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all .hack//pain 初回必読 - 宴六段 - 2007/06/21(Thu) 17:28:48 [No.791]
17://www.ruin-ハメツ. - 宴六段 - 2009/05/03(Sun) 11:59:23 [No.1291]
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6://www.rade-キシュウ.(11/30更新) - 宴六段 - 2007/11/01(Thu) 18:52:10 [No.971]
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5://www.guard-ボウギョ. 前編 - 宴六段 - 2007/09/24(Mon) 13:55:24 [No.936]
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偽アトガキ - 宴六段 - 2007/08/17(Fri) 17:33:16 [No.892]
2://www."riquest‐イライ. - 宴六段 - 2007/06/28(Thu) 15:19:38 [No.803]
アトガキモドキ(汗 - 宴六段 - 2007/06/28(Thu) 15:29:17 [No.804]
1:www.”world‐セカイ”. - 宴六段 - 2007/06/21(Thu) 17:34:43 [No.792]


6://www.rade-キシュウ.(11/30更新) (No.791 への返信) - 宴六段















 あるいは神秘か








 あるいは人の夢か










 存在価値に限りは無い











6://www.rade-キシュウ.

___________________________






 化け物、だった。


 もとあったであろう青年の形はない。 『ヒトガタ』は崩れ落ち、口は大きく裂け、目は爛々として鋭い眼光を放つこれ≠、『化け物』以外どう形容しようというのだ。


 もっとも、禍つ神≠ニいう種としての名前は存在しているが。


 「傲宇ぉォォ汚ォ尾O$&%#オオォ¥汚ォッッッ!!」


 汚泥に塗れ、もはや何を表しているのか不明すぎる咆哮。 叫んでいるのは『ヒトガタ』の形をとった異形。 人間を捨ててまで手に入れた力は絶大。 だが、人間を捨てたという事実は人の倫理観を捻じ曲げる。


 「汚ぇんだよ、声が」


 吐き捨てる、嫌悪感に彩られた声。


 勿論、俺≠アとPC『ルナ』。 手に提げているのは妖艶なまでに美しい黒刀。 美しい曲線を描いたそれの刀身部の根元には、もはや美麗とも言えるほどに禍々しい目玉が象嵌されていた。


 俺の、『矛盾』――。


 『ヒトガタ=PC』の『理性=プログラム』を狂わせる存在でありながら、順当な動作である不具合≠起こさず、同じ禍つ式を狩る『矛盾存在』。 これまでに遭遇したいくつかの戦闘で更に刀身が伸びていた。


 「誤ォォォオオ汚oぉ――――――」




 ――――――怨ッッッ!!!




