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No.624に関するツリー
.hack//Pledge
- わん仔 -
2007/04/21(Sat) 22:16:02
[No.624]
└
.hack//Pledge 最終話
- わん仔 -
2007/07/25(Wed) 16:59:11
[No.859]
└
.hack//Pledge 第20話
- わん仔 -
2007/07/24(Tue) 15:59:42
[No.858]
└
.hack//Pledge 第19話
- わん仔 -
2007/07/24(Tue) 15:59:40
[No.857]
└
.hack//Pledge 第18話
- わん仔 -
2007/07/18(Wed) 14:42:09
[No.846]
└
.hack//Pledge 第17話
- わん仔 -
2007/07/18(Wed) 14:42:05
[No.845]
└
.hack//Pledge 第16話
- わん仔 -
2007/07/11(Wed) 20:38:37
[No.831]
└
.hack//Pledge 第15話
- わん仔 -
2007/07/04(Wed) 20:35:08
[No.809]
└
.hack//Pledge 第14話
- わん仔 -
2007/06/27(Wed) 17:26:50
[No.801]
└
.hack//Pledge 第13話
- わん仔 -
2007/06/20(Wed) 18:42:01
[No.786]
└
.hack//Pledge 第11.5話
- わん仔 -
2007/06/20(Wed) 18:41:33
[No.785]
└
.hack//Pledge 第12話
- わん仔 -
2007/06/13(Wed) 23:11:38
[No.771]
└
.hack//Pledge 第11話
- わん仔 -
2007/06/06(Wed) 23:34:53
[No.767]
└
.hack//Pledge 第十話
- わん仔 -
2007/05/27(Sun) 22:08:31
[No.765]
└
.hack//Pledge 第九話
- わん仔 -
2007/05/21(Mon) 16:03:23
[No.755]
└
.hack//Pledge 第八話
- わん仔 -
2007/05/21(Mon) 14:49:26
[No.754]
└
.hack//Pledge 第七話
- わん仔 -
2007/05/08(Tue) 23:46:31
[No.732]
└
.hack//Pledge 第六話
- わん仔 -
2007/05/08(Tue) 22:03:02
[No.731]
└
.hack//Pledge 弟五話
- わん仔 -
2007/05/01(Tue) 14:41:50
[No.691]
└
.hack//Pledge 第四話
- わん仔 -
2007/04/25(Wed) 21:41:37
[No.649]
└
.hack//Pledge 第三話
- わん仔 -
2007/04/22(Sun) 17:40:02
[No.630]
└
.hack//Pledge 第二話
- わん仔 -
2007/04/22(Sun) 00:22:02
[No.626]
└
.hack//Pledge 第一話
- わん仔 -
2007/04/21(Sat) 22:57:57
[No.625]
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.hack//Pledge
(親記事) - わん仔
皆さん、はじめまして『わん仔』っていいます!
仔犬の分際ながらオリジナルキャラの小説を書いてみようと思います。
こういったところで書くのは初めてなので緊張しまくってますが、頑張ります!
更新が遅くなっちゃうかもですけど、文章も下手ですけど、読んでいただければ嬉しいです。
千切れんばかりにパタパタと尻尾振っちゃいます。
こんなひよっk…じゃなくて仔犬ですけど宜しくお願いします!!
タイトルの“Pledge”は『堅い約束』や『契約』といった意味があります。誰と誰との約束なのかは
お読みいただければ、そのうちにわかると思います。……多分(--;
[No.624]
2007/04/21(Sat) 22:16:02
.hack//Pledge 第一話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
現実世界がどんなに苦しくても、辛くても、この『セカイ』を訪れたら如何なる者も現実を
忘れていられた。如何なる者も希望を抱き、新たな仲間とともに成長することができた。しかし、今やその『セカイ』は混沌に包まれていた。静かに、黒き闇に満ち溢れようとしていた――――
――Δ悠久の古都 マク・アヌ――
「あ。俺さ、これから部活あっから今日はもう落ちるわ。悪ぃなトネリコ」
「ボク宿題のレポートまとめなくちゃ……じゃね、トネリコ君」
「そっか。じゃ、また明日ね」
友人たちが次々とログアウトしていくのを見届け、独りカオスゲートの前にたたずむ少年。
深海のような蒼い瞳と、黒に近いくらい深い緑色のサラサラな髪が特徴のPC。
その少年の名は『トネリコ』
彼はネットゲーム『The World』を始めてから一ヶ月も経っていない、いわば初心者クラスのプレイヤーだ。
(独りになっちゃったな……。皆の足引っ張らないようにレベル上げにでも行こうかな……)
「ちょっと君、もしかして独りでエリアに出ようとしてる?」
「え?はい、そうですけど……?」
トネリコがエリアに出ようとしたところへ、二人の女性PCが声を掛けてきた。
「独りじゃ危ないよぉ〜!初心者を狙ったPKとかもいるしぃ、おねぇちゃんたちと一緒に行こうよぉ」
リスのような耳をした獣人姿をしたPCが、トネリコの腕を掴んで駄々をこねるような仕草をする。
この人たちの言う通り、独りで行動するのは解っている。しかし、相手は全く知らない人たちだ。
今まで友人たちとしか行動していなかったトネリコにとっては不安で仕方がない。
(でも、知らない人たちと一緒に冒険したりするのがMMORPG本来の姿だよね……)
トネリコは自分にそう言い聞かせ、ついには決心した。
「えと、僕はトネリコっていいます。双剣士です……その、今日はよろしくお願いしますッ!!」
「うんうんw素直で良い子だね。じゃ、まずはタウン移動しよっか。マク・アヌからじゃ大したエリアないでしょ?レベル上げは自分のレベルと不相応なエリアに行って一気に経験値稼ぐのがコツなのさw」
「自己紹介するねぇ★あたしはアイニスっていうのぉ☆職業は呪療士なのぉ★★でぇ、こっちは――」
「九凛(くりん)ってんだ。君と同じく双剣士だよwよろしくね、トネリコくん」
アイニスと九凛に言われるがままに、トネリコはタウンを移動した。
[No.625]
2007/04/21(Sat) 22:57:57
.hack//Pledge 第二話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――Θ蒼穹都市 ドル・ドナ――
数多くの中級者プレイヤーが集うタウン。初心者クラスのトネリコにとっては、まさに未知の世界。目に映るPC全てがたくましく見え、全てのものが新鮮さに溢れていた。
「レベル上げ〜♪お助け〜♪行き先は〜 Θ油断する 永遠の 時兎ぃ〜♪♪」
「アイニス、行く前にアイテム揃えなくちゃ。トネリコくんはその辺ウロチョロして待っててね」
「はい、解りました。いってらっしゃい」
二人が巨大な門の向こうに消え、トネリコは辺りの散策を始めた。
「へぇ〜。ここがドル・ドナかぁ……やっぱ獣人さんが多いなぁ」
随分マイペースなトネリコくんでした。
しばらくすると、買い物を終えた二人が帰ってきた。なにやら楽しそうに笑っている。
「お待たせ。トネリコくんにはコレあげるよ」
そう言って手渡されたのは【癒しの水】10個と【アジアンマンゴー】5個だった。
「いいんですか?」
「いいのいいの、気にしないで。その代り、君の持ってる【逃煙球】全部とトレードしてくれない?」
「別に構いませんけど……たいして持ってませんよ?」
「そんな遠慮しないでぇ☆あたし達をたのしm――」
「さぁあああて!行こうか!? Θ油断する 永遠の 時兎にぃいい!!?」
突然、ものすごい剣幕でアイニスに迫る九凛。トネリコは何が起きたのか解らず、ただキョトンとしていた。
「ぁ、アハハ……(^^; さぁ、行こっか、トネリコくん」
「はい……」
面白い人たちだなぁと思ったトネリコでした。
――Θ油断する 永遠の 時兎――
一行が辿り着いたのは、爽やかな風が吹き抜ける昼下がりの草原だった。これがリアルならピクニックに最高なのだろうが、遠くにそびえる獣神殿、二、三匹の群れを成して徘徊しているモンスターたちが、そんな穏やかな空気を破っている。どんなレベルであろうとエリアの形はあまり変わりはないはずなのだが、我が物顔で草原を駆けているモンスターたちが異様なまでに恐ろしく見せる。
「うわぁ、『格』が違いすぎるよ……」
「大丈夫だってば。ウチ等がしっかりフォローしてあげるからさ、安心して」
九凛は笑顔でトネリコを励まし、視点をアイニスに移す。それにアイニスは頷き、どこか怪しげに笑った。
「お、アイツがいいんでない?大したスキルは使わないはずだし、即死はしないよ。………きっとね」
「え……?それってどういう―――」
“愉しみ”―――二人の表情からそんな暗く冷たい感情が感じられ、トネリコは思わず身震いした。
「サッ★今のうちに不意打ち仕掛けないと、こっちが見つかっちゃうぞぉ?」
「は、はいっ!!」
さっきの冷たい表情は何処へやら、アイニスはいつものとぼけ顔でそれこそ不意打ちのようにトネリコの肩をポンポンと叩く。
それで我に返ったトネリコは双剣を構え、モンスター目掛け死角から突っ込む。
すると、背中から声がした。
『いってらっしゃ〜いww』
アイニスと九凛は必死に笑いを堪えて手を振っていた。しかし、トネリコがそれに気付いたのは不意打ち成功後のバトルフェンスが展開してからだった。
「どうして―――ッ!!?」
トネリコは何故、戦闘しているのが自分だけなのか解らずそっちに気を取られていたために危うく敵の一撃を喰らうところだった。エリアとのレベル差が大きすぎる彼にとっては、たとえ一撃であっても致命傷になるのだ。下手をすれば一発で即死だ。
「どうしてだって?こうやって君を観ていたいからだよ?」
「観る?」
「あたしらはぁ、ごく一般的な初心者PKとは違うんだなぁ★」
アイニスは退屈そうに足で地面を蹴りながら説明する。
「傍観すること―――。それがあたしらの愉しみなんだぁ★今のトネリコくんみたいに初心者が慌てふためいて泣き叫んでる姿を観るのって面白いんだよぉ」
「だ・か・ら、逃げられないように【逃煙球】をぜ〜んぶトレードしてもらったんだw」
そうか、そういうことか―――。トネリコは全てを悟った。始めから自分は騙されて、ただの人形として踊らされていたんだと。
「ッ!!」
もはや諦めるしかない。回復アイテムも底を尽き、SPもアーツすら放てない。その光景を二人はテレビ番組でも観ているかのように嘲け笑っていた。
「オリプス!!」
突然、どこからか回復スペルの青い光が浮かび、瀕死のトネリコを包み込んだ。
