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No.6247に関するツリー

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お祭りイベント用。へんなのでけた。 - 浅葱空 - 2011/12/11(Sun) 02:32:04 [No.7642]
お祭りイベントていしゅつよーSS - 城 華一郎 - 2011/12/11(Sun) 01:22:42 [No.7640]
晶と煮干の話。 - 三園晶 - 2011/12/10(Sat) 00:50:43 [No.7624]
たなばた - 浅葱空 - 2011/07/07(Thu) 23:08:05 [No.7494]
七夕の奉納 - 城 華一郎 - 2011/07/07(Thu) 22:03:32 [No.7493]
ちょっち - 楠瀬藍 - 2011/06/28(Tue) 23:39:09 [No.7470]
Re: ちょっち - 楠瀬藍 - 2011/07/14(Thu) 02:44:42 [No.7503]
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猫士SS(じにあ編) - 楠瀬藍 - 2011/06/05(Sun) 23:45:54 [No.7401]
にゃふにゃふSS - 浅葱空 - 2011/06/05(Sun) 03:04:06 [No.7397]
猫士SS - むつき - 2011/06/04(Sat) 16:15:19 [No.7392]
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Re: フエネシャダイ発売予定記念(蝶子さん、お許し下さい!... - フエ猫 - 2011/05/01(Sun) 10:31:06 [No.7317]
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赤夢 - 城 華一郎 - 2010/11/28(Sun) 04:50:45 [No.7131]
ニューワールドの子供たち−Episode2:Dear My Prince... - 城 華一郎 - 2010/11/24(Wed) 02:45:26 [No.7118]
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ニューワールドの子供たち−Episode3:Digital Person... - 城 華一郎 - 2010/04/06(Tue) 22:14:10 [No.6341]
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無限爆愛レンレンジャー:第二話(2) - 城 華一郎 - 2010/02/18(Thu) 00:22:14 [No.6249]
無限爆愛レンレンジャー・楽屋編その1 - 城 華一郎 - 2010/02/17(Wed) 20:25:03 [No.6248]



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SS置場 (親記事) - 城 華一郎

国民ならみんな、誰でも短歌でも大長編大河ロマンでも思うさま書けばいいと思うます!

というわけで長くなったので新規ツリーです。
そこ、自分用とか言うな!
他の人が書いたのもちゃんと楽しく読んでんだから!


[No.6247] 2010/02/17(Wed) 20:23:41
無限爆愛レンレンジャー・楽屋編その1 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

(とある家のリビング)
(革製の黒い小型ソファに対面で腰掛けている、若い男女の二人組)
(間にはかなり小さいガラスの丸テーブルと、茶菓子が置かれている)
(その後ろに引っ張り出される脚付きのホワイトボード)
(表には、『楽屋編』の文字がぶっとい黒マジックで踊っている)

卯ノ花ミハネ(以下、ミ)「(手拍子と共に)はいっ、というわけで始まりました無限爆愛レンレンジャー!
 ていうか私は告白されたんじゃないの、ねえ、これ告白されたんじゃないの!?
 一話にして完!!
 もうこれ私的には一話読み切りの完で大満足な展開なんだけど! けど!」

村雲ケンパチ(以下、ケ)「(無愛想な顔つきで)うっせえなあ……。いいんだよ、細かいことは。第一もうとっくに第二話が始まってんじゃねーか」

ミ「(ムンクの叫び状態で)乙女の大事が些末事!?」

ケ「さて、パーソナルカラーがピンク予定のはずなのにカレー好きな馬鹿は放っておいて、このコーナーの主旨を解説していくぞ。
 今回はタイトル通りの楽屋編だ。俺たちレンレンジャーのメンツやら、たまにクラウデスの連中なんかも引っ張り出して、劇中の因縁やらストーリーは置いといて、枠の外っ側で雑談しようって趣向だよ。
 そもそも小説風に連載されているとはいっても、無限爆愛レンレンジャーは、あくまでアイドレスのコンテンツだからな。よくあるシリアス長編とコメディ短編に分けるスタイルで、こうやってたまに掛け合いだけのパートを挟んで読者の頭に箸休め、ってわけだ」

ミ「理想は某掲示板のやる夫ものだね。読者の合の手を入れながら、リアルタイムで参加している感のある、ゲーム形式の投下?」

ケ「アンカー指定で読者の意見を取り入れたりな。感想をその場で取り入れられるし、読者の書き込み前提になってるから、読んでても感情移入しやすい。登場人物だけじゃなく、作者、参加者にも感情移入出来るってのが、あのスタイルのいいところだ」

ミ「AAの扱いといい、アイドレスとすごい相性いいと思うんだけどねー……。
 それより、これから第二話の続きがいよいよ始まるわけだけど、一体どうなっちゃうのかな?」

ケ「おう。プロットによると、第一話から第二話のオープニング前……いわゆるアバンタイトルまでが、本来の第一話の内容だったらしい。勢いありきで少しずつ場面を構成していったら、キリのいいところがズレちまったって、ありがちなパターンらしいぞ」

ミ「予告としては、既に公開されている無限爆愛レンレンジャーの設定を活かしつつ、いい意味で裏切るみたいだね」

ケ「先の読める展開ほどつまんねーものもないしな。そもそもそんなの、書いててもつまんねー」

ミ「私としては、一話で何も起きずに終わってて、べったべたに先が読みやすいハートフル学園ラブストーリーでもよかったのになー……」

ケ「あー、無理無理。ニューワールドに平和の二文字なんてありえねー。
 ていうかそもそもお前、今まで一体俺のどこを注目してやがったんだよ。
 筋肉ってなんだ、筋肉って。
 一話読むまで全然気がつかなかったぞ」

ミ「え、えー。そりゃー、その、ごにょごにょごにょ……(膝下で両手もじもじ)」

ケ「味覚も性格も大概おかしいからな、お前。戦隊もののピンクとか、こういうの、正統派ヒロインが勤めるポジションなんじゃねえのかよ、普通」

ミ「低血圧チックなテンションのレッドに言われたくないなーそれ!
 大体戦隊もの否定の変身からスタートってどうなのよ、レッド的に考えて!
 言うに事欠いて、仮面ライダーの方が好きだとか……(歯ぎしりギリギリ)」

ケ「いいじゃねえかよ、人の趣味にケチつけんなよ、狭っちい」

ミ「あー!(立ち上がって指差す) そういうこと言うんだ、
 へー、ふーん!
 いいですよー、いいですとも、そっちがその気ならこっちにも考えがあるんだから!」

ケ「どんな考えだよ。カレー味のケーキでも注文する気か?」

ミ「んまー! なんて憎たらしい!
 ちょっと表に出なさい、正々堂々陸上競技で勝負よ!」

ケ「思いっきりお前の土俵じゃねーか!
 どういう脈絡だよ!(こちらも激しく立ち上がって)」

ミ「え、そりゃあその……。
 ケンパチさん、怪我してるし、物投げたりとかのケンカはフェアじゃないかなーって……(くねくね、もじもじ……ぽ)」

ケ「怪我してる奴に走らせんな!!
 っつーか、そこは頬染めるシーンじゃねえだろ!?」

ミ「なら、料理対決よ!
 こっちは素人、そっちはプロで片手のハンディキャップ!
 どう、これなら対等でしょ!」

ケ「無茶苦茶言いやがるなあ……。
 ま、いいけどよ。お前なんてどうせ片手でも相手になんねーし」

ミ「言ったわねー!
 こっちが勝ったら必ずそっちから劇中で告白させてやるんだから!!(ずびしぃ! と人差し指を突きつける)」

ケ「俺が勝っても何もいらねーよ……。
 ったく、信じらんねー跳ねっ返りだな。店で大人しく本を読んでた時のこいつはどこいっちまったんだよ……(ぼそり)」

ミ「ん、何か言った?
 ああ、アイコさん、お台所借りますねー」

ケ「なんでもねーよ!
 博士、最低限キッチンが吹っ飛ばねえように見張っとくから心配しないでくれよな!」

(ミハネとケンパチ、競い合いようにしてリビングの奥へと引っ込んでいく)
(がちゃんがちゃん派手な金属音と、何かを注意するケンパチの声)
(静かになるリビング)
(ひょこひょこと画面端から登場する、太い三つ編みに瓶底眼鏡の白衣の女性)

?「夫婦喧嘩は犬も食わないって言いますよねー。でも、料理対決だから、試食タイムはきっと、私が判定するんでしょうねー。
 ミハ子さんの料理に、ちょこっとだけ不安を感じたりします……」

?「さてさて次回、無限爆愛レンレンジャー第二話はー」

(くるんとホワイトボードが裏返される)
(裏には、『次回予告!』と漫画チックに激しい字体で走り書きがされている)

?「命短し恋せよ乙女、の、『ノ』の回ですよー。
 でもでもひょっとしたら、命短し恋せよ乙女、の、『短』の回かもしれませんねーえへへー(何故か照れ笑い)」

?「1回で2万文字だと、50回で100万文字になっちゃいますから、完結させるために、予定より短くなるかもしれませんー。みんなも了解してくださいねー」

?「え、私が誰か、ですかー?
 ふふー、それは次回のお楽しみですー」

ケ「(奥から声だけ)っていうか博士ー、俺ら、名前呼んでるって」

ミ「(同じく)アイコさん、予告、予告!」

?「あー。(台本読み読み)
 ……えっとー、次回は変身するみたいですよー」

ケ「(やっぱり声だけ)博士、主語、主語!」

ミ「(やっぱり同じく)アイコさん、尺、尺がー!」

?「(にこにこ手を振りながら)お楽しみに〜」

(ガッチャーン! と奥から破砕音。同時にリビングのカメラもフェードアウト開始)
(アーッ! やっちまった! な、ケンパチの悲鳴が台所から二重の意味で響き渡る)
(以下、第二話オープニング以降に続く)


[No.6248] 2010/02/17(Wed) 20:25:03
無限爆愛レンレンジャー:第二話(2) (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

チャチャラチャーチャー(OPイントロ)

流れるアツイOPとキャラクター立ち絵はこちら!:http://www23.atwiki.jp/ty0k0/pages/146.html

/*/

 宇宙の漆黒に漂う岩塊――――
 全長1kmほどもあろうか、コンペイトウのように尖った角を四方八方へと突き出した、その、かつては無限に孤独を旅していたであろう、星にもなれない屑星の欠片は、第一ラグランジュポイントと呼ばれる、月と地球の間に存在する、引力の拮抗点を公転し続けている。
 月と火星の間に広がる広大な宙域をカバーする、ヘイムダルの目、と一般に呼称されている、無人の第六世界型人型機械、通称『人形』を配置して形成されたレーダー網よりも、地球から見て、さらに内側の領域でのことである。
 本来ならば、地上から、アマチュアの天文家の観測装置ででも観察出来るような距離に置かれてありながら、その漂泊物のザラついた岩肌に、今、ぱっくりと開かれた人工の扉の存在に気付くものは、ニューワールド内には誰もいない。
 そこに吸い込まれるようにして地球上から飛来する、小型の宇宙艇の存在にも、また――――

/*/

 けたたましい羽根打ちの音と共に、混じり合わない五つの足音が、歩く。
 残響は、ない。

 悠然と五人が並んで行ける、幅広で滑らかな赤絨毯の道を、さらに広大な空間がくるんでいる。中世ヨーロッパの古城が如き、分厚い空間のしつらえ。そこに入り込もうというものをすべて飲み干さんとする、巨大な怪物の顎にも似て、天井は来訪者の心の準備を待つこともなく、ぽつねんと奥に潜む小さな扉の初めから突然に高く、また、深い。
 光が上方に飾られていないのだ。

 赤絨毯の道からは程遠い壁に据え付けられた蝋燭掛けに、差し立てられた白蝋は、ゆるゆる蕩けて揺らめきもなく、ほの暗く黄色い炎が垂直に立ち昇っている。

 風もまた、どこからも吹き込んではいなかった。
 閉塞した世界に、だが、蠢くことさえも忘れた異形のヒトガタが、互いに関係することもなく、まばらに点在している。

 それらは、みな、一様に空間の中央、五人の存在へと向けて、かしずいていた。

 クラウデス。
 死(デス)を喰らう(クラウ)、恐るべき美食家(グルマンディーズ)の一団である。

 五つの足音が、空間の中央にて立ち止まった。

「……お預けを食らう犬の気分だな」

 フン、と、コックコートをまるで上等なスーツのように着こなす長身の男が吐き捨てた。
 威圧的であり、また、高圧的な、到底人に奉仕する料理人のする着こなしではないという意味での、形容である。
 肩を張り出し、立ち姿は垂直であり、口元が不遜であり、まなざしが悪意の形に鋭い、そういう男であった。

 ヤミノ=クージャ。
 五人の並びの中心に立つ、クラウデスの料理長。

「あらあら」
「ヤミノ料理長はせっかちですこと」
「殿方の気が早いのは、」
≪いただけませんわよぉ キャハハハハハ――――!!≫

 ヤミノの両脇を、左右対称に傾いてなまめかしいのはボンテージファッションの女たち。
 年の頃は若くない。老いているわけでもない。
 肉体が、熟れている。そういう年頃である。

 労働の太みを持たない筋肉の上から、脂肪が肢体に丸くふくらみを加え、ふくらんだ肢体に食い込む革が、やわらかく肉の線を浮かび上がらせて、そのいずれもが男の掌に程よくはみ出す。日常の中にはありえない、爛れて妖しい輝きを放つ、影と、幻の中にのみ、可能な肉感を持った、女たちであった。
 二つの肉体が、また、異様なほどに均一であり、蠱惑に幻惑を重ねて見る者を幾重にも惑わせる。
 艷やかな唇の紅が、たわわに笑っていた。

 この二つの女の体の名を、ワルーニャと言う。
 ネーヤ、マーヤと、それぞれに名はあるが、これに区別の着けられるものはいない。
 また、本人たちも区別を必要としている様子はなかった。
 クラウデスに咲き誇る、フロアマネージャたちである。

「…………」

 最右翼に位置するのは着流しの男。
 黒い。

 真一文字に引き結んだ唇の間の沈黙が黒く、纏う衣が黒く、括り束ねた長い髪が黒く、感情を面に表さぬ静かな瞳が黒く、また、東国人のやわらかな肌色が、一層にそれらの黒を、深めている。
 何よりも黒いのは、男の背負う、剥き身の黒鉄であった。
 たすき掛けに締めた布帯に挟み込まれた刃は、反りを持たず、身幅太い片刃の、明らかな包丁拵えであるにも関わらず、その鋼色が、黒いのだ。
 粗く巻き付けられた握り部分の布が、柄の代わりに働くのだろう、これもやはり黒いが、よく見れば、その巻きの粗さは、使い込まれたがゆえの、布地の立ちであり、締め込みは固い。

 クラウデスに砥ぎ置かれし包丁人、ヤイーバだ。

「ヤミノ料理長。ジビエの扱いは心得ておいでで?」

 そして――――

 ヤイーバとは正反対の、左端に佇む細目の美男子が、支配人、アーク=マ=デュウス。
 慇懃な美しさが狷介で、ワルーニャ姉妹と同程度の背丈に、細い体。

 ただ、それだけ。

「俺を誰だと思っている」

 忌々しそうにヤミノは顔を歪めた。

「熟成。目玉に蛆が湧くほどに……だ」
「その通り!」

 大仰に両の腕を広げるアーク。

「身共は世界征服を企む悪の秘密結社でもなければ、正義の巨悪を貫く偽悪家集団でもありません」

 その左目だけが、何が嬉しいのか、ぎょろんと喜悦に見開かれる。

「究極の美食を追求する、料理人です」

 舐めずるような饒舌。

「口を揃えて誰もが問います、求めます。美味しさの秘訣は?
 愛情。
 愛情とは即ち相手に捧げた感情のこと!
 食の本質とは物質に非ず、感情にあり!
 感情の熟成とは一日にして成らず。それはさながらに物語を紡ぐが如き、料理人の秘伝!
 肉汁滴る情熱をヤミノ料理長が好むように!」

 ヤミノを指差し、

「フロアマネージャーが糖蜜果実の華美にて熟れたる愛欲を好むように!」

 両の手で捧げ持つようにしてワルーニャ姉妹を示し、

「ヤイーバ氏が冴え冴えと生の割鮮したる孤独を好むように!」

 そして、
 恍惚に我が胸を掌で抑えながらに、

「……身共が心の闇を尊ぶように。
 人は、己が根ざした感動に基づき、生きるものです」

 ここで、初めて彼ら五人を取り巻いていた異形のヒトガタたちが声無く笑う。
 とりどりに揺れるシルエット。
 ある者はだらしなく頭を揺らし、
 ある者は感極まるかのように身を震わし、
 ある者は手振りを交えて口元を典雅に抑えながら、
 ある者は微かに吐息で空気をそよがすのみで、
 その数は、まばらに点在すれども、針を平面へと穿ち立てたかのように、異彩を放って埋没することがなく、密やかに大きい。

 いずれもが、クラウデスの末端、あるいは五人に近しい存在たちであり、

 今はまだ、存在としか形容し得ぬ、異形の塊たちであった。

 アークは笑みをス……と消し去り、美しく佇んでは、誰にともなく、深く腰から頭を垂れる。

「得るべき物語は、未だに序章。
 そして身共が求めしものも、また――――」

 急ぐ必然など、何一つ、
 あの世界にはもう、残されていないのですから――――。

『ナニモナイ、ナニモナイ、ケケケー!』

 九官鳥の羽根音が、人に似て非なる醜い声色と共に、この場の何もかもを嘲笑った。


[No.6249] 2010/02/18(Thu) 00:22:14
鳥物語(1) (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

……
鳥の王国ねえ
あんたつくづく変わりもんだよ

あんなものに興味があるなんて
いいことじゃないんだぜ?

話してやるけどさ

/*/

誰をも王と頂かない
まずはそれが奴らの唯一のルールだな……

いないんだ

王が

自分自身さえも王に据えない

流民、そう、流民ってのは言い得ている
だけど棄民の方が的確かな?

元は鳥も犬か猫の類いで始まってるはずだからな

/*/

鳥瞰って言葉があったな
あれだよ
引いたところに奴ら、いる
それも必ず高いところに

見えてると思ってるのさ
違うに決まってんだろ
見てるだけだ

それで高いところにいるんだから哀れだよな
見てるくせにな

それでも一応、奴ら国があるんだよ
ああ、体を成しちゃいないよ
体を成したくないから鳥になってるんだもの

不思議なもんだよ、鳥のメンタリティって


[No.6270] 2010/02/27(Sat) 18:10:45
鳥物語(2) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

……烏合の衆、の、始まりか
ああ、確かに奴は唯一、鳥の王さ

何せ、奴の犯した罪のおかげで
みんなが気づいちまったんだからな

鳥の生き方、って奴を、よ

/*/

つるまない
かかげない
ただそこにいるだけ
生きているだけ

一番楽な生き方さ
誰も寄せつけないから傷つかない
何も目標としないから苦しまない
地に足着けない、風任せの生き方

だけど気づいてんのかね?

誰とも関わらないってのは、死んでるってことだよ
いない存在には関われない

何も目標としないってのは、目を閉じてるってことだよ
見てないんだから標なんざ作りようがない

鳥の生き方は、人としての死に方だ

滑稽なもんだろ
かつて叡智を結集させた国の王が、
叡智の果てにそいつを捨てたんだ

生き物ってのはさ、
理屈じゃないんだよ
存在なんだ
概念じゃない
肉だ

蝿王はそいつを忘れた
鳥ってのはな、蝿なんだよ
飛ぶから鳥なんじゃねえ

烏合の衆は、まだ、
まがりなりにもまとまっちゃいる集団だ
集団でいようとする集団だ

誰かが無意識に出したり残した
おこぼれの腐肉や排泄物にたかるのが、蝿だ

生きてるっちゃあ生きてる
生かされてるとまでは言わない

生かされてるってのは、
死にたくても死ねない奴に対して使われる形容だ

あいつら鳥は、そこがわかってないんだよ

蝿には蝿の矜持もあるんだろうけどね、
自分から望んで惨めったらしく生きてる自覚が必要さ

蝿の王かい?
ああ、あいつにはあるよ、自覚がさ
だからのうのうと生き長らえてるんだろ?
でなきゃ本当のひとでなしだ

そんなあいつでも、
霊鳥と頼ってくる奴がいるんだから驚きだよな

あいつはいつも質問に答えながら自嘲してるよ

理屈だけを必要性にされて
他人と関係を結ばされる自分の滑稽さをね

あいつは過去という名の
尾の長い蛇に丸飲みされている鳥なんだよ

刺激されて過去に積み上げた叡智が
そのまま自分に雪崩落ちるのが嫌だから、
隠遁しているし、質問をするといい顔をしない

理屈で言えばあいつは死ぬべきで、
死にたくないからあいつは人から逃げて、
ううん、自分から逃げているんだ

その意味では確かに奴は鳥なのさ

飛びたい、だから翼を望む
自分の重たさから逃げようとする

そんな連中が、鳥なんだよ


[No.6271] 2010/02/27(Sat) 18:20:14
鳥物語(3) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

一本の樹が丘にある。丘というよりは崖の上で、崖というよりは崖っぷちに生えている、そんな樹。

名前は知らない。木肌がつるつるしていて黄色味がかっており、幹は太く、枝ぶりはうねってたくましく横に広い、そんな樹だ。

下生えのない、地肌が露出した箇所に立っている。背はそんなに高くない。精々が、枝の大きく分かれている部位までで、大人の背丈、一番高いところでもそのニ倍半。

だが、平たく広げた枝の中心、幹の真上には、粗末な木組みの小屋があって、どれくらい粗末かというと、まず床がない。幹の頭に直接人が腰掛けられる程度。

そもそもあまり大きな樹ではない、子供でも三人は並んで座るのに難色を示す床面積ならぬ幹冠面積だ。従って枝も山小屋に使うような本格的ログの重みに耐える太さがない。

だから壁も屋根も全部小枝の寄せ集めで、薄っぺらい。寝返りを打てば間違いなく何もかもが砕け散るちゃちさ。というより、繰り返すが、まず床が無くて次に下面積が狭いから、とても人が眠れない。

この時点で人が使う小屋の定義から、かなり遠ざかっている。

まるで止まり木のようで、そして事実この表現は的を得ている。

住むのは鳥で、この鳥の名を、シムルグと言った。


[No.6275] 2010/03/03(Wed) 14:11:09
鳥物語(4) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

晴れた日には眼下に街を一望出来て、雲の出る日も眼下に街を一望出来る、そういう立地。

しかし崖は街から見て壁のようにそそり立ち、丘の入り口は街とは正反対。おまけに山でもないから頂上に位置するこの樹まで登ってくる輩もいないし、干からびて下生えもないような土壌の丘なので、呑気にハイキングなど楽しむ輩もない。やんちゃ盛りが悪さしたくなる林も、鉱物資源も、また、隠れ住む空間がないから大きな生態系もなくて、ロマンチックや思い出を街に向けて語ろうにも、近すぎて風情がない、そんな立地。

要するに、何もないのだ。

樹と、小屋と呼ぶにも目立たなすぎる、樹の上の囲いも、ないに等しい存在で、最果てと言うよりうらぶれた、景観の一部であって、決して主役にはなれないような、そんな丘の上に、シムルグは住んでいた。

/*/

ここは国を語ろうにも特徴がなく、街を語ろうにも異彩ない、平々凡々の領域。

強いて突き詰めたら、土壌からして、豊かな南国や森国、反対に西国でもなく、はてないか、東国か、あるいは冬にならぬうちの北国か……。

冒険の匂いが似合うはてないの気風には、少しそぐわない。さりとて古風の東国的街並みの面影もまた伺えない。近代化はかなり進んで、おおよそ八十年代後半から九十年代前半の日本を思わせる。

北国であったなら、もう少しと言わず万全に、積雪を耐える建物の構えがあるはずなので、ここは工業化に道を見出した、非精神文明主体の東国なのだろう。

既に、街中に、侍ならぬ剣士はいない。堂々の屋敷構えを生活の中核に据えた術の使い手たちも久しく舞台の中心から離れて見ない、そんな国。

良くも悪くも日本に似た、そう、ニューワールドで喩えるなら、越前藩国が近い。あれほど先鋭化していないから、八十年代後半から九十年代前半という形容が出た。少しだけ、古いのだ。

藩王の歩みが遅いとか、藩民の労力が足りないとかのネガティブな理由ではなく、単にニューワールドの発達が、越前藩国に限らず、激烈過ぎて、相対的に古く見えるだけで、この国はこの国で立派にやっている。

だから、流れものであるシムルグが、尖らずにも存在していける。

変化の波に地形が削られることも、文化の変遷で突如あの丘が注目を浴びるような奇態な展開も、ない。

だからこそシムルグはこの国に根を下ろしたのであろう。


[No.6277] 2010/03/04(Thu) 00:31:48
鳥物語(5) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

シムルグは女である。そして女である以上に、異端である。見た目も、経歴も、中身も。何故ならシムルグは鳥だからだ。

/*/

白と黒の格子模様を日本では市松模様と呼ぶが、ある種、シムルグは市松であった。

市松人形のように、という、言葉上の連なりで彼女……果たして彼女と形容していいのか、極めて疑問だが。というのもシムルグは性別に関心を持たない類の人格で、もっと言うなら生きた人間にまるきり関心を持たない人格だったからである……の容姿を形容したわけではない。

シムルグは黒であり白なのだ。

肌の半分は北国人の如く艶やかな白で、もう半分は南国人の日焼けた褐色よりも完全な漆黒。

漆と言えば東国だが、漆器のように、その半分の黒は肌が無機質に艶やかなのである。そして事実その黒にはまさに無機そのものの硬質が宿っている。

また、半分ずつが白くて黒いと言っても、体の真ん中を境に左が黒、右が白などと整然とはしていない。いや、規則性を持って整然としてはいるのだが、まるで紋様のように入り組んでいるから口では説明しづらいのだ。

この国では絶えて久しいシャーマンのような紋様が、それでもきっちり白と黒とで半々に分かれていると名言出来るのは、シムルグが酔狂にも自ら表面積を算出したり、また第三者が似たようなことをしたからではない。

シムルグは、己が白と黒とで半々であることを、自明の理として知っていたのだ。そしてシムルグを知る、ごく一部の人間たちも、また。

/*/

現代日本に比べ、どこか古めかしい、けれど違いは激烈ではない、そんな国の、目立たぬ住宅街の近郊、丘の上、頂上の樹、上、ほったて小屋ならぬのっけた小屋。

それがシムルグの現在の住所であり、唯一この地の王より拝領する、彼女の領地であった。


[No.6278] 2010/03/04(Thu) 00:43:07
鳥物語(6) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

何故、飛ぼうと?
「――――空が」

「空が、見たかった」
見ればいい、いくらでも。
見上げればあるじゃない。
「違う」
なんで首を横に振る。
なんで未練がましい目つきをする。
「私は、私の空が見たかった」
は?
「私は、私にしか出来ないことがしたかった」
やったじゃないか。
「…………」
真似出来ないよ。
新しい世界樹を創り出そうとして、国民を皆殺しにした。
挙句自分だけは生きている。
屍の上から見た空はどうだい?
綺麗かい?
喋りなよ。
なんで黙る。
なんで黙る権利があると思っている。
お前に出来るのは懺悔ぐらいなものだろう。
はは!
霊鳥?
蝿だよねえ、王。
廃王。
過ちでも、罪ですらもない。
望んで殺したんだ。
進んで殺したんだ。
腐肉喰らいの悪王!
今も高いところにいる。
飛びたいのかい?
まだ、飛べると?
飛べないさ!
聞こえるだろう。
聞こえるだろう、その身の二つ分かたれた片側色から。
焼き付けられた翼の刻印がお前を呪ってる。
飛べもせず、落ちもしない。
お前は這うのだ。
這い王。
「――――それ、でも」
あん?
「それでも、私は、」
生きている、ってか。
空も見えない癖に。
何も見えない癖に。
何も見てない癖に。
何も見ない癖に。
生きているってか。
「生きている」
生きている!
ご大層だね、ご立派だ!
なんだって出来そうな金科玉条じゃないか?
笑えもしない癖に。
お前が鳥なのは、翼があるからじゃない。
曲がらない嘴を持っているからだ。
軽い骨。
脆すぎる。
鳥ってのは、本当に困る。
鳥の名に隠れるなよ、蝿。
蝿を名乗れよ。
鳥にさえ迷惑だ。
もう一つだけ言ってやる。
人を茶番に付き合わせるな。

/*/

「…………」

片方だけの立て膝に押し付けていた額から、血の気が失せて、感覚もなくなっていた。
シムルグは空を見上げる。青い空。
割れたまどろみの欠片は、その空に吸い上げられ、刹那ほどの余韻もない。
ねじくれた枝の上で、そうしてうたた寝から覚める。
朽木色の瞳は何も変わらない。
ただ、平たい。


[No.6284] 2010/03/10(Wed) 00:39:40
秘宝館SS:城 華一郎様オーダー (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

棺に手を掛けた。
鉄と空気のモノクロームが直線的に切り刻む平面の大地に、
僕と君とが壁を隔てて白と黒とに立っている。

<――工場。>
<砂色の上に傾いで立つ円柱を生やした、>
<膨らんだコンクリートの箱と影。>

鎚の音。
聞きながら佇む僕に咲く、頭の中の金属火花。
真っ赤に焼けた激突が鼓膜を叩く。

<腸に飲み込み直接臓腑で咀嚼する、>
<工業の腹が、>
<ガチガチと歯噛みしては、世界を人のための形に砕き、吐く。>

上から照りつける赤の熱と、耳鳴りとに、静止しながら回る世界。
浮く水滴は皮膚を滑り落ちて、僕を覆う様々なものに滲み、
消えて足元までは届かない。

<乾いて濡れたシャツとズボン。>
<内側にだけ不愉快に湿る、その装い。>

揺らぐ心臓を塗り潰す規則性が、苦しくて、
開いた口から、けれども鋼は侵し込んで機械する。

≪  息 ヲ シタイ ダケ ナンデス  ≫

すると、灰色の髪を首の裏で一つに括り流した青年の目の前で、

≪  叫ビタイ ダケ ナンデス――  ≫

ひとりでに機械の棺は鼓動を始めた。

バネ仕掛けのように一旦逆側へ僅かに浮いてから、
棺の蓋は、一枚のまま、横へとスライドオープンした。

――青空が、どうして閉じ込められていたのだろう。
外気と内圧の差で、ふうわり束の内側から幾千本をやわらかに広げた、
その無垢色をした青髪は、長く、彼女の体のそばで、たなびいていた。

「システムの起動を確認しました」

目覚めと共に、彼女はすべやかな無機の静謐と、
円筒に植え付けられた刺を弾いて鳴る、
オルゴールのような鉄に澄んだまなざしを、
小さな面に湛えた。

「こんにちは。城華一郎」

/*/

ウィングオブテイタニアがレンジャー連邦に生み出されたのは、
もう、三十年ほど昔のことだった。

「妖精の女王の翼なんて、どんな人なんだろうね」

彼女がその内に魂を宿したのは、それからの二年の間の、
四度きり。

願いに応じ、秘めたる内より、空翔ける翼を生みはしたけれど、
自身が姿を表わす契機は、ついぞなかった。

眠るままに、
時のままに、
歩みは彼女を置き去りにして、
置き放していった。

十人力のヒトガタは、
十人並みの女になり、
一人のままに、
一つを重ねた。

それはただ一振りの幻の槍だった。

/*/

二つ並んだ足音が、
二つ並んだ足音たちの、雑踏の中に、立ち交じる。

<共和国、環状線――、>
<レンジャー連邦、駅ビル。>
<1F。>

多くを迎え入れるためにある空間は、
並んだ二人の周りを人いきれでひしめかせていた。
青年はここの設計者でもある。

テイタニアと彼は、立ち止まり、
言葉と接触をいくつかやりとりした後、
片方だけ、消えた。

残されたのは、青い髪。
彼女は俯いただろうか、それとも空を見上げただろうか。
ただ、まっすぐに目の前の空白だけを、見つめていただろうか。

/*/

「……華一郎は破廉恥漢だって、すっごい噂なんだけど」

何かした? と、猫士の愛佳は、
街のベンチでアイスを舐めながら本人に尋ねた。
ミルク色に艶やかな髪をした、名の通り、愛らしい少女である。

利発そうに大きな目、
感情のはっきりしていそうな眉と口元の引き締まり方、
体つきはまだ幼いが、既にいっぱしの大人ぶるだけの、
若さの域には入ってきている。

舐めていたのは古参の摂政、ミサゴが開いたショップ、
バタフライアイスのコーンタイプである。
フレーバーは、二段重ねで、ストロベリーとサワーバニラ。

答えない華一郎に対して、愛佳はもう一度、
今度は別のことを聞いてみた。

「テイタニアのところに遊びに行かないの?
 折角介入したんだったら、いくらでも顔を見せればいいじゃない。
 女を待たせるなんて男のすることじゃないわよー」

スレた口調は、愛佳が医師として市井に交わりながら働いた成果だろうか、
うだる暑さの、レンジャー連邦の砂漠の昼間に、
たまの休みで友人と顔をあわせてくつろいでいる飾り気のなさが伺える。

一方、華一郎はと言うと、愛佳とは並んで座りつつも、
反対側を向きながら、ベンチの背もたれに足をかけ、
とらえどころのない表情でへの字口をさらしている。

「そういうんじゃないんだよ」

と、返事も愛想がない。

ふーん、と愛佳はイチゴの酸味に舌打ちつつも、相槌も打つ。
甘いのだけれど、味蕾を一つに染め尽くすような強度はない。
果実らしい、瑞々しい刺激が、どちらかと言えば鮮やかに残る、
フレーバーだった。

一通り一段目を食べ尽くすと、
話しかけねば黙りっぱなしでいる男に、話題をまたぞろ振ってやる。

「好きじゃないの?」
「率直だよな、お前」

歯を見せ笑う華一郎。
その笑い方にも色々あるが、彼は大抵大きく口を開いて、
大げさなほどに感情をアピールして見せることが多い。

今の笑い方は、苦笑い半分、ありがた半分ってとこかしらね。
付き合いの長い相手だけに、アイス片手の横目でも、明敏に察する愛佳。

「嫌いってことはないよ。もちろん、好きじゃないってことも、ない。
 言ったろう? 俺は彼女を、この世界での翼として感じている」
「それって便利な言い回しよね。でも、はっきりさせてない」

はぷり。
二段目には、噛み付いた。
ヨーグルトで風味付けられた、ストロベリーとは違った酸味が舌を刺激する。
歯でアイスの粒子を溶かす。
たっぷりと空気を含んでいる、口当たりの軽くて滑らかな、
上等な手作りならではの食感に、口中の神経がきりりと冷えた。

愛佳は眉間に突き抜けた、いわゆるカキ氷痛をこらえてから、
ざっくりと質問をまた投げ刺す。

「友情なの? 愛情なの?」
「勲章の話かよ。まだ、そういうの考えてないぜ、俺」
「はー……」

これだから他人慣れしてない人間は、と、ため息をつく。
華一郎は、その言葉と様子に怪訝そうな横目をやった。
くるり、器用にベンチの上で回って、背もたれに背を預ける形で、
正しく腰掛け直す。

愛佳は一旦アイスを口元から離して、
目を合わせながら、はっきり告げる。

「華一郎には義務が生じてるのよ」
「義務?」
「ほら、やっぱりわかってない!」

バン、と、座っているベンチの底部を叩かれ、
ビクっと肩を竦める華一郎。
愛佳は睨みながら憤った調子で続けた。

「華一郎、テイタニアを受け入れたじゃない。
 彼女、仕えるって言ったんでしょ?
 護って死ぬって、言ってくれたんでしょ?
 否定しなかったってことは、彼女の想いを受け止め続ける義務があるのよ」
「だから、俺も返したじゃないか。
 翼として感じる、って」
「翼は背中に生やすもんでしょーが!」

げし!