 ここで一気に咆哮が爆発。 黒い身体が駆けてくる。 ただの棍棒と化した槍の様なものを提げている事からして、どうやら元は重槍士だったらしい。


 丸みを帯びたそれを、突いてくるのではなく叩き殺そうと上部へ振り上げる。


 ここで、俺が始めて動いた。


 振り上げた隙を突いて、そいつの脇を駆け抜けながらの一斬。 斬るのではなく、流すような一閃。


 閃いた『矛盾』は、禍つ神の巨大な体躯を二つに分解する。


 禍つ式でありながら、同胞たる禍つ神を刈り取る『矛盾』。


 それでもまだ、生きている♂ミつ神。 俺の顔には驚愕すら浮かばない。 全くの無表情。


 むしろ、この非日常に慣れてしまった自分に対して驚愕するべきだ。


 空中に上半身だけが浮いた化け物が、こちらに向かって怖気の走る様な笑い顔を浮かべた。


 腕を伸ばし、『矛盾』を掴もうとする化け物。


 「……させるかって、ね」


 黒刀が掴まれぬうちに後ろへ下げ、更に刃を翻させる。


 更なる下からの斬撃。


 翻った刃は既に片割れのひとつと化していた半身を、もう一段階分裂させた。 抵抗などこの世界には存在せず、慣性のみが支配する世界。


 ばちゃり。


 水の入ったビニール袋を地面に叩きつけたような音。


 最終的には三段階に分解された身体が地面に落ちる。


 「慣れたものだな」


 ふと見ると、少し離れて匂宮が直立不動で存在していた。 まさに神出鬼没。


 「その神出鬼没、マジでやめてくれ。 気持ち悪い」


 「『驚く』、ではなく『気持ち悪い』、か。 なんという言い様だ……」


 「これが本当の気持ちだ。 真摯に受けとめてくれ」


 「嫌だ」


 「…………」


 お互い口が悪すぎる。


 俺の方から仕掛けたわけではないので、この話はこの辺で置いておこう。 こいつと話すのは、いい加減疲れた。


 手前(てめえ)の始末は自分で付けろ、ってね。


 「で?」


 「『何の用だ?』くらいは言え」


 「手前と話すのは疲れたんだよ」


 常々思っている事を言葉にしてみた。


 「そうか、偶然にも気が合うな」


 ……あれ?


 「私も貴様の相手をしてやることにほとほと疲れているんだ」


 な、


 な、な。


 なんですと!?


 相手をしてやる、だと……?


 「手前は俺の事をどこまで見下せば気が済むんだよ……」


 「私は貴様の事を見下してなどいない」


 毅然として言い放つ匂宮。


 「これが貴様の当然の扱いだからだ」


 「黙れ!」


 それを見下していると言うのではなかろうか。 もう、本当に疲れた……。


 「……もういい、用があるんだろーが。 お前が出没したって事は」


 「人を野生動物みたいに言うな。 それに、何だその無気力感溢れる台詞は」


 「遠回しに隠蔽すんなよ。 さっさと用件を頼む……」


 「――面白い報せが入ってな」


 「…………」


 「良い報せと悪い報せ五分五分と言ったところだ」


 こいつの面白い報せというのは大抵の場合、面白味も無い『悪い報せ』であることがが多い。 それらの経験を総合すると、匂宮の話は聞きたくもなくなってしまった。


 だがまあ、調子に乗った匂宮は俺の心情などお構い無しに話を続けるわけで。


 「【陰華】の事なのだが……、こちらに気付いたようだ」


 「気付く? 何に?」


 「請負人、『紅風』のPCルナ≠ェ禍つ式≠所有しているという事実に、だ」


 「……答えろ、匂宮。 それのどこが面白い報せなんだ?」

 
 「案ずるな。 これは私の『策』だ」


 意図が掴めない。


 「俺が禍つ式を使役できる=B そんな情報を手前が流したってのか?」


 「そう。 実に素直に引っかかってくれたものだ」


 少しだけ出口が見えた。 出口に向かってゆっくりと思考の道筋を辿り始める。


 手繰り寄せ、扉を発見。 取っ手に手をかけて実に緩慢に開きにかかった。


 「……俺への嫌がらせ?」


 「その辺りの線引きは賢明ではないな。 いくら私といえど、その様な事はとてもとても」


 存外、扉は硬かった。 なかなか開こうとはしてくれない。


 「ふむ。 だったらあれか?やはり俺への悪巧み――」


 「ははは。嫌がらせとどこが違うんだろうな?」


 滅茶苦茶棒読みだった。


 「じゃあ陰謀」


 「貴様がどんな目で私を見ているか解った気がする」


 「…………」


 う。


 やはりというか、まだわからない。


 こうなれば最後の手段。


 『意外性』という名の剣を手に構え。


 『知力』という名の力をもってして。


 たたっ斬る!