「ちょっとアイニス!?なに助けてんの!!?」
「へ?何、何のことぉ!?あたし、誰も助けてないよぉ?」
「とぼけないで!!今、あいつを回復したでしょ!?」
「してないってばぁ!!」
「旋風滅双刃!!!」
今度はバトルフェンス内のモンスターたちが次々と倒れ、土煙が舞う。
「そぉいぅ九凛だって、何モンスター倒しちゃってんの!?……って、え?」
土煙が晴れると、そこには大鎌を持った黒い少年と、呪療士と双剣士の少女がトネリコを守るようにして身構えていた。
……ふぅ。ここまで書くのに疲れてしまいました。こんな感じですが頑張ってみようと思います。
時代設定っていうのかな?物語の時期はハセヲたちが碧聖宮トーナメントに挑んでる辺りです。揺光もいますから。
読んで下さっただけでもお腹いっぱいですが、感想など書いて下さったらそれ以上の幸せはごさいません。お待ちしておりますm(_ _)m
[No.626]
2007/04/22(Sun) 00:22:02
.hack//Pledge 第三話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
吹き荒れる風の中トネリコを助けたのは、黒い鎧に身を包み肩に大鎌を担いだ少年率いるパーティだった。
「お前ら、自分の手は汚さねぇなんて最低だな」
「は?な、何言ってんのさ……ウチらはただ通りかかっただけ……今から助けようと―――」
黒い鎧、なびく銀色の髪、光る大鎌。その威圧感。その人物には見覚えがあった。その人物とは
「……九凛、もしかしてぇ―――」
「間違いない……PKKの、ハセヲ………」
「それに、あの後ろに居るのって元紅魔宮宮皇の揺光?さらには《月の樹》のやつまでぇ……」
二人は思いがけない強敵を目の当たりにしてガタガタと震えた。互いに「あわわわ」と慌てている。
「お前らどうすんだ?このまま俺たちを相手にするか、逃げるか。二択しかねぇけどな」
挑発するかのように詰め寄る『ハセヲ』その見下している眼が怖いのなんのって。
「え〜と、大変申し訳ありませんでした。……逃げるよアイニス!!」
「はぁ〜い★」
九凛が観念したのか深々と実に礼儀正しく土下座し(セリフはおもいっきり棒読みだけど)
一目散に逃げて行った。
「あ、あの……助けていただいてありがとうございました」
事が落ち着き、トネリコが頭を下げる。
「そんなお礼なんて結構ですよ。困っているとき助け合うのは当然ですから。ね、ハセヲさん?」
「別に……たまたま通りかかっただけだ」
「タウンで『あいつ、危ねぇな…』とか言って追っかけて来たくせに。助けたかったんだろ?」
双剣士の少女がベシベシとハセヲの背中を叩く。
「な、何言ってんだ揺光!?俺はそんなつもりじゃ―――」
「ハセヲさん、照れているんですか?」
「………」
「そんな事よりもお前、随分無茶なエリアに来たな」
視線が合わないようにそっぽを向きながらハセヲはトネリコに問う。
「ハハッ……見事に騙されちゃったんですよ、あの二人に。僕、このゲームを始めたばかりで、友達に迷惑掛けないように早く強くなりたかったので……。いや、僕が人を信じすぎた所為かな……」
溜息まじりに自嘲し、俯くトネリコ。
「なぁ、これも何かの縁だと思ってさ、レベル上げ手伝ってやろうぜ!」
「!?」
「そうですよ!ハセヲさん、初心者支援ギルド《カナード》のマスターじゃないですか!!」
「……そうだな。トーナメントまで日にちもあるし、手伝ってやるよ」
ハセヲは予想外の提案に驚いた。しかし女性陣に攻められて諦めたのか、ハセヲはトネリコに手を差し伸べる。
「……信じてもいいんですか?」
さすがに騙された直後だ。信じろという方が無理なのも仕方がない。
「もしも俺がお前をPKするなら、わざわざ助けたりしねぇよ」
「でも僕、優柔不断だし。物憶え悪いですし、それに……」
「いいって。人の厚意は黙って受け取れよ」
ようやくトネリコの顔は晴れ、差し伸べられた手をしっかりと握り返した。
「私は『アトリ』です。モンスターを倒したのが『揺光』さん、そしてこちらが『ハセヲ』さんです」
「え?ハセヲさんって、あのハセヲさんですか?あの紅魔宮宮皇の?」
「…?……ああ」
ハセヲが渋々答えるとトネリコの瞳はキラキラと輝き、PKされかけた時とはまるで別人のようだった。
「うわっは〜!本当ですか!?ハセヲさんっていったらこの『The World』で5本の指にはいる有名人ですよ!!そんな人に手伝っていただけるなんて幸せです!!」
「相当なハセヲさんのファンですね……(^^;」
「確かに、意外と熱狂的なファンが多いからね。ハセヲは」
「………」
興奮も冷めたのかトネリコは落ち着き、今度は真っ直ぐにハセヲをみつめた。
「僕はトネリコです!ご指導の程よろしくお願いします。ハセヲ先輩、アトリさん、揺光さん!!」
深く礼をして、顔を上げたトネリコは満面の笑み。
「……ちゃんとついて来いよ」
「よろしくお願いします。トネリコさん」
「頑張れよ!トネリコ!!」
アトリと揺光は笑顔で答える。ハセヲは『先輩』という言葉の所為か照れくさそうに背を向けた。
こうしてトネリコは新たな仲間と出逢い、訓練の日々が始まった。
オリジナルとか言っておきながらハセヲさん方が御登場です……
だってだって、だしたかったんですもん!!許して下さいよぉ〜!!
と、駄々はこれくらいで……これにて第三話終了です。
[No.630]
2007/04/22(Sun) 17:40:02
.hack//Pledge 第四話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――とあるダンジョン――
ハセヲ達に助けられて早幾日……今日もバトルの特訓に励むトネリコであった。
「今だ!トネリコ、レンゲキだッ!!」
「はい!!」
――――レンゲキ!!削三連!!!――――
トネリコの見事なレンゲキフィニッシュが決まり、ひとまずこのエリアのモンスターは狩り尽くした。
と、同時に今日のレッスンも終了。
「よし、今日はここまでだ。わかってるだろうが、レンゲキはパーティとの連携も重要だからな」
「はい。ありがとうございました。ハセヲ先輩、アトリさん、揺光さん」
「頑張れよ」と声をかけるハセヲ。先輩というのも板に付いてきたようだ。
「トネリコさん、あの時よりもすごく上達して強くなりましたね」
戦闘の様子を外から見ていたアトリが驚くように言った。
「そんなこと……だったら、皆さんのご指導のお陰ですよ」
「ホントにトネリコって、今じゃ珍しいくらい素直で礼儀正しいよな〜。そんなんで気疲れしないの?」
揺光が双剣を収めながら感心した。
「やっぱりゲームといってもコミュニケーションは大切ですよ。それに、どんな人が目上の人か判りませんし」
「そういや、アトリも普段から敬語だよな?」
ハセヲが思い出したかのように訊く。
「私もトネリコさんと同じです。この口調なら、誰でも不快にはなりませんでしょ?………それよりも、そろそろここを出ませんか?」
気が付けば長いことこのエリアに留まっていた。三人はアトリの意見に賛成し、タウンへと戻った。
――Δ悠久の古都 マク・アヌ――
「なぁハセヲ。トネリコもだいぶ男前になってきたことだしさ、そろそろ卒業試験とでもいかない?」
タウンに着いた途端、揺光が提案した。アトリも頷き、揺光の提案に付け足した。
「それだったら今、丁度良いクエストがありますよ。『世界樹の宝箱』っていうクエストです。いかがでしょうか?」
アトリがクエスト屋のある方向を指差した。それにハセヲも同意する。
「そうだな。じゃ、明日トネリコの初心者クラス卒業試験をする。いいな?」
「ああっと!ごめんアタシ、パス。リアルで用事があってさ……付き合ってはやれないけど、アタシが抜けて丁度1パーティになるしさ。そのクエスト頑張れよ!!んじゃ!!」
急に何かを思い出したように大声をあげた揺光。ちょっとワザとらしく言ったその奥には、彼女なりの優しさが見え隠れしていた。その後、揺光は逃げるように自分のリアルへと帰った。
「えと…それじゃ、明日の夕方、いつも通りにマク・アヌのカオスゲート前で集合ってことでいいですか?」
気を取り直して、といった感じでアトリが二人に確認する。
「ああ」
「わかりました。じゃあ僕、学校の宿題を終わらせないといけないので、これで失礼します。ありがとうございました」
トネリコは名残惜しそうにログアウトした。
―あとがき―
え〜、ついにトネリコは初心者脱出なるか!?といったところですね。にしても、未だオリジナルキャラがトネリコ1人しか出ていないという衝撃の事実……
[No.649]
2007/04/25(Wed) 21:41:37
.hack//Pledge 弟五話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――Δ悠久の古都 マク・アヌ――
いつもと変わらない夕日。夕日に照らされて赤々と輝く街、そして人々。
いつもと変わらないはずなのに、トネリコの心はウズウズしていた。
そう、今日はハセヲたちとできる特訓の最終日。
「ちょっと早く来すぎちゃったな……。そうだ!アイテムでも揃えておこっと」
デスク上の時計に目をやると、まだ3時を過ぎたばかりだった。
悩んだ末にポンと手を打つと、トネリコは中央広場へと向かった。
立ち並ぶギルドショップ。それぞれの店がそれぞれの商品を身振り手振りで必死に宣伝していた。
「……これで十分かな」
たくさんのショップを見て回り、回復アイテムを中心に色々と買い漁った。おかげで大分所持金が減ってしまった。それでも、必死に値切って購入したものだ。ただの買い物なのに妙な達成感がある。
その後、友人の開いているギルドショップを手伝ったりおしゃべりをして時間を潰していた。
と、何やら騒がしいPC二人が広場へやって来た。
「……ったく、しつこいな!アドレスなんか教えないって言ってるだろ!?」
「そんなに照れなくてもいいじゃないか、お嬢さん?」
「お嬢さんって呼ぶな!それに、ついてくるなってば〜!!」
歩き→早歩き→やや走り…と、どんどん速度を増して近づいて来る。叫び声から推測すると、鼻の下を伸ばした男性PCが、これまた美人な女性PCのメンバーアドレスを欲しがっているようだった。
女性は当然嫌がっているが………それも徹底して。
「こっちから呼び出したりしないからさぁ」
「私の拒否権は無視か!?…………お。ちょうどいいところに♪」
「へ?」
偶然にも視線が合ったトネリコと女性PC。その時、トネリコは何故か悪寒を感じた。
すると、突然女性PCの胸に抱かれてしまった!
「………この子、私の彼氏」
『ええぇぇえええぇッッ!!!』
[No.691]
2007/05/01(Tue) 14:41:50
.hack//Pledge 第六話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
突然騒ぎに巻き込まれ、もはや現状を理解できていないトネリコ。しっかりと女性PCに抱かれ、視界が狭くなる。さらには「彼氏」などと言われてしまい、思わずリアルの彼はコントローラを落してしまった。同時にトネリコの動きも止まって、まさに完全“無”防備状態。
「いままで、どこほっつき歩いてたの?」
「………」
言葉がでない。と、そこへ彼女の悲痛な叫びがトネリコにしか聞こえない声となって伝わってきた。
(お願い!ちょっとだけ演技に付き合って!!)