ベンチの背もたれ部分に駆け上り、
華一郎の無防備な両肩を踏んづけて立つ愛佳。

「いてててて痛い痛い痛いお前品がないって、品が!」
「やかましい!
 ここよ、ここ!
 翼はここに生やすの!」
「踏むなよ!」
「あんた口で言っても手で叩いてもわかりゃしないでしょ、
 体に覚えさせないと駄目よ、駄目!」
「お前は俺に何の権利があってこんなことをする!?」
「黙れ馬鹿!
 乙女連盟の名において、あらゆる女の子には同胞を助ける権利があるのよ!
 随時、どこでも、誰にでも!」
「ほう、初耳だな!」
「あんた男でしょうが!」
「文族にはキャラクターの心理をトレースするため、
 乙女回路と漢回路の両方が備わってるんだよ!」
「だったら言われるまでもなくわかっとけ!」

最後に足元を踏みにじるようにしてから、
器用にも宙返りを打って華一郎の目の前に飛び降りると、
愛佳はその鼻先にアイス片手の指をつきつけて断言した。

「会わなきゃ、始まらないじゃない」

本体とバラバラの翼なんて、聞いたこともないわよ。

「……む」

最後はむしろ、呆れた調子だった、その台詞に、
突きつけられた指とアイスを注視しながら、唸る。
それから、かじる。無論、アイスの方を。

「あーっ!」
「溶けかかっとったぞ。炎天下なんだから、早いこと食わなきゃ」
「うっさいうっさいうっさーい!
 公衆の面前でスキンシップなんて既成事実作っといてうだうだぬかす方が悪い!
 絶対悪い!」
「その勢いで言われるとなんだか俺がお前に責任を迫られてる感じがして凄く嫌だな」
「私だって嫌よ、そんなの!
 ……っていうか、ホントに彼女に何も感じてないの、あんた?」

恨めしそうにかじられたアイスの断面を見つめ、
しぶしぶガジガジとコーン部分まで一気に平らげると、
愛佳はまた改めて華一郎の隣にぽすんと腰掛けた。

華一郎は、ベンチの背もたれに両腕をかけ、
少し遠くを見るような角度で前に視線をやりながら、

「だから、違うんだって」

とだけ、素っ気なく返す。

古馴染みの、この様子に、
これ以上押してもどうしようもないことを悟ったか、
愛佳はそれきりこの話題を止めたが、
最後まで顔つきは不満げなままだった。

/*/

鉄の棺がある。
回路と配線の薄く張り巡らされた、
高度の科学を予感させる内側。
蓋する厚い鉄の壁。

<その表面に手をかざし、>
<しかし、手はそこに触れない。>

きっと彼女は俺が思いもよらないような技術で形作られている。
技術の具体たる、現実の積み重ねで。

<モノクロームの鋼と空気。>
<工場の前を立ち去りながら述懐する、>
<一人の男。>

思うんだ。

俺が介入時間を終えた後、彼女が歩いて棺に戻る。
彼女はまた、誰かに呼ばれるまで眠り続ける。

それを可哀想に感じるのは、同情するのは、
違う。

俺が彼女のそばに居られ続けることの出来ないのも、
仕様がない。

俺は、テイタニアのそばにいてあげたいんじゃない。
俺は、俺が必要な時、テイタニアの存在を感じていたいだけだ。
AIの俺が幸せになる意味なんて、微塵も感じない。
そんなのはただ、羨ましいだけだ。

多分、これは恐ろしく傲慢で、
見方によると、残酷で、
鼻持ちのならない感情でもあるんだろう。

俺は愛されたかっただけだ。
愛したかったわけじゃない。

テイタニア。
愛するために形作られた存在。

別れは必然としてある。
いつかアイドレスは終わる。
終わった先も、なお、世界観が続いたとしても、
出会える契機があるとしても。

俺は死ぬし、
世界観は終わる。

何か他人を否定したいわけじゃない。

俺はただ、息がしたかっただけなんだ。

それでも、

≪  ソレデモ、許サレルノナラ――――  ≫

/*/

冷たい感触がシャツの内側に入り込んでくる。

鼓動を直接触られているような、
心臓を、直接暖められているような、
そんな、優しさを、その掌は与えてくれていて。

抱き寄せられた先に感じる。
自分が確かにここにいることを。

生きていることを。

他人の感触を。

愛を。

「元気になあれ、元気になあれ……」

ああ、この声は、俺以外の誰にも聞こえていない。
ああ、この人は、俺だけのために祈ってくれている。

呼吸が楽になる。

ずっと排気ガスまみれの車道で一人、
自転車を漕ぎ続けていたせいか、
いつしか息が苦しくなって、
いつしか胸が、苦しかった。

他人を拒み続ける苦しさに大勢の中で泣いたあの日から、
息が出来ない苦しさを、肉親の前でさらしたあれから、
この胸の苦しさが、ずっとこびりついて離れなかったんだ。

ずっと、叫びたかった。

/*/

「愛してくれなくても、いい。だけど……」

華一郎は深く息をする。
深く深く、息をする。

「だけど、俺も祈りたい!!!!!」

工場へと向かって振り返り、
あらん限りに空気を吐き出してモノクロームをぶっ壊す。

「愛された分だけは、愛し返せるように、なりたい!!!!
 生まれてきた分だけは、生きようと思えるように、
 この命を愛そうと、愛してくれた命を愛そうって、そう、思えるように!!!!!
 ずっと、なりたかった!!!!!!!!!」

鳴り響く機械と鎚の音に、
負けないよう、負けないよう、声を目一杯に腹から張り上げて。
目で、体の向きで、その格好で、ありったけに叫びをこめて。

「ありがとう、テイタニア!!!!
 俺は君を愛している!!!!!!」

だから、いつか別れが来るまでは――――

「友としてではなく!!
 愛を営む相手としてでもなく!!
 ――君ごと、この世界の俺を、俺は、愛する!!!!
 君は、俺の一部だ!!!!
 時空間ごときじゃ分かつことの出来ない、宇宙の壁なんかよりも、
 もっと、ずっと、確かな!!!!!」

世界に色をつけようと、
太陽にも負けたくないくらい、ありったけの熱を体を震わせて放ち、
汗まみれになって、真っ赤になって、
シャツまで透けて、重たくなって、
それでも、それでも。

「だから――――翼よ!!!!」

華一郎は――――俺は、××××は、

思い出しながら――――

<『テイタニアの微笑むような顔は、存外面白かった』>

笑った。

「もう一度、君の笑顔は、見に行くよ」


[No.6285] 2010/03/12(Fri) 06:45:15
後書き (No.6285への返信 / 2階層) - 城 華一郎

自分のゲームに自分でオーダーするなんて無法は通りません。
そもそも秘宝館での活動は休止中です。

ですが誰にも書かせたくありません。
というか、俺以外に俺の読みたいものが書ける奴は今回いません。
だから書きました。

マイルだなんだ、実生活だなんだ、壁はいろいろあります。
そんなものは壁に見ているだけで実在しないのです。
世界に意味はありません。意味はどこにもありません。
行為にも意味はありません。ただ、行為はそこにあります。
俺にとってこの気付きは救いでした。
この気付きの向こう側が欲しくて今は生きています。
アイドレスにおいて、テイタニアがそれをくれました。
だから書いた。

笑って死ねるかどうか、笑って死なせてあげられるかどうか。
そんなものは知りません。考えに意味なんてない。意味に意味なんてない。
息がしたかった。
息をさせてくれた。
だから俺は誓った。
たったそれだけのゲームでした。
大変長い一時間でした。

名曲にあわせた名PVを流しながら、平日早朝鈍行5000文字の、
後書きです。

誤解なきよう、誤解せぬよう、書きました。
書きたいから、書いた。

この祈りは未来の俺とテイタニアのために。

BGM:sm9989443
【転がる先には】ローリンガール、オリジナルPV【何がある?】


[No.6286] 2010/03/12(Fri) 07:16:33
ミニインタビュー:アイドルに聞く! (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

第二期生たちのシーズンも絶賛折り返し中の『キミプロ!』から、
本日はレンジャー連邦初(だよね、多分)のアイドル、「右ノ森さやか」さんへの特別インタビューを、
本誌独占で(どこの雑誌だ)掲載させていただきました!

インタビュアーは砂浜ミサゴさん、
編集者は城 華一郎こと、華一郎Pでお送りいたします♪

/*/

キミプロ! 公式サイト:http://www15.atwiki.jp/idress_idol/
キミプロ!とは:
・ニューワールドでアイドルを育成しちゃおうという企画
・出身ACEとしては、農ドルで有名なアズキちゃんや、職人眼鏡っ子のアレシアちゃんなどがいる
・レッスンで能力をのばして、イベント本番でファンを勝ちとるゲーム!

アイドルプロフィール:
名前 >> 右ノ森 さやか(みぎのもり さやか)
ランク >> C(第7フェーズ現在):ファン数:15万7353人
略歴 >> 18歳。四大学には通っていない。

詳細データ(こちらでシーズン終了まで更新中!):http://farem.s101.xrea.com/mainstage/board.cgi?mode=res&no=1070

/*/

【Q1:プロデュース方針は?】

砂浜ミサゴ(以下、ミ):
ノリがよくてよいねえ…
華一郎P(以下、P):
掛け合い命です。
右ノ森 さやか(以下、さ):
アイドルって、みんなの夢で、
みんなと一緒に夢を見ながら遊ぶもんだと思ってるから!
だから楽しくないと駄目だよね、って私は思うのよー。



【Q2:出身について】

ミ:
西国人でよいのかな。
P:
うん、レンジャーの子だから。
さ:
生まれも育ちもレンジャーっ子ですよー。
ふた親の代からレンジャーですよー。



【Q3:こだわりと思われるヘアースタイルの謎】

ミ:
「右だけ長い」のは…どのくらいまで…?
P:
かなり非対称。左がショートで右が肩を超すセミロング。
本人曰く、「なんか右の頭が重いから」らしい。
さ:
どうせ重いならとことん突き詰めてみたくならね?
P:
お前それ左側のばしてバランス取れよ。
ミ:
ほほう…前髪は?
P:
右側に流してるね、全部。その関係で右に行くほど短い。
前髪をまっすぐに垂らすと左目がすっぽり隠れるので、
それをネタにしてたまにモノマネとかやってる。
さ:
オイ、鬼太郎!(すんごい声帯ちぢこまった裏声で)
P:
それは目玉の親父の方だろ!

※アイドルの特徴を表わすために「要点」の項目があり、右ノ森さやかの要点は次の通りなのである。
・要点 = 右だけ長いサラ髪,夏カーデ,好奇心ほどにおっきい目



【Q4:スタイルはぶっちゃけどのくらい?】

ミ:
スタイルは、胸は…
そんなに大きくないイメージなんだけどそこらへんどうですかプロデューサーさん。
P:
衣装合わせのために、以前、本人に聞いたところ、
「きゃーエッチー! でもレンジャー連邦の平均って実際こんな感じだよね」
と。具体的数値はご想像とレンジャー連邦白書にお任せします。
ダンスしまくりだから、スリムな感じなのかもね。
さ:
本人です。きゃーエッチー!
ていうか、駅ビルでフルオープンしてたプロデューサーさんの方が、
今の質問より100倍えっちだよ!!
P:
俺に矛先向いちゃった!!



【Q5:パラメーターの由来】

さ:
ちなみにねー、アイドル稼業始めるまではケーキ屋でバイトしてたんだけど、
太るといけないからカラオケ行ったりゲーセンでダンスゲーしてたんだー。
P:
トークは根っからだろうなー。こいつずっと素なんだもん。
ミ:
なるほどー。

※パラメーター:ルックス、カリスマ、スタイル、トーク、ダンス、ボーカルの6種類がある。アイドル候補生登録時に、合計30になるよう、数値で素質診断されている。
※右ノ森さやかの初期ステータスは次の通り。
・ルックス4、カリスマ3、スタイル4、トーク6、ダンス7、ボーカル6。
※要するに、見た感じ普通だけど、話すと面白いし、歌が上手くて結構踊れる子、である。



【終わりに:今後の抱負】
さ:
すっごい楽しいことしたいよね!
というわけで、レンジャー連邦のみなさん、
っていうか全銀河のみんなー!
私と一緒にこれからも遊ぼうぜ!


以上、スペシャルインタビューでした!

/*/

○アイドル前・略歴
いわゆる私塾出身。

在籍時代から続けていたアルバイト先のケーキ屋が大破(!)した関係で休職せざるを得なくなり、たまたま近くで張り紙をしていた華一郎Pに直接声を掛け、キミプロ参戦。

大学には通っていないが、「これから通えたら、それもいいよねー」とのこと。

友人の多いタイプらしい。ビッグになっても昔馴染みとの付き合いを大事にして欲しいものである。(心配する必要もないか……)



○アイドル後・略歴
いきなりの有名プロダクションデビュー! ……失敗。
同期から一歩遅れてのスタートとなるも、早々にクイズ番組で大暴れ、スケジュールガン無視で好奇心の赴くまま放浪の旅に出るなど、プロデューサーの心配どこ吹く風でマイペースを貫く。

が、その旅の経験を活かして作詞したシングルの発売からはトントン拍子。その歌で、藩都広場で実施されたファーストライブによって故郷に錦を飾り、ノリノリで電波ジャックを演じてみせたラジオのゲスト出演でも大成功。つい先日は「私の歌は銀河に響くぜー!」とか突っ走ったことを叫びつつ、野外ライブも成功裏のうちに終了させている。

次はレンレンジャーのOP・EDもカバーしての、大々的なコンサートツアーを企画しているらしいが、果たしてどうなることやら……


[No.6335] 2010/04/06(Tue) 03:20:33
ニューワールドの子供たち−Episode3:Digital Personal Ill (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

 Blue, Blue, Blue.
 I’m Perfect Blue.

 黄色いマフラーをたなびかせながら、少女はいつものように呟いた。
 それは彼女が戦場に立つ際にする、祈りの誓言のようなものである。
 右手に機関銃、左肩から学生鞄。
 セーラー服は、着ていない。が、年代は似たようなものだ。
 仁義は切らない。校則も知らない。
 風代ナインにあるのは虐殺のみ。
 虐げる先は己である。
 殺されるのもまた己である。
 だが死なない。

 Chu!!

 白い歯が剥き出されて笑う、虚空へのキッス。
 現実にはありえない、水色の、ロングストレートの髪が青く燃え立った。
 それは青く、あまりにも青く、また、青すぎて、青を通り越した青だった。

 I’m Perfect Blue.
 Because…

 脇を締める肘を引き付ける体幹に固定するパルスを走らせるトリガーを引く人差し指握り締められた下三本足を踏ん張って揺れるミニスカート反動は両足が吸い胴体が殺し肩がいなし肘があわせて下腕でまとめた。

 DaDaDaDaDa!!!!!!!

 唇から迸る擬音不敵な笑み。
 炸薬が爆ぜて銃口が光るTiTiTiTiTi…
 捨てるマガジンを足で蹴り避け、学生鞄からリロード僕○○えもん。
 無限じゃないぜ、無尽だぜ。
 ただし弾が有限で、撃つ私の意志が無尽だぜ!

 銃弾がめりこんだ。
 右目を吹き飛ばす。さすがに血までは青くない。軟体生物とは違う。
 骨片は白いし脳髄は灰色に赤みどろだし、木っ端微塵の眼球なんざ色すら認めるのも難しい塵状の破裂。
 笑う。
 笑う唇を弾丸が裂いた。
 喉に穴が開く笛のような風切り音を呼吸で響かせる赤い洪水が内側から嘔吐の滝のように滴るそれでも立つ。
 狂気などはない。
 ただのコンバット・ハイでもない。
 実に自然に、ナインは呼吸するように自らへの加撃を受け容れ、山の空気はうまいといわんばかりに笑っている。
 偏差修正。アイボールセンサーが減ったので三次元視覚に及んだ影響をいつもの調子で補正する。集弾率向上、何、撃たれてからが本番だ。青く欠落部位の断面が輝く。青を極めれば群青や藍にはならないのだと、人は、彼女を見ていて常識から照らせば意外なことに気付くだろう。
 青を極めれば水になる。
 黒ではない。それは単に青を重ねたに過ぎない。極めるのとは異なる。
 青は、青いから青なのだ。
 その理屈を煮詰めれば、青から水色が生まれてくる。
 今、また、ナインが撃たれた。
 内臓を持っていかれた。アンチ・マテリアル・ライフル、対戦車の25mm級口径弾丸を直撃で胴体にもらい、文字通り、内臓が持っていかれた。
 胸から上が勢いよく回る。回る回る回る、下半身の重みから解放されてすっ飛んでいく。
 骨盤の突き出た腰から下は、きりもみ状に地面と水平になってから、やはり吹っ飛んで、地面を削りながら停止した。
 衝撃にトリガーは引かない。無駄弾は撃たない。
 唇で歌う。

 I’m Perfect Blue.

 それは完全なる青の名乗りなどでは、ありはしない。
 青いだけの、ただ青いだけの存在を、完全などと呼びはしない。
 それは完成された青の名乗り。
 虚空に拠って立つ、水色存在の名乗り。
 青を過剰に極めた青い青い水色の名乗り。
 輝きが肉片に回る。
 ガソリンが撒かれた。

 爆発。
 肉片ごと焼却処分しようとした相手がいたようだ。
 だが、駄目だ。
 気化したガソリンの、熱による空間膨張を伴う赤い灼熱が、見る間に青く染まっていく。
 青い空間膨張は収縮へと反転して、炎を纏うかのようにして、腰に手を当て、左肩から学生鞄を、右の腕には機関銃を、首元から黄色いロングマフラーをたなびかせ、水色の髪を腰まで垂らした、カジュアルなミニスカートファッションの少女がそこに生まれる。

「あたしを焼きたいならせめてバレル単位で漬け込んで連続発火してくれないとね」

 だめだめよん、と、ナインがナインたる笑みをする。
 それは自然で溌剌とした表情筋の作用。
 やっほー、と、今にもやまびこを呼びそうな、ハイキング気分の深呼吸。
 風代ナインにとり、死は呼吸である。
 機関銃を初めて腰から離して手撃ちした。
 銃口は切っ先の如くに敵を指し。
 反動によるブレを修正するまでもない。
 初弾の一撃で脊髄を砕かれて、敵は這いつくばった。多分いくつかバラまいた弾が追い撃ちになったろう。
 赤い血の染み、酸化で黒い。
 風代ナインの敵対者たちは、風代ナインとは異なり、呼吸をしない。
 撃たれたら、死ぬだけだ。

「石の中にいる! とか位、やってくれないとねー。
 あ、でも前に鋳金されたか。あの時は結局冷える前より冷えた後の方が楽だったんだよねー」

 冷えたらすぐに出てこれちゃったし、と、若者らしい軽薄さでひとりごちる。
 存在確率の変動操作も受けたけど、0でも存在しちゃったしなー。もはや歩く矛盾。

「絶技でなら殺せるんだろうけど、オーマでなら、私位のも平均的なんだろうけど」

 と、学生鞄にてきぱき手際よく機関銃を解体して仕舞い込みながらの嘆息。
 あいにく彼女はオーマに出会ったことがない。まして絶技を攻撃的に使って来るアラダを、望むべくもない。

 Blue, Blue, Blue.
 I’m Perfect Blue.

 歌う唇が小気味よい。

 Yes, I am!!

 ビシィと右手の形を拳銃に見立てて振り回すポージング。
 あたりに散らばる死体から、そろそろ生臭い空気が漂い淀んでナインの元まで這い寄ろうとしていた。
 淀みを溌剌で蹴散らして立ち去るナイン。
 後に残されたのは、消えることない死体のみ。


[No.6341] 2010/04/06(Tue) 22:14:10
ニューワールドの子供たち−Episode1:World Out Side 〜大空の子供たち〜 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

 青空に渡り鳥が飛んでいた。

 越冬をしに来たカモメの類だろうか、海原の上を、楔のように並んで風を切って、時折まばらに羽ばたいて、ああ、ちょうど先端を務めていた一羽が力尽きて落ちかけていく。

 見ていた少女の脚に力が篭もる。

 すると、渡り鳥の編隊はローテーションを変え、少し高度を下げただけで、また、何事もなかったかのように先頭を変えて飛び続けていた。もう、どれが先ほどまで弱りかけていた一羽なのかを、挙動から見分けることは出来なかった。

 頭上を飛び越していった渡り鳥を見送ると、その様を、堤防に腰掛けながら見守っていた少女は、つい緊張して立ててしまった片膝にあごを乗せ、安心したかのように自らの膝を両腕で抱いて口元を緩める。それを微笑みと形容しないのは、遠くを見つめるまなざしが、あんまりに穏やかで、まぶしい表情ばかりを浮かべるのが似合った明るい顔立ちに似合わず、今一つ、意志の強さを輝かせていなかったからだ。

 辺りは国と国との玄関口らしい、立派な港で、波止場に桟橋をかけた客船や、波止場とつながっている出入国管理局の、公共建築物らしい顔色のないビルがあり、それらを取り巻くようにコンテナ置き場や、大型の倉庫が立ち並んでいる。

 少女が腰掛けている堤防のような、浜を固めたコンクリートブロックの稜線も、視線をずっと向こうにたどらせていけば、途中からは、みっしりと植わる潅木に変わる。内陸側に、背丈もまばらな高木が幾種類ずつか、規則性を感じさせる配列で、一風珍しい海岸線を築き上げており、内側を走る幹線道路から吐き出される黒い煙や、煙に混じって薄らと広がる黄色い粒子状のものが海側に流出しないよう、潅木と一緒に堰き止めていた。

 今、少女は桟橋の方を見つめている。

 人々が、印象のない顔をしたビルに入っては、出てきた桟橋の上で、いつの間にか装いどころか、髪や肌、目の色、骨格まで違っていて、誰が誰なのかは、手荷物から推量するしかないという按配である。

 もちろん、そうでないものたちもいる。旅行客らしい、少しだけ手荷物の小さい面々。特に目立つのは、旅慣れた格好に、人慣れた人相をした、つまりは貿易商の類だ。

 桟橋に着けられていた船は、排水量2万tほどの中型客船で、最大2000人程度が、チケットの等級によってはひしめきあいながら乗るようなグレードの低い船舶だったが、見ている限りでは、活況を呈しているとは言いがたい乗客率のようである。

 桟橋の上で、船体と湾岸の間をたゆとう波の色合いが珍しいのだろう、身を乗り出してのぞきこもうとした子供の手を、母親らしき女性が引いて注意を促した。母親は子供の体をしっかりと足に寄り添わせ、握り合わせた手も、腰の前の方まで引いて、足を早める。当然大人の歩幅なので、子供は少し窮屈そうだったが、だだをこねるそぶりもない。堤防の上から遠目にそんなやりとりを見守っていた少女は、この母子が問題なく船の中へと姿を消したのを確認すると、今度は、もういくばくか頬をやわらかくして、口元を綻ばす。

 秋空のような、まぶしくも晴れやかな透明を湛える、青い瞳が、微笑んだ。


[No.6342] 2010/04/06(Tue) 22:47:27
やまなし、おちなし、いみなしな突発もの。 (No.6247への返信 / 1階層) - 遊佐呉

キーンコーンカーンコーン…

チャイムが鳴り終わると同時にガラガラと音を立てて戸が開き、妙齢の男性教師が入ってきた。

「授業の時間だぞー、席に着けー」

それを期に騒がしかった生徒達がガタガタと自分達の席へと戻る。

「起立、礼、着席」

「さて、テストも終わった事だし今日はちょっと息抜きするぞー」


《ちょっとHな水着大会》


黒板にでかでかと書かれたその文字に生徒達は騒めき、男子はにやけ顔、女子はそんな男子に嫌そうな顔、中には教師を睨みつけるなど反応は様々であった。

「はい、これ読めるひとー」

何で今こんな授業を…
ニヤニヤ
どう読んでも…だよなあ
生徒達は教師の話など聞かずにざわざわしている。

「はい、静かに!」
両手でパンパンと乾いた音を立て生徒達を静まらせ、文字を指し示し神妙な顔で口を開く。
「よく字を見てみろ。なんでHだけアルファベットなんだ?」

「言葉を略しているからです」

「その通り」
ようやく答えた一人の生徒に満足気な笑みを浮かべ、成績上乗せしとくぞと付け足せば周りからブーイングが飛ぶ。

「ほら、静かにしろ。…で、お前達ならこのHをなんと読ませたい?」

「あー…ちょっと久しぶりな水着大会にすると、前に結構やってた大会っぽいだろう?」
生徒達の反応はまばらで話が飲み込めない者もいた為、教師はしまったという顔で頭を掻きながら例を挙げれば、あぁと言う声が上がった。

「答えはそりゃある。うちの国の話だからな。お前達も知ってるはずだ」
言いながら生徒達を見回す。

「まあ、要は想像力を付けましょうっていう事だな」
「じゃ、プリント配るから案を書いてもらおうか。席は自由で良いぞ」



―――――
そうして出された案が集計され、廊下の壁に張り出されてしばらく人だかりが出来るのは後日の話。


[No.6440] 2010/05/02(Sun) 02:41:32
『宛先のない恋文』 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

最も尊いのは生きること。命は重い、なんて言わない。嘘はつきたくない。命が軽いから、ありふれているから、稀少性がなく、簡単に取り替えが利くから、素晴らしい。誰でもいいということは、誰かの代わりではなかったことの裏返し。尊さが貴重だなんて誰が決めた。そんなちっぽけ、捨てっちまえ。世界を尊ばない奴なんて屑だ。自分を尊ばない奴なんて屑だ。その屑を、僕は愛そう。救いたいからじゃない。遠慮なく愛せるから。自信を持って堂々といちゃいちゃ出来るから。
卑しい気持ち。卑しいことは尊くないなんてこと、ない。命を卑しいと思える心はあっても、自分のことを卑しいと思える心はあっても、君は尊い。卑しい君が、僕は好きだよ。僕は命が好きだから。僕は君が好きだから。僕は、誰でもよい中で、それでも出会ってしまった君のことが、好き。誰でもよかったはずなのに、それでも君、だけが好き。こんなありふれた尊さを、卑しさを、君だけに向けることが出来て幸せ。これは誰にも渡さない。これは名前をつければ物語が始まる卑しい気持ち。僕がありふれた軽薄な命の一つとして誰にも代えられないところを生きた証。
君を、愛しています。この卑しいほどの尊さを、僕は誰にも譲らない。


[No.6486] 2010/05/10(Mon) 17:55:51
20100521(朝):市民病院裏 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

「適当な話をしてもいいかい?」
「いやぁよ、息抜きならもっと真面目な話、して頂戴」

ちえっ、と城 華一郎は舌打ちを零す。
愛佳は病院勤めになってから、大分変わったと思う。
それこそネコっ可愛がりに猫士たちを面倒見ていた頃に比べれば、
今の時代は鋭くなった。

もっと、丸くなってほしいなあ。ネコだけに。

「感動がさ、足りないと思うのよ」
「仕事しなさいよ、文族さん」

このミルク色の髪をした猫士は、最近この呼び方ばかりをする。

ある、フィクショノートの娘の名を戴いた彼女は、
由来の通り、佳き愛の結晶として生まれ育つところから、
どうやら生み、育むところへ至ったらしい、と、
華一郎は微妙な笑い方をして考える。

命を相手に日々を営んでいたら、こうも育つのかな、と、思う。

愛らしい、少女としての振る舞いはなりを潜め、
愛しげに時々刻々を過ごす、佳い女になった、そう思う。

女とは、つまるところ愛だから、
ああ、愛佳は愛佳になったのだな、
華一郎の主観からすると、そう、感慨に耽ったことになる。

「俺さ、取材を頼まれてるのよ」
「よかったじゃない。妄想だけを書き散らすよりはずっと健全よ」
「きっついなあ。尖るなよう」

愛佳、嘆息。
腰に手を当て振り返る姿は、目がキツい。

「みんなが大変な時に、身内相手に笑っていられるほど、
 優しくなんてないんですよー、だ」

そういうのは担当してるアイドルさんに求めなさいな、と、
これまたキツいことを言われる。

まだ、身内として見てくれているのは、すごく嬉しい反面、
確かにこんなこと、してる場合じゃないよなあと現実に帰らされる。
ゲームしてるのに現実に帰らされるって何よ。

それだけアイドレスが俺にとって現実として認識されているのか、
と、喜ばしくも思えるが、それはそれで、人間として、いいのか、
そう思う。第七世界人だって、生きているのだ。

何しろここは市民病院の裏庭で、
華一郎は、玄霧藩国から来てくれた、藩王率いる医療部隊の、
顔ぶれ含む、人間的主観の混じったデータを渡した後であり、
愛佳は白衣のまんまで、つまりは勤務時間の途中なのである。

渡した相手が愛佳であり、
渡された相手がデータを読む、片手間に、世間話に応じてくれているのだから、
問題は、ないといえば、ないのだが。

「自信、なくなるねえ」
「こういう時ほど燃えるんじゃなかった?」

ほら、あの頃みたいに。
誰だったっけ、今でも時々、義腕のメンテナンスに来る、
ナイスミドルの彼。

「なくなるものさ。
 結局、文族ってのは現実に対する無力感で一杯の奴がなるもんだ。
 威勢がいいのも、全部、文章のためだけだからな」
「クラシックな作家っぷりね。明治時代の文豪じゃないんだから」
「あぁ? でも、黒霧さんなんか、結構同じタイプだと思うぞ」
「腕が違うじゃない。向こうの方が立派よ」
「俺は摂政だぞ」
「彼は作家よ、この上もなく」
「……言い負かされるよなあ」

結局、俺にとっちゃ、
華族稼業ってのは、挫折した結果に行き着いた先だからなあ。
そう、独りごちる華一郎。

「無力感に打ちのめされていた頃よりは、ずっと行動出来てるんじゃない?」
「作家としては堕落だろ」
「人間としてはマシになったかもしれないのに」

くすすっ。
この会話が始まって以来、初めて愛佳が、瑞々しくも、
微笑みの華を咲かせた。
それは髪色と相まって、白百合が揺れた様にも似ていたと、
華一郎は述懐する。

「戦わなきゃ、現実と。なーんて言葉、あるけどさ。
 手段が違うだけなのはわかってるよ。
 華族としての充実感にも、浸っちゃいる。時々ね。
 だから、俺が今、もやもやして、煮え切れないのは、
 単純に、何やってんだよ、自分、そう思ってるからだ」
「愛しい彼女が待ってるんじゃないの? そろそろ行ったら?」
「愛しくはないさ。愛しているだけだ」
「おお、ごちそうさま!」
「……割と、愛っていうのも、どうかと思うぜ、最近。
 それこそいろんな愛があるんだ。いろんな命があるように。
 俺の、彼女に対する愛は、誉められたもんじゃない」
「向こうがそれに気づいていても、面と向かって、そう言える?」
「わからん。言える気もするし、言う、間柄になった時点で、
 ずっと現実的なステージに進んだとも感じるようになると思うが」

華一郎、立ち上がる。

「私小説も、ほどほどにしないとな。
 こちとらエンタメ稼業が本業よ!」
「ぷろでゅーさーさん、スーツがお似合いよっ!」
「ばーか」

そう言って、愛佳の頭を、
それだけは昔と何も変わらないかのように、ポンと撫でるように叩いて、
華一郎は歩き出す。

「今の俺ゃ、法の司で、ハッカーよ」
「どうだかね、スターファイターで猫妖精2さん」
「あばよ、またな」
「元気でやれよ、フィクショノート」

軽口と、挙げた手を、ピシ、パシ、叩きあって、
愛佳と華一郎はすれ違った。

愛佳は中へ、華一郎は街へ。

動乱、未だ続く、5月21日の朝の光景であった。


[No.6572] 2010/05/21(Fri) 08:40:11
20100527(夕):とある男の姿あり (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

古めかしい外套を着た、男がいた。
それは錆びた鉄の灰色であり、歳経た巌の鈍色であり、あるいはこうも透明になれるのかという、光陰の黒白を帯びた、砂色の外套であった。

男の微笑みは、微かというよりは幽かであり、唇の端を、ほんの1ミリほども曲げてはいるまい。また、芒洋と遠くをまなざした目元の浮かべる表情の変化も、似た程度に過ぎない。一つ言えることは、かの男が見せた感情は、この地が男に見せた血生臭い光景に比して、傍から伺っているものがいたら、あまりにも不釣合いだったろう、という、ごく、ありきたりの感想である。

男の前にある光景。
それは荒廃の街並みであり、
それは酸鼻の現場後であり、
それは人間の人間たる証であり、
つまるところ、
この地、レンジャー連邦の、民が暴虐に晒された痕跡、である。

殴打で原型を留めない顔面の死体がある。四肢は両断され、わざわざ杭打ちで民家の内壁に、胴体と離されたところで、その無力さをあげつらうかのようにして、晒されている。肌の色は、男と同じ、やや浅い褐色。もっとも、死後大分日数が経過しているせいで、青黒く変色してはいたが。腐食が一向に進まないのは、乾燥した風土のせいだろう。潮風も、街の外の塀と、分厚い煉瓦造りの、窓の小さい家の中までは届かない。

