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第41節 新たに身に纏ったのは、赤い『プリムラ・マラコイデス』を象った紋章が胸部に刻まれた、闇の鎧。鎧の装着に合わせて全体の服装も僅かにシフトチェンジし、背には飛び散った6枚の白翼の代わりに、8枚の青い光の翼があった。 光を表した白を基調とした服装の上に、闇を思わせる黒の鎧。天使でありながら戦神(ヴァルキリー)を髣髴とさせるその姿は、まさに光と闇の完全な融合体。セラフィムの最終極形態(ミトラス・フェイズ)だった。 「『天装合体(アーセナルユニオン)』…」 パーシヴァルによって齎された知識がルーガスの思考を瞬時に巡る。まさかセラフィムがアンサラーと、しかもデータトランスを介して合体するとは、思いもよらなかった。 今のセラフィムはアウラ、リィル、ルーガス、プリムの力が一つになった姿。鎧に刻まれたプリムラ・マラコイデスの『運命を開く』と言う花言葉の示す通り、4人の絆が『新世界』への運命を切り開く力を―真のセラフィムへの覚醒によって得たのである。 「ほぉ〜〜〜。王道パターンってヤツね。ま、折角だから楽しませてくれるかどうか、試してあげる」 ゲイヴォルグを掲げると、その二つの穂先を砲身とし、氷と炎の暴流がビームのように放たれる。 「「…」」 焦点が定まらない視線で虚空を仰いでいたセラフィムが振り向くと、目元を絞った。 ―熾天結界・浄華聖堂(プリマローズ・カテドラル)!― 瞬間、セラフィムの前に幾重もの桜色の花弁を模した“盾”が展開され、氷炎の暴流を塞き止めた。 「「「!!?」」」 「データを寄せ集めないで…!?」 データトランスの使い手であるプリムは真っ先にその“違い”に気付き、驚いた。データトランスは『ザ・ワールド』に内在するデータの性質・形質を変化させるもの。セラフィムが今行なったのはそれを使わず、『新しく盾のデータを“創った”』のだ。 花弁の盾が引くと、その先のセラフィムの瞳にあたかもキャンドルに聖火が燈るかのように意思の光が宿る。 そしてアウラの理解力とリィルの知力が、この力の持つ意味の全てをセラフィムに伝える。 スッと右手を出すと、そこに盾のような護拳が具現化され、更にその端から刃が生じた。光子を鍛え上げたかのようなその刃の基には、複数のエンゼルクラウンが掛かっている。 その形状は言うなればシールドブレイド。神話の名匠か神の業物に等しいそれは光と闇。そして守護を司る、曙宵剣『エクスシア』。アークエンジェルの力と意思が顕現した“ふたり”の剣(つるぎ)であった。 セラフィムは徐にエクスシアをその場に突き立てる。するとそこから溢れた光がエリアを包み込んだ。それに呼応して余剰エネルギーを放出するように、背の青い翼がフィールド状に大きく拡散する。 フロアを抱いたセラフィムの光は、邪眼と魔眼によって受けた傷を治癒し、完全に元の姿に復元させた。 「すごい…」 「『蒼翼のセラフィム』…」 ルーガスは讃えるように、思わずその名を呟く。蒼翼を展開したセラフィムの姿は、さながら創造の神が光臨したかのようだった。 ベイリンはと言うと手品を目の当たりにしたように、素直に「スゴイスゴイ」と称賛している。 「ほぉ〜〜。こりゃぁ、想像以上の上玉ねぇ。そんな誘い方されちゃったら……お姉さん、興奮し(感じ)ちゃうじゃない!!」 ベイリンの全身が再度、殺意と凶気でざわめきだす。彼女はセラフィムをルーガス同様“好意”を抱くに値すると判断した。それはつまり、その身に宿る全ての殺意と凶気をもって殺しにかかる、と言う事を意味する。 徐に槍の叉部に軽く口づけをすると、ダイデントの二つの矛先が捻れて一つに纏まり、スピア型に変形した。それをセラフィムに向けて真っ直ぐに構えると、赤と白と青の帯が渦となって螺旋を描く(床屋と言ってはいけない)。 