![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
消えたヤガミ(の靴下)。 撲殺(9/10)された摂政。 血塗れの釘バットと、残されたダイイング・メッセージ「み」の字の謎。 ……薄墨紙の上に記した思いつきを前に、竹戸 初は悩んでいた。脳裏に浮かび上がる空想、それを彩る局面としての文言は存在するのだが、全体として小説にまとめあげる事ができないからだ。 喩えるなら、模型を組み立てる途中で設計図と部品を紛失してしまったようなものだ。幾つかの部品は綺麗に加工して組み立てているが、全体として統一する事ができないのでは意味が無い。 この場合、紛失した設計図と部品を見つけないと完成させる事ができないように、小説として完成させる為には筋書きを用意して、その骨子に基づいて文章を填め合わせる必要があるのだが…。 (公の仕事と違い、私事の楽しみとしての小説だから。思いつくままに筆を走らせ〜) 等と、本人としても完成させる事よりも、時間つぶしの余興として書いているので、いつ完成するのか、そもそも完成するのかすら、本人すら判らない。 (未完のまま、別の作品にとりかかって放置プレー。しかも、その作品も未完のまま→のループを繰り返している職業作家とは違いぞ!) と、心の中で見苦しく弁明しつつ、再生紙の上に書いては書き直し、書き直しては元に戻す。 (犯人を誰にするか、が問題なんだよなぁ…?) たけきの藩国の住民であれば、もしも誰かの靴下が消えたとなれば、即座に一部の嗜好を持つ者による犯行を連想するだろう。そして、かなりの確率で犯人が摂政その人だと思う筈。 怒り心頭の藩王さまが、厳重に施錠された摂政の執務室に突撃し、オーク材の(最近は、壊されすぎて安価な国産品に代ったが)頑丈なドアを粉砕する光景も、眼に浮かぶようだ。 そこに、釘バットで撲殺(9/10)された摂政閣下が倒れていたのであれば、藩国の民はどう思うだろうか? 「ああ、とうとう殺っちゃったのね藩王さま!」 しかし、直ぐに気づく筈だ。藩王さまが突入する前から摂政は既に撲殺(9/10)されていた事を。 そして、執務室が密室だった事を。 更に、寄木細工の床に広まる血潮、その一部を朱墨の代りに摂政自身が残されたのであろうダイイング・メッセージ「み」の字を。 (まず、前提が藩国の身内ネタなんだよね。これを――他国の方が眼にする事もないだろうけれど――外部の人が眼にしても、話について行けんな。) 他国の人なら、靴下≒ハンターによる盗難、靴下/褌≒摂政、釘バット≒藩王、み≒ひわみ、以上の前提は理解できないので混乱するだろうから。 (いっそ、犯人は読者の想像に委ねる顛末にするべきか?) この場合、犯人が誰であるかは重要では無い。 寧ろ、誰もが犯人たりうる状況を設定し、それを深刻に誰もが疑心暗鬼に陥るような暗い話ではなく、誰もがノリとツッコミを繰り広げる笑える展開に持っていかなくては為らない。 「案外、あっさり納得されたりして。藩国のお茶会に参加する他国の方も増えてきたし。」 誰もいない室内に、虚しく独り言が木霊する。城内の詰の間に今は一人。 数日前までは戦闘に備えて、たけきの藩国も夜明け近くまで大勢が詰めていたが、流石に今は違う。 (さて。今日はこれぐらいにするか。) 筆を起き、格天井を仰ぐ。金泥と岩絵の具で描かれた極彩色の花鳥風月が、視界を埋め尽くす。その絵が、普段と違って霞んで見える。かなり肩が凝っていた。 「これを、藩王さまや摂政閣下、ひわみさんとかに見られた日には、どんな眼に遭うか……」 苦笑した瞬間だった。背後に気配を感じたのは。 「ッ!」 前にも、似た様な…否、少なからず同じような眼に遭っている事が脳裏に過ぎり、臨戦態勢に等しい体捌きで振り返る。 ……そこには、何もいなかった。 (杞憂だったか!) ほっ、と気を緩めかけた瞬間。 剣士としての竹戸の本能が、脇差の柄に添えていた右手を抜刀すべく前に突き出す…のでは無く、逆に鞘に添えている左手が左足と共に真後ろに退く事で、現在位置の脇差が自然に抜ける形となる。 鞘の鐺で何かを――それは、鍛え上げた筋肉に特有の弾力――突き飛ばした感触。振り返った竹戸が見たものは……。 「うぎゃ〜〜〜!」 ……翌日、意識不明の重傷で発見された彼は、犯人が誰であったか、犯行の心当たりがあるかについて、無言の態度を崩さなかった。 [No.654] 2008/05/20(Tue) 03:58:32 |