 「すまん、素で教えてくれ」


 「……阿呆」


 結局匂宮頼みの俺に、いい加減呆れる。


 「前々から思っているのだが、貴様は何故本気を出さないのだ?」


 「何の事だか」


 「とぼけるな」


 「…………」


 彼の直線的な視線に耐えられず、瞳の方向を思わず逸らしてしまった。 こいつはM2Dの様な仮面を装着しているのに、妙に鋭い眼光を放ってくる。 『天才』とはかくいうものであるのだろうか。


 だいたい、俺は天才とか知らないし。


 知ってても一人。


 たった一人。


 勿論匂宮を除いて、だ。


 「本当の貴様はあらゆる事に秀で、優れているというのにどこか飄々としている。何故だ? 請負人を始めた頃の貴様のあの勢い=Aあれは何だったというのだ?」


 「…………」


 「私は、嫌いだ」


 「……何が?」


 「持てる力を尽くさない人間が、だ」


 つまり『俺』ということか。


 「とはいえ、貴様の『力』は主に思考に使われているようだな。 そう、





 ――――『高速思考』に、な」


 「っ!?」


 何故、わかった……? この『システム管理者』は今なんと言った?


 「そもそも、請負人を始めた理由は、貴様がこの世界を……」


 「るせーよ。 そんなことを手前に言われる筋合いは―――」


 「ある」


 …………。


 なんだか沸々と怒りが湧いてきた。 どうしてこんな奴≠ノこんな事≠言われねばならないのか。


 そもそも『本気』とはなんなのか。


 ふざけるな、呆言も過ぎると吐き気に変わる。


 「――――黙れ」


 「…………」


 なおも口を開こうとしてきた匂宮に、一言。 言い放った後に彼を見遣ると、口を閉じてはいる。 閉じてはいるのだが……


 「やるじゃないか。 まさにそれだな」


 口元はにやにやと歪んでいた。 まるで、我が意を得たりと言うかの様に。


 「最初から狙ってたのかよ」


 苦々しい、というか憎たらしい。


 匂宮は「ふ」、と鼻で笑いつつも


 「さてね」


 とだけ嘯いた。


 「……いつか殺してやる」


 「殺人予告か?w」


 「呆言だよ」


 そんなことよりも。 本題の意味と意図は理解した。 この無駄会話中に思考させてもらったのだから。


 ――『高速思考』、で。


 「つまり、お前はこう言いたいんだろう?」


 【陰華】に俺の禍つ式の情報を流し、【陰華】の『殺人嗜好性』をPCルナ≠ヨと向ける。 それで一般PCへの被害を抑えられる。 大胆すぎる囮≠ニ言った所か。


 「概ね正解だ」


 「相も変わらずやり方が汚いね。 吐き気がする」


 汚いと言うよりも、えげつないと言った方が正しいかもしれない。


 「だから、両方だと言ったろう?」


 「は?」


 「良い報せと、悪い報せ」


 「……成程」


 全く。


 本当にえげつない。


 「それで、結局何が言いたいんだ?」


 対して匂宮は。


 気持ちの悪いくらいの満面の笑みで。


 本当に殺してやりたいと考えてしまう程の憎たらしい笑顔で。


 「これから襲われる事も多くなるだろうが、よろしく」


 「…………」


 抜刀、したかった。












******





 『Δ隠されし 禁断の 飛瀑』、アルケ・ケルン大瀑布。


 こんこんと流れ続ける勢いづいた、しかし清流である事には変わりない流れは留まる事を知らない。 まるで生を営む『人』の有象無象の様だ、と似非詩人の様な感想を受けている自らの内心を嗤う。


 「全く、呆言すぎんだよ」


 先程の匂宮の事だ。 勝手に策を作り、更にそれだけではなく当事者たる俺を無視して実行しやがった。 俺を囮≠ノする、だと? 冗談じゃない、俺だって『いちプレイヤー』だ。例え請負人になった理由≠フ件があったとして、世界に介入≠キる程傲慢でも、高姿勢でもいるつもりじゃない。


 この世界≠ノ介入するなど――、愚の骨頂。


 「はあ……」


 全く、嘆息しか出ない……。


 空を見上げる。


 黄昏の様な、微妙な色合いを含んだ色の空。


 「よぉう!」


 いきなり声をかけられ、そしてクロスチョップを叩き込まれて驚く。 さすがに声には出さなかったが。


 「何だよ。音も無く現れるなよ、彩音」


 「誰かを思い出すのかな?」


 後ろには俺の首を絞めんとする、浴衣姿の呪療士。 彩音だ。


 「つーか、何だ。『よぉう』って」


 「えへへー、萌え狙いかな?」


 「方向性間違ってるし、自分で狙いとか言うな!」


 そして疑問形かよ……。


 「まあまあ、今日は大事な話しがあって来たんだからw」


 「はあ」


 大事な話だって?


