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第43節 「…で。どうすればいいんだろう…?」 前回、『次回いよいよ』という締め方に、氷水をさすような穢れなき一言だった。 「アンタねぇ…、何にも考えてなくて『覚悟は出来てる』とかいってたわけ?」 「と、肩透かししつつ僕の方を見ると言う事はお前も考えがないということだな?」 「当たり前でしょ。この中で一番詳しいのアンタなんだから!」 「ほう。逆ギレっぽくきたか」 この手のノリにも慣れてしまったのか、ルーガスは怒る事も無く何処か諦観した様子だった。 「まあいい。丁度ボクもこれからの事で皆に話がある所だ」 「これからのこと? 何?」 「今この場じゃない。後でメールを送るからそこにあるエリアに来てくれ」 「どうして?」 「色々準備がいるんだ。お前達もそれなりの準備が必要だろう。特に、二人はリアルと(時間の)話をつけておくといい」 「うん…、わかった」 ―じゃあ、エリアで待っている― 釈然としないアウラ達に一言残してルーガスはその場を後にした。 ルーガスからのメールは2日後に来た。本文は指定したエリアに来るようにと、ルーガスらしく手短に認められていた。 Ωサーバー:凍てつく 煉獄の 狂犬 指定されたのは、つい先日アウラ達がベイリンと死闘を繰り広げたエリアの最奥、通称『異邦神の間』である。現実と虚構の“境界”であるここはネットスラムと同様に監視の眼が行き届かず、言わば管理の治外法権、悪く言うと無法地帯であった。もっとも、『異邦神の間』を知る者が極端に少ないため、大抵は訪れてもさほど何とも思わずに出て行ってしまうが。 ―勿体無さ過ぎる幸福だった― 「お待たせルーガス。話って何?」 「出来れば、どうしてここを、時間を置いて指定したかの理由も教えて欲しいんだけど」 「…。お前達に最後の道標を示すためだ。そのためにはここでなくてはならない」 「それだけ? わざわざここにした答えになっていないよ」 「邪魔が入らないからだ」 不意にルーガスがマントを翻して振り向く。 ルーガスと向き合ったアウラ達は息を呑んだ。 「ッ!? ル、ルーガス、それ…ッ!!?」 ルーガスの左半身、裂けた黒衣から見える身体は異物に蝕まれた様な、眼も当てられない有様となっていた。そして顔面の左側、前髪に隠されたその奥からは魔眼が紅い、不気味な光を湛えていた。 「…見ての通りだ。ベイリンとの戦いで魔眼の力を使いすぎた。もう仮面の封印も役に立たない」 「じゃあどうして、あんな無茶を…!」 「あの時何もしなくてもいずれはこうなった。早いか遅いかの問題だ」 誰がどう見ても非常事態であるというのに、当のルーガスは普段以上に冷静で、淡々としていた。 「…ルーガスは、どうなっちゃうの…?」 「どうなるだろうな。魔神の入れモノという殺戮者になるか、モンスターとなるか…。まあどの道、“存在してはならぬもの”となるだろう。だが…、その前に…やっておかなければ…、ならない事が…」 どうすればいいのかと、急かすようにアウラはルーガスの次の言葉を待った。 「殺せ。今すぐ僕を殺せ!」 「な!? い、いきなり何を…?」 「そうだよ。悪い冗談はやめてよ。そんなシチューション今時ウけないよ…」 狼狽したアウラとプリムが声を絞り出す。リィルも予想してはいたが、出来ればそうでない事を願っていた。 「言っただろう…。“存在してはならぬもの”となる、と。そうなる前に僕を殺せ! お前達の手で! でなければ…、僕が貴様ラヲ殺ス!」 「どうして!? そんな事できるわけないよ!!」 「死にたくナケれば殺セ!」 「ヤだよ!! ベイリンの時もそうだった…。どうしてみんな友達にそんなことさせるの?! 全然判らないよ!!」 「アウラ。お前は自覚していないかもしれないが、僕達は皆そういう環境に身を置いている。その現実を酷いと言うなら、わからない・理解できないで目を背けるなら、その甘さを抱えたまま逃げればいい。僕からも、この『世界』からも!」 「ルーガス!」 「僕はルーガスじゃないッ!! 今の僕は…、ラウンド・ナイツの一人、魔眼の黒騎士(デル・タスラム)のランセレッドだッ!!」 仮面を取り払ったルーガスの顔は体と同様、魔眼を中心に火傷を負ったように爛れていた。 「よかった、ネコミミは無事」 「シリアスな場面にお約束のギャグを入れるな!」 普段どおりのペースに戻そうと、プリムなりの抵抗なのだろう。 「逃げる気が無いのなら、今一度この現実を自覚させる。その上でお前の覚悟を試そう。それがやらなければならないこと。僕がお前達に手向ける最後の花束だ!」 アロンダイトとアンサラーを鞘から引き抜き、ルーガスがラウンド・ナイツとして、アウラたちの前に立ちはだかった。 「命をかけた贈りもの、か…。いいわ。受け取ってあげる」 リィルが身を乗り出し重剣の切っ先をルーガスに向けた。 「そんな…! リィルやめて!!」 “ドスッ!” 「きゅう…」 止めようとしたアウラのボディーブローを打ち込み、さらに『吊り男のタロット』で動きを封じた。 「邪魔しないで」 「リィル…」 「ルーガスは苦しんでいる。誰かが助けなきゃいけない」 耳元で囁くと、アウラの身をプリムに預けた。 「…アンタとは短かったけど一緒に子守りをした仲だから。望み通り、本気で、一思いに楽にしてあげる」 ルーガスに向き直った瞬間、闇の聖女は己の覚悟をという刃をもって、壁となったかつての仲間と相俟見えた。 ―元々何度も捨てかかった命。ならば最後までこのために― [No.1320] 2009/12/28(Mon) 23:20:28 |