しかったが、その声色からは男が自分の周りを包む風景を満足そうに楽しんでいることが分かった。




  そんな散歩気分で須藤が荷物を抱えて歩いていると、遠くに十字路が見えてきていた。



  そして、須藤は『その』男の姿を見た。



  距離があるので男の全体像や細部までははっきりと見えてはいなかったが、『その』男が随分奇抜な格好をしていることだけは間違いないことが須藤には分かった。
  長く伸びる黒い髪とほぼ全裸に近い格好。身に着けた衣類は目の覚めるような朱色の褌だけだった。近づいていく程に、『その』男の体が随分鍛え上げられていることがその体つきからわかった。



  「・・・え?」
  思わず須藤は困惑した様子でそう呟くと、一旦その足を止める。少し先に居るその赤い褌姿の男を凝視して、しばらくの間硬直していた。
  そうしている間にも、その赤い褌姿の黒髪の男は十字路を渡って須藤の視界から消えていく。周囲を気にする様子もなく、物珍しそうに建造物や店先に並ぶ商品達を眺めながら歩いていった。ついさっき、須藤自身がしていたように。


  「・・・・・・・・・・いや、まて。ここで声を掛けないわけにはいかないだろ、さすがに」
  やっと硬直が解けて、須藤は自身を奮い立たせるかの如くそう言うと、十字路の所まで石畳の道を駆け抜けていく。袋の中身を落とさないようにしっかりと紙袋の口を折り曲げて、片手で掴む。須藤の羽織る汚れのない白衣の裾が、慌しく揺れていた。


  20秒ほど走った後、十字路の所に着いた。須藤は辺りに視線を配り、先ほどの朱色の褌姿の男を見つけようとしたが、その男の姿はどこにもなかった。
  須藤は、念のためと思い十字路に沿って作られている脇道や抜け道を幾つか覗き込んでみたが結果は変わらなかった。


  「・・・・・・見間違い・・・・か・・・?」
  そう一人呟く須藤の横顔には、つーっと一筋の汗が流れていた。


[No.157] 2007/05/15(Tue) 22:55:31

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