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偽アトガキ - 宴六段 - 2007/08/17(Fri) 17:33:16 [No.892]
2://www."riquest‐イライ. - 宴六段 - 2007/06/28(Thu) 15:19:38 [No.803]
アトガキモドキ(汗 - 宴六段 - 2007/06/28(Thu) 15:29:17 [No.804]
1:www.”world‐セカイ”. - 宴六段 - 2007/06/21(Thu) 17:34:43 [No.792]


4://www.reserch-チョウサ. (No.791 への返信) - 宴六段








寸前の生






寸前の死











一寸先には何がある?















4://www.reserch-チョウサ.






______________________________________




















 「――――旅団の監視、ねえ……」


 俺は迷っていた。 依頼を受けるか否か。


 ここは寝室のPC前。 すでに三十分は思考しているだろう。


 ……いや、もうあの状態では受けたも同然なのだろうが、今この状況において考えてしまう程大問題だと感じる。


 実はまだ、匂宮に納める分のGPが足りていないのだ、『少し』とは言えない額が。 澪からの依頼――旅団の調査の報酬金は結構な額だったし、恐らくそれに俺自身の金を足せばギリギリ届くだろう。 しかし、俺の金を動かすのは回避し、忌避しなければならない。


 今俺の所持金全てを使えばノルマに届く。 が、それはある意味請負人生命を絶つということにもなりかねない。


 『何故か』、簡潔に答える。


 それは勿論、回復アイテムが買えないからである。


 全額使えば、アイテムという一種の任務遂行中の"保険≠ェ使えなくなる。 イコール、ある程度のGP――『ある程度』とは言っても、一般PCから見れば結構な額だろう――を貯蓄しなければならない。 イコール、その間にノルマを払えずに、"事務所消滅=Aという嫌な方程式……しかも絶対式が成り立ってしまう。


 このような事を避けるために、依頼人からの報酬の振込先は@ホームと同等の機能を有した事務所にしていたのだが……、失敗したかな。


 今月を生き残るために、残された道はひとつ。


 「依頼を受けるしかない、か」


 ……嫌だけど。


 つーことは、彼女はうちの顧客と言う事になるのか。


 我が事務所では、同じPCに二回以上の依頼を受けると、事務所に自動で顧客として登録されることになっていた。 現在登録されている顧客は十数名程度。 その半数が未だにうちに依頼に来る。 何だか物騒な世の中ですな。


 ま、それで儲けさせてもらっているのだから、何も文句は言えやしないが。


 というか、澪よりも先に依頼に来いよ、顧客……!


 俺って常時ピンチな気がしてきた……。


 とにかく。


 依頼は受けるとして、まだ問題がたくさん。 いや、別に大したものではないのだが。 俺個人の中では"一応″lえておかなければならない事、それが残っていた。


 すなわち、"澪は何故、旅団を監視≠オたいのか。


 請負人への依頼に意味を成さない"物=者≠ネど、何もない。 PKにしろ、PKKにしろ、悪意や復讐心、それが個人的、または組織的な"カタチ≠ナ存在するのだ。 絶対と言い切ってもいい。


