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all 今回限りの帰還 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:16:58 [No.1316]
.hack//With 暁の剣神話第3部 40節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:18:37 [No.1317]
.hack//With 暁の剣神話第3部 44節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:21:32 [No.1321]
Re: .hack//With 暁の剣神話第3部 43節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:20:28 [No.1320]
.hack//With 暁の剣神話第3部 42節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:19:54 [No.1319]
.hack//With 暁の剣神話第3部 41節 - 夕叢ヒビキ - 2009/12/28(Mon) 23:19:11 [No.1318]


.hack//With 暁の剣神話第3部 44節 (No.1317 への返信) - 夕叢ヒビキ

第44節

リィルの直線だが眼に映らない一撃がルーガスを襲う。しかし振り下ろされる重剣は途中で、水平に繰り出されたアロンダイトに弾き返された。
(先に攻撃を仕掛けたのに…!)
即座に双剣に切り替えて追撃をいなし、バックステップで大きく距離を空ける。そして呪紋による牽制を織り交ぜ、遠距離から近距離へ一気に切り込む、天剣の能力を活かしたヒット&ウェイで攻撃する。いつもならもっと近距離から、よりアグレッシブに攻めるが、今のリィルは魔眼を警戒してか慎重を重視した。
一方のルーガスはリィルの攻撃一つ一つに完璧に対応すると、わずかな隙から反撃する。
電光石火の連撃(フラガラック)で防御の上からリィルを刻み、続けてガードの隙間を縫って蹴りを放ち、フィールドに転げ倒した。

「…PCの動きじゃない…」
改めて普通のPCとNPCの性能の違いを目の当たりにし、エリは愕然とした。
大見得を切ったものの、やはりリィルの状態では魔眼開放モードのルーガス相手では分が悪すぎる。
「でも今更アウラに助けを求められないよね」
「わかってるわよ!そういうわけだからプリム、援護よろしく!」
「仕方ないなぁ」
言うと、リィルは自分に回復と強化を施し、矢を乱れ打ちした。そして明後日の方向へ放たれた矢をプリムがデータトランスでルーガスの方向へ誘導する。
「ぬるい!!」
ルーガスの左眼が血の光を放つ。直後、誘導弾となった矢が魔眼の閃光に飲まれ消滅した。
「まだまだぁッ!」
プリムのオートリープで転送されたリィルがルーガスの死角から奇襲する。
しかし、必中するはずのリィルの天剣の一撃は空を切り、金属音だけが虚しく響いた。
リィルが嘘だ、と叫びだしそうな様子で頭上を見ると、ルーガスは彼女の頭上に舞い上がっていた。
「あえて魔眼を使わせ、オートリープで死角をつく。いい戦術だが…、まだまだだな」
「…うッ!?」
「上を知るがいい」
―イーヴィルプラント!―
アロンダイトから放たれた闇の波動が鷹の爪となって頭上からリィルに迫る。
「リィル!」
間一髪、オートリープで“爪”からは逃れられたが、今度はルーガスの方から仕掛けてきた。
黒と赤。闇と血を両の刃に纏い、魔眼の騎士が漆黒の聖女を八つ裂きに掛かる。リィルは全身を覆うほどの幅広の大剣に換装し、盾代わりにして攻撃に耐える。
「…確かに、動きは上だろうけど…」
言って次に来たルーガスの一撃を初めてキレイにはずした。PCの規格内でかわせる攻撃を狙っていたのだ。
「ナメるな!!」
渾身のフルスイングがカウンターとなって顔面に直撃し、ルーガスは吹き飛ばされる。
ルーガスはすぐさま空中で姿勢制御し、危なげなく着地した。が、立ち上がろうとせず、上半身を低くしたまま、四つ這いに近い体勢で獣のように唸りを上げている。
「?」
先ほどからリィルはルーガスの挙動に違和感を覚えていた。ガードの隙間を突くことなど造作も無いはずのあのルーガスが、それをしないばかりかP Cの操作範囲で避けられる攻撃をするとは思えない。
少しずつ、洗練されていたルーガスの動きが荒れ始めたような気がした。
警戒しながらリィルが様子を伺おうとすると、アウラが叫んだ。
「ルーガス、ダメェッ!!」
蹲るようにしていたルーガスが、突如上体を持ち上げ、異端神を仰いだ。

