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その幼女はとても絵本が好きで、中でも鍋の御伽噺の絵本が大好きだった。 何度も何度も繰り返し読んだ絵本は、涙に濡れ、波打っている。 その本は買いなおされることなく、初めて涙に濡れたその日から、ずっと同じ本棚に仕舞ってある。 その絵本は、「きせきのちりょう」という絵本だ。 何度も父母にせがんで読んでもらった。自分で読めるようになってからは、1日に何度も繰り返し読むようになった。 彼女は絵本の中のことが、とても「お話」には思えなかった。 彼女は固い信念の元に、医者になることを誓った。涙で波打った絵本を抱えて。 誰も彼もを助けて見せると。 その絵本はとても有名で、鍋の国民は全員一度は読んだことのあるものであった。 子供達は大きくなるにつれその御伽噺をフィクションと認識して、または戦時中の美化だと認識して、片付けていった。 そんな奇跡は目にしたことがなく、また戦争も、遠い昔の話になり始めていた頃だ。 暫くの後、戦争は突如として再開された。 彼女は幼女から少女へ、そして少女から立派な女性となっていた。ただの女性ではない。政庁で働く優秀な医者となっていた。 国民は嘆きながらも、戦いの手を止めるわけには行かなかった。まさに、絵本のように。 戦火は広がっていく。鍋の国だけじゃない。猫と犬の垣根を越えて、巨大な敵と戦わなければならなくなった。 そんな中、伝説にもなった岩田氏の死亡報告を聞いた。 彼女はそのとき、正に怪我人の治療をしている最中で、不意に、涙が流れた。涙したのは彼女だけでなく、多くの国民も、さめざめと泣いた。 なんでたくさんの人が傷つく戦争ばかりしなければならないの…。 歴史的大敗を喫したその只中で、彼女は再び誓った。 あの絵本の奇跡を、起こして見せると。 ほら、あの青い光が見える…………… [No.999] 2007/08/05(Sun) 23:20:54 |