 「彩音ちゃんの大発表ー♪」


 というか、彩音はこんなキャラだったろうか。 妙にテンションが高くないか?


 「面白い報せ≠ヘもうたくさんだ……」


 「そういうコト言わないの!(*´゜ω゜)ノ」


 これはまた……。 普段そこまで使わないであろう顔文字なんか使っちゃって。


 『そこがまた可愛い』、とか考えてしまう俺って……。


 「それで、大発表って何?」


 「絶対ルナも喜ぶよ♪」


 いや。


 何か恐いんだが。


 「きっと、とか多分、とかじゃなくて『絶対』なのか……」


 「うん!」


 断言、しやがった。


 「えとねー、あれだよあれ」


 「偉く遠回しなんだな」


 「この度、紫上彩音は病院より完全退院する事となりましたぁ♪」


 「へぇえ、良かったじゃん!」


 決して『え、もう退院してたんじゃないの?』とか興醒めな事は言わない。


 ――――確かに半退院状態ではあったが。


 紫上彩音は決して『元・お嬢様』というキャラを外さない。 彼女は元より身体が弱いのだ。


 この間の食事会(でいいのか?)は単なる彼女のわがまま。 いつもあの様な外泊を許す様な病院でもないし、月一度という条件付きでそれでも、無理やり許可してもらっているのだから。 それに、彩音は大学の講義の全てを学内で受けているのではないのだ。


 数年前より実施されている、ネット内で講義を受けられるサイバー大学制。 元は、どうしても校内で講義を受けられない人のために作られた制度だが、その制度の施行により、例えば地方の成績の良い人間が都内の六大学の講義を受けられるという事にもなった。 無論、合格した者だけではあるが。


 だが、それによって弊害が生まれているのもまた事実。


 地方からいちいち都内に移って一人暮らしなどせずとも、合格さえすれば都内だけではなく地方政令都市等の有名国立大の講義を自宅で受けることが出来るのだ。 勿論、入学志願者が一定の大学に集中することは避けられなかった。


 そのせいで幾つもの大学が消え去った事か。


 まあ、うちの大学が潰れる様な事はない。 自慢ではないがと言っている時点で自慢に入ってしまうのが惜しむらくだが、俺たちの学び舎は一応有名私立大なのだから。


 と高速思考完了。


 とにかく、彩音は身体が弱い。 だから、稀に学内で講義を受け俺と帰る時=病院へ直行という方程式が成り立つ。 本人も病院の事が大嫌いらしく、病院まで連れて行くという俺の役目は骨が折れる。 そう、嫌がりまくるのだ。 とにかく嫌がる。 とことん嫌がる。


