![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
◇ 叫び続けて声は枯れ 走り続けて道に伏し 思い続けて未だなお それでも届かぬものがある 走り出すのが遅いのだ なくして初めて気が付いて 共に歩いた、その間 どれだけお前は気に留めた? ● あれから3日。昨日も今日もリオはいつもどおりで、まるで何事もなかったのかのようだった。 最初はいぶかしんでいた私も思い過ごしだったかと思えるようになり、リオが突然苦しみだしたことなど、日に日に頭から薄れていった。 もっともこれは、安心というよりは嘆願だったのかもしれない。 こんなにいいやつに何かつらいことが起こってるかもしれないだなんて、思いたくもなかったから。 その次の日。リオはインしていなかった。 少し早めに来すぎたかとも思ったが、約束した時間になってもリオは来なかった。 その日は特に深く考えず、久しぶりにドル・ドナのエリアで冒険した。 そしてさらにその翌日、土曜日のことだった。 「ゴメンね、昨日は来れなくて ( ̄人 ̄;)」 「別にいいよそんなの。でも、ほんとにどうしたの?」 すると、リオのくせして珍しく神妙な面持ちになる。 「えっとね……とりあえず、ダンジョン行こ?」 転送された先は洞窟エリアだった。所々にともった明りが暗闇に映え、控えめながらも神秘的だ。 「とりあえず獣神像の前まで行こう。そこで話すから」 そういったリオの声には、いつもと違って覇気がなかった。 何かあったんだ。少し緊張しつつも私はリオの後についていった。 「始めてあったときってさ、オレまだホントに初心者だったよね。チムチムをモンスターと間違えて攻撃したり、キャリーを他のプレイヤーと勘違いして話しかけたら殴られたりさ」 暗くて狭い抗道を歩きながら、こんなことを話し出す。 「どうしたの? 急に。今日のリオやっぱり変だよ」 軽く笑って見せたが、不安は隠せなかった。 「まあまあ^^でも一緒に冒険しててさ、オレ結構上達してきたっしょ? オレの光る才能もあると思うけどぉ〜……やっぱあっちゃんのコーチのおかげなんだよね。お礼、言いたくてさ」 さりげなくうぬぼれ入ってたのはこの際聞き流すとして、お礼って? まるで、今日でそれが終わるみたいな言い方。 「一緒に遊んでるうちに、オレに姉さんがいたらこんな感じなのかな〜って思えるようになってきたんだよね。な〜んか最初はぶすっとしてたし、いちいち反論してくるとことか、年下かもって印象だったんだけどw」 「…痛いとこ突くね」 地下3階。 いつもなら練習がてらすべてのモンスターを倒しながら進むのに、今日に限っては避けられる戦闘は避けて最深部を目指していた。 そしてとうとう、獣神像の前。 「で、話って?」 先に口を開いたのは私のほうだった。妙な空気に、気持ちが変に焦っていたのだ。 リオはというと、うつむいて何かをためらってるかのようだった。そして、じれったいほどにゆっくりと口を開く。 「あのね……オレ多分もうすぐインできなくなると思う。やめるんだ、The World」 突然だった。後ろから何かで頭を殴られたかのような気分だ。 「やめるって…何で? まだ始めてすぐじゃんか!!」 思わず声が大きくなる。 指は苛立ちからか、無意識に×ボタンを連打していた。 「うん…でもね……仕方がないんだ。もうすぐ手術が始まっちゃて、ゲームなんてできなくなるから」 手術? 私は数日前にリオが咳き込んでいたことを、ここまできてはじめて思い出した。 「……心臓かなにか悪いの?」 「ううん、近いのかな…肺だよ。入院してるんだ、今」 笑ってた。 でもどこか、切なげだった。 「今までもたまに発作はあったんだけどね、薬飲んで休んじゃえばそれなりに楽だったんだ。でも最近になって回数が多くなってきて、検査したら…大きな手術になるって」 長い沈黙。重たい空気を何とかしたくて、無理やりにでも口を開く。 「でもさ、手術終わったらまた遊べるんだよね? 卒業なんて言わないでさ…」 「成功するか分からないんだ」 強い口調でさえぎられて、私は肩をビクッと震わせた。私のほうがすでに泣きそうだ。 「…母さんも先生も大丈夫だって言ってくれてるんだけどね。寝てる俺のそばで話してるの、目を覚まして偶然聞いちゃったんだ。大金が必要だし、成功するかもわからない。覚悟はしておいて下さいって。……だから、絶対にプレイできるのは今日と明日まで。双剣士リカオンは、The Worldを卒業します!^^」 あぁもう、この子ときたら。 深く、重いため息が漏れた。 こんなときまで明るく勤める。どうして弱音をはかないの? どうしてもっと頼ってくれないの? もうちょっとぐらい、甘えてくれてもいいじゃんか。 「明日言おうかとも思ったんだけど、あっちゃん絶対怒ると思ってさ。先延ばしにするのもなんかな〜って^^;」 ほんとはずっと隠していけると思ったのにな〜、とつぶやく。今となってはすべてが虚勢だ。こんなリオは見たことがなかった。 やばい、かける言葉が見つからない。 私よりこの子の方がずっとつらいはずなのに。私のほうがしっかりしなきゃいけないのに。 私はこの子の、姉貴分なのに。 もうその後はどちらも言葉が出てこなくなって、沈黙のまま今日の冒険は終わってしまった。 自分に何ができるだろう? 何をしてあげられるのだろう? ベットの中で一晩中考えたが、結局その日は何の答えも出すことはできなかった。 [No.666] 2007/04/27(Fri) 19:53:44 |