Re: .hack//Legend of Twilight moon 序章 (No.1095 への返信) - 黒忍冬  |
「お邪魔しま〜す♪♪」 穂波の声が1DKの亮太のマンションの玄関に響き渡る。 亮太は大学に通う為1人暮らしをしている。この1DKが亮太の自慢の王国だと言える。 俺達はあの後適当な店を見つけ、これからの夏休みについて語りながら昼食を取った。 「おうよ!!気兼ねせずに入ってくれ!」 俺と穂波は靴を脱ぎ、亮太の後ろに付きながらダイニングを過ぎ部屋に入った。 「おお〜!!意外に綺麗に整頓されてるね♪ちょっとビックリ♪♪」 確かに、本は本棚に綺麗に整頓され、壁掛けCDラックに様々なアーティストのアルバムが納められている。 「ちょっと待ってな。今飲み物用意するから。葉月、悪いけど俺のPC起動しといてくれ。」 そう言うと亮太はダイニングに姿を消した。 俺はPCの前に立ち、Powerと書かれている文字の下にあるボタンを押した。 プチっとディスプレイが起動する音が聞こえ、続いてHDDの処理の音とファンが回る音がごく静かに聞こえてきた。 HDDがPCを立ち上げる為小さくガリガリっと音を立て始めた。 「これは?」 俺はPCの横に置いてあったゴーグルを手に取り自問自答した。それを聞いた穂波は俺に近づいてきた。 「・・・葉月、これが何か本当に知らないの??」 「ああ。・・・知らないと悪い物か?」 俺がそう聞くと穂波はおもむろに俺の手からそのゴーグルを取り、自分の顔の横にそれを持っていって答えた。 「これはね、FMD(フェイスマウントディスプレイ)って言って、これを装着してThe Worldってゲームをするの♪」 そう言うと穂波はこれはあれはと説明し始めた。 「2人揃ってそんな所でなにやってるんだ??」 お盆にアイスティーの入ったグラスを乗せた亮太がテーブルにそれを置き俺と穂波の所に駆け寄ってきた。 「今、葉月にFMDの説明してたの♪気になったらしいから♪」 「そっか!!葉月もついにThe Worldに目覚めたか。良かった良かった♪」 「ふぅ・・・どういう経路を辿ればその答えに行き着くのか。」 「キッカケってのは、ほんの些細なことから始まることが多いんだぜ。葉月がFMDに興味を持ったのもその事に当てはまる!!」 「・・・無理やりだな。まあ、間違っていると断定出来る要素が無いから否定は出来ないがな。」 こういう所で俺は亮太に負ける。負けるというより押し切られる感じが多いが。 「実際にやってるところ見せてみたら〜♪♪考え変わるかもよ♪♪」 「そうだな。穂波の疑問にも答えないといけないし。じゃあ、やるか!!」 「そのゴーグル着けないと説明出来ないんじゃないのか?」 俺はゴーグルを着けている亮太に聞いた。 「これは、より臨場感を出す為の物だよ。ディスプレイにも一応表示されるから、穂波にはそっちを見てもらうって訳。」 そう言うと亮太は慣れた手つきでゲームを起動し、コントローラを手に持った。 「それじゃあ、行ってみるか!!」 ディスプレイに画面が現れた。亮太は慣れた手つきで作業を行っている。そして・・・・・・ 次に画面に表示された映像に、俺は正直驚いた。 **η(イータ)サーバ 貿易の都エル・メキア** ディスプレイに表示された画像には、港があり、海に通じる川があり、その川を中心に左右に建物が建っている。 川沿いには緑を育んだ木々が並木のごとく植えられている。 そして、その町並みには多くのキャラが存在していることに気が付いた。 会話をしているPC(プレイヤーキャラクタ)、ベンチに座っているPC、買い物をしているPCなど行っている行為は実に様々だった。 その画面の中心に刀を片手に持つ、黒髪のショートカットで鎧は深い青色、肌は日本人と酷似している黄白色の青年が立っている。 「これが俺のPC♪。名前はリューカス。クラスはソードマスター。ここまで育てるのに結構苦労したよ。」 