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No.160へ返信

all ボロマールさんへ (随分遅れてごめんなさいっ!) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:53:30 [No.155]
士具馬さんへ - ボロマール - 2007/05/17(Thu) 04:30:26 [No.162]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第五(完) - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 23:00:44 [No.160]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第四 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:59:21 [No.159]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第三 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:56:22 [No.158]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第二 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:55:31 [No.157]
異邦人 (そしてその目撃情報) 第一 - 士具馬 鶏鶴 - 2007/05/15(Tue) 22:54:39 [No.156]


異邦人 (そしてその目撃情報) 第五(完) (No.155 への返信) - 士具馬 鶏鶴


  一人の男が、大通りを横切っていた。
  その男以外にもその通りを横切る人の姿は多くあったが、その男が通りを横切る姿はやけに目立っていた。


  黒い長髪に黒縁の眼鏡、その奥には細い糸目。そして、体に纏う唯一の物である赤い褌。鍛えられた細身の若い男は、自分の格好になんら違和感を覚えている様子もない。小さく鼻歌まで、歌っていた。
  男の遥か頭上から少し傾いた太陽が、その男の影を路面に縫い付けていた。両足の間からは、ヒラヒラと動く褌の影があった。





  「・・・・・おい」

  寅山が、鈴藤の後ろの方へと視線をやりながら今から口にしようとしていた言葉全てを飲み込んで、一言呼びかけた。
  相変わらず寅山への呆れを隠すこともなく、ほんの少しだけ険しさを混ぜた様な表情で、

  「なんだよ、そもそもの先は一体何処いったんだよ」

  やや棘の含んだ声で鈴藤が答えた。

  「いや、ついさっきその先は吹っ飛んだ。それよりも、今俺の目の中に入ってるヤツが大変興味深いんだ」

  どこか考え深げな声色で、鈴藤に語りかける寅山の姿からはさっきまでとは全く異質の空気が漂っている。

  「・・・・ヤツ?女の子の間違いじゃないのか?」

  「いいから、さっさと後ろ向いてみろ。俺の言ってる意味がお前でも必ず理解できる」

  皮肉交じりの返答を返した後、寅山の全く気にする様子もない言葉を聞いて鈴藤は深いため息をついた。通りの方を正面に向けて上半身を横向きにし、視線を背後へと向ける。
  そして、固まった。二人の視線の先には、赤い褌姿の男が通りを横切る姿があった。

  「・・・・・・あれはたしか・・・・」

  「なんだ、そっちの知り合いか。・・・・・さすが鈴藤だな、知り合いも一味違う」

  しばらくの間、二人の間に沈黙が生まれた。その男の動きを追う二人の目の動きが殆ど同じだった。ゆっくりと男の進む方向へと曲がっていく首のスピードも大差なかった。
  周囲に満ち溢れている雑踏の音が、さっきより大きくなった。風に揺れる葉の音が、より鮮明に二人の耳へとはいってきた。

  「・・・・で、どうする?」

  ゆっくりと首を動かしながら、寅山が問いかける。

  「・・・・・寝ぼけた事聞くなよ、寅山 日時期。広報部所属のこの鈴藤 瑞樹が、来客者に対して何のアクションも起こさなかったなんて知れたら恥だ」

  同じ様に首を褌姿の男の進行方向へと曲げながら、鈴藤はさっきまでとはまったく違う口調で堂々とそう言った。その言葉の端々からは、鈴藤のプライドが見え隠れしていた。

  「・・・・なら、決まりだな。俺もついてく」

  後ろ向きだった上半身を元に戻し立ち上がる鈴藤の姿を見て、寅山も椅子から立ち上がり言った。背もたれに掛けていたジャケットを手に取り、ポケットの中へともう片方の手を突っ込む。折り畳まれた財布を取り出して、中から硬貨を数枚掴みテーブルの上に置いた。カチンと乾いた音が小さくした。






  二人は喫茶店を離れ、一路赤い褌姿の方へと走り出した。行き交う人の波をスイスイと抜けていく。彼らの速度は、ついさっきまで流れていた穏やかな時間を完膚なきまでにぶち壊していた。


  赤い褌姿の男が通りを渡り終えて、二人の視界から消えた数秒後。寅山と鈴藤は、その人物が二人の視界から消える一歩手前の場所に立っていた。

  二人の立つ石畳の路面には、多くの人々が行き交っていた。随分なスピードで走りこんできた彼らに対して奇異な視線を投げかける者は、居なかった。食料品の入った買い物袋を持つ主婦も、友達を連れて楽しそうに話をしながら歩いていく年の若い着飾った女性達も、涼しげな青色のポロシャツを着た老人も、誰もが自分のペースで街中を歩いていた。
  息を乱すこともなく、彼らはその男が歩いていったであろう方向へと目を向けた。



  彼らの視線の先に、赤い褌姿の男は居なかった。
  そこにはただ、石畳の通りと遠くに見える白い山々、そして透き通る高い青空だった。人の姿は無く、背後から聞こえる雑踏の音だけしかなかった。


  二人の顔に、一筋の汗が流れた。これが季節外れの陽気のせいなのか、はたまた自身の中に存在する眼前の事実を否定しようとする常識とそれを気にすることもなく漠然と二人の前に横たわる非常識との葛藤なのかは、彼らにも分かりはしなかった。


  しばらくの間、二人はただ立ちすくんでいた。そして、そんな彼らの事を気にする人間は、居なかった。





  後日談




  その後、寅山・鈴藤の両名による王都内の必死の捜索が行われたが、彼らの努力は空振りに終わった。
  その1時間後、赤い褌姿の男の姿が工場地区で目撃され再び鈴藤・寅山の両名は追跡を行ったが、結果は散々なものに終わった。


  そして、後日。

  赤い褌姿で年の若い、黒くて長い髪と黒縁眼鏡が特徴的な男の入国と出国が、確認された。


[No.160] 2007/05/15(Tue) 23:00:44

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