…入替世界…【後編】 (No.1233 への返信) - 宴六段 |
ぶぅん、という音と共に光の輪が広がり、中からヒトガタが現れる。
見覚えのある白銀のPCボディ。
まさしく、俺の求めていた『ハセヲ』――内実は『アトリ』だった。
「アトリっ!」
『アトリ』の顔で彼女を呼んだ。
あれ?『ハセヲ』だから、『彼』なのか?
いや、今はどうでもいい!
「……ハセヲさ、ん……?」
声に気付いてか、振り返る『ハセヲ』。だが、動きが凍りついていた。
それはそうだろう、あるべき姿の『自分自身』が立っているのだから。
「来いっ!」
「え、何――」
「いいから!」
『ハセヲ』の腕を掴んで引っ張り、強引に連れて行こうとする。
だが、彼女は脚が絡まったようで、よろめいて誰かの肩にぶつかってしまった。
「痛ぇ……」
見るとそれは頑強な男だった。俺も見覚えのある、PK。
「って、お前は死の恐怖……!」
「きゃっ!」
俺の顔で言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!
俺の、『ハセヲ』の身体で小さく縮こまるなっ!
『ハセヲ』の姿で目を瞑るなぁぁぁっ!
「……、きゃっ?」
疑問に思った彼が、それを口にした。
「すみませんすみませんっ!」
『ハセヲ』のまさかの平謝り!
「え、いや……死の恐怖が言うなら……」
何とか穏便に済んだらしい。
PKの彼はすぐにどこかへ行ってしまった。
だが、そこから小さな声が漏れ出していた。
微かな音量だが、確実に聞こえる声。
そう、それは囁き。
「おいおい……あの死の恐怖がPKに謝ってるぞ……?」
「うわ、ホントだ……。何があったんだ?」
「いや、あいつにも何かあったんだろ。そっとしといてやろうぜ」
「そうだな……」
何か同情されてるぅぅぅぅぅ!?
「い、行くぞ、アトリ!」
「え、あ、はい」
……今の図を想像してしまった。
女性らしい戸惑い姿を見せる『ハセヲ』の腕を引っ張る、男らしい動きの『アトリ』。
……は、はは……。もう何かどうでもいいや……。
******
「……よく連れて来れたわね、ハセヲ?」
「うるせぇ」
「喧嘩腰は良くないですよ、ハセヲさん!」
パイに食って掛かる『アトリ』に、それを愛想笑いでなだめる『ハセヲ』。
気持ち悪ぃぃぃぃぃぃぃぃ!
一々想像して、自己嫌悪に陥っている。
既にアトリには事態の全て伝えていた。
目の前の八咫は風邪が悪化したのか、どうも無口になりがちだったが、早く直してもらうことにした。
「ともあれ、今からデータの修正を開始する」
やはりどこか苦しそうに言う八咫。
特別なソフトウェアキーボードが浮かび上がり、プログラムが起動する。
それは全てを治癒する救世主、のはずだった。
一瞬の黒い闇の後、再び『知識の蛇』の薄暗闇を目にした。
目の前には、元の姿をしたアトリ。
どこか驚いているような顔をしているが、彼女の様子がそれなら俺も大丈夫なのだろう。
いやあ、良かった良かった。
これで万事解決、清々しいな。
「ハセヲさん、ですよね……?」
「あ?何言ってるんだよ、成功したじゃねぇか」
「ハセヲ……その姿は……」
え、何、この痛い視線は。
っていうか、今度はどこか目線が高すぎる様な……。
あれ?髪が長くね?
というか、濃い蒼……?
この姿は『ハセヲ』ではない。
これは――
「エンデュランス―――!!?」
「……どうやら、ゴホッ、間違えたようだ」
「間違えたじゃねぇよ!一番たち悪いって!!」
風邪の八咫、どうやら本調子ではないらしい。
「八咫様も連日の仕事で疲れてらっしゃるのよ」
「だからって間違っていいわけねぇだろうがぁぁぁぁぁっ!」
『エンデュランス』の姿で叫ぶ。
これで、また人探しか……。
******
今度は既にログイン中なので、中央区を中心に探してみる。
自分のPCとして『エンデュランス』を扱うのは先程の『アトリ』と違って、悪くはないのだが、それはそれで『ハセヲ』の様子が気になる。
逆にたちが悪かった。
というか、先程から熱い視線を感じる……。
熱烈なファンも多いとは聞いていたが、まさかここまでとは。
とにかく、あいつを探――
「ハセヲぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおおぉおおおおおッ!!」
いきなりかぁぁぁぁあああぁぁッッ!
噴水より前方から疾駆してくる白銀のPCボディ。エンデュランスの扱う『ハセヲ』だった。
とんでもない速度で俺に肉迫する『ハセヲ』。
噴水など余裕で飛び越えて、『エンデュランス』の目の前に立ちやがった。
「気付いたら、僕が君で君が僕でっ!」
熱い想いをぶつけるかの様に一気に喋る喋る。
『ハセヲ』の姿で熱く語る彼に対し、いつもらしくなく冷静に対応する『エンデュランス』。
「君と僕が一体化してる……。僕、こんなに嬉しいことはないよ……!」
こんなに危ない発言はない!
