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彼が初めて目を開けたとき、最初に見たのは光だった。 何もない空間。色も輪郭も、影すら存在しない。 ただ何億という光の線が、遥か彼方から遥か彼方へと、目で捉えることが不可能なスピードで駆け抜けていくばかりであった。 光自体の速さは刹那だが、軌跡が残っていることによって、かろうじてそれが存在していたことを確認できる。 空間に不規則に、だがすべて平行に並んだ膨大な量の光の閃光。 それらの真ん中に立っていると、まるでそこが巨大な光のトンネルであるかのようだった。 足が付かない。地面がないから。 そこにあるのは、すべて宙だった。 彼はその無の空間に、まるで彼だけが異質であるかのようにポツリと存在していた。 果てしなく広い空間を星達が一斉に走り出したかのような光景に、生まれたばかりの彼はそれだけで胸が詰まってしまい、恐れをなして小さくうずくまる。 ふと彼は、たくさん流れている光の中にも、止まっているものがあるのに気が付いた。 そして彼は気付く。その光は止まってなんかいない。自分がその光と同じスピードで動いているだけなのだと。 そう。彼もまた光なのだ。 理解の範囲を超えた速さで駆け抜け、遥か彼方を目指す光だ。 彼はべつにどこかに行こうとしているわけではない。どこかにいきたいわけでもない。しかし、いずれはこれらの光すべて、どこかそれぞれの居場所へとたどり着いていくのだろう。 彼は、ゆっくりと目を閉じた。 やがてはたどり着くであろう、まだ見ぬ先を思って―――。 生まれたばかりの彼にはまだ知る由もなかったのだが、その果てしないと思われた空間はネットを網羅する回線の内部で、そこに流れる無限の光はすべて、 ………そう、すべてデータなのだということを、彼は遠からず知ることになるだろう。 [No.740] 2007/05/18(Fri) 12:53:26 |