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子供の頃は、異世界というものにあこがれていた。 どこにでもいるような普通の少年少女。 ある日突然不思議な世界に導かれ、世界を苦しめる巨大な悪と戦い、仲間に出会い、英雄として成長していく物語に心を躍らせたものだった。 そして「どこにでもいる」というフレーズに、自分と主人公を重ね合わせたりもした。 だからこんなにさえない私でも、違う世界に行けば変われるかもしれないと、いつかは私も導かれる日が来るのだと、まるで恋焦がれるかのように、幼い頃の自分は本気で信じてさえいた。 ―――もちろんそんな日は、いつまで待っても来たりはしなかったのだけれど。 ● 中学に入って6ヶ月が経つ。 引っ込みじあんな私は自分からクラスメートに話しかけることも出来ず、いまだにクラスになじめずにいた。 にぎやかな教室の中にいても、私だけはいつも一人。憂鬱な今日という日が終わるのを、ただ静かに待つだけだった。 すでにクラス内ではいくつかのグループができ、そこから聞こえてくる笑い声は、まるではるか遠くから響いてくるかのようだ。 苦手だった。 クラスにいる子達はみんな私より大人っぽくってかわいかった。 それに比べて私はどんくさくて、いつも失敗ばかり。みんな口に出さないだけで、すでにだめなやつとしてのイメージが張り付いていることだろう。 声が聞こえてくるだけで、笑い声が上がるだけで、私にはそれが自分への嘲笑に聞こえてならなかった。実際そうだったこともあって、私はどんどん周りが信じられなくなっていった。 どうせ私が嫌いなんでしょ? どうせみんな私のことなんかどうでもいいんでしょ? だめだとは分かっているのにこんな言葉ばかりが頭をよぎってしまう。もしかしたら、こんな自虐的な言葉にさえ酔っているのかもしれない。 そしていつしか、終わりのチャイムと同時に教室から逃げるように出て行くのが、手に負えない私の悪癖となっていった。 私の最近の日課は「The world」にPC、“紫陽花”としてログインすることだった。 ここには小心なリアルの自分を知るものは誰一人としていない。何をやっても失敗ばかりの、だめでどじな自分を知っている人なんてどこにもいないんだ。 そう思っていたらいつの間にかのめりこんでしまい、気が付けばかなりの速さで初心者と呼ばれる時期を抜けていた。 今ではさらにレベルも上がり、ソロプレイで中級エリアに繰り出す毎日だ。それなりに良いアイテムも結構持っているし、中級PCとしては結構充実しているほうだった。 でも、ここでも私は変わることができなかった。 どんなにPC、……うわべだけを育てても、所詮中身の私は私。 普段から人と話すことに慣れていないため、人に呼びかけられただけでも意味もなくびくついて、会話の途中でもすぐに口ごもった。 思った言葉を相手に伝えればいいだけなのに…ただそれだけなのに。 口にしたとたん頭が真っ白になり、会話は途切れ、妙な空気と間が生まれる。結果すぐに相手に見限られてしまい、“紫陽花”はリアルの私と同じ末路をたどった。 現実は甘くない。たとえネットの世界でも。 改めてそれを思い知らされた気がして、胸がずしりと重くなった。それでも未練からか、それとも現実逃避からなのか、ずるずるとロールは続いていく。 こうして今、PC“紫陽花”はここにいた。 [No.640] 2007/04/24(Tue) 21:32:36 |