 ――――――『請負人ってのは、正義の味方なんだよ』


 違いますよ、藍華さん。


 ……大言壮語、です。


 請負人はそんなに綺麗な職業じゃない。


 たとえ、貴女がそうで在ったとしても。


 俺と貴女とでは、全く違います。


 まるで対極。


 俺は――僕は逆なんです。


 貴女が正義ならば、俺は悪。 貴女が表であれば、俺は裏。


 表世界の正義に対して、裏世界の悪。


 正義と誠意の貴女と、悪意と殺意の俺。


 「……呆言だぜ」


 無駄に思考を費やしてしまった。


 とにかく、悪意やら何やらを代行するのが"俺の請負=B


 他に例を挙げたら限が無いので、この辺でやめておこう。


 しかし、澪はそれらの感情が見て取れない。 はっきり言わせて貰うと、無いと言ってもおかしくは無い、と俺は思う。


 普通に会話している最中には感情剥き出しの彼女が、だ。


 内容が内容だけに、気になって仕方が無い。 かなりの違和感である。


 俺はその手の違和感はバッタバッタと切り伏せていきたい人間、否、請負人である。 今回もかなりきな臭い。 ひょっとすると、今までで一番かもしれない。


 だが―――。


 推理、ではなく推論を組み立てるには情報が不足している。 全く無いといっても過言ではない。


 今度は無駄ではない思考をしながら、PCの前へと移動する。 椅子に座り、手馴れた手付きでM2Dを手にとって、これまたごく自然な動きで装着。 電源を入れて装着完了。


 すぐに"The World≠ヨのアクセスを開始した。










******









 Δマク・アヌ。


 請負人事務所に、俺はいた。 "The World<鴻Oインしてすぐにここへ来た……、というわけではない。 実のところ、『旅団の監視』という困難かつ面倒な依頼をこなそうと思い、こっそりと、気付かれない程度に旅団を尾行したあとに、事務所に帰ってきているのだ。


 『旅団の監視』という事は、すなわち動きがあれば教えろ≠ニいうことに他ならない。 しかし、オーヴァンを中心とする旅団が、このThe World≠ノ点在する喪失の地――ロストグラウンド――=Aアルケ・ケルン大瀑布(旅団は稀にこの地を拠点にする事があった)に集合したのちに、二手に別れて行動し始めてしまったので、オーヴァンが付いていたハセヲの方をマークしていたのだが……。


 ぶっちゃけた話、ずっとオーヴァンと志乃による支援でハセヲがレベルを上げているだけだった。 もう片方、タビーと匂坂の方についてもらっていた彩音……、じゃない、紫に交替してもらった。 あちらもレベル上げをしていた最中に休憩に入ってしまっていたらしい。


 だから、オーヴァン達のいるエリアに来てもらってから、交替。 そして、ルートタウンに戻ってから匂坂達のいるであろうエリアには行かず、こうして事務所で休んでいるという事である。


 ……ばれたら、あとで怒られるだろうけど。


 「しっかし、澪は何を考えてるんだろうなあ……」


 全くをもって、分からない事が多すぎだ。 それに、いつまでの期間、彼らを見張って置かなければならないんだろうか。


 そうだ。 後でメールを送っておこう。 こういう事は訊いておかなければならない。 あとで物凄い損をする事になるという事は、今までの経験から苦しい程よくわかる。


 自分に言い聞かせてから、思考も独白も停止。


 …………。


 …………………。


 ……………………………………。


 ……………………………………むう、こちらはこちらでやる事が無いな。


 俺はゲームの中だということをわかりつつも、長椅子に寝転がる。 頭の後ろで手を組み、足を手摺りに乗せた。


 せめて緊急の仕事でも入ってくれればなあ……。 仕事と言っても、匂坂達の所に戻るのは面倒過ぎるし。


 あ、やば。


 本当に眠たくなってきたかも。


 けど、寝落ちなんてしている所を彩音に見られたら……、恐いなぁ。


 あ、でも怒ったら怒ったで可愛いかもしれない、とか考えている俺は変態なんだろうか。 つい、彼女の怒った顔を思い浮かべてしまう。 頬をぷくー、と膨らませた表情。ちょっと笑ってしまった。


 かなり面白い事を思考しつつ、長椅子の反対側の窓際のグラフィックへと目を向ける。 そこにあるのは高さはちょうどいいが、しかし幅が広いとは言えない小さな机。 実は事務所宛ての依頼メールは匂宮のシステムを介してこの事務所に届くのだ。 なんというか、匂宮の趣味というか、グラフィックまでこだわっているのは脱帽物である。


 メールが転送されて来るとこの机の上にウィンドウが展開され、俺や彩音はそのメールを開いて依頼を確認、そのあとに個人でショートメールで返信しているのだ。


 「……いや、暇だな」


 思考すらも面倒臭い。 本当にこのまま眠ってしまいそう……。


 ゲームの中のルナ≠フ目が霞む。


 とまで考えた瞬間、見つめていた机の上……ではなく、俺自身にショートメールの着信を知らせる軽い音。


 長椅子に横になったままショートメールを開封、内容を確認する。


 <通常の草原フィールド、『Δ雅なる 早秋の 成れの果て』にて、何人ものPKが暴れている。 さすがに一般PCから苦情が出たので、鎮静化させて来い>


 送り主は匂宮だった。


 苦情、ね。


 The World≠フ仕様や利用規約で公式にPKは認められている。 というか、それ以前では考えられないが、確かにThe World R:2≠ナはPKシステムを売りにしているのだ。


