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パーティー全員に一つずつアイテムが提供された。クエストクリアだ。 「やった……!」 喜んだのもつかの間、ディスプレイの隅のタイマーを見て驚愕する。 「もうお昼!? 大変! 待ち合わせに遅れる!!」 紫陽花は慌てふためいた。 気持ちは急ぐが、2人にはまだちゃんとしたお礼もできていない。 「早く行ってあげなよ。大切な約束なんだろ?^^」 「でも、まだお礼が何も――」 私は口ごもる。こうしている間にも時間は過ぎていくというのに… 煮え切らない態度に腹を立てたのか、ウィンチェスターが会話をきった。 「あーもー、さっさと行けばいいだろ! 時間がもったいねぇんだろ? あんましつこいと、今度呼ばれても絶対来てやらねぇからな!」 「え? それってどういう……」 確かに、パーティーを組むときにメンバーアドレスをもらってはいたが、こっちと相手じゃレベルにだいぶ差がある。足手まといになるだけだし、世話になるのは今回限りだと思っていた。 「借りはまた今度返してもらう。もちろん利子つけて倍返しでなw だからこっちが招集かけたときはなにが何でも必ず来い。これで文句はねぇんだろ?」 ウィンチェスターがにやりと笑う。相変わらず人の悪い笑みだが、きっとこれが彼なりの優しさなのだと思う。 「ほらな? 悪ぶってるくせして、結構なお人よしだろw」 「だからうっせーっつーの! …行ってこいよ、待ってんだろ?」 そうだ、あいつが待っている。2人にはもう、なんとお礼を言えばいいのか。 「……本当に、ありがとうございました!!」 草原を出て、ブレグ・エポナを後にする。 私はマク・アヌへと、止まることもなく駆けていった。 夕暮れの街、マク・アヌ。 初めてここに来たときは、この見事な空の彩りに感動したものだった。 しかし今のリカオンには、別れの色以外には映らなかった。 ――怖い。 リオは一人、桟橋の上にたたずんでいた。 手術が近い。そう思うと震えが止まらなかった。 もともとこの恐怖と、病室に一人いることの寂しさを紛らわせるために始めたThe Worldだ。ここにいると楽しかった。嫌なことなんかすべて忘れられた。 だって、姉さんができたから―――。 でも、それも今日でお別れだ。また逢えるかどうかは分からない。 気持ちは悪いほうへとばかり動いていく。どんなに振り払っても、“もしも”のときのイメージが、まるで見てきたかのように、鮮明にまぶたに浮かんだ。そのたびに背筋から血が退いていく。 また会えるだなんて、とても思えなくなっていた。 嫌だ、怖い。だれか――― 「ほぉ〜ら、なに一人でしょげてんの。いつものあの元気はどうした?」 振り向いた。 「あっちゃん……」 そこには紫陽花がいた。何も変わることのない、いつもどおりの彼女が。顔を見たとたん、嬉しさと苦しさで胸がいっぱいになった。 この感情はいったい、なんという名前なのだろう。 「あっちゃん、オレ……」 怖いんだ。 言おうとして言葉が出てこない。 紫陽花がふぅっ、とため息をつく。そしてリオを見つめ直し、力強く歩み寄ってきた。 「ほら、コレ」 「?」 そういって渡されたアイテムは、双剣だった。 訳が分からず、リオが顔を上げる。 「これって…」 「それとってくるの大変だったんだからね? R:1時代の武器だったらしいんだけど、クエストの報酬用に特別にリメイクされたもので、すっごいレアアイテムなんだから!」 確かにすごい武器だった。ステータス画面を見てもレア度は五つ星で、レベルもリオからみれば目をむくような代物だ。 でも―― 「でもオレ、こんなレベル高い武器装備できないよ! それに、こんなのもらってもオレ…もう……」 語尾まで続かない。消え入るような声に、紫陽花は――― 「…ッだああぁぁーーッ!! いい加減にしなさいよもう! そんな弱気じゃ、治る病気も治んないでしょうがぁッ!!!」 まじめな空気をブチ破って、紫陽花が、そりゃあもう見事な雷を落とした。リオが唖然として固まる。 「それに何? “こんなの”って!! 私がその武器手に入れるために、一体朝からどれだけ苦労したと思ってんの!? 