全力を持ってこの殺劇を制しに来たのだ。そしてそれはセラフィムも同じ。 「「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。南天に紡ぐ交頌― 暁に集いし双翼の奇跡― 千夜を経て― 今刹那より羽搏く、紅き星君の業の許に―」」 セラフィムの三聖頌に呼応しエクスシアと翼の輝きがブーストする。 「念仏は…、唱え終わったかぁーーーーーッ!!!」 地面を蹴ってゲイヴォルグを繰り出す。否、助走をつけて槍を投擲した。 「災悲なる虐鋩の螺(ディアド・ホロコースト)!!!」 魔剣ガラティンと邪眼ロンギヌス。ベイリンの全ての力が集約された、渾身にして必殺の一撃。 「「熾天剣、サザンクロスソウルッ!!」」 対するセラフィムは蒼翼をはためかせ、深紅の十字を纏ったエクスシアを掲げて特攻する。 ―ドォッ!!― 災厄の螺旋とロザリオの軌跡が真っ向から対峙し、セラフィムの斬撃が荒廃の呪いを切り裂き、投げ放たれたゲイヴォルグを押し返していく。 「チッ!!」 ベイリンは逆流してきたゲイヴォルグを握り返すと、踏み止まり、更に力を加える。 「あっはっはっはっは!! 最っ高よ! ランセレッド以外でここまでヤれる奴がいるなんて!!」 激突した二つの存在(ちから)が発する膨大なエネルギーの奔流の中、ベイリンは目の前に迫る死を介して己が生命を感じ、絶頂と歓喜に塗れた昂揚感に酔いしれた。ベイリンは満たされつつあった。 その時。意思と意思の交差点が閃いた。 一筋の突風がベイリンを襲い、視界は光に包まれる。 「―ッ!?」 周囲は嵐が過ぎ去ったように静かになった。光の中にベイリンのみが閉ざされた。 そして目の前に“誰か”いる。セラフィムでもルーガスでもない誰かが。誰かは白い両手をベイリンの頬に伸ばし、優しく包み込む。 「あ…――」 触れた両手は温かさと心地よさに満ちていた。常に“死”と共に波旬を存在し(いきて)きたベイリンが、初めて感じた『安らぎ』だった。 光が消えると、ベイリンはフロアの壁際にもたれていた。吹き飛ばされたわけではない。現にベイリンの体に傷らしい傷は全く無い。 「あ〜〜〜……。何か、もうな〜んもヤル気が無くなっちゃったぁ〜。起きるのもかったるぅ〜」 ダメージは残っていないのに、精も根も尽き果てたようにベイリンは体を投げ出していた。戦いに対するありとあらゆる衝動がセラフィムによって消し去られたようだ。 「…あ、あは…、無くなっちゃった…」 体の違和感に気付き右腕を擡げた。しかし、肩から先の“カタチ”は無い。ベイリンの片腕は邪眼と共に失われていたのだ。 それを見たアウラは申し訳なさで言葉が無かった。最善の行動であったとは言え、ベイリンの生き甲斐を奪ってしまった。それは有る意味、命を奪うより残酷なことである。 「ま、取り敢えず生きてるわけだし。あたしもあんたら本気で殺そうとしたんだから。片腕一本だけなら安いモンよ。ただ、それでいいの?」 片腕一本もっていっただけでいいのか、という問にアウラは言葉に詰まった。 「目的はそこに無い」 ルーガスが代弁した。『命あっての物種』と言う人生観を持つベイリンを理解しているからこその言葉だった。ベイリンには生命さえあればよかった。 「じゃ、もう気にしない気にしない」 あっけらかんと言うと、ベイリンは再び歪な大の字になった。 「ベイリン。これからどうする? ナイツに戻るのか?」 「ん〜…。どうしよっかなぁ〜。今戻ったら、用済みのあたしは即行(ソッコ)で消されるだろうし〜」 「どういうことだ? ラウンド・ナイツで何があった?」 「実は―」 ベイリンのその言葉はアウラの顔と心を引き裂くように凍てつかせた。 [No.1318] 2009/12/28(Mon) 23:19:11 |