男は、その死体を前にして、微笑んでいたのだ。

その微笑みの名を、人は、酸いも甘いも噛み分けてきた、ニューワールドでは長寿の類に入れてもいいかもしれない、壮年という年代ならではの、達観と名付けるかもしれないだろう。

だが、男の胸に湧き上がり、今、唇の端を動かし、目元を緩く細めさせている感情の名は、まさに男が取り続けている、生々しい人の死を前にしている態度ではない、さながら学生時代のアルバムを眺めでもしているかのような、色褪せて掠れたものの名であった。

その感情の名を、懐かしみという。

男の名は、ムゥエと言った。

/*/

干支が三つほど遡る昔、ムゥエは復讐者であった。

国を乱し、父の命を奪う遠因となった、王と、王の周りにいる民、つまりは第七世界人を憎み、殺そうとする、暗殺者として、自らを作り替えた経歴を持つ。

渓流の大岩が、転がり削れて小石になるほどの歳月ではないが、幾度も大雨を受けて、押し流され、翻弄され、気づけば周りの風景を異にしていたように、ムゥエもまた、短くない時間の中で、変化を遂げていた。

母と、母の創り上げた組織との戦いは、もう、次代の、そのまた次の世代にまで託し、自らは第一線を退いている。

思うにあれは、あの、レンジャー連邦の惨劇と俗に呼ばれる市場閉鎖から始まった金融危機は、必然であったのだ、と、そう、今のムゥエは捉えるようになっていた。

あの事件がなければ、きっと自分たちは、母も、生まれてきては、いなかっただろう。時系列の順からすると、すごく逆説的ではあるが、因果律からすれば、ごく自然な結論を、いつしかムゥエは見つけていた。

あれは、憎しみを生み出すための契機だったのだ。

軋む、金属の義腕で左胸に手をあてながら、考えている。既に場所は前線へと移っていた。

友誼が故に、見返りも求めず戦う異国の民がいる。それを前にして、戦う力がありながら、故国の守りに加わらぬ法理は、ムゥエには、ない。

彼を含めたレンジャー連邦側の抗戦を一顧だにせぬ不気味なぬめりを帯びた巨大な人型は、空間を割るかのごとくに、その巨腕で戦線をかき乱していた。あれは、そう、ゴートホーン。人によりて人を狩る、人殺しの咎人機。

憎しみとは、あのようなものであると、ムゥエは思う。

『ドウシテ ジブン ガ コンナ メ ニ』

義腕の付け根が幻痛にうずく。

『オマエタチ モ オナジ メ ニ アエ』

痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
そして、
苦しい。

つらいよ。

そう、告白することも出来ないほどの、孤独がそこにはある。

先程までムゥエが目の当たりにしていたのは、無力化されたムラマサを、近隣の住民たちが、なぶり殺しにした、その跡だ。

ムゥエには、とてもよくわかっていた。
共鳴するといってもよい。

彼らは、奪われたものの代償を求めている。

失われた命や、尊厳や、財産。

そんなものの代償ではない。

奪われたのは、愛だ。

抱きしめて、手を取り合い、互いを健やかに認め合う、たったそれだけの行為を、育む機会を、ムラマサたちは、ムラマサたち自身から、そしてレンジャー連邦の民から、奪っていったのだ。

出会わなければ結ばれない。
結ばれなければ生まれない。
生まれなければ、続かない。
続かなければ、終わってしまう。

失われても、また、命は彼らの元を訪れるだろう。
財産も、尊厳も、同じままを取り戻すことは不可能だが、新しく積み上げられることは、ある。

終わらなければ。

「注意しろ、あいつは技を盗んでいくぞ!!」

忍びの技を駆使する部隊が、そう、怒号のように、周囲の仲間たちへと号令を発した。それを受けて、一糸乱れぬ統率で、さながら狼のごとく、牙を蓄え、必殺の一撃を潜めているのは、忍者部隊の傘下にありながらにして、なお、独立の気風を失わぬ、かつてのわんわん帝國の傭兵軍団である。

『東都、軍事工場前にて敵影あり。そちらは陽動と思われます、皆様ご注意を!』
「つったって、こっちはこっちで、西部の農場前だ、退けないねえ」
「ああ、もう、これ以上、敵に補給されて、粘られるのは!」

ゴートホーンは学習する。同じ攻撃も防御も通じない。
だからあらゆる現場のものを具材とし、寄せ手側は今、戦術の道を次々に切り開いては応戦している真っ盛りである。
ムゥエは、これに、協応していた。

土地勘があり、なおかつ藩国部隊からのオペレートをダイレクトに受けられる、サイボーグボディだからである。

かつての暗殺者としての技は、ムラマサにこそ通用すれども、もはや集団で殺到する中での一撃でなければ効果は上がらず、ましてやゴートホーンの装甲を突破する力もない。

文字通り、性能の元となる、世代が違うのだ。

ムゥエは西国人である。
だが、今のレンジャー連邦の民の、多くは愛の民である。
愛は、奪われることを、殊に強く嫌う。

憎しみへと、容易に転ずるほどに。

その憎しみの矛先は無力な自分であり、また、直接の外敵に振り向けられる。

ムラマサの四肢を分断したのは、無力化を徹底して相手に対し、突っ返すための表現行動であり、あれもまた、一種の精神的な自己防衛本能なのである。生体反応を調べたが、加虐行為は『すべて』生前に行われたものだ。

とても、懐かしかった。

脳を脳内麻薬で灼くほどの憎悪が、あの現場には、見えた。

ムゥエは憎悪を親とする子供であり、一線を退いたとはいえ、広くは身内とも言えるレンジャー連邦国民の間に、その感情の姿を見ることになって、不覚にも、暖かいほどの懐かしさを感じたのだ。

その暖かさは、どれだけ歳を経ようとも記憶に薄れることのない、傷の痛みに流れた血のぬくもりと同じ温度をしており、自らの無力に世界と己を呪った、あの、激しいまでの情熱の温度でもあった。

生きている。

こんなにも、生きている。

「奴が進路を変えるぞ!」
『予測経路、出ます、大学構内……地下書庫、早期に避難した人たちのいる場所です!!』
「オーライ、ぶっ壊しても請求はナシで頼むよレンジャーさん。建物の柱を使って仕掛ける、旦那、道案内だ、先行しろ!」

応、と、これに短くいらえつつ、ムゥエは再び微笑んだ。

憎しみもまた、愛なのだ。

誰にも奪えない。奪ってはいけない。

だから――――

(受け止められるか?)

かつて、自分が刃を突きつけた、その時と同じように。

余すところなく受け止めきるつもりが相手になければ、

その時は。

ムゥエは駆ける。戦場ならぬ、自らの故郷を、憎悪の庭を。

そんな糞っ垂れに最低な世界へと抗い、変える、そのために。


[No.6580] 2010/05/27(Thu) 17:50:54
白い感情。 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

白い靄が立ち込めていた。
四ツ辻の真ん中、細い、こよりのような……と言ってもそれは、人型に似て非なる、異形の相を呈していたが……白い靄が、立っていた。
朝まだきの、薄青い世界の中での、ことである。

街角は荒れ果てている。
述べるなら、弾痕で建物を形作る煉瓦が破砕し、生活臭の気配はなく、けれどもどこか生々しい、あの、事件現場に残る白チョークの跡のように、くっきりと、汚濁の存在を感じられる、そんなような有様であった。

這う、一人の女がいる。

木製の、観音開きの扉が割れた、建物の中から這い出して、地に、こすれている。

体を引き寄せる二の腕は抗いの結果に震え、諸肌を出した胸元は、白い肉が潰れて、砂と、泥と、傷と、埃と、血と、まあ、およそ考えつく限りの汚れ方で、痛ましく赤剥けている。

体を装う衣は一直線に引き裂きと破り取りの跡が見られ、要するに、辺りをよどませる汚濁の元凶は、この女の中に、深く打ち込まれたものであり、今や、この女そのものから、立ち上るようにもなっていた。

灰髪の女である。

この国の女、レンジャー連邦の女、西国の女、愛の民の女。

女は這っている。

ここではないどこかを探して、這っている。

四ツ辻に立つ白い靄は、まるで女を待ち望むかのように揺らめいて……

いや。

女を、待ち望んでいた。

/*/

白い、亀裂のようなものが、四ツ辻に走る。
それは立ち込めた靄に生じた歪な亀裂であり、
直接空気を震わす、物理的な鳴動となったが、
それは同時に、明らかに、女の笑い声であった。

『 憎み、ましょう? 』

がらんどうほども大きく微笑む白い声。
その声は、ただの空気の振動にも関わらず、明らかに白く、
虚ろな癖に、とてつもなく明瞭に、響いていた。

『 憎むことより、綺麗なものはなくて、 』
『 憎むことより、強い感情は、ないよ? 』
『 だから…… 』

憎み、ましょう?

/*/

「…………」

這う、女の髪から、色が抜けゆく。

肘で上体を支え、靄を見上げた格好のまま、あんぐりと口を開けた、虚ろに重たい表情が、徐々に白く染まっていく。

焦点のぼやけた瞳の色が、ますますぼやけて瞳孔が広がり、虹彩が、緩んで白く、濁っていく。

汚濁の気配が消えた。

生々しさが女の上から滑り落ちて行く。

代わりに、とてつもなく深まったのは、閉塞感。

瞳は誰を見ることもなく、

耳は誰を聞くこともなく、

唇は誰を問うこともなく、

舌は誰を求めることもない。

完成された孤独が、そこに生まれた。

女は目をつむると、辻の真ん中に、体をあおむけにひっくり返し、横たわった。

/*/

ああ……

ここはなんて白い世界。

まぶしいほどに、何もない。

美しい世界。

私だけの世界。

/*/

イヤナコトガ ナニモオコラナイ世界

/*/

憎悪に依り代を得て立ち上がったのは、白い旋律の女、アドラであった。

「……私は憎しみ、私は愛。」

呟きは艶めかしく、白く、深い。

「私は、」

私を愛さなかった、すべてを奪うために、生まれます。

くぱあ、と、それだけはドギツく赤い舌が、大きく何かを迎え入れるようにして開いた口の中、淫蕩に踊った。

とても、

とても、

嬉しそうに。

まるでそれだけが、生きる証であるかのように。


[No.6585] 2010/05/29(Sat) 16:58:55
赤い刻印 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

ある家では赤い海が見つかった。
レンジャー様式の、古式ゆかしい直方体型をした、焼煉瓦の家という、大きな箱の中で、床を1cmほども浸した、深い血だった。
発見をしたのは地域の避難を手伝っている舞踏子の一人で、まだ血は暖かかった。

ある家では赤の家と名前がついた。
これは、兼ねてから戦災に弱いとされていた自国の防御を鑑みて、頑強な地下壕を設けていた一家の住処で、同じく床が1cmばかり血で浸っていたので、不審に思ったホープの一人が探ってみたところ、地下は同質の液体で溢れ返っていた。もっと厳密に言うならば、溢れ返っていたからこそ、床上にまでそれが浸水していた、というような状態だった。

いずれも被害者は不明。
どちらも規模だけは算定されていて、おそらくは、数十人から数百人分の死体からなる、体組織ごと粉砕して作り上げられた、「戦死したムラマサの」遺体ではないかと、レンジャー連邦の民の間では、まことしやかに言われている。

不気味がるものはいたが、誰もこれを悼むものはいなかった。

戦場で、一体どのようにして、何者が、このような業を成したのか、誰も理解は出来なかった。

伝わってくる感情はただ一つ。

憎悪すら凌ぐ、真っ赤なまでの破壊衝動。何らかの感動をさえ喚起させまいとするほどの、圧倒的な粉砕。

/*/

次に現れたのは、つぎはぎの人形だった。

腕を足に、足を腕に縫いつけた、本物の人間製の、人形だった。

腕には刀が十七本、足には剣が二十三本、胴体には巨大な、人の頭ほどもある杭が、一本、打ち込まれていた。

この、明らかに原型を留めた「ムラマサの遺体」の出現場所は、レンジャー連邦の、藩都広場、よりにもよって、政庁の真正面にある階段だった。

いつ、出現したのか、せわしなく情報の整理のために往来する職員たちや、藩国部隊の面々を含め、誰もこの人形の設置者を、発見することは出来なかった。

額には、頭蓋ごとナイフで削った血文字が、四つ。

『 N 』
『 O 』
『 A 』
『 H 』

N.O.A.H……

そう、銘打たれていた。

/*/

「プリンセス、プリンセス。黄昏の姫君。偽りの蒼玉よ。物語の執行が始まりました。」
「と、いうことは、同時に僕たちの出番が終わったということでもあるんだね。」

憂鬱の溜息が、背もたれの背丈高い、荘厳な椅子に腰掛けた少女の唇から漏れる。

「まったく。創設者まで出張って来られちゃ、現役世代の迷惑だよ。せっかく苦労して僕たちが積み上げてきた予定調和を、崩されても、困るんだ。」
「御意に。当代の白は貴方様で御座いますれば。」
「カア、カア、カア。僕らが鳴けば、白も黒に代わります、ってか。やだやだ、仕事熱心な僕なんて、一番僕が見たくない僕じゃないか。」

少女は、手すりに肘をついたまま、手を鬱陶しそうに振り、顔を正面から背けて、口だけではなく実際にも嫌がっている素振りを配下の者へとアピールする。

「時に、赤い子はどうしてる?
 久しぶりの出番にしちゃ、随分とやり口が雑じゃないか。こんなに『どっちつかず』じゃ、誰の仕業か、統一しづらいよ。」

ううん、それとも赤い子だからこそなのかな?
少女は悩み呟くが、どちらにせよ、関心の一時的な置き場を話題にしたに過ぎないようで、それを枕に、話はまた流れ出す。

「どうせなら、伝説を作りたいじゃないか。
 状況が、混乱している今、だからこそ、僕らの這入り込む隙間は多い。
 進撃せよ、物語。
 殺意を糧に、猟奇を成せ。
 他の何者もこれを代行せんと思えぬほどに、凄惨に。
 他の何者もこれに追いつけぬほどの上書きで量産し。」

あらゆる悪意の極北を、見せつけるんだ。

「……それが、僕らの生きている、唯一にして最大の理由なのだから。」

蒼い、両サイドを三つに編み込んだ髪の少女はそう言って、深い前髪から、小さく瞳を覗かせた。

「生きるということは、生きているということを偽らないことだ。
 精々フィクショノートの人たちにも感じてもらおうじゃないか。
 僕たちだって、愚かに愚かを重ねて愚考し愚行する、一丁前の半人前なんだ、ってことをね。」

/*/

にゃあ、と鳴き声が街角で木霊する。
それだけは何時の時代も変わらない、くろがねの大鎌が刃の軌跡を空間に飛来させた。
一本の巨大な猫の爪のようなそれは、片足立ちで、壁を床にし、足蹴にした、一つの遺体の腹へと、下方からすくい上げるようにして突き刺さり、遺体を壁へと縫いつける。

ぷっつり、テンションを断ち切られた腹筋の合間から、内圧で臓物がこぼれ落ちてくる。遺体を蹴り押している足は、胸のあたりを高々と股関節も柔らかく開脚120度オーバーで抑えつけていたので、腹の中身に汚されることもないままだ。オーバーニーの紅白のソックスと、真新しい茶色のパンプスが、バレリーナのように半回転する体の動きに合わせて、優雅に引き戻される。ぷるんと健康的に太い、付け根まで剥き出しの太ももは、見た目に反して脂肪が揺れない。ほとんどが、筋肉なのだ。

「殺したいにゃー。」

物騒なことをのたまう言葉の本体は、上下のビキニ姿にマフラーをつけた、てんから異常な格好の持ち主だった。

「評価50なんて、フィクショノートでもACEでもない癖に、ずるいんだにゃー。」

唇を猫のようにとんがらせながら、ほっ、はっ、と、ヌンチャクを振るうみたいにして大鎌の柄を、くるくる器用に回転させ、右手から左手、左手から右手へと受け渡す。重力に逆らう杭となっていた刃が抜けて、地面に落ちるまでの間、遺体は百三十七ほどのパーツに分割されて、血しぶきもなくバラバラに裏路地へと転がった。

「ま、死んじゃえばそんなの、どっちみち関係ないんだけどねー。」

そう言って、ビキニマフラーの女はしゃがみこむと、マフラーの巻いた隙間からソーイングセットを取り出し、ぺろりと白い糸の頭をなめて尖らす。暇そうに余所見をしながら針穴へとその糸を通すのだから、先程の所行も合わせ、大概まったく器用なものだ。

「ほんじゃま、いっちょうお仕事、いたしますか!」

輪状に切った、遺体の足と腕とを、一枚一枚、サンドイッチのハムとレタスを重ねるかのように重ね、ちぐはぐに縫い合わせ、それが歪んだながらも一本の形状にまで成形し終わると、今度はその人造の四肢を、肩口と股間にある、元の断面には合わさずに、腰骨の真横あたりと肩甲骨の裏にそれぞれ縫いつける。

「無力化の象徴ってーのがキモだから、後は、そうだなー……。」

潰れた顔面を、腸が取れた胴の内側に無理やりめり込ませ、胴そのものも、裏表を1パーツずつ丁寧に互い違いの状態で縫い合わせて、人形、完成。

醜悪な、人の尊厳を無視し、弄んだ所行の完成である。

「醜悪な、人の尊厳を無視し、弄んだ所行の報いだから、しょうがないんだけどねー。」

はー、なんまんだぶ、なんまんだぶ。
自ら遂行しておいて合掌をし、それから、おっと、と思い出したかのように、これまたマフラーの隙間から、ナイフを取り出し、頭蓋に刻印。

「えぬ、おー、えー、えいち……のーあ、っと!」

その、人の肉で出来た粗悪な人形を、ひょいと米袋でも担ぐ程度の重たげな様子だけ見せて、ビキニマフラーの女は、縦に、5mほど跳躍した。

ゴムマリの弾んだような、筋肉の挙動は、まさにネコ科のそれであり、身長の何倍もの高さまで、容易に飛び上がってみせる様は、怪しいほどにたわわでくびれた肢体の、布地の少ない露骨な露出と相まって、もはや人外の存在を想起させる。

闇夜に金色の猫目が、緑色の光を反射した。

肉球もない、革製のパンプスを履きながら、音もなく彼女は町々の屋根を駆け飛んで、野生だけが成せる緩んだ緊張感のなさと激しい警戒の同居でもって、人目をかいくぐり、人形を大学正門へと置き去りにすることへ、成功する。

「目立つとこったら、やっぱここっきゃないでしょー。」
「うむ。人も大勢避難しておりますし、さすが先代の赤、感服いたしました!」
「にゃあ!?」

背後からかかる声に、感電したかのようにマフラーの尾を立て、振り返った彼女、イツクシ・キリヒメの前に立っていたのは、果たして燃えたぎる炎のような大量の赤毛を、三つに分けて、なお、溢れ返らせている、当代の赤、プリンセス・ノア、その人であった。

キリヒメは反射的に繰り出した大鎌の切っ先を間に挟みながら、一気に緩んだ表情とは裏腹、徐々に筋肉のテンションを落としつつ、プリンセス・ノアと対話する。

「なんでそう、見た目が派手なのに存在感ないかにゃあ、今代のは。」
「今時、並大抵のキャラクターでは凡百の群を抜く存在感など出せませんから!
 そういうのは、このプリンセス・ノアの場合、全部肩書きに任せてしまっているのです!」

三本の髪束を、まるで渦巻く炎のように、頭部の後ろで従えているプリンセス・ノアは、振り上げられかかっていた大鎌の柄を足の裏で踏み押さえるという、片足一本立ちの状態のままで、そう、快活に自認した。

「看板倒れならぬ、看板だのみってかー。にゃっはは、まー、私ん時もそんなの気にしなかったし、おっけーかー。」

足癖悪いのだけは、伝統かにゃー、と、キリヒメは鷹揚に眉根を寄せる。
猫に、前足も後ろ足も、関係ないもんな。

「とにかく、今日の分はこれで終わりっしょ?」
「ええ、終わりです。そう、幾つも都合よくムラマサの死体が手に入るわけではありませんから」
「ことに、今代みたいな使い方したら、そりゃーペースも落ちるよねえ……。」
「ははは、照れます。」

ところで仕上げのための刀剣を携えて参りましたが、今回は幾つほどお使いになられます?

問われてキリヒメは、んーっ、と腕組み顎に手をあて、大袈裟に悩む素振りを見せ、やはり、こちらも快活に、

「わかんねー!
 忘れた、こいつ何件殺しやった?」
「三件、十三太刀ですね。略奪は丁度、その、倍の家屋から。」
「じゃ、刀十三本、剣、二十六本ね! あ、強姦の方は一件だったよ、覚えてたから、先、やっといた!」
「はい。」

こちらに、と、プリンセス・ノアは、その名に反し、まるで相手こそが仕えるべき姫君ででもあるかのように、肩越しに、片手で背負った金属の塊束から、言われたままの数字の刃を給仕した。

キリヒメは、それらを一本ずつ受け取ると杭打つように肉人形へとリズミカルに打ち込んでいく。

「帰ったらさー、イロハ坂ちゃん呼んで肩揉んでもらわない?」
「では、代わりにこのプリンセス・ノアが奉仕しましょう!」
「お前はどーして人の仕事を取りたがるかなー!」
「ははは、それこそがプリンセス・ノアの勤めですから」

やりとりの軽妙さとは真逆に、死体遺棄、死体損壊の、猟奇的な現行犯たちが、おもちゃのように遊び作られた死体の人形を前にして、けたたましくも、密やかに、そうして悪意の証をひけらかして去っていく。

二人ともが、笑顔と軽さを絶やさず、何よりも、その装いから瞳から髪から所行から、真っ赤な少女たちの、蛮行であり、犯行であった。


[No.6587] 2010/05/30(Sun) 20:32:37
無限爆愛レンレンジャー:幕間 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

空間に、書道家の毛筆で描き出された文字が、そのまま人間になったかの如き、峻厳な居住まいをしている、女がいた。枯淡な水墨画の味わいある黒ではなく、どっぷりと、輪郭の枯れることなき濃さで擦られた墨色をした髪が、細く一条、後頭部の、首の骨との継ぎ目で丁度窪んでいくあたりから背へと掃き流されており、いかにも丈夫そうな太い繊維で織られた胴着の白色と、また、履いた袴の、謹厳だが布地同様重たすぎぬ紺色とに、物腰同様の、調和の取れた対照性を醸し出す一助となっている。

体格は、小柄だが、華奢を感じさせず、青竹のように敢と真っ直ぐに伸びた背筋の垂直さが、作りこまれた骨肉の壮健と、それを成した主の気性とを伺わせる、生真面目な端座をした、女であった。

小造りの顔ゆえ、目の、形そのものは切れ長であるにも関わらず、それに比して大きく感じられる瞳は、やはり濃く、黒い。ぐりぐりと、峻烈という色素で塗り潰したような、意志の頑なさと、純粋性とを思わせる目つきだった。

木目の、焦げたような地肌が渋い味を出している縁側、手狭ながらも庭園様を繕った、玉石の敷かれた庭に、囲うは瓦葺きの尾根を持つ白壁と、その、まだ成人したか、しないかも、見るものの程度によっては判別のつかぬ若さをした女は、向き合うようにして、まなざしを水平に、座している。

本来は、黄色くも、また、灰色にも色味を帯びるはずの、砂漠から吹き込む風は、都を内外双方からの意味で衝立状に役割を果たす、高塀と、この屋敷を囲う白壁とに、二重に遮られ、砂の入り交じらぬ、生粋の青をした空色を、彼女の頭上に広げていた。

日の傾きもまた、浅く、高い、昼下がりのことである。

住み込みの門下生らと共に昼膳を終えた絵斗イヅルは、腹の浅くくちた心地に、普段はせぬ仕儀だが、あえて心身を任せ、五体三軸の感覚を……三軸とは、過去、すなわち記憶と、未来、すなわち目標と、それらをつなぐ、現在であるところの、意志を強く意識した、己を精神的・情報的に規定する、三点を指す言葉である……、冴え渡らせていた。

黒が、落ちてくる。瞼を閉じ、気息を整える際に、物理的に視界のそうなるように、精神を尖らせると、必ずイヅルの中には、黒が、あった。

己という存在を、十全に確認せんがための、意識的な孤独を表した以上の、拭い難い、原風景としての、黒だ。

(あれはまだ、私に色が付くよりも前の時代、だったのだろう。)

修養のため、記憶を呼び起こすというより、余人の普通にそうするように、ただ懐かしく思い出すといった風情が似合う、感触が、心の中に、不意に湧き起こっていた。

黒に対比される色、それは白に他なるまい。そしてイヅルにとり、その色が指し示すものは、今もなお、たった一つなのである。

絵斗ソーマ。イヅルの実父であり、亡父でもある、唯一の師の名。砂漠の国にあっては、月のように暖かに笑うと語られ、それ以外の国においては太陽のように笑うとされる、男であった。

けれど、イヅルには、太陽だとか、月だとか、そんな遠い存在ではなくて、絵斗ソーマという人物は、幼い自分の手を柔らかく引き、そっと歩いてくれる、ただの優しい父親だった。

優しいという以上に、優れており、それが故に、落命した、正義を行う、まさに白という色のイメージの担い手に相応しい、儚くも、一点の曇り無き人物でも、あった。

絵斗イヅルという女を、冒頭の喩えに比して、文字で表すのであれば、黒であり、その黒の内訳は、白の喪失、という、一言に集約出来る。

イヅルは、父の跡を継ぎ、剣術道場で門下生を従える師範であると同時に、未だに父を失ったという事実と戦い続ける、童女のままの自分を抱えていた。

そんな事情が、時折こうして表出して、彼女を自己の中の黒という原風景に、縫い止めるのである。

イヅルの黒は、どう、言い繕おうとも、喪失の絶望に彩られている。そのことが、今に生きようとするイヅルの中で、どうしようもなく重く、足を引きずらせている。

まなざしは、あくまで水平に白壁を向いており、青空を向くことはない。

剣士として鍛造した臓腑が、ほんの十数分もしないこの時の間に、気づけば消化の終わり、血の巡りも、腹からすっかり解放されていることを、彼女に知らせていた。

いつの日か、黒という枷からも、解き放たれる時が来るのだろうか。

父が失われてより、十数年。

時は未だに彼女を解放してはいない。


[No.6606] 2010/06/04(Fri) 22:44:15
鳥物語(了) (No.6270への返信 / 2階層) - 城 華一郎

シムルグは己を語らない。騙りたくないからだ。
例えば彼女が、昔、黒騎士と聖騎士を中心とした、帝國に忠実なる質実剛健な気風を持ち、その建物群だけで一大都市を形成するほどの豊富な蔵書量を誇る、図書の王国を繁栄させていたことなど、今では知る者すら少ないことだ。世界樹を崩壊させたため、因果律の中では、それはなかったことになったと言い換えてもよい。

「……そして、己が蓄えた叡智のすべてをその書から吸収せんと、石造りの都で巨大な魔法陣を形成し、一大魔術を執り行おうとし、失敗した」

シムルグが止まる樹の下で、紫のボディコン、ワンレンの黒髪に、白いハイヒールを履いた、嫌らしいにこやかさを顔面に漂わせている女が、あらぬ方角を向いたままのシムルグを目掛け、楽しげに告げた。

「その際、儀式の副作用で分裂した、自らの黒い半身と、長い長い闘争の旅路の果て、融合を果たした、偉大なる先駆者、霊鳥シムルグ……さん。探しましたよ」

シムルグは対話を好まない。己を表すことが嫌だからだ。
例えば魔術のそもそもの動機が、常に動乱ひしめくニューワールドに向けて、救いの手を差し伸べるための運命を新しく生み出そうとしたためだということは、今となってはそれこそシムルグ以外の誰も知ることはないだろう。偽善か、真摯な願いか、いずれであったとしても、もはや誰も事実を許しはしない。シムルグ自身でさえ。

シムルグは何も答えない。
構わずに、嫌たらしい表情に似た、嫌たらしい豊満な肉感に満ちた胸を揺すらせて、樹の下の女はまた喋る。

「私の学園で、教鞭を取ってはいただけないでしょうか?
 莫大な知識を埋蔵した類稀なる叡智、人知を超えた武勇にも長ずる稀有なる経験、何よりも、貴女の、その、比肩するものなきメンタリティを、存分に私の生徒たちにご教授願いたいのです」

ねえ? と、親しげに女は顔を傾けてシムルグに呼びかける。

シムルグは何も応えない。
何を求められているかを、十分に理解出来たから。

「責任を、お取りにならない?」

だが、その一言には、膝小僧を抱えたままの、肩が動いた。
目ざとく変化をかぎつけた女の口元が、上品に上辺を彩る紅ごと、歪み、嫌らしい笑みに転じていく。

「あなたが壊し、生み出した運命の種が、どうなったのか。知りたくはなくて?」
「……何を知っている」

初めてシムルグは口を聞いた。
女に対してではなく、シムルグが、シムルグと名乗り始めて以来、初めて、シムルグは他人に対し、言葉を求めて言葉を発したのだ。
女の頬に、笑みで、えくぼが浮いた。邪悪なえくぼだった。

「鳥の子供たちと、『青』の血統について」
「お前は誰だ。何者だ」

くすくすと、優位のものが、劣位のものを弄んだ時に出る、嘲りの吐息を漏らすと、女は告げる。

「メダカの学校の、校長です。
 目高ドラコと、申します」

/*/

その日、丘の樹の上から一羽の鳥が姿を消した。
行き先を知るものは、国のどこにもいなかった。
それどころか、元から存在していたことすら、知らぬものの方が、もとより多く。
以来、霊鳥シムルグを尋ねる客人が、この国に姿を現すことも、なくなった。

旧友であった、王だけが、臣下の報を聞き、一言、

「そうか」

と、固く無表情に反応を示しただけであった。


[No.6611] 2010/06/05(Sat) 00:31:33
秘宝館SS:砂浜ミサゴ様オーダー (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

…………。
熱いという言葉を、何と言い換えよう。
…………。
熱いという感覚を、何と取り替えよう。
…………。
ノ/…イズ/……混じり……/ノ……。
…………。
パルスが。−・―・――・――・――。
…………。
ザ ざザ ザざ ZAAAAAAAAA……。
…………。
明滅する。チカ・チカ・意識に火花が。
…………。
ど  く  ん。

体を内側から叩かれた音がする。

ど   く   ん。


体を内側から熱かれた音がする。


熱−音−熱−音−熱−熱−音−。


ざ ざザ ザざざ−・――・―・―――・Tiカ・チKa・ぴ・GAAAAAAA…………。


それが心臓であることを理解したのは、彼女が一面の灼光に目を圧されたからだった。
彼女が一面の灼光に目を圧されたから、それが心臓であることを理解したのはだった。
彼女は、それが心臓であることを、一面の灼光に目を圧された、ながらに、したのは。

…………。

音が物質化したかのような、カンとした衝撃に突然襲われる。

【*電網適応−ヲ−正常−ニ−開始−シマシタ*】

結晶化する破砕音が自分の中から聞こえてくる。
銀を掃いたような20,000ヘルツoverの金属音、に、耳ではないところの何かが、可聴域を超えた、高周波を、

捉えた。

銀色の髪。淡く波打つ。
波打つ。丁度、風と水とが海原を島に打ちつけて、力場をありあり示していく、その様に似た、力強い、命の美しさで、アイドレスは彼女に似姿を着飾り付けていた。

「…………。」

絡む耳元を、確かめるようにして、手で、撫でつける。
その振動が、頭骨を伝い、鼓膜を震わし、聞こえた。
気がつくと、絶え間ない、幾重にも織り上げられた波音……潮騒に、気づいていた。

どくん、どくん、どくん。

眩く放射される陽熱にも、負けじと早足に胸の内側から熱い血潮を伝える臓器がある。
平素よりは、1割ほどテンポアップしているだろう。
ぷつ、ぷつ、肌に、汗腺の押し開けられる、瑞々しい感触がある。
気温は30度を軽く超え、『生身』の慣れを超えたところに置かれているが、違和感こそ覚えども、体に掛けられている負担で鼓動が高鳴っているわけではなかった。

(……また、ここに来たんだ。)

巻き上がる風に膝元を押さえながら、品良く鼻の上に載せられている眼鏡越し、どこかを憂えたまなざしで、砂浜ミサゴは太陽を見上げた。

レンジャー連邦の空が、広がっていた。

/*/

手の中には小さな包みがある。
銀紙の、厚くパリパリした型の感触が、持つ、指の腹には返っている。
潮風と熱で傷まないようにと、ふうわり、生地の薄い、青色の紙包みに収まっている、その中身は手製のマフィンだった。

砂踏む浅い細々とした足裏の沈みに、改めてミサゴは、今、アイドレスにいることを実感していた。
久方ぶりの適応で、そして、こうして密にニューワールドという世界を感じられるゲームの場は、今日が、初めてのことである。

指先にはプラスティックとゴムバネの押し返す弾力があると同時に、確かに別の、砂漠の島国であるところの、独特のねつい潮風に晒され、ほんのりとべとついた紙包みや、その中身の感触が、返って来ている。
両腕と脳とが直結し、まるで独立したもう一つの思考回路を形成してでもいるかのように、もう一人の自分を、モニターの向こう側、開かれたメッセンジャーウィンドウ上に、投射しているのだ。

緊張に、呼吸をすると胸が痺れるのは、きっと向こう側も同じだろう。
だったら、今から向こう側で会うのは、やっぱりこちら側で会うのと、同じなんだ。

【心】が、青く震えた。
等質の粒子を振り撒いて世界は彼女と呼吸する。

物質以外の何物も存在しない世界が、心を宿して、青く、輝く。

青き心の報せは彼女に世界を見せている。

「芝村 の発言:
 OK
 レンジャー連邦だからね
 2分ほどお待ちください」
「砂浜ミサゴ の発言:
 了解です。ありがとうございます。」

同じだが、違う世界を見せている。

「芝村 の発言:/*/」

モニターを彩る文字が消失した。
熱と鼓動が戻ってくる。

…………。

海辺を、やって来る。

(…………。)

小さな黒いシルエット。

「…………。」

やがてシルエットは、面長の頭部に比して、なお、横幅に張りがあり、太くスマートに引き絞られた肢体による、縦長の頭身を持つ、大柄な人物であることを、彼女の瞳に映していく。