 究極的なまでに、絶対的なまでに『駄々を捏ねる』。


 病院で彩音を担当している看護士さんにも頼まれている身であるがため、俺以外に病院に連れてくるという義務がある。


 毎回ほとんど強引だったが、最近は物分りがいいようで、この間などは俺の方を待っていてくれたようだった。


 「それでこんなにテンション高いのか」


 「そっ。 あんな陰気でジメジメしてて陰鬱な患者どもがいる様な場所にはいたくないよ♪」


 「いくら何でも、それは失礼だろ……」


 そこで働いてくれている人とかに。


 でも、まあ。


 「良かったな」


 「あれ、ルナのツンがデレに変わった!」


 「そして、俺はどう考えてもツンデレじゃない」


 どこがだ。 ツンツンしてるだけでデレが一生来ないではないか。


 「私には分かるの。 ルナはツンデレw」


 「勝手に言ってろ……」


 「ほら来た、デレが!」


 「来てねえ!」


 うわ何の会話だこれ。


 負けているわけではない、断じて。 リアルでもThe World≠ナも言葉で勝つのは俺でなければならない。


 「じゃあ、彩音は何属性なんだよ」


 「へ?」


 「どう考えたって、デレしか来ないだろ」


 「デレしか来ないって言うなー!」


 「じゃあ、ツンが来るのか?いつ?どこで?」


 「ううぅ……ルナが虐める;」


 勝った!


 勝ったけど、何でだろう。


 物凄い後味悪いんだけど……。


 ――――邪道か。


 別にやり方が邪道なわけではない。


 俺が『こういう風に』彩音を言い込めるのが邪道なのだから。


 「あー……ごめんごめん。 別に、虐めてるわけじゃないよw」


 とか言ってみると、やはりというか、


 「じゃあ、ルナはツンデレという事で――」


 「それは絶対にない」


 全く、隙も何もあったものじゃない。


 「とにかく。 彩音はもう病院に行かなくてもいい、と?」


 「そうそう! 本当、良かったぁ〜」


 だったら俺も助かる。 駄々を捏ねまくる彩音はもう御免だ。


 まあ、彩音担当の看護士さんに会えなくなるのは、残念かな。


 「あー、ルナってば今『若菜』さんに会えなくなって寂しい、とか考えたよね?」


 「美人って形容詞が似合うはずなのに、物凄い男勝りな人だよなあ」


 「うん。 わたしとしてもあの言葉遣いはどうにかした方がいいと思うんだけどね……」


 「病院内だってのに平気で煙草吸うしな」


 医者とかの見てない所限定だけだったが。それにしてもあの人はヤンキー上がりとしか思えなかった。


 「さておき」


 「……?」


 疑問符を浮かべたのは俺である。


 「ものすっごい話変わるし、関係ないし、ルナも忘れてるであろう話なんだけどね……」


 俺も忘れてるって、何でわかるんだよ。 とか考えてしまっている時点で忘れているという事もまた然り。


 「えぇと、何かあったか?」


 彩音は「ほらね」といった表情で嘆息した。


 明らかに呆れられてるぞ、俺……。


 「やっぱり忘れるんだよねえ、ルナって……;」


 「だから何だって」


 「うん、あのね」


 ここで一つ息を吐く。




 「まだ、何も奢ってくれてないよね?」




 …………。


 「なああぁあっ!!」


 忘れていた……orz


 愚の骨頂だろう、こんな事を忘れているなんて。


 「もう三日ぐらい経ってるんだけど」


 「いや、まだ三日……」


 一応の言い訳を試みてみる。


 「うん、でも昨日学校から一緒に帰ったよね?」


 帰ったけど!


 病院に帰ったけど!忘れてたんだよ!


 何故か内心逆切れになっている自分に気付き、心を落ち着かせる。


 「でも気付かなかった、と」


 確かに忘れていたし、俺が悪い。 一方的に全体的に悪いさ。


 でも人には過失とか言うものがあるだろう!?


 これ以上俺を責めないでくれ!


 「ふぅん。 ルナはわたしの事なんかどうだって、いいんだ?」


 「そんなことねえって」


 「じゃあ、何で気付かなかったの?」


 「だ、だから、忘れて、ました……」


 俺は責めに参って来ている。しどろもどろ。


 「…………」


 彩音の追撃。 もはや言及ではなく、視線による詰問へと変わっている。


 俺はこの視線に弱かった。


 いつもの言い合いならともかく、何かこう、彩音は稀に本気で怒る事がある。 本当に珍しいし、滅多にあることは無いのだが、ある一定の条件下≠ノおいて発動する様なのだ。


 経験から得たものであるが。


 あれ?


