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all 今回限りの帰還 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:16:58 [No.1316]
.hack//With 暁の剣神話第3部 40節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:18:37 [No.1317]
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.hack//With 暁の剣神話第3部 42節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:19:54 [No.1319]
.hack//With 暁の剣神話第3部 41節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:19:11 [No.1318]


.hack//With 暁の剣神話第3部 42節 (No.1317 への返信) - 夕叢ヒビキ

第42節

ヒカリは今日も病院で定期健診を受けていた。根本的な解決には繋がらないが、体の生命維持がちゃんと機能しているかどうかを確かめる為にも日々の検診は欠かす事ができない。
もうすっかり顔見知りになった医師が慣れた様子でいつものように検診を行っている。
「体は大丈夫だけど、今日はちょっと元気がないかな? なにかあったの?」
カルテにペンを走らせながら尋ねた。本人は軽い気持ちで聞いたのだろうが、図星を付かれる形となったヒカリはゴニョゴニョと答えにくそうに口ごもる。実際今日のヒカリはいつになく口数が少ない。
彼女の気懸かりの一つは、やはり『ザ・ワールド』のこと。コレばっかりは、話せないし、理解もされないだろう。
「もうすぐだからね」
10歳とは言え、恥じらいも知るし、秘密だってある。そう察した医師は詳しくは聞かず、別の話題を振った。
「やっぱり海外行くのは不安?」
「ちょっと…」
ヒカリは苦笑しながら濁すように答えた。
そして、もう一つの気懸かり。それはリアルの自分自身のことにある。
サトシが紹介されたイギリス人医師と何度かのTV電話を通して面談を行い、本格的な治療を行う事になった。
カウンセリングと幾度と無く発作―フリーズを起した体の療養、脳の負担の軽減。社会生活を維持しつつそれらを両立するのは、現日本の環境では難しい。その為、イギリスに来ることを勧められ、近い内に向かうこととなった。
即ちヒカリの―、リアルでのリミットが迫ってきていたのだ。

マク・アヌの運河に掛かる大橋にアウラの姿があった。いつもなら元気に駆けていくはずだが、今日はゆったりとした徒歩だ。
今のアウラの脳裏にはベイリンと戦った後の事が鮮明に焼き付けられ、片時も離れなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
「実は“リュー”って奴がきたおかげで、ナイツは今エライ事になっててさ〜」
「何―」
「どういうこと!?」
ルーガスが聞くよりも速く、アウラが光の速さでベイリンに詰め寄った。
「あ…えと…。ジーさん(マーリン)が連れてきたリューってNPCがアジトに着いた途端に豹変してさぁ。そこのロリッ娘連れて来いとか、ウチの大将にまでエラそうにアレコレ命令しだして。実質ナイツの支配者になっちゃってんだよねぇ…」
いやはやもうお手上げ、と言わんばかりにベイリンが肩をすくめた。
「そんな! リューはちょっと言葉っ足らずで、パジャマも一人で着れない甘えんぼで、思わず家に連れ帰って親身に面倒を見たくなるような、雨に濡れた仔犬のような子だよ! そんな悪行三昧をするなんて考えられない」
(悪行三昧って…)
(だから拾ってきたんだ…)
(アウラの眼にはそう映っていたんだろうな…)
「まぁ、信じるかどうかはそっちしだいだけど。とにかくそういう状況になってんの」
―――――――――――――――――――――――――――――――――

何かの間違いだ、嘘であってほしい。そんな考えに始まり、そして終わる。
カオスゲートから仲間の許へ向かう間。否、ベイリンからその事を聞かされた瞬間からずっと、それがヒカリの頭の中で何度も同じ螺旋を描いていた。

そんなモヤモヤした状態のままルーガス、プリムと合流し、遅れてリィルがやってきた。
「リィル、何かあった…?」
いつもと様子が違う事を敏感に感じ取ったアウラが下から顔を覗き込むように聞く。
「時期が時期だから。ちょっと家で色々あったの」
察して欲しい、という意図を含んだ言葉を返した。
いくら成績優秀でも受験が近くなるこの時期にネットゲームを毎日長時間プレイしていれば、大抵の親は心配して口出しするなり何なりするだろう。規範的なエリの義両親もその例に漏れなかった。
曰く、普段は無関心なくせに、こういう時に限って親面をして上からもっともらしくモノを言って、頭ごなしに全てを否定する。子供が一番嫌がるパターンである。

「アウラだって、多分一晩中考えていたんじゃない?」
お茶を濁すように、アウラを模した口調で問い返した。
「うん…。いまでも信じられない…」
「でも、元々リューは『聖杯の器』として連れ去られた」
驚愕ではあったが、考えられないことでもない、と。相変わらずプリムの言葉は容赦ない。
「だから…、 だからこそ会って確かめたいの…!」
アウラが真っ直ぐに言った。どこかの神宮の要石の如く、重力を反転させても決して動かないような強固な意志を持った瞳だ。
「なら、これからすべき事は一つだな」
「え?」
「こちらから『円卓の城 ヴァゴン』へ打って出る」
「ヴァゴン…?」
「ラウンド・ナイツの拠点にして総本山。そこへ行く事がリューとラウンド・ナイツ…、僕達にとっての全ての決着の地となるはずだ」
最終決戦。三人はその緊迫した空気に息を呑む。
「ベイリンの話だと誰かに操られている風でもない。アレが本来である可能性もある。アウラ、お前に真実を知る覚悟はあるか?」
「…覚悟は、できてる!」
「…。ならば、これ以上僕からは何も言わない」
「ちょっと待って。敵の本拠地に乗り込む事になるのよ? これまで以上にバトルが厳しくなれば…」
「大丈夫! だって皆が一緒だから」
「ハ〜…。アタシ達も参加、って決定事項なわけね…。どうなるか判らないわよ?」
呆れながらもリィルが折れた。
「危険なのは知っての承知。どんなときでも命懸け、だよ」
「その台詞が出て来た事に負けた」
よくわからない謎の敗北宣言をしてプリムが折れた。
「全会一致、だな」
「言い出したら聞かないのは判っているし。ナイツもアクロスも関係無しにアタシ個人として、この物語を最後まで見届けなきゃいけない気がするから」
「プリムも、プリムの真実を知りたい」
「伏線は十分だ。僕達の物語を書き上げる時が来たな」
「でも、それは新しい始まりだと思う。だから、みんなで行こ。『終わりと始まりの物語』を書きに」
リィルとプリムは各々の決意を胸に頷いた。ただルーガスだけはそれとは別の覚悟を秘めた表情だった。
アウラは「隠し事は減点だよ。罰金だよ?」といいながら微笑んだ。ルーガスは無言のまま顔を逸らした。
いざ、運命との決着の地へ、と。


[No.1319] 2009/12/28(Mon) 23:19:54

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