 ――――だからと言って、行き過ぎた殺人行為≠野放しにするわけにはいかない。


 ただし、管理者達は表立って迷惑PC≠ノ介入するわけには行かない。 だからこその、俺≠ネのだ。


 ……確かに暇だし、迷惑PCの鎮圧も請負人の仕事のうちだが、命令口調はどうかと思う。 ま、彼は一応この事務所の家主みたいなものだから俺は文句も言えやしないが、もう少し柔らかい口調にはできないのだろうか、とか愚考してみる。


 いやっ! 柔らかい口調の匂宮などキモ過ぎて見るに堪えない……。


 第一、奴はフィアナの末裔の片割れ、しかもよりによって俺の知り合いの蒼天≠フ格好をしていやがるのだ。 もちろん、管理者特権で背中から翼も生えている。 …………俺への嫌がらせか?


 そんな格好で『大丈夫?』とか言われたくねえよ……。 目の部分にゃ、M2Dみたいなのを掛けてるし。


 ん、でも確か翼のグラフィックは自作だったんだっけか?


 っと、思考を横飛びさせてしまっていた。 そろそろ行かなければ、苦情は凄まじい事になるだろう。 そのクレームは全て匂宮行きだから、別にいいんだけれど。


 「さて、と。 そんじゃ、張り切って商いに行きますかねえ……!」


 俺は外に向かって歩き出した。












******













 そこ≠ヘリアルでは無いというのにもかかわらず、死臭が漂っていた。


 ゲームの中だというのに。


 虚飾そのものの世界だというのに。


 暴れまわっているはずのPK達のグループはおらず、苦情を送ったはずの一般PC達の姿すら存在してはいなかった。


 否、存在してはいけないと、ここには人が存在してはいけないという印象を強く℃けた。


 ここ――Δ雅なる 早秋の 成れの果て――には唯一俺と、前方にいる男性型PCだけであった。


 そいつの姿そのもの≠ヘ一般に存在するPCとなんら変わりない。 だが、その身体は仕様外であるかのように黒く、否、そんな事よりも何よりも窪んだ様にはっきりとは窺えない目≠ノ宿る光が奴の禍々しさを強く象徴していた。 そして、PCが手に提げた刀剣は真っ黒なPCボディに比例するかのように、黒さと禍々しさを帯びていた。


 ―――こいつは、やばい。 俺の請負人としての勘が性急に、かつ早急に最大級の警鐘を鳴らしている。


 何だろう、この感覚は。


 不安と恐怖が一気に押し寄せてきている、といった感じだ。 このエリアの、今にも土砂降りの雨が降りそうな曇天がそんな俺の胸中を具現化しているようでさえあった。


 こいつは手に負えない、早くプラットホームからゲートアウトしなければ。 判じたときだった。





 ――――――そいつは殺気を形成した――――――




 俺の本能的な跳躍。 横飛びに飛んだ俺は、転がりつつ速度を殺す。


 ……先程まで立っていた場所に黒き影が、疾った。


 放たれたのは必殺の刺突。 結構な距離が開いていた――リアルに換算して20メートル程の距離だった――俺の所まで来る……、尋常でない速度だ。


 「っっ!!」


 立ち上がりつつ、思考。 無論、高速思考だ。


 間違い、無い。 PKのグループも一般PCをも殺ったのは、こいつだ。 PK後の仕様たる死体が無いのが気にかかるが、今はそれどころではない。


 奴の素早さは桁違い、否、桁外れ≠ネのだ。


 桁が違うのではなく、それを超越してまで桁が外れている。


 「匂宮め……、厄介に巻き込みやがって……!!」


 俺も本気を出さねば危うい。 というか、出しても生き残れるか……?


