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「というわけで、今日から我らがギルド“飛砂の民”に、新しい仲間が増えることになりましたー」 @ホーム内で、陵(みささぎ)が棒読みした。 その姿を説明しろと言われたなら、“どこにでもいそうな平凡な若者”がベストだろう。ギルドメンバーの陵は、ベージュが基調の服を着た、あっさりしてて女好きな扇闘士だ。 陵やウィンチェスター、他少数のギルドメンバーが今そこに集まっている。 ギルド飛砂(ひさ)の民は、陵とウィンチェスターが現在籍を置いている場所だ。 床に畳の敷き詰められた和風っぽい内装のギルド。ギルドのマスコット、キビ☆ランディの後ろには「人生をサボるな!!」と、ど太い字で書かれた奇妙な掛け軸が、異様な存在感と共にそこにあった。ギルドメンバーは5人だけ。比較的小規模なギルドだが、メンバー全員の平均レベルは140前後という、上級プレイヤーの集うギルドだ。 ギルドの方針は、これといって存在しない。 時々にギルドマスターの気まぐれでなにか活動をすることもあるが、基本的にはとりあえずただ拠点として存在しているだけのギルドで、メンバーは自由気ままな活動を楽しんでいる。 ケストレルと似たような感じなのだが、人数が少ない分小回りもきくし、ギルド全体の結束力もおそらくこちらのほうが上だろう。 そんなギルドの@ホームで、陵の隣りに、照れた様子で可憐な少女が立っていた。 息がつまるほどきちんと着込んだ着物を、所々動きやすいようにカットしたかのような変わった衣装。少し背伸びしてエディットしたので、顔立ちは本人よりも若干大人びて見える。 髪は豊かに巻きがかかっている。頭のてっぺんは鮮やかだが抑えめなピンク色で、毛先にいくのにしたがって、星のきれいな夜空のような、深い青へと変わっていった。ごく鮮やかだが、不自然さは微塵も感じない。これまた見事なグラデーションだ。 この色合いはそう、まるで――― 「今日からこのギルドに入った、紫陽花…読み方あじさいでいいんだよね? 紫陽花ちゃんでーす。みんな仲良くしてね〜」 「えっと…よろしくおねがいします!」 紫陽花はぎこちなく挨拶した。 人前に出るのはあまり得意ではないらしい。どうやら緊張しているようだ。 華奢な体に似合わず、職業はグラップラー。 拳闘士紫陽花は今日、生まれて初めてギルドに入団した。 「は〜い先生、質問で〜す」 「はいなんですか? ウィンチェスター君」 何故さっきから小学校のようなノリなのだろう。2人ともやる気がないのだから仕方がない。 「紫陽花さんは〜、……レベルなんだっけ?」 「え? …今は109です」 「ならまあ納得出来るけどよ、問題は………そのとなりのチビ!!」 「え、オレ?」 紫陽花とは対照的に、ふてぶてしささえ感じさせるほどリラックスした少年が、彼女の隣にだら〜んと立っていた。呼ばれてちゃんと振り向いたのはいいが、呼ばれる前まではあきらかに退屈そうにそっぽを向いて、右から左へ話を聞き流していた。 ウィンチェスターの額に青筋が浮かぶ。 「お前はあきらかに初心者だろうが!! なんでこのギルドに入ってくるんだよ!?」 ウィンチェスターは少年に向かって怒鳴るように言い放った。 つい最近このゲームを始めたばかりのこの少年は、確かにこのギルドに入るのには少し場違いだった。 少年は一瞬どう返事をしようか考える。そしてパッと、憎たらしいほどの笑顔になって紫陽花の腕に抱きついた。 「だってオレ、いつでもあっちゃんとセットだも〜ん」 次の瞬間、ウィンチェスターが激昂したのは、もはや言うまでもないだろう。 いちいち神経を逆なでしてくる少年に向かって、ウィンチェスターは助走までつけて飛びかかった。 少年はそれを間一髪で避けながら、やべぇと言って逃げ出した。追いかけっこの始まりだ。 「……で、あそこでウィンチェスターに追われているのが、一緒に入ってきたリカオン、略してリオ君で〜す。レベルはまだ低いみたいだけど、みんなちゃんと気にかけてあげてね〜」 「は〜い」 暴れる2人に目もくれず、陵は残りのギルドメンバーに紹介を続けた。 紫陽花だけは2人が気になるようだったが、視線を向けるだけで、止めに入る気までは起こらなかったようだ。 視線を陵に戻す。 「じゃ、今度はこっちのメンバー紹介するよ。おーいリオ、ちゃんと聞いてるか〜? ……向かって一番左が“Sn”。ブランディッシュだ」 「…………」 Snと呼ばれた男は黙っていた。 うろたえる紫陽花を見て、陵はちょっと苦笑いした。 「あぁゴメンゴメン、こいつこういうロールなんだ。別に機嫌が悪いとかじゃないし、世話好きで結構いいやつだから^^;」 「は、はぁ……」 無口で世話好き。不思議なロールだ。 「で、そこのフリッカーが“ブリュンヒルデ”。PCは女だけど中身はオカマw」 「コラアァァ!! せめてネカマって言えぇ!! ……アジサイちゃんだったよね? 何か分かんないことでもあったら、なんでも聴いていいからねぇw」 語尾にハートマークでもつきそうな猫なで声で、ブリュンヒルデは手をひらひら振って挨拶した。 見た目的には年上のお姉さんなのだが、戦いになればその大鎌で、容赦なく相手を切り伏せるという。一応このギルド内に2人いる、レベルMAXのうちの1人だ。 「で、俺はご存知ダンスマカブルの陵(みささぎ)で、後ろでドタバタやってる性悪で無愛想な大男が、紫陽花ちゃんも知っての通りスチームガンナーのウィンチェスター。まぁあいつと俺でここに誘ったんだし、言われなくても分かるよね?」 「はい、大丈夫です」 ふとウィンチェスターとリオを見ると、ちょうどリオが捕まったところだった。首根っこをつかまれて、それでもまだ逃げ出そうと大暴れしている。 紫陽花は先月、この2人に助けてもらったばかりだった。 大きな手術を間近に控えて落込むリオを元気付けるため、紫陽花は無謀にも上級クエストにソロで立ち向かっていった。当然の如くボロボロになるが、そこで彼らと偶然出会い、成り行きで協力を得て見事クエストクリアを成し遂げることが出たのだ。 リオの手術も無事成功。 退院もできて落ち着いてきたところなので、良かったらこのギルドに入らないかということで誘われて今に至る。 陵は紫陽花に向きなおり、陽気に大きく微笑んだ。 「紫陽花ちゃん、ここが俺たちの@ホーム。ギルドに入るのは初めてだったよね?」 「はい」 「これからはここを好きに使っていいから。自分の家だと思ってくつろいでね。なんせ@ホームだしw」 紫陽花は部屋を見回した。 簡素ながらも、しっかりとした造りの部屋だ。 このゲームはそれなりに長くやっているが、なんせずっとソロ活動だ。ギルドに入る機会にはあまり恵まれていなかった。 ここが初めて入ったギルド、初めての家。そして今目の前にいる、初めての家族たち。 正直、不安がないといえば嘘になる。でもきっと大丈夫。うまくやっていけると思う。 今の私ならきっと何があっても笑っていけるはずだから。そう思っていられる限りは、何があっても大丈夫。 うじうじ悩んでた半年前とは別人だった。 でもそれを一番実感してるのは、きっと本人なのだろう。 [No.744] 2007/05/19(Sat) 15:33:47 |