「ぇ、え〜と、と、友達のショップを手伝ってたんだよ!」
「ったく、あれだけゲート前だって念押ししておいたのに」
「ご……ごめんなさい」
ありもしないことをサラっと言いのける彼女の度胸と演技力に感心してしまったトネリコ。それで落ち着いたのかコントローラをしっかりと握りしめ、ようやく軽く会釈をするような動きをとった。すると、
「そうか……ネットとはいえ、彼氏がいるのなら仕方がないな……諦めるよ………」
と、言い残して、ストーカーまがいのPCはフラフラと帰って行ったとさ。
「助かったぁ……ゴメンね、騒ぎに巻き込んじゃって」
「い、いえ。僕はそんな……」
「まったくさ、あの男ってばしつこいのなんのって〜。……そうだ!お礼にコレあげる。アタシは基本的にソロ活動が多いけど、いつか絶対誘うから」
そう言って、彼女はトネリコにメンバーアドレスを渡すと人ごみの中に紛れていった。
「お名前は……『照々』さん………『テルって呼んで!』ですか……」
あんな美人なのに『テルテル』とは…。メンバーアドレスを眺めていると、聞き覚えのある声がした。
「トネリコ!こんなとこにいたのか」
「ハセヲ先輩!?わぁっ!す、すみませんでした!!」
今のハプニングで、今日は大事な日だというのをすっかり忘れていた。
「ログインはされていたみたいだったので、何度もショートメール送ったんですけど気付きませんでしたか?」
アトリも珍しいこともあるものだといった表情。
「ショートメールですか?……!! 全然気が付きませんでした……」
いつの間にやら新着メールが大量受信されていた。なかには友人たちからのメールも混じっている。
もちろん、先ほどのハプニングについてだが。
「予定よりもだいぶ遅くなっちまったけど、行くか」
「そうですね。お二人にはご迷惑掛けてしまったので名誉挽回といきますよ!」
[No.731]
2007/05/08(Tue) 22:03:02
.hack//Pledge 第七話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――Θ開かれる 新世界の 苗木――
「ハセヲ先輩!!」
「ああっ!喰らえ、環伐二閃!!!」
ハセヲのアーツで止めをさし、粗方エリアのモンスターは倒した。残るはクエストクリアに必要なアイテムを持ったボスのみ。
「トネリコさん、腕が上がりましたねぇ」
アトリが驚くように言った。
「確かに。最初は特訓にすらならなかったからな……」
「そうでしたね……僕、ハセヲ先輩の動きに見惚れてしまっていてただの見学にしかなりませんでしたから」
恥ずかしそうに双剣を収めるトネリコ。三人は自然と笑みがこぼれる。
「残りはボスだけだろ。早く『ラタトスクの鍵』とやらを取り返そうぜ」
ハセヲに促され、一行はエリアの最深部を目指す。
そう、今はトネリコの初心者卒業試験クエストの真っ最中。
クエストの依頼主は『イリオス』という名のヴァイタルビスタだった。自称考古学者で、この世界の
起源を研究しているという設定。彼が自身の倉庫を整理しているとき、世界樹の樹皮で作られた大切な宝箱の鍵を何者かに盗まれたので、取り返してほしいとのことだった。
「それにしても、世界樹とかって、いったい何なのでしょうか?」
歩きながらアトリが問いかけた。どうやらずっと気になっていたようだ。
「世界樹は北欧神話にでてくる大木のことです。世界の中心にあって、九つの世界に根を張っているんです。で、その木のモデルがトネリコの木だと言われているんですよ」
「ってことは、トネリコの名前の由来は……」
ハセヲが思い出したかのようにトネリコに振り向いた。
「はい。僕、神話とか大好きなんです。このゲームをはじめたきっかけもそこです」
「ラタトスクは―――と、あれがボスですね」
トネリコが説明を続けようとしたその時、目の前には巨人が高い塔のようにそびえていた。
「これで最後ですね。ハセヲ先輩、アトリさん、お願いします!!」
相手の不意をついて一斉攻撃。パーティリーダーのトネリコの指示通りに、ハセヲは大鎌で距離を置いて攻撃し、アトリは回復主体で時々スペルでの攻撃。トネリコはコンボが途切れないように二人を気にしながら攻撃を続ける。しかし防御力が高いのか、なかなかHPのゲージが減らない。と、コンボが50を超えたとき、巨人の周囲に青紫色のリングが現れた。トネリコはそれを待ってましたとばかりに叫ぶ。
―――レンゲキ!!旋風滅双刃!!!―――
先ほど覚えたばかりのアーツを巨人の腹目掛けて放つ。
「……やったか?」
しかし、巨大な影はまだ高くそびえていた。ダメかと思ったその時、アトリが声をあげた。
「トネリコさん!テンションゲージは溜まりましたよ!!」
「……はい!!」
―――神威覚醒――森華奏貫―――
覚醒を発動したトネリコが緑炎を放つ双剣を高々を掲げた。直後、幾つもの閃光が巨人に降り注ぎ、そこへトネリコ自身が矢の如く巨人の胸部を貫いた。
『ぐおおおおぉぉぉ』
ズゥゥゥン―――と音を立てて、ようやく巨人は地に伏した。
「……終わったんですよね、ハセヲ先輩………?」
「ああ!合格だ、トネリコ!!」
「おめでとうございます!!」
アトリが、ハセヲがよくやったと褒め称える。トネリコはホッと一息ついた。その手には、クエストを
クリアした証『ラタトスクの鍵』がしっかりと握られていた。
――Θ蒼穹都市 ドル・ドナ――
「これでクリアですね。ハセヲ先輩、アトリさん、ありがとうございました!!」
タウンへと戻ってきた一行は、クエストの依頼主であるイリオスに鍵を渡して無事にクエストを終えた。その報酬は『世界樹の宝箱』の中にあるという。
「トネリコ、開けてみろよ。俺たちからの中級者入り祝いだ」
ハセヲは宝箱をトネリコに譲った。
カチャ―――音を立てて箱が開いた。その中身とは――――
「…双剣……僕と同じ名前の、双剣………」
中身は【双剣 連式・戸練胡】だった。新緑のような翡翠色をした美しくも勇ましい剣。
「ハセヲ先輩、これ、ご存じで」
「まぁ、な。アトリや揺光にも手伝ってもらって……」
「あれ?ハセヲさんったら、照れているんですか?」
「べ、別にそんなんじゃ………!!」
ハセヲは照れ隠しにそっぽを向く。
「あ、あの。ハセヲ先輩……これからも、その……冒険とかしてくれますか?」
「もちろんだ。これからも、よろしくなトネリコ」
二人は固く握手を交わした。アトリはその光景をにこやかに見ていた。
仲間――――これまでも。そして、これからも。
―後書―
はい。というわけで、トネリコくんは無事、中級者の仲間入りを果たしました。
えと、クエスト中に神威覚醒を使っているのはお気になさらずに……
[No.732]
2007/05/08(Tue) 23:46:31
.hack//Pledge 第八話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
エリアへ冒険に行くわけでもなく、トネリコはカオスゲートの前でぼぉっと突っ立っていた。
今日は照々に呼び出されていたのだ。
「トネリコ!」
「…………」
「……お〜い!起きてる!?」
「はいっ!!―――って、照々さんか。驚かさないでくださいよ」
ぼけっとしていると、いつの間にやら照々が目の前で仁王立ちしていた。
「『驚かすな』って、そっちが反応しないからだろが。それと、フルネームで呼ばない」
「す、すみません…。……え?『照々』ってフルネームだったんですか?」
「んなわけないでしょw」
トネリコは一瞬ムッとしたが、すぐに笑った。なんだか自分でも可笑しかった。
「さて、と。あの時の恩返しをしなくちゃね。何か困ってることとかある?」
「困っていることですか?………別に何も」
それを聞くと照々はガックリと肩を落した。
「何かあるだろ?レベル上げを手伝ってほしいとか、あのレアアイテムが欲しいとかさ」
トネリコは考えてみる。よ〜く考えてみる。無くても考えてみる。しかしそれでも、無いものは無い。
「すみません。本当にないです」
「そっか。あ〜ぁ、お礼のついでにギルド活動もして一石二鳥だと思ったのになぁ……」
照々は天井を仰いで軽く溜息をついた。
「照て――…照さんはギルドに入ってらっしゃるんですか?」
「ん?……あぁ、言ってなかったけ。では改めて」
姿勢を正し「こほん」と咳ばらいをした照々は、深々とお辞儀をして自己紹介を始めた。
「『オ』困りならば
『ア』ナタを
『シ』ッカリ
『ス』テキにサポート。
中・上級者支援ギルド《あずま屋 オアシス》受付組・組長の照々でございます」
「そうだったんですか。……さっき『ギルド活動』って仰ってましたよね。まさか、恩返しと言っておきながらお金とるんじゃ……」
「御名答―――なぁ〜んてのは冗談w………でも、リピーターになってくれると嬉しいなww」
照々はふふふふ…と不気味な笑みを浮かべながらトネリコに紙きれのようなアイテムを差し出した。
「《あずま屋 オアシス》無料券……?」
「そ。うちのギルドはショップ開いてないからね。割引券の代わりみたいなもんで、どんな依頼も一回だけタダ。一人につき一枚限定だけど」
お礼とはこのことだったらしい。トネリコはそっとそのアイテムをしまった。
「ところで、そのオアシスさんでは何をなさってるんですか?」
「……普通、それを先に訊くだろ?」
「………」
「ま、いいや。うちは中・上級者をお客として支援活動をしてる。まぁ、ぶっちゃけ何でもやるけどね。
レベル上げやクエスト、アリーナの手伝い及びパーティメンバーの提供、アイテムの入手・個人販売、情報提供とか。この他にも色々やるけど、仇討ちや復讐といったPK行動は基本お断り。
もちろん、初心者は対象外」
まるで、その場にある原稿を読み上げるかのように照々はスラスラと答えた。
「なるほど。じゃあ、受付組っていうのは?」
「文字通りお客さまの窓口、受付の担当。それぞれのタウンに2〜3人ずつ受付組の人がいて、それを統括してるのがアタシ。ギルド本部からの指令を伝達することも請け負ってる。○○組っていうのは……マスターの趣味かな―――と?」
トネリコの質問を難なく答え終えた直後、照々のもとに一通のショートメールが届いた。差出人は
ギルドマスター。どうやら指令というものが来たようだ。
「……双剣士のメンバーを提供せよ。って、ちょうど全員出てるんですけど………」
「どうかなさったんですか?」
動きが止まった照々を不思議そうに見つめるトネリコ。
彼と目が合った瞬間、照々の頭上にある電球が点灯した。
「トネリコ、双剣士だったよね」
「そうですけど……?」
「よし!これからギルドの体験といこうか!!」
「………ぇえ!?」
この人に関わるとろくなことがないなぁ……と思いつつも、それが楽しいと感じてしまうトネリコ。照々に腕を引かれるまま、お客がいるというエリアへと赴いた。
[No.754]
2007/05/21(Mon) 14:49:26
.hack//Pledge 第九話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――とあるエリア――
「ここにいるはずなんだけどなぁ……」
額に手を当て、辺りを見渡す照々。お客はこのエリアのプラットホームにいるとのことだが………?
「あの、ひとつお伺いしますけど」
「何?」
「受付組の人がタウンにいなくてもいいんですか?」
「だって、アタシ以外にも一応いるし。それに、ショップも開いてなけりゃ宣伝活動とかもしてないからうちのギルドの存在を知ってる人すら少ないんだよねぇ」
照々はそう言って豪快に笑い飛ばした。しかしメンバー数は少ないわけでもない。最低でも一般学校の一クラス分くらいはいる。
「あと、僕、役に立ちませんよ?……多分」
「随分弱気だねぇ……そんなのやってみなくちゃ判らんでしょが。それに、アンタあの『死の恐怖』に指導してもらったんでしょ?」
「はい。ハセヲ先輩に指導していただきました」
ちょっと誇らしげなトネリコ。
「確かに、得体の知れない奴だけど腕は立つね。ハセヲは」
「先輩と戦ったことがあるんですか?」
「まぁね。というより、こっちが一方的にやられたんだけど」
『…………』
沈黙する二人。遠い過去を見つめるような照々の瞳。そして、彼女は語り始めた。
――――あれはハセヲがPKK『死の恐怖』として名を轟かせはじめた頃――――
「あれぇ?ここにカオティックPKの一人がいるって聞いたんだけどなぁ……―――っ!?」
―――ガキィッ!!!
タウンへ戻ろうと後ろを振り返った途端、刃が飛んできた。それを反射的に照々は受け止める。
「俺様がお目当てかな?正義の見方気取りのPKKさんよぉwww」
「アタシは現実でもゲームでも、ただお金が欲しいだけ。正義なんて考えたこともないよ」
「はっ!賞金稼ぎか。でもまぁ、胡散臭い連中よりかはマシだな」
お互いに間合いを作り、戦闘準備は完了した。そして―――
―――戦闘開始
「はぁああああ!!」
「っ!!」
相手は剛腕な撃剣士。見た目通りにパワータイプのようだ。一方の照々は華奢な体つきをした
斬刀士。能力的にはあまり差がないとはいえど、視覚的な問題がある。
「伊達にカオティックPKの二つ名を持ってるわけじゃねぇぜ!!………?」
いつの間にかPKの体力は大幅に削れていた。
「いまさら気づいたの?実はこっそりアイテムとか使ってたんだwそれに、装備品にもアビリティは
ちゃんとつけてあるし」
「しまった!!」
形勢逆転とはこのことだろう。その後照々の攻撃がことごとくクリティカルヒットし、相手は死を示す
灰色に染まった。
「カオティックPKってこんなレベルで務まるもんなの?なんか拍子ぬけし―――?」
立ち上がろうとしたその時、何かが光を遮った。
そこに現れたのは、禍々しい黒の鎧に身を包んだ一人のPCだった。
「……お前、PKか?」
「ん〜、まぁ行為そのものを言えばそうなるわな」
するとそのPCの固く閉ざされていた口元が、僅かに緩んだ。
「なら、三爪痕を知ってるか?」
「と、トライエッジ?そんな、BBSで噂になってることくらいしか……」
しどろもどろに照々が答えると、そのPCは舌打ちをして言い捨てた。
「もう用はねぇよ。さっさと失せろ」
言葉と同時に凶悪な刃が体を引き裂き、一瞬にして照々は敗れた。死亡表示される照々のPC。
(……アイツが『死の恐怖』………PKKのハセヲ………?)
