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Re: フエネシャダイ発売予定記念(蝶子さん、お許し下さい!... - フエ猫 - 2011/05/01(Sun) 10:31:06 [No.7317]
Re: フエネシャダイ発売予定記念(城さん、お許し下さい!)... - フエ猫 - 2011/05/01(Sun) 14:51:06 [No.7318]
夜明けのBlue Wheel - 城 華一郎 - 2011/02/12(Sat) 19:48:12 [No.7291]
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スーパーオペレーター(書き溜め分+α) - 城 華一郎 - 2010/11/28(Sun) 05:57:11 [No.7133]
ただの古い/そしていつか新しい/モノローグ - 城 華一郎 - 2010/11/28(Sun) 05:09:54 [No.7132]
赤夢 - 城 華一郎 - 2010/11/28(Sun) 04:50:45 [No.7131]
ニューワールドの子供たち−Episode2:Dear My Prince... - 城 華一郎 - 2010/11/24(Wed) 02:45:26 [No.7118]
ニューワールドの子供たち - 城 華一郎 - 2010/11/05(Fri) 22:36:28 [No.7069]
007 - 城 華一郎 - 2010/11/27(Sat) 23:54:36 [No.7126]
006 - 城 華一郎 - 2010/11/26(Fri) 23:41:54 [No.7124]
005 - 城 華一郎 - 2010/11/25(Thu) 23:48:40 [No.7122]
004 - 城 華一郎 - 2010/11/24(Wed) 23:22:01 [No.7119]
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001 - 城 華一郎 - 2010/11/21(Sun) 20:04:50 [No.7110]
秘宝館SS:日向美弥様オーダー - 城 華一郎 - 2010/10/12(Tue) 20:01:26 [No.7028]
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後書き - 城 華一郎 - 2010/10/03(Sun) 15:41:18 [No.7014]
秘宝館SS:蒼のあおひと様オーダー - 城 華一郎 - 2010/09/04(Sat) 16:52:00 [No.6965]
『遺言』 - 城 華一郎 - 2010/06/22(Tue) 11:20:17 [No.6690]
『遺言』(20900102改訂版) - 城 華一郎 - 2010/09/02(Thu) 01:43:12 [No.6958]
秘宝館SS:砂浜ミサゴ様オーダー - 城 華一郎 - 2010/06/17(Thu) 05:10:26 [No.6642]
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鳥物語(3) - 城 華一郎 - 2010/03/03(Wed) 14:11:09 [No.6275]
鳥物語(2) - 城 華一郎 - 2010/02/27(Sat) 18:20:14 [No.6271]
無限爆愛レンレンジャー:第二話(2) - 城 華一郎 - 2010/02/18(Thu) 00:22:14 [No.6249]
無限爆愛レンレンジャー・楽屋編その1 - 城 華一郎 - 2010/02/17(Wed) 20:25:03 [No.6248]


002 (No.7069 への返信) - 城 華一郎

その現象に、初めて公の反応を示したとされるのは、ニューワールドからの、とある移民だった。
名を、夜ノ塚雫という。

この、第一に胸の大きくて、第二に朗らかさの大きな女は、
方々で、置き去りにされている荷物や、それらと共に行こうとしていた足を急に反転させて、それきり戻っても来ない者たちを見て、大変訝しんでいた。

「ふむ。」

腕組みの上に胸を乗せながら、その胸と共に首をかしげて、胸ごと揺れた。
変だ。

置き荷が盗まれなくて治安がいいと、単純に頷こうにも、
テロリズム対策の不審物処理の原則からは逸脱している。
放置しすぎだろう。

さりとて、皆、ルールを守らんから、治安が悪い、とも言えない。
何しろ荷物をかっぱらう置き引きだっておらん。

はて、一体全体、この状況は何なのだ?

雫は、その時点で、形容しがたい齟齬が、自分と世界との間に生じているような、おぞましい戦慄の気配を予感した。
ここは筒井康隆ワールドか?
これからどんなナンセンスな展開が待っている!

