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◇ 手を伸ばす。 掻き消える。 何度もそれを求めては 届くことなく地を嘗める やがては人はあきらめる 理想の自分を描くのを 「人は変わらぬ」何故いえる? まだ終わってすらいないのに ● 「“しようか”?」 メンバーアドレスを交換しての第一声がそれだった。 「しようかじゃなくてあじさいだよ、あじさい」 「だってオレ漢字とかわかんないも〜ん」 わざとらしく口をとがめる相手に、私はがっくりと肩を落とした。 まあホントに小学生だったなら、“紫陽花”を“しようか”と読めただけでもよしとするか。 「そっちの名前は…“リカオン”?」 「そ。戦いの神様の名前なんだって。なんだか強そうじゃん?^^ でもめんどいからリオでい〜よ〜w」 そう言われましても…。 だったら何で最初からリオにしないんだよ。そうゆうロール? 「…とりあえず、まずは証のかけら集めるよ。それがないと神殿入れないんだから」 「は〜い^o^/ リーダーについていきま〜すw」 その後、冒険は順調に進んでいった。 レベル上げが主なので、私は敵を倒さない程度に軽くあしらいながらバトルの基本をリオに教えていった。 向こうも必死でついてきているらしくて飲み込みは早く、あっという間に獣神像の前まで来てしまった。 そして、宝箱の前で。 「ほんとにいいの?」 「適正レベルじゃないし、あたしがとっても役に立たないもん。アイテムはあんたがもって行けばいいよ」 「まじっすか? ありがと! も〜うけ^^」 そういってけりこんだ宝箱の中身は回式・鮫牙だった。 自分にぴったりのアイテムにリオはご満悦だ。 すぐに装備してステータスを確かめた後、ふと、もっともな疑問を口にした。 「そういえば、あっちゃんは何でこんなとこに来たの?」 「…あっちゃん?」 「あじさいだからあっちゃん。細かいこと気にしな〜いw 結構レベルあるのに、なんでこんな初心者エリアにいるのかな〜って」 「別に…どうせソロならたまには気分転換もいいかなぁって思っただけだよ」 ここに来た理由を思い出して、また急に気分が悪くなった。 ふてくされる私を覗き込んで、 「…もしかして、なんか嫌なことあった?」 いやなこと? そりゃ毎日さ。 こんなうじうじした自分自身が、嫌で嫌でたまらない。 まさかこんなことは言えずにふさぎこむ私に、なにか感づいたのか、リオは私を励まそうとした。 「いいよいいよ、なんもいわなくても。誰でも落ち込むことぐらいあるよね^^」 見掛けは子供っぽいくせして、いやに分かったような口を利く。私はついむっとして、リオに当たってしまった。 「アンタはぜんぜんそんなことなさそうに見えるけど? 不幸だなんて言葉しらなそう。何があってもお気楽で、楽しそうにしちゃってさ」 「楽しいもん。楽しいと思い込まなきゃ^^ 自分が不幸だなんて思い始めたら、普段なら笑って過ごせるような失敗もいちいち大げさになっちゃって、毎日落ち込み地獄じゃないっすかぁ( ̄3 ̄) そんなのやじゃない?」 無意識に手に込めた力に、コントローラーが悲鳴を上げた。 リオにとっては何気なかったであろうはずの言葉に、急に、過剰なほど心臓が締め付けられる。 今の自分がまさにそれだったからだ。 「誰だって失敗はあるし、そりゃマジへこむときもあるけど〜。自分が幸せって思える人と不幸だと思っている人との差ってそこだと思うんだ。幸せだと思える範囲の幅? どんなことでも楽しもうと思えば、自然と自分が不幸だなんて思えないものだよ^^」 気楽な発想、つたない話。 それでも、リアルでの積もりに積もったストレスが堰を切るのにはそれで充分だった。 「でも! それでもつらいことってあるでしょ? 失敗ばっかりで、誰にも見向きもされなくなって……! どんなにがんばっても報われないことだってあるんだよ!?」 自分が情けない。 私は急に何を言い出すんだろう? 何をむきになっているんだろう? 相手は今日あったばかりの、見ず知らずの年下だというのに。 急に声を荒らげた私に、それでもリオが動じることはなかった。 ただ、不思議そうに私を振り返る。 「誰も自分を見てくれないと思っているときは案外、自分が周りを見れなくなってるときでもあるんだよ? 相手のことをよく知らないまま、自分のことだけ分かってもらおうだなんてできないよ。みんな自分を見てほしいんだから」 「………」 私はそれ以上言葉が出てこなくなって、下を向いて黙り込んだ。 PCがコントローラー以外の動作のまねをするわけもなく、紫陽花は不自然にそこに突っ立ったまま動かなかった。 なんで? 相手に罵られたわけじゃない。 きつい事を言われたわけでもない。 ただ思っていることを直接言われただけ。 なんで、こんなに哀しいの。 「……え〜っと」 リオは雲行きの悪さに気付いたのか、居心地が悪そうに視線を泳がせていた。 我に返った私は自分の大人気ない行動を反省する。 そうだよね。あんたにするような話じゃなかった。いきなりこんな話されれば誰だってそりゃびびるよね。 「…変な話しちゃったね。宝箱も取ったし、そろそろ戻ろっか」 やりきれない空気を引きずったまま、2人はエリアを後にした。 [No.647] 2007/04/25(Wed) 20:58:02 |