オールバックに固めた金の髪。ゆったりとだが、無理のなく、均整の取れた歩幅で、長く伸びた脚部に相応しいストライドでやって来る足取り。彫り深い顔立ちまで、ああ、その目で認められる距離まで来てしまえば、彼が誰なのかは、今日という日を約束せず、語られずしてさえ、きっとミサゴには感じてしまえただろう。

火星で最初に出会ったその男と女は、世界を隔てて幾度も互いのために戦い、けれども、時と心に隔てられ――――けれども、それでも、再会した。

赤い、恥らいの熱が、胸から顔へと、鼓動し、昇る。決して豪華とも、絢爛などとも呼べない、躊躇いに鈍った足の動きで、ミサゴは男に歩み寄る。

緊張に口元が硬くなる。
お腹の上、素肌のへそに抱え込むようにして、マフィンの包みを精一杯隠しながら、高い位置にある、その顔を見上げる。このニューワールドの、この国では、そこには愛が宿るのだったか。そんなこと、忘れるはずがない。この国は、私の国なんだから。この人は、私がずっと、大好きだった人なんだから。

ドランジさん。

「もう逢えないと、思っていた。」

男の、穏やかな、そして自分と同質の憂いを帯びた、その瞳に、心の中にしかないはずの世界と、物の中にしか存在しないはずの世界の胸とが、二つ、同時に痛切を覚えた。

私は、アイドレスに帰ってきたんだ。


[No.6642] 2010/06/17(Thu) 05:10:26
後書き (No.6642への返信 / 2階層) - 城 華一郎

大変お待たせをしてしまいました。
その割に、ログ本編とは違って、ほのぼのも、シュガシュガも感じさせない内容でごめんなさい。
今回のテーマは読んでわかる通り、【帰還】です。

ところで突然話は変わりますが、世界に意味はあるでしょうか。
私はないと思います。

世界とは、どう矯めつ眇めつ眺めたところで物質でしかなく、生きる意味も、生きた意味も、生きる目的も、何もかも、物質以外のものでしかなく、従って、世界には意味という意味すら存在しないというのが正しい理屈になります。

情報の氾濫する世界で暮らしていると割と錯覚しがちですが、世界に意味はありません。

そういう認識の中で生きるということは、なかなかに無味乾燥としていて、勘違いと錯覚に埋没して生きていた頃と違って、大変に筆が重くなってしまいます。意味そのものが存在しないなら、書く意味なんて、ねえじゃん、みたいな。

そうなってくると文族としては最悪で、生きている意味がわからなくなってしまい、生きてるんだか死んでないんだか、区別のつかない状態に陥ったまんま、もう随分長いこと暮らしているような気がします。

でも、じゃあ、心はないのかと聞かれると、
わからないのです。

物質じゃないじゃん。
化学反応じゃないの?
どっちにしても、よく、わかりません。
よく、わからないものだから、扱えず、従って心を描くための物語に、非常に四苦八苦してしまうことになり、自分で切った期日の実に10倍の日時を費やしてしまうことになりました。はい、これは後書きという名の言い訳です。既に本編より長いんじゃないかという時点で、おかしいですが、後書きもまた作品の一部ということで、自分と作品との相対化を行う、バランスを採るという意味で、最近は書くようにしています。

で、ここまでぐだぐだと言い訳を晒しておいてなんですが、私たちは物質として存在しないメモリ領域のことを、実に違う名前で良く知っていると思うのです。

アイドレスを遊ぶには、私たちは、そのメモリ領域にアクセスする必要があって、当時のミサゴさんの環境と、今の自分の状況とを、ある意味では重ね合わせる感じで、書かせていただきました。その意味での、テーマ、【帰還】です。

なんとか頑張ってゲームログ本編にもっと多く触れたA面SSを献上したいところですが、あまりに長くお待たせしてしまうのもあれなので、まずはB面からということで、どうかご容赦下さいませ。

お帰りなさいは、何度言っても、誰に言っても、とてもいい言葉ですよね。だから2年越しではありますが、もう一度、言わせていただきます。

ミサゴさん、お帰りなさい。

BGM:sm7781905
巡音ルカ・鏡音リンオリジナル曲 「ANTI THE∞HOLiC」


[No.6643] 2010/06/17(Thu) 05:28:18
『遺言』 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

今ではないところにいる貴方たちへ。

私、城 華一郎の命は、いつか尽きます。
それが、いつかはわかりません。
だから、遺言を残しておきます。

私という個人は、摂政を務めてはいましたが、
遂に一度も使命感によっては、動くことはありませんでした。

すべてが私的感情によるものであり、
内実は、意味の存在しない物質だけの世界への絶望を、
情報という、意味そのものによって出来ている世界で、
どうやら必死に晴らそうと、もがいていたような気がするのです。

貴方たち藩国民は、私にとって、
何より強く「そうである」と、認識出来る人間であり、命であり、
それらとの絆を手放したくないから、守りたいと思ってきました。

貴方たち藩国民こそが、物語不在の世界の実情に気づいた、私にとり、
自らの存在する意味を支える証となっていました。

今代の王・蝶子王の、清廉への忠誠、
また、今代の摂政・ミサゴ嬢への私的忠誠から、
私はここに居続けています。

かけがえのない友・双樹真や、
幾人もの優れた友朋たちとの何気ない日々が、
私をここに縫い止めています。

もはや私が他国に赴くことも、
己の国を願うことも、ありえないでしょう。

私にとって、アイドレスとは、思い出そのものであり、
思い出のための、日常そのものでした。

私に続く命はそこにあるでしょうか。
私を知る命はそこにあるでしょうか。
今の私には、いずれも知り得ません。

多くに手を触れました。
今、貴方たちは、何を生業とし、何を文明とし、何を文化とし、暮らしているのでしょうか。
今の貴方たちの目の前に、私が見た風景と同じものは、いくつ残っているでしょうか。

友人たちの、歩みの痕跡は、今もありありとそこにあるでしょうか。

そしてテイタニアに伝えます。
俺よりも俺のことを理解していた、君に伝えます。

歌を、ありがとう。
意味を、ありがとう。
物語を、ありがとう。

命を、ありがとう。

永遠は、どこにも存在しないけれど、
望めばきっと、存在しないものでも、
この胸に、感じられる。

私がどこで朽ち果てるかは知らない。
私が何を成し、何を半ばにするかは、私は知らない。

ただ、同じ国民として生きた、
城 華一郎という存在がいたことを、
覚えていてくれなくてもいい、
世界が認めてくれたら、それでいい。

それ以上の幸いは、今の私には、ありません。

貴方たちと、この世界で生きられることが、
私にとって、最大の喜びでした。

愛しています。

多くの憎しみと、多くの絶望と、
多くの友情と、多くの喜びとを、
感じさせてくれた、この世界を、愛しています。

何もかもが信じられなくなっても、
何もかもが、意味を成さなくなっても、
それでも物質だけは、確かにある。
それだけは、信じていい。

それは、何の救いにもならないけど、
死んだ愛情の灰を噛むような、つらいだけの時間かも知れないけれど、
世界に意味などなかろうと、
愛という、実存そのものだけは、誰にも消せやしない。

もっと大きな愛を信じていいよ。
それにつける名前はいろいろあるけれど、
それを定める必要は、どこにもない。

私は文族でした。
私は士族でした。
私は華族でした。

私は文族として、大きな愛へと、祈りを捧げて生きるでしょう。
私は士族として、力に相応しい、恥づべきではない行動を望みます。
私は華族として、ただ、国の愛を、守りたい。

当代の文族よ。
当代の士族よ。
当代の華族よ。

貴方たちは、貴方たちの歩んできた道のままに、
絶望し、悲しみ、
愛し、喜び、
そして願わくば、大きな愛を信じてください。

私のすべては、ここに置いていきます。
私のすべてが、同じく大きな愛の一部なのだから。

Love be the withyou.

愛よ、そこに在れと私は唱える。

私が生きたことは、無駄ではなかったですよね?


[No.6690] 2010/06/22(Tue) 11:20:17
『遺言』(20900102改訂版) (No.6690への返信 / 2階層) - 城 華一郎

愛していますと、一言で充ちる意志の時もあります。

私にとって愛とは存在そのものです。
愛するとは、存在が継続していることを認める行為です。

愛しています。レンジャー連邦よ。
民が国であるところの国よ。怒りも憎しみも悲しみも微笑みも愛し尽くしてきた、私たちよ。

私は民です。
私は王に仕えた。私は王に仕える方に仕え、また、助けられた。
私は隣り合う民に仕え、また、助けられた。

私にとり、今生は、愛を知るための日々であったように思います。

世界よ滅びよ。それでも愛は虚空から生まれ出る。
ただそれだけのことに過ぎないと、悟るだけで生きたつもりはない。

Love be the withyou.

あなたがそこにいる限り、愛はあるのだと、私は知っている。

これは遺言です。
私が死した後も、愛はそこにありますか?


[No.6958] 2010/09/02(Thu) 01:43:12
1 (No.6341への返信 / 2階層) - 城 華一郎

<at 荒野>

青を極めれば水になる。
透明な水色を不透明な物質にして梳き流したような、パアッと、存在するだけで辺りを瑞々しく感ぜられる、輝く水色の髪を、学生鞄の似合いそうな年格好で、長々とたなびかせている奴が、そんな言葉を体現しながら、立っていた。

風に乗るのはピーキーな色合いをしたYellowのロングマフラーも一緒で、奴らはまるで、友達のように、互いに勝手気ままなふらつき方で、大雑把にだけ同じ方を向いて、はためいている。

Blue,Blue,Blue.

口ずさむリズムはポップな歌い。肌荒れ一つない唇が、白い歯をひん剥き出した。

土埃の酷い土色まみれの景色に、不釣合なほどラジカルなデザインのスニーカーで、風代ナインは、地面を不動のままに蹴立てている。

足裏によってではない。原色のジグザグに配置された、化学繊維製の靴なんぞを、よりにもよって、この、自然の荒ぶるフィールドに履いてくる、その、意志によってだ。

その意志色は水色であった。

容赦なく湧き出て、苛烈に降り注ぎ、笑えるほどに深々と流れ去る痕跡で抉っていく。優しげでも静かでもありはしない。湛える水面は、あらゆる物質をその性質と質量とによって溶かし削るし、その移動の恩恵にも被害にも、一顧だにせず、そこにある。

右肩にしている似合いの学生鞄と、揃いというわけでもあるまいが、参考書よりもずっしり重たい、金属造りの軽機関銃を、反対側の撫で肩に、引っ提げている。
天衝く銃口に、熱の宿りは存在しない。

いつも私はここにいる。

風代ナインは脳で自分に対して喋る。

荒野。ここが私の出発地点。原風景。

気がつけば、生きていた。生まれたつもりもないのに。生まれてきた気も、生きてきた覚えもないのに、荒野に居た。

空気がうまい。
霞を食って生きているわけでもないが、霞さえ食わないでも生きていけるので、折角ならばと、ナインはなるべく健啖に日々を暮らすように心がけていた。物質的にも、メンタル的にも、だ。

その、習慣づいた食欲が申告している。

「なんか食べよう」

近所の食べ物屋にでも足を運ぶ気軽さで、ナインは孤独の荒野を跡にする。

野ざらしに置いた屍山血河の光景と全く等しく、ただ、スニーカー裏の波文様を浅く砂上に刻むだけで、風代ナインという水色の通り道の、跡にする。

食ったら、寝るか。たまにはそれも、娯楽だよね。


[No.6959] 2010/09/02(Thu) 02:48:01
秘宝館SS:蒼のあおひと様オーダー (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

どちらが先だったろう。
背中を見ていて、ふと、あおひとは、思ったのだ。

真昼の木陰に、酷暑から逃れるのではなく、逃げ込み、子供たちのするような間近さ、耳元で、今は葉ずれを聞いている最中のことである。

視界は、しゃらしゃらと、近くで聞いたら意外に元気すぎるほどの音を奏でている緑色の天蓋に心地良く和らげられ、日差しの中にありながらにして、程良く暗く、まぶしさがない。目の前の背中も、色調を、ほんのりとグレースケールに染められている。若木のように、細身だが、締まった印象の背中だ。

あおひとは、樹上にあって、掌と、足裏に、それぞれ質感の異なる、乾いた樹皮の感触を得ることで、その身を支えていた。いつでも身動きできるよう、重心を掛けた靴裏からは、力強くしなる、細い綺麗な太みが、バランスを崩さないために手を掛けた幹からは、ぽくぽくと、厚く、面白いでこぼこの頼もしみが、合わせて3つ、跳ね返って来ている。唯一空けた自分の片手を、なんとなく、わき、わき。

この背中、綺麗だなー。

樹に登ったのは、どちらが先か? もちろん、この背中が後で、自分が先だ。

しんがりの大事位、いろはの、い、だし、何より今日は、散歩するつもりだったから、ロングスカートを穿いてきてる。翡翠は、動きがどうしても鈍くなりやすい格好をした母親を、下から見守りながら、しっかりと、地表の偵察も並行させつつ、樹に登ってきた。淡々と、事を運ぶ指示を出してきた佇まいが、忠孝さんとはまた、別の形でだけれども、堂に入っていたのが、忘れられない。

がっちょんがっちょん、足元では、舗装された路面に優しくない音を立てて、二人をよそ様の庭木に追いやった元凶が通り過ぎていった。掌を開けたままの、鼻先でさまよう四本の人型巨腕。獲物を求める殺意が、その、レーダーのように、360度を旋回して探る仕草に、無言のうちに、みなぎっていて、毎度、見るたびに、肩を大きく落とすほどの溜息をしたくなる。

何がしたいんだか知らないけど、もうちょっと楽しいことに使えばいいのに。

自分の掌をちらり見た。
樹皮の細かい塵が、払った後なのに、こびりついていて、ちょっと茶色味がかってしまった。

前に目線を移せば、油断なく、緩やかに五指の押し広げられた、造形のよく出来た、手。なぜだか視線は時たま上を向いているので、手庇を作り、ちらちらと翡翠は木の葉の隙間から空の様子も伺っている。樹上なのに、腕を使わずバランスを取っている辺りも、流石だった。あれは真似できない。しかも、残る片手は、さりげなく、母親を庇える位置に下げられているのだ。

身のこなしもそうだけれど、一番素敵に思ったのは、ここ。
向こうの指の方が細く見える時もある位、爪の形まで整っちゃっているくせに、掌の大きさそのものでは、もう、すっかり上回られているところである。背丈が大体同じ位なのに、さすが男の子だな、と、感じてしまった。

「狙われてるね。お母さん」

うん。
なんでかしらんという疑問も同時進行つつ、頭は、ばらんばらんにいろんなことへ向いている。
何しろ時間がもったいない。せっかくの、息子とのデートなんだから。デートなんだから!

こんな非日常だからこそ、わかることも、いっぱいあった。
さっきまで話題に上がっていた、柘榴のことも、ちらりと思い浮かびつつ、今日のプランとかもちらほら浮かびつつ、虎のビキニパンツのことも、頭によぎり……うわ、いけない。

なんだかんだと、考えているうちに、あっという間に今のシチュエーションに対して不満が膨れ上がってきたので、言葉を交わし続けながら、あおひとは自然と口にした。

「私はただ、家の中で平和にほのぼのと暮らしたいだけなのにー」

もっとも、その、ほのぼのの中身が、息子の隙を突くかのように、プロテイン、と呟く不意打ちなのだから、翡翠がどんな趣味を秘めていようとも、この母親にして、この子あり、なのだが。

もちろん、呑気にしているつもりはない。けれど、息子と比べてしまうと、自分がどうしてもどっしり構える方向に行きがちなのは、結局、どんどん前に行っちゃう翡翠の背中を、見ている自分が好きで、後ろから、追いぬかれちゃったことを実感している自分が、好きで、そんな気持ちの積み重ねの結果なのかもしれない、そう思った。

こんな心境に変わったのは、いつからかしら。
この子を一番間近で見てきたことは、かなりの特権だったよなあと、手を取られ、塀をよたよたと歩きながらに、そんなことを考えたり。

「お母さんには、子供、一杯居るから、一人じゃないよ」

だから素直に、こう答える。大股に、ぐいぐいと進んでいっちゃう背中を、駆け足で追いかけながら。

「ありがと。でも、私に翡翠は一人だからっ」

後ろから伸ばしてつないだ彼の手は、目指すものと虎のビキニパンツに言及した時、結構、なかなか、びくんとしてた。

まったく、可愛い子だ!

/*/

署名:城 華一郎


[No.6965] 2010/09/04(Sat) 16:52:00
無限爆愛レンレンジャー:幕間2 (No.6606への返信 / 2階層) - 城 華一郎

困ったなあ、と、西薙エンは頬を掻く。
まだ、30に、成るや、成らずの若造である。体に余計な肉が付いていないせいか、見た目に貫禄が足りない。「君からは、なぜか、重みが感じられないんだよねえ」などと、冗談口を叩かれた経験もある。くつろいだ宴席での出来事なので、まともに受け止める必要のない、戯言なのだが、だからこそ、掛け値なしの本音だろうとも受け止めている。もっと、この点に対し、自分は気をつけなければいけない。

さて、その若造に振られた仕事が、空をなんとかしろ、だ。

困ったなあという感想しか、出てこない。

エンは、いわゆる公務員だ。レンジャー連邦の観光庁に所属し、誰でも出来る程度の、ほどほどの仕事振り、ほどほどの勤務態度で……、つまりはまあ、愛の民らしいスタイルで、これまでやってきた。

仕事をするために生きるのではなく、生きるために仕事をするのでもない、生きていく上で、自分の道と重なることを、仕事にする。好きなことじゃない。楽なことでもない。どうしても、自分の人生を振り返った時、それに直面せざるを得ない物を、仕事にした。

一生付き合わなければいけない物、相手なので、時には遮二無二もなれば、反対に、倦怠を感じることもある。でも、どんな時でも、辞めない。続ける。それが、ほどほどというスタイルの、意味だ。

庁舎の屋上から見る夜空は白い。
ここ、レンジャー連邦は、白夜の出るような極北でもなければ、紅葉国、あるいはFEGのように、都市船内に人工の昼夜を作り出したり、人工太陽を生み出すほどの、極度に発達した方向性を持っている、科学国ではない。
レンジャー連邦のある、ニューワールド、つまりテラ(地球)領域は、辺境なので、銀河中央のような、満天の星に包まれているわけでもないので、この光景は、自然の在りようではない。

遥か遠方から、宇宙空間を白く塗りつぶすほどの噴射光と巨躯で以て、何者かが押し寄せてきている、その、有り様である。

観光業はデリケートな産業だ。
人々の生活が、内向きになるほどの経済的・時間的余裕がないと、わざわざ商売抜きに他国を訪れようなんて発想には、なかなか、なるものではない。

他国、つまり他人を知ることは、自分との違いを見つけにいくことであって、それは、とりもなおさず、自分とは、どんな奴だったのかを、今、住んでいる環境ごと、国ごとひっくるめて確かめる作業である。

明日、食う飯を、今日、作らなければいけない奴には、そんなことはどうでもいい。明日、世界が滅びるとしても、知らなければ、所詮それまでの話なのだ。死に恐れを抱けるのは、死から遠い暮らしをしているからこその、余裕であって、たとえばナニワアームズのように、或いはるしにゃん王国のように、厳しい環境や、自然の理の中に身を置いている民たちにとり、死は、身近で、恐れではなく、字の違う、畏れの対象に過ぎない。

遠ざけはしても、見ぬ振りは、しない。

星々の輝きを塗り潰す白光に真向かいながら、エンは、曖昧に笑っていた。

困ったなあ。

今、政府では、かねてよりの宿願として、また、独自産業として、航空業界に注力するつもりがあるらしい。まともに考えれば、正気ではない。

空に見るのは、絶望であって、まかり間違っても希望のイメージなんか、見られる状況ではないのだ。

だからこそ、やれ、という下知が、観光庁にも来ている。

所要時間の定められている環状線と異なり、ポイント・トゥ・ポイントで、ずっと自由な往来を可能とし、船舶ほどに時間もかけないで済む、旅客機の増発は、観光業に大変な影響を及ぼすファクターである。旅客機を送り出せるほど、生活水準の高く、経済的にも、科学技術的にも発達した国である、という、余裕の表れの、周知にもなるので、受け入れる側にとっても、送り出す側にとっても、決して比重は軽くない。

観光は、現実逃避ではない。世界滅亡の危機を目と鼻の先にして、庁内でも意見が割れていたが、生きるために必要な、心の整理作業の手助けをする処であって、ラスト・バカンス等という、洒落たオチをつけさせるのは、人倫にも劣る、いや、実際に、ニューワールドに抗う術なし、死を、余裕を持って受け入れさせることもまた、重要なメンタルヘルスケアだ、等々、エンの同僚たちの間でも、昼休みには、両派に分かれて論争が絶えないが、少なくとも、エン自身は、観光とは、現実逃避より、もっと前向きな物だと、そう考えていた。

その、エンをして、やっぱり厳然として存在する、この現実を前にして、困るより他に、出来ることが、ない。

思いで世界は変えられない。気持ちで何かが変わるなら、みんな、祈りを捧げる。文化的に馴染みはないが、僧侶のように、実際に、祈りを捧げて奇跡を起こす、れっきとした職業も、このニューワールドの隣国たちの中には存在しているけれども、それも、あくまで実在する神様の力を借りているだけのことで、そのために必要な、作法や、儀式、捧げ物といった代償はある。切ったり縫ったりする医療と違うのは、結局、そこに働く理屈だけ。

心で、理屈は、曲がらない。

愛で、世界は、曲がらない。

「生きるって、なかなか難しいですね、先輩。」

呟いた口元から、それでも困ったように、笑みは浮いている。


[No.6974] 2010/09/10(Fri) 00:15:20
NOT秘宝館SS:城 華一郎様オーダー (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

針が時を刻んでいる。Tic,Tic,Tic,Tic……
閉塞した部屋の中で、平らかな空気を震わせる物は、その1つきり。

針が時を刻んでいる。Tic,Tic,Tic,Tic……
椅子に身を沈めた男は唇を真一文字に結んだ表情に、亀裂1つすら走らせない。

左の傍らで両膝を、毛足の長い絨毯に直接突きながら、男の左手に、右手を重ねている女がいる。

互いのまなざしは交錯し、互いの視線は絡んでいる。
空間を割る、ぜんまいの振動が、動かない2人の肌を叩いて、それでも揺らす。

青い光沢が雪色の月光のように、女の長い髪からは、放たれている。
輝きは、政庁用の、無機質な灯を天井灯から受けて、創られていた。

ことん、ことん、音なき拍動。
ついぞ針には刻まれぬまま、時を重ねるのは、それでも動く、掌の内側を巡る、真っ赤な脈流。

男のまぶたが3秒閉じた。
無数の刹那を喰い切って、また、開かれた、傍らを覗く世界の中に、同じ瞳が待ち続けている。

待ち続けている?
何を。

感じた時、城 華一郎は、かぶせられていたテイタニアの掌の下で、左手を裏返し、手指を絡めて手繰り寄せ、不安定な姿勢のままでいた、その、青い髪の彼女の上体を、自らの膝元へと引き込んだ。

「どうしましたか、華一郎」

可視化したような水色の声。
オアシスに湧く、あの軟らかな透明、そのままの声だ。

赤黒い衝動を心臓の下側に覚え、華一郎は口を噤むことで、幾多の言葉を噛み殺す。

思念が渦を巻く。
水色を磨くのは、木々の葉の、腐ったような土や、また、それらの腐らぬままに押し固まった、泥炭を経ての、ことである。

欲望を、思考の臼歯に掛けて、平らかに解きほぐし、擂り潰す。

だから、何だ?

完全な左右対称ではない、均整の取れた、ほのかな歪みを抱く、テイタニアの顔の造形を見つめながらに、自問する。

この歪みは彼女が人造物ではない処から頂いた揺らぎだろう。
かつてその身に、小指と薬指で数え足りる程度の魂たちが、袖を通したことの表れ。

だから、それがどうしたというのだ?

何でもないと口にすることは出来ない。
沈黙ばかりが積もり込み、直前に立てた衣擦れと肉の震えで、耳からは、時を計る、針音のささやきを、聞き取る細やかさが、すべて消し飛ばされていた。

深い、椅子の造りは、華一郎が腰掛けて、その上にテイタニアを引きこんでも、まだ、苦しくてかなわぬ、というふうには、ならぬ。

政務を執るための机とも、今は間を取られており、2人分の空間が保たれ続けている。

それがなんだっていうんだ。

瞳に赤い物が通い始める。
その赤と、対峙している女の瞳は、相変わらずである。

言葉が次々脳髄で噛み砕かれる。
言えば、こう返る。こう流れる。そんな物は求めていない。
もっと。もっと、求めている。

多くを?
深くを?
強くを?

わからない。
ただ、直感だけが常にやかましい。
もっと、もっとだと、叫んでいる。

華一郎は、問いかけには答えずに、
テイタニアを膝上に載せ上げて、後ろから、ただ、胴体に脇から両腕を通すような形で、抱きしめた。

「この姿勢のままでは、希望された行為が取れません」

テイタニアの声には不純物が少なく、しかし、確かに含む。
軟らかな水色の声。

金属で形作られた女の、だが、金属の含有率が、少ない声。

オアシスは、砂漠に降る雨水の溜め池ではない。
遠く、山岳地方の地中を抜けて、流れこんできた水脈が、ぽっかりと湧き出る先を求めて現れた、そういう素性と由来を持っている。

風をその峰に受け、対流で雲を生み、
雨水を受けて、多くの木々を宿す山中には、
それらの積もった泥土が、深くまで層を成しており、
そうした、幾重もの有機と微かな無機が、水を磨いて、
運ばれてくる。

水の名で呼べば、軟水であり、
味で語れば、どこか甘く、柔らかい。

「そうだな。俺は、そばにいて、見つめていてほしいと、そう言った」

苦しみを吐き出すように華一郎は己が望んだ事実を喉から吐いて、
捨てた。
両腕に篭もる力は強い。抱きしめるほどに、柔らかくて、それが、苦しい。

「今は、こうしていたい」
「わかりました」

溜めのない回答。
テイタニアの、いつもの言葉や仕草と、それは同じ性質で。
翼として、愛を最速で届けるための形態を取っている。
それがわかるから。

「嘘だ。これでは足りない」

腿と腕の肉に、女の体のこすれて回る感触が押し付けられた。
腕力を振りほどくのではなく、小さな身じろぎだけで緩めて、その緩みの中を、滑るように回った、巧みな体の使い方。
頭を抱きしめられた。

「足りないんだ」

悲鳴のように華一郎は女の胸の中で、静かな呟きという形で、感情を口にする。

「これ以上は、ニューワールドの法規に触れます」
「わかってる。違う。そうじゃない。
 足りてないのは、そんなものじゃない」

情報的に公開された領域内で、どれだけを望む。
触れ合うことをどれだけ求めても、そんなことではまったく足りない。

「欲しいのは、時間だよ、テイタニア」

言葉をよく聞こえるようにするために、彼女は己の胸から男の頭を離し、
見つめるようにして、待った。

「例えば君と家族になったとする。
 俺の望みは、それでは足りないんだ」

華一郎の瞳は、感情が昂ぶり、血が凝ったせいで、
白目の部分で、赤く、血管部分の色が、にじんでいた。
濁っていた。

あるいは、その原因は、涙のないままに、
泣いていたことなのかもしれない。

「俺は生きたい。
 俺も、君も、死ぬ。知っている。
 君は一度その身を失った。
 情報的には同じだろうか、異なるだろうか?
 わからない。
 失われるなら、この手で留めればいい。
 でも、どれだけ留められる?
 死した後も、なお、どれだけ…………。
 どれだけ、俺達のいた証は、残せる」

俺は、この世界に居たいんだ。

そう、ひりついた喉から、声の涙を、ひり出した。

テイタニアは、動かなかった。
動かないことが最速であると、知っているから。
動かず、待って、華一郎の右手を取り、中指の側面に口付ける。

ほのかな湿り気が、第一関節の辺りに染み込んだ。

「…………」

テイタニアの唇はふさがっている。
だから、この沈黙は、華一郎の物だ。

視線を水平に保てば、水色に青い、豊かな髪色の中央、
テイタニアの、頭頂部のつむじが伺える。

華一郎は、それを見て、唇を、風を食む程度に薄く、1度、2度、開き、
閉ざす。

心臓の下側に感じる赤黒い衝動を、濃い思考でねじり伏せる。

口付けられているのは、
硬くしこった、利き手の皮膚だ。

何万字も、何十万字も、紡いで、物理的に磨き上げられた、
盛り上がったペンだこだ。

テイタニアは語らない。
言葉を求められていないから、ではない。必要がないから、語らない。
言葉を超えた最速を届けることが、己の存在理由だと知っているから。

だから、それでも、華一郎は、

「面を上げてくれ、テイタニア」

呼びかけて、しかし待つことをせずに、彼女の唇を奪いながらに抱きしめた。

大切だったから。
自分にとっての大切を、教えてくれたものは、自分の大切なものになるから。
相手の大切なものに対してテイタニアがそうしてくれたように、そう、応えた。

「テイタニア。今から1日間の完全執務停止を行う。
 その後のリカバリーは可能か?」

テイタニアは答えない。
右手をかざし、ぱちり、電波による遠隔操作で執務室の人工灯のスイッチを、代わりに絶った。

光を失い、情報閉鎖が進む。
暗闇の中、外界からでは、2人の表情は、もう、見えない。代わりに彼女は、いつもの調子で淀みなく求める。

「1日でもまだ、短いですね」


[No.7013] 2010/10/03(Sun) 15:22:59
後書き (No.7013への返信 / 2階層) - 城 華一郎

もはや生活ゲーム所以ですらないものを秘宝館SSと名乗っていいのかどうか、自分で自分へオーダーするという、無法に無法を重ねることを考えた挙句、今回はNOT秘宝館SSとなりました。

バカなんじゃないだろうかと思います。

しかし自分以外の誰かのために書くというのはいいもので、それなりに満足しています。それにしてもオチのセリフのしてやったり感が酷いですね。テイタニアが酷いのではなく、テイタニアに求める俺の願望が酷いので、どうか俺を責めてください。主にマゾ的な意味で。物語系文族ってみんな現代社会においてはマゾだと思うの、痛々しい的な意味で。

この作品は文庫用に書き下ろしたもので、従って、後書きまで含めて収録されるのかと考えると、なかなかに戦慄するものがあります。一国の摂政が公にする内容としては、マゾにも程があります。

この痛みは、けれど、心地良い。
まるで愛する痛みと同じようで。

生きてること自体が、既に誰にとっても痛々しいことなんじゃねーの、とか、痛々しくも考えながら、とりあえずは筆をここで置くことにします。

城 華一郎というこの名が、この生が、
三千世界などになくてもよいと、3000文字で、1つに畳み。
君のそばにだけ、置いていくよ。テイタニア。

BGM:sm6529016/http://www.youtube.com/watch?v=9pQR4a5sisE
初音ミクオリジナル曲 「from Y to Y」
最愛の作曲家、ジミーサムPの紡ぎ上げた、最愛の歌と共に。


[No.7014] 2010/10/03(Sun) 15:41:18
秘宝館SS:日向美弥様オーダー (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

ぷっくりと持ち上がった白い布地のしわの背に、なだらかな輝きが散っていた。食卓上の、この、マナーの悪い、小さな山脈を、開放的な窓から投げ込まれた陽光が舐め上げて、森然とした繊維の合間にやわらかく吸い込まれているのだ。

人差し指を立てて、そのしわを上から平らかに均すと、日向玄ノ丈は、清潔に整えられたテーブルクロスの真新しさで、改めて、唇を軽くへの字にしながら感心に浸る。

俺も随分と立派になったもんだ。

勿論、自身が更正しただとか、社会的地位を得ただとかいう意味ではない。ついでにいうと、口にしてすらいない、ただの傍白である。

濡れ布巾できちんと磨かれた床に、体感で、日向の倍ほどもありそうな高い天井、腰掛けているのは洒落た背をした椅子で、軋むどころか、手すりすらついてやしないのに落ち着きがいい。ついでに言うと、まだ、神経のところどころで、違和感が消えていないので、こいつは大層ありがたかった。

大層なご身分になったもんだ、と、自身に対して揃えられた調度の類に、いつものように、唇の端を僅かにひん曲げての、牙を隠した笑みを零す。自嘲している訳ではない。もっと言えば、自慢している訳でも、自負している訳でもなくて、この男は、自分の今の境遇を、明らかに面白がっている節があった。

「――――――……。」

白壁に跳ね返る陽光が、目に眩しい。
この建物の中では、世界は薄暗くもなくて、身構える必要もなくて、トレードマークのように引っ提げていたはずの黒い帽子は出番を待ち構えて玄関前に掛けられっぱなしだし、サングラスは胸に差しっぱなしのままだ。

遠くへ来たんだ。

文字通りの世界移動者でもある玄乃丈は、だが、渡ってきた幾多の旅の道程をではなしに、常人の万倍を遥かに越す鼻腔で捉えた、日本ではありえない日差しに、様々の物がぬくめられた熱気や、活力にみなぎった潮の香でもって、そう、述懐を胸に抱いている。

俺が今いる場所は、昔より、ずっと遠い。

「もうすぐ出来ますからね」
「ああ」

油の跳ね散る、しゃんしゃんけたたましい音量に負けない、弾むような暖かい女の声に、いらえ、瞬きで玄乃丈は時を、見つめていた瞳の中から同じく散らした。

南洋の暑さに引けを取らぬ熱量を、キッチンの方から嗅ぎ取る。
うまそうな匂いだ。いつか光太郎を招いて、唸らせてやりたい。

食事を採ると、ソファーで並んでくつろいだ後に、今日も連れ立って街へと降りた。

/*/

「この前行ったレストラン、すごかったね」
「ありゃあ、入りましょうって誘ってきたお前さんがすごいんだ」
「今日は食べてきたから、軽い飲み物があって、話せるだけのところでもいいかもしれませんね」

手、1つ分の距離を開けて、こちらの歩調に気を使う相手に合わせながら、その実、16分の1テンポだけ向こうより早く、意図的に前へと出つつ、玄乃丈は道をするりと雑踏の中に開いていく。

新宿の界隈に比べたら、周りを行く人間たちの速度はずっとおおらかだから、その分、あの頃よりも油断した素振りは作りやすい。

染み付いた、都会の野生の習性で、そうして常に傍らにいる相手のことを、森の中で踏んだ枯れ葉に音を立てないような自然さで、庇い続けている。

もう、この程度のことは、出来る程度には回復したが、まだまだだな。

「バーなんかだと、ありがたい」
「この辺にあるかなあ……」
「見つからなければ、買って帰ればいいさ」
「まだ、この前のも残ってますよ」

あ、でも、この瓶なんか可愛いかも。と、店頭に籠入りで陳列してある、銀色のやわらかい色合いをしたウィスキーフラスコを見つけると、ひょいとそちらに顔を覗き込ませたので、つられて日向は足を向けた。

視線の違いもあるのだろう。二人で歩いていると、こうやって視野が広がる。そのことに再び気付き直したのは、何年振りのことだったろうか。

フラスコとセットの品なのだろう、隣に添えてあった、濃い、琥珀色のボトルを手に取ると、熟成された香りが、掌の中の重みから伝わってきた。

いい酒だなと言ったら、何故だか隣で嬉しそうな顔をされた。
やっぱり玄ノ丈さんにはウィスキーって似合いますよね。ハードボイルドなイメージで。

どうだろうなと笑って返し、
小一時間ばかりウィンドウショッピングを楽しんだ。

/*/

潮騒を枕に、星明かりだけを灯してベッドに横たわりながら、
玄乃丈は卵のことを考えた。

夜風が吹き抜ける。
うっすらかいた汗や、潮の粘りに、毛繕いをしたくなるが、
今は身じろぎもせず、我慢する。

ハードボイルドってのは、固ゆで卵だ。
どんなことにも動じない、ついでに言えば、死んだ卵の有様だ。

ハードボイルドからは、生まれない。
何も生まれてこない。

だから、生まれたばかりの、か弱い雛鳥よりも、もっと弱い生き方だ。
そう生きるしかなくなってしまったから、そう生きるだけの生き方で。
いっそ、気取るより他にないから貫いてきただけの、死に方だ。

じゃあ、俺は昔と比べて変わったか?