照々が初めてハセヲを目にした瞬間だった。
拳を握り締める照々。そこにトネリコが優しく手を乗せる。
「そんな因縁があったんですか……。僕は紅魔宮を無敗で制覇したハセヲさんと、僕を指導してくれたハセヲ先輩しか知らないから………」
「因縁ってほどでもないけどね。アタシも大して気にしちゃいないしさ」
アッハッハと豪快に笑う照々。しかし、無理をして笑っているのはトネリコでもわかった。
「………なんか、暗くなっちゃったね。探しにいこうか、依頼人」
「そうですね。でも、依頼人っていったい誰なんです?」
「アタシの知り合いなんだけどね。『くぬぎ』っていう魔導士の女の子で………あ、いたいたっ!!」
そう言った照々の視線の先には、PKに襲われている小学生くらいの男の子と女の子がいた。
―あとがき―
皆様お久ぶりです。わん仔です。
最近、更新をサボってしまいましたぁ……申し訳ありません(;;)
これからはもっと頑張りますです。
一週間に一回は更新できるように………はい。
[No.755]
2007/05/21(Mon) 16:03:23
.hack//Pledge 第十話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
「なぁ、くぬぎ。これってどういうことだよ……?」
男の子が目の前で武器を構えているPCを指して訊いた。
「………PKだね」
「はぁ!?そんなんあるって聞いてねぇぞ!!?」
一方のくぬぎは、「だから?」と言って動じることなく淡泊に答えた。
「おチビちゃんたちは初心者かい?もしそうなら、即立ち去れや」
PKはくぬぎたちをとことん馬鹿にしたような口調で、手に持った凶器を振り回す。
「ここで待ち合わせしてるから、それは無理。第一、初心者はこっちだけ」
くぬぎの挑発ともとれる態度にPKはカチンときたようで、一気に襲いかかって来た。
「て、照さん!?あの子たちやられそうじゃないですか!助けにいきましょう!!」
くぬぎたちの様子を少し離れた場所で見ていたトネリコと照々。
トネリコはついに居ても立ってもいられず、走りだそうとした。が、
「待ちなって。くぬぎちゃんはそんなに弱かないよ。それに、今飛び出したらかえって危ないよ?」
「………?」
腕を照々につかまれ、止められたトネリコ。仕方なしに見守ることにした。
「んのぉおお!!!ガキがぁぁああ!!!!」
「…落石注意」
ものすごい勢いで迫るPK。それを知ってか知らずか、くぬぎは天を指さし呟いた。その眼には、
先ほどとは違う冷徹さが光っている。
「オルガンボルグ」
―――ズガァーーーン!!!
「ぅぎゃっ!!」
PKの刃が触れる寸前に指を振り下ろしたくぬぎ。直後、幾つもの岩石がPK目掛けて落下し、そのたった一発でくぬぎたちが勝利した。
「なぁ………くぬぎって今レベルいくつよ?」
事を間近でただ茫然とみていた男の子。今だ信じられないといった感じでくぬぎに訊いた。すると、
くぬぎは満面の笑みで振り返った。
「……キミよりは、遥かに強いw」
「…………」
「やほ。くぬぎちゃん」
そこへ照々たちがやって来た。
「あ。照子さん」
いつもの和やかな顔つきにもどり、平然と答えたくぬぎ。
「今回の依頼は?」
「『椎(しい)』くん強化作戦を実行したいんだけど、メンバーが足りない」
「つまり、椎くんとやらのレベル上げを手伝ってほしいと」
椎とは、くぬぎと一緒にいた男の子のことだ。当の本人はチムチムを追いかけまわしている。
「うん。椎くんてばちっともエリアに出ないから困るんだよね」
「あれ?でも、《オアシス》では初心者は対象外なんじゃ?」
照々の後ろにいたトネリコがふと顔をだした。
「まぁね。けど、くぬぎちゃんからの依頼だし、何よりウチの常連さんだからね」
「で。手伝ってくれる?」
「『オ』まかせ下さい
『ア』んちゃん強化・レベル上げ
『シ』すら恐れぬ根性を
『ス』マイルと共に届けます
《オアシス》より、この―――」
トネリコを差しだそうとした瞬間、何者かが現れた。
「この、《オアシス》店主こと『陽翳(ひかげ)』自らお供いたしましょう」
「ま、マスター!?」
なんと現れたのは《オアシス》マスター本人だった。
その姿はトネリコのPCとほぼ同じ。違うのは真っ黒な髪と紫色の瞳。そして大きな獣の耳と尾を
持った獣人だということ。
「マスター?………って、陽翳!?」
「お?トネリコじゃんけ」
「何々?アンタ達、知り合いだったわけ?」
照々が不満をぶちまけた。
「知り合いもなにも、僕にこのゲームを勧めた張本人です」
「そゆこと。そんなことより照ちゃん、なしてここにいるかな?」
「『なして』って、貴方様が双剣士ひとりを派遣しろと言ったんですよ?」
トネリコと打って変わって、陽翳は年上だろうがお構いなしにタメ口でからかうような口調だ。
「んぅ〜……メールだろうが取扱説明書だろうが、どちらもよく読まんといかんな照ちゃん?」
「………?」
陽翳に指摘されて、もう一度受信されたショートメールを読み返す照々。たった一行しかないと思っていた文章には、なんと続きがあった。…………20行以上の空白を経て。
【――と思ったけど、自分が行くからいいや。照ちゃんはそのままタウンで受け付けよろしくぅ(^^)ノシ】
『紛らわしいっつの!!』
その場にいるみんなで陽翳に一斉砲撃ぃ。
[No.765]
2007/05/27(Sun) 22:08:31
.hack//Pledge 第11話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
「……ま、まぁ。そういうわけだから、ここはオレに任せて!」
あれだけの一斉攻撃を受けて、挙句の果てにはくぬぎに蘇生してもらったにもかかわらず、
ヘラヘラと笑う陽翳。
「ギルマスの命令とあれば仕方ない、か。トネリコ、行くよ」
「はぁ………」
なんだか腑に落ちないままタウンへと戻ってきた二人。しばらく沈黙が続く。
「トネリコ。その、えと……ごめんな」
沈黙に我慢しきれず、とうとう照々が口を開いた。
「そんな、照さんが悪いわけじゃないですよ。僕だっていつも陽翳のわがままに振り回されてますし」
「確かにw………じゃ、仕切り直しと行きますか。エリアはランダムで!」
「はい!!」
とにかく、トネリコは楽しんでいた。こうして仲間と一緒に冒険にでることが楽しくて、
楽しみで仕方がなかった。
――Θ焦りゆく 三日月の 雷雲――
「あちゃ〜!雨のフィールドかぁ……」
「照さん、雨が嫌いなんですか?」
「嫌いというかぁ……アタシの誕生日が梅雨時でねぇ………」
「………」
照々の不幸ぶりにはさすがのトネリコも絶句した。
ハセヲとの件といい、陽翳といい、ある意味すごいかもしれない……。
「でもさ、明日はきっと晴れるから」
「これ、ゲームですよ?このエリアは……」
「気持ちの問題でしょ。どんなに分厚い雲であろうが、その先は必ず晴れてるんだしさ。次に行く
エリアは晴れてるってこと」
照々はふくれっ面で言った。
「そんなものでしょうか?」
「そんなものなの」
空は雨でも、この二人の気持ちは晴れていた。二人は、笑っていた。
「ずっと、晴れればいいですね」
トネリコがふと呟く。
「………それはそれで困るでしょ。リアルじゃ」
「違いますよ。みんなの気持ちがです」
そう言ったトネリコには、わずかだが何かの不安がよぎっていた。
それが何に対する不安なのか、トネリコ本人にもわからなかった。
―
鳴りやまない蝉の声
永遠に止むことのない、描かれただけの雨
現実の激しい雷雨――――の音。
それらで構成されたオーケストラが、見事な不協和音を奏でる。
そのオーケストラが奏でる不協和音に聴き惚れていた。
いつもは不快に感じるはずなのに、何故か、今は美しく聴こえる。
いや。それしか耳に入らなかったんだ。
それだけしか、聴きたくなかったんだ
―あとがき―
いやぁ、危うく最終更新から2週間経ってしまうところでした……
1週間に一回は更新!とか宣言しておきながら申し訳ありませんです!!
さて、本編ですが。なんだかドタバタですねぇ……(−−;
最後の『詩』っていうか『台詞』っぽいもの。
次回予告的なものと思っておいて下さいまし
ではでは。わん仔でしたぁ(^^)ノシ
[No.767]
2007/06/06(Wed) 23:34:53
.hack//Pledge 第12話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
学校の講習会を終えて帰ろうとしたら、なんと運悪く夕立が降り始めていた。
激しい雨音と、雷。蝉も相変わらず五月蠅い。
「うはぁ!俺、傘持ってきてねぇよ!?」
「僕だって同じだよ……こうなったら、走って帰るしかなさそうだね」
「……そだな〜、止みそうもないし。―――じゃ、ドル・ドナで待ってるからな!“トネリコ”!!」
「わかった!後でね“ヒカゲ”!!」
そう。僕はリアルじゃごく平凡な男子学生だけど、ネットゲーム『The World』では“トネリコ”という
PCでプレイしている。そして、僕と反対方向に走って行った彼は“陽翳”というPCを操って
一ギルドマスターとして活動している。
どんなに走っても、分厚い雲から槍のように降ってくる雨は思ったよりも痛かった。でも、ちょっと心地がいいくらいの痛さ。
僕の家は閑静な住宅街の一角にあります。今は強い雨の所為で、いつも以上に静かな――――
はず、だった。
確かに人影も少なくて静かだけど、家の前でぼんやりと点滅している赤い光が僕の心を騒ぎ立てたんだ。
僕の家の前に止まっているのは救急車だった。どうやら急患は、僕の家族――僕は何がなんだか解らなくて、雨も気にせず茫然と立ち尽くしていた。すると、担架が家の中から救急車へと運びこまれてきた。その担架に泣きすがっていたのは僕の、母さんだった。
そして、その担架に横たわっていたのは………姉さん。
「…………ねえ、さん?」
頭が真っ白になった。
姉さんが風邪をひいているところすら見たことなかったのに。
今朝だって「頑張って勉強してこい!」って僕を突き出していったのに。
そんな姉さんが救急車なんかに運ばれているのが意味不明で、理解不能だった。
携帯電話のメール受信音がした。きっと、叔母さんか誰かからこのことを連絡してきたんだろう。
サイレンの音が遠ざかる、気がした。
だって、今の僕には、雨音と、鬱陶しい蝉の鳴き声しか聞こえなかったから。その二つの音しか
聴きたくなかったから。
あれから、どれだけその場に突っ立っていたんだろう。気づけば、空はカラッと晴れていた。
『明日はきっと晴れるから』
ふと照さんの言葉を想い出した。でも、ダメみたいです照さん。僕の天気はしばらく、ずっと雨ですよ。
ようやく僕は――僕の頭の回路が正常に落ち着いて、家の中へと入った。
「ただいま………」
―――家の中はいつもと同じようだった。
だけど、返事がない。家には僕以外誰もいないから、当然といえば当然だけど。
僕は何となく、滅多に……というより、普段は絶対に足を踏み入れることができない、姉さんの部屋をのぞいてみた。
ベッドに本棚、机、その上にあるパソコン。僕とあまり変わらないような感じの部屋。
ベッドにはたくさんのぬいぐるみ、クローゼット・タンスに入りきらなかった洋服。机には、ノートやら
ペンやら化粧道具やら。
パソコンの前には、M2Dとコントローラが無造作に放り投げられて……―――M2Dとコントローラ?
