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綺麗に整列された棚から、心地よい冷気が落ちてくる。 学校の放課後、俺と潤一と翔吾は校外のコンビニまで昼飯の買出しに来ていた。 俺たちのほかにも同じ制服を着た高校生たちがちらほらいる。皆、冷房の効いた店内から、外の鬱々とした猛暑の中に帰るのを嫌がっていた。 「ってか、こんなに暑くなるとか聞いてないっつーの」 「あー、外の電信柱がゆれて見える〜。部活とかマジ行きたくね〜」 潤一と翔吾が交互に愚痴をこぼす。 俺はペットボトルの並んだ棚の前で、出てくる冷気を全身に浴びていた。 シャツが重い。学校指定の灰色の夏制服は、外を通ってくる間に汗でビチャビチャになっていて、胸に背中に、今や不快にも身体中へとまとわり付いていた。 だがそれも周囲に熱を奪われて、徐々に冷たくなっていく。 「こんな日に練習とか、ぜってぇ倒れるだろ。このままフケねぇ?」 「でも遅れると柴ガッパがうっせぇんだよなぁ。無駄に熱血しやがって…」 「まぁ試合近いしな。うちの部じゃせいぜい予選落ちだろうけど」 「やる気でねぇー!! マジ退部希望ー!!」 柴ガッパというのは、我がバスケ部の顧問、小柴先生のあだ名だ。なぜあだ名がカッパなのかは……まぁ、言わなくとも想像付くだろう。 ラベルの目新しさに惹かれて、「お茶の里 こいしぶ」と書かれたボトルを手に取る。今日の俺の昼飯は冷うどん。コンビニは何でもそろっている。 潤一はカップめんを手に、翔吾も、散々読みまわされてボロボロになっている雑誌を棚に戻してレジへと向かった。 「あ、やべっ足んね〜。誰か200円!」 「またかよ…こないだの500円だってまだ帰ってきてねぇだろ」 「小銭ぐらいで…お前絶対A型だろ。いいだろケチケチすんなって!」 潤一に合掌して頼んでいるのは翔吾。店員もあきれ気味で、少々目が冷め気味だ。 「ったく、ぜっってー今度なんかおごれよ!」 「分かったって。わりぃな!」 折れたのは潤一。渋々と100円玉を二枚渡す。 どうせ帰ってこねぇだろ。 俺は密かに思ったが、声にまでは出さなかった。 「へ? 今日はもう終わり?」 体育館へと戻るなり、隣りにいた翔吾が素っ頓狂な声をあげた。 普段のほこりっぽさすら湿気と熱気で掻き消えた練習場では、すでに人もまばらになって、一年生が道具の片づけを初めていた。練習もまじめでなかなかいい一年だが、2年生が俺たちだ。一年後はきっとこうなっている。 今俺たちとしゃべっているのは、最近入ったマネージャーの女子だった。 「そ。なんか先輩たちが文化祭の準備で、体育館使うらしいよ。だから今日の練習はもう終わりだって」 「なにそれ!? ちょ、俺ら聞いてないてないんですけどw ……ちきしょ、カッパの野郎おォッ!! ないなら無いっていえっつーの!!」 「別にいいっしょ、練習やらなくてすむんだし。てかむしろ大歓迎!」 「そーそー。あぁ、奇跡って起きるもんだな〜!! ゲーセン行こうぜ!! 自由が僕らを呼んでいる!!」 「お、いいねぇ!」 フォローに翔吾が乗ってくる。 どうやら怒ったのはフリだけだったらしい。部活がなくなったと聞き、一番喜んでるのはおそらく翔吾だろう。心の中では見事なガッツポーズ。 「じゃあ行こうか!」 「ちぃ待ち! 俺はちょっと家まで財布とってくる! 学校から近いし、どうせ2人とも貸してくれないだろ?」 「あたりまえ。っていうかさっきの分も返せよ」 「……へ〜へ〜」 ノリノリの2人。 俺も付いていきたいところなのだが… 「わりぃ、今日は俺パス」 テンション崩したようで悪いが、オレは2人にそう言った。 「えぇ〜!? なんで〜!?」 「やんなきゃいけないことがあってな。まぁ急ぎじゃないんだけど、なんていうか…」 「……あぁ、また姉ちゃんがらみか」 潤一が、蛇がカエルを丸呑みするのを目撃したかのような表情でうなずいた。2人とは付き合いが長いので、こういうとき、気持ちを察してくれやすくて助かった。 「………わりぃ」 「いいよ。お前のねぇちゃんが気まぐれで、怒ると手がつけられなくなるのは知ってるから。姉さんがらみだったらそっちのほう優先にしてくれていいって」 「そーそー、気にすんな! だってあれだろ? お前の姉ちゃん、高校時代にたまたま居合わせたコンビニで強盗にあって、その場で素手で犯人のし上げたとか、因縁つけてきた西が丘高の3年連中返り討ちにしてやったとか…」 われながら思う。どんなねぇちゃんだよ。 「しょうがねえ、俺たちだけで行くか…。じゃあな、春樹!」 「また明日な〜!」 2人と別れを告げる。 2人が出て行ったその後も、俺はしばらく2人の背中が消えるまで、校門を見つめてその場にじっと佇んでいた。 ………はぁ。 まったく姉貴はどういうつもりなんだ。いきなりあんなレベルの高いクエストに挑戦しようだなんて。 おかげでメンバー全員昨日から大混乱だ。姉貴の奔放は今に始まったことじゃないが、せめてもう少し後先考えて行動してはくれないのか。 思えばいつもそう。 小さいころから振り回されっぱなしで、俺には姉貴の行く先を見極めることなんてできなかった。いつもあかるく豪快で、姉貴が泣く所さえ見たことがない。家にいるとしょっちゅうからかわれたし、姉貴の卒業後はすぐに都会へとひとり立ちされてしまった。おかげで、家には今、口うるさい両親のもとに俺一人が残されている。 ったく、さっさと抜け駆けしやがって。今頃どこで何やってんだか… 家に帰り、かばんを乱暴にほおり投げ、シャワーを浴びたらすぐにディスプレイの前に立つ。 開くのはもちろんThe world。 姉貴が俺を振り回せる場所は、今やここだけになっている。 2ndはキャラは姉貴に知られていないのだが、レベル129まで上げたキャラは、そうそう簡単には捨てられない。 本名、遠野春樹。 キャラの名前は、ウィンチェスター。 [No.865] 2007/07/29(Sun) 21:32:21 |