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詩歌藩国の、ある早朝のことである。 一人の男と一人の性別不明の人物が冷え込む空気の中、大通りを歩いていた。 吐く息が白い。 「さぶっ……今日は冷え込むなあ」 「いつものこと」 「そりゃそうですけど……でも、温泉が沸いてるんだから、少しくらい暖かくなってもいいじゃないですか」 「火山が活性化してるっていっても、うちの藩国は寒冷気候の地域だ。そう簡単には変わらないよ」 むしろ変わったら一大事である。かつての氷河期ですら平均気温は現代より数度低い程度だったのだ。もし、そんなことが起こったら帝國を挙げて対策に乗り出さなければならない。 「まあ、寒いのは詩歌の証。歌を謡いながら体を温めるのがこの國の伝統だよ」 「歌を謡いながら、暖炉でぬくぬくしてる方がいいです」 「そういうのはモテないぞ、鈴藤君」 「俺にはカレンちゃんがいるからモテなくてもいいです」 男ーー鈴藤はぼやいた。 この男、最近個人ACEのカレン・オレンジピールと藩国でデートができないせいか、最近はこんな感じである。 まあ愚痴は、古参のアイドレス・プレイヤー標準仕様である。彼を責めるのはお門違いであろう さらに口では面倒くさいと言いつつも仕事はちゃんとこなしているので、性別不明の人物、つまり詩歌藩王は苦笑するだけで流した。 「そういえば、最近カレンちゃんとはどうなんだい? この間、宰相府で会ってきたんだろう?」 「……秘密です」 生活ゲームのログが公開されているので、秘密も何もないのだが鈴藤は自分で口にするのは恥ずかしいらしく、口をつぐんだ。 わずかに頬が赤い。 当時の彼女とのふれあいを思い返しているのかもしれない。(筆者としてはこの男のラブ生態の面白恥ずかしい様を一度本気で執筆してみたいのだが、とりあえずこのSSを先に書き上げなければならないので、それはさておく) 藩王は彼の様を微笑ましげに見てれ、それ以上は何も言わず、散歩を再開した。 鈴藤も赤くなった頬を冷ますように、冷たい空気の中で顔を振ってそれに続く。 途中で何度か詩歌藩王が微笑んだ。 鈴藤が藩王の視線の先を目で追うと、朝早くに仕事場へ赴く藩国民が、新聞を読みながら道路の脇に無造作におかれた募金箱に、懐から何枚か重ねた紙幣を視線すら向けずに菓子を摘むような無造作さで突っ込む姿が目に入った。 その近くでは青年たちが、シャベルで子供たちが遊ぶときに足を滑らせないようにと公園の歩道の雪かきをしている。さらにその公園のベンチでは朝早くの散歩を楽しんでいた老人がベンチに座って周りによってくる妖精たちに昔話を懐かしげに語っていた。 「いい景色ですね」 「だろう?」 藩王が自慢げにうなずく。 彼らは藩王(とそれに続く鈴藤)に気付くと、立ち止まって会釈をしたが、すぐに自分の仕事を再開する。 藩国の民は、王を敬うが過度に畏れない。 それが藩国民の美点であり、それを見て笑顔を向けて手を振る詩歌藩王が己よりも尊ぶ誇りであった。 と、その時だ。 ガタゴト、ガタゴト、という音とともに何かが少し先の曲がり角から出てきた。 それは馬車よりもふた周りほど小さく、しかし人が乗るには十分大きく、鯨らしきを模した外板が周りに取り付けられそして、その上には女性が一人座っており、そしてもう一人がそれの前方で引き手を持って前進していた。 いわゆる人力車だった。 車を引いていた男は、二人に気づくと、車道の彼らのそばで止まり、手ぬぐいで額の汗を拭きながら、暢気そうに言った。 「やあ、藩王に鈴藤さん。