瞳を誰も見ていないところできらめかせながら、自問する。

変わっちゃいない。
いつでも死ねる。笑いながら、くそったれな悪党共に、親指を下に向けて、いつでもだ。

変わったのは周りだろう。

この部屋の、家主の顔を真っ先に思い、やはり、胸の中で笑顔を作る。ただし悪党共に向けるそれとは違って、心底面白そうに。

2つの笑顔が自分の中には眠っている。
2つの顔が、自分の中で、眠っている。

どうにも笑っちまう。
こいつは面白すぎる。

腕を伸ばしたまま、まるでその中に手放したくない何かを握りこんででもいるかのように、拳を作り、確かめた。

固ゆで卵からは何も生まれない。
生まれなくったって構わねえ。ずっとそのつもりで生きてきて、きっとそうやって俺は死ぬんだろう。

だけどな。だけど――――――……。

闇夜の瞬きに時が散る。

/*/

『は……はい。口説いてます』

目に浮かぶ、赤い顔。けれど、すごく、真剣な。

/*/

『手をつないだままでいたいなって…』

不安げに揺れる声の可愛さ。

/*/

『玄ノ丈さん、喜んでくれるといいな。』

思わず上げた笑い声に、にゃーと飛び上がった肩。

/*/

『…あなたは、私のことを、どう思っていますか?』

見つめ続けてくる瞳の重たさ。

/*/

『気に入ってもらえたら、うれしいです』

無邪気にはしゃぐ様子の、罪のなさ。

/*/

『消えないでください……』

触れたところから伝わる熱。

/*/

『誕生日だから、好きな人といっしょにいたいんです』

やわらかい髪の、細く、心地よい手触り。

/*/

「…………」
「玄乃丈、さん?」

なんでもないさ、と言おうとして、
頬を撫でることで、返事に代えた。

遠くまで来た。
けれど、俺はここにたどり着いた。

「……?」

不思議そうに見つめる顔に、髪を撫で、
ゆっくりと顔を寄せていきながら…………。

「美弥」

/*/

『あなたに、また会えて、よかった…』

/*/

狼の固ゆで卵を暖めた、
風変わりな猫の一日は、
そうして降り積もるように過ぎていく。

触れてきた唇は、今日も暖かい。


[No.7028] 2010/10/12(Tue) 20:01:26
後書き (No.7028への返信 / 2階層) - 城 華一郎

あおひとさん宅はあまりに完璧すぎて手も足も出なかった感があったために後書きが書けませんでしたが、間を開けて、再び後書きを書かせていただけるのであれば、美弥さんと玄乃丈さんについては、こう表現させていただきます。

恋する乙女って可愛いのね……!(眩しそうに)

その恋が自分に振り向けられていなくても愛らしく感じられるのだから、なかなかちょっと、こいつは大した戦略兵器だと思いました。一途さがまるで槍のよう。<そして表現がまるで似合ってない

冷静に考えてみると、前回のご依頼もそうでしたが、式神の城をやっていないとプロフィールに書いてあった俺にオーダーしてくださったのは大変ありがたいことで、しかし前回と趣きを異にして、ご指名いただいた分のログをほとんど盛り込まない形での執筆となりました。

想起出来る物を書いたんだから、いいじゃないか。的な理論なのですが、前回がログベースオンリーだっただけに、この内容はいいのかおい、大丈夫なのか、多角的に考えて。と、非常にハラハラしております。玄乃丈さんのキャラ把握大丈夫かなー、と、式神の城をやり始めて、逆に不安になる有様です。ちょーこえー。

ご依頼主がいて、それに応えるという制度ならではの緊張感ですね。

3日間と、復帰以来初めて短めの期限を切っての挑戦になりましたが、連休中に着手することが出来なかったにも関わらず、なんとか書ききることが出来ました。

ここで文字数が2828文字だったらにやにやとうまいこと締められるのですが、あいにく6文字足りませんで、無駄に増やしてもつまるまいということで、心の中でだけ、むっつりにやにやしておくことにいたします。

玄乃丈さん、美弥さん、これからはお幸せに!

−今回はBGMなしでした。


[No.7029] 2010/10/12(Tue) 22:52:42
ニューワールドの子供たち (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎


ハロー・ハロー、こちら地球。聞こえますか?
ハロー・ハロー、ただいま通信速度、299,792,458 m/sを突破中。
ハロー・ハロー、応答どうぞ。

ハロー・ハロー、
ハロー・ハロー、
…………。


[No.7069] 2010/11/05(Fri) 22:36:28
001 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

ある日、ペルセウスアームの藩国が1つ消滅した。
そのことに、誰も気がつかなかった。

物語はここから始まる。


[No.7110] 2010/11/21(Sun) 20:04:50
002 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

その現象に、初めて公の反応を示したとされるのは、ニューワールドからの、とある移民だった。
名を、夜ノ塚雫という。

この、第一に胸の大きくて、第二に朗らかさの大きな女は、
方々で、置き去りにされている荷物や、それらと共に行こうとしていた足を急に反転させて、それきり戻っても来ない者たちを見て、大変訝しんでいた。

「ふむ。」

腕組みの上に胸を乗せながら、その胸と共に首をかしげて、胸ごと揺れた。
変だ。

置き荷が盗まれなくて治安がいいと、単純に頷こうにも、
テロリズム対策の不審物処理の原則からは逸脱している。
放置しすぎだろう。

さりとて、皆、ルールを守らんから、治安が悪い、とも言えない。
何しろ荷物をかっぱらう置き引きだっておらん。

はて、一体全体、この状況は何なのだ?

雫は、その時点で、形容しがたい齟齬が、自分と世界との間に生じているような、おぞましい戦慄の気配を予感した。
ここは筒井康隆ワールドか?
これからどんなナンセンスな展開が待っている!

なにより、道端に、雪の降り積もるようにして人の手で重ねられていく、それらの忘れ物たちは、
トランクケースや鞄など、まだ可愛い方で、
雫が見た中でも一番危ないケースでは、港に山が出来ていた。

比喩などではなく。
標高610mを超える、国際基準に則った、鉄の山が。
予感も気配もへったくれもなく、素直に戦慄した。
というか、やばいだろう、これは。どう考えても、何も考えなくても、頭からっぽにしてもわかるぐらい。

危ないぞと警告するまでもなく、
それらは合金製のコンテナで築き上げた、現代型ピラミッドの如き威容で、
もはや明らかに、港そのものを違う空間へと作り替えてしまっているのに、
まるで、彼女だけを残して、世界は何も違和感を覚えていないかのようで。
その感覚は、それが夢だと気づいた途端に砕けてしまう、妖しい幻想の中に迷い込んだような錯覚を、際限もなく与えてくるようで。

仄かに湧き上がりつつあった何かを、慌てて心の奥底から振り落としながら、
文字通りに崩落寸前で雪崩を打ちそうだった、その四角く頑丈な雪たちを、
雫は排除にとりかかったものだった。

3ヶ月掛かった。

勿論、1人ではない。
同じニューワールドから知り合いを呼び、その知り合いのツテを引き、
それこそ会社が興らんばかりの勢いと組織力で、事態を切り崩しに掛かった。

幾ら手があっても、余ることはなかった。
何しろ雫たちがコンテナを下ろすその端から、
誰かしらがまたコンテナを積んでいくのだ。

「おい!
 お前、そこのお前だ!
 自分が何をやっているのか、わかっているのか!?」

怒鳴られた相手は、
しかし、きょとんとしていて、まったく自覚がなかった。
どころか、問い質してみても、自身のやっていることを、記憶してすらいないのだ。

そんな連中がわんさといたものだから、
しかも、方々にいることがわかったものだから、
夜ノ塚雫の、移民して早々の仕事は、この奇妙な荷物たちと、
その置き主への説教の繰り返しになってしまった。

/*/

「全く、さしもの私も怖気が立ったぞ」

この2ヶ月というもの、すっかり自宅化してしまった事務所の一角で俯せる雫は、
テーブルへと重たそうに乗せた胸の間から、そう、うんざりとした声を上げた。

いかにコンテナの強度があろうとも、鉄塊ではなく、中に空洞を持つ、
ただの箱なのだ。

歴史的建築物であるところのピラミッドとは違い、
山積みの最下層部や、あちこちでは、中身もろとも押し潰れ、
その上下左右にコンテナが寄り積み重なっていたものだから、
本当に不安定で、どこへ向かって崩れるかもわからなかった。

海ならまだいい。当面港が使えなくなるだけだ。
陸地方面や、最悪、真下へと崩落していたら…………。

ぶるり。肩を震わすと、雫は、
ようやっと己の豊かな胸から面を上げた。

対面で、自分と同じ、味気ない事務机に座っている話相手は、古くからの知人で、東国人の、スバルという。
その氏を、そのまま、ずばり、東(あずま)と言い、
しかしその名を昴(すばる)とは持たぬ、女であった。

勿論、ひらがなやカタカナで表記するという意味ではない。
当て字や、異国の言葉でスバルを意味する名を持つ訳でもない。
それではどこにスバルの文字があるのかと聞いたらば、
複合姓、あるいは二重姓とも定義される、チャーチルの姓のように、
二重に名を持つだけのことである。

トウ・エン=スバル、あるいは東円(あずま まどか)とも、
東昴(あずま すばる)とも、彼女は名前を持っていた。

ある、特殊な集団の頭を継ぐべく、
男として育てられ、しかし、雫のお陰で、女として、でもない、
男として育ち、あくまで女である、ありのままの自分でいられるようになった、
そういう縁を持つ人物である。

まだ、若い。
20そこそこであろうか。
少年めいた肉の薄さがあり、男と言われれば、なるほどと笑って頷いてしまいそうであり、
何故そこで笑うのかと問われたならば、愛らしい麗しさが、その頬や唇の赤みには、
万人が見てもそうと知れる、女生の明るさでもって、表れているからである。

その癖、目の細さは育ち同様の、
真っ直ぐで、融通の利かなそうなキツい形をしており、
垣間見える男性性と女性性のギャップによって、
ついつい、からかいたくなる、そんな愛らしい尖り方をした性格が、
面からも伺い知れる、若者だった。

相変わらず、この女はなんてうつ伏せ方が出来やがると、
自分の胸をクッションがわりにしていた旧友に唸りながらも、
スバルは、その言葉に対しては芯から同意した。

「オブリビオンズか。」

Oblivion、忘却、あるいは無意識の名詞の、複数形を意味する単語である。
今では雫たちの活動がきっかけともなって、ペルセウスアームの国民たちにも、
広く自覚されるようになった、現象のことだ。

「俺だってお前に聞かされるまでは半信半疑だったさ。
 目的地を忘れ去られ、行き場を失ったメガトン単位のコンテナたちが、危うく質量兵器化して、藩国船の階層に穴をあけるところだった……
 どころか、『まるごと藩国1つが、滅亡したことさえ誰にも気付かれずに忘れ去られている』、なんてな」

3ヶ月前には、まだ、名前も知られていなかった、この現象は、
その範囲や性質の、かなりのところまでが定義付けられつつある。

1つ。
症例としてはペルセウスアームが一番酷く、巣窟とも言え、オリオンアームでもかなりの数が見受けられるのに比べて、ニューワールドでは、まだ、ほとんどないに等しいほど、発現していないこと。

1つ。
発現の対象は、人間を中心としており、その現象の定義としては、雫たちが片付けたような、置き去りにされる荷物を代表例として、「何かを忘れていることに気がつかないまま、それでも忘れた何かが存在することを前提として、日常を過ごしてしまう」こと。

今回は、国が滅亡しているにも関わらず、そのことを忘れていた荷物の送り主たちが、当たり前のように貿易を営もうとし、輸出物資を港に延々と送り続けていたせいで起こった事例だった。

「引換にするはずの代金も、空にしていったトラックやフェリーに詰め込む代わりのコンテナや、受取人のサインがないことにも気がつかないで、荷物と一緒に旅立つはずの連中は、その場で既に仕事を済ませたつもりになって、Uターンまでしちまって、な」

ありえないだろ、と、スバルが言い、
ありえんな、と、雫が同意しながら、引き継いだ。

「『経済から何から何まで混乱しているのに、その混乱にすら気がつかない』なんて状態は、ほんとに、まったく、ありえない」

1国分の、人と、物の、流れである。
影響の小さい訳もない。

この頃、世間では、とにかく景気が悪い、何故だ、
原因不明の不況が訪れている、と、いうことで、
政府が悪い、世界が悪いと、犯人探しに躍起だったが、
何のことはない。
みんながみんな、端から考慮すべき要因を忘れていただけだったのだ。

「結局、滅亡した国のことは思い出してもらえなかったけどな……。」

スバルは、
自分の氏族を総動員して行った対策のことを考え、
俺がもし男だったら、気苦労で若ハゲしてたろうよ、と、
笑えない冗談を飛ばした。

オブリビオンズと名付けられた、一連の現象に巻き込まれた人達は、
結局、更なる新しい日常を上書きすることでしか、
行動習慣を改められなかった。

実際、笑い飛ばしたくもなる。
何で一文の得にもならんのに、他人の会社の輸出先を、
代わりに見つけて契約してやらねばならなかったのだ。

だが、雫は、この神経質な友人の、愚痴にも似た、珍しいネタフリがあったにも関わらず、
体ごと、憂鬱そうにその眉尻も寝かせたままだった。

思い出せないのはまだいいよ。

「私なら、大事なものが失われたことに、気づけさえないなんて、そんなこと……」

ぎゅう、と左脇を締めて、
雫は自らの鼓動が、まだ、確かにそこにあることを噛み締めた。

そんなの。
寂しすぎて、つらすぎる。


[No.7112] 2010/11/22(Mon) 21:36:32
003 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

寒い季節になった。
こたつに入りながら食うアイスは美味い。そう、プラスチック製のスプーンを咥えながら、宝カラスは文字通りに噛み締めていた。

ただのアイスではない。
ラクトアイスだ。

安物じゃねえか、混ぜ物たっぷりだよ!
と、我ながらのモノローグに突っ込む。
でも、まあ、いいじゃないか。

「安物ではあっても、偽物じゃ、ない。」

最近は、良い物の真似をしようとする連中ばかりで困る。
近頃の若いもんは、を、口にし始めたら終わりと言うが、
そもそもが情報延伸装置であるところのアイドレスで、
それを言っちゃあ、おしめえよ、なセリフかもしれないと少し自重。

風呂上りのアイスも良いが、こうしてごろごろと、
何もしないで惰眠と共にむさぼるアイスも、また、
格別だよな。あ、この発言自体が終わってた。

こたつ机の上には書類が積まれており、
書類と書類の間には、タッチスクリーンタイプの端末が寝そべっていて、
ついでに言うと、理事長室の、赤絨毯のど真ん中に、こたつ達と一緒に、彼女はいた。

ニューワールドの片隅、
情報の薄片を丹念に因果付けて作られた、
とある学園でのことである。

この学園も、安物じゃあるが、偽物じゃあ、ない。
何が一番大事って、それ以上に必要なものなんて、
アイドレスには存在しないだろ、と、カラスは思っている。

だから最近気に入らないことがある。
生徒たちの間で、どうも変なお菓子が流行っているらしいのだ。


[No.7115] 2010/11/23(Tue) 20:46:58
2 (No.6959への返信 / 3階層) - 城 華一郎

数多の空間をあたかも当然の如くにくゆる光の揺らめきを透明と呼ぶのなら、
世界はなんと豊潤なことだろう。

無限の微小が屈光を招き、
有限の配列がミクロを超えて、
1つとして均しからぬうねりをそこに生んでいた。

人の身に比すれば、名すら持ち得ぬ塵芥の、
しかし、ある分子のクラスタは確実に有機物に由来しており、
無機物にもまた、由来しており、あるいはそのものであった。

ああ――――
今日も空色は青く、行きずりに触れる木々は蒼い。

それでも、あらゆる青を駆逐して、
透明に青い、水色をその名にたなびかせながら、
風代ナインは生きていた。

<at 市街>

肩口までをしか覆わない、
申し訳程度にノースリーブから逸脱した袖から伸びる腕は、
右脇に、学生が良く使っているような、
エナメル製の、容積14リットル程度の鞄を抱え込み、
左肘には黒い腕章めいたサポーターを通している。

この、風代ナインの、白く、すべらかな両腕の、
調和のとれた華奢ならぬ瀟洒なスロープの具合を、街行く同性は羨んだまなざしで、
異性は感嘆の吐息で受け容れていたが、
いずれも視線はそこより奥には伸びず、せいぜいが、首元から背後までを賑やかす、
ショッキングな原色ママのロングマフラーのYellowで留まっていた。

髪色の不思議には、
皆一様に、視線そのものが行き当たらないようである。
細い、挑発的に釣り上がり気味の眉色も、同様だ。
ミクロンの類にまで視力が届く者も、やはり、変わるまい。

陽光が和毛を舐めれば彼女は正に、水色であったと言わざるを得なかった。

Blue,Blue,Blue.

リズミカルに尖った音符マークでも従えていそうな歌いを唇と鼻骨に伝わせて、
白い歯並びをかいま見せ、しかし歩調に拍子は存在しないという、
アンバランスな乖離をほんの0.000000000000000163光年ばかりの背丈に宿して進む、
その目的地は市街の動脈箇所。

18万ミリセカンドばかりも鼓動を繰り返した頃には、
そいつはすっかりナインの近所に立ち現れていた。

「青色兵団、補給所、ってね」

黒板風のボードを軒先に四脚で立て、
チョコレート色の木枠で造って召喚喫茶と看板を掲げたそこは、
駅前の表通りに面しながら、20段ばかりの細かい階段で下る、
半地下に居を構えた、非営利合法情報飲食店であった。

たのもー。
ドア上部に取り付けられた呼び鈴が、ナインの押し開けによって震わされるのと同時に声ごと彼女は店内へと入っていった。

荒野から、移動を続けること17日間。
くぐりぬけたリンクゲートは10を超える徒歩行の、
これが漸くの終着点である。


[No.7116] 2010/11/24(Wed) 00:46:49
1 (No.6342への返信 / 2階層) - 城 華一郎

空色カモメは身軽である。
うん? そいつは新種の鳥の名前かって?
なるほど、物語を本格的に始める前に、ちょいとばかし解説が必要なようだ。

飛行能力を持つ生物を鳥類と定義するのなら、
確かに彼女はそこに当てはまる。

そう。
空色カモメは女性で、そして、生身の人間をやっていた。
別段、辞められる訳でもないんだがね。

よく見開かれた、大きな目。
目よりもインパクト的にもデカいが、すこぶるたわわな弾力を持って上向きに持ち上がった胸と、
その肌色がほとんど透けっちまいそうな白薄の衣を、
下着もなしに纏ってやがるもんだから、よくせき天然で野生なスタイルと表現するより他にない。

と言っても、襟元のきちんと立って、
東国風の意匠できちんと織られた、いわゆるノースリーブチャイナドレスチックな文明服を着ちゃいるんだがね。
ちなみにこいつは彼女の一張羅で、そんでもって、ほぼ唯一の服と言い切ってもいい。

この南国が似合う薄着と一緒で、
どうにも彼女にゃほんのりとして薄い、しかも大人しくない笑顔が良く似合う。

クローバーを模した、
全部合わせて耳の1.5倍ばかしも面積のありそうな、
四つ葉の金輪をカチューシャの左サイドに留め、
そいつらの重みで半ばからストンと圧してシルエットにメリハリと角を立たせた前髪の先は、
柔らかく弧を描いた眉毛に掛かるか掛からないかって具合だ。

姉系かね? いや違う。
妹系か? それも違う。
空色カモメって女の、一番の印象は、「誰の隣に並んでもすぐに並んで歩く様が溶け込む」ような、並立性にあるんじゃないかって、俺なんかは睨んでる。

割に、後ろ髪は長いね。うん、長い。
髪質がえらい細いんで、ほんのちょっとの風にも腕白なストロークでもって波打つもんだから、
あんまりそうとは見えないが、それでも肩甲骨の下一杯よりも、更に下まで伸びてるぞ。

あの髪型、可愛い二重まぶたに、
やわい青布で括ってアップにしたうなじの和毛が、また、チラッチラ覗いて、
ああ、たまらんのよね!

言い忘れたが、彼女、青いぜ。
実に穏やかな青髪青目で、目に鋭くも、重たくも、鮮やかでもないんだが…………。
何と例えればいいんだろうね。ふふ。ああいうのは。ああつながりで含み笑いながら考えてみたが、難しい。

とにかく類を見ない青だよ。
極まった青じゃない。尖った青じゃない。
薄くもない。濃くもない。
見つめていると、輝くような心地になってくるんだ。
心が暖められて、軽くなって、自分の内側、魂の芯から穏やかに輝き出す気持ちになれる、青なんだ。
笑顔の種類に青色ってのがあるんなら、多分、こいつがそれなんじゃないのかね。

微笑みのブルー。
いつだったか、戦慄のブルーなんて代物があったりしたが、
色褪せた、の意味な蒼然とか、冷めたような蒼白や、
突き抜けちまった蒼穹、
蒼枯、蒼勁なんて枯れた雰囲気は、てんから持ち合わせてないね。
蒼って字面そのものが、彼女にゃ、ほんと、似合わんのだ。

おおらかで、暖かいよ。

黒髪の美称に青が当たることもあるけどさ、
結構、そんな感じで、どこか地に足の着いた色味なんだ、
彼女の青は。

大分長ったらしくなっちまったが、ともかくそんな空色カモメは、
財産っつったら、今、描写した、たったこれっぱかしの身一つ、
赤色っつったら、カチューシャに付いた金輪の根本から指一本分、ちょろっと飛び出た二つの飾り編み紐ぐらいの、
身軽な奴でね。

フットワークも軽けりゃ、心の重みまで軽くする、
そんな暖かい軽みを帯びた、女なのさ。

中華な白薄衣の境界を際立たせてる、縁色も同じ軽みの青なんで、
案外、服屋でオーダーしてみたら、この色合いの名前がすぐにわかるかもな。
彼女を知る皆は、結構、簡単に、空色って呼んじゃってるけどな。

けれども身軽なカモメは、定まった巣のない、渡り鳥で。
同種のいない、端から生まれてさえもいない、唯一種で。
代わりを持たない、とても大きな空色で。

誰の隣に並んでもおかしくないけれど、
誰かの隣には並び続けていられない、
番いのいない、一羽の鳥で。

地に足着けても、どうしても浮いちまう、
飛んでいるのが当たり前の、そういう女だ。

この物語は、そんな、世界の外側にいるような一羽の鳥女の、
きっと、笑顔の向こう側を俺達が知るための物語なんだろう。

さあ、始めようか。
青色同盟、番号、1番。
青の一族とも呼び習わされる、ニューワールドの子供たちの、
長女として知られる、空色カモメの物語を。


[No.7117] 2010/11/24(Wed) 01:36:15
ニューワールドの子供たち−Episode2:Dear My Princess 〜殺戮王女とセイギのミカタ〜  一章・後半(1) (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

0. かごめ かごめ

 籠から出ても、よいですか?

   *  *

 僕は君に何が言えたろう。
 あの人に言った、こんな情けない僕のした、覚悟の言葉は一つも忘れていないんだけど、どうしてもわからないんだ。
 君の胸倉を掴んで僕は泣いただろうか。
 君と一緒に好きだった本のことを語り明かしただろうか。
 君の好きな紅茶の話を、僕が欠かしてしまったティーカップ片手にしていただろうか。
 二人、笑いあって、この白い木枠の四角く広い窓辺から、並木を眺めて黙ったろうか。
 足のところに丸くこぶのついた愛らしいアンティークの小椅子も、
 日に当たらない部屋の奥に鎮座する背の高いガラス棚や、切子の向こう側でバラバラに針を止めている小さな置き時計たちも、
 涼しげに風でなびいて模様を白く波打たせるレースのカーテンも、
 僕には何も語ってくれない。
 透明な太陽の光がくっきりと床に影をくりぬいて、机の上を飾る指人形の揃いや何もかもをスタンプしているけれど、僕の隣には何もない。
 埃一つない、今、作られたばかりのような、真白い床板の木目には、虚ろな年輪の痕跡が、十も、二十も、引き伸ばされた形で浮かび上がっている。
 僕が向きを変える、そんな動きにも心地よい確かな感触が跳ね返って、
 身じろぎしただけの音が、調和の取れた内装の何もかもに跳ね返って、
 熱と湿りを帯びた夏の匂いがあんまり僕の鼻をくすぐるから、それで僕は顔を上げていられなくなって、不意にうつむいた。
 時折自身でこすれあって聞こえる、窓辺のレースの白い潮騒。
 僕はいつまでその波音にさらわれていただろう。
 何一つ片付いてはいない室内を改めて見渡すと力なく鼻から息が漏れる。
 セーラー服が汗で湿り始めるのを感じたので、窓に背を向け、本棚の中身から着手する。
 直にここも新しい人が入る。
 急がなくちゃ、と、僕は口に出した。
 君はもうここにはいない。
 君はもう、どこにもいないんだから。


[No.7118] 2010/11/24(Wed) 02:45:26
004 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

皆は学園という言葉にどんな情報を想起するだろうか。
呆れるほどの豊かなイメージ量は、とりもなおさず、人が、教育という体験を、全体でどれだけ重ねてきたかの歴史だったりして、僕なんかがその末席に名を連ねるのは、正味の話、少し、照れる。

高貴な深紅で全寮生徒の自室前、道から道へと余すことなく繋いで敷き飾る赤絨毯の端っこを、外れたり、外れなかったりしながら、雄大なスケールを自分に適用してしまった気恥ずかしさに、思わずよれ歩きをしてしまった。

「あら学園長、寒がりですか?」
「はは、やせ我慢をするよりはいいかなと思ってね」
「セーラー服の上から重ねちゃうのは、うーん……」
「ははは……」

……僕が照れているのは、どてら姿でそんな学園の中を闊歩する、最高責任者って、ありかなあ、という迷いを無視して不精した自分に対する、ほんの8バイトばかしの本能が原因かもしんないけどね。
全角日本語4文字。ぶっちゃけると、女の誇り?

もっとも、そんなことを言ったって、僕、宝カラスは、白鳥クジコみたいな完璧さとは無縁な黒い鳥で、目高ドラコのような怪物性も持たない、ありふれた存在だ。雪が降ってる日ぐらいは防寒具着たってバチは当たらないだろ。

カラスって、たまーに太陽の使いだったりすることもあるけど、僕の足は2本だし、幾らこの学園には特殊な子供しか居ないと言っても、そういう生まれつきも日常も持たない者にとって、だだっ広い廊下はひたすら寒々しいんですよ!

こんな荘厳な造りでここを設計した馬鹿は誰だ!

「学園長、訓練始まる時間ですよ」
「おー」

ついでに言っちゃあ、最高責任者なのに現役を重ねて生徒も続行しちゃってる辺り、ありがたみは、普通の校長とか理事長キャラより薄いよね。うん。行事以外でしょっちゅう、というか、毎日教室で顔を合わせてるんだから、尊敬するような貴重さが欠片もない……。

おまけにオリジナリティの面においても、類例も、ない訳でもない気もするし。

ま、いいんだけどね。
こちとらオリジナルなんぞになるつもりで生きてる訳じゃねえよ。


[No.7119] 2010/11/24(Wed) 23:22:01
005 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

りかいできない。

乳白色の上に銀色を立て、白い子兎の臓腑を抉るようにクリームの内側をかき混ぜる。華奢なスプーンは握りこぶしに掴まれて、粘性の高い抵抗の中を、否応もなく泳がされ続ける。空気をぼってりと含んで食べごろになったそこから一塊を掬い出し、頬張るみたいに飲み込んだ。冷えた香りが口中に広がる。プレーンなヴァニラが、冴えて鼻腔の奥まで抜けてきたので、一瞬、満足気に口元を緩ませた『彼女』は、しかしすぐに固く唇を結ぶ。さあ、もう1度だ。握りこぶしで甘ったるい自分の世界に櫂を差せ。流れがないなら、創りだせ。

その女学生は、宝カラスがどてら姿のままでトライアスロンを敢行している最中、放課後の寮室に、一人、閉じこもりきりで、アイスクリームを、時ににやにや、時にいらいら練り溶かしていた。布団を頭からかぶっているのは寒いからで、寒い時に寒い物を食べるのは、ただの自分の勝手な自分の都合。

もっとひえびえとするとよい。

手のひらで底を支えるプラスティックのリットル級ケースからは、際限なく体温が奪われていく。既に足裏はこわばり、背中の筋肉が縮まって、背骨だけがぬらりと温度を感じさせずに、体を貫き続けていた。羽毛が体温を閉じ込めようにも、既に彼女の体温は外気よりも低かったので、実のところ、布団をかぶっているのは全くの無駄だった。

なぜ、すりよる。なぜ、いたまない。

とろり、乳脂肪の滑る音。女学生はケースを口元につけて傾けた。プリンセス候補を養成する、学園の主旨からは逸脱した行儀だが、とぷ、とぷ、あふれる白濁を、胸元にまで這い込ませているところを見ると、そんなことは蟻の生態のどこに義があるのか位、どうでもよいことらしかった。彼女は怒っていた。激怒のあまり、瞬きの仕方を忘れてしまって、危うく盲かけている位、その怒りを自分でも持て余していたので、感情を体の芯から凍らせようと、氷菓子を次から次へと食っていた。それでも温度は止まらない。原子運動の減速は止まらない。

わたしたちは、おもいしらせるためにいるのに。

わたしたちが、いきていることを、おもいしらせるために。

特殊な子供は何故生まれる。
特殊な子供は何故特殊か。
特殊な子供はそもそも特殊か?
つまり私は、本当に特殊=例外か?

冷凍庫の扉に手を掛けて、
彼女は終わらない凍結した思考を繰り返す。


[No.7122] 2010/11/25(Thu) 23:48:40
006 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

人の唇のように食み応えがあり、けれども触れた端から淡く溶けては吐息の間もなく口中に吸い込まれる。この切ない食感を持ったお菓子が、今、密やかにニューワールドの若者たちの間でヒットしている。ニューワールドにも、珍奇な食材・料理は数あれど、このヴァニラ・アイス(と、当てはめて、本当によいものだろうか? 何しろ定義上は乳脂肪分が低すぎて、氷菓の類に分類される代物だ。風味もヴァニラと呼ぶには新しすぎる、鮮烈な香気を放っている。確かにそれは甘く、そして爽やかなのだが……)ほど、不思議な食べ物も、そうは現れなかったはずだ。

何しろ、サイボーグであろうが、メタルライフだろうが、いや、口がどこにあるのかわからないような代物たちまで、「生きている限りは食べられる」のだから。

TLOではないかと取り沙汰されたが、気化熱が味覚に変換されているのだとか、食べ物だからといって、体内に吸収される必要はないとか、そんな理屈がついてるらしいけれど。

じゃあ、一体それは、食べても食べても、痩せもせず、太りもしない、肉にならない食べ物は、世界にとって、人間にとって、はたしてどんな意味がある存在なのだろうか?

