![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
マク・アヌの噴水前。オレの目の前には……あの人。 「依頼?」 「ちょっとぉ、まんま単語で言わないでよ。主語を言いなさい照々という主語を」 「お客様、依頼でございましょうか?」 まさか、あんなか弱そうで真面目なお嬢様がネトゲを。それもオレを打ち果たしたのがこの人だと思うと、調子が狂う。 ろくに目も合わせられやしない。そして、ついつい口調がきつくなる。 「病弱だったのは小さいときだけだよ?」 「あ、そ」 「意地悪だね〜。それはさておき、折り入ってお願いがあるんだけど」 「何?」 オレの思考を……―――オレってそんなわかりやすいヤツなんかなぁ……? すると照々は、ずいっと顔を近づけてきやがった。 「ギルド、建てない?」 「……ギルドの手助け?そんなことはしない」 現実逃避というのか、ワザとらしくとぼけてみた。 「アタシと、ギルドを経営してみないかって言ったの!」 「どうしてオレかなぁ……?」 「だって、陽翳は今までは独りで商売してたんでしょ? それほどの腕を持ってるなら、もっと社会に貢献したほうがいいんじゃない?」 言われてみると、確かにオレはずっと独りだったかもしれない。 友人に勧められてやり始めたけど、実際プレイをしてみると独りで活動する方が多くなっていった。 PKをやり始めたのもそんな時だ。もとは単なる暇潰し。いつしかそれはオレの糧となり、オレの存在意義を語るまでになっていたけど。 「……社会貢献、か。そんなんじゃないけどPKにも飽きてきたし、いいかも。けど、二人だけでか?」 「う……」 そりゃ、一桁の人数でやってるギルドもあるだろうさ。でも二人じゃ同好会もままならないだろ? まぁ、皆無とは言わないが。 「あの……そのギルド、私も参加してよろしいでしょうか?」 突然、オレの左方から声がした。弱々しい女の声。そこには、ブレザーのような服装をしたPCが立っていた。 「え。ラギ?」 照々が驚きを隠さずに呟いた。どうやら知り合いのようだ。 「知り合いなのか?」 「う、うん。たまたま学校でね」 「はい。私はラギ、安らぎのラギと申します。以前は《月の樹》に所属しておりました」 「《月の樹》ねぇ……」 オレは当然渋る。《月の樹》といえば、PKにとって天敵みたいなもんだからだ。 「あれ。いつ抜けたの?」 照々はそんなことを気にも留めず質問する。お前もPKしてることには変わりないだろ…… まぁ、リアルでも知り合いの仲なら当然か。 「だいぶ前には。欅派だの榊派だの派閥争いにうんざりしてしまいまして、単身、援助活動をしておりました」 「で、ちょうどいいところにオレ達が話をしていたと」 「その通りでございます」 にこやかに笑い掛けるラギ。 それだよ。その胡散臭い笑顔が嫌いなんだ。 《月の樹》ってのは人が良いよさそうな作り笑顔で、信者を増やしていくような連中だ。 そんなオレの思考を察したのか、ラギは黙り込んだ。 「まぁまぁ。ラギはあくまで、元メンバーだよ? 抜けたんだから。陽翳もそんな気にしないで、ね?」 縋るような仕草で近づく照々。言われてみれば、そっか…… 「で。ギルド創設するにしても、何やんのさ?」 「え? それって、一緒にやってくれるってこと!?」 「……そのつもり、だけど」 照々は目を輝かせて、思わずオレが仰け反るくらいにさらに近づく。 はい。そこで、ラギが挙手。 「やはり、ここは支援的な活動が良いのではないでしょうか」 「は?」 「陽翳様は今までにも、PK関連で商売をなさっていたのでございましょう? それに、私も《月の樹》で救援活動をしてましたし」 「アタシも賛成〜!」 「………てなわけで。中・上級者支援ギルドに決定!」 初心者は相手をするのが面倒、という満場一致の意見で、レベルも近く、話もしやすい中・上級者のサポートをすることになった。照々もオレもバトルが趣味、というのも大きな要因のひとつだったけど。 ――――それが将来、おもいっきり後悔することになるとは思ってもみなかったが。 「ギルド名はいかが致します?」 「太陽に日陰、それに安らぎ……か」 PC名の由来を呟いてみた。やっぱ創業者の名前は残したいからな。 照々は明らかに日が照っているという意味だし、オレもまんまだ。ラギは、さっき自分で言ってたしな。 「海?」 「なんでだよ」 「じゃあ、リゾート」 「そっから離れろ!!」 さっきっから暑苦しいことしか言わない照々。確かに夏もだいぶ近いけどさぁ……。 「オアシス……なんていかがです?」 オレと照々の妙な物議を見ていたラギが、ふと提案した。 「オアシスかぁ。いいんじゃない? ね、マスター?」 「おう」 素っ気なくオレが答えると、照々は驚いたような表情を見せた。 「え? ギルマス、やってくれんの?」 「やってやるさ。てか、最初っからそれ覚悟の上だ」 「じゃ、よろしくお願い致しますね。我がマスター」 ラギも認めてくれたようだ。照々もようやく我に返ったように頷いた。 ホントのこと言うと、いち企業の社長って一回やってみたかったんだよな。 「じゃ、誰もがすぐに立ち寄れるという意味も込めて《あずま屋 オアシス》に決定。活動内容は中・ 上級者支援でOKな?」 オレが宣言すると、二人は大喜びした。 「では。私はギルド創設の手続きをしてまいりますね、マスター」 「アタシはメンバー募集してこよっと♪」 二人はそれぞれに散って役目を果たしに行った。 ……オレ? オレは何をするのか判らんかったから、ただそこで仁王立ちしていただけだ。 [No.894] 2007/08/19(Sun) 15:23:27 |