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No.158へ返信

all ボロマールさんへ (随分遅れてごめんなさいっ!) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:53:30 [No.155]
士具馬さんへ - ボロマール - 2007/05/17(Thu) 04:30:26 [No.162]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第五(完) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 23:00:44 [No.160]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第四 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:59:21 [No.159]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第三 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:56:22 [No.158]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第二 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:55:31 [No.157]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第一 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:54:39 [No.156]


異邦人 (そしてその目撃情報) 第三 (No.155 への返信) - 士具馬 鶏鶴




  一方その頃、同じく王都イリューシア。



  港町の喧騒から少し離れた路地の一角にその立て看板はひっそりと置かれていた。「虎さん探偵(雑用)事務所」と白い木板に黒いペンキで書かれたそれは、まだ作られてからそれ程日がたっていないらしくま新しさが色濃く残っている。空から降り注ぐ真昼の陽光が、路面に立て看板の小さな影を縫いつけていた。



  その小さなたて看板の横には、三階建ての雑居ビルが路地の壁に埋め込まれるように建っていた。
  一階部分のスペースには古ぼけた古本屋が入っており、壁際には天井まで届く本棚が隙間なく置かれている。人一人がやっと通る事のできる程の通路が出来るように、同じ位の高さを持つ本棚が店内に並べられている。そして、どの本棚にも書物が詰め込まれていた。床には入りきらない本の山が点在し、ただでさえ狭い店内により圧迫感を与えていた。
  また、その店に並ぶ書物は多様だった。幼い子供が読むような薄い絵本の隣に辞典並みの厚みを持つ革張りの啓蒙書が本棚に並んでいた。
  そんな店の一番奥の壁際に小さなレジがあり、年老いた店主が腰を下ろしていた。不機嫌そうな表情を浮かべながら、手に持つ本のページへと視線を落としていた。その姿からは、客の来店を心待ちにするといった雰囲気は微塵も感じられなかった。



  そんな店の外、ビルの一階部分の右側に二階へと続く階段があった。傾斜は随分と急で、狭い空間の天井には古ぼけた電灯が据え付けられている。入り口付近の壁には電灯のスイッチはなかった。


  古本屋の店主が、薄暗い店内で本のページを三度めくり終わった頃。
  ビルの右側に作られた二階へと続く階段から、カツン、カツンと靴底の床を叩く音が聞こえた。その音は一定の間隔で大きくなっていき、しばらくして黒いレザー靴が見えた。


  階段の奥から姿を現したのは、一人の男だった。
  男は白いYシャツに、黒いジャケットを羽織っていた。腰を太い黒のベルトを締めて、下には色の浅いブルージーンズを穿いていた。白い顎鬚を綺麗に伸ばし、波打つ前髪が少しだけ顔に掛かっている。形の良い眉の下には、どこか厳しさを消しきれない鋭さを持った目があった。
  整った顔立ち、鍛え抜かれた無駄のない体、それらが見事なバランスでその男を構成していた。ただ、口に咥えた抹茶色をした棒つきアイスバーが、男からそれらの恵まれた外見を台無しにしていた。


  その男は、時間を持て余すかのように一歩ずつ階段を下りていく。男の体が大袈裟に上下する度に、口から出ているアイスの棒も小さく揺れる。
  男が細い階段を下りきって、路地に出た。照りつける陽光の眩しさからか、眉間に皺を寄せる。アイスバーの棒を口から出し、眉間に皺を寄せるその姿は実に滑稽だった。
  直ぐに目が慣れたのか、男の表情は険しさを失う。体を「く」の字に曲げて、片手に持っていた木の板を看板の上に立てた。その板には、「只今外出中」とだけ書かれていた。
  男は路地を抜けようと歩き出したが、歩を進め始めた直後に足が空中で止まる。体を反らし、口に含んだアイスバーを取り出しながら、階段横の古本屋の中を覗き込む。店主の不機嫌そうな表情で本を読む姿を見て、反らしていた体勢を元へと戻した。
  そして、視線を古本屋の店内から路地の先へと移す。手に持っていた宇治金時味のアイスバーを再び口に含み直して、歩き出した。






  「・・・まだ春先だってのに、なんでこんなにアイスが旨いんだ。仮にも北国だぞ、まったく」
  食べ終わったアイスバーの棒だけを咥えながら、その男、寅山 日時期は呟いた。これといった目的地もないように、当て所なく歩き続けている。その姿は、余りある時間をなんとかして消費しようする様にも見えた。寅山は通りに置いてあるゴミ箱を見つけて、咥えていたアイスの棒を捨てた。



  事務所に程近い路地を抜けて、寅山の足は自然と大通りへと向かった。途中には、閑静な住宅街や公園などがあった。住宅街に並ぶ家々はどれも立派な門がついていた。公園には緑が多く、広々としたそこには幾つかベンチがあるだけだった。


  寅山はそういった場所をゆっくりとした歩調で通り過ぎ、しばらくして背の高いビルが立ち並ぶ地域に出た。住宅街とビル街との分かれ目辺りに、流線型の金属製の看板が立っている。そこには、「詩歌藩国 政庁エリア」と書かれていた。
  その看板を見ることもなく、寅山は変わらずのんびりとした速度で政庁エリアへと進んでいく。途中、一際存在感のある背の高いビルの前で足を止めたが、結局寅山の足はビルの方へとは向かなかった。





  寅山がそのビルの前を素通りしてから数秒後。入れ違いのようにして、一人の男が街路樹の陰から現れた。赤い褌と黒い長髪が眩しい、年の若い男。ボロマールだった。


  「・・・なるほど、ここが詩歌藩国の中枢か。」
  遥か高くまで伸びるビルを見上げながら、ボロマールは落ち着いた口調で誰とも無く呟いた。黒縁の眼鏡の奥から微かに鋭さの残る両目をのぞかせ、ほんの少しだけ微笑んでいた。


  そして、
  「それじゃ、さっそくお邪魔させてもらおうかな」
  ボロマールは歩き出した。


[No.158] 2007/05/15(Tue) 22:56:22

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