…入替世界…【前編】 (No.1233 への返信) - 宴六段 |
入れ替え入れ替え
人形の頭を入れ替える
着せ替えではなく入れ替える
……入替世界……
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俺は今日も、いつも通りにデスクトップからThe World≠選択。
いつも通りに慣れた手付きで選択してログインを開始する。
いつもと同じ動作にいつもと同じ行動。
変わらない。
世界を変えた本人でも、これだけは変わらなかった。
ログインする前にメールボックスを確認する事もある。
先程も確認したばかりだが、存在していたのはいつもの雑談メールのみ。
差出人は『アトリ』やら『揺光』やら『クーン』やら。
いつまでも変わらずに慕ってくれる、その……『仲間』とかいう奴だ。
アカウントを入力した後のしばしのロード画面。それを越えてのPCセレクト。
いつもの通りに『ハセヲ』を選択。
俺は――三崎 亮はいつも通りに世界へ侵入した。
侵入した、はずだった。
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しばらく続くブラックアウトした画面。
ロード中のこの時間には、M2Dには黒い画面しか残らない。
一瞬で終わるだけの処理作業。
だが、今回だけは少しだけ長い気がした。
「…………?」
疑問に思っているうちにすぐに画面が切り替わった。
黄昏色の光が燦々と差し込む街――Δマク・アヌだ。
エリアに行くための設備、カオスゲートの置かれたここは、ログインした者が最初に見るべき円形型のドーム。
今日も沢山のPCが雑談やアイテムの取引に勤しんでいる。
「っと」
自分もその類に違わないというのに、こうやって俯瞰的に見ている自分が何だか恥ずかしくなって誤魔化してみた。
とりあえず誰かログインしていないか確認してみる。
そういえばアトリの奴がクエストを手伝って欲しいとか言っていたな。
「ん……?」
違和感。
少しだけ―――
少しだけ心に去来する、違和感。
何かが違う。
違和感とは、和とは違うものを感じると書く。
和合していない感覚。
何か……いつもとは視界が低い様な……。
「…………?」
メニューウィンドウを操作しようとして、その手が止まる。
というか、手その物がおかしい。
俺の――ハセヲのPCは特殊な仕様により、全体的に白くなっている。
手に嵌めたグローブや一部のパーツは白いのだが――今見ているこの手も白い。
グローブというより女性用の薄い手袋の様な――
そして、なんか指が細い様な……。
急ぎ、カメラを主観視点から俯瞰に変更。
自分の目の前に移動させる。
大慌てで、だ。
そして、気付く。
そこに立っているのは、俺ではなかった。
ということは勿論、ハセヲでもなかった。
このPCボディは……。
「……アトリ―――――!?」
あの呪療士の少女、アトリの姿だった。
え、いや、どういうことだ。
何というか、混乱。
というか錯乱。
ついでに惑乱でもしとこうか。いや、やめておこう。
意味がわからない。
理解できない。
この状況が上手く呑み込めない。
操作しているのは紛れもなく俺で?
PCもハセヲを選択した。
でも今自分が操作しているのはアトリの姿―――!?
意味がわからない。
思わず叫んだ言葉で、周囲の視線が集まっているようだが全く理解できない。
とりあえず自分が操作している、その、錯誤的なキャラクターを見ているのは嫌な気分なので主観視点に戻した。
そして、一息。
よし、落ち着けよ俺。
よーく考えれば万事解決だ。
混乱に任せて叫ぶなんて、一昔前のアニメ以下だ。
息を深く吐く。
「何だこれはァァァァあああぁあああああぁぁあぁぁああぁあぁあああッッ!!?」
******
「で?何がどうなって、こんなことに?」
知識の蛇。
『あの事件』が終末したとはいえ、G.U.の彼ら――八咫とパイは未だにここを拠点として、事後作業を行っていた。
そして俺が問うたのは黄昏色の眼鏡を掛け、僧衣に似た衣装を身に纏った『管理者』たる八咫。
いつもと変わらず、鼻梁に掛かった眼鏡を指で押し上げていた。
「私の解析の結果、あの事件――クビア消滅の余波が今になって影響したとの結果が出た」
冷静な声で答える八咫からは、どこか苦しそうな感じを受けた。
「……八咫?」
「すまない。現実の方で風邪に感染したようだ」
事態は把握した。首肯して促す。
……アトリの顔で。
うわ、想像してしまった。
軽く自己嫌悪。
「君とアトリ君のPCボディが入れ替わった事については、これ以上の解説はない。それで、善処しようとは思うのだが――」
「…………?」
「未だにクビアの影響で、遠隔操作を受け付けない仕様になっている」
「……まさか、直せない、なんて言わないよな……?」
「――ハセヲ、お嬢さんの顔で恐い表情しないで」
あまりの違和感からか、パイが声をかけた。
っていうか、声を押し殺して笑ってやがる!?