散歩かい」 手を挙げて挨拶する崎戸に、「ん、おはよう」と藩王が言うのに対し、しかし鈴藤は呆然と彼が引くものとその上にいる人物から目が離せず、返事ができなかった。 「あの、崎戸さん。なに引いてるんですか」 「見ればわかるだろ。人力車だよ」 「客座に典子さんがいるんですが」 「仕事で徹夜明けでちょっと散歩にでるって言うから、こいつの試走ついでにちょっと乗ってもらったんだ」 「うう……」 「たしか、観光で来た人たち向けに作るって言ってたね」 「うぃ、藩王。これで観光客に詩歌藩自慢の雪景色をのんびり楽しんでもらおうという次第で」 「へー、周りはもしかしてソットですか?」 「イエス。あと、竪琴の飾りというのも候補に入る」 「う、うう、う……」 「ははあ。これがもしかしたら、詩歌藩国じゅうを走るかもしれないんだ。おもしろいかも」 「だろう、鈴藤さん」 「うううう……」 「崎戸君。藩国の先を語り合うのはいいけれど、典子さんの顔色がよくないよ」 「ああ。徹夜明けですからね」 「すこし、頭がふらふらしてるし」 「眠いんでしょう。さすが新式人力車。載せる人を眠りに誘うとは」 うんうん、と満足げにうなずく崎戸の言葉を聞いて、典子のこめかみにでっかい怒マークが張り付いた。 「揺れがひどくって車酔いしてんねん!」 その怒声とともに典子のブーツが客座の足場を蹴った。 次の瞬間には、そのブーツの底が崎戸の後頭部にのめり込んだ。 「ぐはぁ」という呻きとも悲鳴ともつかぬ声とともに崎戸の体は宙を二度舞い、顔面から地面に着地して、凍った路面を5メートルほど滑走する。 「快適な時間を約束する言ぅとったから乗ったのに、何やこれ! 縦揺れするわシートがギシギシ言うわ、乗り心地最悪やんか!」 「嘘を言ったつもりはありませんでしたよ。今度のは自信作だったので、そんなことにはならないと思ってたんです。実際には違いましたが」 顔面を路面に埋めたまま、崎戸のくぐもった声。 「それは思いッ切り失敗作ゆーんや!」 「うぃ、もしかしたら欠陥がでるかも、とは思っていましたけど」 「そんなんにあたしを乗せんなぁ!」 「いやぁ、暇そうな実験だ……もとい、テスターがいなかったので思わず。国民に万が一ヒドい目に遭うのは避けたかったし」 「…ほー。あたしがヒドい目に遭うのはいーんか?」 冷たい目で訊く典子に、崎戸はむっくり起きあがって、親指を立ててさわやかな笑顔を浮かべた。 「ははは。典子さんがそう簡単にくたばる訳ないじゃないですか♪」 典子は無言で崎戸の顔面に、二発目の跳び蹴りを叩き込んだ。 「今日も藩王方は元気じゃのー」 ベンチに座って、先ほどまで妖精相手に昔話をしていた老人は公園の前で談笑(?)する詩歌藩王たちを見て、ほがらかに笑った。 見れば、雪かきをしていた青年たちも笑っている。 昨今の情勢を鑑みれば、アイドレス全体はまだまだ平穏とはいえないが、今この藩王にある風景は平和なものだ。 国は平穏に満ち、民は慎ましく、隣人を愛して暮らす。 もちろん偶然の産物ではない。詩歌藩王以下国民の努力の成果である。 帝國宰相曰く、「統治者が善政(いいこと)をすれば、それを藩国の若者たちは学び、自然によいことを行うようになる」。 だからこの光景は、これまでも幾度とない危機を、藩王らの善政によって乗り越えた結果なのだろう。 老人が、少し空を静か見上げると、ちょうど藩王の城の上に朝日が昇っていた。 老人も青年たちも、そして藩国で空を見上げた人々も、それを見て微笑んだ。 Pass:1111 [No.7358] 2010/04/01(Thu) 23:27:36 |
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