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13://www.tragedy-ヒゲキ. 前章 (No.791 への返信) - 宴六段


隠されしかの場所





禁断の事実が





聖域で待つ




13://www.tragedy-ヒゲキ.

******




 瞼の間から、光が差し込んできた。白く穏やかなそれは、俺を安寧へと誘う。

 瞼を開き、更なる安穏を手に入れようとして――

 瞼の裏を日が焼いた。

「お目覚めかな?流奈クン」

「……おはようございます」

 気付くとそこは、白でいっぱいの世界だった。薬品のものが混じったような『清潔』という文字を正確に体現した匂いが鼻腔をくすぐる。

 一般に病院と言う。

 その病院のベッドの上で、俺は横たわっていた。

 上体だけを起こすと、気怠るさが体中を駆け巡った。

「いやはや、てめえはそんなに眠る方だったか?」

「……いえ、若菜さん」

 寝台の傍には、二十代の豊満な肢体を、規定より明らかに小さいだろうナース服に身を包んだ看護士さん。 彼女はパイプ椅子の上で足を組み、少しだけ開けた窓に向けて煙草を吹かしていた。

 彩音の担当看護士である彼女、名は西條 若菜と言う。

 一言で言えば、『不良看護士』。絶対確実に胸を張って、元ヤンだと言える。

 赤く染めた髪は肩に掛かるかかからないかの瀬戸際で、吊り目気味の瞳は、不健康そうにいつも瞼が半分ほど落ちかかっている。

 総じて言えば美人なんだろうが、モデルの様に近付き難い印象を受ける。

「以上説明終了、っと」

「何が?」

「いえ、個人的な話ですよ」

「別にいいけどな。にしてもすげーよなぁ、お前如きに個室用意するなんてな」

 どうやら彩音のことを言っているらしい。思ってみれば、周りに他人は見えない。いくら巨大な病院としてもそうは無いだろう個室入院棟だった。

「ですかね。ていうか、窓開けないで下さい。寒いです」

 外は冬が本格化してるためか、どんよりと曇っている。どうみても寒空だ。

「いいじゃねぇかよ。ほら、寒くないように暖房は28℃で入れてあるんだから」

 環境の敵だった。

「別にいいんですけどね……」

 こういう性格であることはわかっている。付き合いは長いほうだ。

「あれ……?そういえば俺、どうして病院なんかにいるんですかね?」

「あー……」

 呆けたように口をあんぐり開け、若菜さんが今まで右手に持っていた煙草を口に咥え、立ち上がった。

 何事かと訝しんでいた所に、いきなり火花が散った。勿論脳裏に、だ。

「痛ぁぁぁあぁ!?」

 若菜さん必殺の拳骨、だった。

 まさに鉄拳制裁、時間を置いても退かない痛みに顔を歪める。

「な、何ですかっ!?」

 右手の拳を吹いて冷やしている彼女に、疑問の眼差しを向けた。

「これは彩音ちゃんの分。そして、」

 がんっ!

「うぁぁあああぁっ!」

 更に一撃。重く振るわれたそれは、先程と同じ箇所に振り落とされたために、倍加の効果を生んだ。

「これがオレの分」

「…………」

「おう、何だその反抗的な目は。おねぃさんもう一発かましちゃおうかなぁ?」

「ちょ、やめて下さいって!」

 口に紫煙の上がる煙草を咥えたまま、腕を上げる若菜さん。

 必死で行動を止めた。

「オーケイ、わけを話してやろう」

「……ですか」

「ん。あれだ、彩音ちゃんを心配させた分に加えてオレのストレス発散」

「け、結局俺がここにいる答えになってません!」

 何というか、最初からそう言ってくれていれば、覚悟みたいなものも持てたのに。

「ああ、お前、いきなり倒れたらしいな。んで、最初に発見して病院に出荷したのが彩音ちゃん」

「倒れ……?」

 記憶を探す。

 そういえば、あの時――変な空間で黒い手に蝕まれて……?

 そこからの記憶が蘇って来ない。

 ……そもそも、彩音といる時にあの場所に飛ばされたのだから――

 だから不安に思った彼女が、心配して駆けつけてくれたのだろうか? 俺如きのために?