「これって、姉さんが何らかのネットゲームをしてるってこと?」
僕は気になって、姉さんのパソコンを起動しようと机に向かったら、何故か電源が入っていた。けど、画面は真っ暗。マウスにもキーボードにも反応しない。仕方なく、僕はパソコンを再起動させた。
……遅い。暗転を幾度となく繰り返し、数分経ってからようやくデスクトップの画面に―――
―――移らなかった。
代わりに、文字が次々と暗い画面上に浮かび上がった。
――――“Θ焦りゆく 三日月の 雷雲”――――
―あとがき―
はい!今回は、トネリコのリアル目線です。
え?
第11話で照々とトネリコは最後、どうなったかですって?
大丈夫です、ご安心下さい。後にちゃんとお書きします。
その時は、照々目線で書こうかと。
では、今回はこの辺で失礼させていただきますm(_ _)m
[No.771]
2007/06/13(Wed) 23:11:38
.hack//Pledge 第11.5話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――Θ焦りゆく 三日月の 雷雲――
ランダムでこのエリアにやってきたアタシとトネリコ。
やることもなくて、ただ、ひたすらにこのエリアを攻略してた。
「……本当に晴れないですかね、このエリア。いい加減この雨が嫌になってきました」
途切れることなく降り続ける雨を見上げながら、珍しくトネリコが少々イライラしているように呟いた。
「『そんなの無理だ』って、さっき自分で言ったじゃない?」
「そりゃそうですけど」
「だったら、文句言ってないでササッとこのエリア攻略して出た方が良いでしょ」
と、言いつつもアタシ自身もこの機械的な雨音にはウンザリしていたりもする。
アタシ達は歩く。
「……あ、照さん。ずっとお訊きしたいことがあったんですよ」
「何?」
急に何かを思い出したようにトネリコが訊いてきた。それに反応してアタシも当然振り返る。
「初めてタウンでお会いしたとき『ちょうどいいところに♪』って仰ってましたよね?」
「………そんなこと言ってたっけ?」
「僕を陽翳と思ったんですか?」
「…え、と。な……何の事?」
図星。
実際、自分を助けてくれたのがマスターじゃなくって、トネリコだったのに気づいた時には相当焦ったからね。……だって、パッと見エディットが一緒なんだもん。
あの後、マスターに「自分のギルマスと一般PCを間違えるとは何事か!?」って、さんざん扱き使われたのも事実だし。
「それが、何だってのさ今更!」
「いえ。ただお訊きしてみたかっただけですw」
……その時のトネリコの顔は本当に怖かったね。
無茶苦茶に笑顔なんだもん……
と、トネリコが慌てたような声を張り上げた。
「うわっ!!もうこんな時間!?遅刻しちゃう!!」
「ホントだ。こんな時間だね」
気が付けば、時計はとっくに8時をまわってる。
すると、トネリコは「失礼します!!」と言ってログアウトしていった。
静か。このエリアにアタシ独りしかいないってのも理由のひとつだけど、アタシの隣の部屋にも
誰もいなかったから。
審神者の証も手に入ってたから、仕方なく独りで獣神殿を目指そうとした。
すると、前方から何かが近付いてきた。けど、エリアの仕様上、視界が悪くてよくわからない。
「あなた、だれ――……っ!!?」
その時。
何が起きたのか解らない。解るのは、ズブッっという鈍い音がしたことと
目の前に居る一人のPCと、幾つもの黒いモノ。
そして―――アタシの意識が遠のいていくこと。
助けを必死に叫んだけど、結局、アタシは意識不明になってしまったらしい。
[No.785]
2007/06/20(Wed) 18:41:33
.hack//Pledge 第13話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
―――“Θ焦りゆく 三日月の 雷雲”―――
姉さんのパソコンに浮かぶ言葉。これは紛れもなく、今日の朝に僕が照さんと一緒に行ったエリアのワードだった。
「――ってことは、まさか……?」
僕は必死になって探した。
姉さんが、照さんのプレイヤーだという証拠を。
「やっぱり、そうだったんだ………」
本棚の片隅に置かれた『The World』と題されたファイル。その中に挿んであったパスワードやID、《あずま屋 オアシス》と書かれたギルドメンバーの名簿。
ユーザー名:照々 TELTELL
どれも決定的な証拠だった。照さんのプレイヤーは、僕の姉。
頭では判っても、認めたくなかった。
だって、僕の姉さんはもっと強暴で、もっとブサイクで、もっと頼りにならなくて、もっと……
もっと………
もう、頭の中がグシャグシャだ。姉さんが照さんのプレイヤーで、救急車で運ばれて―――
そう思った途端、全身の血の気が引いた。
―――ネットゲームをプレイ中に意識不明になった――――?
友人からも、陽翳からも聞いたことはあった。でも、都市伝説か何かだろうと思ってた。
普通に考えればありえないじゃないか。たかがゲームをしてて意識不明にまでなるなんて。
――でも最近、ニュースとかでも大きく取り上げられるようになってきているのも本当のこと………
姉さんの部屋から、その隣の僕の部屋へと駆け込んでパソコンを起動した。
僕は新着メールも気にせず、真っ先に『The World』にログインした。
――Θ蒼穹都市 ドル・ドナ――
「このトロリコ!!遅いぞ!!!」
タウンに着いて早々に、陽翳が僕のことを妙な名前で叫んだ。
「あっ陽翳!ごめん、それどころじゃないんだ!!」
「おい!!何があったんだよ!?」
ホントに、何があったんだろう。いったい僕は何がしたいんだろう。自分自身でもそう想った。
照さんが呼んでる――――そんな錯覚かもしれない。真相を確かめたかったのかもしれない。
とにかく僕は、例のエリアへと向かった。
――Θ焦りゆく 三日月の 雷雲――
エリアは昨日とまったく変わってはいなかった。
描かれただけの雨が延々と降り続いている。
僕だけでこのエリアを進むのは無謀だってこと、解ってる。
それでも僕は照さんと別れた場所、獣神殿へと走った。
「やっと、証がそろった………」
ホッとして、再び獣神殿のある方向へ向いた瞬間
―――バチッ!!
「うっ……ノイズ?今朝はそんなことなかったのに………」
奥へ進めば進むほどノイズは酷かった。ずっと居ると気持ちが悪くなるくらいに。それでも僕は、
さらに奥へと進む。
「てる、さん…………?」
獣神殿の真ん前でぐったりと横たわるPC―――照さんを、僕の姉を見つけた。
その姿はまるで、コワレタ人形だった。このゲームでは死を示すハイイロで、ゲームにしちゃあまりに生々しく恐ろしい表情のPC。
その背中には、ハッキリと刃で切り裂かれた跡がある。
血の代わりに、データ片が辺り一面に広がっていく。
僕は怖くなって、気持ちが悪くなって、無意識のうちにパソコンの電源を引っこ抜いていた。
そして、ベッドに逃げ込んだ。
あの、描かれただけの機械的な雨のオトが、しばらくの間、耳から離れなかった。
[No.786]
2007/06/20(Wed) 18:42:01
.hack//Pledge 第14話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
姉が意識不明になった翌日。
トネリコのプレイヤーは一日の大半を家の中、それも自身のベッドの上で過ごしていた。
母親は姉の入院している病院。父親は先月から単身赴任で地方。家の中は、彼ただ独り。
食事も摂らず、ただうつ伏せになっていた。
それでも、気にはなっていた。
自分では何もできないもどかしさを感じていた。
だからこそパソコンの電源は入れっぱなしにしている。
昨日、強制シャットアウトしたおかげで復旧にやや時間はとられたが、全てのデータは無事だった。
彼が寝返りを打とうとしたその時、一通のメールが受信された。送り主は彼の恩師である『ハセヲ』
送信者:ハセヲ
件名:ちょっといいか?
トネリコ、お前に訊きたいことがある。
ドル・ドナまでちょっと来てくれないか?
「ハセヲ先輩……?」
彼は悩んだ。おそらく数十分間。
そして『The World』に抵抗がありつつも、彼は意を決してログインした。
――Θ蒼穹都市 ドル・ドナ――
ハセヲは、カオスゲートの前で待っていた。不機嫌な素振りもせず、ただカオスゲートを見上げて。
ようやく、トネリコがやってきたのに気付くと彼は声をかけた。
「久しぶりだな、トネリコ」
「はい。ご無沙汰してますね、ハセヲ先輩。……遅くなって申し訳ありませんでした」
「いや。今のお前にしてみれば、無理もないだろ」
「――?……そういえば、碧聖宮を制覇されたんですよね、ハセヲ先輩。おめでとうございます!!」
「俺だけの力じゃないさ。仲間のおかげだな」
そう。トネリコが照々たちと戯れている間に、ハセヲはアリーナ無敗二連覇していたのだ。
「それで、僕に訊きたいことというのは―――?」
トネリコが覇気のない声で言うと、ハセヲの顔が急に変わった。何かを心配するような、そんな表情。
「ここじゃ話しにくいな……。エリアに出るか」
「はい」
――Θ焦りゆく 三日月の 雷雲――
「こ、ここは………」
ハセヲの後をついていたトネリコの動きが止まる。彼は、明らかにこの場所を拒んでいた。
「昨日このエリアで――バグが見つかったんだ。昨日、トネリコはここに居たよな?」
「はい……」
「その時、ここで何かなかったか?……エフェクトがおかしくなったとか、ノイズが走ったとか…」
「………」
「答えたくないか?」
「すみません……」
そのことに触れたくなかったトネリコ。顔は俯いたままだ。
ハセヲはそのことをまるで解っているかのように、それ以上、強要はしなかった。
「……昨日、このエリアに来ていた一人のPCが感染者にPKされた」
「………?」
「PKされたPCのプレイヤーは同時に意識不明になったらしい。そのPC、お前の知り合いだろ?」
「!!?………何故、それを?」
トネリコは驚いた。
「聞かせてくれないか?」
ハセヲはこれまでにないくらい優しい声で訊いた。
(先輩には何も隠せない……)そう確信したトネリコは、全てを話した。
「僕の、姉だったんです。そのPCのプレイヤー。学校の講習会から帰ってきたら、家の前に救急車が止まってて。そして、このエリアには照さんが――姉の、PCが―――」
思わず涙声になってしまったトネリコ。
今更、悲しさと悔しさが込み上げてきた。さっきまでは感情が抜けていたように、何に対しても無関心でいられたのに、ハセヲの真っ直ぐな瞳と声を感じた瞬間から、涙が溢れてくる。
「そうか……悪かったな、イヤなこと思いださしちまって」
「……いえ、ハセヲ先輩に全部お話したら、なんかふっ切れちゃいました」
「なぁ、トネリコ。………絶対の力が欲しいと想うか?」
「え?」
「………いや、何でもない。お前に限ってあるわけないよな――――復讐なんて」
「ハセヲ、先輩?」
どこか遠くを見つめるハセヲ。トネリコには、最後の一言がよく聞き取れなかったために、不思議そうな顔をしている。
「そういえば、アトリさんと揺光さんはお元気ですか?」
「あぁ。アトリは相変わらずだ。………揺光は――」
悔しそうに拳を固く握りしめるハセヲ。どうやら彼女にも何かあったようだ。
「あ、すみません……」
「んな、トネリコが謝ることじゃねぇって。わざわざ呼びだして悪かったな。ここ最近、バグとか多いから気をつけろよ」
「はい。僕、しばらくログインは控えます」
「いや、別にそこまでしなくてもいいじゃねぇか……」
ちょっと困った表情のハセヲ。それを見たトネリコはクスッと笑った。
「まだ……怖いんですよ、ログインするのが。あの照さんのPCの姿が思い起こされちゃって」
「………」
「それに、母さんに心配はかけたくありませんから」
「だったら余計に悪かったな……」
「そんなに謝らないで下さい。むしろ、僕はお礼を申し上げたいくらいです」
「お礼?」
「姉が、ここで何があったのか知れましたから」
そういって振り返ったトネリコの顔は嬉しそうで、悲しそうで、どこか儚げな笑顔だった。
「……心配すんなよ。お前の姉ちゃんは――もちろん揺光だって、必ずこの『The World』に居る」
「そうですよね……じゃあ、僕はこれで失礼します。ありがとうございました!!」
“真実”とは、時に鋭い刃となって心に突き刺さる。
しかし、深い傷を負わせるだけではない。
その傷から新たな希望や感情が見えてくる。
それが探求というものであれ、復讐というものであれ、形は違えど真実から得たものに変わりはない。
このことは、ハセヲが一番、痛感していることだろう。だからこそ、ハセヲは伝えたのだろう。
二度と、もう二度と自分と同じ行ないをする者が現れないように。強く願いながら。
[No.801]
2007/06/27(Wed) 17:26:50
.hack//Pledge 第15話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
ハセヲに呼ばれてログインした日から、数日が経った。トネリコはあの日以来、一日も『The World』にログインしていなかった。その所為か、メールボックスには毎日のように友人からのメールが届く。
その内容もほとんど同じ。ログインしなくなったことへの心配と、
―――― 一緒にPKしないか?