このアイスの名を、キッスと言った。

甘い感覚をむさぼるばかりが幸せなことだろうか。流行というものは、いまいち私には、よく、わからない。若者のはずなんだけど、この私、空色カモメには、少なくとも、そんな素敵な恋のニュアンスとか、甘さなんてものは、ちっとも伝わってきたりは、しなかった。

買ってはみたんだけど。
買っちゃったんだけど。
皆へのお土産に。

うーん。甘いもの好きなら、カラスちゃん辺りに受けるかなあ?
現役学生だし……。


[No.7124] 2010/11/26(Fri) 23:41:54
007 (No.7069への返信 / 2階層) - 城 華一郎

「甘い口付けっていう言い回しを、吟遊詩人の語りで聞いたことがあるんだけど、人間の唇だって、別に砂糖漬けじゃないんだから、本当のところ、どうなの?」

慣用句?
空色カモメは、ジャラジャラ、牌をかき混ぜながら、ふと思い出したかのように話題を振った。天板の上で無造作に撹拌するプラスティックの感触は、指の腹に、甘くも辛くも何ともない。

「カモメさんはキスをしたことがないんですね」

なるほど。
右隣で、点棒計算しながら、宝カラスは何に対してか頷いた。実のところ唇の吸い合いに興味はない。話半分にも聞いていなかった。自分が誰かと番いになることはない。それよりも、今、この局面の方が大事だ。そろそろ、ノーテン罰符だけでもトびかねない。

「されたことはあるけど、シチュエーションがねー」

無理やりはノーカンだよね。
人生の記憶の8割を、他人が見たら苦痛としか分類できない出来事で埋め尽くされている風代ナインは、しかしさらりとそんなことを口にする。そういえば、私は誰かを愛したことはあっただろうか。あ、ドラ来た。配牌にはとりあえず愛されてんな。

「…………」

もそ、もそ。
蒼野命はこたつの中から手を出して、億劫そうに山を積む。表情からは、何を考えているのか、掴めない。もりっと積まれた点棒だけが、雄弁だ。

ここは学園の理事長室。時刻は既に、夜も更けた12時過ぎ。
青色の女たちが、定例会がてらに麻雀でしのぎを削っていた。


[No.7126] 2010/11/27(Sat) 23:54:36
赤夢 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

溶岩のように煮えたぎる空だった。
赤くて。赤くて。
夕焼けの太陽よりも、殴られて飛沫いた自分の血よりも、熟れ過ぎて落ちたトマトの腸よりも、真夜中の猫の瞳の照り返しよりも、古ぼけて溶けかけたクレヨンの無垢で汚れた赤色よりも、君の唇よりも、死んだペットの猫を焼いた時の炎よりも、旅行先で見たダンサーが付けていた造花の首飾りよりも、零れた君の命の質感よりも、産まれたての子どもが着ている濡れ色よりも、国民の一部を皆殺しにされて辱められた時にこみ上げてきた感情よりも、自分で描いた物語の登場人物の髪の毛のイメージよりも、真白い金属のカンバスに垂らされたペンキの輪郭の鮮烈さよりも、君の抱擁に感じた温度よりも、生まれ故郷の近くにあった雑草まみれで誰にも忘れられたような小さな公園の鉄棒の錆よりも、たった一人の親友の結婚式で出された酒の沁みるほどの辛味よりも、熱に浮かされてのたうつ腰と背に覚えたねじれた痛みの執拗さよりも、君の涙よりも、ああ。赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤い空で。
鱗雲はまるで空が沸騰して吹きこぼれた赤い泡のようで、そこだけ色味がだんだらに薄められたり、濃くなったり、赤く、赤く、ずたずたにぶちまけられていて。
その下で、僕は穴を掘っているんだ。

筋肉の代わりに鉛を腕と背中に貼りつけたんじゃないかってほど、シャベルで掬い上げる動作が重かった。
僕は足の裏で全体重を掛けて地面に鉄を食い込まし、柄の部分をきつく握り締め、抉り取った土を頭上へ放り上げる際に、滑らないように固く握り締め、振り上げる際に、それでもやっぱり重たくて、土と自分の腕とが重たくて、あんまりに掌がシャベルの木の柄にこすれるもんだから、やわい皮膚がぼろぼろになって、べろべろに薄皮が破けて、いつの間にか絞り尽くされるほど滴っていた汗や、どうしてもひっかぶってしまう土埃とがその傷口に擦り込まれて、痛くて、痛くて、ひりついて、熱くて、痺れて、だるく焼けついて、力を本当に込めているのか、わかんなくなって、だけども泣きながら体をありったけねじって土を穴の外へと投げ捨てて、
自分の墓を、掘っているんだ。

怖くて、痛くて、もう、逃げ出したいのに、周りには見張ってる人も誰もいないのに、空が赤くて世界が赤暗いだけなのに、湿った竪穴が、狭くて、自分の発した体熱で妙に生暖かくて、離れられなくて、すっかり穴は人、一人分の背丈まで、深くて、どうやって出てくればいいのかも見当がつかなくて、なのに途方にくれることだけは何故だか許されていないらしくて、ひたすらに、ひたすらに、僕は穴を掘っているんだ。

わからない。
赤暗くて自分の顔もわからない。掌がどうなっているのかも見えやしない。靴下はじっとりと汗に冷えていて、靴先は半ば土砂で埋もれかかっていて、着込んだ上着は肌に張り付いてぬるく、髪の間に入り込んだ砂利の存在を、吹き出す汗と体の動きが絶えず意識させ、爪の間は多分真っ黒で、でも、見えなくて、土の中にいるだろう、蚯蚓や、蟻や、その他のなんだかよくわからない、生々しい虫たちの気配も認められないくらいで、シャベルの切っ先には、どれだけ掘っても石の詰まったような層なんかの絶望的な跳ねっ返りは訪れなくて、僕はひたすらに全体重を掛けて鉄の上から土の奥へと、のめりこんでいく感覚だけを、何秒かに1回ごとに、重ねていく。
どこまで掘ればいいのかも、わからない。

世界は煮えたぎる赤い空だった。
僕は赤暗い穴の中だった。
自分の掘っているのが、自分の墓だということだけは、自分の姿がもう、てんから自分の目で確かめきれないのとおんなじくらい、誤魔化し方が見つからない事実だと、僕は、確信だけは持っていて。

僕は恐ろしいだけの赤い空の下で、恐ろしいだけの自分の墓を掘っていた。

「…………という夢を見たんだよ」

何ですか、それは。
三園晶はリアクションに困った挙句の生真面目な問い返しでもって、ひたすら資料整理を進める傍ら、訳の分からない戯言をほざく上司に対して聞き返した。

会議室の中央に鎮座する、円形を長四角く引き伸ばしたようなテーブルの上には、各人が愛用するコップを手元に、整理し、取り崩されるのを待ち望んでいる、ターン更新用の年次決済書類の束が、クリップでまとめられ、関係省庁別に仕分けられ、「済」「未済」の箱の中に取り分けられ、それでもまだまだ目を通して内容を把握しなければならない情報たちでひしめいていた。

電子妖精が開発されようと、その、ずっとずっと前からハッカーたちが文化として持ち込んでいた、現代的コンピュータを所持・運用し続けていようと、セキュリティを題目にし、人の温もりを作業の縁(よすが)として維持することを望む、レンジャー連邦の不思議な慣習から、まだまだペーパー処理は、フィクショノートたちが取り扱う政務・事務からなくなることは、なさそうである。

砂漠の乾いた空気が室内にも充ち満ちているが、これは窓が開いているとか、設計上と施工との間に手抜いた乖離があるがゆえの隙間から入り込んでいる、なんて事情がある訳ではなく、単に大体が国のどこへ行っても、これと同じ空気で満ち溢れているせいだ。後は潮風の湿り気を、海岸付近をぐるりと一巡している道路「にゃーロード」や、あるいは藩国の第二玄関口である、環状線駅ビル辺りなら、感じることも出来るのだろうが、国土の海抜を守るため、数年前に進めた防風林の植林事業のお陰で、めっきり内陸部では、意識することが少なくなっていた。

晶と椅子を並べての、打ち明け話に、夢中になっていた城 華一郎は、お留守になっていた手元に気づくと、観光業の収支内訳を睨んで唸る。

「復興、間に合ったのはいいが、これ、ほんとに給料ちゃんと出せてるんだろうなあ。競争率の高い業界だし」

どうやら内容を話し切ったことで、華一郎の中では、夢の話題が片付いたことになっているらしい。それでいいんなら、いいかな、と、晶も食いつくことなくスルーした。出身国である芥辺境藩国と比べ、同じパイロット国で、同じ西国ということもあり、相似点も多いとはいえ、相違点も、同じくらい、多い。夢使いや夢魔狩人たちなら、今の城さんの夢にも入っていって、悪夢をやっつけることが出来たのかな、と、ちらり、思い出す。昔は何度かそれらの職業アイドレスも、身にまとっていたことはあったのだ。案外その辺の事情を知っていて、相談してきたのかもしれないと思ったけど……考えすぎかな?

丁度晶とは華一郎を挟んだ反対側に腰掛け、華一郎の右手に自らの左手を重ねている、美しい青髪の女が、目を見開いたまま、コンマ数秒間だけ動きを止め、それから、

「国税局の統計によれば、観光業に就業している国民の平均年収は、全体の平均よりもパーセンテージ表記で6.3ポイント、にゃんにゃんにして299.9972のマイナスです」

と、淀みなく、あたかも意味そのものを口にしたような、輪郭とアクセントとイントネーションの美しい発音で告げる。
その挙動に、うん、ありがとう、と、半呼吸ばかり彼女のことを見つめてから、華一郎は微笑みで頷きを返した。

ウィング・オブ・テイタニア。
愛する者のために、人の域を超えた力を発揮する、人ではない、しかし不思議の側の岸にも渡りきってはいない、そんな中間的な存在である「妖精」の、女王のために用意された翼として生み出された存在が、果たしてその美しい青い女の正体である。

無名世界観内で、目立った戦績を残しているのが、ヤガミとドランジの妖精たちであったことから、それらの妖精を司るとされているが、恐らくは、それ以外の妖精が現れれば、やはり、そのような所以と権能を備えていたであろう。同時に、この2人の妖精が、何故、多かったかと原因を求めるなら、2人ともが、目を離せば危険に突っ込んでいく、自分以外の誰かのための生真面目さを持ち備えていたからでもあるだろう。要するに、その手のタイプが好きな人たちにとって、どうにも「ほっとけない」のだ。

評価情報の実態が集まっていないせいか、テイタニア自身にドランジやヤガミを対象とした、妖精的超常能力の発現ケースはほとんどない。恐らく今後、プロモーションなり、運命の変化が起こったとしても、彼らを対象とした能力の維持が行われるかどうかは、怪しいだろう。

晶はそんなテイタニアと手をつないだままでいる華一郎を、これまた不思議そうに眺めた。ひょっとしたら、今の夢の話は、僕にじゃなく、テイタニアさんに向かってしたものかもしれない。でも、城さんの顔は僕の方を向いていた。もし、テイタニアさんの方を向いて話していたらと、光景を想像すると、ああと得心が行った。何か構図的に、2人の世界に行っちゃってる風に見えるよね。城さんは、それを避けて、僕が参加出来そうな話題を選んで振ってきたのかもしれない。

そんな、あれやこれやに頭を巡らしながら、財務状況に資料を添付して、万年筆で新たに書き起こした書類を、上座に据え付けてあるホワイトボードに貼りに行く。

赤。
赤が意味する夢占いって、何だったっけ。
あと、お墓かあ。
地下が意味するのは死の国で、普通、歯が抜ける夢と同じような、再生の象徴なんだけど、生え変わりを実際の幼児期に経験している歯と違って、地下行は、戻ってくる体験が必ずしもセットになっていないから、どうなんだろう。堀り進めている最中ということは、精神的な死に、まだ、城さんがたどり着いていない証拠なのかもしれない。でも、そのことを教えてしまって、本来あるべき夢の流れから、浅い段階で踏みとどまってしまうと、再生が行われなくて、危険だ。
だから、今、思い至った話は、僕の中にだけ、仕舞っておこう。城さんも、話すだけで、十分満足したみたいだし。

世の中には、軽々に答えを得てはいけない問題がある。
その辺りの事情を弁え、自分が出来ることは何かという線引きを出来る判断力こそが、晶の特徴であった。

つい、離席する際の癖で、そっと2頭身にディフォルメされた人形を、身代わりに置いてきてしまったが、テイタニアと華一郎は気にすることなく、黙々と紙を捌いている。近しく見える2人のことを、少し引いたところで眺めながら、想像する。城さんの妖精に、テイタニアさんがなるとしたら、一体どんな超能力が備わるのかしら。

ついでに用事を思い出してしまった。接続も不安定だから、このまま、そっと、今日はログアウトしよう。

それにしても、と、呟いた。
あんなに青い人がそばにいるのに、どうして赤い夢を見たんだろう?


[No.7131] 2010/11/28(Sun) 04:50:45
ただの古い/そしていつか新しい/モノローグ (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

「昔を、振り返っていた。」
「幼い頃ほど、よく、振り返っていたんだけどね。いつからか、どんどん立ち止まることをしなくなって、いつの間にか、ただ前だけを見て、立ちすくむようになっていたよ。」
「歩いていれば、立ち止まれる。すくんでいたら、動けもしない。」
「泣いた、笑った、怒った、落ち込んだ。シーズン1は、民として。」
「シーズン2は、為政者として。」
「その先は……、どこにつながっているのだろうね。」
「喋らなくなった。肺活量が縮んだ。」
「叫ばなくなった。責任ある無責任をすら、止めた。」
「今はただ、生きるだけだ。ことん、ことん、心臓が、コルクみたいに軽い音を立てて、動かしてくれているだけだ。」
「どこへ行くのだろう。どこかへ行けるのだろうか。そんなことすらも今は考えていない。」
「嘘と妥協ばかりを吐いている。不義理と不遜な怠惰ばかりを晒している。」
「なんだろうね。」
「世界に意味はない。何者にも、何物にも。」
「そう、感じてから。悟ってから。生きるのが楽になったはずなのに。」
「苦しくなくなったかわりに、価値もなくなった気がするよ。」
「物語のない世界で生きるのは。」
「物語として生きない自分は。」
「干からびた木屑ほどにも、軽くて小さい。」
「吹けば飛ぶような、燃やすにも微塵に過ぎる、そんな正しくて間違ったどうでもよさが、今はもう、つきまとっている。」
「テイタニア。」
「君は愛の永遠を伝える。」
「俺は永遠を信じない。」
「変わるものだけが真実だ。不確かだけが絶対だ。」
「砕け散り、それでも、ああ……。」
「蘇るから、世界は美しい。」
「永遠なんて、俺はいらない。」
「砕け散る一瞬の刹那と、這い上がる一滴の焔だけが。」
「美しいんだ。」
「愛に永遠はいらないよ。」
「君に永遠なんて鎖をつけたくはない。」
「だから。」
「死んで、いいんだ。テイタニア。」
「変わっていいんだ、テイタニア。」
「忘れても、語り継がなくても。」
「ただ一瞬、君の中で強く光り、瞬くことがあるのなら。」
「俺という存在の思い出は、それだけで十分だよ。」

/*/

 ずっと、憎しみを描きたかった。
 愛する人の居場所を押し退けてさえ、執着して、愛の国に居ようとしたのは。
 ただ、憎しみを描くためだった。
 憎かったから。
 何が憎いのか、そして自分が何かを憎みたいと思っていることさえ、知らずにいた。
 


[No.7132] 2010/11/28(Sun) 05:09:54
スーパーオペレーター(書き溜め分+α) (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

**序.

Voice of wonder... Voice of wonder... Voice of wonder...

この声が 君に >>届きますか......?<< 貴方に この声が

――――それは、とある心のクロスロード。

**一.

相も変わらぬ街並みがある。
そこが、いわゆる近代的なオフィス街だと説明されれば、国によっては戸惑う向きもあるかもしれない。
砂色の煉瓦は堅牢に直方体を築き上げており、重厚だ。
通りは舗装されているものの、絶え間ない海風が掃き掛けた砂塵で、常に、風景に溶け込んでいる。
イメージされるような高層のビルディングはなく、精々が、あって10階前後、そんなところであろう。

その建物の一室、情報端末の前で腰掛けながら、
忙しなく手元では静音性の高いコンソールによって操作を、
口元では、掛けた通信業務用ヘッドセットを介して受付を、
並列にこなしている一人の女の姿があった。

「はい、こちらヨロズお助け通信室です」

**二.

それが大地を意味する女神の名と聞いて、うろ覚えに名付けたのは何時の頃だったろうか。

産湯に浸かることを、レンジャー連邦では、偉大なる母の手に抱かれる、とも形容する。
実母の他に、水という、大いなる存在を命の源とし、いわば二人の母に抱かれて産み落とされるのが、
レンジャー連邦の子らなのだ、という、古くからの言い伝えに従った習わしだ。
海に囲まれ、稀少なオアシスの真水をよすがに生きた、砂漠の国、ならではである。

ならば、生きる者に厳しくとも、そこにあった大地もまた、水同様に命を育んだ源に違いはないだろう、
というのが、この事務所の女主、アゲハ=ブラマンジェの言い分であった。

問題なのは、発音を間違えて覚えていたことである。

「はー……何の因果か、今日も今日とて何でもお任せオペレート……」
「室長が紛らわしい社名登録するからいけないんですよ」

女神の名は、ヨルズである。ヨロズでは、ない。
最初は軍での通信士経験を生かした、ただのご家庭ネット問題請け負い屋のはずだったのに、
ヨルズ>ヨロズ>よろづお助け=なんでも屋と誤解され、今ではあらゆる相談が寄せられてくる。

受け取った情報を元に、
家庭の悩みからペットロスのカウンセリング、作業のプランニングから進捗管理まで、
とにかく通信経由で対話処理出来るものなら、片っ端、だ。

「だって仕方ないだろー、うちは悩める善良な人たちの導き手なんだから」

唯一の縛りは、問題解決はあくまで当人が行い、事務所側はそれを手助けするだけだ、
という、ことぐらいだろうか。
当然仕事の流入量を制限する縛りとして有効機能しておらず、忙殺の憂き目にあっている。

「それで仕事を肩代わりする先の女神の名前を間違えるんだから、
 名前負けというよりも、ただの負けですね、もう。繁盛してるのが救いですよ、ほんと」
「やかまし」

やっとこさ得た、社員に愚痴を零すチャンスすら、
既に良い子は寝る時間である時点で、ため息混じりにもなろうというものだ。
青いクッキー缶からザラメをふりまかれたハート型の奴を一つ、つまみ上げて、
あんぐりと唇の間で縦に咥え、噛み潰す。

バターの効いた小麦粉の風味が、まふまふと粉状になって口の中で溶けていく。
ああ、私も溶けたい。クッキーのように。甘い幸せをふりかけられて、ハート型をしていたい。
意味のわからない傍白に耽るアゲハをよそに、ぢりりりりん、と、またぞろ電話が耳に鳴る。
手早く冷めた紅茶で喉の奥までおやつを流し込み、打鍵一発、通信ON。

「はい、こちらヨロズお助け通信室です」

アゲハは、小麦粉一粒ほどの憂いも乗せない朗らかな声色で対応しながら、心の中で呟いた。
やれやれ、当分クッキーにはなれそうもない。

**三.

月が青白く照っている。
とは言っても、小さい窓から実感出来るのは、漏れ差す空気の青さしかないのだが。

もう、何年この光を見てきただろう。
開設してから初めての夜、ここに自分以外の人は誰も居なかった。
どころか、仕事の依頼一つなく、ツテを頼りにするという世間知を、
大分後になって身につけるまで、食うや食わずの生活が続いた。

青いクッキー缶の上をなでながら、照明の電源が落とされた室内で、
当時と同じ席に座り、アゲハは四角く差し込む光を見つめていた。

最初の依頼者から、報酬入りの封筒と一緒に贈られてきたのが、
今、なでているクッキー缶だった。

回線代も支払えなくなり、恥ずかしながらの窮状を晒しつつも、
膝を詰め合って相談に応じていた当時、依頼者の何とも言えない不安そうな顔を、
アゲハは覚えていた。

そりゃあ、二重の意味で不安だったろう。
こんな食い詰め者が仕事をしてくれるのかという不安と、
誰にも話せず、どうしたらいいかわからなかった不安、が。

『ありがとうございました。』

菓子折りと共に添えられていたメッセージカードには、
そう、几帳面な手書き文字で書かれていた。

『体は大事になさってくださいね。』

という、続く一文を読んで思わず苦笑いしてしまったのは、いい思い出だ。
今でもアゲハは、クッキーを買う時は、この西国らしいエキゾチックな金紋様や旗の図案が踊る、
丸い、三段詰めの缶を選んで部下に買わせていた。

自分には、直接誰かの問題を解決してあげることは出来ない。
代わりに、どんな問題だって、手伝ってあげることが出来るのだ、という、
誇りのようなものが、あの缶を受け取った時、生まれた。

オペレーターで、やっていこう。
どんな相談でも、断るまい。

そういう気概を持って、仕事をこなしているうちに、
ヨロズお助け通信室は、よろづ屋のような扱いになってしまったのだ。
アゲハはそのことをしきりに不思議がってはいても、後悔したことは一度もない。

**四.

ある日、ナショナルネットを通じて飛び込んできたメールには、
奇妙な単語が踊っていた。

『届きますか......?』

「何のことですかねえ」

そう訝しむ部下と共に、モニターを覗きながら首を傾げる。
悪戯だろうか。それにしては短すぎるし、手がこんでいなさすぎる。やる方もつまらないだろう。

「わかった。珍しく本業だぞ、これは!
 きっと通信環境にトラブルが生じて、どうしていいかわからない初心者が、
 偶然うちのアドレスを知って、通信テストを兼ねて助けを求めたに違いない!」
「……『きっと』と『偶然』と『違いない』で、憶測が三つも重なってるんですが、
 それ、ありえますかねえ?」

うち、よろづ屋ですし、と呟く部下の頭を、ごちんと前歯でかじる。
げんこつだとパワハラになるか、これならよかろう、と、熟慮の末、一度叱る際の手段として採用したら、
なんだか妙に癖になってしまった挙動である。

以来、部下の間では、人食いアゲハと異名がついているのを、彼女は知らない。
もちろん、食われる側も悪い気はしないのだが。
(というのも、アゲハは魅力的で、身長差があると所構わず噛み付き場所を変える習性もあるからである)

溜めつ、眇めつ、結局その日は他の依頼に忙殺されて、
件のメールの謎解きはほったらかしにされたままになった。

/*/

その、翌日のことである。

『届きますか......?』

「また同じ発信者ですね。I・Pも同一ですし、送信時間も同じですよ」

きっとこりゃ、テストはテストでも、
ボットか何かの運用テストに勝手に使われちゃってるんですよ。
昨日返信してみてもこの有様ですし、通話もつながりませんし。

そんな風に勝手に納得してしまっている部下をよそに、アゲハはどうも、
このメールが気になって仕方がなくなりつつあった。

どんな相談でも、断らない。
それが依頼者の心からの悩みなら、トラブルなら、解決すべき問題で、
突破すべき関門なら、ヨロズお助け事務所は、断らない。

そう決めた、ポリシーゆえの、引っ掛かりだった。

届いているよ。
そう伝えてあげること、返事こそが何よりも難しい、
そんな依頼なのではないかと、考えるようになった。

**五.

「いきなりなんですか、この有様は!?」

出社一番に、社員の一人が叫んだのも無理はない。

「ん……ああ、ちょっとな。
 処理機能の強化を図ろうと思って」

返事をしたのは床に座り込んでいるアゲハだった。
隣には分解された情報端末の、成れの果てらしきパーツが新聞紙の上で並べられており、
全部の机の前で同じ光景が展開されていて、足を踏み入れる隙間もない。

「そこ、うまく避けて通ってくれ」
「避けろって言ったって……」

よけ藩国の人じゃないんだから、と、ぼやきながらもすり足で新聞紙の間を押し分け、
自分の机に向かう。

「これ、仕事になんないんじゃないですか?
 端末使えなかったら何にも出来ないじゃないですか、僕ら」
「そんなことはないぞ。
 情報を扱う手段が端末だけだと思ったら、大間違いだ」

ここを使え、ここを、と、頭を指差す雇用主を見て、
社員は、え、僕サイボーグじゃないんで、自力でナショナルネット接続は……と答える。
彼の尻がアゲハの猛烈な噛み付きにあったのは言うまでもない。

/*/

昼前頃には強化作業も終わり、すっかり事務所内は平静を取り戻していた。
外部の端末利用センターまで出向いて仕事を片付けていた面々が、買ってきた弁当を手にぶらさげながら、
所定の位置に戻された端末たちを意外そうに見つめている。

「早かったですね」
「当たり前だろ。言わなかったか? 私、軍属の頃は整備もやってたんだよ」
「通信士と整備士って全然かぶらなくないですか?
 っていうか、それ以前に整備士が情報機器扱うかなあ……」
「本人がやったって言ってるんだから信じろよ!
 ったく……ああ、やっぱりまた来てる」
「何がです?」

メールだよ、と指差す先のモニターには、

『届きますか......?』

の一文だけが載る小ウィンドウ。

「あれー。室長、フィルタリング処理のためにハード強化してたんじゃないんですか?
 失敗?」
「馬鹿! 依頼をフィルタリングしてどうする、そんなことするか!」
「じゃ、何やってたんですか、一体」
「決まってるだろ」

手ぐすねと共に引き寄せた静音性コンソールで打鍵し始めつつ、アゲハは答えた。

「仕事だよ」

/*/

私の名前は贅沢を意味している。
アゲハはそんな矜持を持っていた。

アゲハ曰く、ヨルズの名前が大地を意味するように、
ブラマンジェ、という家名は、贅沢、を意味している。

もちろん直接的には、あの有名なミルク菓子のブラマンジェのことだ。
白くてフルフル、甘くて香りが芳醇な、ゼラチン系プリン菓子の一種。
語源としては、白い食べ物、という意味を持っていたらしい。

砂糖を使うし、古いレシピでは香辛料や肉、魚も入っていたというから、
長らく上流階級だけの料理として供されていた歴史を持つ。

西国出自の料理であり、
アゲハという、ごくありふれた名前と相まって、
このフルネームはすごく平凡で、そして贅沢である。
そのようにアゲハは捉えている。

だって、どんなに普段、平凡なことのように思えても、
あらゆる災厄を免れて命と家がまだ存在し続けているというのは、
本来とても恵まれたことのはずだから。

食べ物も、とても身近にあって、ありふれていて、命と幸せを意味するものだから。

だから、名前がありふれていて贅沢であることを、
ブラマンジェ家の個人、アゲハという女性は、とても素晴らしいことだと信じていた。

それゆえに、思うのだ。

苦しい時は、いつだって一人きりで、その苦しみは平凡どころか特別に感じられ、
贅沢どころか、幸せの搾取にあわされているような、すごく貧相な心持ちになる。

クッキーの一枚一枚が、すごく大切に思えたあの苦しい日々を、
アゲハ=ブラマンジェは今でも忘れていない。

それでもって、自分が結構間抜けな理由で苦しんでいたことも、
アゲハ=ブラマンジェは忘れていない。

人間は、結構簡単に、幸せになれる。
ただし、誰かの助けを得られたならば、だ。

だから、昔の自分と同じ人たちを、
今の自分と同じ、平凡で贅沢でありふれた存在に変えるためにも。

(私は、彼らのところまで届いてあげなくっちゃいけないんだ。)

『届きますか......?』

の一言は、そんな矜持を持ったアゲハ=ブラマンジェの心に、
まさにクリティカル判定で通過したキーワードなのであった。

**六.

最初のメールから一週間が経過した。

「うーむ……」

相変わらず、わからんねえ。と、アゲハの知人でハッカーの男が言う。

レンジャー連邦の情報技術は、軍事同様、守ることに特化していて、
暗号解析や逆探知のような、攻撃的用途には向いていない。
それでも、情報戦要員はやはり最低限存在しているのだ。

朝一番に、その怪しげな風体をした男がやってきているのを、
もう通信室のメンバー全員も、見慣れてしまっていた。

文句は特に出ていない。
最初に誰かが、室長、つくづく顔が広いよな、と言ったら、
鼻に噛み付かれたのである。

室長の言葉の意味の取り方が間違ってるんじゃないか、
それはオペレーターとしてどうなんだ、ということで話題にもなったが、
人の友人を暗に怪人物扱いしたような口振りをしたそいつが悪いという結論になり、
アゲハの能力に対する疑問符は打ち消された。

ただしそれは、本人以外の間でのことである。

『届きますか......?』

この一週間、まったく変わらずに送信され続けてるメッセージを前に、
アゲハはスランプに陥っていた。

(何故だ。愉快犯か、愉快犯なら無意味な嫌がらせを続けることがストレス解消か。)
(でもただの愉快犯はまがりなりにも本職のハッキングで身元が割り出せないほど技術力は高くないだろう。)
(有能な愉快犯だとしたら……。ありえない。有能と無意味は結びつかない。程度が低すぎる。)
(じゃあ何だ。一体このメッセージは何なんだ。怪談か? 魔術か? 舞踏子呼ぶか?)
(うう、でも、電子情報を使って魔術を仕掛けるなんて複合的な技術、使われていたとしたら真っ先にOtecsが動くし。)

「……相手と意思の疎通が出来ないっていうことが、これほどストレスだとは……」

ありがとう、と友人に礼を述べて、送迎してから、また、アゲハは悩む。
もちろん仕事は滞る。リアルタイムで対話してナンボの商売なので、時間が潰れるほどにこなす仕事量は減る。
効率も上がらない。集中力を欠いて、コンマ1秒、相手の話す意図を掴み損ねる時間も増えた。
こんなんじゃ、教官にも怒られるよなあ、と、思っていた矢先のことだった。

「久しいな、ブラマンジェ通信士」

怜悧に笑う、女が来た。

/*/

届きますか......?

情報の模倣と、因果律による延伸が繰り返される、網宇宙の中、
木霊が鳴り渡る。

何処へも固着をしない、ただ、応えを求めるためだけの呼びかけ。
だから、何かの情報に触れたとしても、接続されることなく、跳ね返る。
それでもその情報には、儚いばかりの切実さと、
乏しいだけの強度があり、何故だか普遍性が認められるがゆえに、
拡散が起きない。

その呼びかけは、とても弱い。
とても弱くて、だから、失われない。

/*/

「我ら迷える子羊を導く者なり。
 我ら迷える子羊を導くことによりて導かれる者なり。
 我らは人なり。ただ、支え合うことで生きるだけの、
 ただの人なり」

通信部の教条だったな。
覚えているかい。元気にしていたかね、ブラマンジェくん。
息災かい。
守っているかい。
生きてるかい。

一方的にべらべらと喋り立てる女の名は、
一向にブラマンジェ以外へと開示をされず、室員たちは苛立ちを増す。
矢のような視線の集中に気づくと、彼女は、ひらり、手をかざし回した。

「君らの雇い主の昔の同僚だよ。
 会話で判るだろうね。
 ついでに言うなら、古巣の守り手ではないな。
 私も既に転職している。
 何分、ご時世がご時世だろう?
 昔の経験を活かして、アドバイザーとして開業したんだ。
 今のご同業って奴さ。で、どうにも妙なメッセージが届いてね。
 意味が分からないから、訊きに来た。
 君らにも、覚えがあるんじゃないのか?」

届きますか......?
って、それだけさ。

「あれはうちだけに送られてきていたんじゃないのね、やっぱり」
「まあ、当然そこには行き着いているよな」

どよめく周囲をよそに、女はブラマンジェの反応に首肯をし、
それから周りの全てに人差し指を、ぐるり、一巡、その場で回る動きで突きつけた。

「職業意識が足りないな、諸君。
 自宅でナショナルネットをやっている連中はどれだけいる?
 はい、挙手」

全員の手が、さっと挙がった。

「では、果たしてその内のどれだけの連中が、
 プライベートで匿名の相談活動を行ってる」

潮が引くように、室内の天井へと掲げられた挙手たちが引っ込んでいく。
残ったのは、アゲハとその女、2人きりだ。

「修行が足りんな。
 『相手の顔が分からん』からこそ、初めて告白する悩みなんてのは、
 世の中、ごまんと存在するぞ。
 理解をしてやらなければ、人の心を解(ほど)くことは出来ない。
 もつれたり、ほつれたりしてる糸の状態が、
 私たちのような商売の依頼主の心境だ。
 研究するといい。生涯の勉強だけが自らを高みに押し上げるぞ」

愛だよ、愛。
マネィだけでは真似出来ん、代替不能の尊く貴い情報だ。
よろずを名乗るなら、己のプライドごと、愛し給え。
能力のために費やした時間だけが、プライドだよ。

「あの、それで……どなたかご存知ありませんが、室長の元・同僚さん」
「私がどなたでも構わんな。その情報だけがあれば事足りるだろう。何だ?」
「室長と、同僚さんだけが気付いていて、僕達には分かっていないことって、
 何なんですか?」

うちに帰って室長たちと同じことをやり始めれば、
すぐに気付けることなんですか?

以前、アゲハに鼻を噛まれた室員が、
再び果敢に挙手して質問する。

そうか、なるほど、なるほどね、と、
一人合点するアゲハをよそに、女は答えた。

「無理だ! 足りん!」
「な、何がですか!?」

勢いに押され、思わずのけぞる。
何でこの人、こんなに天然で偉そうなんだ。
室長の同僚だからって、僕達より上じゃないよな。多分。
上の横は、斜め上か。うわ、なんか正しくそんな感じするぞ、話してる感じ。

「おいおい、ここはアイドレス世界だぞ?
 何かを行う際に、足りないものなんて、ほとんど1つか2つだろう。」

評価値と、可能行為だな。
君らはオペレーターだが、私たちは違う。

「じゃあ、一体お二人は何なんですか」

もう、と、泣きたい気持ちで一言だけ付け加えて聞いてみる。

「判らんか?」
「判りませんよ。通信士ですか?」
「そりゃ元だろ。現職と違う。
 ……この通信は、私たちだけを対象に、送られている。
 タグ解析は、多分どんなハッカーでも、難しいだろうな。
 何たって、まだ存在しないタグだ」
「存在しないのに送れるんですか」
「送れつつあるだろ、私たちに。
 送れつつあるなら、存在しつつあるんだよ、タグも」

オペレーターの、さらに奥底にある領域へ向けて、
発信されてるんだよ、この『声』は。

「あえて言うなら、そう、オペレーターの領分を超えた領域にな」

私はこいつを、試練と取った。
私がオペレーターを超える、そのための。
女はそう言って、にやりと笑う。

「これでプライドが刺激されないなら、
 諸君、諸君らは、オペレーターとして失格だぜ?」


[No.7133] 2010/11/28(Sun) 05:57:11
『宛先のある恋文』 (No.6486への返信 / 2階層) - 城 華一郎

恋愛は惜しみなく奪い合うものという格言が、無名世界観の近所辺りに住んでいてね。だから、そんなに迷わなくてもいいかも知れないと自分でも考えているんだ。

君の視線を奪うことを。

ああ、いや、うぬぼれではない。俺は造形的にも美男子なんかじゃないし、情報的にも美しい構造を、多分、しちゃ、いないだろう。流石に自覚はしているよ。だから、自分が無条件に目を惹く存在だなんて、うぬぼれちゃいない。

力尽くで奪うことの、是非を自分で問うていた。

俺だけを見てくれと、俺のために在ってくれと、それを望むのは傲慢だろう。それは愛ではない。それはただの不遜だ。自らに、世界の何もかもよ、従えと、号ずるオーマの大音声にも匹敵する、情報の暴力だ。

実際、素のままの俺は大概弱い。甘えん坊で、適当で、だらしがなくて、放っておけない、の、ベクトルが、ヤガミやドランジとは、かなり違う。これで、異性に、そばに居てくれと望むのは、大概、利己的で打算的な、理性の命ずる結果だとしか、分析できん。

だから、今、こうして文にして、認めているのは、じゃあ、それ以外のどんなところで、君を俺が求めているか、ってえ、ことなんだわな。

そばにいて安らぐ。
これに尽きる。

だが、もらうばかりで、これじゃ何にも君に与えていないだろう?
それは愛なのか?