「なんだお前、覚えてねぇのかよ」

「そりゃ……覚えてないでしょうよ。……ところで、俺の症状って何だったんですか?」

「意識不明だよ。昏睡状態だったらしいから、結構心配してたんだぜ?」

 その後一回だけ意識反応起こしたんで大丈夫だったけど、と付け加える。

「らしいって……あなた俺の担当じゃなかったんですか」

「ああ、今オレがここにいるのは婦長には内緒だからな」

 ……とことん不良だった。

「それで、どのくらい眠ってたんですか?」

「あん?何でそんなこと気にするよ?」

「ちょっと諸事情がありまして」

 旅団の事とか旅団の事とか旅団の事とか。

「んー……二日、ぐらいだっけな」

「……え……?」

 そんな長い間、意識不明だったのか――?

「最近多いんだよなぁ。いきなり意識不明になって送られてくる奴。お前は目ぇ覚ましたんだから、いい方だろ」

「って、他にもいるんですか」

「しかも目を覚まさねぇんだとよ」

 …………。

 閉口、してしまった。同時に疑問も生じる。

「もしかしてその人たち、機械、とか扱ってませんでしたか?」

「機械?ああ、まあ一様にM2Dは掛けてたらしいな。お前も類に違わずに」

 ……脳内のパズルが完成した。

 確信できる、その意識不明者たちはThe World≠やっていた。

 M2Dであれば、いくらでもソフトはあるだろうが、その様な可能性を含んでいるのはあのゲームだけなものだ。

 そして俺は同じ症状に遭った、と。

 それが禍つ式なのか、それともあの空間で見た黒いモノ≠フせいなのかはわかりかねるが……。

「どうしたよ?」

 思考に耽っていたのを見、若菜さんが心配したように声を発した。

 見ると、既に椅子に座り直して足を組んでいる。

「いえ、何となく気に掛かっただけです」

「ふぅん。ま、とにかく彩音ちゃんには感謝しとけ。そして謝れ」

「わかりました」

 ところで彩音はどこに?と訊けば、廊下のソファで寝てると来た。

「邪魔したくなかったんだろーよ」

「……成程」

 皮肉っぽくに笑う若菜さんに一応同意。

 心配を掛けたのは申し訳ない。

 再び静寂を取り戻した病室内に、不躾な電子音が鳴り響く。

「あ、オレの携帯だわ」

 今度は病人患者の敵だった。

 俺の心中にはお構い無しに電話に出、話を始めてしまった。

「ん、ああ。またかよ。うん、オーケイわかった。すぐ行く」

 何やら同僚と話しているらしい、深刻そうな顔をして電話を切った。

「……どうしたんですか?」

「また、らしいな」

 ――それは意識不明者の事を言っているのか。

 したり顔で頷いた俺は、退室を促す。

 すると彼女は、手にした煙草を火のついたまま窓から投げ捨ててから出て行った。

 ……どこまでも環境の敵だった。

「さて」

 ここで一呼吸。少し落ち着いて考えてみよう。

 俺は、コシュタ・バウアにいた。

 そこで彩音がやって来た。

 そして俺はどこか≠ヨ飛ばされた。……飛ばされたのか、それとも『無意識化』に置かれていたのかはわからないが。

 その間、何があったのか。

 そもそも、あの空間は何だったのか。

「思考停止、だな」

 止まる。

 まずは彩音に訊くしかあるまい。

 結局、あの時の俺は錯乱状態に近しいものがあったのだから。

「いよっと」

 掛けられた布団を跳ね除け、寝台から降りた。まだ気だるさが全身を支配してはいるが、動けないわけじゃない。

 話によれば、二日も眠っていたのだから、疲労は無いがやはり動かしていなかった分のだるさは残るわけか。

 個室の扉を横向きにスライドさせ、廊下に出た。

 さすがは総合病院。廊下も清潔に、そして来客用なのかそれとも患者用なのかわからないソファまで完備されている。

 だが、彩音の姿は見当たらなかった。時間は確認していなかったが、日が昇っていたので食事でも取りにいったのだろう。

 話を聞こうと思ったのだが――仕方ない、何か暇でも潰そう。

 ……実際、若菜さんは何も言っていなかったが、絶対安静が命令されてるんだろうな。