 経験から得たものなのに、どういう状況において『発動』するのかわかってない気が……。


 「――わかった」


 そこまで思考した瞬間、彩音が諦めた様に呟いた。






 「『愛してる』って言って?」





 「――――――は?」


 瞬間、頭の中が真っ白に染まった。


 「はあぁああぁぁぁぁあああああぁああ!!?」


 何言ってるの、この子!?


 いきなりすぎやしませんかというか何を言ってるかわからないというか何でこんな事を言い出すのかわからんというか句読点が付けられないっっ!!


 「なななな何を言ってらっさる!?」


 「だから愛してると言――」


 「いい、その先は言うなぁあっ!」


 ちょ、高速思考すら回らない。


 「だって、ルナが何も奢ってくれないからじゃん?」


 言って、少し頬を膨らませる。


 「だからと言ってそんなことをいきなり口走るのは辞めなさい!//」


 と、瞬間軽い音が発せられた。この音は―――ショートメールか。


 簡易ウィンドウを開いて送り主を調べてみると、澪から送られて来たようである。


 おおぅ、ナイスタイミング過ぎるよ、澪様ぁあ!


 「ごめん、ちょっと依頼人から緊急で呼び出されたっ!」


 言い訳と言う名の後味を残しつつ、その場を離脱。 そのまま走り抜ける。


 彩音が何かを言おうとしていたが、これ以上は俺が混乱してしまう。


 振り返りは、しなかった。 











******






 「……いやあ、意外に早かったですね」


 「ワケアリなんですがね」


 言葉も心もどこか苦々しい。


 「……? 用事か何かを放り出してこられたのですか?」


 「いえ、気にしないで下さい。所詮、私的なものですし」


 というか感謝しているぐらいなのだが。


 なのだが、心苦しい……。くそ、何であの時逃げたのか……。


 「なんだか疲れているようですね?」


 「はあ……」


 訊かれても適当な返事しか返せない。 一瞬の事の事なので分からないが、第三者から見てその返事は嘆息交じりだった事に違いない。


 「何か他の事でも大変でしょうし」


 ……意味ありげに言葉を放った彼女に不審な目を向ける。 禍つ式≠フ事を言っているのだろうか?


 だったら何故。


 禍つ式°yび禍つ神≠フ件に関しては俺とCC社側の人間、即ち匂宮しか知らないはず。


 そして匂宮と請負人の関係は一部――主にCC社の人間だが――しか知らないのだから。


 「何の事を、言っているんですか」


 「風の噂です♪」


 噛み合わない会話。 澪にしては珍しい。


 ……噂、か。 『噂屋ヌァザ』ならばこんな話、筒抜けなのかもしれない。『PCロスト事件に請負人が関わっているらしい』などという噂でもあるのか。


 「……とにかく。 緊急の呼び出しをした理由をお聞かせ願えますか?」


 「ええ、大した事でもないんですけれど―――」


 大した事無いのかよ。


 大した事無いのかよ!


 「わたしは旅団の監視を依頼しましたよね」


 「ええ、依頼内容変更の手続きを踏んで。監視は順調ですが?」


 「報告は頂いています。 ですが」


 ……何なんだ。


 いつに無く真面目な口ぶりと言動の澪に危機感に近いものを覚えた。 いつもは能天気で天然な彼女だからこそ、だ。


 「今回わたしがあなたを呼び出したのはですね――――」


 ここで一旦ためが入った。 息を大きく吸い込むような動作をする。


 そして一言。


 「――――報告がメールだけなんて寂しすぎますぅうっっ!」







 「――――――は?」





 請負人本日二度目の間抜け声だった。


 何を。 何を言っているんだこの人……!


 「メールで報告なんて、冷たすぎると思うんですっ」


 「何で……」


 俺が言うと、彼女は腕をぶんぶん回しながら弁論する。


 「だって何だか読んでいても『〜であると思われる』とかばっかりで悲しくなってきちゃうんですよ!? この気持ちわかりますか!?」


 「いや――」


 だって、普通報告書ってそんなもんだろ?