「どうして俺の居場所がわかった?」
「君の居場所ならどこでもわかるさ……!」
うわああああああああ!
すぐに見つかって嬉しいけど、素直に喜べねぇぇぇぇぇぇ!!
「とにかく、八咫の所までいくぞ」
「……え……」
「何そのあからさまに残念そうな顔」
そして『ハセヲ』の顔で上目遣いにするなっ!
「とにかく、俺は早く元の体に……」
熱く語る『エンデュランス』に対し、『ハセヲ』はどこか虚ろな顔で想いを馳せていた。
そのうち、何かを思いついた様で、
「はっ!今、僕とハセヲが一体ならあんな事やこんな事まで…………!!」
「ちょ、待てぇぇぇぇぇぇぇ!」
慌てて『ハセヲ』を押さえつけた。
今奴を野放しにしたら何をしだすかわからないっ!
「わあ、元宮皇が『死の恐怖』を押し倒してるぞ!」
「本当だわ……あのお二人、噂はあったけど、ガチだったのね……!」
「これが本物のBL……!」
「美しいわ……!!」
え、何この空気。
薔薇が咲き乱れてそうなこの空気は。
「ハセヲ……僕は知っていたよ?君の心の奥に秘めたる思いは……」
「だぁぁぁああああぁぁぁああっ!埒があかねええええ!」
どこか憂いを帯びた瞳で、頬を赤らめる『ハセヲ』。
頼むからやめてくれ!
******
「……はあっ……はぁっ……」
疲れた。
これ以上も以下もなく、可も不可もなく、絶対的に疲れたっ!
もう無理、限っ界!
『エンデュランス』の姿で、『知識の蛇』の冷たい床にへばっていた。
「……八咫、今度こそ、頼むぞ……!」
息も絶え絶えに言う。
言うが早いか、彼の作業は始まっていた。
やはりの一瞬の暗闇の後、光を抜ける。
『ハセヲ』のいた場所にはちゃんとエンデュランスが存在していた。
やっと……、やっと終わりか……。
長かった。
本当に、一日が長かった。
もう、こんな思いはしたくない。
さあ、希望の扉を……!
「……あ……」
うわあ、やめてくれよ、そんな不吉な声は。
「ハセヲ?」
軽く既視感。
デジャ・ヴという奴か。
「……八咫、多くは望まない。結果だけを教えてくれ」
「…………」
「早く」
「……またも間違えたようだ」
やはり本調子ではなかったか。
だがこう何度も続くと、冷静でいる事に慣れてしまっていた。
「今回は誰だ?」
「……『ハセヲ』の姿をモニターで見てみよう」
ぶぅん、という鈍い音と共にウィンドウが巨大化。 すぐに『ハセヲ』の姿が映される。
誰だ……、今回は誰だ……!
≪んー?≫
声からすると、男なのだろう。彼は自分の状況に気が付いたようだ。
≪これは……『ハセヲ』、か?≫
冷静に状況を分析。
よし、ここまで冷静なら安心して――
≪ひゃっほぅ、これならモテヲを満喫できるんじゃね!?≫
八咫が告げる。
「クーンのようだ」
えええええええええええええ!?
≪これを気に水仙ちゃんと牡丹ちゃんを……!!≫
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
本気で止めねばなるまい。
くそ、一刻も早く――、
「……ハセヲ……」
エンデュランスの凛とした声。
「どうした?俺は早くクーンを――」
「僕に任せて、ね?」
そこで少し笑う。
満面の笑み。これで女だったら一撃だったろう。
ただ、目が笑っていない。
「ふふ……僕のハセヲセンサーに狂いはないよ。すぐに君の身体を見つけ出してあげる」
目がっ!
目が笑ってないって!
「大丈夫……君の身体に悪い事はしないよ……?」
前科、前科!!
「君の身体を弄ぶ様な輩は許さない……」
お前には言われたくねぇぇぇぇぇ!!!
その後、クーンは一週間ほどログインしてこなかったという。
おしまいっ☆
_______________ アトガキ _______________ 狐憑き様に皆様……、すみません
宴は大変なキャラ崩壊を起こしました! むしろ、ゆっくりしていってね!!!
……ギャグ、です。多分。 キャラが崩壊してますね……orz ていうか、なんだこの『俺があいつであいつが俺で』……。 とりあえず、ここでキャスト解説でも。
ハセヲ……叫び役。決して突っ込み役ではない。ええ、決して。
アトリ……今回ばかりは脇役。
八咫……ドジっ子。
エンデュランス……いつも通り。(ぇぇぇぇ
パイ……八咫が風邪ならやってやればいいのに、やらない鬼畜なある意味『黒幕』。
クーン……死亡フラグ確定。
……。
とってもカオス!(何) では、ここで締めとさせて頂きます。
そして感想、お待ちしています(ぁ
[No.1237] 2008/05/12(Mon) 16:17:23 |