「どうでもいいけど」

 独白。

 そうだな……先程搬送されてきたとか言う意識不明者でも見学に行きますかね。

 というか、不謹慎だな、俺。

 人間は自分の生活に結びつかないと行動すら起こさない、とは言うものの、俺のそれは度を越していると思う。

 呆言だけど。

 とりあえず、その意識不明者――昔の流儀に倣って『未帰還者』と呼ぼう――は集中治療室にいるはずだ。各階に設けられているナースステーションにでも寄って、訊いてみよう。

 思考しながら、すでに俺の体は歩き始めていた。


******





 かたかたかた。

 キーボードを打つような軽やかさを体現した音が響き渡っているのにも関わらず、そこ≠ヘ暗く光源を制限されていた。

 GMにだけ許された特別な部屋。我々はそこ≠『知識の蛇』と呼ぶ。

 擬似キーを打ってコマンドを実行しているのは私の同僚。即ち、彼らがこの音源であった。

 かくいう私もキーを叩いている最中なのだが。

「…………」

「何かね、匂宮?」

 どうやら思考が目線となっていたようで、彼らのうち一人が作業を一旦止め、胡乱気な目を向けて来た。

「何も無いさ。だが――不毛だと思ってね」

「不毛ではない。我々が行っているのは未来に繋がる『努力』だ」

「ふん。まさかお前からそんな言葉が聞けるとはな――八咫」

 体の半分程をはだけ、僧衣に身を包んだ彼――短く刈り込んだ頭部は修行僧に似ていた。

 名を『八咫』という。

 恐らく神話に登場する八咫烏をモチーフにした『名前』なのだろうが、どこか気に入らない。

 ――前回の『直毘』と同じく。

「君はどう思うね?」

 八咫が傍らに控え、これまたキーを叩いていたPC――パイに声をかけた。

「私、ですか?」

 戸惑いを表現した顔には、知性を湛えた細く四角い眼鏡がかかっており、だが体のあらゆる部分を露出させたギャップが男共を熱狂させるのだろうか。

 だが私は彼女の事を気に入ってはいない。八咫にだけ付き従い、何をするにも彼の許可を必要とする彼女に、苛立ちを覚えずにはいられないのだ。

 長い桃色の髪を二つにまとめたツインテールが戸惑いに比例して揺れた。

「――不毛ですが、千里の道も一歩から、という言葉もあります」

「というわけだ」

 暗い橙色の丸眼鏡を通して、こちらを見遣る八咫。

「別に他意があったわけではない」

 いいわけの様に言い放って、作業に戻った。

 すると、それを端にしたのか彼らもまた作業に戻る。

 そうだ、我々に時間はない。

 作業――というよりも事後処理を行わなければならないのだから。




 そう――――獲物≠ノ逃げられたばかりなのだから――。



******



「七尾……志乃?」

「そうそう、そんな名前だったかな」

 結局集中治療室に行けなかった俺は、ナースステーションで得意な愛想笑いを振りまきながら訊いてみた。

 名前を訊いた瞬間に連想したのはやはり彼女。旅団のサブリーダーにして、現指導者。

 PC『志乃』。

 一瞬表情が凍りついた気がしたが、すぐに戻る。

 いやまさかな。

 まさか本名をそのままPC名にするとは思えなかった。

 ――リアルで会った事もないのだから、何ともいえないが。

 だがそれも実際にゲームで訊ねれば憂いも晴れるだろうから、気にしない事にした。

 答えてくれた看護士さんにお礼を言ってその場を離れた。

「……帰るかな」

 依然病院着のままだったが、何の異常も無いのに長居するつもりはない。適当に許可とって帰るか。

 どうせ原因不明で運ばれてきただけ。検査入院しろ、と言われそうだが断るつもりだ。

 別にいいか、勝手に帰っても。

 後で若菜さんが恐そうだが、それは後での事である。今心配する必要性も感じない。

 結局、この日は医者に連絡して帰宅した。





後章に続きます(汗)


[No.1187] 2008/03/28(Fri) 14:59:53

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