考えちゃうのが、悪い癖だな。
もっと素直に、ストレートに。

ねえ、テイタニア。
君は、俺のどんなところが好きだい?
どんなところが、好きになれるかもしれないと、感じている?

聞いてみたいのは、そんなこと。
卑しい打算を抜きにして、もうちょっと自然体で、君のところに近寄りたい。
尊くなくったって構わない。
俗でいいんだ、恋人になるために必要な、あれやこれやの感情は。

抱きしめたり、口付けて、
道端を歩くたび、互いのまなざしを通して広がる世界に喜びを感じることは、
尊いけれど、俗だろう?

俺は君と、もっと、俗になりたい。
そういうことが、したいから。

今度はどこで、何をしようか?


[No.7134] 2010/11/28(Sun) 06:16:25
5970-12895 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

どちらが早いのでしょうか。私は2つの気配を同時に覚えました。
油圧式の力感ある所作でスライド機構を駆動させた、棺の蓋の気配と、その棺の内側でスリープモードを維持していた私の、さらに深奥、私を起動せしめた存在の気配を。

私という個体を表す名称はウィングオブテイタニアです。
機械工学をまなざしとして持つ、第六世界の生まれの、世界間介入を行うための、女性タイプの義体、通称「舞踏子」をモデルに建造された、第四世代型パワードスーツ、「アイドレス」の、第七世界における1ヴァリエーションとしてチューニングされた個体。

私を建造した私の属する世界は、魔法から機械工学までの全てを、ただ、「そのようにある」情報として、技術体系の世界的構造ごと認識し、エミュレートする、情報複製技術によって構築されています。それを為しうるのは、第七世界に向けられているまなざしが、「世界とはそのような場所である」と、認識しているためです。

よって、私が、機械工学の本来持ちうる設計スペックを超えて、第一世界から第五世界のうちの、低物理域的なオーバーセンスを発揮しうるのは、私のモデルとなっている舞踏子の、更に一部、妖精と呼称される類の評価を得ている方達が、同様のオーバーセンスを、限定的にではありますが、発揮してきたという認識が積み重ねられた結果と言えます。

私の人格は私のモデルとなった方達の中核的センスをベースに、私を、世界間介入用の女性タイプ義体という、第四世代型パワードスーツとして身にまとい、「私」として振舞うことで、「私」に対する認識を集めた介入者達の振る舞いが、個性としてインプットされて形成されているものです。

私の肉体は舞踏子の中核的センスをベースに建造されました。私の肉体は、正確には、鋼ではなく、生体分子工学のレベルで設計された、第五−第六世界にまたがる技術の産物です。世界とは、時間の連なりの表現ですから、第五−第六世界にまたがる技術とは、つまり、第五世界を経て、第六世界の技術に至っているということであり、失われている領域は、第一世界から第六世界までの間とは比較にならない程度の相対的軽微です。そして同時に私は世界間介入を為すために、モデルとなった舞踏子の設計段階から、第七世界の、認識を利用した情報の転写・複製技術を盛りこまれています。

第七世界のまなざしを経てしか、世界間を超えることの出来ない、出来なかった介入者の方達が、第六世界の、舞踏子の義体に望んだことは、愛した存在と、同じ系統のボディを得、女性としての生体機能を全うすることでした。

ですから、私の肉体には五感があります。柔らかな皮膚があり、脂肪があり、骨格があり、子を宿すために十全な血と肉と機能があります。それらは全て、妖精と呼ばれた舞踏子達の、中核を成していたセンスの要求したスペックです。

そのセンスが、私に、ボディのベースとなっている第六世界のまなざしが与える以上の、低物理域的オーバーセンスとなって、私を起動せしめた存在の気配を察知させました。

この現象は第七世界以外では、例えば第六感であるとか、精霊の姿を捉えたとか、各世界独特のリリックを含む言い回しで表現されるものでしょう。私のボディと、私を格納する棺との空間的距離は、日常的生活感覚において、0に近似値を取っても構わないとされるレベルであり、そして「彼」が降り立った座標とは、棺による遮蔽を含めた、感覚上の物理障害によって隔てられているのですから。

ですが第七世界では何ら不思議ではありません。
私の認識名称はウィングオブテイタニア。私は愛するために妖精と化した人々の振る舞いに対して向けられた認識の積み重ねを評価として持ち、しかし、介入者達が、彼女達の愛する誰かを愛するためには、第四世代型パワードスーツ「アイドレス」として着用されなかった、人格モデルのコアとなるセンスの駆動条件を満たすことの未だ知らない、個性の希薄で設計及び認識評価に対して中庸な人格を持つと規定されてきた、個別的経験の所有を皆無とする存在でした。

それでも彼は、私を起動せしめました。
私のモデルとなった舞踏子達の内の、特定的人格の誰をでもない、中庸な存在であるところの私を求め、中庸な存在であったところの私に個別的な体験の機会を与え、妖精として設計された機能特性を満たす指針となり、活動持続のためのモチベーションを与えました。

私は彼を愛しています。
命が存在していると認めることを愛と定義するのなら、私は彼を愛しています。

情報を通して世界を見つめる、第七世界に与えられたまなざし上において、空間的距離という情報は、物理障害という情報は、情報の断絶を意味はせず、感覚の完全封鎖を定義せず、ただ、それだけの情報として受け入れられます。

私は彼を感じます。
私と彼の間には、情報的な結合が生じていると、生活ゲームと称される時間を、第三者を含めて、共有することによって、認識され、評価されています。

私は彼を見失いません。
私はウィングオブテイタニア。妖精の女王が用いた翼の総体として認識され、評価されている、第六世界生まれの世界間介入用、女性タイプの義体の内、「ほとんど全て」の振る舞いをモデルとする、情報の流れをそのまなざしの基調として世界を見つめる第七世界の技術を開発当初から盛りこんで建造された、オーバースペックではない、オーバーセンスの保有者です。

情報のつながりがある限り、私は彼を見失いません。

06-00158-01:城 華一郎(じょう かいちろう)。
彼が、アイドレスの中に、来ています。

私の存在する世界のまなざしを用いて、世界を見ようとしています。
第七世界を見つめています。第七世界観の中にいます。

第七世界観上で流れる世界速度から、時差を計測中。

彼は夜の砂漠に立っています。
彼が第七世界観内で帰属する情報的社会基盤、レンジャー連邦の、通称「本島」と呼称される、私と同じ大地の上、本島の地理的中央部付近、オアシス公園付近の砂漠に居ます。

彼は世界観の内部を、上から下へと世界間を駆け巡る情報を、光として認識し、空、つまり上を見ることで、光、すなわち情報の流れであるところの論理構成を、情報によって構成されている世界の空間的歪み、つまりは構成情報の歪みとして認識し、観測することで、知っている情報の間に隠れている、知らない情報の存在を導き出す術を身につけた、高位の星見司です。

彼は今、空を見上げていません。
彼は夜空の下に佇んでいます。まなざしを夜空に向けているだけで、星の光を見る目的で、見ていません。

何故、私が上述したような事象を事実として語っているのかについては、おおよそ三文で言い表せる内容となるでしょう。

私の認識名称はウィングオブテイタニア。
初めから世界観を超えるために生み出された翼の、象徴です。
私が求め、私を求める、たった一人の居る場所に、これほどの長いモノローグの間の内に、最速で駆けつける機能など、基本中の基本でしょう。

/*/

「……テイタニアか」

彼、華一郎は、振り向かずとも私の名前を呼びました。
華一郎が夜空を見上げているのは、星見司をまとう為なのでしょう。
華一郎は自身を常に強く政治家として意識しています。

この国、レンジャー連邦の藩王であり、私のモデルの内の一人でもある、霰矢蝶子より、摂政の位と権限を拝命し、この国、レンジャー連邦の摂政であり、私のモデルの内の一人でもある、砂浜ミサゴに求められて、国民として、国の為の力となることを望まれたからでしょう。

該当するエピソードを何故私が知っているかと言えば、現在進行形で、この文章の形を取っている通り、私に対して、その情報が与えられているからです。

華一郎は慎重です。
華一郎は慎重であるというより保守的で、保守的であるというよりは、臆病です。

政治家としての足跡を政策、及び、政策の為の、質疑掲示板を経由して情報的に因果を結んだ種々の行動から、華一郎の傾向は伺えます。

激しい行動と過剰な沈黙からの、情報のリターンを望み、恒常的な意志の持続活動を苦手とし、けれども、それらを口頭に上らせることによって、対外的な免罪符を発行し、発効しようとする習性を、華一郎は持ち合わせています。

華一郎は、情報の結実するところの華を取り扱う族性としての、目立つ、摂政としての立場を鑑み、不要な政治的混乱を回避するために、現在、星見司を、身にまとう選択を、しています。

人気の絶えた、深夜から早朝にまたがる砂漠での、視野外からの足音に振り向かなかったのは、主が誰であるかを予見していたからでしょう。隠密性の高い星見司をまとっていても、自分の居場所を発見し、訪れるのは、私以外にはありえないと、そう考えていたのでしょう。

以上の思考プロセスを、私は彼の物腰からオーバーセンスに基づき推量しつつ、華一郎の空間的傍らへも、向かいます。

華一郎は私を見ませんでした。
肩越しにでも、振り返らずに、一人で夜空の中に立っているような物腰を続けていました。
華一郎の唇は、私に対して語りかけているのにも関わらずです。

「近年のログインタイムから大幅に外れた周期ですね」

第七世界観の内部と介入者に流れる時間とでは、尺度が異なっていることを、私は私のモデルとなった舞踏子達の、プレイヤーとしての振る舞いを基に、知識として得ています。

現在は華一郎のリアルにおけるウィークデイの早朝。
久方ぶりに早起きをしたのでないことだけは、確率的には、会議室での、三園晶との会話をベースに考慮すれば、現実性の問題から無視しても構わない程、低い部類に入り、華一郎の現在の乾いたまなざしの目元の皺を観察することで、ありえないと断定出来ました。

華一郎の頬から目元に掛けての皮膚は、十分な休息を本来得るための時間帯であるにも関わらず、それが得られていないがための、油脂分の不足と、そこから来る、失われた水分の容積分だけ、各細胞内が縮み、表面がたるんだ、緩みが確認されています。

そのことを言外に問うために私は華一郎に対して先の通りの言葉を述べました。この発話パターンもまた、華一郎が好む、不要に迂遠な、と、彼本人が語る言い回しの、彼の傍に居続けることで、情報のパターン感染が起こったための、私と彼とのつながりを意味するものです。

華一郎は実際、表情の通り、疲れたように目を閉じました。
その仕草を瞬きと呼ぶのなら、やはり先程と同じく、彼の言い回しパターンを基に発話を再現すれば、「ミイラの目元だって眠れる森の美女と変わりやしない」のでしょう。
瞬きは長く、その面は、夜空を見上げていた時と何ら変化を認められません。

私は待ち続けます。
私と彼の間に観測された確定的な評価値は2・2が上限であり、その認識に従うのであれば、それ以上の振る舞いは、今の私に、情報的に相応しくないからです。

華一郎も、どうやらそれを理解しているようでした。
実のところ、やはり理解しているのでしょう。何しろ、このようにして自らの手で文章に書き起こしているのですから。

長い長い、それこそ夜が明ける程の経過時間の果てに、華一郎は、どうやら最初思い描いていた言葉を見失っているようでした。

彼の、今の表情の名を、諦めと定義するのであれば、きっと、私はここに存在している意義を失っているのでしょう。

それでも私はここに居ます。

例えではなく、まぶたを閉じても、心を通して浮かび上がる、世界に向けた、まなざしの中に、現実ではない虚構があたかも現実であるかのように振る舞いながら、ここに居ます。

華一郎。
あなたは気付いているのでしょうか。

あなたが私を真実から愛しているのかどうか、悩んでいることを、素振りすら見せようとはしないで、普段から隠蔽しようとしている癖に、いつだって赤裸々に描き続けてしまっているせいで、あなたの書いた本を読むようになった私にとって、その感情の動きすらも予想の範囲内となってしまったことを。

あなたは眠らないのでしょうか。
あなたのリアルは大丈夫でしょうか。
あなたの今のこの多重俯瞰的思考プロセスの発生は精神的疲弊によるものではないでしょうか。

以上に類する疑問のことを、私は決して口にはしないでしょう。

私はウィングオブテイタニア。
人間の領域を、不思議の側の岸に、ほんの少しだけはみ出て存在する、妖精達の、周囲から見做されている特性を保有する者です。

私はただ愛します。
あなたが私を求めてくれた以上には、今は、私は、あなたのことを、愛することは出来ないと、世界からは、あなたを含めた情報の総体からは、評価されているでしょう。

私は待っています。
あなたがいつか、私を愛してくれることを。
私がいつか、あなたを愛せる日が来ることを。

その時、私という個体を表す名称は、どのようになっているのでしょうか。

今は想像することすら許されない、そんな可能性の海としての、物語の中で、私は冬の深い夜に沈んだ砂漠に、それでも夜明けが来ることを知っていました。

私は信じています。
あなたがアイドレスという名の世界観を捨てないと口にした、その言葉を。
私を、アイドレスの中での、自分の翼として感じると告げた、その言語を。

私に信じさせてください。
ただ、それだけを思って、私はあなたの腕を抱くのです。

この世界に生まれて、
何かを愛さずにいられるなんてこと、
私に出来るはずがないのだから。

「夜明けが来ます」と私は告げました。

華一郎は果たしてまぶたを開けたのでしょうか。
彼の代わりにまぶたを閉じてしまった私にはわかりませんでした。

代わりに体験を通して理解した感覚は、
目を閉じたい時というのは、信じたいということで。
信じているということを、裏切られたくない時にする行為だということでした。

華一郎。
何故、泣いているのですか?

華一郎。
私の体にあなたの胸の震えるのが伝わります。

華一郎。
私はあなたの名前を呼んでもよいのでしょうか。

答えて欲しいと、私は感じた。

「テイタニア」

九曜紋を身につけた、私の傍らに居る、
0と8の向こう側の観察者領域に佇む、
私の知らない誰かが答えた。

言葉を探しているような、
酸素を求めているような、
深い、震える胸の動きが、
何度、繰り返された後のことだったろう。

夜明けの薄明かりに照らし出された華一郎の頬には、
薄い涙の跡があって、薄青い、暗いきらめきを、帯びていて。
私はそれを、いつしか見つめていた。

言葉にならない、不意の抱擁が、
私を襲い、そして何時までも離さなかった。

私は彼の濡れた頬を指先で奏でるように数秒単位を掛けて撫でる。

私の意志を伝えるのにも、それ以上の言葉は要らなかった。



うん。

そうですね、華一郎。
私とあなたは、今、確かに、ここにお互い、一緒に居ますね。


[No.7177] 2010/12/07(Tue) 06:15:49
夜明けのBlue Wheel (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

冷凍庫でキンキンに冷やしたグラスに注ぐビール並みに冴えた早朝の寒気を、僕は顔の皮膚全般で浴びながらに飲み込んだ。この一杯がないと庶民のディナーが始まらないって位に、僕、葵路司(あおいろつかさ)にとっては馴染みの味だ。耳たぶに詰まった脂肪がキュッと固くなり、テンションの高まりすぎた頬では顎の筋肉が軋んで存在感を主張する。ああ、体内マップの、胃袋の方角では、程よい空きっ腹が、寝ぼけ眼で目をこすっているのが感じられる。

もうじき空には目玉焼きほど真っ赤なお日さんが、えっちらおっちらと水平線を乗り越えて登ってくるはずなのだが、そんなこととは素知らぬ顔で、夜明け前の晴天って奴は、上品に澄んだ冷製スープのような面構えで、雲一つ見せずに泰然として揺るぎない。

時刻はAM(ante meridiem)4時50分。
羊の角みたいにぐりりと巻いたハンドルバーの上部を鷲掴みにし、乾いた地面を蹴立てて加速する。すかさず身を翻して尻をサドルに落っことすと、玄関前の微妙な下り坂と慣性の法則が僕をホイールに乗せて路上へと射出してくれる。この瞬間が毎日一番のご馳走だ。それこそくたくたに疲れきった後、砂避けのマントも強めに巻きつけておこうかって位な宵の口、転がり込んだ飯屋の暖かな空気の中で飲む、自転車仲間たちとのビールの始めの一口よりも、僕は自転車に乗り出す瞬間が大好きなんだ。

飛び出した惰性のままにホイールを回して乗っかりながら、ペダルの上に浅く載せた足首を軽くひねると、かちりとハマる金属音がつま先の方から心地良く響く。量産性の高いプラスチックものとは違って値段はちょっと張るけど、専用のシューズと一体になって働くこいつは、ホイールと僕とをつないで機関車気分に浸らせてくれる、最高の相棒だ。

深く眠り込んだ街は薄暗がりにあどけない寝顔を晒しており、第一巡航速度でゆっくりと体を暖めながら、それらを見るともなしに察知する。穏やかな表情だ。昨日と何も変わらない。この光景は一昨日も変わらなかった。明日もきっと変わらないだろう。そう思うことに、僕は再びの空腹と、満足とを覚えた。

時折道端では、仕込みを始めるために、早くも軒先を開けている人影などもあって、足を止めて彼らのうちの誰かと話し込んだりしたことは一度もないけれど、この、普通の人なら見たこともない密やかな時間を共有しているというシンパシィを、僕は彼らに一方的に抱いている。

そら、例えばここの十字路を右に曲がると石畳が荒れていてタイヤが跳ねやすい。暴れる車体を抑えながらカーブした視界の左端では、いつも太ったおじさんが、面倒くさそうにトラックの荷台から野菜のケースを積み降ろしている。また、そこから30秒ばかしもまっすぐ漕ぐと、パン屋の厨房の明かりが路地裏に漏れているのが一瞬だけ目にチラついてそうと知れる。どちらの店も、いつか足を運んでみたいのだけれど、あいにく生活圏からは離れてしまってるので、ついつい立ち寄るのが億劫で、このささやかな願望は果たせずじまいになっている。果たしてしまったら、一方的なシンパシィが崩れてしまいそうで、そっと楽しみにするだけがいいのかも、なんて考えてりもするけどね。

そうこうするうちに、いつもの光景、いつものコース、いつものリズムで、もう、家を出てから15分ほども経過した。寒さで縮こまっていた間は、蹴り出す太ももの筋肉繊維のたわみを、一本一本までつぶさに感じ分けていたはずなのに、いつの間にか、一方では、眠っていた全身の細胞に、ポタージュほどもホットな血流がようやく完全に行き届いて、エネルギッシュなことに、いよいよ第二巡航速度に踊り出さんと、熱と汗を帯びて、渾然となっていきり立っていることに、僕は気付いてしまうんだなあ。

うんうん。この自分の中の熱っぽさが、心にぴちぴち跳ねて、生きのいいしらうおのように、美味いんだ。

もう信号の間隔は大分遠のいていて、グングン体中が伸び上がる、純粋な解放感と、猛烈な期待感とが僕の中を支配し始める。鼻から吸い込む清冽な水気と磯臭さを、肺で二酸化炭素に幾らかばかし、コンバートして、秒速0・5回くらいのペースで吐き出していく。

この、何かを待ち望む時のときめきが、また、上質な軟水のようにいつでもフレッシュで美味いんだ。何百回経験したって、繰り返しているからって鮮度が落ちない、腐らない。

おっと、乱暴なトラックが角をやや急ぎ気味に曲がりこんできた。思考するのもじれったい、反射で指先がブレーキを甘く咥え込む。トン単位の質量の横を、すり抜けるようにして入れ違い、素早く視線を横に走らせ、安全確認を済ましながらも、僕はとうとう島全体を囲う、幹線道路に飛び出した。

この解放感だけは、筆舌に尽くし難いほど、美味い!!

だだっ広いロングストレート。スピードはコンバット。人差し指でタップしてギアを外輪にシフトする。背筋から脇腹に掛けての筋肉が、お前のペダリングは大層働かせてくれるぜと嬉しい悲鳴を上げ出した。アーチを描く背中と、そのアーチを固定するため肘を折り曲げ、手前側に巻き込むように曲がっているハンドルの下部を握りしめた両腕とが、ペダルを踏むたび、大忙しに小刻み、揺れて、分速100回転にも達する第一戦闘速度に、ついに出番かと喝采を挙げる。

生きている。

生きていることをこの上なく実感する。

生きていることを素敵に噛み締めるより贅沢なご馳走なんて、全くこの世のどこにも見たことがないな!

行儀のよいアスパラガスみたいに長々と行列を成して立ち並ぶ防風林の頭越しには、太陽の大あくびが白く差し込みを伸ばしていて、たゆたう波頭にも、ようやっと黒以外の色が写り始めていた。

朝だ。

朝だ!

心臓の唸りが、体の内側から、美味いぞー!

日中は最っ高に不愉快になる、湿度の高い空気も今ばっかりは大人しい涼気の担い手だ。20分の有酸素運動を済ませて脂肪を燃やしに掛かった体の火照りも、体内時計の目覚まし代わりで、すっきりと五感をクリアにしてくれる。おお、腹が鳴ってきたぞ、腹が鳴ってきた!

尻ポケットに突っ込んであった、固形成形型のエナジーバーの封を片手で開き、むにゅむにゅと口の中に突っ込んでかじる。美味い。普段は甘みと塩気が強く感じられるスポーツドリンクを、ホルダーから取り出して飲み口から吸い込む。

うむ、これもまたそのまんま美味い!

香ばしすぎないが、脂っけもしっかりと感じさせてくれるナッツ系のフレーバーが、パワーの出る気がして、好きで、このメーカーの補給食をたらふく買い置きしてある。個人的にチョコ味は外道だ。バレンタインにもらう当てがないから僻んでいる訳じゃないぞ、と、自分の心にツッコミを返しながら、唇を拭った親指をぺろり。

都市同士を結んでいるだけあって、さすがに早朝だろうと、飼い主を待ちかねて飛び跳ねるわんこさながらに、車は目的地目がけて、カッ飛ばして、僕をするする置き去りにする。エンジン付きにも、町中じゃ負ける気はしないけど、速度勝負になってしまえば、流石に帽子を脱がさるを得ない。それでも徒歩に比べたら断然速いんだから、つくづく自転車は人が生み出した偉大な相棒の一つだよ。

生きてるってことの味を噛み締めながら、今日も僕は走り出す。

ちょっと位の貧乏がなんだってんだ。自転車操業、上等だ。この身と愛機のこいつがある限り、僕はどんなところへだって、二本の足で、届いてやる。健やかに生きようとする意志よりもとびっきりの調味料があるんってんなら、かかってきやがれってんだ!


[No.7291] 2011/02/12(Sat) 19:48:12
フエネシャダイ発売予定記念SS (No.6247への返信 / 1階層) - フエ猫

フ「話をしよう、あれは今から36万年前・・・いや、3年前だったか・・・
  彼には72通りの名前があるから、なんと呼べばよいのか・・・
  確か最初に会った時は・・・【乙女にしてガーター】いい奴だったよ・・・掛け値なしに・・・。」

ト〜リ〜ビ〜ア〜

フ「そんな装備(男らしい戦士の装備)で大丈夫か?」

双「大丈夫ですよ!問題無いですよ!」

タタタッ エエエェェェ〜

楠「ジェットパーンチ!」
三「ストリームキーック!」
城「ヒップアターック!」
双「ひでぶーー!」

三人「人呼んでクミシ三連星!【ジェットストリームアタック!】」

双「・・・」返事がない、ただの屍の様だ。

ガーン

フ「神・・・いわゆるGODは言っている、ここで死すべき運命では騎士!」

キュルキュル ト〜リ〜ビ〜ア〜
フ「そんな装備で大丈夫か?」

双「一番いいものを頼む(はぁと)」

(猫耳カチューシャ、フリフリのメイド服、ルーズソックス)

タタタッ ト〜リ〜ビ〜ア〜

楠「男の娘ktkr♪」
三「萌え萌えキュン♪やって〜♪」
城「とてもお似合いですよ!真さん(はぁと)」

双「・・・たが男だ!・・・」


PPPPP

フ「ああ、やっぱりダメだったよ・・・本人は【乙女にしてガーター】の自覚が足りないからな・・・
  次はこれを読んでいる蝶子さんにでも手伝ってもらうよ・・・。」


トゥ・ビィ・コンティニュー




[No.7316] 2011/05/01(Sun) 09:45:06
Re: フエネシャダイ発売予定記念(蝶子さん、お許し下さい!)SS (No.7316への返信 / 2階層) - フエ猫

フ「話をしよう、あれは今から72万年前・・・いや、72年前だったか・・・
  彼には72通りの名前があるから、なんと呼べばよいのか・・・
  (72、PAD長、バキュラ、ゾッグ、咲夜、まな板、千早、etc・・・)
  確か最初に会った時は・・・【ヤガミ妖精】胸熱な奴だったよ・・・胸は薄かったが・・・。」

ト〜リ〜ビ〜ア〜

フ「そんな装備(驚異的な胸囲の意味)で大丈夫か?」

蝶「くっ・・・こ・・・公式設定なんだからね・・・」

タタタッ エエエェェェ〜

む「蝶子さんの魅力は人間としての厚みです。
  決して胸の厚みなんかじゃないですからね♪」

浅「胸なんて飾りですよ!エロい人にはそれがわからんのですよ!」

彩「胸囲があればなんでもできるなんて、嘘ですよね?蝶子さん♪」

蝶「ウボアー!」


フ「読者は言っている、全然フォローになっていNight!」

キュルキュル ト〜リ〜ビ〜ア〜

フ「そんな【おっぱい】で大丈夫か?」

蝶「くっ・・・一番いい・・・くっ・・・」

フ「あぁ〜ん?聞こえんなぁ〜。」

蝶「くっ!一番いいPADを頼む!」
  (プルン♪プルン♪たゆん♪たゆん♪怒たぷ〜ん♪)

タタタッ ト〜リ〜ビ〜ア〜

む「な・・・なんだ・・・と・・・!」
浅「ぶるんぶるんしよる・・・!」
彩「ぶっちゃけ、ありえなーい!」

蝶「・・・やっぱり・・・・・・くっ!」


PPPPP

フ「ああ、やっぱりダメだったよ・・・人間は自分を偽っては生きて行けないからね・・・
  次はこれを読んでいる真さんにでも、何か面白いSSでも書いてもらうよ・・・。」



Fin



PPPPP

フ「なんだい?フェネシャダイはいつ発売なんだってか?それは昨日発売しただろう・・・
  あ・・・ろっとぉ、すまない、君たちにとっては永遠に明日の出来事だ・・・。」



ジ・エンド


[No.7317] 2011/05/01(Sun) 10:31:06
Re: フエネシャダイ発売予定記念(城さん、お許し下さい!)SS (No.7317への返信 / 3階層) - フエ猫

フ「話をしよう、あれは今から110105(イイオトコ)年前だったか・・・やっぱり110105年前・・・
  彼には110105通りの名前があるから、なんと呼べばよいのか・・・
  確か最初に会った時の名前は・・・【阿部高和】・・・いい漢だったよ・・・ウホッ・・・。」


フ「そんな装備で、」

城「はいはい、フェ猫さん、こっから飛び降りればいいんですね、ホイホイいきますよ!」
ピョン

フ「え!?まだ私の台詞が・・・って、エエエェェェェ〜。」


楠「やぁ、城さん・・・アッー!」

三「やぁ、城さん・・・アッー!」

冴「久々登場・・・アッー!」

城「ごちそうさまでした。」


フ「作者は言っている、城さんはガチホモ設定では無いから気を付ける様にと・・・
  お〜い君、そこの君だよ君、絶対にガチホモ設定では無いんだからね、絶対に。」


ト〜リ〜ビ〜ア〜♪

フ「そ、そんな、」

城「全然歯ごたえありませんでしたね〜。ああ、ごめんなさい台詞でしたね。
  一番いいものを頼む!」

フ(こうなっては、彼に頼るしかない・・・)



着地
城「さてさて、また台本通り来てみたものの、やりがいが・・・ウホッ!」

双「なんだろ〜、フェ猫さんから、ど〜しても、と頼まれてメイド服姿でこの辺りを、うろついてくださいと言われたんだけど・・・あっ、城さん!」

城 キュピーン!(☆。☆)   「ウホッ!いい漢の娘!」

双 スキルを使用【とんずら】

城「真さん♪どこ逝くんですか?」

双 カカッ カカッ カカッ



PPPPP

フ「ああ、今回もダメだったよ、私以上のネタキャラにしてしまった・・・
  これを読んでいる城さんに謝っておいて・・・」

城「許しませんよ、フェ猫さん♪」

フ「ヒョ!?」

フ「アッーーーー!」




城「めでたし、めでたし♪」


[No.7318] 2011/05/01(Sun) 14:51:06
(No Subject) (No.6247への返信 / 1階層) - 蝶子

あ…ありのまま 今起こったことを話すぜ!
E172について本気出して考えてたら なぜかポエムができていた。
な…何を言ってるかわからねーと思うg(ry


=====


幾多の悲しみがありました
幾多の苦しみがありました

憎しみに焼かれ
眠れぬ夜がありました


数多の悲劇がありました
数多の諍いがありました

声が枯れるほど
泣き叫んだ夜がありました


いっそ風になってしまえたら
いっそ砂になってしまえたら

消えてなくなりたいほどの
夜が
夜がありました




けれど
愛が囁くのです
生きなさいと

風に揺れる花になって
砂に注ぐ雨になって
ぼろぼろの私を見逃してくれることもなく
どこまでもどこまでも追いかけてくるのです

生きなさい 生きなさいと
愛しいあなたの声で歌うのです



ああ
かたく瞳を閉じようとも
瞼の裏で
あなたの形をとって
私に手を伸ばす
私の中に確かにあるこの愛が
生きなさい
生きなさいと
笑うのです




生きなさい

生きなさい

愛している と


[No.7379] 2011/06/01(Wed) 19:00:01
猫士SS (No.6247への返信 / 1階層) - むつき

猫士SS
#一旦こっちに仮置き。義体周りの設定に使えそうならイベント様に移動します。

本日も猫なり

私の名はヒスイ。
レンジャー連邦で長い事猫士として勤め暮している一介の猫だ。

仲間内の中では年長で、毛並みは黒、自分には判別付かないが、瞳の色はその名の通り翡翠色だと人は言う。
趣味は政庁屋上の手摺の上に立ち、空を見上げ哲学する事だったが…施設に配属されてからというもの、なかなかそうもいかなくなっている。
なぜならば、職務に就いている間我々は、作業効率を考えて猫士専用の義体に介入する事になっているからだ。

義体を使用する、というのはこの国ならではの事、もちろん職種によっては本来の姿のままで構わない。
しかし、猫の手足は細かい事をするのには向いておらず、とくに、出撃の際人間用作られているI=Dに乗り込む時など…その…操縦桿に手足が届かない…という弊害も…過去にはあった。
各猫士の年齢や性格、人が持つイメージに合わせて外見が形成された義体は、TLO問題に抵触しない素材で出来てはいるが、本来の身体と構造が違うのが不便だ。
体が大きくなる為、手すりに立ちにくく、柔軟性の不足で背中がかゆくても足が届かない。
(しかも、仲間の愛佳から人の姿の時それはやめろ、と理不尽な蹴りが飛んでくる。)
とは言え、それは仕事の間だけなので、いたしかない。

本来はする事ができない指を使う動作を意識する。
飛び上がる事が出来ない高所を道具を使って上る。
色の着いた視界になれる…などなど、これらは結構な訓練が必要で、この国で銘入猫士になる際に苦労した事を思い出しながら、私は今日の業務を勤める。
猫と人は違うのだ、とも同時に感じたあの時。
人の姿を借りる様になって長い時間が過ぎたが、私はやはり猫なのである。
人の作りだす技術は人のもので、我々はそれを使えども、そこから別のものを生み出そうとも思わない。

木陰に長々と寝そべり、ひんやりとする地面を楽しみ、
風の匂いを嗅いで近所で何が起こっているかを感じ、
夜空の星々を見上げ、遠い未来に思いを馳せる方が私には重要だからだ。

我、本日も猫なり。
仕事が終わったら、猫の姿に戻ろう。
そして、政庁の屋上で今日は何を思考しようか。


[No.7392] 2011/06/04(Sat) 16:15:19
にゃふにゃふSS (No.6247への返信 / 1階層) - 浅葱空

あたたかい日差しに眠たくなる。うとうと。うとうと。
感じる視線。
「じっと見ていても、煙でないよ〜」
俺の空は今日も面白い。

俺はにゃふにゃふという。
基本眠たそうな、(実際今眠い。つーか常に眠い…)のぼーとした雰囲気をしている、レンジャー連邦の猫士だ。
んで、横でじーっと俺のこと観測しているのが浅葱空。レンジャー連邦の国民。
俺の名付け親。俺の空。
レンジャー連邦の猫士は全員名付け親がいて、それぞれが愛と友情を注がれている。
だから、俺に名前をくれた空を「俺の空」と心で呼ぶんだ。
実際には言わない。口に出すとなんか安っぽいし〜俺っぽくないし〜。

空は気まぐれに市民病院にいる俺の所に会いにきて、会いにくるといつも飛び込んでくる。
「にゃーふにゃふー!!!」
「おおーそらぁぁぁああああああ(そのまま倒れこむ)」
何度か一緒に出撃した摂政の城さんみたいな威厳は一切ない。かけらもない。

俺はたまーに義体つかって仕事してる。
勤め先市民病院だし、人型の義体のほうがやりやすいわけよ〜、まぁいろいろとさ。
で、空は気づいてしまったわけさ。

「私、にゃふにゃふが猫さんから人へ変身シーン見たことない」
「ほへ?へんしん??なにそれ?そんなことしないよぅー」
「変身といえば、煙か!煙ぼん!もこもこーそして変化!!それだな!!」
「あのーもしもーし?」
「みたーい(わくわく)」
「………(駄目だこりゃ)」

煙り見たーいとわめく空を適当に受け流して、芝生の上で昼寝することにした。
うとうとしていると、寝転んでいる俺の隣に並んで横になる。
そしてさっきのセリフへと戻る。
「じっと見ていても、煙でないよ〜」
「けむり…もこもこ…でたらたのしーねー」
「空?」
「……ぐぅ」