なにより、道端に、雪の降り積もるようにして人の手で重ねられていく、それらの忘れ物たちは、
トランクケースや鞄など、まだ可愛い方で、
雫が見た中でも一番危ないケースでは、港に山が出来ていた。

比喩などではなく。
標高610mを超える、国際基準に則った、鉄の山が。
予感も気配もへったくれもなく、素直に戦慄した。
というか、やばいだろう、これは。どう考えても、何も考えなくても、頭からっぽにしてもわかるぐらい。

危ないぞと警告するまでもなく、
それらは合金製のコンテナで築き上げた、現代型ピラミッドの如き威容で、
もはや明らかに、港そのものを違う空間へと作り替えてしまっているのに、
まるで、彼女だけを残して、世界は何も違和感を覚えていないかのようで。
その感覚は、それが夢だと気づいた途端に砕けてしまう、妖しい幻想の中に迷い込んだような錯覚を、際限もなく与えてくるようで。

仄かに湧き上がりつつあった何かを、慌てて心の奥底から振り落としながら、
文字通りに崩落寸前で雪崩を打ちそうだった、その四角く頑丈な雪たちを、
雫は排除にとりかかったものだった。

3ヶ月掛かった。

勿論、1人ではない。
同じニューワールドから知り合いを呼び、その知り合いのツテを引き、
それこそ会社が興らんばかりの勢いと組織力で、事態を切り崩しに掛かった。

幾ら手があっても、余ることはなかった。
何しろ雫たちがコンテナを下ろすその端から、
誰かしらがまたコンテナを積んでいくのだ。

「おい!
 お前、そこのお前だ!
 自分が何をやっているのか、わかっているのか!?」

怒鳴られた相手は、
しかし、きょとんとしていて、まったく自覚がなかった。
どころか、問い質してみても、自身のやっていることを、記憶してすらいないのだ。

そんな連中がわんさといたものだから、
しかも、方々にいることがわかったものだから、
夜ノ塚雫の、移民して早々の仕事は、この奇妙な荷物たちと、
その置き主への説教の繰り返しになってしまった。

/*/

「全く、さしもの私も怖気が立ったぞ」

この2ヶ月というもの、すっかり自宅化してしまった事務所の一角で俯せる雫は、
テーブルへと重たそうに乗せた胸の間から、そう、うんざりとした声を上げた。

いかにコンテナの強度があろうとも、鉄塊ではなく、中に空洞を持つ、
ただの箱なのだ。

歴史的建築物であるところのピラミッドとは違い、
山積みの最下層部や、あちこちでは、中身もろとも押し潰れ、
その上下左右にコンテナが寄り積み重なっていたものだから、
本当に不安定で、どこへ向かって崩れるかもわからなかった。

海ならまだいい。当面港が使えなくなるだけだ。
陸地方面や、最悪、真下へと崩落していたら…………。

ぶるり。肩を震わすと、雫は、
ようやっと己の豊かな胸から面を上げた。

対面で、自分と同じ、味気ない事務机に座っている話相手は、古くからの知人で、東国人の、スバルという。
その氏を、そのまま、ずばり、東(あずま)と言い、
しかしその名を昴(すばる)とは持たぬ、女であった。

勿論、ひらがなやカタカナで表記するという意味ではない。
当て字や、異国の言葉でスバルを意味する名を持つ訳でもない。
それではどこにスバルの文字があるのかと聞いたらば、
複合姓、あるいは二重姓とも定義される、チャーチルの姓のように、
二重に名を持つだけのことである。

トウ・エン=スバル、あるいは東円(あずま まどか)とも、
東昴(あずま すばる)とも、彼女は名前を持っていた。

ある、特殊な集団の頭を継ぐべく、
男として育てられ、しかし、雫のお陰で、女として、でもない、
男として育ち、あくまで女である、ありのままの自分でいられるようになった、
そういう縁を持つ人物である。

まだ、若い。
20そこそこであろうか。
少年めいた肉の薄さがあり、男と言われれば、なるほどと笑って頷いてしまいそうであり、
何故そこで笑うのかと問われたならば、愛らしい麗しさが、その頬や唇の赤みには、
万人が見てもそうと知れる、女生の明るさでもって、表れているからである。

