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思い返しているうちに、どうにもやるせない気持ちになった。 冒険に出かける途中だったが急に気が変わり、私はエリア転送へのメニュー画面で×ボタンを押した。そしてマク・アヌへとタウン転送。 理由なんか特にない。 ただ毎日毎日、ソロで冒険を繰り返すよりかは気がまぎれるかと思ったのだ。 私は何の気なしに@ホーム近くの桟橋に座った。 きらきらと光る水面を見つめていれば、近くではパーティーが楽しそうに会話をしている。 都市伝説めいた噂話、この間手に入れたレアアイテム、それを見つけたフィールド。 ひとしきり話すとそこに行こうということになったらしく、一行はカオスゲートへと向かっていった。 一人でいることには変わりないのに、なぜかさっきよりもむなしくなった気がする。結局エリアへと足は向かった。 ワードはランダム。どうせマク・アヌから行ける所ならレベルなんか知れている。 M2Dからは一瞬でマク・アヌが消え、代わりに緑豊かな草原エリアが現れた。 そしてエリアに入ってくるのと同時にかん高い金属音を聞いて、私はとっさに振り向いた。 見ると、大柄な鎌闘士の男が小柄な双剣士の少年をいたぶっているまさに真っ最中だった。 (初心者狩り…?) にしては何かが妙な感じだった。 表情の入力を間違えているのか、双剣士はまったく怖がっている様子がない。むしろ逃げ回りながら、PKされそうだという現状を楽しんでいるかのようだった。 そして鎌闘士はそんな双剣士を相手に苛立ちを全開させていた。 どうしたものか…助けたほうがいいんだろうか? でも相手のレベルのほうが高かったら嫌だし……何より状況が訳分からん。 こんなことを考えて間抜けに突っ立ている私をよそに、勝負は意外にあっけなく終わった。 私を見つけた鎌闘士が、仲間に入られたら分が悪いとでも考えたのか、自分からあっさり身を引いたのだ。 どうやらPKとしてはレベルが低かったらしい。なにか悪態をつきながら、さっさとプラットホームまで走っていってしまった。 「あ゛ー…」 逃げていくPKの背中を見つめ、私はなんだか居心地が悪くなった。私何もしてないのに…いや、何もしてないから居心地悪いのか。 「あの〜」 急に後ろから話しかけられて驚く。 見ると、さっきまでやられていた双剣士がいつの間にか私のすぐ後ろに立っていた。 「ありがとうございました! もうちょっとでお陀仏になっちゃうとこでしたよ〜。……てへ? ^^」 「てへ?」って… 素で言うやつ初めて見た。あまりに危機感を欠いた口ぶりに私は困惑する。 「ありがとうって…私なんにもしてないじゃん」 「でもあなたが来たから助かったことには変わりないじゃないですか。結果オーライってやつでしょw」 小柄なPCによく似合う、少年のような声だった。 小学生? でも最近の変声器は高性能だ。声の高さはあまりあてにならない。 「それにしたってあんまり困ってなかったみたいじゃん。PKされそうだったんだよ、アンタ」 「う〜ん…でもこれってゲームだよ? ならPKするにしたってされるにしたって楽しまなくっちゃ! あ、別にPKになりたいとかそういう意味でもないけど」 「それにしたって…怖くないの?」 「ぶっちゃけ怖いっすよ〜。でもそれも含めて面白くない? ^^」 思わず椅子からずり落ちた。 面白い? PKされるのが? なんて軽い考えしてるんだ、コイツ。 なんだかさっきの鎌闘士の気持ちが分かったような気がした。いたぶる相手がこれじゃあそりゃいらつきもするな。 …別に同情もしないけど。 「ところで、今一人なんすか? もしかしてヒマ?」 こちらのあきれっぷりをよそに、双剣士は話を続けてくる。 「よかったらレベル上げ手伝ってもらえません? さっきも言ったかもしんないけど、オレまだ始めて2日目なんですよ〜。もうやり方とかわかんなくって^^; 説明書読んでも何がなんだかぜんぜんだし」 唐突だね、また。 「まあこっちもヒマだから問題ないんだけど……分かった。獣神像までなら付き合ったげる」 「マジッすか? やりぃ!! ^^」 大げさに喜ぶ双剣士を尻目に、私は相手に聞こえない程度に大きなため息をついた。 なんだか独特のペースを持った奴だ。ひとしきり冒険したらどっと疲れそうな気がする…… ん? まてよ? そういえば久しぶりに人とまともに話せてた気がする。相手が子供みたいだから緊張することなく普通に振舞えたんだろうか。 自然とふっと笑ってしまった。 小心者だな、私。年下相手にしかうまく話せないなんて。 心に浮かんだ言葉は自虐的なものだったのに、なぜかそれだけじゃなかったふうに思えて、胸にのしかかっていたリアルの重みが、少しだけ、ほどけていったような気がした。 [No.641] 2007/04/24(Tue) 21:55:44 |