「つまり、君が『ハセヲ』の姿をした『誰か』を見つけてこなければならない、ということだ」
「…………は?」
「これは入れ替わった『アトリ』君を見つけてくればいいのだが――」
「待て。それは俺にこの姿で出歩け、って言ってんのか!?」
その通り、と言わんばかりに深く頷く八咫。
「大丈夫だ。君が怪しい素振りさえ見せなければ、事は穏便に済む」
「ここに来るまでも凄い目で見られてたんだぞ!?慣れてるのは男の歩き方だから違和感ありありっていうかっ!」
「……もう限界っ、く、くふふふふふふふっ!w」
「そこ笑うなぁぁぁああぁっ!」
「お嬢さんが恐い顔で怒っちゃ駄目よ、ハセヲ?www」
「だぁぁぁぁかぁぁぁら、嫌だっつってんだろ!?」
もう言いたい事を言うしかなかった。
右手の方では、腹を抱えて笑っているパイがいるが、無視することにした。
「だが、君が行かなければずっとそのままだろう?それこそ、大規模なメンテナンスが行われるまでは」
「―――ッッ!」
「だから、貴方が行くしかないのよ。いや、『貴女』だったかしら?w」
「うるせぇぇぇぇぇぇええええぇぇえ!!」
******
「ったく、何で俺がこんなことを……!」
場所は変わって再びドーム。
八咫によると、PC『ハセヲ』はまだログインしていなかったので、それを待ち伏せする形で待機していた。
壁に身体を預けたかったものだが、先程変な目で見られたのでそれもままならない。
確かに、こんな可憐なPCだとそんなポーズ似合わないのだが。
ああ、もう面倒臭い。
だから、クビアなんてものの影響が今更来るなんて――
と、
「あ、アトリさーん」
誰かがアトリの名前を呼んでいた。
彼女がログインしてきたのかと思い、きょろきょろと周りを見渡してみるが、それらしき姿は見当たらない。
聞き間違いかと思い、再び直立の姿勢に戻った。
が、目の前に人が現れた。
「もう、何で無視するんですか?アトリさん」
「え、俺……?」
「『俺』って……っていうか、何か声おかしくないですか?」
今気付いた。
俺ってアトリの姿だったか―――!!
「あ、いえ、ちょっと風邪ひいてまして……」
こんな口調だっけ、アトリって。
長い付き合いでも、こんな事態では混乱してしまう。
「いやいや、大丈夫ですか?何か男の人みたいな声――」
「な、何の用です?」
アトリの知り合いらしい、女性型PCに問う。
くそ、会話を終わらせないとボロが出るぞ……!
「え、酷いですね。あなたから呼び出しておいて」
「…………」
絶体絶命だ。
ここで呼び出しましたっけ、なんて訊いたらそれはアトリが最低な奴だし、忘れちゃいましたなんて言ってしまってもそれはそれで問題ありだし――。
仮に誘導尋問に持ち込んでも、俺って言う人間は自己嫌悪に走るし。
だあああ、どうすればいいんだ!
っていうかどうして俺はこんなに悩んでるんだよ!?
他人事だろうが!!
「…………」
「アトリさん?」
疑問に訊ねてくる彼女に、自分で可能な限りのキツイ目で睨みつける。
「――――失せろ」
「…………っ!?し、失礼しましっ……!」
……何というか。
俺が最低な人間だった。
「はぁぁぁぁ。アトリぃ、早くログインしてきてくれよぉ……」
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アトガキ _______________
続いちゃいます(ぇ
狐憑き様……、もう限界です。これが私のギャグの限界です……(何) でも後編こそは笑わせて見せます!(ぇぇぇぇ まだ前編なので、許してください><
それではまた、後編で!
宴でした。
[No.1234] 2008/05/07(Wed) 18:41:12 |