格上クエスト受けたり、PKされそうになったりさぁ! それをこんなのって……あぁもう!」 リオが双剣を返そうと出しかけていた手を、紫陽花はぐっと押し込めた。 「せっかく苦労してとってきてあげたんだから、つべこべ言わずに受け取んなさい! で、手術が終わったらそれが装備できるようになるまでスパルタ修行ね!!」 「でも、成功しなかったら…」 「失敗なんてないの! 最後は気力の問題なんだから。いい?」 紫陽花はリオの両手を強く握った。 感触など伝わるものか。なのに…何故だろう。少しだけ手が温かくなった気がした。 「死んだ後のことなんか生きてるうちに考えてどうするの! 今は生きることだけ考えて。あんたの手術は絶対成功するよ。むしろあきらめたりなんかしたらあたしが許さないんだから!! 分かった!?」 早口で一方的にまくし立て、紫陽花はすごい形相になっていた。息継ぎするのを忘れたせいで酸欠になり、ゼェゼェ言っている。顔が台無しだ。 リオはというとしばらくほおけて、まったく動くことができなかった。 しばらくしてやっと、思い出したようにはっとなり…… 「ぷっ…クッ………アハハ、アハハハハハハッ!!!」 なにがつぼに入ったのか、次の瞬間には身を捩じらせて大爆笑していた。 それはもう、発作が起きるんじゃないかと心配してしまうぐらいに。 「ま、まったく! なんてことしてくれたんだよ!! せっかくシリアスでそれっぽい空気だったのに、あっちゃんのせいで一気に吹っ飛んじゃったじゃないかぁ!! ^^;」 さっきまでの重たい空気を返してくれよ、今まで必死に悩んでた自分が馬鹿みたいじゃないか。 もう、自分が死ぬかもしれないなんて実感はどれだけがんばっても沸いてこなかった。手術なんて怖くない。死なないんだから。終わればすぐに、また逢えるから。 「そうだよね、こんなうじうじしたのなんてオレらしくないよね! ありがとう。あっちゃんのおかげでやっと決心が付いた」 リオが微笑んだ。一点の曇りもない、あのいつもの無邪気な笑顔だ。 「…病室の窓からね、庭にアジサイが植わってるのが見えるんだ。あんなにきれいな花なのに、梅雨が終われば枯れちゃうんだよ? 雨の中でしか輝けない花なんだよね」 紫陽花が静かになる。リオは、声を明るくした。 「でも、あっちゃんは枯れないんだね。雨が終わればもっとキラキラ輝くもん。オレもきっと、雨が終わればまたきれいに咲けるよね?^^」 リオの無邪気な質問に、紫陽花は優しく微笑んで―― 「電波?」 「…オレ今いいこと言ったんだけど」 その後の冒険といったら、せっかくエリアに来たのに戦わないで、ほとんどしゃべりこんでしまった。 草原の上で、他愛もないおしゃべりに2人は壊れるほど笑った。 しばらく会えないから話し溜めしておかなくっちゃ。再会した時には、もっともっとしゃべるんだ。 その時までには話の種を作っておかなきゃ。精一杯、今を生きて。 「名残惜しいけど――そろそろ終わるね」 「なぁに言ってんの、終わったらまたすぐできるでしょ!」 「その終われるまでが長いんじゃんか〜(T^T)」 街で別れるその瞬間まで、リオは双剣を大事そうに抱えて手放さなかった。 「すぐだって。じゃあがんばんなさいよ! またね、リオ!」 「…うん! またね〜!!~~ヾ^o^」 紫陽花との再会の約束。その武器の名は、「絆の双剣」―――。 ―――むかし、むかしの物語。ある仲のいいきょうだいが、青い鳥を求めて旅に出ました。 長く険しい道を越え、人は冷たくも温かく。 やがて彼らは道の果て、ついにそこへとたどり着きます。 “僕らは鳥にあえなかった。鳥はホントはいないんだ。 だけども僕らは鳥を見つけた。ホントはずっと、そこにいたんだ” 追い求めれば見失い、手を伸ばしたらすり抜けて、でも気が付けば、そこにいる。 人によっては違うけど 持たない人などいはしない。 たとえ迷って辛くても、見失っては嘆いても、 それでも僕らは歩き続ける。また逢えることを信じているから。 教えてください、あなたの鳥を。 あなたの青い、その鳥の名は――― [No.704] 2007/05/02(Wed) 20:32:49 |