亮太は手短にPCの説明を終わらすと、ウィンドウを開きアイテムという欄の中の道具の欄を選択した。 「アイテムは十分だな。で、どのアイテム取りたいの??」 そう言うとFMDのサイドに付いているボタンを押した。すると目の前にあったFMDのディスプレイ画面が左右に開き、 亮太の目が現れた。その作業を行いながら亮太は穂波の方に振り向いた。 「えっとね〜・・・水精霊(みなしょうれい)の勾玉が欲しいの〜♪♪あたしの武器って水属性の攻撃方法無いから。」 「なるほど。確かにあれを装飾品で装備すれば、武器に水属性の効果が付くからな。でも、あれをソロで取るとなると結構きついぜ。」 「う〜ん・・・そこなんだよね(汗)特にあたしのクラスって、相当強くないとキツイから考えもの。」 「穂波のPCクラスって確かアーチャーだったよな。確かにソロプレイはきついかも。弓系は基本的に支援がメインだから。」 「お話の様子から察すると、相当Lv高いエリアっぽいね・・・亮太〜〜。」 穂波はそう言うと、捨てられそうな子犬の様な瞳で亮太を見つめる。 「分かったよ。そんなに欲しいんだったら俺の持ってるのをやるよ。」 「ほんとに!!さっすが亮太♪♪話が分かる〜♪♪ありがとね。」 「じゃあ、今日の夜に入ってきて。集合場所は・・・此処でいいよな??」 「OK〜♪♪ログインしたらメル1するね♪♪」 俺はその2人の会話をまったく理解出来ないまま椅子に座りアイスティーを飲んだ。 「・・・どうやら俺はお前らの話に付いていけそうに無いな。帰るか。」 そう言って帰り支度をしている俺の腕をFMDを外した亮太が掴みひっぱる。 「此処からが本番だぜ!!ほらほら、これを被ってみろって!!」 そう言い俺をPCの前の椅子に座らせ、FMDを俺に被せてきた。 ふぅっと俺は溜め息を出しながら亮太のされるがままにFMDを装着した。 そして・・・目を開けた瞬間、俺は俺らしくも無く膠着してしまった。 「どうだ。今の葉月の心を読んでやるよ。・・・ディスプレイで見たときよりずっと臨場感が溢れている。これ、本当にゲームか??」 俺は亮太の言葉を否定しなかった。まさに亮太の言った事に近い事を思っていたからだ。 視界に広がる町並み、内蔵ヘッドホンから聞こえる人々の声と水のせせらぎの音。現実とたいして変わらない世界が広がっている。 ぼーっとしている俺に穂波が声を掛けてきた。 「どう??すごいでしょ!!リアル感もすっごくあるでしょ!!これがThe Worldなんだよ♪♪考え方変わってくれた??」 俺はFMDを外し立ち上がり、亮太と穂波の方へ顔を向けた。 「・・・想像以上だ。まさか此処までのリアル感をゲームで表せるとはな。正直驚いている。」 その俺の言葉を聞くなり2人の顔がぱぁーっと明るくなりガッツポーズまで取っている。 「よし!!そうと決まれば話は早い。これからのプランは、町に出てその後に葉月の家に直行だ!!」 「賛成〜♪♪ささ、早く用意して♪♪レッツゴー!!」 そう言うと亮太は起動していたPCの電源を切り外出する用意を始めだした。穂波もいつでも出れる用意を整えている。 「・・・おい。出かけるって・・・まさか。」 「そのま・さ・かだよ♪♪」 「ふぅ・・・確かにすごいとは言ったが、誰もやるとは言ってない。さっきも言ったが、その先走った・・・。」 俺が言葉を言い終わる前に亮太が俺の横につき、追い込みの一言を発した。 「俺もさっき言ったよな。キッカケってのは些細なことだって。葉月もたまにはこういう事をやってみるのもいいんじゃないか♪♪」 此処まで来ると、この2人を止めることは至難の技ということは知っている。 「ふぅ・・・分かったよ。そこまで言うんだったらやってみてもいいか。」 2人の顔がさらに明るくなったのがよく見なくても確認できた。 「それじゃあ、レッツゴー!!」 2人の声が見事なハーモニーを奏で部屋に響き渡った。
[No.1096] 2008/02/26(Tue) 20:22:09 |