![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
「…部屋掃除してたらメモリーカードなくしちまってたんだよ。だからしょうがなく、別垢とって初心者狩りやってたんだ」 「間抜けがw」 「うるせ」 私たちは歩きながら話していた。 2人とも私より年上だったらしい。ウィンチェスターは高校生で、陵にいたっては社会人だそうだ。 …何の職業か聞いたら黙ってしまったが。悪いこと聞いた? 「でも、なんでPKやめようとしてたんですか?」 「…それは聞くな」 『こいつちょっと前までは、こいつの姉貴とコンビ組んでPKやってたんだよ。結構名のあるPKだったんだぜ? けどあるとき、狩った相手が実は姉貴の片思いの相手だったってことが偶然分かっちまってな。結果、姉貴は大失恋。かなりのショックだったらしくて、PKはもうやらないことを堅く誓い、弟にも強要してるってワケ。こいつのねぇちゃん怖いからなぁ〜w』 「み〜さ〜さ〜ぎぃ〜、何べらべらしゃべってんだ!!」 「やべっ!! 聞こえてた!? ^^;」 陵は私にしか聞こえないように会話モードを切り替えていたのだが、間を読まれたのかすぐばれてしまった。 始まったおっかけっこにおもわず笑ってしまい、私の張りっぱなしだった緊張は少しほぐれた。 「そういや、クエストの内容は?」 「え? あ、ボス退治です。祭壇に装置を取り付けて、“ファタ”ってモンスターをおびき寄せて倒せばいいんですけど…」 「祭壇ってあれか?」 ウィンチェスターが指さした。私たちはいつの間にか、三つ目の祭壇のすぐそばまで来ていた。 私はうなずく。 全員が武器を構えた。 「俺が仕掛けるから、陵は術で援護を。お譲ちゃんは邪魔になんない程度に見てなw」 三番目の守護者は、ネス湖のネッシーみたいなモンスターだった。三匹いる。 「塵球至煉弾!」 「オルバクドーン!!」 降り注ぐ焼夷弾に海獣がもがく。 すかさず反撃に転じるが、2人は攻撃のパターンを見切って簡単にかわす。すぐにまた、獣に銃剣の一閃が入った。 「たるいな。すぐにでも屠れそうだw」 ウィンチェスターが余裕に笑う。 やはり強い。できる限りのサポートをしながら、私はひそかに感動していた。 「油断すんな、後ろだ!」 「は? …うげっ!」 瀕死のモンスターが、せめて刺し違えんとでもいうようにウィンチェスターの後ろに迫っていた。すでに口にはブレスの発射準備が整っている。避けきれない! 私は無意識にボタンを押していた。 「金剛発破掌!」 打撃が入る。攻撃としては頼りなかったが、瀕死の相手に止めを刺すにはそれで充分だった。 モンスターが、倒れた。色を失い風と共に掻き消えていく。 「ホラ見ろ調子に乗るから…」 「勝ったんだからいいじゃねぇかwそれよりほら、さっさと装置とやらを」 「はい!」 ウィンチェスターにせかされて、盛り上がった土の上に装置をつけた。これで全部。 反応はなかった。 「変だな、何も起きない……」 そういったのもつかの間、三つの祭壇のちょうど中心に当たる位置にうねりが生じた。 その空間だけ奇妙に揺らぎ、大きな陽炎のように立ち昇った。みるみるうちに膨らむそれはシャボン玉の表面のようにかき混ざっていき、やがて一つの影を落とす。 幻影は、人の形を成していた。 「あれが“ファタ”…」 ファタ・モルガナ、つまりそれは蜃気楼だった。 中世に高く名をはせた魔女、モルガン・ル・フェイの名を冠したその蜃気楼は、実は彼女の成れの果てだという一説もある。 「じゃああの影は、彼女本体なのかな…」 「気ィ抜くなよ。来るぞ!!」 影が、ほえた。 高く長いその雄たけびは、まるで彼女の叫び声にも聞こえた。苦しんでいるのだろうか? 「塵球至煉弾!」 ウィンチェスターが打ち込む。弾丸は怒涛のように魔女の体に降り注いだ。 ダメージは………――ゼロ。 「効いてない!?」 そうか、相手は蜃気楼だ。殴って倒せる相手ではない。 物理攻撃が効かないのであれば―― 「スペル攻撃! 物理攻撃じゃ多分、暖簾に腕押しなだけ。スペルで攻めればきっと……!」 私の声にうなずき、2人は戦法を切り替えた。陵が中心となり、私とウィンチェスターが呪符で攻める。 「ああアッ!!」 影が叫ぶ。よし、効いてる! 彼女は苦しそうにもがき、髪を振り乱した。 とたん、光の柱が私たちを貫いた。 「のわっ!!」 「オルレイザス!?」 一撃では満足できなかったらしい。彼女は呪紋を変えながら、休む間もなくスペルを乱射した。一番レベルの低い私を筆頭に、パーティーのHPがみるみる減っていく。 「私が回復します! 2人は攻撃を!!」 戦いは、激しさを増していった。 後は耐久勝負だった。 相手のHPが尽きるのが先か、こちらの回復が底を付くのが先か。すでにどちらが尽きても不思議ではない。お互いしのぎを削りあう、泥沼の戦いだった。 負けられない、絶対に。 自分のためにも、手伝ってくれている二人のためにも、 ―――なにより、私のこの勇気をくれた、あいつのためにも。 回復アイテムがついに底を尽いた。私は回復をやめ、意を決してすべての呪符を相手に叩き込む。 それは、最後の賭けだった。 「いっけえぇぇーーーッ!!!!」 赤い衝撃が画面を走った。 重なり合う強大な大爆発、相手のHPが0を差す。 影はよりいっそうの声を出して叫び、眩しいほどの鋭い閃光に貫かれる。その光に焼かれるかのように浄化され、長きに渡る私たちと影との戦いは、ついに終止符を打った。 薄れていく影の中から、やがて一人の美しい女性が現れる。彼女は消えいく間際、私たちに向かって微笑んだ。 ―――ありがとう。 まばゆい光は、空の青へと散っていった。 [No.696] 2007/05/01(Tue) 22:19:04 |