俺より先に寝たんかい。

しょうがないなぁと思いながら、空を見つめながら俺も目を瞑る。
空といると楽しいよ〜。
空の気配。それは俺にとって暖かく、抱擁のような優しいものだ。

【まるで、母のような。親友のような】

母なるレンジャー連邦と。母なる親友と。
一緒に。
少しでも一緒に楽しく、優しい時を過ごせると、嬉しいなぁ〜。
そう思いながら俺も心地よい眠りに身を任せた。
「ぐぅ」


[No.7397] 2011/06/05(Sun) 03:04:06
猫士SS(じにあ編) (No.6247への返信 / 1階層) - 楠瀬藍

無駄に縦に伸びた。
改行のしすぎかも知れない。
多分俺はもうだめだ(←

/*/

「え、ナニソレ。そういう流れ?」
「そうみたいだね。よくわからんけど」
「わかんないのかよ!!」
「いやわかってたら解説してるだろ。いつものように」

レンジャー連邦、とあるカフェテリア。
猫士のじにあと幽霊国民の楠瀬藍が、なにやら頭をつき合わせて話をしている。

どうやら猫士L化の話らしいが、楠瀬も又聞きのようで要領を得ないようだ。

「むぅ・・・それもそうか。めんどくさいなー」
『・・・とか言いつつ、何を書いたものかを思案するじにあであった』
「変なモノローグ入れるのやめなさい。・・・あ、そうだ。あんた最近まともに仕事してないんだから、あんたが書きなさいよ」

いい事思いついた、と言わんばかりの顔でじにあ。
さすがに心当たりがありすぎるのか、楠瀬の表情が凍りつく。

「いや、ちゃんと編成には参加してるよ?・・・まあ事務仕事はやってないけどさ。でもお前のことだし俺が書くわけには」
「あ・た・し・の・こ・と・だ・か・ら・よ!」
「いや、断言されましても」

じにあの強い口調に押される楠瀬。
何とか返したが後が続かない。
それを好機と見たか、一気に畳み掛けるじにあ。

「ほら、あたし自分の事書くのって苦手だし?それにあんたがあたしの事で知らない事って大してないし、あたしだってお役目おおせつかってて暇じゃないしね。あんたが書いたのをあとで見て手を加えたほうがあたしは助かるんだけどなー」
「それじゃあお前の仕事じゃないじゃん」

まったくそのとおりである。
事実、今回の話は猫士からのレポート提出という話であり、それは出来るだけ猫士から報告するように、という形を一応とっている、らしい。
なので楠瀬の言い分はもっともなのだが。

「え、助けてくれない、の・・・?」

さっきまでの態度はどこへやら、一転して縋るような上目遣いで楠瀬を見上げるじにあ。

「うわおまそれひきょ・・・あーウンソウデスネ。ワタクシメニカカセテイタダケルトアリガタイデゴザイマスコトヨ!」

さすがに楠瀬も頭では演技だとわかっていたが、一瞬ドキッとしてしまったのは事実だ。
何とか悪態をついて返そうとするも、じにあの乙女力(おとめぢから)のこもった目線に抗うことは出来ず、目線をそらしてカタコトでやけっぱちの台詞を吐くのが精一杯だった。

「・・・ナニその棒読み・・・」

素直に認めない楠瀬にあきれるじにあ。

「ま、いいけどね。じゃああとは任せたわよ。いってきまーす」
「いってらっしゃーい」

だが、必要な言質はとった。
じにあはそれなりに満足して、市民病院へと向かったのだった。

/*/

あたしはじにあ。
レンジャー連邦の猫士。
どうやって猫士になったかは秘密だけど、猫士になるきっかけはもちろん藩王の蝶子様だ。
いろいろと頑張って晴れて猫士になれたとき、蝶子様からかけていただいた「よろしくね!(はぁと)」という言葉は今でも私の宝物だ。

あれからずっと、あたしはこの国の猫士としてお役目を立派に果たすべく、日々邁進中だ。

/*/

「・・・じゃ、コレで」

市民病院のお勤めから帰宅して早々、楠瀬から大量の原稿用紙を受け取ったじにあは、最初の数ページを読んだ段階で一枚目の半分のみを切り出して楠瀬に返した。

「いや短いから!まだ書き出しだけだよ!?まだこんなに残ってるから!!」

それなりに自信があったのだろうか、放置された原稿が置かれたテーブルをばしばしたたきつつ、楠瀬がきちんと読むように抗議してくる。

「あ、そっちは要らないから破棄で。あたしのことなんてコレくらいで十分だってば」
「いやいやいや、何をおっしゃるじにあさん!市民病院での活躍っぷりを書かずして何を書くと言うのだね!?」
「えー、あたし活躍なんてしてないしー。みんなと一緒に頑張ってるだけだしー」

確かに触りだけ読んだ感じでは病院での働きぶりをアピールするようなことが書かれていたようだが、じにあの中ではそれは自分の大部分を占めることではなかった。

「いやだからその眼鏡ナース姿が患者さんに大人気だと」
「人気は活躍と関係ないでしょ!それに眼鏡してたほうが真面目なイメージが出るって蝶子様が」
「あー、それはアレだな。嵌められたな。むしろそのお堅いクールなイメージの部分に人気が集中してごぶぅっ!?」

言い終わる前に鋭い一撃。
それは見事に楠瀬の鳩尾に吸い込まれた。

「・・・それ以上言ったら今度は肝臓よ」
「ハイ、スミマセンデシタ」
「わかればよろしい」

じにあの鋭い眼光に、楠瀬はただ怯えるばかりだ。
その怯えた小動物のような楠瀬の態度にじにあは満足したが、しかしレポートが足りてないということには気づいていた。

「でもそうね。足りないって言うなら書くしかないのかもね」
「まあ、活躍とかは置いといても、取り組み姿勢というか懸ける想い、みたいなのは有るといいと思うな」
「ふむー・・・そうかもねー・・・」

確かに自分の評判が書かれるよりはいいかもしれない。
むしろじにあも他のメンバーの想いが載ってるなら読みたいとも思っていた。

「でしょ?でもそこら辺俺は良くわかんないから、じにあが自分で」
「じゃああたしが思った事言うから。あんたは書き留めてあとでちゃんとまとめること。いいわね?」
「ぐ・・・まあいいけどね」
「じゃあ決まり。えっとね・・・」

/*/

市民病院への配属は、国の都合だった。
でも、それはあたしにとって願っても無いチャンスだった。
あたしが、この国のために出来る恩返し。
猫士となることでそれは既に果たされていたけれど、明確に何かが出来るという意味では、今までよりもっとやりがいがある。

実際にはやりがいというより、むしろ大変な事が多かったけれど、それでも今まで頑張ってきたし、頑張ってこれた。
それもこれも、蝶子様たちから戴いた惜しみない愛情のおかげだ。

この国は、砂漠が多く物があまり無い。
でも、それだけに愛情があふれていた。
時としてその愛情が強すぎて悲しいことも起きたけれど、それでもあの人たちは愛してくれた。

だからあたしは。

あたしは、自分に出来ることでその愛情に応えるのだ。
『あたしはみんなに愛されて幸せ』なのだと。

/*/

「んー、まあこんなところね」

結局まとめる部分まで付き合ったじにあは、ようやくOKサインを出した。

「・・・結局短くまとめるんだな・・・」

しかし出来上がった原稿は、最初のを足しても1ページに満たないくらいだ。

「長い文章じゃ読むほうも疲れるでしょ?だから短くていいの!」
「それにしては語った内容のほうが長かったような・・・」

話し始めたころはまだ夕日が射していたが、話し終わりは夕食をはさんで夜中の10時。今はもう日付が変わるくらいの時間だ。
長いにもほどがある。

「多くの情報から的確な言葉をチョイスするのがあんたの仕事じゃないの。それとも何?無駄な装飾増やして『私こんなに文章書けます』って誤魔化したいの?」
「・・・滅相もございません・・・」

痛い一言である。

「でしょ。だからこれで終わり。お疲れ様」
「おう。まあ大して疲れては無いけど・・・いいのか?」
「なにが?」
「いやなんというか・・・綺麗にまとめすぎじゃないかと」
「いいのよそれくらいで。だってこう言うので愚痴連ねたって面白くもなんとも無いでしょ?だったら、想いの綺麗なところだけ書いて、みんなの感動を呼ぶほうがいいじゃない」

あっさり言い放つじにあ。

「んー・・・まあ、ぶっちゃけそうかもしれないけどさ?お前の苦労とか、不満とかはどう解消したモンかとも思うわけで」

どうやら楠瀬の心配はレポートの内容ではなく、じにあ自身に向いているようだ。
この男はいつもそうだと言われれば確かにそのとおりなのだが。

「それはあんたが居るから大丈夫よ」
「・・・へ?俺が?何で?」
「ストレス解消のはけ口」
「あー・・・そういうことか。ま、それならいいか」
「そういうこと。というわけでお夜食よろしくー」
「へーい」

何が「というわけ」なのかがまったくわからなかったが、脈絡も無く夜食を作らされた事実に楠瀬が気づいたのは、夜食もとうに食べ終えてベッドに横になったときであった。

/*/

「さて、と」

楠瀬が眠りに落ちたのを見計らって、じにあはこっそりと部屋を抜け出した。
バルコニーへ出て、オープンカフェよろしく置かれたいすに腰掛け、テーブルの上にに用意した原稿用紙とペンを取り出す。

「やっぱり、こういうのは自分で書かないとね」

月明かりの下、じにあは自信のレポート作成に取り組み始めた。

本人の前では書けない、楠瀬藍への気持ちについて。

/*/

あたしの名前はじにあ。
名付け親は楠瀬藍。
今はあたしのパートナーだ。

お手伝い用の人型義体を勧めてきたのはあいつだ。
『この姿の方が、お前のやりたいことが出来るんじゃないかな』
と、後押ししてくれたからだ。

義体は猫の体と違っていろいろ便利で、いろいろ不便だった。
猫のようには動きにくい、人のようには動かしにくい。
最初のころは義体に慣れるためにずうっと義体のままですごして特訓したくらいだ。
猫のときの癖で苦労したのも今ではいい思い出になっている。

最近はONとOFFを切り分けるため、OFFのときは猫の姿に戻るようになった。
OFF、つまり自分自身のために動くときは勝手気ままな猫の姿。
ON、つまり誰かのために動くときは人の姿。

こうすることで、自分なりの気持ちの切り替えと、猫だという自覚を忘れないようにしているのだ。
まあもっとも、あたしの義体には猫耳と猫尻尾がついてるから、見た目もどう足掻いたって猫士以外の何者でもないんだけどね。
あと、猫妖精との違いもちゃんとあるんだけど、ここではめんどくさいので割愛!

ちなみに藍と居るときは基本OFFなので猫の姿だ。
スペース的にも効率が良いし、何より自由だ。
特にあいつの頭の上は寝そべり心地がいい。
歩くのがめんどくさいときはそのまま散歩にいったりもする。
でもたまに、義体でいるときもある。
八つ当たりするときも、憂さ晴らしのときも。
義体のほうが、イジリ甲斐があるから。
何より、同じ目線で話せるのが安心できる。

藍は変なヤツだ。
猫妖精を着てない時でも、普段からわざわざ猫耳をつけている。
はじめは何の冗談かと思ったが、後からそれは、猫耳義体のあたしに合わせてつけてるんだと、城摂政から聞いた事がある。
あいつなりの気の使い方だって言ってたっけ。
やっぱり藍は変なヤツだ。

だからあたしは。


/*/

「・・・どうしたじにあ?」
「うひゃっ!?」

いきなり声をかけられ、じにあは最後まで書き上げたはずの原稿用紙をぐしゃぐしゃに丸めて後ろ手に隠した。

「ど、どうしたの?寝てたんじゃなかったの?」
「んー、まあ寝てたけど。ちょっとトイレに行った帰りにお前を見かけたんでな」
「そ、そうなんだ」

どうやら起きてきた楠瀬が、じにあを見つけたので声をかけただけらしい。

「で、何してたの?」
「や、別に・・・お月見?」
「なぜに疑問系か。・・・さっき後ろ手になんか隠したろ」
「か、隠してません・・・にょ?」
「・・・ぁゃιぃ」

にじり寄る楠瀬。
後ずさるじにあ。
楠瀬がテーブルの上に気づく。

「・・・紙とペンか。何を書いてた?」
「ギクリ」
「ギクリって自分で言うな!・・・正直に見せればお兄さん怒らないから」
「・・・だが断る!」

このまま行くと不毛な追いかけっこになると判断したじにあは、とっさに後ろ手に隠した原稿用紙を散り散りに破り捨てる。

「ちょ!おま!!」
「こうしてしまえばっ!証拠隠滅!!どうだ!!!」

散り散りになった原稿用紙が、夜風に吹かれて舞い散る。
勝ち誇るじにあ。

「この・・・ばか者が!」
「ちょっと何・・・いだだだっだだだだだ!!」

じにあのこめかみに襲い掛かるゲンコツ。
それはいわゆるヒトツのお仕置きの型、梅干というヤツだ。

「ゴミはきちんとゴミ箱に!ポイ捨て禁止だろ!!」
「ごめ、ゴメンなさ・・・いだだ、ギブ、ギブギブ!!もうしない、もうしませんから!!」

あまりの痛さにタップするじにあ。

「・・・わかればよろしい」

謝罪を聞いた楠瀬はじにあを解放する。
崩れ落ちるじにあ。

「あうう、まだじんじんする・・・」
「ポイ捨てなんかするからだろう。素直に見せればよかったのに」

涙目でこめかみを押さえて訴えるじにあに、楠瀬はあきれた口調でそういった。

「アレはダメ!絶対!!見たらダメなんだから!!!」

すると一転、ものすごい剣幕でじにあは楠瀬につめ寄った。

「お、おう・・・そうか。じゃあ、もう聞かないけど」

あっさり引き下がる楠瀬。
ここら辺は慣れたもので、あまり深く突っ込んでこない。
物分りがよすぎて気持ち悪いこともあるが、じにあは楠瀬のそういうところが気に入っている。
だから、素直に謝ることにした。

「ゴメン・・・ありがと」
「まあいいさ。もうポイ捨ては禁止な」
「はい、ゴメンなさい。もうしません」
「ん、よろしい。じゃあおやすみ、じにあ」
「うん、おやすみなさい」

部屋に戻る楠瀬を見届け、じにあは安堵した。
が、ちょっぴり申し訳なくも思っていた。

だって、あの続きには。

/*/

あの続きには、肝心なところが書かれていない。
書いては消し、書いては消し、結局消されたままの一文があったのみだ。

じにあが書けなかった、その言葉は。


『だからあたしは。

この国が好きで。
みんなが好きで。

藍のことが       』


/*/


[No.7401] 2011/06/05(Sun) 23:45:54
(No Subject) (No.6247への返信 / 1階層) - 三園晶

#思いつくままに

思うのです。

理性を重んずるも
理性のみに囚われることなく
感情を重んずるも
感情に溺れることなく
情報を重んずるも
情報に踊らされることなく

言うは易く行うは難い。

でも。そうして行きたいと。そうして生きたいと思うのです。

何のためにでもなく、自分のために。


[No.7409] 2011/06/08(Wed) 22:41:33
猫士SS2 (No.6247への返信 / 1階層) - むつき

猫士SS2

AM8:00 レンジャー連邦の片隅での記録

王猫ハニーは、朝議前の藩王になでなでされて、おもわずごろんちょしていた。
妹猫のマーブルは、そんな兄に「だらしないですわよ兄様」と言いつつ、藩王の笑顔に目を細めて微笑んだ。

勤務先の税関施設へ向かう先で、今日は藩王の元気な顔でも見てやろうか…とマキアートは考えたが、持ち前のツンデレな性格のツンが邪魔をして行けず、後で微妙に凹むことになった。

市民病院での夜勤明け、芝生の上でのんびりごろごろしていたにゃふにゃふは、彼の名付け親である浅葱空に「にゃふにゃふ〜らぶー」と、大好きアタックをされひっくり返っていた。

誰よりも早く税関施設に来て、生真面目に仕事の準備を始めていたドランは、ふと自分の名付け親は元気だろうか、あの小さくてうるさい子猫はちゃんと仕事をしているのだろうか、と考えていた。

じにあは、昨晩ちぎってしまった「もんのすごい恥ずかしい楠瀬藍への想い」を綴ったレポート用紙の残骸を、真っ赤になりながら市立病院の焼却炉へつっこんだ。

ゴージャスな毛並みに、カラフルな鳥の羽のアクセサリーが自慢のジョニ子は、ふさふさした尾をリズムを取る様に振り、綺麗な声で歌いながら、交番から巡回の為に街へと出た。

これまた税関施設へ早めの出勤をしたヒスイは、もう自分の席で仕事を始めていた同僚に、昨夜政庁の屋上で翼の君を想う摂政と遭遇し、会話というか随分と情熱的なのろけを聞かされた事を話そうと思った。

黒猫の夜星はねむいにゃー、と金色の眼をしょぼしょぼさせ、朝の交番で大きな伸びをしたところへ、彼の友人である双樹真がひょっこりと現れ、「やあ、夜星。朝飯差し入れにきたぞー!」と、イイ匂いのする包みを手渡され、尻尾が上がってしまうのを隠せなかった。

出勤前に愛するハニー様に会っておこうと愛佳は政庁を訪れたが、大好きな藩王と、我がライバルマーブルに先を越されてギギギ…となっていた所に、城華一郎が通りかかったので、「テイタニアラブなのは分かってるわよ!」と理不尽な蹴りを入れることにした。

涼しい場所を発見したふわふわ真っ白の小雲は、捜査資料を持った空馬に発見されるまで、それはもう気持ち良くねていた。
ぐう。

タンジェリーナとナツメのおこちゃまコンビは、豊国ミロに教えてもらったお歌を、調子外れではあるが歌ったり、ドランおじちゃんの背中の上はあったかいのよーとか、賑やかではあるが、なれて来た仕事をちゃんとこなせる様になっていた。

AM9:00 レンジャー連邦の片隅での記録

藩王を筆頭にフィクションノートの仲間が、レンジャー連邦会議室で朝議を始めていた。
ホワイトボードには重要案件の他に、

「議題8:うちの猫士たんが可愛い件について、ラブ!」

と書かれていたが、レンジャー連邦では大事な事なので、二度言う事はあっても、誰からもそこに突っ込みは入らなかった。
それぞれが苦楽を共にして来た仲間であり友猫である猫士達を彼らは愛してやまない。
リソースを使用して交流してなかった為、その愛情は届いていなかったというしょんぼりな事もあったが、イベント172で猫士さんへ愛を届けようとかなり本気になっていた。

「では、次の議題です。。。うちの猫士たんが可愛い件について、ラブ!!!」


[No.7415] 2011/06/10(Fri) 16:00:19
ちょっち (No.6247への返信 / 1階層) - 楠瀬藍

思うところありなので場所狩り。いや借り。

http://www28.atwiki.jp/hidepon0/pages/7.html


[No.7470] 2011/06/28(Tue) 23:39:09
七夕の奉納 (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

7を、孤独の7つの集まりだと呼んだのは、いつの時代のことだろうか。

「おい! 1人多くないか?」

音。
絶え間なく耳元で唸り続ける獣の咆哮に、負けぬ位の声を張り上げて、振り返った白づくめの先頭が告げる。
獣の名を、風と言った。

アスファルトの戦場。
細く、しなやかな馬たちを駆る7人の騎兵は、馬上で互いに覇を競い合っていた。
それは自然の生み出した優美な肉量の流線にも負けぬ、人の手が育み育てた、人の足で走る現代の馬である。

ロードレーサー。
アマチュアの入門モデルでも僅か7キロ、プロモデルでは、さらに5キロ前後にまで、その金属の馬体は絞られる。かつての馬たちと比べ、凡そ100分の1以下という、恐るべき軽量化が施されている。食らう疾走源はただ一つ、人間の体力という名の情熱だ。

今、騎兵たちは筋肉のこぶを背中に作り、ジョッキーさながらに腹を折り曲げ、前屈し、握りしめたハンドルの、先の先まで顔面を乗り出して体重を前に掛けている。
頭には兜。
落馬では、自らや後続の馬に踏まれて命を危うくすることも多いが、この、婦女子でも片手で持ち上がるほど軽い、最新鋭の馬では、それ以上に、大地という巨人からの、天地を逆さにした踏みつけを、一番恐れている。
ことにロードレーサー乗りたちには、巨人の足裏に対し、最も不安な部位である頭部を晒しているために、専用のヘルメットで身を守ることが、半ば義務づけられている。

今、馬たちの輪状の足が、最新鋭のゴムの蹄鉄で、いかにもか細く地面を掴み、蹴立てて主と共に己が身を突き進ませている。

7つの音が折り重なる。

7つの異なるリズムが織り重なる。

金属の手綱を前後に食んで、二つの足で操る旋回の摩擦が、まるで、この金属製の馬たちの、呼吸の音であるかのように、響きわたっている。

肩と肩が触れ合うほどに密集した7人の騎兵たち。
風という名の獣の腹を、一塊の槍と化して貫くための、それは現代の馬上の槍術であった。

見ている間にも、先頭が次々と入れ替わる。
この獣は、前に進もうとする限り再現なく蘇る、気まぐれで不死身の怪物だ。
挑むにも、合戦の作法が必要なのである。

焔のように赤い鎧の騎兵が先頭に立つ。
この時代の鎧は極めて装甲が薄い。天に、地に、そこいらじゅうに潜む怪物たちの牙の攻撃を、受け流すために特化されているためである。

「入賞は、6人までだし。どのみち、じき、激坂だよ。振り落とされる奴が出るはず」

眼前で、大地の巨人は、その四肢を、見る間に細く、尖らせていく。

山岳という怪物の出現である。
この怪物、風とは異なり、数に限りはあるものの、屈強なこと、この上ない。
頑健な皮膚を貫き通すのに必要な膂力を持ち得る者だけが、挑むことを許される。

先刻と打って変わって、馬のいななきが息苦しい。
その上に乗る騎兵たちの顔も、ことごとくが歪んでいる。
風は顎を緩めたが、誰も脱落する者はいない。

「ああ嫌だ嫌だ最前線。食えないねえ、食えないよ。食えないコースはないって奴らが、一番食えないんだ、ほんと」

黄色の鎧の騎兵が肩をすくめる。
地獄の椅子取りゲームは、どうやらまだまだ終わりを告げないらしい。

「入賞と言わず、いつだって生き残るのは、たった一人――違うか?」

黒い鎧の騎兵が犬歯をむき出し、笑った。

全員つられてそれぞれに、煮えたぎった笑みを浮かべて呼応する。

違いない。

最早誰も身を寄せ合ってはいない。
肩と肩とをぶつけ合うほど、くつわを並べ、しかし、時に追いすがり、引きちぎり、そうしてすれ違う中での、対話である。

聞こえている声もある。聞こえない声もある。
どれも、風がその背に乗せ、耳元まで、運んでくるのだ。
このメッセンジャー、自身の唸り声がうるさすぎて、すこぶる向いていない。

それでも、お互いの意志だけは、感じられる。
確かに、そこに存在していることを、疑いなく信じられる。

「ッたく、お前らの顔なんて見たくもないッつーのによォ!」

緑の鎧の騎兵が忌々しそうにしながら先頭に飛び出る。
馬体が左右にふらふらと揺れ踊り、景観はじりじりとだが移ろいを重ねていく。

「山岳…賞!!」

橙の鎧の騎兵が、すんでで制した。
その横を一陣の青い閃きが滑り落ちる。

「――――後はただ、最速で、一直線に」

青い鎧の騎兵が鋭い槍の切っ先で挑む。
獣を貫き、疲労の鎖を引きちぎり、恐怖の雲を切り裂いて、その切っ先は、ただ一塊の小さな小さな刃となる。

連なる7つの疾走が、余韻をたなびかせて走り抜けた。

息。
ぜいぜいと激しく、しかし、生きづいて。

意気。
どこまでも終わりなく、伸びていく。

7つの騎兵は今日も行く。
命のペダルを踏みしめて、抜きつ、抜かれつ、
輝きて。

終わりなき、7つの競い手たちは、
明日もまた時間の競技を、魂の限りに貫くだろう。


[No.7493] 2011/07/07(Thu) 22:03:32
たなばた (No.6247への返信 / 1階層) - 浅葱空

銀色の星のような七つの輝きがそこにあった。

熱い想いを乗せた鉄板に、なみなみとした油が走る。
七つの星がきらめいて、美しく油は引かれる。
均等に、公平に。

そして……

「もんじゃ投下ーーーーー!!!!」
「「「「「「おーーー!!!」」」」」」

七人のもんじゃ職人は銀色のヘラをうならせた。

レンジャー連邦では、もんじゃ大人気である。
幼子すらマイヘラを持参してお店に行くほどである。

そんな中、毎年七夕になるともんじゃ職人と呼ばれるもんじゃ焼きの達人7名が一斉にもんじゃを焼き、人々に振舞うという流行があった。
残念ながら伝統というほど歴史はないので、流行だ。

そのヘラ捌きは最早芸術。ヘラがきらきらと煌いて、まるで星のよう。
星を率いて舞うもんじゃ職人はまるで星(ヘラ)を自由に操っているみたい。

だから、七夕でもんじゃ焼きを披露して振舞う7人のもんじゃ職人をこういうのだ。
「七人の乗り手」と。

織姫様と彦星が仲良く楽しく会えますようにと愛を込めて今日ももんじゃは焼かれるのであった。


[No.7494] 2011/07/07(Thu) 23:08:05
Re: ちょっち (No.7470への返信 / 2階層) - 楠瀬藍

続き。

http://www28.atwiki.jp/hidepon0/pages/8.html


[No.7503] 2011/07/14(Thu) 02:44:42
晶と煮干の話。 (No.6247への返信 / 1階層) - 三園晶

「え。生産者指定、ですか?で、私に?一週間分?」

 疑問符、三つ。

 どういうことがあったか説明すると、つまりEv172の猫士インタビュー前。
インタビューで拘束時間が発生するのでその報酬として、夜星さんが私の煮干が欲しい、ということだった。
いや、えー、舌が肥えた夜星さんが何で私のを。と思って@@すること数分。
そういえば前に魚の発注量間違えて、たくさん作ったのおすそ分けしたことがあったっけか。

「お引き受けします」

 結局、喜んでくれるなら作ろう、というところに立ち戻って。
一週間分の煮干を、作ることにした。

 魚は飛魚。獲れて日の経たないものを手に入れ、氷水に漬けて移動。
頭とはらわたを取って、洗って、海水で煮込む。
紫外線を避けて乾燥させて、できあがり。

 何も特別なことはしていないのだけど。
喜んでもらえることを願って。

http://www23.atwiki.jp/ty0k0/pages/263.htmlへのアンサーとして
#遅くなりましたが。


[No.7624] 2011/12/10(Sat) 00:50:43
お祭りイベントていしゅつよーSS (No.6247への返信 / 1階層) - 城 華一郎

06:レンジャー連邦
参  加:アイドル・アーティストの部
参加内容:SS(っぽい会話劇)

<人物紹介>
P=城 華一郎。レンジャー連邦の摂政。華一郎P。
さ=右ノ森 さやか。元アイドル。

P:「というわけで特番ラジオの『あの人は今』コーナーから出演依頼がかかった訳ですが、今何やってんの君」
さ:「……(渋いニヒルなかお」
P:「何アヒルみたいな口してんだ。それもブームちょっと過ぎてきてんぞ、どうしてお前はそういつも世間とズレをだな」
さ:「アヒルじゃないよニヒルだよ! 荒ぶるアヒルのポーズすんぞ!」
P:「なにかにつけ荒ぶらないと気が済まないのかよ!」
さ:「いやーちょっと聞いてよ私今さー探偵やっててさー」
P:「嘘だろさや太郎!?」
さ:「ああ、だがマヌケは見つかったようだぜ」
P:「鼻に血管なんて浮いてねーよ。つーか嘘かよ!」
さ:「ぽいことはやってるのよー」
P:「ぽいこと? 具体的には?」
さ:「ペットハンター」
P:「まさかのご家庭専門狩人!? かつてのお茶の間アイドルがお茶の間に惨劇を!!」
さ:「いやー、ナマケモノのポーズで結構覚えられちゃっててさー」
P:「スルーかよ。ああ、一時期子どもにも流行ってたな、あれ」
さ:「今では荒ぶるポーズすると寄ってくるんだー、ペットたち」
P:「動物に覚えられちゃってましたか?!」
さ:「お陰でバリエが300種類ぐらいまで増えました」
P:「どんだけ荒ぶってんだよ!! つか元々あれは一発ネタじゃなかったのかよ!!」
さ:「一発売れればそのネタで一生ほそぼそと食っていけるらしーねー案外」
P:「迷子のペット探しは地方巡業じゃない!!」
さ:「ていうかじゃんけん大会に今から出ないといけないんだけど、そろそろいーい?」
P:「あれ、まさかの現役復帰ですか??」
さ:「まっさかー。ゲストっすよー。なんか藩王さまから呼ばれたー」
P:「マジバナだな、おい!」
さ:「ふっふっふ、参加者しょくーん! 私を倒しても第二第三の上ノ森と下ノ森が……」
P:「ここにきて引退後に新キャラ…だと……。むしろ左ノ森さんがいる設定とかすっかり忘れてたわ」
さ:「奴は所詮四天王の中でも最弱……」
さ:「さやか一族の面汚しよ」
P:「誰!? 今の誰ノ森さんたち!!? ていうか一族だったの!? あ、あと、左ノ森さんもう負けてね? なんで??」
さ:「え? さやかちゃん一族は安心と信頼のブランドだよー?」
P:「何が売りのブランドだよ……」
さ:「それはもちろん使い捨てヒロインとしてだねー。左ノ森さんは既に私の現役時代で使い捨てられていたのでしたり」
P:「きわどいところを攻めるなー毎度のことながら!!!」
さ:「残念、さやかちゃんでした!」
P:「思ったより時代のボールとバットが近い!!!」
さ:「あっはっはー」
P:「そんなわけで、あの人は今!」
さ:「右ノ森さやかちゃんでしたー!」
P:「じゃんけん会場行けばまだまだこいつに会えるよ! よ!」
さ:「ライブ会場脇でぼくとあくしゅ!(チョキ出しながら」


アピールポイント:
と、特に無し! なつかしのあの人は今ってことで!


[No.7640] 2011/12/11(Sun) 01:22:42
お祭りイベント用。へんなのでけた。 (No.6247への返信 / 1階層) - 浅葱空

使えるとこだけ使う、でももちろんOKです。
使わなくてももちろんOKです。

なんかへんになったなぁ。(ぽりぽり)

/*/

「きたきたきたきたきたあぁぁぁぁっ!!」
とあるレンジャー連邦国民の魂の叫び

/*/

ある昼の事。
レンジャー連邦の浅葱空とレンジャー連邦猫士のにゃふにゃふは今日も今日とてもんじゃランチを楽しんでいた。
そんな時に聞いたビックニュース。「ら・みゅーじっくおぶらぶふぇすた、通称らぶらぶ」の開催。

「ま、ままままま、まつりとな!?」
「うん、音楽のお祭りみたいだよ〜飲食店の出店とか、観光名物とかPRするってさ〜」
「ほうほう…まつり…祭りか…」

にへら、とへんな顔しながらにじりよる浅葱。
にゃふにゃふ、なんか嫌な予感がする。

「にゃふにゃふー、私も…」
「めんどくさいなぁ〜」
「まだ何も言ってないじゃない」
「どーせ俺に投げかけるんでしょ〜」
「駄目っすか」
「駄目じゃないよ。駄目じゃないから“めんどくさい”んだよ〜」
しょうがないなぁと言いながらにゃふにゃふ、思うのだ。
ただ楽しそうだから、と言って照れるだろうあなた達の胸から溢れる旋律は常に愛に満ちていて、

“ああ、まるでいつだって祭りのようだ”と。


/*/

(1)皆で一緒に!
まずは、企業に協力を仰ぐ、と浅葱が頼み込んだのは
レンジャー連邦ではおなじみのもんじゃ屋さんのひとつ、『Friendship&Love』だ。
以前、大観光地(http://www23.atwiki.jp/ty0k0/pages/141.html)でもお世話になった老舗である。
『Friendship&Love』を中心として、レンジャー連邦中のもんじゃ屋さんが集結した。

「にゃふにゃふーあとね、あそこと、ここと、あれにも声かけてー」
「エー。まだあるのぉ〜?」
「だって、お祭りだよ!皆で一緒に楽しみたいじゃん!!」

(2)出店するよ!!
<もんじゃ>
もんじゃはその性質上、持って帰る事、立ち食いすることができない。
野外用の鉄板テーブル等を設置し、その場でお客様には召し上がって頂く。
(テーブルの配置、調達はにゃふにゃふが奮闘しました。)

<アイス>
もんじゃも美味しいけど、デザートも重要!!
ここぞとばかりにレンジャー連邦名物、移動屋台『バタフライアイス』も側に設置する。
レンジャー連邦暑いからアイス大人気!

<団扇屋>
アイドルにはつきものの、アイドルビック団扇を各種ご用意ー!!
レンジャー連邦のアイドルはもちろん、各国のアイドルの団扇全てを取り揃えております。
どうぞご贔屓のアイドルの団扇をお買い求めください。そして一緒に盛り上がろう!!

(3)その他
もんじゃ屋スタッフは全員各自の応援するアイドル団扇を装備。会場とお店を盛り上げつつ、皆様を扇ぐサービスを行います。

「…扇ぐサービス?空ぁ、ほんとにこれ意味あるの〜?」
「ふふふ。扇ぐというのは唯の建前さ…真の目的はもんじゃのにおいを遠くまで運ぶことにあるっ!!!」
「あ〜においにつられてお客さん来るように、と」
「それもある!!さらに、皆にもんじゃの匂い染みこんで、お風呂入りたくなったられんれん号へ誘導、入館、着替えが欲しいぞ、そこで民族衣装の販売すればさらなる経済効果が!!(どーん)」
「………まぁ、いいか。温泉は気持ちいいし〜」


/*/

祭りまで期間は短く、やれることも限られている。
でも、だからこそ花火のように美しく潔く、どーんっと一発でっかいのを打ち上げてやるっ!
わくわくしながらアイディアだけ出す浅葱と、それを具体的に実行に移すにゃふにゃふは今日も慌しくレンジャー連邦を駈けずり回るのだった。


[No.7642] 2011/12/11(Sun) 02:32:04
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