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all 観光地・大観光地復興ツリー - 城 華一郎 - 2010/06/22(Tue) 10:34:33 [No.6686]
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タイトル作成 - むつき - 2010/07/05(Mon) 15:28:02 [No.6776]
その他いらすと - むつき - 2010/07/08(Thu) 15:53:48 [No.6801]
各SSイメージイラスト - むつき - 2010/07/07(Wed) 15:18:36 [No.6788]
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風呂・3 (No.6786 への返信) - 城 華一郎

アウ=ルは一人、事務所で図面を引く。
メイは、いない。現場第一主義の、め組の大将は、一人、
荒れ果てた市街の中で、地ならしを行っている、らしい。

『風呂だよ、風呂。
 くそ暑くて、イヤんなる位、ぼっこぼこにされたんだ。
 まず、休みてえじゃねえか』

言い出した案に、なるほどとアウ=ルは頷かされた。
聞けば、単純に、このドワーフ型オヤジは、自分が風呂に入りたかったらしい。

『んでもよう、おめえさんのアイデアも、いいじゃねえか。
 取り入れよう。
 水回りの中心になる、銭湯を作るんだ。
 今みてえな状況に、誰もが安心して使えるような、水の供給源よ。
 湯も沸かせる施設がありゃあ、そりゃ、火の自由に使えない間は、えらく重宝するぞ』

だから、おめえ、図面を作れ。
四都分、入ってて、すげえくつろげて、すげえほっとするような銭湯を、
デザインしろ。

「……ああー、くそ、絡む! 地下の配線構想がまとまらねえ!
 まともに電気も来てないのに、紙資料だけで仕事出来るかよ!」

簡単に言ってくれる、と、言われた直後は顔がひきつった。
実際、着手してみて、想像以上に難航するのが、目に見えた。
そもそも一人で手掛ける作業量では、ない。

ブレーンストーミングをするスタッフも、
役所と折衝する事務員も、データを手配する資料係も、誰一人、いないのだ。

大学で学んだことは、もちろん知識だけではない。
各員の長所を把握し、チームを組む、リーダーシップやマネジメント能力、
突発的アイデアをむりくりに形にする行動力、そういった、
実践的なレベルでまで、取り組んできた。だからこその、首席だ。

だが……。
どんな時も、仲間がいた。

一人、一人、一人一人一人……!
そのことばかりが頭に渦巻く。
一人で仕事が出来りゃあ、苦労しねえよ!

「くそっ、混浴風呂に入りてええええええええええ」

苛立ちに任せて煩悩を叫ぶ。

「あら、そいつは随分熱烈なお誘いだねえ」

ぴた。

「こんなお婆ちゃんでよければ、ご一緒するよ?」

しっとりと低い、年かさの女性、ならではの声色の響きに、
振り返る。

「ちゃあんと仕事してくれたら、だけどね」

そこには、め組、唯一の事務員にして副社長、
メイロード=”ザ・レイディ”=ブラスフィールドが、
風呂敷包みを背負い、立っていた。

年輪が皺を刻み、皺が歴史を刻み、歴史が気品を刻み込んだ、
兄・メイとは裏腹の、エルフの老貴婦人のような、あでやかな老獪さが、
地にまで届く、長い長い、灰髪にも、漂っている。

「いや、その、今のはですね……」
「はいはい、慌てんじゃないよ、ぼっちゃん。
 あたしがわかるかい?」
「ザ・レイディ……メイロードさん、ですよね、社長の妹さんの。
 灰のラプンツェル」
「ははあ、うれしいね。まだまだこの髪も、見紛うことなく、
 私を伝えてくれるか」

そう言って、アウ=ルに向けて、自らの髪を手ですくって見せるメイロードは、
どさりと風呂敷包みをアウ=ルの着座している机の横に落とした。

「なら、これが何かもわかるだろう?
 あんたの仕事に使う、ありったけの最新の地図と、製品カタログと、書類の写しをかき集めてきたよ。
 金は、気にしなさんな。おえらいさんからの判子、もらってるからね」

ぺらり、風呂敷の中から取り出しかざして見せた、
猫と蝶の絡み合ったイグニシアが表紙に踊る書面は政府の認可状。
署名は丁寧に、政府職員一同、と記載されている。

「は、はは……。
 あらゆる現場の裏方を、たった一人でこなせる灰のラプンツェルの名前を、
 知らない学生はいませんでしたよ。
 ついに誰も射止めることの出来なかった、伝説の土木姫君、ザ・レイディですからね」
「よしとくれ。仕事に熱中して行き遅れただけのことだよ」

血が、騒いできた。
建築家は、大工でも、土木作業員でもない。
意匠を行き届かせるために現場を手掛けることもあるが、基本的にはデスクワーカーだ。

自然、大学での、学生たちからのネームバリューは、現場主義のメイよりも、
メイロードに集中していた。

曰く、ペイパー・ガール。
曰く、デジタル・ウェイトレス。
曰く、ウィングオブ土木テイタニア。

補佐という補佐をこなし、
仕えた人間の作業効率を何倍にも引き上げるという、
忍従のベテラン、艱難辛苦のプロフェッショナルが、
メイロード=ブラスフィールドという存在なのだ。

戦後の混乱も著しいというのに、これだけの資料を揃えるのに、
一体、どれだけの労力がいるというのか……。

想像しただけでも伝説が真実であったことを実感する。

早速、ひらり、眼前に提示された資料の内容一覧に目を通し始め、
すぐにアウ=ルは首をかしげた。

「メイロードさん……なんですか? この、人材リストって」
「あん? 決まってるじゃないか」

「作業スタッフ、全部あんたが決めるんだよ」

この仕事は、あんたのものなんだからね。
そう、当たり前のように告げたメイロードに、
アウ=ルは二の句が継げなくなった。

「そ……そんな、無茶苦茶なー?!」

どんだけ俺に仕事させる気ですか、あんたら兄妹は!!

頭の中でだけ、叫びつつ、
ふと思い出した異名は、灰燼のブラスフィールド兄妹。

なるほど。
これは確かに、関わってしまっただけで、灰燼だ!!

/*/


[No.6787] 2010/07/07(Wed) 03:46:53

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