 応戦しつつ、撤退。 行動を決定。


 思考して、刀を現出させようとした時。


 「おっ、早くも発見〜♪」


 「へえ、やっぱBBSの情報も信じてみるもんだな」


 この様な場にそぐわない、暢気な声。 三人組のパーティーなのだが、俺の背後にあるプラットホームからこのエリアに入って来た様だった。


 今の言動からすると、このPCとこの状況について誰かがBBS、大手たるよもやまBBSにでも書き込みをしたのかもしれない。 三人パーティーは奴に近付こうとしている。


 きっと、高をくくっている。 これはゲームだというある種の虚構が生んだ安心感。 だが、このゲームには仕様を逸脱した状況≠ェ生み出される事がある……、それを知っているのはごく僅かな人間のみだが、俺はそれを知りえた。 七年前の、あのときに。


 だから、わかる。


 これは逸脱≠オている。


 完全に、外れてしまっている。


 危険だ。 彼らはただのイベント気分でここに来たのかもしれないが、しかし、奴は―――


 「そいつから離れろっ!!」


 三人に向かって叫ぶ。 彼らは奴に近付く足を止めてこちらを振り返った。


 瞬間、奴が動き出す。


 「蛾ッ、蛾亜亞ァァァァア亞アaaア阿アァアァアアアァA&ァァッッあsdklj」


 「…………!」


 耳に痛いほどの吠え声。 最早言語としての意味を見出せない、ただの叫び。


 意味不明の咆哮を上げた奴は、神速に近い速度で三人へと肉迫する。 文字通り見えない=wソレ』は三人の中心へと至り、一人、また一人と斬り狩ってゆく。 いや、斬るというよりも鈍器で叩き殺すといった方が相応しいかもしれない。


 食い千切る様にしてPCを狩っていくそれは、最後の一人へと刀剣を振り上げた。


 「ちょっ、何――――」


 最後の一人は他の二人と違い声を上げる事が叶ったが、しかし最後まで口を上げる事はできなかった。


 俺はその間中、何もできなかった。 ただ恐怖、していた。


 否、過去形ではない。 今も進行形だ。


 ――――アレハコワイ――――


 俺はその時、初めて理解する。 何故PCの死亡表示が無かったのかを。


 奴が殺ったPCは倒れたわけでは、ない。


 グラフィックのテクスチャが剥がれ落ちて、現れたのはデッサン人形の様な味気の無いPCの素体。 しかし、PCの名残であるとも言えるそれですら、ばらばらに崩れて散り、データの塵と化した。 最早人間≠フ姿は無い。


 周りに在るのは、バーコードの様な縦線が連なった解読不能なコード列。


 「やはり、か」


 現実世界――リアルの彼らがどうなったかなど、想像もつかないし、知る由も無いが、少なくとも彼らのPCはもう駄目だろう。 キャラの消失(ロスト)――。 それはこの世界≠ナの真の死を表していた。


 奴の周囲に渦巻いていたデータの塵は、前兆も無くひとつに収束を始める。


 まるで、意思を持っているかの様に。


 まるで、意思を持たされているかの様に。


 塵が集まり、奴はそれを見つめる。


 何を思ったか。


 奴は。


 それを。


 塵どもを。


 一気に。




 ――――喰らった。




 「っっ!?」


 性格には喰ったのではない。 全身をもって吸収しただけなのだ。 だが、その行為は何故か俺の頭の中に直接的なイメージとして焼き付けられた。


 酷い吐き気が襲う。


 本当に酷い、吐き気だ。 苦痛である。


 ……データを吸収する―――。 こんな事、まるで





 仕様を逸脱している





じゃないか。


 奴がまた動き始めた。 更なる殺意を目に宿し、更なる悪意を見に纏い、刀剣を構える。


 リアルでの俺が、どっと汗を噴き出す。 いや、リアルの俺? 今、俺はリアルにいるのか……?


 今更になって感じる。 自分の感覚が無いのだ。


 風が吹きすさぶ。 もしかすると、雨が降るのかもしれない。


 風を感じた=B ……感じただと? ゲームなのに?