という誘い。今まで、そんなことはなかった。どちらかといえば、PKに反対していた友人の方が多いくらいだ。しかし、アリーナ竜賢宮改め“PKトーナメント”の開催が決定してからというもの、ハセヲに指
導してもらった経験があるというだけでこういったメールが増えたのだ。
たった一人、陽翳を除いて。
彼だけは、毎日『The World』で起きたことを報告するだけだった。今日も、その報告メールが受信された。
【送信者:陽翳
件名:無題
トネリコ、『くぬぎ』っていうPC憶えてるか?
前にオレのギルドに依頼してきた女の子。
その子がPKトーナメントに選抜されたらしいんだ……
ってか、たまにはログインしたらどうだ?
『The World』に居てもさ、オレも暇で暇でしょうがないんだよ(^^;】
「くぬぎさん―――あの子が?」
以前、照々とギルド体験をしたとき依頼主だった女の子だ。あんな大人しそうな子が何故PKトーナ
メントなんかに?
「そっか……陽翳も、照さんが居なくなって困ってるんだ………ちょうど母さんも出かけてるし、たまにはインしようかな」
今はタウンでもPKが可能になってしまっていると陽翳は教えてくれた。少々不安もありながら、
ログインした。
――Θ蒼穹都市 ドル・ドナ――
数日ぶりに見る、碧の楽園。だが、以前にも増して人が多く、皆が不安げな表情をしている。
ここはPK禁止区域だからだ。そのため、主だって初心者と思えるPCの数が多い。
その向こうから、見慣れた一人が駆け寄ってきた。
「トネリコぉ!!やっと来たんかよ」
「陽翳……ごめん」
この数日でずいぶん卑屈になってしまったトネリコ。それを目の当たりにした陽翳は「はぁ……」と、
深い溜め息をついた。
「んな、謝るなよ。家庭の事情ってヤツだろ?お前の姉ち――照ちゃんもログイン表示のままだしな」
「………?―――陽翳、照さんのプレイヤーが僕の姉さんだってこと、知ってたの?」
「んぁ……と。照ちゃんからは口止めされてっけど、いっか。照ちゃんの方が先に、オレのリアルに
気付いたんだよ。ただ、あんな真面目な人だから、周囲の人にゲーム――ましてネトゲなんかしてるのを知られたくなかったらしいんだ。だから、オレはわざわざロールしてたって訳さ」
いつものふざけた感じではなく、トネリコが知っているリアルの陽翳そのものが居た。
「陽翳は普段からそんなキャラじゃない?……ついでに訊くけど、照さんは今まで何をしてたの?」
「ん〜、オレがギルドを設立するまではハンターとして活動してたみたいだな。というより、実際ギルドを立てようって言ったのも照ちゃんだし。ってか、マジで照ちゃんに何があったんだ?」
半ば好奇心でワクワクしながら陽翳は訊いた。それを感じたトネリコはちょっとムッとして答える。
「メールで、あったこと全部書いたよ?……例の場所のエリアワードだって――」
「行こうとしたさ。でも結局、あの時トネリコが行ったっきりエリアは封鎖されちまったし、今や無敵のハセヲさんにまで止められるしで―――」
「止められた?ハセヲ先輩に?」
「あぁ、なんかウィルスが見つかったとか何とか言って、危ないからってな」
確かに以前ハセヲと話をしたときも、バグがどうとか言っていた。それに、照々をPKしたPCのことを感染者とも―――
「………てことは、やっぱりハセヲ先輩は何か知ってるんだ」
「あの人はAIDAっていうウィルスを探しては駆除してるんだって」
と、何処からともなく突然くぬぎが顔を出した。寝ぼけ眼のような垂れ目をした小さな女の子だ。
「く、くぬちゃん!?何だってここに?確かPKトーナメントに出たはずじゃ………」
「あんな怪しげな大会に誰が参加するっていうの?伊達に社会の裏を見て来たわけじゃないよ」
一瞬にして沈黙が走った。社会の裏……?思い切って陽翳が訊く。
「くぬちゃん、リアルの歳いくつよ?」
「それ、女性に対して訊いちゃいけない質問のひとつ」
『…………』
違う。この子のリアルは絶対、いたいけな小学生じゃない…!!と、確信したトネリコと陽翳で
あった。
「と、ところで椎さんは?いつもご一緒なのに」
無理矢理に話を逸らしたトネリコ。言われてみれば、いつもならくぬぎの周りにくっついているはずの椎が居ない。
「あの子は………」
「まさか………!?」
不安がよぎる。まさか、あの子までもが!?
「―――――プール」
『はぁっ!?』
あまりにも素っ頓狂な声を出した男子2名。くぬぎよりも周りのPCたちが驚いていた。
「友達のガキんちょ達と、近所の市営プール」
『……………』
(この人の言うことは真に受けちゃいけねぇな……)
この時、見事にトネリコと陽翳の心がシンクロしたそうな。
「あの、さっきアイダとか言ってましたけど、それっていったい何ですか?」
先ほどまでとは一転して、真面目に質問するトネリコ。くぬぎ自身は大して気にしていないようだが。
「CC社上層部が追っかけてるウィルスやバグのようなものらしいの。ま、正確にはAIの異常らしい
けどね」
「……詳しいな」
「人脈のおかげw」
光る白い歯。無邪気な笑顔。絶対、この人を敵に回してはいけないと本能的に学習した陽翳。
「でも何故、たかがウィルスごときであんな大企業の上層部が動くんです?そんなの末端にいる
デバッガーの仕事じゃないですか」
トネリコの言うとおり、ちょっとしたウィルスやバグの場合、運営している企業または委託しているデバッガーが駆除をするはずだ。CC社ほどの大きな会社の、まして上層部が動くなど大袈裟すぎる。
そこにハセヲが加わっているとなると尚も不可思議だ。宮皇とはいえ、彼も一般PCには変わりない。
「さぁ?私もそこまでは」
肩をすくめるような動作をした後、スッとくぬぎが手を差し伸べた。
「あの、この手は?」
「情報料。1000……いや、50000GP」
「えぇ!?い、一気に50倍に上がりましたよ!!?」
トネリコの感情があらわになった瞬間だった。
「だって、極秘情報だもん」
「じゃ、トネリコよろしくww」
ポンと肩を叩いてニンマリと微笑む陽翳。トネリコはさらに「訳わかんねぇよ!!」と怒りを表す。
「なんで!?陽翳だってもろ聞いてたじゃんか!!」
「別に、訊きたいとは一言も言ってないし」
「そんなの僕だって同じだよ!!」
「どっちも払わないんだったら、オアシス全売上金の半分くらい戴こうかな。なんたって極秘情報だし」
「そ、それは勘弁してください……」
急にしおらしくなった陽翳。そしてブツブツとトネリコと相談した。
「で?」
『25000GPずつでお払いします………』
結局は割り勘となったらしい。
「さて、と。じゃ、私はこれで」
トネリコたちと団欒(?)のひと時を過ごした後、くぬぎはその場を離れた。
「ったく、なんでオレまで金払うんだ?」
くぬぎの姿が見えなくなったと途端にふくれっ面になる陽翳。
「ていうか、くぬぎさんが勝手に語ってたよね」
「……今度からあの人の依頼料、倍にするか」
「逆に何かやられそうだけど?」
「う……」
どうやら、陽翳はくぬぎが苦手なようだ。いや、もはや天敵?
「ところで、僕はいったい何のために呼ばれたの?」
「あ、そうそう。久しぶりにクエストでもどよ?」
「うん。じゃ、行こう!」
二人はクエスト屋へと向かった。
―あとがき―
なんだかちょっと長くなってしまった15話です;
トネリコのキャラも、ちょっとずつ変わってきちゃってます。
こんなつもりではなかったんですけどねぇ……
では。今回はこれにて失礼させていただきます(^^
[No.809]
2007/07/04(Wed) 20:35:08
.hack//Pledge 第16話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
クエスト屋に到着したトネリコたち。だが、ここでとある問題に気がついた。
「陽翳、そのやろうとしてるクエストって、二人でできるものなの?」
「あ」
『………』
互いに動きが硬直する。トネリコは呆れ顔で「はぁ…」と深い溜息をついた。
陽翳はいつもそうだ。何かやろうとすると何かが足りないのだ。いっつも。
「ま、まぁ。こういう時こそギルマスの出番さね!」
「開き直ってるし……」
「ん〜と。スペル系のサポート役が欲しいとこだな」
「聞いてないし……」
トネリコがますます肩を落とすと、陽翳は何故か上機嫌に誰かを呼びだした。
「さて。あと3分」
「???」
(カップ麺でも作ってんのかなぁ……?)
――と思いつつ、トネリコは待ってみた。
―――3分後
「お待たせいたしました、我がマスター。ご用件は何でございましょう?」
そう言って現れたのは、紺色を基調としたブレザー調のエディットをした女性PCだった。
「クエストに参加してほしいんだ。キミは呪療士だしさ、ちょうどサポート役が欲しかったんだよ!」
陽翳がにっこりと笑うと、紺色の女性PCは頬を赤らめた。
「……そうでございましたか。ところでマスター、こちらのお方がお客様でしょうか」
「今回はオレからの私的な依頼だから、お客じゃないんだな。コイツはオレの友達である、トネリコ」
「(こ、こんな人が陽翳の下に居るなんて……)――あ、えと。よろしくお願いします」
「初めまして、トネリコ様。私は中・上級者支援ギルド《あずま屋 オアシス》上級者受付組所属、
安らぎの『ラギ』と申します。以後、お見知り置きを」
深々とお辞儀をするラギ。完璧な挨拶。強烈なインパクト。そして、凄まじいほど輝く営業スマイル。
きっとメンバーも、お客もこの笑顔にやられたに違いない。ひょっとして、陽翳の秘書?