―があああああああああああああああああああああああああ!!!!―

絶叫と共に、魔眼から魔神の力が血飛沫のように吹き出る。暴走した力の本流は異端神の偶像を破壊し、宿主を赤黒い光で包み、飲み込みにかかる。
魔眼は自ら更なる餌を求めて宿主の理性のたがを外し、強引に精神を暴走させた。そしてそれらを貪り食った“内”なる魔神が、宿主の戒めを食い破り、この『世界』に顕現した。

「…これが…、ルーガス…?」
魔神と化したルーガスの身体は至る所が機械化され、ボロ布のような翼が生えている。
異端神バロムを模したその姿は、まさにサイボーグ化されたドラゴン。アウラたちの5倍の体躯を誇る巨大な魔神竜である。

3人は博物館の肉食恐竜を再現した展示ロボットを目の当たりにしたように見上げた。ここまで巨大なモンスターと相対したのは邪竜と化したマーリン以来である。
「デ、デジ○ン…?」
プリムは既に少し錯乱しているようだった。
「……」
リィルの方は絶望とも諦めとも違う茫然とした感覚を覚えながら、どう相手にしたものかとこの巨大な魔神竜を前に逡巡した。
しかし通常のイベントバトルと違って待ってくれるはずもなく、スピーカーを揺るがす咆哮を上げて、『魔神竜ランセレッド』が『アロンダイト』と一体化した巨大な右腕を振るう。
大振りのテレフォンパンチだが、かするだけでも致命傷となる一撃を危なげなくかわし、魔眼にとって死角となるランセレッドの右側面に回りこむ。
(どう攻める? 一気に頭部へ斬り込むか…。それとも足を狙って転ばせるか…)
安全圏へ回りつつリィルが次の戦術を講じる中、ランセレッドはスピードに翻弄される事なくアロンダイトを振るった反動を利用して、一気にリィルの姿を捉える。
(は、速い!?)
リィルが魔眼の死角へ逃げる事を見越し、翼とアロンダイト、そしてその巨体を十二分に利用して回避領域を削っていきターゲットを捉える。攻撃+移動・回避。複数の行動を組み合わせるのはNPCであるルーガスの得意とする戦術である。たとえ魔神竜と化しても、芯は変らずルーガスのままであった。
(スピードじゃ誤魔化しきれない。ここは、短期決戦―!)
大きく薙ぎ払われた鉤爪状の左腕を流し、一気に頭部へ飛び込もうとする。が、スイングで出来た隙にあわせて見開かれた魔眼がリィルの前に待っていた。
(ッ!! しまっ…!!)
魔眼にはリィルの姿が、リィルの瞳には魔眼が、それぞれしっかりと映し出されている。
(見るな見るな! 逸らせ! 逸らせ―!!)
懸命に魔眼の視線から逃れようとするが、視線があった時点で死を意味する。
そして次の瞬間、リィルの瞳から魔眼が消えた。

「……!!?」
次にリィルの視界に現れたのは天井。魔眼の代わりにリィルは別の、何か大きな塊の直撃を受けて弾き飛ばされていた。
それと入れ替わるように、魔眼の閃光はリィルがついさっきまでいた地点を焼き払っていた。
「アウラ!? アンタなにしに―」
「リィル、合体すれば魔眼は大丈夫のはずだよ!」
「だけど…」
「泣いているだけじゃ…今までと変らない。誰も救えない。だからルーガスが苦しんでいる現実から逃げない! トモダチの決意から眼を逸らさない!」

アウラとリィルは決意を秘めた瞳で荒れ狂う魔神竜を見据える。
「強い決意の相手を止めるには、こっちも強い決意で向き合うしかない」
「うん」
輝きの神子が守るための力を、漆黒の聖女が貫く意志を掲げた時、『異邦神の間』は急速に閃いた。
「「ルーガスを助けたいって思いを全力でぶつける。それが『わたし達』の覚悟だーーーーーーー!!!」」
灼熱のような陽光を湛え、大天使が魔神竜の前に光臨する。
生と死。二柱の神の使徒が今ここにあいまみえた。


[No.1321] 2009/12/28(Mon) 23:21:32

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