 リアルの俺が、認識できない。 今認められるのは、The World≠ナの感覚のみ。


 ――こんな所で殺されたら――。


 「……冗談じゃない……」


 今はその思考を破棄する。 今現在のやるべきことは、この状況からの回避。


 排除ではなく、回避だ。


 逃げ出す事。


 ……奴が揺らぐ事の無い殺意と悪意で俺を見つめている。


 突然。


 本当に突然にその姿が霞んだ。


 奴は俺のすぐ横に出現した。 余りに速すぎて、現れた瞬間しか見えなかった。


 薙ぎ払う様に繰り出された刃。


 「っ!!」


 俺は上体を反らして、斬撃をかわす。 が、尋常でない速度で刀を振り切った体勢を整えられた。 振り下ろされる更なる追撃。


 次は上体を反らしたまま、地面に着地、身体を回転させて地面を転がる形で追撃を避ける。 転がった先でも、相手の攻撃を予測して立ち上がりざまに後方へへと跳躍。 案の定奴は俺の思ったとおりの場所――すなわち俺のいた場所――に刀剣を突き刺した。


 本気で冗談じゃない。 こちらに武器を出現させ、構える暇すら与えてくれはしない。


 「――――化け物かよ……!」


 更に刃が神速で迫ってくる。 身を横に捌いて避けるが、黒き刃が鼻先を掠めていく。


 考えろ、この状況を脱する方法を!


 奴は思考を途切らせる様な威圧感と共に、刃を走らせてくる。 もう長くは持たないだろう。 思考しつつしゃがみ込んで刃を回避した時。


 その回避方法を見越していたかの様に、俺の腹部に向かって繰り出される、蹴り。


 体勢が体勢だけに、避けられないっ!


 「かはっ……!!」


 蹴りの威力で空中を飛ぶ、身体。 先程とは違い、他意によって地面を転がった。 止まった先で、振り下ろされる、刃。


 「…………っ!!」


 開いた口が、言葉や音を紡ぎださない。


 もう、終わり……か。 結構早かったかも。


 つーか、こんな所で殺られんのかよ。


 彩音の顔が頭の中に浮かんだ。 キャラデータを失うのか、意識を失うのか――――。


 七年前のあいつ≠フ時も俺と同じ胸中だったんだろうか。


 ……いや、俺は思考がいかれているらしいから、こんな死≠ノなんの感慨も抱かない様な胸中では無かったのかもしれない。


 どちらにしても、PCルナ≠ヘ消えるだろう。


 ああ。


 このPC、俺が作ったんじゃなかったんだっけ。


 ごめん、彩音。 って、彩音が作ったわけでもないんだけどさ。


 刹那のうちにあらゆることを想った。 こういうのって、走馬灯が走る、とかいうのだったか。


 とうとう刃が俺の眼前に迫る。 俺は目を瞑らない。


 俺にはなんの感慨も無い。 なんの感慨も抱こうとはしない。


 俺の前には、結果だけが残る。 結果だけが、目に映る。


 結果。


 成果。






 ――――――奴の刃が、それと違う刃に阻まれた。






 「……なあっ!?」


 その刃は、奴のものと同じく黒くはあったが、日本刀の様なしなやかな姿であるためか、凛とした美しさがあった。 そして、鍔元に存在する目玉≠ェ禍々しさと同時に、異様な美しさを一層惹き立てていた。 刃の持ち主を探るべく、視線だけを動かした俺の顔は、驚愕に彩られていたに違いない。


 刀を握っていたのは、自らの手だったのだ。


 自分が刀を握っている――。 そう知覚した瞬間、思い出したかのようにずっしりと相手の力を体重を共に感じた。 しかしながら、自らの手にしている刀には重みというものを全く感じなかった。