「にしても、ぴったり3分に来たね……」
トネリコがそっと陽翳に耳打ちをする。
「それが私のモットーでございますから」
「も、モットー?」
陽翳に訊いたつもりがしっかりとラギに聞こえていたらしく、陽翳との間に割り込んで微笑みながら
答えた。
「ええ。『オ』客様
『ア』ッという間に駆けつけます
『シ』ンパイせずとも
『ス』グやります これが私の固定スローガンでございます」
「そういえば《オアシス》のメンバーって、皆そんなようなこと言うよね。それって何なの?」
「スローガンっていうか、標語っていうか。とりあえずメンバーになったら、一人ひとつは考えてもらってんだ」
「ふぅん。でさ、今日のクエストはどういうやつなのさ」
クエスト屋の前にいるのに未だクエストを受けていなかったトネリコ一行。これじゃ、いい商売妨害だ。
「受付完了っと。今回は収集系のクエストだ。いくつかのエリアを周って、頼まれたものを取ってくる」
自信有り気に説明する陽翳。しかし―――
「あの、マスター。それは先ほどヴァイタルビスタが説明しておりましたが?」
「………」
「ま。とりあえず“おつかい”ってことだね」
「そ、そういうことだ」
マスターの面目丸潰れ。哀れな陽翳……
「では、トネリコ様。最初はどこを行きましょうか?」
「『Δ白き 鎮魂の 宝玉』はどうです? レベルも低いみたいですし」
「だな。いざ、『Δ白き 鎮魂の 宝玉』へ!!」
[No.831]
2007/07/11(Wed) 20:38:37
.hack//Pledge 第17話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――Δ白き 鎮魂の 宝玉――
薄暗い洞窟のダンジョン。ぼんやりと白く光る岩が、より気味悪さを演出していた。
「ここで何をすればいいの、陽翳?」
「んと。『メタトロンのダイヤ』なるアイテムを取ってこいだとさ」
とりあえず、目的地は最深部だろうということで、一行はどんどんと洞窟を進んだ。
「これだな」
アイテムここですよ! と、言わんばかりに光っている岩の一片を手に取る陽翳。そこにラギが一言。
「何か……アッサリしすぎてませんでしょうか?」
「ですよね。モンスターも居なかったですし……。ねぇ陽翳、それ本当に『メタトロンのダイヤ』なの?」
トネリコまで疑うので、陽翳は確かめてみることに。
すると――
―――ピキー!
「うぉわ!!」
なんと、ただの岩石かと思いきや足が生えて逃げ出したではないか!?
『………』
「あの。追いかけませんか?」
ラギの一言が切欠で、一行はようやく走り出した。
「トネリコ! そっち行ったぞ!!」
「とりゃぁあ!!!」
まるでサッカーの試合でゴールを決めるか如く、勢いよく謎の生物(?)を蹴り飛ばしたトネリコ。
すると、その生物は奇声をあげて消えてしまった。
「な、何だったんだろ……?」
「トネリコ、アイテムは?」
足元を見てみると、そこには正真正銘、今度こそ本物の『メタトロンのダイヤ』が転がっていた。
「ある意味、モンスターを倒すより大変でございましたね」
「ラギちゃん、君は何もしてな―――」
「さぁ、次のエリアへ参りましょうトネリコ様」
「は、はい……」
その後、トネリコたちは次々とエリアを制し、クエストクリアに必要なアイテムを入手していった。
このクエストのために制したエリアの数、現時点で9ヶ所。
そして、10ヶ所目。最後のエリア――――
――Δ気高き 皇女の 宝玉――
「こんなに大変なクエストだなんて聞いてないよ、陽翳……?」
「まぁまぁ。何だかんだでここが最後なんだしさw」
始めは気分転換でやっていたつもりだったトネリコだが、エリアを5ヶ所以上周ったあたりからようやく
大変なクエストを受けてしまったと後悔していた。
途中、彼の母親も帰宅し、部屋に入らせないようにするのも一苦労だった。
ダンジョンの最深部でアイテムを入手しタウンヘ帰ろうとしたその時、プラットホームの手前で、不意に陽翳が振り返った。
「なぁ。……二人はこれからどうすんの?」
突然の質問。あまりに突然すぎて、二人は戸惑う。
「ま、マスター。それは何のことでございましょう? このクエストが終わったら、ということでしょうか?」
「違うよ、ラギちゃん。―――照ちゃんのことだよ」
陽翳の顔は真剣そのものだった。二人は『照ちゃん』という響きに、一瞬ピクリと反応する。
そこで、トネリコには疑問が生じた。
「ラギさんも、姉さ――照さんのことを知っているんですか?」
「ええ。まあ、一緒のギルドですし……」
「ラギちゃんと照ちゃんとオレの三人で、この中・上級者支援ギルド《あずま屋 オアシス》を立ち上げたんだよ」
「そう、だったんだ……」
始めて―――かもしれない。PC照々のことを他人から聞いたのは。
今まではそんなこと気にもせずに一緒に過ごしてきたのだが、本人が居なくなった今、とても気になることのひとつだ。
「で? どうすんのさ。トネリコは」
「どうって、どうしようもないよ。僕は一般のプレイヤーだもの……」
「そっか」
『………?』
ラギとトネリコは互いに顔を見合わせ、疑問符を浮かべる。
「さ。アイテムも回収したわけだし、タウンに帰ろうぜ」
「……うん」
――Δ悠久の古都 マク・アヌ――
ずっと薄暗い洞窟のなかに居た所為か、変わらぬはずの夕焼けがいつも以上に眩しく見えた。
三人はすぐにクエスト屋に赴き、依頼主であるヴァイタルビスタに報告。お礼をもらった。
そのお礼とは―――?
「『無限光の軽鎧』?」
「そ。なかなかのレアものなんだぜ? やるよ、トネリコに」
「そんな、だって皆で苦労したのに……」
「いいんですよ、トネリコ様。私は呪療士なので装備できませんし」
ラギはそう言ってほほ笑む。営業スマイルではない、本当のラギ自信の優しい笑顔だった。
「オレはお気に入りのがあるし」
「……ありがとう!!」
トネリコも、これ以上ないくらいに笑顔で、いっぱいの感激を胸に喜んだ。
陽翳たちと過ごした後、トネリコのプレイヤーは母親にネットゲームをしていたことが見つかってしまい、十数日間にわたるネットゲーム禁止令が下されていた。
彼はそれに従い、宿題をしてはネットを見、テレビを見……というサイクルを何日も繰り返していた。
最近のニュースはネットに関連したものが多いような気がする。
リニアモーターカーの試運転中に起きた事故、世界各地の原子力発電所での異常。そして
―――AIDAウィルス製作者の指名手配
「“AIDA”って、前にくぬぎさんが言ってたやつのことだよね…? 確か、ハセヲ先輩も追ってるって」
ついに無敵のアリーナ三階級制覇を成し遂げたハセヲ。彼は今頃、何をしているだろうか……
陽翳は? ラギは? ………照々は?
気になり始めたら、確かめたくて仕方がなくなってきた。
母親は、仕事で夜まで帰ってこない。けど、禁止令は発令中。
やりたい、ダメだ。やりたい、ダメだ。やりたい、ダメだ。でも、やりたい………うぅ〜、やっちゃお!
意外と自分に正直な彼。陽翳にメールを送り、早速ログインしようとした時、新着メールが受信された。送り主は『欅』
「欅って――?」
確か《月の樹》のギルドマスター……しかし、欅に会ったことすらないはずだった。それなのにどうやってメールを?
本文を読み進めているうちに、『The World』が大変な事態が起きていることと、プレイヤーの協力を要請していることが解った。そして最後には―――
ハセヲの言葉が綴られていた。
「ハセヲ先輩……」
居ても立ってもいられず、彼はログインした。
[No.845]
2007/07/18(Wed) 14:42:05
.hack//Pledge 第18話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――ネットスラム タルタルガ――
トネリコがやって来たのは、見慣れた橙色に輝く、マク・アヌ……ではなかった。
「な、なに? ここ……」
ただのタウンではない。それは一目瞭然だった。
辺りにいるPCは明らかに改造―――すなわちチートPCで、おかしな言動を繰り返している。
広がる風景も、流れるBGMも、とてもじゃないが『The World』のものとは思えない。
しかし中には、トネリコと同じような普通の仕様をしたPCも何人か居た。やはり皆、考えることは同じなようで、互いに「ここはどこなんだ!?」と口にしていた。
「トネリコ!」
声の方に振り向くと、陽翳が駆け寄ってきた。
「陽翳……これ、どういうことなの!?」
「さぁ、オレだって解らないし……」
「ここはネットスラム」
またしても突然、顔を出したくぬぎ。神出鬼没とはこのことか……
「……ね、ネットスラムって?」
あえてリアクションをとらなかった陽翳。くぬぎは少し不満そうだが、質問にはちゃんと答えてくれた。
「“ネットスラム”―――ハッカーの楽園とも言われている不正規のサーバー。放浪AIや、改造PCが屯している場所」
「だから妙なPCが多いんですね」
「一般のプレイヤーはもちろんのこと、システム側の人間も、ほとんどここの存在を知らない。……
いや、あのCC社のことだから黙認してるのかもね」
そっけなく答えているくぬぎだが、ここまで色んなことを知っていると驚異なものを感じてしまう。
「くぬぎぃ〜! ここ、なんか怖い……」
あとからくっついてきた椎がくぬぎの背中にしがみつく。PCの見た目では年齢もそれほど差がないように見えるが、椎の行動も兼ねると、リアルの二人の年齢差は相当広いようだ。
椎を慰めるくぬぎの表情や声は、母親そのもののようだった。
「けど、オレらは確かに普通にログインしたはずだぞ。こんなことってありえんのか?」
「誰かがいじったことに間違いはない、とは思うけど」
皆で頭を抱え込んでいると、そこにこれまた誰かが声をかけてきた。どこか見覚えがあるような、無いような?
「トネリコ!!」
やっぱり聞き覚えのある声。銀髪のPC。もしかして―――
「あの、もしかしてハセヲ先輩?」
「ああ。ジョブエクステンドして、見た目は変わっちまったけどな」
そうだ、間違いない。見た目は変わってもハセヲには変わりないのだから。
「ハセヲ先輩、これっていった――」
「訊きたいことがあるんだけど」
トネリコの言葉を遮り、ハセヲに問いかけるくぬぎ。どういうわけか、少し怒っているようにも見える。
「?」
「いくら錬装士といえど、ジョブエクステンドできるのは最大でも2回までじゃないの?」
「………」
「答えないってことは、改造でもしたの?」
「……知ってどうすんだ」
「知りたいだけ。別に言いふらすこともないし。何より、その姿の方が似合ってると思って」
そう言ったくぬぎの顔はにこやかで、先ほどまであった怒りの感情のようなものは消えていた。
ハセヲは「後で答える」と言って、トネリコたちに向き直った。
「宮皇。これって、どういうことなんです?」
さすがの陽翳もハセヲには頭が上がらない様子で、口調も礼儀正しいようだった。
「お前たちにも欅からのメールが来ただろ。それが答えだ」
「とにかくクビアゴモラを倒す……?」
「ああ。トネリコの姉ちゃんや、まだ意識を回復してねぇ他の未帰還者たちのためにも、俺たちは戦わなくちゃいけねぇ。あいつらはまだ、この『The World』に居るからな。だから―――」
「協力が必要だと」
「そういうことだ。協力、してくれるか?」
「も、もちろんです!」
「そうか。ありがとな」
ハセヲは「じゃ、気をつけろよ」と言い残して、奥へと消えた。
「………」
ハセヲの強さを、改めて感じさせられた。自分の強さとは比較にならないほどの、“力”の差。
“精神力”の差。
「トネリコ。お前独りでやれとは言ってないんだ―――」
「皆でやれば、何とかなるかもよ?」
「そ、そうだぜ!」
陽翳も、くぬぎも、そして椎も、トネリコと同じ。
それでも、彼らは皆でやれば何とかなると信じていた。そんな仲間を持って、トネリコは幸せだと感じた。しかし―――
「でも、やっぱり怖いんだ。……手が震えるんだよ! 目を伏せたくなるんだよ!! みんなを、姉さんと同じ目にあわせたくないから………!」
トネリコの瞳には、光がなかった。曇って、霞んでいた。…………泣いていた。
そんな彼を見た陽翳は、鼻で嗤って蔑んだ。
「ばっかじゃねぇの!? 『みんなを、姉さんと同じ目にあわせたくない』だ? そんなの、テメェが見たくないだけだろ!? エリアで倒れてる無残なPCを、病院のベッドで横たわるプレイヤーを!
