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薄暗い部屋の中に、かすかな朝の気配が舞い込んできた。 午前3時。 私にとっては日がな一日を寝て過ごすためだけにある休日に、こんなに早くから起きるだなんてことは前代未聞だった。 カーテンを開けてみても外はまだ薄暗い。湿り気を帯びた微妙な色合いが、氷のような寒空をしっとりと包み込んでいた。カラスが鳴いている。 目覚ましをセットしたわけではない。なぜか自然と目が開いたのだ。 回らない頭の中では、ぬくい布団から出たくないという甘えと、早く起きなければだめだという奇妙な叱咤があまりにもゆっくりと葛藤を繰り広げていた。もっとも、体は布団の中でもぞもぞと動くばかりであったが。 数分の貴重な時間をかけた後、結局、なぜか休日には必要のないはずの叱咤のほうが勝ってしまった。 自分で勝手に決めたことなのに、とても嫌そうに布団を抜ける。 ―――何かやらなきゃいけなかった気がする…… 虚ろで定まらない焦点は、やがて一台のパソコンを見つける。 ―――そうだ、The world…… 寝ぼけた体はふらふらと机へ向かった。手に持った、かけなれているはずのM2Dが妙にずしりと重い。 それを、装着した。 マク・アヌは閑散としていた。 いつものような活気はない。ここがリアルであったなら、夕暮れの町並みとしては本来こっちがあるべき姿なのかもしれない。残念ながら今は朝方だが。 もちろん誰一人としていなかったわけではない。徹夜でプレイを続けている人もいるし、中には何らかの理由で朝早くからプレイに勤しんでいる人々もいた。 紫陽花とてその例外ではなかった。 私は一人、カオスゲートの前に立っていた。 そして一息大きな深呼吸をする。それと同時に紫陽花の体を光が包み込み、まだ見ぬ新境地へと私をいざなっていった。 再び目を開けると、そこには青空とビルの群れが広がっていた。さながら真昼の摩天楼―――Λサーバータウン、ブレグ・エポナだ。 もちろん来るのは初めてだ。PC育ては早いほうだったが、さすがにソロでは遅れが出ていた。 ここにもあまり人はいない。私はまっすぐ町の中へと駆けて行った。 目的は、クエスト屋だ。 「…では、このクエストを受けるんですね? 少々お待ちください」 NPCがプログラムされたとおりにしゃべる。 受けたのは、このタウンでは一番低レベルなクエストだ。ダンジョンも短ければあまり手間もかからない、ただボス一匹倒すだけのお手軽なクエスト。 だが、今の紫陽花のレベルでは、それは自殺行為に等しかった。 死んで帰ってくる可能性のほうが圧倒的に高い、無謀というにふさわしい挑戦。だが、今の私にはやり遂げなければならないという強い決意があった。 クリアできる確証はない。だけど、負ける気なんてぜんぜんしない。 だって、私は自信を手に入れた。そして今度は私が自信をあげる番だ。 出会えて楽しかった。一緒に冒険できてうれしかった。だから―― ブレグ・エポナの大空は、まるで私の背中を押してくれているかのように青く、青く澄んでいた。 [No.668] 2007/04/28(Sat) 19:57:49 |