その癖、目の細さは育ち同様の、
真っ直ぐで、融通の利かなそうなキツい形をしており、
垣間見える男性性と女性性のギャップによって、
ついつい、からかいたくなる、そんな愛らしい尖り方をした性格が、
面からも伺い知れる、若者だった。

相変わらず、この女はなんてうつ伏せ方が出来やがると、
自分の胸をクッションがわりにしていた旧友に唸りながらも、
スバルは、その言葉に対しては芯から同意した。

「オブリビオンズか。」

Oblivion、忘却、あるいは無意識の名詞の、複数形を意味する単語である。
今では雫たちの活動がきっかけともなって、ペルセウスアームの国民たちにも、
広く自覚されるようになった、現象のことだ。

「俺だってお前に聞かされるまでは半信半疑だったさ。
 目的地を忘れ去られ、行き場を失ったメガトン単位のコンテナたちが、危うく質量兵器化して、藩国船の階層に穴をあけるところだった……
 どころか、『まるごと藩国1つが、滅亡したことさえ誰にも気付かれずに忘れ去られている』、なんてな」

3ヶ月前には、まだ、名前も知られていなかった、この現象は、
その範囲や性質の、かなりのところまでが定義付けられつつある。

1つ。
症例としてはペルセウスアームが一番酷く、巣窟とも言え、オリオンアームでもかなりの数が見受けられるのに比べて、ニューワールドでは、まだ、ほとんどないに等しいほど、発現していないこと。

1つ。
発現の対象は、人間を中心としており、その現象の定義としては、雫たちが片付けたような、置き去りにされる荷物を代表例として、「何かを忘れていることに気がつかないまま、それでも忘れた何かが存在することを前提として、日常を過ごしてしまう」こと。

今回は、国が滅亡しているにも関わらず、そのことを忘れていた荷物の送り主たちが、当たり前のように貿易を営もうとし、輸出物資を港に延々と送り続けていたせいで起こった事例だった。

「引換にするはずの代金も、空にしていったトラックやフェリーに詰め込む代わりのコンテナや、受取人のサインがないことにも気がつかないで、荷物と一緒に旅立つはずの連中は、その場で既に仕事を済ませたつもりになって、Uターンまでしちまって、な」

ありえないだろ、と、スバルが言い、
ありえんな、と、雫が同意しながら、引き継いだ。

「『経済から何から何まで混乱しているのに、その混乱にすら気がつかない』なんて状態は、ほんとに、まったく、ありえない」

1国分の、人と、物の、流れである。
影響の小さい訳もない。

この頃、世間では、とにかく景気が悪い、何故だ、
原因不明の不況が訪れている、と、いうことで、
政府が悪い、世界が悪いと、犯人探しに躍起だったが、
何のことはない。
みんながみんな、端から考慮すべき要因を忘れていただけだったのだ。

「結局、滅亡した国のことは思い出してもらえなかったけどな……。」

スバルは、
自分の氏族を総動員して行った対策のことを考え、
俺がもし男だったら、気苦労で若ハゲしてたろうよ、と、
笑えない冗談を飛ばした。

オブリビオンズと名付けられた、一連の現象に巻き込まれた人達は、
結局、更なる新しい日常を上書きすることでしか、
行動習慣を改められなかった。

実際、笑い飛ばしたくもなる。
何で一文の得にもならんのに、他人の会社の輸出先を、
代わりに見つけて契約してやらねばならなかったのだ。

だが、雫は、この神経質な友人の、愚痴にも似た、珍しいネタフリがあったにも関わらず、
体ごと、憂鬱そうにその眉尻も寝かせたままだった。

思い出せないのはまだいいよ。

「私なら、大事なものが失われたことに、気づけさえないなんて、そんなこと……」

ぎゅう、と左脇を締めて、
雫は自らの鼓動が、まだ、確かにそこにあることを噛み締めた。

そんなの。
寂しすぎて、つらすぎる。


[No.7112] 2010/11/22(Mon) 21:36:32

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