奇遇なことにリアルでも知ってるやつが多いもんな。例えばオレとかよ!!」
トネリコの胸倉を引っつかみ、獣人独特の牙と鋭い眼光を剥き出しに怒鳴りつける陽翳。トネリコも、周りの皆もあまりにも激しい陽翳の行動に驚きを隠せずにいた。
「人間は独りじゃ弱い。けど、同志――仲間がいれば、強くもなれる」
くぬぎが静かに、それでもよく聞こえる声で言う。
「誰だって、興味半分で此処にいるわけじゃねぇんだよ、トネリコ。……そりゃ、オレだって怖いさ。ただのゲームでなくなってる感じは当然だしさ、下手すりゃ命に関わるかもしれねぇし」
陽翳は、いつもの明るい爽やかな顔でトネリコの肩を叩く。
「それに主人公が、ヒロイン助けなくてどうするよ?」
「しゅ、主人公?」
思いがけない単語に、声が裏返ってしまったトネリコ。咄嗟に、椎がツッコむ。
「どっちかっていうとさ、宮皇であるハセヲさんの方が主人公ぽくね?」
「そうね。実際の問題を解決してくれそうなのも、あの人以外考えなれないし」
くぬぎにも言われ、トネリコはちょっとへこんだ。
「マスター。照々をヒロインというもの、かなり無理があると思うのですが?」
ラギも、いつの間にかトネリコたちの輪の中に入っていた。
「……確かに」
くぬぎが頷く。皆も、トネリコも苦笑する。いつしか周りの雰囲気も明るくなっていた。
それはまるで、暗闇の中、一筋の光が差し込んだかのように。
「ってなわけで。いっちょ、もがいてみようじゃねぇの。な、トネリコ?」
周りに居る皆は笑っていた。まだ、何も解決していないというのに。
トネリコを勇気付けてくれる仲間が、そこにいる。
いいんだ。それだけで。
「うん!!」
「よっしゃ! 決まりだな。照ちゃんのためにも、やってやろうぜ!!」
「アタシのために、何かしてくれるの?」
『え?』
反射的に声の主に顔を向ける。すると、そこには――――
―あとがき―
皆様いかがお過ごしでしょうか? こんにちわ。わん仔です(^^
唐突ですが。
“そろそろ終わりが近いです”
初投稿が4月でしたから、もう3ヶ月経つんですね……
いやぁ、月日は早いものですなぁ(しみじみ)
では、ラストスパートも突っ走って頑張ります!!
[No.846]
2007/07/18(Wed) 14:42:09
.hack//Pledge 第19話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
「照……さん?」
「久しぶり………ってほどでもないか」
そう言って豪快に笑う姿は、照々本人に間違いなかった。
「照ちゃん、いつ意識が――?」
「意識? あぁ……気が付いたら此処に居たんだよね」
「気が付いたらって、姉さんは今、病院のはずじゃ……?」
思わず、トネリコはいつも家庭で話しているような口調になってしまっていた。それを聞いた照々は、ハッとした様子で言う。
「そっか。本人が入院してる間に部屋を覗いたんだ……」
「ぅあ、いや! そんなんじゃないですって!!」
「オレが言っちゃったんだよ。トネリコを責めないでくれ照ちゃん」
陽翳がいかにも反省していますといった仕草で謝る。
「まったく。アレだけ言わないでって言ったのに……」
「ごめん」
「……照々。あなたは今、病院からインしていらっしゃるのですか?」
「いや。なんつーか、アタシ自信が此処にいる感覚っていうか……」
ラギが訊くと、手を握ったり開いたりして感覚を確かめる照々。その動きはあまりにリアルだった。
「それって、この間のログアウト不能事件みたいなもの?」
くぬぎが怪訝な表情をして訊く。
「そうそう! それだよ。実際、ログアウトできないし」
「“ろぐあうとふのうじけん”って何?」
椎がは〜い! といった具合に手を挙げ、トネリコも「?」と首を傾げる。
「ついこの間のことなんだけど、ログアウトができなくなったの。リアルじゃほんの数分のことだったらしいけどね」
「けど、体験したオレたちにとっちゃ、そんな落ち着いて言えるようなことじゃなかった」
「視覚、聴覚、触感……あらゆる感覚がPCから直接感じたのです」
「コントローラを介さずに―――?」
「そう。実際は半日以上居た感じがしたんだけどねぇ……どこかへ転送されてからは記憶なくてさ、目が覚めると、パソコンの前に突っ伏していたってわけ」
「それがリアルじゃ数分の出来事……矛盾だらけじゃないですか?」
陽翳、照々、ラギ、くぬぎは真実を述べた。しかし、たまたまその日にログインしていなかったトネリコにとっては、ただの夢でも見ていたのではないかというのが正直な感想だ。
と。頃を見計らって照々がポンと手を打つ。
「まぁ。雑談はこれぐらいにしてさ、アタシ達が今やるべきことを片付けちゃわない?」
「そうだったねぃ。よし! 仕切り直しということで、オレと照ちゃん、トネリコのパーティと、ラギちゃんと椎くん、
くぬぎちゃんのパーティで二手に分かれて行くぞ!!」
『おう!!』
きっと晴れる、明日のために。ここに集う同志と共に、戦う。
ゲームという域を超えたものだった。
『皆が愛するこの世界のため』なんて、それこそファンタジーのお話かもしれない。
そうかもしれないけど、僕らにとっては本当の戦いなんだ。
僕らの居場所を、ワケのわからないバグモンスターなんかに奪わせはしない!!
[No.857]
2007/07/24(Tue) 15:59:40
.hack//Pledge 第20話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
――とあるフィールド――
エリアに溢れんばかりの黒っぽい紫色をした大群。これだけの数相手にたった3人では無茶だと、
誰しもが思うだろう。それでもトネリコたちは、自分の居場所を取っていた。必死にあがき、抵抗していた。
「いい加減ちっとは減ってくれねぇかなぁ……手首が痛ぇ」
「陽翳、いったいどういう体勢でプレイしてんのさ?」
「だってオレ、拳術士じゃん。なんたって連打命」
「成程、ねッ!」
照々が相手を一刀両断しながら納得する。
他愛ない会話のように聞こえるが、本人たちは大分くたびれているはずだ。何だかんだで結構な
時間、戦闘しっぱなし。コントローラを握る手も汗まみれだ。
「でも、さすがは陽翳じゃない。連携なんてまるで無視w」
「……照ちゃんこそ、昔はソロでやってたくせに、トネリコと息ピッタリだし」
前言撤回。
本人たちはくたびれてなどいなかった。むしろ、元気が有り余るくらいに。まぁ、当人たちが楽しんでやっているのならそれでいいのだが、危機感なさすぎるのも………特に照々。
「ずっと気になってたんですけど、照さんたちって、いつ頃知り合ったんです?」
トネリコも華麗にアーツを決めながら二人に問う。
「え。陽翳から聞いてなかったの? え〜とね―――」
「だぁああ! その話は後だ後!!」
かぁっと陽翳の顔が赤くなる。
それを期に、三人は一切無言で減ることのない相手を倒し続けた。
――とあるダンジョン――
「環伐!!」
「オルザンローム」
「アンゾット!!」
一方のラギたち。こちらはわりと真面目に戦っているようだ。
椎が大鎌で蹴散らし、そこへくぬぎとラギがスペルを撃ち込む。
「!?」
「オリプス! ご無事ですか、椎様?」
「うん。サンキュです」
食い止めるだけで精一杯だった。とてもじゃないが、どんどんと数を増す相手に効く攻撃など、仕様上ありはしないのだ。
ラギ達の居たエリアには、他の一般PCも何人かいた。その人たちと互いに助け合い、確実に一体、また一体と倒していった。
いったい、総数にして何匹倒したのだろうか。
時間も経った。しかし、リアルの時間すら確かめる余裕がない。
「まだか?」誰もが同時に同じことを思った。
すると、エリアを埋め尽くしていた例のバグモンスターが一瞬にして消えた。文字通り、跡片もなく。
「終わった、の……?」
「やった――ハセヲ先輩がやってくれたんだ!!」
一斉に歓喜に包まれた。
トネリコも、陽翳も、照々も、ラギも、くぬぎも、椎も。皆。
―――解放。それもあるかもしれない。しかし、何より勝った喜びの方が大きかった。
やった。自分たちで自分たちの居場所を守れたのだ、と。
「あれ、照さん?」
辺りを見渡すと、いつの間にか照々の姿がなくなっていた。
そして。全ては純白に包まれた。
[No.858]
2007/07/24(Tue) 15:59:42
.hack//Pledge 最終話
(No.624への返信 / 1階層) - わん仔
未帰還者の一人であった照々のプレイヤーは、数週間ぶりにリアルへと帰ってきた。
ずっと夢を視ていたような感覚だったと彼女は言う。
担当医も、彼女の突然の意識回復には驚いたそうだ。
彼女はその後、数日間の軽いリハビリを受け、無事退院に至った。
――Σ双天都市 ブレグ・エポナ――
天を見上げても、下界を見下ろしても澄みわたる碧空。ここは上級者が集うタウン。
そのカオスゲートの前で、トネリコは待っていた。
「トネリコ。何、アタシに用って?」
「ギルド《あずま屋 オアシス》さんに依頼です」
背を向けたまま、トネリコは答えた。それを聞くと、照々は少し驚いたようだった。だが、そこはプロ。すぐに気を取り直して。
「何でございましょうお客様?」
「パーティのメンバーが足りなくて困ってるんですよ」
「『オ』たすけしましょう
『ア』ンシンして下さい
『シ』をも覚悟のこの命
『ス』ベテ貴方に惜しみもなく。で、その目的はいかに?」
「アリーナです」
「アリーナ?」
トネリコはようやく振り返り、にっこりと笑顔を見せた。
「はい。僕が、竜賢宮の宮皇になるまでお願いします」
照々は目を見張った。まさかトネリコがアリーナに出たいとは。それでも、実の姉として嬉しかった。
ようやく、コイツにも男らしいところがでてきた、と。
「ということは、三階級制覇するまでよね。お値段が張りますよ? 少なくとも100万は頂かないと……」
「これで、お願いしますw」
差し出したのは、見覚えのあるモノだった。
ピラピラとした紙きれのようなアイテム。―――《あずま屋 オアシス》無料券
それを目にした照々は仰け反った。
「アンタ、まだそれ持ってたの!? そ、それにこのタイミングで出すかッ!!?」
「あれ。やってくれないんですか?」
「ぅ。……喜んで、お受けいたしましょうお客様」
してやられた――と、照々は苦笑した。トネリコは実に嬉しそうだ。
「じゃ、メンバーは照ちゃんとオレってことで」
カオスゲートから現れたのは、陽翳とハセヲだった。二人とも、トネリコが呼びだしたのだが。
「何の話だ、トネリコ?」
「ハセヲ先輩。僕、アリーナに出てみようと思うんです」
「いいんじゃないのか? お前がやりたいことをやればいいさ」
かつてハセヲがそうしたように、今度はトネリコがハセヲの目を真っ直ぐに見つめた。
「お願いがあります」
「?」
「僕が、僕たちが竜賢宮であなたに挑戦するまで、その王座を守っていてくれませんか?」
深く蒼いその両の瞳には、一点の曇りもなく―――
「……ああ。待ってるぜ」
「約束ですよ。絶対に」
こうして、二人の間で “約束” が交わされた。
はじめはちっぽけな苗木だった。
でも、太陽に励まされ、時に仲間の木陰に守られ、どんぐりの成る木々に支えられて
安らぎを感じながら、いつの日か、その苗木は世界樹と言われるほど大きな樹に、成長した。
―あとがき―
まず、ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございました!
初めてのものだったので、間違いだらけですみませんでした。
皆様のおかげで、なんとか終わることができました。感謝・感激です!!
では。またお会いできるその日まで!!(≧∨≦)ノシ
[No.859]
2007/07/25(Wed) 16:59:11
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