| 第29話 ひとりぼっちの地球人
脚本:市川森一、監督:満田かずほ、特殊技術:高野宏一
マニアライター 棺桶のジョー
京南大学、ある研究室で、物音がするが、誰もいない。だが、その影は、しばらくして、白衣の研究者に変わっていた。
ウルトラ警備隊、京南大学が、人工衛星の打ち上げに成功したことを知り、ソガは満足している。ソガは京南大学の南部サエコと婚約していたのである(BGM:M52T1)、ソガは自慢げだ。だが、この人工衛星、防衛軍で問題になっているのだ。と言うのも、プロジェクトの推進者、丹羽教授(成瀬昌彦)、偽者ではある。そして、衛星はスパイ衛星の模様である。その上、衛生は地球の科学力を超えたものなのだ。そのことで、ソガはサエコ(北林早苗)に接触する。丹羽教授の助手、一宮(剣持伴紀)にサエコは問いただす、と、一宮は、丹羽教授が宇宙人であると知っていたのだ。ならば、教授は侵略者と言うサエコに、一宮は、自分の電送理論を認めて、実現してくれた、侵略者ではないと言うのである。一宮は人間を信じておらず、利用されていると言うサエコのことを聞かず、丹羽教授の手助けをしていたのだ。
そして、丹羽教授の研究室で、ソガは銃を持ち、丹羽教授を追い詰めていた。衛星からの電波を探知して、プロテ星へ情報を送信していたのを逆探知したのである。だが、ソガは銃を撃つものの、全く効かず、逆に丹羽教授から光線を受けて失神してしまい、宇宙の、丹羽教授の打ち上げた衛星の中に連れ去られた。さらに、ソガの記憶を探知して、地球防衛軍の動きも全て知られてしまったのである。
一宮は、ウルトラ警備隊に感づかれたことを知り、丹羽教授に、逃げようと進言する。だが、衛星が、地球防衛軍の資料を持っていると知り、自分が利用されていたことを知ると、一宮は教授に反抗した。今度は、衛星は渡せないと言う。丹羽は、あれほど人間を嫌っていたのに、今度は地球を守ろうとする、人間とはわからんと言い放つ。そして、丹羽は一宮を気絶させる。そこへダンが駆けつけ、丹羽と格闘になり、ダンはセブンに変身する。
暗闇の大学構内、巨大化したセブンと、プロテ星人が対決する。エメリウム光線を放つが、星人の体をすり抜けてしまう。アイ・スラッガーで首を切っても、笑っていて、そして姿を消し、元に戻っている。光線を駆使するセブンだが、全く効かない、実は、巨大星人は幻影だったのである。幻影に踊らされるセブンを笑う丹羽教授(BGM:M9B-3)、そこへ意識を取り戻した一宮がやってくる。やはり、地球を脱出したいかと聞く丹羽だが、一宮は、二人では電送不能と言って、二人、電送機で崩壊した。
丹羽教授が消失し、プロテ星人の幻影も消えた。セブンは、宇宙へテレポートする。そこでは、プロテ星人の宇宙船が、衛星を回収していた。キリヤマたちはホーク2号でそれを追うのだが、追いつけない。だが、テレポートしてきたセブンが、衛星を奪回して地球へ戻った。それを追いに戻ってきたプロテ星人の宇宙船、ホーク2号に撃墜された。
事件は終わった。京南大学で、ダンとソガは、どこへ行ったのか、一宮のことを思っていた。生きていれば、天才科学者であったはずだ。ダンは、宇宙をさまよっているうちに元の姿を取り戻し、帰ってくるかもしれないと言った。ラストでは、冒頭の部屋でカーテンが静かに音を立てていた(BGM:M44E)
マニア的な突っ込み
(1) 大人のムードの話
セブンでは、子供の頃見ても分からなかったが、大人になって観てその深さに驚いた、というエピソードがいくつもあります。これもその一つで、本放送の時の記憶はほとんどありません…と言うか、セブンの記憶は大半再放送のものによるのですが、市川森一脚本で、青春の思い出を、孤立した人間に託して描いた秀作です。
この話では、今となっては少し説明がいるでしょうが、当時(68年)、アメリカと当時のソ連の冷戦下で、スパイ活動がいろいろ行われていました。この設定を、対宇宙として、人工衛星も、今なら大学が自前で打ち上げることも夢ではありませんが、40年前は、完全な虚構だったのです。そのため、宇宙人がスパイとして暗躍しているという設定は、これを国家間の話にしたら、かなりリアリティのある話なのです。さらに、日本では、国内で独創的な発明をしてもなかなか認められませんでした。まさに、出る杭は打たれるのことで、この話に出た一宮のような人間、この当時では潰されていたのです。こういう、社会情勢をリアルに描いているのがセブンの世界の面白さです。
そして、40年を経て、この内容、決して古くはなっていません。冷戦は終わっても、こういう戦争の種は尽きないし、スパイの替わりに、例えばインターネットのハッキングなど、新しいものが出ており、それらに置き換えたら、今でも通用する話です。セブンの凄いところは、60年代の設定に基づきつつも、人間社会の変わらない要素を捉えていることであり、今見ても素晴らしいです。
(2) 特撮悪役俳優、成瀬昌彦
この話を語るに欠かせないのが、丹羽教授役の成瀬昌彦さん、この回がウルトラ初登場で、この後、第4惑星の悪夢にもロボット長官役で出て、さらに帰マン37,38話にも出ました。その、独特の語り口と、威厳ある存在感で、特撮ファンにも人気の高い俳優です。帰マンでは、「地球にはMATがいる」と言ったら「いつもウルトラマンに助けてもらっているくせに」と言うものすごい突っ込みは忘れられません。成瀬さん、もう鬼籍に入られた模様ですが、御健在ならメビウスでもナックル星人の声をやって欲しかったです。
また、成瀬さん、時代劇でも悪役をいろいろやり、必殺では、暗闇仕留人で、何と石坂浩二さん演じる殺し屋に仕置されます。なるほど、円谷関係の悪人は円谷関係の殺し屋が当たるのか、頼み人は次郎君で、坂田健・アキの仇か、と思って見ました(?)。
(3) 高野特撮の真骨頂、暗黒でのバトル
この話、セブンとプロテ星人のバトルは独特です。様々な光線技を駆使しても効かない、そういうシーンが延々と続く、これは、高野宏一特技監督の得意とするシークエンスで、似た傾向が、ミラーマンでも(ダークロン、巨大ゴールドサタン戦など)でも見られます。しかし、この戦い、セブンは結局幻影に踊らされただけで、プロテ星人を倒したのは、結局一ノ宮なのです。セブンのシリーズで、セブン、あるいはウルトラ警備隊以外のものが宇宙人、怪獣を倒した例はこれのみです。ウルトラシリーズを通しても珍しい事例です。この回も、様々な光学シーンが出るものの、全てアナログ処理です。今の、CGとは比べ物にならない手間と時間がかかっているのですが、それでも、実にしっかりした仕上がりで、安っぽい感じが全くしないのはさすがです。
(4) 撮影は学習院で
これもタイムリーな話ですが、この撮影に使われたのは学習院大学で、セブンvsプロテ星人のバルトにも出たピラミッド型の建物、実在だったのです。しかし、取り壊されることになり、そのニュースが1月5日付の朝日新聞に載りました。この回を演出した満田監督のコメントもありました。こういう、ウルトラ関係の話がいろいろニュースに載るのはうれしいです。
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No.17002 - 2008/01/07(Mon) 17:15:20
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