 右手の刀から力が伝わってくる。 美しさに比例した、怖気が流れ込んでくるような、禍々しき力。


 ――――魔的――――。


 そんな言葉が頭を過ぎった。


 この刀には、美しさの中に魔的な何か≠ェ潜んでいる。 何故だか、わかった。


 俺は、奴の兇刃を切り払うかのように押し返す。


 爆ぜる、力。 力。 力。 力―――――。


 今までに無いほどの圧倒的な力を感じる。 自らの身体の内からではない、手にする禍々しい刀からの、力。


 悪魔に魂全てを売り渡した狂戦士の如き力だ。


 狂気に、兇気。 狂という兇。


 「…………」


 追撃をかける様に、自分と相手との距離を詰める。 力と同様、驚異の速度により距離は一気に零になる。


 相手の迎撃。


 先程まで捉えることのできなかった斬撃が、見える。 攻撃を直視し、捉えることができる。


 横薙ぎに払われた兇刃を、しかし俺は同じく兇刃でそれを受け止め、それを支点として中空へと舞い上がった。 その間、自らの刃に込める力を弛めて相手の刃を受け流す事も忘れない。


 相手が刃を空振っている数瞬のうちに、空中から奴の背後に降り立った。


 気付いた奴が焦ることなく空振った刃を流してくるが、もう間に合わない。 間に合わせてやるつもりも、こちらには毛頭ない。


 俺が放つは必殺の一閃。


 刃は奴の胴を易々と斬りに走り、一気に真っ二つに裂いた。 上半身と下半身が二つの部位に分解されて、地面を転がる。


 「…………」


 倒した、のだろうか。 鬼神の如き奴を。


 ――――――鬼神の如き力で。


 と。


 地面に転がっていた二つに分断されていた死体≠フテクスチャが剥げ落ち始める。 更にあのデッサン人形の様な素体も崩れて、コード列のようなデータの塵と化していった。


 データの塵は意思でも持っているかの様に、一気に俺の下へと向かい、押し寄せてくる。 身構えるがしかし、それらは奴とは違い、俺の体へと向かってきているのでは無いらしかった。 データが向かってきているのは、俺の手の内に在る漆黒の刃だ。


 近付いた途端、コード列は刀に吸収されていく。 吸収しているのは鍔元に象嵌された目玉=\―――。


 嫌悪感からか、背筋に冷たいものが走る。 やり方さえ違えど、奴と同じ事をしているのだ。 常人には堪えられまい。


 ―――そう、常人なら。 ……呆言だな、常人などといって俺は違うとでも言う気か?


 確かに俺の精神は正常ではないという意味では、常人ではないのかもしれないが。


 「……それにしても、だな」


 思考を切り替えた。


 何なのだろう、この力は。 手に在る刃に目を落とす。 データを吸収していたことから、さっきまでの奴と同じ異常の力なんだろうけど。


 「あるいは異形の力、か」


 ふと見ると刃は消失していた。 跡の形すら残さず、名残さえない。 消えたのも見るまでは分からなかった。 しかし、代わりであるかの様にその手に在ったのは、黒い炎。 掌に乗るほどの大きさであるが、墨でも流し込んだかの様に黒く、静かに燃える黒炎の中心に、先程まで手にあった刃と同じく目玉がゆらゆらと揺れていた。


 「…………」


 通常のアイテムと同じく、揺らめくそれは手に現したり消したりなどできるようだ。 現に今、武器と同じく消失させた後にまた出現させる事ができた。 だがどうやっても――どうやってもと言っても、何をやるのか思いもつかないのだが――、異形の刃を出すことは叶わなかった。


 「……一体何なんだよ……」


 「禍つ式≠ニ言うんだ、それは」


 突然、背後から声が飛んできた。 俺の独白に対する余りに早い即答。 声には聞き覚えがあった。


 やはり、この素っ気無くさばさばとした物言い、あいつに違いあるまい。


 体は前方向に向けたまま、顔だけをぐるりと回して振り返る。


 「――――――匂宮……?」




















 4://www.reserch-チョウサ. …………了。











______________________

アトガキ書



今回は本文の方へ書くようにしました!
いちいち別のレスの方に書くと、物凄い無駄だと今更ながらに気付いたので……(汗)

今回も異常に長いですね……。
実は時間も結構かかってるんですけど、一応Rootsに沿って話を進めているので、詰めないと時系列がずれてしまうのです(という言い訳)。

1話が長いと読むのが面倒ですよねー……(^^;)
こんな1話が長い小説ですが、どうか感想をお願いします!(結局それが言いたいんかい!)


[No.903] 2007/08/28(Tue) 16:58:24

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