 言おうとしたが、有無を言わせないような口調で彼女は続ける。


 つーか、緊急で呼び出しといて用事がこれだけとか、そんなまさかな事ないよなぁ?


 「わかりませんか!?わからないんですか!?」


 「わかったから少し黙ってくれ……」


 だから何で俺の周りはこんなんばっかなんだ……orz


 「わかって、頂けましたか?」


 「――ああ」


 わかったから。


 『わかった』と言わざるを得ない俺の気持ちも察してくれ……。


 「それで、結局それだけなんですか。用事って」


 「ええ!」


 満面の笑みで爽やかに答える彼女。


 なんというか。 その、あれだ。


 「……一発殴ってやりたい……」


 女性を殴りたいと思ったのは初めてだが、そうこれは間違える事のない想い――――殺意。


 「それでは、ルナさん!」


 「え、ちょっ――」


 「報告場所はウィスパーしますのでっ」


 「待――」


 さっさと走り出した彼女を何とか引き止めようと試みてみたものの、既に声が届くような場所にはおらず。 むしろ意図的に無視しているのではないかと言う疑念さえ抱いてしまうような、軽やかな猛ダッシュだった。


 「軽やかな猛ダッシュって矛盾しすぎだな」


 自分自身の思考に突っ込んでみた。


 呆言でもやっていないと遣る瀬無い。


 しばらくの間、ぼんやり思考してみる。


 ……ああ、どうしよう。


 先程の彩音のことだ。 あんな風に逃げてしまったら明日大学であったとしたら――退院したから明日から普通に来るんだったか――、合わせる顔がない。


 今更になって危機感を抱いた。


 彩音とまともに話せないなんて、何という大打撃なんだろう……。 今になって初めて気が付いた。


 「くそ……」


 あーあ、明日休もうかな、学校。リアルにネットを持ち込むなんて、馬鹿らしすぎるとは思うが。


 彩音もいつも言っている事だし。


 「……正直に謝るか」


 そして何とか誤魔化すしかあるまい。 「愛してる」なんて言葉、恋人でもないのに使えない――そんな純情ぶった想いなんざ、一笑に付す。


 なんて幼稚な想いだったんだろうか。


 「融通効かねえな、俺も」


 呟いた瞬間に、タイミングを狙ったかのようにショートメール受信の単音。


 簡易ウィンドウを開いてみると、事務所に届いた依頼メールが自動的に転送されてきたようだった。


 どうせくだらない依頼だろうが。


 差出人を確認するために目を動かす。


 名前を見て驚愕。 一瞬詐欺か何かではないかと猜疑心を抱いたが、考えをすぐに破棄。


 システム的に偽れるようなものではないし、例え偽るとしてもその様な事は恐れ多くもできまい。


 「――――欅、だと……?」


 PK廃止を訴える、The World%烽フ自治を担う巨大ギルド――――月の樹=B


 あまりに有名すぎる盟主の名がそこにはあった。










6://www.rade-キシュウ.………………了。














________アトガキ



どうも、リアルが色々と急がしすぎて更新がおざなりになってしまった宴です、すみません……

そんなこんなで私のサイトにメールが来まして。

『宴様の小説は1話が長すぎて感想が書きにくいです;』



ななな、なんだとぅ!

だから感想が少なかったのですね!?(待て!!)

くそぅ、誰か、誰か感想を……!(結局それが言いたいのか)

あ、次回は多分本編は進みません。
最近戦闘シーンが少なかったので、その辺の補足でもやろうかと思いまして。
なんだか読み返すしてみたらですね、こう、『鮮やかさ』みたいなのがないので。。。
.hack//Pain♯Ex ……あ、これでいこう(何)

ではでは、このあたりで^^;





(※追記:次回(第七話の前に、.hack//pain#EX1をご参照ください)


宴六段


[No.971] 2007/11/01(Thu) 18:52:10

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